転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
#59 夏がはじまる
皆さんおはよ~ございます~わんこーろです~今日も元気に犬守村の開拓をやっていきますよ~。
今朝は気持ちのいい目覚めとなりまして~早朝特有の新鮮な空気をめいいっぱい吸ってお仕事をしていくことにしましょうかね~。
「んぅ~~にゃむぅ~~」
おやおや狐稲荷さんはまだまだおねむのようですね。時間はまだ早いですし、寝かせておいてあげましょうか。
「そ~っと、そ~っと」
私の横で……というか私にしがみつく形で寝ていた狐稲荷さんを起こさないように注意しながら布団から脱出します。
「ん~……わたつみ平原に行ってから~岩戸の様子をみにいきましょう~」
部屋を出て渡り廊下を通り、神社の前に出ると一度手を合わせます。この神社はいわばこの周辺を見守る神様のようなものとして造ったので、今日一日の安全を祈り、それから出かけます。
まだ朝露の光る草木の中をぴょんぴょん飛び回りながら進んでいきます。先日この空間のリンクを取り戻したので3Dモデルの位置情報が手に取るように分かるのでつまづいたりすることなくスムーズに進むことが出来ます。
やろうと思えば位置情報から直接移動する事も出来ますが、それではなんだかもったいないですからね。こうやって季節や時間で移り変わる景色を眺めながらゆっくりするのも乙なものです。
そう言えば私がこの空間を創り初めてからもう数ヶ月ほど経ったみたいです。先日メイクを“えごさ”していたときに、『わんころちゃんおめでとう!』なんてつぶやきがあったので何事かと思ったのですが、どうやら私の活動数ヶ月をお祝いするもののようでした。
もうそんなに経ったんだ、という気持ちより、まだそれだけしか経ってないんだという気持ちが私の中で勝っており、そんな考え方にたった数ヶ月でありながらその内容の濃さが伺えるかとおもいます。
お祝いしてくれる移住者さんの為にも、今後もいろんなイベント目白押しでやってきたいものです。
そうそう!イベントと言えば実は一つ考えているものがあるんですよ!梅雨も終わり、夏休みも後半にさしかかったこの時期、日本の夏ならやはりあの伝統的な行事をやらないわけにはいかないでしょう!
現実では皆さんお暇のようですけど、私はその準備もしなくてはいけないのでなかなか忙しくなりそうですねー。
なんてことを考えている内にわたつみ平原が見えてきました。平原は今日も平原の姿のままですので、そのままぴょんぴょん進んで行っちゃいましょう。もちろん海になっていてもぴょんぴょん歩いていけるんですけどね。
「ふんふん~昨日干しておいた昆布がいい感じになってますね~」
昆布、海の海藻の一種ですが実はわたつみ平原の中央にある塩桜神社の境内、その一角をお借りして現在干し昆布を制作中なのです。
佃煮などにしてもいいですけど、やっぱり一番は昆布だしを手に入れるためです!
料理をつくるとなるとやはり出汁がなければいけません。
そのために先日雨が降って海になったときにいくつかの海産物と共に確保しておいたのです。
この空間に季節を実装したタイミングではすでに現実世界での梅雨の時期が終わってしまっていたので、今後わたつみ平原が海になってくれるのはしばらく後になりそうだと思ったので狐稲荷さんにも手伝ってもらって大がかりな漁にでかけたんでしたっけねぇ。
「さて、この昆布は後で狐稲荷さんと一緒に収集しておきましょ~、え~と次は~岩戸で準備中の“あれ”を見に行きますか~」
考えているイベントの準備の為にもこれから数日は忙しくなりそうです!
フロント・サルベージの朝は遅い。
まず、ほとんどのメンバーが夜遅くまで配信を行っているため大体起きてくるのはギリギリ昼になるかならないかという時間が当たり前だ。
室長や灯も出来るだけ規則正しい生活習慣を心がけるようにと口をすっぱくして言っているが、あまり効果は無い。
特に配信でさえ寝坊の常習犯であるナーナ・ナートと、自称夜型の○一が酷い。ナートは室長が起こしに部屋へと訪れた時には貫徹状態でゲームをしていたことさえある。もちろん配信を行っている状態でだ。
突然部屋のドアが開かれ、室長が入ってきた時など「の、ノックくらいしろよぅ!」などとお決まりなセリフまで口走ったほどだ。
だが、さすがはFSの有名配信者といったところか、室長が部屋に入り、ナートに怒声を浴びせる寸前でマイクの設定をミュートにしていた。
とにかくそんなありさまであり、最近ではわちるまでも感化されたのか寝坊すけ癖が出てきたようで室長の頭を悩ませていた。
「ん…んん、今……5時、ですか……今日の朝活配信はお休みですけど、もう起きてしまいましょう…」
だが、そんな中FS最年少の
「やはり一日の始まりはコーヒーからですね。それが無いと始まりません」
得意げな顔でそう言う寝子は着替えを終え、その場でくるりと一回転。服と共にその銀色の髪が翻り、彼女の特徴的な赤い瞳は大きなあくびと共に細められる。
「灯さんは起きていらっしゃるでしょうか……?」
そんなつぶやきと共に、ほんの少しの期待をもって寝子は軽やかな足取りで一階へと下りていった。
リビングでは既に起きていた灯がPCの前でなにやら作業をしているようだった。軽快にキーボードを操作していると思ったら、突然うんうんとうなりだす灯。机の上には湯気の立つマグカップが置かれているが、その中身はあまり減っていない。
「灯さん、おはようございます」
「んあ?あー寝子ちゃん、おはよー」
のびをしてあくびを一つ、その後寝子の挨拶に灯は眠たそうに返事をする。
「?なんだか眠たそうですね。昨日も遅かったんですか?」
「うーん、造り始めると面白くなっちゃってね。わんこーろちゃんのアドバイスを聞いてから3Dモデルの改良案がどんどん出てきてー」
「ほどほどにしないと体に悪いですよ」
「あはは、ありがとね。寝子ちゃんもコーヒー飲む?合成だけど」
「はい。頂きます」
寝子は朝のこの時間が好きだった。早朝というまだお姉ちゃん方が起きていないこのタイミングで尊敬する灯が手ずから淹れてくれたコーヒーは寝子にとって特別。いつもは自身が淹れているが、灯が淹れてくれたというだけで寝子は嬉しく感じてしまう。
……まあ、だからと言ってそのコーヒーの苦味まで美味しく感じることは無いのだが。
「はい、どーぞ」
「……灯さん、これはココアでは……?」
「私は眠気覚ましに飲んでるだけだから、寝子ちゃんは甘いの好きでしょ?」
「む……いただきます」
間接的に子供だと言われたような気がしたが、子供扱いされたことを不満に思っていること自体が子供のようだと思い至った寝子は反論の言葉を甘く美味しいココアと共に飲み下した。
その甘さに思わず顔がほころぶ寝子。明日から朝の一杯はコーヒーからココアになりそうだ。
「ん……おはよう灯、寝子。二人とも早いな」
そうしてしばらく灯と寝子が二人で会話していると室長がやってきた。いつもはきっちりと身だしなみを整えているはずの室長は少し眠たげで、髪も幾分か乱れているようだ。
「……室長、もしかして寝てないんですか?」
寝子のそんな言葉にも反応が少し遅い。
「ん?……ああ、少し復興省に送る資料がな」
「えー?また文句言ってきたんですか?わんこーろちゃんからもらった資料だけでもかなり説得力あったと思いますけど」
「……ありすぎたようでな、わんこーろから送られてきたデータの一割を送った程度で向こうは大混乱らしい。蛇谷が焦った様子で連絡してきたよ」
「ありゃりゃ」
「続けて残りのデータも送ろうとしてたんだが、これじゃ無理そうだな」
室長は呆れた口調でそう言うとソファに座り、ため息をつく。既に復興省にはわんこーろと接触することに成功し、協力関係を取り付けたことを報告した。
だが、そんな報告一つでは、「復興省としては証拠もなく口だけでそのようなことを言われても信じることは難しい」などと言われてしまうだろう。
室長もそんなリアクションが返ってくるだろうと思い、今回の報告書にわんこーろより送られてきたデータを添付して送ったのだが、それがどうも問題だったようだ。
蛇谷、および復興省の一部の人間は推進室の存在を快く思っていない。元々は国主導の文化復興事業を進めるための存在として設立されたが、その中身は復興省の気に食わない人間の流刑地のような場所であった。
というのも復興省の一部人間はすべての文化を復元させることなど不可能だと諦めている節があり、推進室も国に言われて渋々設置したようなものだったのだ。
曰く、できもしない事をするなど、非効率だ、とか。
彼らは仕事の出来る人間、自身の座る椅子を脅かすような優秀な人間をわざと推進室へと送っていった。
推進室設立当初はそのせいで幾人かの人間が辞めていき、結局残ったのは室長だけだった。
そんな復興省の一部人間によって目障りかつ優秀な人材の墓場となっていたはずの推進室が、まさかこのような目覚ましい成果を上げるなどと誰も予想していなかったのだ。
わんこーろの正体を特定しろ、という無理難題もこの一部の人間によって推進室への"いやがらせ"として行われたのだが、まさか実際に接触に成功し、かつサルベージデータを提供するほどの親密な関係となるなど、まさに予想外だった。
協力関係を得たなどと言って、自前のサルベージデータを送ってきただけだろ、と真実を直視できない人間は苦し紛れに言い放つが、そのデータが数十年から百年単位で過去のものであることを知ると、顔を青ざめさせて口をつぐんだ。
とにかく、復興省はそもそも推進室のわんこーろとの友好関係構築に期待していなかったし、失敗しても推進室に責任を取らせればいいか、と気楽に考えていた。
その結果が、現在復興省の大混乱をもたらしたのだ。
「私としては自業自得って感じですけどねーあれだけ室長に頼り切って、その上その功績を妬んで子どもみたいな嫌がらせしてくるんですから」
「私も、あの蛇谷という方は好きにはなれそうにありません」
「まあ、今後あいつが此処にやってくることはないだろうよ。復興省上部になんの許可もなく塔の街へ渡り、こちらに圧力まがいの脅迫を行ったということが判明して、あいつ自身の立場はかなり危ういらしいからな」
室長は灯が座る机の横でPCとタブレット端末を置き、作業を始める。いつの間にか灯が淹れてくれたコーヒーを口にしながら、その後も室長、灯、寝子は思い思いに朝を過ごしていく。
「ん~おはよーございまーす~」
そんな中、またもや気の抜けた声がリビングに響く。声の主は寝癖でぼさぼさになった髪を手櫛で適当に整え、寝巻のまま何度もあくびを繰り返している。
「な……なこそ!?まさかこんな時間に起きてくるとは……」
「ど、どうしたのなこそちゃん?あ、もしかしてまた徹夜?」
「しっかり睡眠をとらないと体調を崩しますよなこそおねえちゃん」
「ちっがーう!なんでみんな私がちょっと早起きしただけでそんな驚くの!?」
三人にそんな反応を返されたなこそは心外だ!とばかりに反論するが、それも仕方がない事。なこそはFSの中でも睡眠時間以外の生活習慣も乱れまくっている一人であり、何度もそのことを注意されている。
「なんだ、これからは驚かれないよう早起きするのか?」
「んぐ……それはまた別でして……」
「ふふ、室長もそれくらいにしてあげてください。なこそちゃんも飲みます?コーヒー。それともココアの方がいいですか?」
「ん?ん~私は遠慮しとく。私の相棒はこれだから!」
そう言ってなこそは懐から何やらスティック状の袋を取り出す。中身を取り出すと、それをぱくりと口にした。
なこそが持っていたのはそれ一本で一日の全てのエネルギーを得ることが出来るというこの世界で"効率食"と呼ばれているものだ。
見た目は地味な色合いをしているがその味は様々なものが発売されており、かつて存在していた保存食や非常食と呼ばれるものとは違い、桁違いに美味だ。
さらに食べることで空腹感を感じないようにもなるので食べすぎることもない。
「……またそれか、食べるなとは言わないが、少しはまともな食事もした方がいいぞ?」
「いやいや室長、この効率食こそまともだよ!栄養が偏ることもないし、食べ過ぎて太ることもないんだから!」
だが、室長はこの効率食というものがあまり好きではない。確かにお手軽に食事を済ますことが出来て大変便利なものだと感じるが、そもそも食事というものはエネルギー補給の為だけに行うものではない。
味だけでなく、見た目の美しさや香り、食感などを楽しみ、そして同じく食事をする他者とのコミュニケーションを行う手段でもある。だが今の若者は生まれた時にはこの効率食が普及しており、口にするのが当然であった。
だからこの世界の若者の中には空腹も満腹感という感覚も知らない者も多い。それどころか、食事を面倒な作業だと考えている者さえいる。
食事というものを、楽しむものだと感じない若者が増えているのだ。
それは一般的な若者だけでなく先のなこそ、ナートや○一といったFSの面々にも当てはまることであった。
「少しは食べ物に関心を持ってほしいんだがな……」
「あれ?今食べ物のお話してましたか?」
FSの食生活に頭を悩ませている間に室長の隣にはいつの間にかわちるがいた。ちゃっかり室長の隣に座り、タブレット端末を手にして室長に話しかける。
「わちるも起きてきたのか、今日は珍しく皆早起きだな」
「おはようございますわちるちゃん」
「おはーわちるちゃん今日もかわいいねー」
「チャラいですよなこそおねえちゃん。おはようございます、わちるおねえちゃん」
「えへへ、今日は頑張って起きました!それと室長にお願いがありまして」
わちるも皆に挨拶をすると手に持った端末を室長に見せる。
「実はわんこーろさんに簡単なお菓子の作り方を教えてもらいまして、もしよろしければキッチンを使わせてほしいと思いまして」
わちるの持つタブレットに映し出されていたのはいくつかの材料で簡単に出来るお菓子のレシピだった。材料だけでなく、特殊な道具も必要としないもののようだ。
わちるは昨日の夜もわんこーろ、狐稲利と雑談をしていた。犬守村での暮らしについて教えてもらったり、逆にこちらの暮らしを説明したりしていた中で、こちらの世界でも簡単に出来るお菓子のレシピを教えてもらったのだ。
「ふむ……なるほど、確かに簡単にできそうだが、いくつか材料が足りないな」
「え?そうなんですか?」
「効率食で事足りると言って食事をしないヤツもいるからな。生の食材も私や灯が使う最低限しか保存していないんだ」
そういって室長は先ほどまで誰もいなかったソファに座る二つの人影へと視線を移す。
「んにゅ~~」
「栄養はばっちりなんだから文句は勘弁な~」
室長はいつの間にかソファで横になっている二つの人影……ナートと○一へと意味ありげな視線を向け続けるが二人はどこ吹く風。お菓子のレシピについてもあまり興味をそそられていないようだ。
だが、寝子はわちるの傍に寄りタブレットに表示されたレシピを見る。
「……お菓子、ですか?わんこーろさんの……?」
「寝子ちゃんは興味ありますか?お菓子作り」
「いえ、あの、……配信のネタになるかな、と。打算的な考えですみません」
「謝らなくていいですよ!そうですね~"ねくろ"でお菓子作り配信します?」
「はい!ぜひとも」
寝子は元気よく返事すると、わちると一緒にタブレットを確認する。そこにはお菓子のレシピがいくつか表示されており、どれを作るか、いつ配信するかを二人は楽しそうに相談し始めた。
室長の言う通り材料が足りないとのことだが、それなら寝子と共に材料の買い出しからお菓子作りを始めればいいだけだ。
「いいな~私もなにか配信したいんだけどな~どっかにネタ転がってないかな~」
「自分で探さなきゃ意味なくね?てかソファで寝そべるのやめろ」
だらしない恰好で愚痴るナートとそれをたしなめる○一。ナートは寝そべりながらずりずりとお菓子レシピを確認している二人に近づいていく。配信のネタと聞いて最近配信内容をどうするか困っていたナートとしてはお菓子作りはともかく、少し気になる話題ではあった。
「ん?このレシピのこの作業、どうするのでしょう?」
「え?……ん~ちょっと分からないですね。このレシピも数十年前のサルベージデータらしいので今では使われていない道具や材料があるのかもしれませんね」
「ではこれは無しということで――」
「いえ、もしかしたら他の道具を応用できるかもしれないので聞いてみますね」
わちるの言葉に周りは疑問符を浮かべる。聞く?一体誰に聞くというのか。
一同が首をかしげる中、わちるはなんでもないようにレシピを表示させているタブレットを操作して、誰かと通話を繋げる。
『はいは~い、どうしましたかわちるさ~ん?』
「あ、わんこーろさんおはようございます。今大丈夫ですか?」
『うん~ちょうど仕込み終わったところだから~大丈夫だよ~』
「仕込みですか?」
『まだ移住者さんには言ってないんだけど~醤油とか、味噌の仕込みをね~。次の配信でお披露目しようかなって思ってるんだ~時間を弄れる岩戸で保管すれば発酵もすぐだしね~。ところでどうしたの~?』
「あ、そうでした。実は昨日いただいたレシピで分からないところがありまして――」
周りを置いてけぼりにしてわちると通話先であるわんこーろが会話を始める。寝子にも聞こえるようにとわちるが配慮したことでわんこーろとの通話設定はその場にいる全員が聞こえる状態となっていた。
「ファ!?ちょ、わちるちゃん!?なに気軽に通話しちゃってるのさ!?」
「わ、わんこーろさんですか!?本当に!?」
ナートが混乱してわたわたしている中、寝子は身を乗り出してわちるの端末を覗き込む。そこには確かにわんこーろの姿が映し出されていた。
朝の日に照らされた田畑を背景に、畳の上にちょこんと座ったわんこーろが笑顔でこちらに小さく手を振っている。
『ん~?貴方は~白臼寝子さんですね~わちるさんからお話は聞いております~初めまして~おはようございます~』
「は、はい!初めましてです。えと……おはようございます」
『あ~寝子さんだけでなく皆さんおられますね~初めまして~おはよ~ございます~』
リビングに居る一同はぎこちなく挨拶を返す。
わんこーろと実際に話をして復興事業に関して協力してもらえることになった、という内容の話は室長から聞いていたが、それでもFSのメンバーはわちるとなこそ以外の全員が突然の顔合わせに驚きを隠せない。
いきなりのわんこーろ登場というだけでなく、その彼女が自分たちとは全く異なる存在であるというにわかには信じられないような事実も驚愕を深いものとしていた。
だが彼女達が驚いたのは最初だけで、それ以降はなんでもないようにわんこーろと会話を続けるわちると、そんな二人の会話に自然と交ざっていったなこそによって大した隔たりもなく、わんこーろの存在はFSに受け入れられようとしていた。
二人のおかげだけでなく、なによりわんこーろが壁を作ることなくこちらを受け入れる姿勢であるため、FSメンバーも変に距離を感じることなく接することができたのも大きかった。
とはいえ相手が電子生命体という存在であることを差し引いて、配信者としてだけ見ても自分たちとは全く異なる、それでいて自分たちに匹敵するであろう支持を得ている実力のある配信者であることがメンバーに遠慮のようなものを抱かせていた。
特に自身の未熟から様々な配信者の配信を視聴し勉強することが必要だと考えている白臼寝子にはわんこーろの、"憧れるが決して真似できない唯一無二な配信"という形態は目標の一つであった。
だからこそわちる、なこそに続いてその会話に最初に交じったのは、寝子だった。
「あの、わんこーろさん。実はお願いしたいことがありまして、もしよろしければ他にも料理のレシピ、教えていただけませんか?」
「あー!寝子ちゃんずるーい!ねえねえわんころちゃん!私にもなにか配信のネタおくれよぅー」
「ちょ、ナートお姉ちゃん!失礼な事言わないで下さい!」
「えー、でも寝子ちゃんもそのつもりでしょー?」
寝子の言葉に反応してナートも会話に参加し、他のメンバーもわちるのタブレットを覗き込もうとする。
「そっちはまだ涼しそうなんだな、こっちは暑すぎで外出自粛しろって言われてるんだよな」
「もし懐かしのボードゲームの類をサルベージ出来たらどうかわたくしめにご提供を~~!」
「必死すぎて気持ち悪いですよなこそおねえちゃん」
『んふふ~皆さん本当にお暇のようですね~私はお盆の準備でなかなか忙し……あ』
そうして会話をしているとわんこーろは暇をしているFSのメンバーをぐるりと見渡し、そして最後に室長へと視線を移す。
『あの~室長さん~皆さんお暇そうですけど~今後の予定などは既になにか決まってるんですか~?』
「ん?いや、まだ決まっていないな」
『そうですか~では、私の方から提案させていただきたいのですがよろしいですか~?』
「提案?そちらとのコラボ、ということか?」
『はい~』
わんこーろはただにこやかに、そしてとっておきとばかりの言葉を口にした。
『お盆のあいだ~犬守村に一泊二日で帰省しに来られませんか~?』