転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#5 作ってみるよ!

 

第一回目の配信をした次の日、昨日と同じ時間に私はカメラ(仮)の前で配信が始まるのを待っています。

緑の背景一色の中で私は正座して目の前にいくつかの道具を並べていく。

刃物のようなものや筆のような見た目のもの。それらを綺麗に並べ終えた後、タイミングよく配信が開始されました。

 

「は~いこんばんは~わんこーろの配信に来てくださってありがとう~ヴァーチャル配信者で電子生命体のわんこーろだよ~よろしくね」

 

『わこつ』『わこー』『あいかわらずかわいい』

 

「へへ~かわいいって言ってくれてありがとね~ あ、あれ?もう20人も来てくれてるの~?」

 

なんと、昨日の配信では10人だった視聴者さんの数が配信開始の時点ですでに倍の数になっている。

特に宣伝などした覚えはないのでなぜかはわからないけど、昨日よりたくさんの人とお話しできるのは願ってもないことだ。

とはいえ、配信者として視聴者さんの話ばっかり聞くようではなんだか申し訳ないと思ってしまう。

だから今日はちょっとした私の得意技をご披露してみる。

 

「うーなんだか昨日よりもいっぱいの人に見てもらってると思うと緊張するけど、わんこーろはがんばるよ~」

 

うう、始まったばっかりなのにこんなドキドキしててだいじょうぶかな?

 

「今日はね~昨日の最後に言ったようにこの視聴者のわちるさんからお借りしたお狐様の人形を作っていくよ~」

 

配信画面の隅にわちるさんの画像を表示させる。すでにかなり時が経ちボロボロになっている木製の人形の画像だ。

 

『でた謎の塊』『木かどうかわかんね』『木製品とか貴重すぎ』『この大きさなら数万はしそう』『天然ものならそのぐらいはありそう』

 

「コメントの皆様は疑っているみたいですね~、ではこれならどうでしょ~?」

 

配信画面に表示している人形の画像の横にさらにいくつかの新しい画像を表示させる。それと同時に画面の空いている場所にテキストデータを表示させる。

 

「わんこーろが調べたところによりますと~、このお狐様の人形は~かつて○○稲荷神社というところで実際に制作されたものだと分かりました~。2124年の6月から8月の間のこの神社の例祭で20個限定で作られたもののようです~」

 

『ちょ、ちょっとまってw』『情報が多いww』『わんこーろが一晩でやってくれました』『マジもんの電子生命体w』

 

「このいくつかの人形の画像は配布期間の2124年の6月から8月に絞って画像検索をした結果になります~、いや~このころは珍しいものや流行のものを画像データとして記録してねっとにあっぷろーどする事自体が流行していたので探し出すのは簡単でしたね~」

 

ふふふ、ちょっとイキってみるよ!わんこーろはできるわんこだってみんなに思っておいてほしいからね。

新しく表示させた画像はかつての人形の形や色が鮮明に映し出されており、ボロボロの人形との共通点も多くみられる。テキストデータはこの人形が作られてから今までの簡易的な年表です。

 

『さらっと言ってますが100年以上前のログデータサルベージしたんか……?』『とんでもねぇことしてんねぇ!』『100年以上前なら著作権は切れてるから安心!(白目)』『電子生命体ならこのくらい朝飯前だし(震え声)』

 

「そうだよ~わんこーろにかかればこのぐらい簡単なんだよ~?って言いたいんだけどね~実際はなかなか苦労したよ~似たようなものが同時期に作られていたり、個人制作のものがデータに紛れ込んでたり~、それら全部のデータ発信元を特定して、いっこいっこ誤情報をつぶしていったんだから~」

 

データの収集自体はとても簡単なんだけど、そこから正しいデータを精査するのが一番大変だった。

ほとんどは紛らわしい類似データなんだけど、時々悪意を持って似せている偽造データが存在しているのだ。それが一体何のために作られたデータなのか、その時代に生きてない私には知ることはできないけど、そのままほっておくのもなんだか申し訳ないような気がするので、確実に悪意によって形成されたと思われるデータ群はまとめてお偉いさまへと通報済みなのだ。

 

「さ~て、それじゃあ説明はおわり~実際に作っていくよ~」

 

あらかじめ用意していた道具たち。視聴者さんたちに見やすいようにと私が扱うにはちょっと大きめに作ったそれらのうちの一つを手に取る。

ぷにぷにとした手のひらで落とさないように、丁寧に丁寧にー。

 

『おててちっさ』『なんか危なっかしいぞ!』『動作一つ一つがかわいい』『なにそれ?』『ハサミかね?』『鋏っぽいね』

 

私が今、胸に抱え込むように持っているのは鋏の形をした道具だ。

大きさは通常の裁ちばさみの三倍ほどの大きさで、持ち手部分は朱色に色付けされていて刃は鈍色に輝いている。持ち手と刃の境界には紙垂が結ばれている。

 

「作り方は普通の3Dモデルの制作とおんなじだよ~まずは基本図形を用意します~」

 

私は手に持った鋏を勢いよく地面へと深く突き刺す。そのまま紙を切るように鋏を動かし、地面を四角く切り抜いていきます。

 

『ぎゃー!!』『地面切りおった!?』『なにしてんの!?』『狂気的ゾ』

 

「ごめんごめん~ちょっと驚かせちゃった~、でもこれで素材は手に入ったよ~」

 

私の手の中には先ほど鋏で切り取った地面の一部、真っ白な立方体が存在していた。

 

「このハサミはね~『裁ち取り鋏(たちどりばさみ)』、この世界のものを切り取ったりできるようにしたはさみだよ~、元は3Dモデル作成ソフトのツールの一つなんだけど~この方が見ててたのしいでしょ~?」

 

『はあ……?』『なるほどわからん』『どういうことなの』『世界切るハサミとは』『俺の知ってる3D制作工程と違うんですが』『もうそういうものだと思うことにした』『かわいいからいいや』『立方体ちゃんは真っ白なのね』

 

あ、あれ?思ったより困惑しているコメントが多い。ちょっと変だって思われちゃったかな…?みんなに分かり易く楽しめるようにしてみたけど、やりすぎたかな。

 

「うん~なんかごめんね~、分かりやすいかなって思ったんだけど~……あ、緑色にしてるのは背景だけだからこっちには反映されてないんだ~この立方体は視聴者さん風に言うと、"新規作成"したみたいなものだよ~」

 

うう、別に責められてるわけでもないのに、ちょっと落ち込みそう……。

 

『犬耳としっぽがしゅんとしとる』『なかないで』『庇護欲刺激されすぎてやばい』『涙目うつくしい』『わかりやすいよ!大丈夫だよ!』

 

「……~いきなり落ち込んでごめんね~、大丈夫だよ~みんながあったかい言葉をくれるから、わんこーろはすっごい嬉しいよ~」

 

ああ……なんだろ、この気持ち。認められるって、受け入れられるってこんな暖かい気持ちになるんだ。

 

でも…

 

「ううう~~!、やっぱりはずかしい~~!よわよわメンタルとか言われちゃうよ~!」

 

『よわよわメンタル』『よわよわんこ』『メンタル紙わんこ』『かおまっかわんこ』『はずかしわんこ』

 

「ひゃあ~!言わなきゃよかった~~!」

 

と、とにかく手を動かすよ!これ以上恥ずかしがってたらもっと恥ずかしいことになっちゃう!

 

「次に使うのはこれです~『磨り出し鑿(すりだしのみ)』、このノミを使って先ほどのポリゴンを人形の形に削っていきます~」

 

その道具は平べったく、四角いおおきな刃が特徴的な工具、ノミだ。これも朱色の柄に鉛色の刃、境界に紙垂が垂れている。

 

私は床に胡坐をかくようにして足の間に先ほどの立方体を納めます。

足とノミを持っていない手でしっかりと立方体を固定して、ノミで表面を削っていきます。

 

「こんな感じではじめはいらない所を大きく削って~細かいところは丁寧に~」

 

彫刻なんてこの体になってからやったことなんてないけど、そこは電子生命体。元の画像データから算出した数値をもとにどの程度削っていくのかを明確にしてあるため、私がする事はデータ通りにポリゴンを削っていくだけなのだ。

 

『ちいさなおててなのに器用なわんこ』『かなり集中してんな、コメみてるー?』『削った後のゴミがキラキラしててきれいだな』

 

削って削って、ちょっとミスしたところは"戻し"てもう一度やり直す。

形を目視で確認、数値と照らし合わせる。そうやって少しづつ人形の形を作っていく。そうしているうちにポリゴンは映像データとうり二つの姿へと加工が完了した。

 

「ふう……、形はこんなものでしょうか~?ってあれ~!?」

 

しばらくの間集中していたので配信画面を確認していなかったけど、いつの間にか視聴者数が50名にまで増えていた。

それほど時間も経っていなかったためそのいきなりの増加にうろたえてしまう。

 

「え、え~と、新しく来られた方こんばんは~、ヴァーチャル配信者のわんこーろだよ~よろしくね~」

 

『びくびくわんこかわいい』『わこ初見』『わんこ初見』『モフモフしておられる』『ヴァーチャル彫刻配信とは珍し、てか初』『衣装かわいい』

 

「どうぞゆっくりしていってくださいね~、それでは形はできたので、テクスチャ……色を塗っていきます~」

 

次の道具、刷毛の形をしたものを手に取る。朱色の柄に白い刷毛部分、ほかの道具と同じように境界に紙垂が飾られている。

 

「『見出し刷毛(みいだしはけ)』でぺたぺたーと、今回は画像データから抽出して編集した色データを基にして塗っていくよ~」

 

刷毛を人形の形にしたポリゴンの表面をなぞるように動かしていく。設定した色データが参照され、ポリゴンの表面を艶のある鮮やかな朱色が染め上げていく。

もちろん細かなところや隙間も見逃しなく塗っていきますよー。

 

「というわけで、じゃーん完成!!」

 

私の手の平の少し上を人形が浮きながらゆっくりと回転している。その姿はかつて撮影された綺麗な人形そのもの。

凛々しいお狐様が体をくねらせ、こちらににらみを利かせている。耳と纏う羽衣が朱色に色付けされ、お狐様の体は木の質感をそのままにすることでまるで暖かな毛皮のように表現されている。

 

『おおおおお!!』『ごまだれー』『クオリティすげえええ』『この短時間でよくモデル完成したな』『ってかモデルの作り方が全然違うのですが』『わんこーろ方式と名付けよう』『わんこーろ方式(誰も真似できない)』『まじどうやって作ってんの?』『確かに疑問だがかわいいからいいや』『かわいいしいいよね』『そして視聴者は考えるのをやめた』

 

「っと、大事なことを忘れてました~、物理演算お~ん!」

 

私の手のひらの上をふよふよ浮いていた人形はその声と共に私の手へとぽとりと落ちる。

 

「は~いこれで本当の完成で~す」

 

 


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