転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#66 合流

 

 

「いやーナートがボウズでホントよかったわ。おかげでこっちの荷物を持ってもらえるしな」

 

「ぐうぅ……わたしだって大物を捕ったんだよぉ……」

 

「分かってます、分かってますからそんな顔しないで下さいナートおねえちゃん」

 

「あのキツネちゃんも嬉しそうだったしいいんじゃないの?」

 

「うんー! なーと良いことした! おてがら!」

 

 釣りをしていたなこそ、ナートは一応なこそが釣った分の魚でノルマを達成していたので、合流した寝子、○一と共に犬守神社への帰路についていた。

 なこそは自身が釣った魚の入ったバケツと、自身とナートの分の釣りざおを持ち、ナートは寝子が重そうに持っていた荷物のいくつかを代わりに持っている。

 

「んっ」

 

 やたの滝を下り、麓の神社まで帰る道すがら、ぴゅうっと気持ちの良い風が吹く。麓から山頂に向かって吹く強い風に寝子は被っていた麦わら帽子を片手で飛ばされないように押さえる。木々もその風にざわざわと騒めき、枝葉を揺らす。

 その青葉生い茂る枝の間から、遠い向こうの山が僅かに見えた。

 

「黄色い……」

 

『黄色?』『なになに? なんか見えたのー?』『一瞬なんか見えたような気がする』『遠すぎて何だったかは分からんな』

 

 寝子はその向こうの山の黄色い何かを視界に収めた。風によって枝葉が揺れ動いたほんの僅かな一瞬だったが、確かに寝子は黄色いなにかを見た。

 

「あれはひまわりだよー」

 

「! 狐稲利さん。ひまわりというと、あの植物の向日葵ですか?」

 

 いつの間にか寝子の横にいた狐稲利は先ほど見えた鮮やかな黄色の正体を話す。先ほど見えた山はわんこーろが創った"けものの山"で、その中腹一帯に向日葵畑が作られているのだそうだ。

 

「わたしがねーおかーさにお願いしたのー」

 

 夏の犬守村、狐稲利にとってこの世界は空と大地の色、そして鮮やかな緑色がほとんどだった。そんな中、サルベージしたデータの中で見つけた向日葵畑の映像に狐稲利は目を輝かせた。

 緑に覆われた場所いっぱいに咲き誇るまさに太陽のような眩しい黄色をこの世界にも欲しいとわんこーろにねだったのだ。

 わんこーろはお安い御用とばかりにその場で向日葵畑を創りだした。それからはその場所は狐稲利のお気に入りの場所の一つとなっていた。

 

「へぇ、向日葵畑! ここからでも見えるとなるとかなりの広さなのかな」

 

「ごはんのあとでー見にいくー?」

 

「いいんですか!?」

 

「うんー!」

 

「げ、元気だなぁ寝子ちゃんは……」

 

「お前はもうちょっと気張れよナート。お前が持ってるの生ものだからな。岩戸から出てこの暑さじゃダメになるの早いと思うぞ、遅れんなよ」

 

「うへぇ~~……」

 

「まあ、向こうの山まで行くってなるとナートちゃんの言いたいことも少しは分かるかなぁ。寝子ちゃんって私たちの思っていた以上にお転婆なんだねぇ、今まで気が付かなかった」

 

「考えりゃ部屋で配信ばっかしてるから外に出てなんかする。なんてこと記憶にねーな」

 

 わくわくした様子の寝子とは対照的にナートは夏の日差し厳しい道をあの遠い山まで歩いていく想像をしてしまいうなだれる。

 ○一やなこそもその気持ちを察し、深くは突っ込まない。それよりも思わぬ寝子のわんぱくさの方が目に留まった。

 ヴァーチャル配信者は基本的に配信画面の前に居て、視聴者と交流するのが主流だ。わんこーろのように創造世界を走り回るような配信者は恐らく他に居ないだろう。

 だからか、寝子に最も近しい存在であるFSのメンバーでさえ、寝子の行動力を知らないでいた。

 

「来てよかったな」

 

「うん、ホントにね」

 

 夏の太陽は徐々に空の頂点へと登っていき、一日の最も暑い時間がやってこようとしていた。現実世界ではこれほどの日差しだと人が出歩くことも出来ない暑さになるはずだが、この空間ではじんわりと汗がにじむ程度でそれほどでは無い。

 そのことに一同は何とも不思議な感覚を抱きながらも、軽い足取りで歩いてゆく狐稲利の背中を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめちょろちょろ~なかぱっぱ~とね~」

 

「あはは、わんこーろさんなんですかその歌」

 

『いい歌だ(脳死)』『うたたすかる』『なーんか聞いたことあるんだけどな』『何の歌?』『かわいいからなんでもいいや』『ばーちゃんが歌ってた、ような……?』

 

「んふふ~この歌はですね~ごはんの炊き方を簡単に説明している歌なのですよ~といってもこの歌は釜炊きの時の手順を示したものなので~わちるさんが知らないのも無理はありません~」

 

「へぇ、ごはんを炊くときの歌……」

 

 わんこーろとわちるは広い炊事場であわただしく歩き回っていた。収穫した野菜を一つ一つ丁寧に水で洗い、皮を包丁一本で剥いていく。さすがに久しぶりに料理をしたわちるではわんこーろの手際には追いつけないが、その代わり丁寧な作業を心がけているわちるの様子にわんこーろはにっこりほほ笑む。

 炊事場を見渡し次の作業の段取りを考えるわんこーろは突然ピクッ!と何やら刺激を受けたように少し体を震わせる。

 

「……っん。わちるさん、もうすぐみんな帰ってくるみたいですよ~狐稲利さんのリンクから連絡がありました~」

 

「はわっ! わかりました! 急いで下ごしらえを終わらせますね!」

 

「ゆっくりでいいですよ~どうせ本格的に調理を始めるには人手も調味料や食材も足りないですから~」

 

『いまの"っん"っての好き』『向こうの映像見てたけど、狐稲利ちゃんが音割れレベルの声量で"おかーさへとどけー!!"って言ってて草』『リンクってそんな力技なの…?』『周りのFSメンバーが一斉にびっくりしてたの草』

 

「狐稲利さんとのリンク好調ですね~、ん? ナートさんが川に? ……ふむ~お着換えを用意しといた方がいいですかね~」

 

「え、ナートお姉ちゃんがどうかしたんですか!?」

 

『わちるん落ち着かないと手切るよー』『落ち着け包丁震えとるぞ』『落ち着きがないのはナートだけで十分だぜ』『速報:ナート釣果なし』『視聴者のハートは釣り上げたけどな!!!』『←は?』『釣果は無しだったけど一応捕れはしたんだよ、その後いろいろあってずぶ濡れに』『←まてまて、詳しい話は俺らが言わなくても本人がするだろ』『あ、そうだな自重する』

 

 竈でちりちりと音を上げる炎によって熱せられた釜から湯気が昇り始める。まな板をとんとんと包丁でたたく音や、野菜や、あるいは調理器具を洗う水の音、そしてわちるとわんこーろの何でもないような雑談によってにぎやかな炊事場に、食材と調味料の調達組の足音がわずかに聞こえ始める。

 

「おかーさ! ただいまー!!」

 

『おっこっちの映像でも調達組の声が聞こえてきたな』『今神社の前だね、畑から回って土間の入口から入ってもらった方が早いのでは?』『荷物多いし、その方がいいかな』

 

「ですね~。狐稲利さ~ん!! こっちから入ってきてくださ~い!!」

 

「りょーかーい!」

 

 遠くから聞こえる狐稲利の声はどんどん近づいていき、そして勢いよく土間の戸が開けられた。

 

「ふいぃ~暑い暑いー! ちょい休憩~」

 

「お疲れ様ですナートおねえちゃん。荷物持っていただいてありがとうございました」

 

「休憩の前に服着替えた方がいいんじゃねえか?」

 

「狐稲利ちゃんが言うにはわんこーろちゃんが着替えを用意してくれてるみたいだしね」

 

「みなさ~ん、お疲れさまです~。ある程度下ごしらえは終えているので~みなさんも料理のお手伝いに入ってもらいますね~。でも、その前にナートさんはお着替えが先ですね~」

 

 全員が炊事場に揃い、調味料やメインとなる魚がそろったことを確認したわんこーろは各自にしてもらいたい調理手順を教え、その場をわちるに任せるとずぶ濡れ状態のナートの手を取って家の奥へと向かうのだった。

 

「ナートさん~こっち、こっちですよ~。夏でも濡れてちゃ風邪をひくかもしれませんし~早く着替えないと~ですよ~」

 

「アウ、ヒィ、手柔らか……カワイ……もうこのまま死んでもいいわ」

 

『いきなり冷静になるな』『もしもしポリスメン?』『大丈夫? お墓用意する?』『キモオタムーブやめてもろて』『可愛いものに抵抗なさ過ぎて草』『他のメンバーはある程度自重してるのにこいつ……』『ブレーキぶっ壊れてんね』『わちるんの羨ましそうな眼差しを受けていたことに気づかないナート』『もしかしたらいつか刺されるかも、と心配しないといけないのは○一姐さんでは無くナートなのでは?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました~これ狐稲利さんの和服なんですが~サイズをちょっと直すだけで大丈夫そうで助かりました~」

 

「ただいまー。いやいやこれは思ったより快適ですなぁ」

 

「ナート!? お前ナートなのか!?」

 

「ぜ、全然雰囲気が違います……」

 

「思ったより和服似合ってるねえナートちゃん」

 

「……いいなぁ」

 

 炊事場に帰ってきたナートは先ほどとは全く異なる雰囲気を纏っていた。いつもはツインテールにしている金色の長髪を解き綺麗に梳かされ、さらさらとナートの動きに揺れ動くその様はほのかな儚さを醸し出し、まるでどこかのお嬢様だと言われても信じられるほどだ。

 ナートの身に纏う和服は紺色に白い花があしらわれた涼し気なものでその色が更にナートの主張の強い髪色を印象的に映し出していた。

 

『くやしい、けど可愛い……』『金髪と和服という俺の癖が刺激される組み合わせありがとうございます!』『初見です! ナートさんって可愛いですね! チャンネル登録しときます!』『バカよせ!』『この可愛さは詐欺では…!?!?』『さすが俺たちのナート、俺は信じてたぜ(手のひらクルクル』『おいナートなにか喋れよ……お前そんなお淑やかじゃなかっただろうが!』

 

「んぅ~ちょっち暑苦しいかなーと思ってたんだけど、思いのほか快適だねぇ。ゆったりしてるし、解放感バツグン! 予想以上にすずしいよぅ」

 

「ほほう、それはなんだか興味あるね」

 

「……ん? ゆったり? 解放感? ……おいナート、お前もしかしてその下は――」

 

「んぇ? 川に落ちた時にパンツまで濡れちゃったしー、替えは寝るときの一セットしか持ってきてないからもちろんはいてな――」

 

「堂々と言わないで下さい!!」

 

『これは清楚! とか思った俺の純情を返して下さい』『清楚()』『やっぱナートはナートだったじゃないか!』『なんでそんな堂々としていられるんだ……』『この姿でノーパンは草ですよ』『いやでもほら、和服って身に着けないのが一般的だし……』『実際はいてるかどうかは問題じゃなくて、それを数十万人が見てる前でなんでもないように言ってるのが問題なんだよなぁ』『痴女ですね』『ドン引きしましたチャンネル登録解除します』

 

「……さて、それじゃあ料理していきましょうわんこーろさん」

 

「……了解です~……下着の方も置いておいたはずなのですけど~……」

 

 作業の進行を促したわちるの瞳が若干濁っているような気がしたが、恐らく気のせいだろう。先輩配信者の暴露程度で驚いていてはFSの配信者など務まらないということか。

 

 

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