転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#60 コラボ【犬守村一泊二日帰省旅行】おーぷにんぐ

現在時刻午前5時。

 

太陽がゆっくりとその姿を現し始めた早朝。塔の街を含め全国的な猛暑が観測され、さらには光化学スモッグ等の注意報が発令された地上は、その外出が著しく制限されていた。

夏休みというこの時代の若者には馴染みの浅い長期休暇も、外に出られないということからもっぱらネットを用いた暇つぶしが主流となっていた。

 

今までならば、何度も繰り返し視聴し見飽きた配信アーカイブを巡り、時々行われる配信者の雑談配信を見ることくらいしか暇をつぶす手段がなかったのだが、今年はそうはならなそうだった。

 

フロント・サルベージ全員と外部配信者による大型コラボ。その告知が数日前に突然発表されたのだ。

 

【FSの田舎帰省スペシャル】という仮名のコラボの詳細はほとんど語られず、日付と時間だけは発表と同時に公開されたのだが、その時間もまた視聴者を驚かせた。

 

公開された時間は、朝5時から朝7時まで。

 

それだけ見れば朝早くとはいえ、およそ2時間のコラボのように見える。確かにこの世界では配信者というものはまだまだ珍しく、2時間の配信も長時間配信と認識されるのだが……それでもFS全員の大型コラボと聞かされた視聴者はその"常識的な範囲の"長時間配信に肩透かしをくらった気分の者もいた。だが、それは告知内容をよく見ていないせっかちな視聴者に限られた。

 

実際には時間の横に記載された日付が異なっており、本当の配信時間は午前5時から次の日の午前7時まで、つまりおよそ26時間の超長時間配信となっていた。

 

そのことを理解した視聴者はまさに驚愕と狂喜に乱舞する大混乱状態。この時代、今まで行われた長時間配信でもかつて虹乃なこそが行った耐久配信が10時間を記録したのが最大であり、それ以上の長時間配信は今までどの配信者も実行したことが無く、まさに前代未聞のコラボと騒がれた。

 

もちろんこのコラボを実現するにはFS、わんこーろ側にもいくつかの問題を解消する必要があった。

 

一つ目は26時間もの間NDSに接続し続けること。

 

そのことに当初室長や灯は難しい顔をしていたが、問い合わせた先研によれば休眠中の肉体への栄養補給がなされていればその程度は問題ないとの事だった。結局FSメンバー全員の強い希望もあって、効率食を摂取しての26時間連続ダイブということで話は進んだ。

 

二つ目は犬守村が実質何処の管理下にも置かれていないネット空間であること。

 

そのことをばれないようにするには他者との干渉をできるだけ制限するべきで、コラボなどもってのほかである。だが、そもそもわんこーろがこの空間に犬守村を創ったのは他者とのふれあいを求めての事だ。すでにある意味吹っ切れた状態のわんこーろは、「その時はその時で~」と何とも気楽に聞こえるような声音で言い放ち、FSを迎え入れることになんのためらいも無いようだった。

 

その他にも様々な問題が存在したが、コラボ開始の日までわんこーろとFS運営は何度も話し合いを繰り返し、いくつもの課題を解消もしくは妥協し、ついにコラボの日がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「おはーー!フロント・サルベージ所属、みんなのアイドルナーナ・ナートだよーー!」

 

『黙れ』『きっっっっっつ!!!』『声作ってんのバレバレなんだよっ!!』『お疲れ^^もう帰ってええよ』『違和感すごくて吐き気しますわ』『誰?』『初配信に登場したきり出てきてない清楚系配信者ナーナ・ナートちゃんじゃん!』『黒歴史おつー』『えっ、ナートさんてそういう……』『ナートさん初見だけどそんな感じなのか……』『こ、個性があっていいんじゃん……?』『ナー党以外がものの見事に混乱しておる』『めっちゃ引かれてんじゃん』

 

「おまーーーっ!や、やめろぉ前らぁっ!情報を捏造するんじゃねーよ!わたしのイメージを上げようとかナー党なら少しは考えんかい!!」

 

『ひっ』『こっわ』『巻き舌やめてもろて』『ドスのきかせかたがやり慣れてる感あってマジこわい』『え、こんな人なの……』『ナート初見は落ち着いてくれ、あれはハリボテだから』『マジ?』『そりゃもう寝子ちゃんに叱られれば一発よ』『そーそードスきかせるなら○一の姐さんが一番だってそれ一』

 

「おーいワタシを巻き込むなよ○子どもー」

 

『サーイエッサー!』『もちろんそんな気などありませぬ姐さん!』『そうですよ!信じてください!』『我ら○一の姐さんの為ならその身砕けようとも……!』『この心はいつもあなたの傍に!!』『○一さんの視聴者○子……いやー愛が重いっす』

 

今回の大規模コラボの"招待される側"であるフロント・サルベージのメンバーは推進室が管理する真っ白な空間に全員が集まっていた。

NDSを用いた全員参加の大規模コラボの最初の一声を発した弄られキャラなナーナ・ナートと主にツッコミ担当の○一(まるいち)

 

「それにしてもこの、麦わら帽子というのは必要なのですか?普通にファイバー素材の方が丈夫ですし、汚れにくいですし……そもそもネット空間なのですから帽子など必要ないのでは?」

 

「でもでも、すっごくおしゃれですよ!寝子ちゃんとってもかわいいです!いやホントに!すっごくぎゅってしたくなっちゃいます!んんっ!」

 

「……おう、確かに似合ってるぞ、コメント見てみろよ。ネットの中ってんならそれこそ雰囲気重視でいいとワタシは思うけどなー」

 

頭に被った麦わら帽子の角度を手で直しながら首をかしげるのはFS最年少の白臼寝子(しらうすねこ)だ。寝子は帽子だけでなく、わざわざ肩に下げた大きなカバンの存在も疑問に思っている様子だ。なぜ収納領域に収納してしまわないのかと。

麦わら帽子をかぶり、白く美しい髪を揺れ動かす寝子は納得いかないように悩ましい顔をする。

 

そんな寝子の姿に限界化を抑え込もうと必死なのはFSに新しく加入した新人の九炉輪菜(くろわな)わちる。○一はわちるの様子に若干呆れ気味になりながら寝子に話しかける。

 

「う……ま、まあ?お姉ちゃん達がそう言ってくださるのなら不満はありませんけど……」

 

二人の言葉にまんざらでもない様子の寝子は顔が赤くなっているのを悟られないよう麦わら帽子を深くかぶるが、それでは視聴者の目は欺けなさそうだ。

 

『顔真っ赤w』『おねえちゃん好きすぎか?』『いい……』『天使かよ……天使だった』『寝子ちゃんかわいい』『銀髪に麦わら帽子は私にクリティカルヒットですわ』『儚げな感じが私の癖を刺激してなんていうか……下品なんですが……フフ……』『←おいやめろ、まだ早朝だぞ!』『ちょっと不満そうな顔もかわいいーー!』『いいなーウチのイキリ姫と交換してほしいわ』『おい不良品押し付けんじゃねえ!』

「だぁーれがイキリ姫じゃあ!そのあだ名わたしは認めてねえからな!!あと不良品つったやつ、おぼえとけよ!」

 

「ハイハイそれじゃあもう始めますよー。えーとカンペカンペ……画面の前のみんなーおはよー。フロント・サルベージ所属虹乃なこそだよー。みんな起きてるかな?ついに始まりました超長時間配信と銘打った大型コラボ!このコラボはですねー皆さんもご存知かと思いますが、あの!個人勢としてすっごい活躍をされている配信者、電子生命体のわんこーろさん全面協力のもと行うことになったコラボとなっておりまーす!」

 

「えーと、同じくFS所属の九炉輪菜わちるです!FS公式メイクアカウントや私たちのメイクアカウントでも時間以外の詳しい内容が書かれていないのは、私たちも詳しい内容を聞かされていないからなんですね。大まかには公式メイクでつぶやいた"わんこーろさんの犬守村へ一泊二日の帰省旅行"となっていまして、私たちは都会へ出ていった"移住者"であり、このお盆の時期に故郷に帰ってきた。ということになってます」

 

『ネット空間でカンペ探すのは草ですよ』『設定確認助かる』『かの有名な電子生命体の村に行けるとは!』『NDS初配信から期待してたけどついに現実になったか!』『コラボだけどわんころちゃんいなくね?』『さっきの説明聞いてただろ、訪ねる先の主が此処に居てどうするよ』『なるほど、そういうことか』

 

 

「そんじゃま、この白い空間から犬守村へと向かうことにしますよー。はいっ!あちらをご覧下さい!あの真っ暗な横穴がこの空間から犬守村への通路となっています!あそこを越えれば犬守村でーす」

 

一同は白い空間に空いた横穴へと進んでいく。先頭はなこそが務め、暗い道をゆっくりと歩いて行く。メンバーの中で最もネットダイブの経験の少ない寝子は慣れない状況に少し心細くなり、○一の服の端をそっと握る。

 

「おい」

 

「あ、ごめんなさ……」

 

それに気付いた○一は無言で服から手を離させ、代わりに自身の手を握らせる。

 

「転ぶとあぶねーだろ。しっかり握ってろ」

 

「すみません……ありがとうございます」

 

『ひゅー○一姐さんイケメンー』『さすがFSメンバー唯一女性支持が男性支持を上回っている配信者!』『そんなイケメンムーブしてるからガチ百合なお方からロックオンされたりするんだぞ』『無自覚であんなことされたら同性でも惚れるわ』

 

「イケメンて……ワタシは女だってーの。それにこれぐらい普通だろ。……にしてもまだなのかよなこそ、さっきからずっと暗いまんまなんだけど」

 

「んー、バグかねぇ。ちょっと室長に聞いてみる?」

 

「ちょっと待ってください。……なんだか、匂いがしませんか?」

 

「匂い?」

 

「あっ!見えてきましたよ!」

 

それなりの距離を歩いているにも関わらず一向に先が見えないことを疑問に思った○一がなこそへ声をかける。なこそがバグか接続不良を疑った直後、寝子が何やら暗闇の先に匂いを感じ取った。寝子にはその不思議な匂いが何なのか分からない様子だったが、わちるや環境保護研究所に出入りしたことのあるメンバーはその匂いが天然の土や植物の匂いであると理解した。

その匂いを感じると共に向かう先から光が差し込んでくる。

 

そして、暗闇を抜けるとそこには日本の夏が広がっていた。

 

『は?』『え、なにこれ』『え、マジ!?え嘘だろおい!』『これが噂の犬守村!?』『想像の一億倍凄いんだが』『もはやヤバすぎでそれ以外でてこねえよ……』『お?犬守村初見さん意外と多いな』『FSだけ見てる層にとっては初訪問になるのかな』『まるで我が事のように誇らしいのお』『これでお前ら全員移住者だ』『わんこーろさんのチャンネル登録してくるわ!!』

 

「や、やっべぇクオリティ……」

 

「想像以上にすっごいな……これ全部3Dモデルなのか」

 

「教育映像で見たことはありますが、それとは比べ物になりません……!」

 

強烈な夏の日差しが降り注ぐ中、遠くまで続く青い空。実際に見たことなど無い巨大な入道雲の姿に思わず視線が上へと向く。

照らされた植物たちは夏を懸命に謳歌し、青々とその姿を晒していた。草花はその瑞々しさがありありと浮かび、樹木は長い年月を生きた証がその身に確実に刻まれている。

決して本物ではない。だが、本物と見分けがつかないほど究極的に現実感を追求した自然の姿は、本物の自然を見たことのない彼女たちの瞳に鮮烈に映り込んだ。

 

あまりわんこーろの配信を見ていないナート、○一は目の前に広がる限りなく現実的、だが今では失われた風景に我を忘れる。わんこーろの配信アーカイブのみならず、教育映像で予習していた寝子でさえその想像以上のリアルさに息をのむ。

 

「さて、とりあえずわんこーろさんの空間に到着っと。わちるちゃん、ここってどこらへん?」

 

「ちょっと待ってください。ええと、わんこーろさんに事前に頂いた地図が確かここら辺に~」

 

だが、そんな光景も一度ダイブしたことのあるわちると、わんこーろの特異性を受け入れているなこそにとっては、"まあ、わんこーろさんだし"程度のものだった。

 

わちるが取り出した犬守村のマップデータによるとFSメンバーの現在地は開拓済みエリアの南東、東のけものの山と南一帯に広がるわたつみ平原の丁度あいだ。さらに言うならその間に流れる犬守疎水の大きな河に作られた草木生い茂る堤防の下であった。

 

「はぁ~これマジもん?すっごいリアルなんですけど~~」

 

わちるが地図を広げ、この後のルートを確認している間、暇そうなナートは自身がくぐってきた真っ暗な道へ振り返る。

推進室の方から入ってきた時はただの黒い横穴だったその接続路は犬守村では古いトンネルとしてそこに存在していた。

既に何十年も年月が経っているかのように、トンネルを形成している石材は雨風に浸食され表面はゴツゴツ、ザラザラしている。そこにいくつものツル系の植物が絡みつき覆い隠そうとしていた。

ナートはおもむろにそのツルを引っ張ったり、ガサガサと揺さぶったりしている。

 

「ナートお姉ちゃん、むやみに触ると危険ですよ。植物によっては"かぶれ"るものもあるのですから」

 

「だーいじょうぶだって、ここはネット空間なんだよ?んなことあるわけないって~」

 

『寝子ちゃん!もっと言ってやれ』『ぜってー大丈夫じゃないぞ』『ナートの大丈夫が本当に大丈夫だったことなんて一度もない件』『安易なフラグ立てはナートの十八番』『匂い感じる時点で少しは警戒しろよ……』『映画で一番最初に死ぬタイプのヤツじゃん』

 

「はーいコメントうるさいよー。そうだ!○一ちゃん"あれ"で撮ってよー」

 

「ちゃん付けすんな。たく、ちょっと待ってろ」

 

○一は自身の荷物入れをごそごそとあさり、その中から黒くて角ばった何かを取り出した。何とか両手で支えられる大きさのそれは、撮影機能に特化した道具である"カメラ"と呼ばれるもので、配信開始前に灯から渡されたものだ。

ネット空間であるため意識するだけでスクショ、つまりスクリーンショットを保存することは可能だが、それでは味気ないということで今回わんこーろと灯によって過去に存在していたカメラの3Dモデルが作られ、スクショを保存出来る機能を与えられたそれが生み出されたのだ。

 

「ほら、撮ってやるからキモイ動きやめろ」

 

「キモくないよぅ!てか、そんな動きしてないだろ!」

 

「はいはい、ほら撮るぞー………ほいっと」

 

カメラを覗き込んだ○一はトンネルの前でポーズをとるナートへピントを合わせ、シャッターを切る。

小気味よいカシャリという音と共にかつてフィルムとして保存されていた映像データはスクリーンショットとして確かに保存された。

 

「……なんか、癖になんなこの音」

 

「ねー、私たちの知ってる端末の撮影機能とはまた違った良さがあるよね」

 

『カメラねぇ……あんなデカいのに映像記録しか機能無いのはちょっと……』『バッカそれがいいんじゃねえか!』『撮影のみに特化した機器か、なんかロマンを感じるな』『今もあるじゃん撮影用の撮影端末が』『そうじゃねえんだよ、そうじゃねえんだ……』『あの黒くてゴツゴツしたフォルム!ボタンを押すときの心地よさ!やっぱカメラってのはこうじゃなくちゃな!』『←詳しいな。モノホン持ってるの?』『ばーちゃんとこに壊れたのがあった!自力で直して使ってんだ!!』『技術者スゲェ……』

 

「みなさーん!ルートを調べ終えたのでもうそろそろ出発しますよー!」

 

「はーい!」

 

「はいはいっと」

 

一同は少し歩いた先に現れた石の階段を上がり、堤防の上へと登る。大きな河がざあざあと音を立てて勢いよく流れ、その先には青々とした背の低い植物が茂るわたつみ平原が顔を覗かせていた。

 

「おお~!ここからの眺めも最高だねぇ!」

 

「凄い……広くて、大きくて、こんな場所初めてです」

 

降り注ぐ強い日差しに目を細めながら、寝子ははるか遠方まで見渡せるその光景に思わず感嘆する。遠くの山々より吹き降ろしてきた風がこちらへとやってくる光景が平原の植物が揺れ動くことで肉眼で確認することが出来る。もくもくと浮き立つ入道雲は緩やかに揺蕩い、山と平原にその影をおとしていく。

 

「それと……なんだかこの帽子の良さが少しわかったような気がします」

 

風で飛ばされないよう帽子の縁に両手で触れる寝子は、麦わら帽子の隙間から抜ける涼しい風が頭にこもった熱気を取り除いてくれる心地よさに微笑む。

 

「あ~…でも、今日は海じゃないのか~泳いでみたかったけどな~」

 

「ちょっと!水着なんて持ってきてないのに何言ってんの!」

 

ナートの何気ない言葉になこそは必死になって反論する。なこそはそのテの肌を晒すイベントが苦手なのだ。その理由はかつて新衣装お披露目配信で夏仕様のちょっと露出が多めな姿になった時に視聴者からさんざん可愛いだとか、美しいだとか、えっちいだとか言われまくったことが起因している。

これまでさんざん苦労を重ね、その苦労を理解してくれた視聴者たちから、ママだのオカンだのと言われ、尊敬やら羨望のような感情を向けられることはむずがゆくとも慣れていたなこそだったが、その新衣装お披露目配信での愛らしさを褒められるような内容には耐性が無かった。

しっかり者な印象のなこそが可愛いの一言でふにゃふにゃになってしまうのが更に可愛く、そのせいで視聴者も更に絶え間なくなこその愛らしさをコメントし続けたという。

 

今でこそFSのリーダーとして最前線で配信を行ってきたことで多少の耐性は付いてきたが、当時の恥ずかしさがトラウマのようになってしまい。今でも自身から肌を晒すようなことは避けていた。

 

「平原が海に……現実ではないのですからそんなことも出来ると分かっていても、やっぱり不思議に感じますね」

 

「確かわんこーろさんは室長や灯さんがサルベージしたアニメからヒントを得たって言っていましたよ?」

 

「ん?確かに海っぽい映像はあったが陸が海になるなんて描写あったか?」

 

「さあ……そこらへんもわんこーろさんに聞いてみてもいいかもしれませんね」

 

暫く堤防の上を歩き、目的の石段を発見した一同は堤防を下った先の農道を辿っていき開かれた空間に到着する。人の手で整備されただろうその光景も一同には珍しい光景としてその目に映っていた。

わんこーろと狐稲利が配信で植えた稲の苗が規則正しく並ぶ水田は初期の頃よりも大きく拡張され、その向こうにはまた別の穀物が栽培されている様子も確認できる。

 

「これって田んぼってやつだよね!水ん中に草が生えてる!」

 

「草ではなく苗ですよナートおねえちゃん。お米が採れる稲が栽培されているんです」

 

「ほお……ん?なんかいるな」

 

珍しそうに○一が田んぼを覗き込むと、水面が苗の動きとは違う波紋を浮かべる。よく見ると苗の隙間から何やら黒い球のようなものが動き回っているようだった。

 

「ヒエ……な、なにこれ……」

 

「ん……"オタマジャクシ"ですね。蛙の子どもで大きくなるまではこんなかんじで田んぼの中や水路なんかを泳いでいるんですよ」

 

「へ~わちるちゃんよく知ってるね」

 

「ちっさい頃におばあちゃんに教えてもらいました。実物は見た事無いですけど……教育映像でもたぶん姿は確認できますよ?」

 

「実際に義務教育で必須な教育映像以外なんて自分から調べようとしないよぅ……なんだかうねうねしててわたしはちょっと……」

 

「そうですか?私は可愛いと思いますけど?」

 

険しい顔をするナートとは対照的に寝子はオタマジャクシの泳ぐ姿をまじまじと観察していた。

 

『え?』『マ?』『もしや寝子ちゃんて虫とか平気な感じ?』『俺も平気っちゃ平気だが可愛いとは……』『今時珍しいな、虫どころか動物さえまともに触れない子が多いのに』『好奇心の塊かよ』『俺もオタマジャクシになったら寝子ちゃんに可愛いと言ってもらえる…?』『←ザリガニ「おっエサやんけ!喰ったろ!」』

 

暫く田んぼの間の道を進んでいると目の前に人影が現れる。日傘代わりに番傘をさしてにこにこ笑顔でこちらに手をふる少女、狐稲利だ。

 

「わちるっ!わちるっ!こっちこっち!」

 

「狐稲利さん!」

 

狐稲利の姿を見つけたわちるは一人駆け出す。他のFSメンバーが舗装されていない道に苦労する中、わちるは軽い足取りで狐稲利へと向かい、その胸に飛び込んだ。狐稲利はそんなわちるの行動を予測していたようで、わちるを受け止めその頭に手を添え優しく撫でる。

 

『狐稲利ちゃん来た!』『てぇてぇ……』『実際に触れ合ってるの見ると今までの数倍てぇてぇな』『見た目綺麗でクールっぽく見えるのに中身元気いっぱいで可愛い』『やっぱこの声好きだわ』

 

「狐稲利ちゃん迎えに来てくれてありがと」

 

「なこそっ!おひさっ!」

 

「へぇ~この子が狐稲利か。ワタシは○一、よろしくな」

 

「は、初めまして。フロント・サルベージの白臼寝子です、よろしくお願いします」

 

「んっ!まるいちと、ねこっ!おぼえた!」

 

『おや?○一姐さんと寝子ちゃんは初対面?』『狐稲利ちゃんは基本遊び回ってるしな。顔合わせのタイミングが合わなかったんだろう』『相変わらずしゃべり方が可愛い』『日傘?おしゃれだな』『並ぶと分かるが狐稲利ちゃんて背高い方なのか』『こいなり は まるいちとねこ を おぼえた!』『一人覚えられてないヤツがいると思うんですが』『おいナート自己紹介しろや』『挨拶は大事。古事記?とかいうのにも書いてあるらしい』

 

「おいナート言われてるぞ」

 

「うえぇ~足が棒のようぅ~~~疲れて動けないぃ~~」

 

「ナートおねえちゃんだらしないです」

 

最初こそ興味の赴くままあっちへふらふらこっちへふらふらしていたナートは後半になると疲労でうなり声を上げるだけになり、一同の最後尾でとぼとぼ歩いていくだけになっていた。

 

「ん~?だいじょうぶ?あるける?」

 

「ヒエッ、カワイイ……顔近い……だ、大丈夫っす……歩けますぅ……」

 

『限界化してんじゃねーか』『あんなに顔近づけられたら俺なら心臓止まるわ』『顔が良い……』『真正面から可愛いを受けてしまい瀕死になっとる』『ナートそこ代われ』

 

「もうすこし、だからがんばってー!」

 

ナートの手を取り狐稲利は歩き出す。既に犬守山の入口まで到達しており、距離的にはあともう少しといったところ。

だが忘れてはならない、わんこーろと狐稲利の住まう場所は犬守山を少し上った麓。

つまりナートの目の前には犬守山へと続く山道が見え、手を引かれる彼女はその急な坂道に顔を青くしている。

 

「……あいつ今回のコラボ終わるまで体力持つのか?」

 

『次回、ナート死す!』『オイオイオイ』『あいつ死んだわ』『狐稲利ちゃんの手を振りほどくことも、立ち止まることも出来ない……』『お前の死は決して無駄にはしない』『ナート先生の次回作(来世)にご期待ください!』

 

 

 

 

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