転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
「さてさて~! FSの皆さま~改めて、今回はわんこーろとコラボをしていただいてありがとうございます~。今回のコラボをお願いしたのも実は皆さんにお手伝いして頂きたいことがあったからなのです~」
「お願いですか?」
『お願い?』『なんでもできるわんころちゃんがお願いとは珍しい』『でも人手が必要って事なら納得。犬守村ってわんころちゃんと狐稲利ちゃんしかいないもんな』
改まって今回のコラボの趣旨を説明し始めるわんこーろは、一同を見渡し、話し始める。
なこそや○一は畳の上で胡坐をかき、ナートは足を伸ばしてぐでっとしている。
そしてなぜか寝子とわちるは正座状態のまま、真剣な眼差しでわんこーろを見つめていた。
「犬守村ではもうすぐお盆の時期に入ります~現実ではもう廃れてしまったのですが~そのお盆の準備をしようかと。ですけど、私と狐稲利さんではなかなか手が足りないので皆さんをお呼びしたのです~」
「ふむ。で、ワタシ達は何をすればいいんだ?」
「というかお盆って何~?」
「そういえば、名前は知ってますけど……私の生まれた時にはもう名前しか残っていませんでしたし」
「わちるちゃんは知ってる?」
「え?えっと……おばあちゃんがなにかしてたな~ってことは覚えてるんですけど……」
『お盆休みって言うが、そういえば何のことか知らん』『夏のイベントっぽい?』『何かしらの行事だったってことくらいしか知らないな』
一同はお盆という言葉を知ってはいても、実際は何をする行事なのか知っているものはいない。お盆というものが名前を残して廃れてから既にかなりの年月が経過しており、かつての資料がサルベージされていたとしても、それらの行動にどのような意味があるのかまで完全に理解している若者はほとんどいない。
だから彼女らの疑問の声はもっともなもので、多少不安に感じているようであった。
だが、未知であるからこそ、今回のコラボを開催した意味があるのだ。
夏休み終盤、界隈の配信者たちはマンネリ気味な雑談配信しか出来ない現状で、全くの未知のイベントというのは一同のみならず画面の前で配信を視聴している視聴者にも強い興味を抱かせることができるはず。
他の配信者の配信と比べ、未知は大きなアドバンテージとなる。
FS、およびわんこーろは多くの配信者が伸び悩むはずの時期に突出した注目度を得ることになり、さらには若者にとって未知である行事を紹介することで文化復興を加速させることもできる。まさに一石二鳥なイベントである。
「んふふ~大丈夫です~そう深く考えなくてもいいんですよ~お盆というのは簡単に説明すると~ご先祖様をお祀りする行事のことです~。時代や地域によってその形態はかなり異なっておりますので一概にこうしなければいけない! っというものは無いので気楽にしてくれればいいですよ~」
その言葉に一同は少し安心したようで、わんこーろの次の言葉を期待した様子で待つ。彼女らも思いのほかわくわくしているようだ。
「まずは~お昼ご飯の食材の調達と調理をしていただきます~。お昼ご飯用だけでなく、神棚と犬守神社の方にお供えする料理も一緒に作っていくつもりです~。さて~この中で料理ができる人~!」
「は~い!」
「あぅ……」
「ワタシは無理だぞ」
「できません」
「り、料理するボドゲはしたことあるよ…?」
「え、えっと、ちょっとだけなら……」
わんこーろの言葉に元気よく手を上げて答えたのは狐稲利だけ。FS一同はあらぬ方向を見たり、きっぱり無いと言い切ったり、ボドゲキチを発揮したりと様々だった。
『狐稲利ちゃん料理出来るのか!』『ではあの朝食も狐稲利ちゃんが作ってたものもあった!?』『狐稲利ちゃんの料理たべたいのぅ』『地味にへこんでるナートかわいい』『ナートの一番かわいいシーン』『この瞬間こそスクショするべきでは?』『しかし姐さんと寝子ちゃん不動だな』『いっそ清々しささえある』『それよりも誰かあのボドゲ脳をどうにかしてくれ』『このコラボで実物を持ってこなかっただけマシ』『←果たして本当にそうかな?あの荷物の中にボドゲが無いとなぜ言い切れる?』『メイクで室長にボドゲ没収されたって泣いてたやろ!』『なら安心か』『なこちゃんからボドゲ抜いたらただの美少女だろいい加減にしろ!』『新人のわちるんが一番料理できるの草』『これは解釈一致』
「ふんふん~なるほど~では、いくつかの班に分けてそれぞれ役割分担して頂きます~。まずはわちるさん。わちるさんは私と一緒にお料理を作っていきましょ~」
「は、はい!頑張ります!」
『まあ妥当』『料理経験ありはやっぱ強いわ』『わんころちゃんと一緒だと分かってちょっとテンションの高くなってるわちるんかわいい』
「次に~なこそさん、ナートさんにはお魚を釣ってきてもらいましょうか~。今日は海が出てないので、やたの滝近くの渓流で川魚をお願いします~」
「釣りか~やったことないけど、頑張ってみますか」
「まかせてよ!全員分のを釣ってきてやるからな!」
『まーたフラグ立てやがって』『ナート全然釣れない未来が見える見える』『逆になこちゃんは大量の釣果を記録する予感』『大差がついてなこちゃんの勝利だな』『33-4』『えーと、こういう時は……な阪関無!』『なにそれ』『さあ?書いた俺もよう分からん』
「寝子さんと○一さんは~滝の裏の岩戸からわんこーろの指定したものを持ってきて頂きます~」
「おう、任せろ」
「精一杯務めさせて頂きます」
『お、久しぶりの寝子○じゃん』『寝子ちゃんフンスフンスしてるの草』『は じ め て の お つ か い』『寝子ちゃんのお使いを見守る○姐さんの構図てぇてぇ』
「では~各自役割の方を軽く説明させて頂いたところで~視聴者の皆さまにもこの配信について説明をさせて頂きます~。現在配信はFSの各配信者の方々とわんこーろ、そしてFS公式チャンネルの合計7つの配信枠が存在しております~各々配信者の配信枠にて各配信者視点の映像をご覧いただけるのですが~FS公式チャンネルだけは各視点を切り替えることが出来ます~配信画面の右下のアイコンをクリックして頂くと~"切り替え"という項目が現れるのでそこから各配信者の視点に切り替えられるのでどうぞご活用ください~」
『お?マジかこんな機能あったのか』『これは便利。自力7枠はしなくてもいいのか』『どれか一画面だけ表示させるだけじゃなくて全画面縮小表示できるのは便利ー』『切り抜き師ワイ大歓喜』『監視カメラの映像がズラッと並んでる監視室みたいで背徳感ある』『←えぇ……』
「それじゃ~皆さん頑張って下さ~い!」
そしてFS初、いや、この世界のこの時代においてヴァーチャル配信者史上最大級の超大型コラボが幕を開けた。
犬守神社に併設された居住空間、わんこーろと狐稲利が家と呼んでいる空間の中で主に配信などを行っている部屋はふすまを取り払うことで現在FSの面々が利用する部屋と繋がり、かなり広いスペースが確保されている。その部屋の向かいには別の部屋が存在している。
その部屋は半分ほどしか床が無く、もう半分は土間がむき出しになっていた。
「わあ……!広いですねわんこーろさん!」
『ひろーい!!』『家の中なのに外みたいだな』『なんかよく分からんもんがいっぱいある!』『なんかの作業場っぽくみえるな』『ここで料理するの?』
「いろいろと作ったりできるようにできるだけ炊事場は広く作ろうと思っていたんです~
「え、と、ごめんなさい。おばあちゃんのところでは電気を使っていたので……正直、使い方もよく分かりません……」
「いえいえ~問題ありませんよ~それじゃあ火の付け方から教えますね~」
わんこーろとわちるのいる部屋は主に炊事場として利用できる部屋で、土間には五つの竈が備え付けてある。それぞれ大きさが異なっており様々な調理ができるようになっている。
本来なら水瓶や水汲み用のポンプが備え付けてあるのが一般的だが、ここではやたの滝の流水をそのまま引いているので蛇口をひねれば常時新鮮で冷たい水が手に入る。
天井は他の部屋よりも高く作られており、想像以上に広々とした空間となっていた。壁には
また土間から直接外に出られる戸が存在しており、その傍には大きな
「これでよしっと~それじゃあお米を釜に入れて~炊いていきましょう~」
『米っていつ作ったの?まだ田んぼは植えたばっかだったような』『朝ごはんの時に言ってたが、お米は前の試験的に創ったやつ』『わんこーろの時間操作で作ったやつー』『農業に時間操作を導入したわんこーろ』『それは技術革新すぎて草』『時間操作は今回だけだって前回言ってただろ』『さすがに風情がない~って言ってたっけ』『しかし米も自家製、水も天然の湧き水とはこれだけでもかなり豪華』『合成の米は食ったことあるが、釜炊きのご飯とか比べ物にならんほど美味いんだろな』
竈へと釜を置き、米を炊き始める。だが、最初は釜に熱が伝わるまで時間がかかり、すぐに沸騰することは無さそうだ。
「次の工程まで時間があるので~畑の方でお野菜の収穫をしてしまいましょう~。さて~いい具合に熟れてるのがあるといいのですけど~」
「あ、あのわんこーろさん竈はこのままでいいんですか?」
「大丈夫ですよ~この空間のこの竈はちょっとやそっとじゃ火は消えませんから~ほらわちるさんも一緒にこっちにきてください~」
土間から外へと戸をくぐると畑はすぐ目の前。畝がいくつも作られ、野菜たちが大きく成長している姿が確認できる。
「これ、全部お野菜なんですか!?」
現実の世界では野菜を含めた植物はごく限られた施設で機械的に生産、保護されているのみで、ここのように土を用いた育成を見たことのあるものは視聴者の中でもかなり限られているだろう。わちるは幼少時の記憶からある程度知識や経験として知ってはいたが、それでも今、目の前に広がっている規模の畑は見たことが無かった。それは土地の広大さという意味ではなく、育てられている野菜の種類、大きさ、数が素人の家庭菜園レベルとは思えないほどだったからだ。
「ある程度季節を守って育てているので夏の野菜しか収穫できませんけどね~」
そういいながらわんこーろは畑の中に入っていく。土の上を這うように成長するものや、わんこーろの身長を越えるほどに高く成長しているものなど、しかもどれも面白い形やカラフルな色をしているため見ているだけでも面白く思えるものばかりだ。
『赤かったり紫だったり、とげとげしてたりと見た目の主張が激しいw』『葉も瑞々しく健康的。育て方が上手いね』『大振りで美味しそうだな』『こんな感じで枝にくっ付いてんの見るの初めてだからなんか不思議な気分だわ』
「ん~トマトは良い感じですね~後はキュウリも~」
「あっわんこーろさん!これって茄子ですよね?これもいい大きさなんじゃないですか」
「ん?うん、よさそうですね~。それじゃあわちるさん、収穫してみますか?」
「はいっ!えと、どうすれば……?」
「簡単ですよ~」
わんこーろは収穫用のハサミをわちるに握らせると、その手をねらい目の茄子へと誘導する。
「これが一番大きくておいしそうですね~、この、少し上の枝部分を切れば大丈夫ですよ~」
「わ、分かりました……」
まるで壊れ物を扱うような優しい手つきでわちるはそっと茄子を支え、そのハサミでぱちんっと枝ごと切り離した。
「思ったより重たくて、つるつるしてますね」
「んふふ~こうやって実際に触ってみないと分からない事っていっぱいありますからね~」
『たしかに』『映像だけじゃね』『はっ!つまり俺たちはまだわんころちゃんの本当のもふもふ加減をまだしらない!?』『知っているのは狐稲利ちゃんと、FSメンバーでもわちるんくらいか……』『俺もわんころちゃんの耳とか尻尾とか実際に触ってみたさありますけど?』『わんころちゃんちっちゃくて軽そうだし、抱っこしてみたい』『犬耳の中に指をズボッ!したり、尻尾の付け根を確認したりしたい』『おい!お前らがそんな話してっから二人ともコメントに反応しなくなったじゃねーか!!』
わんこーろとわちるはしばらく畑を見回り、食べごろと思われる野菜を次々に収穫していった。最終的には持ってきた籠いっぱいになるほどの量になり、二人でどのような料理にしようかと楽しそうに話し合いながら家に戻る。
「わちるさーん~本当に一人で持てますか~?」
「は、はい。重さは思ってたほどではないので……でも、ちょっと持ちにくいです」
収穫した大量の野菜を手に持つのはわんこーろで、わちるは何やらそれとは別の、丸くて大きなものを両手に抱えている。
わんこーろがとっておきだと言って一玉だけ収穫したのだ。
「そこの洗い場の中において頂けますか?山の湧き水で冷やしておきましょ~。お昼過ぎには冷たくて食べごろになってると思いますし~」
「はい!楽しみですね」