転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
「寝子ちゃん!? 帰ってきて……!」
「あわわわ寝子ちゃんごめん! ほんとにごめんなさい!」
「なに慌ててるんですか。気にしてませんし別にわんこーろさんに話しても構いません。というか子猫の皆さんも、FSの視聴者の皆さんも知っている事ですし、今更ですよ」
帰ってきた寝子は両腕に抱いていたヒマワリの花束をわんこーろに手渡す。ありがとうございます、とヒマワリを受け取ったわんこーろだが、その声は少し小さい。
寝子はそのまま縁側に腰かけると肩から下げていた虫かごを自身の傍に置き、捕まえた虫たちを興味深そうに観察し始めた。
「……なんでおねえちゃん達黙ってるんですか? ……もう。わんこーろさん」
しんと静まり返った場に対して、いつも通りの寝子は呆れたようにそう口にした。そこまで深刻にならなくてもいいのに、という大げさな雰囲気に対する呆れだったが、同時に自分がどれほど周りに気を遣われているのかを感じてしまう寝子。
実際は気を遣われている、というよりは寝子を大切に思っての状況ではあるが自身に無頓着な寝子にはその違いは、まだ分からない。
「……なんです~?」
「私の髪色、どう思われますか?」
「そうですね~、真っ白でとっても綺麗です~寝子さんにぴったりな美しい色だと思いますよ~」
「う……そこまで真正面から褒められるとなんだか恥ずかしいですね……。とにかく、この髪の色はある病気によるものでして、他にも骨や筋肉の成長が遅かったり、病気に弱くなったりと様々な症状が現れるのですが、その症状の一つに、"忘れることができない"というものがあるのです」
忘れることができない。それだけ聞くとどこが症状なのかと思ってしまうかもしれない。だが、寝子の真剣な表情に、症状とされるほどの問題ある状態である事、そこから察し、わんこーろは寝子の言わんとしていることを理解する。
「……"完全記憶能力"ですか、それを寝子さんが~?」
「私の一番古い記憶は白い服を着た人に抱きかかえられている、というものです。……昔はその記憶が私が母親から生まれた時、病院の方に取り上げられた時のものだなんて思いもしませんでしたけど」
完全記憶能力。似たものに超記憶や映像記憶などと呼ばれているものがあるが、それらの能力はおおよそ"一度見たものを完全な形で記憶し続ける"というもの。
生まれてから死ぬまで、楽しかった事、嬉しかったこと、感動した事、あるいは目を背けたくなるような辛い事、忘れたいほど悲しい事、それらをすべて記憶し忘れることができない能力のことだ。
「ねこ……?」
寝子の異なる雰囲気を感じ取った狐稲利が彼女に寄り添う。これもわんこーろとの思い出がそうさせた。狐稲利が悲しい、寂しいと思ったときいつもわんこーろが傍にいてくれた。
だから狐稲利も寝子の傍に居るべきだと思った。
寝子はそんな狐稲利にめいいっぱいの笑顔を向ける。決して無理をしているわけでは無い、本物の笑顔だ。
「昔は……少し複雑でしたけど、今は自分のこの体は好きですよ。おかげで配信者になって、おねーちゃん達や、子猫の皆さん、もちろんわんこーろさんや狐稲利さんに出会えましたから」
それは寝子の心からの言葉だった。今までは気恥ずかしくてなかなか言えなかったその想い。
その想いを丁度いいとばかりにこのタイミングで寝子は暴露したのだ。
「うう~~寝子さ~ん!!」
「ねこー! わたしもねこすきー!」
「へっ!? ちょ、ちょっとわんこーろさん! 狐稲利さん!?」
いつか言わなきゃ、と思っていた言葉をようやく言えた解放感にふう、とため息をつく寝子だが、その寝子の言葉は本人が思った以上に周囲に変化をもたらした。
特に顕著だったのはわんこーろだ。
寝子が自身の体について思い悩んでいたように、わんこーろも自身の存在の在り方について悩んでいた時期があった。
結局そんな答えのない問題を悩み続けても仕方ないと受け入れたのだが、それまでにかなりの時間悩み続けたものだ。
恐らく寝子は自身よりも長い年月を悩み続け、そしてあの歳で何とか答えを出した。そこには言葉で言い表せない苦悩があっただろう。
それを想像するだけでわんこーろは胸がいっぱいになり、思わず寝子を強くぎゅっと抱きしめた。
真似をするように一緒に抱き着く狐稲利と共に、いきなりの事に顔を赤くしてわたわたする寝子を視聴者達は優しく見守り続けるのだった。
「ごめんにゃひゃい~~!! ごめんにゃひゃいいいいい~~!!」
「はいはい暴れないでねー。ほい○一ちゃん」
「観念するんだなナート。これくらいしないとワタシも子猫どもも溜飲さがんねーよ」
「あわわわ……ナートお姉ちゃん……」
なお、ナートはなこそによって変顔の刑に処され、その場面を○一にカメラで撮られまくっていた。
シャクシャクと小気味よい音が聞こえる。
FS一同と狐稲利は太陽が真上から外れ、影ができた縁側に腰かけ、スイカに舌鼓を打っていた。
扇形に切られた真っ赤なスイカは冷たく冷やされ、口に含むとその瑞々しさと自然の甘さが口いっぱいに広がる。
時折ナートが縁側から庭の方へとスイカの種を飛ばすと行儀が悪いとなこそや○一に怒られるが、それを面白がった狐稲利がナートの真似をして種を飛ばすと、仕方ないなぁ、という雰囲気になる。
口をとんがらせて理不尽だ何だと主張するナートをしり目に、寝子はわんこーろに虫かごを見せながらあんな虫がいた、こんな動物がいたと楽しそうに報告し、わんこーろはそんな寝子の言葉に優しくうなずく。
「なるほど、確かにそれならいけるかもしれませんね……」
話は変わりわんこーろは先ほどの、時間に関する話を寝子に説明していた。
寝子が帰ってきた時はナートがちょうど失言していたタイミングであり、それより前の話を寝子は聞いていなかったらしいのだ。
ある程度説明を受けた寝子はなこそ以上の理解度で時間の圧縮に関する問題と自身の体について考えた。
「でも~おすすめはしないよ~?」
「もちろんするつもりはありません。私の"体質"だけでもズルをしているようなものなのに、それ以上なにか反則みたいなことをするなんて考えられません。NDSの情報処理に関しても、私のような存在をもって検証したか不明ですし……」
「ええー寝子ちゃん
ナートはスイカにかぶりつきながらも寝子に問いかける。
メッタメタに怒られた後にも関わらず、ナートの声音はほぼ変わらない。というよりも、そのように振る舞っているようだ。
なこそや視聴者が怒っていたのも、寝子の想いを気にしての事であり、寝子が何とも思っていないのならば、それ以上ナートを責めるのはおかしな事だ。それにこれ以上雰囲気が重くなることを寝子は望んでいないだろう。
だからこそナートが軽い調子で寝子へと話しかけた。それがナートなりに考えた寝子への贖罪の気持ちであると視聴者も気が付いていた。
「ちー? なんですかそれ?」
「今流行ってるんだよー。寝子ちゃんも憧れない? さいきょーな力!!」
「……反則、つまりルール外の力ならルール内にいる誰からも認めてもらえないのでは……?」
「もー、相変わらず寝子ちゃんは固いな~、その常識破りな超絶能力が人を引き付ける魅力を持っているんだって!! ね、わんころちゃん!!」
「ええ~!? 電子生命体のわんこーろに同意を求めますか~!?」
「はい以外の選択肢がねーじゃねーか」
「100パーセント自分の望む答えを言ってくれる相手に話を振るあたり、ナートちゃんも馬鹿ではないんだよねー」
『馬鹿ではないけどバカだぞ』『もう少しシメとくか?』『まあでもナートに同意。物語にはもっと痛快さが必要。特に今の時代は』『痛快ってんならナートを中心とした出来事は大体当てはまるんじゃ?』『しかし寝子ちゃんも強くなったな』『昔は自分からそのテの話をすることなんてなかったよな』『人見知りな孫がデレてきた感ある』『寝子ちゃんの可愛さが日に日に増していくんじゃ~~~』『いきなり話を振られてビクッとしてるわんころちゃんも可愛い』『尻尾がピーン! ってなって草』
課題を唸りながら進めるナート。その傍で丁寧にナートの分からないところを教えていくなこそ。
その隣では寝子が捕ってきた虫をじっくりと観察し、それから一匹ずつかごから出して自然へと帰してやっている。
傍では狐稲利がどのような虫なのかを説明し、わんこーろとわちるは互いに団扇を扇ぎあっている。
○一はそんなメンバーの真剣な顔や、優しそうな顔、真面目な顔を今は無き日本の夏の姿と共に手に持ったカメラで写し取っていく。
次第に日は傾き、影は長く伸びていく。あれだけ暑く感じた空気もうるさい蝉の声も鳴りを潜め、また別の虫と蛙の鳴き声が聞こえてくる。
太陽は黄色からオレンジへと輝きを変え、次第に紫の色を濃くしていく。夕闇に彩られる犬守村で一同は心地よい疲労感と共に一日の終わりを感じるのだった。
日が沈み、夜がゆっくりとやってくる犬守村。昼の騒がしさもこの時間にもなればある程度落ち着くだろう、などと考えている視聴者など何処にもいない。
「お、おおおおおお!!! こ、これはぁああ!?」
「赤い身に、細く細かく白い線の走るこの姿……!」
「艶やかで一枚がでっかい!」
「これはまさしく……!!!」
「は~い今夜は超大型コラボ記念ということで~夕飯には~本来なら現状犬守村でどうやっても手に入れられないはずの~"最高級の霜降り和牛"をご用意いたしました~!」
「うおおおおおおお!!!」
「わーい!」
『ひええええええ!?』『見ただけで分かる! これはお高いヤツ!!』『肉! 肉じゃないか!』『肉とか食ったことねえ』『見た目が既に美味しいんだよな』『みんなテンション高すぎて草』『朝と昼の魚が美味い美味い言ってたし、肉に期待しないわけないじゃん!!』
「そして~ちゃぶ台の方にご用意させていただきましたのはこれまた特別にご用意した卵と~お野菜の数々~。あ、お野菜は一部犬守村の畑でとれたものを使用しております~」
ちゃぶ台の中央には黒い鉄鍋が置かれており、その周りに様々な食材が置かれている。
みずみずしい白菜やネギ、春菊などの他に、犬守村の畑で取れた野菜が下処理を終えた状態で置かれており、メインであるお肉も牛肉だけでなく、鶏肉豚肉とすき焼きに入れるには珍しい肉も見える。
それらの食材に囲まれた鉄鍋はその熱さを保ったままのようで、ぐつぐつと音を立て続けている。
「というわけで~今夜はすき焼きです~!」
「やったー!」
「いよっしゃあああああ!!」
「ナートちゃんテンション高いねぇ」
「○一おねえちゃん、この卵ってどうするんですか?」
「あ? ああ、こいつは割って溶いて肉につけて食うんだよ」
「なるほど、朝やお昼のご飯の時も思いましたけど、料理って
ひと手間かけると格段に美味しくなるんですね」
「そーだな。ワタシも最初はめんどくせーって思ってたけど、侮れないもんだな」
『俺もちょっと自炊してみるか…』『調理器具集めるとこから始めんとあかん』『んなの包丁一本ありゃ何とかなるわ。問題はお安く食材を確保できる店を見つけることよ』『おい! お前らわんころちゃんのメイク見ろ!! 朝と昼の料理レシピ公開されてっぞ!』『マジか! ちょい食材買ってくる!』『わんころちゃんありがとう!』『レシピ情報共有助かる』
「んふふ~では皆さん頂きましょう~」
既に朝食、昼食と口にしていた一同は既に食事に対する考えをかつてより一変させていた。それだけわんこーろの用意した食事というものが衝撃的だったのだ。
これまで食事を作業としかとらえていなかったメンバー、特にナートもその味や匂い、食事そのものの雰囲気に魅了され、その結果いかにも美味しそうな匂いや、用意された食材に異様なテンションをもたらしていた。
「ああっーー! ナートお姉ちゃん! それ私のお肉ですよ!!」
「早いもん勝ちだよー。寝子ちゃんのものってわけじゃないしー」
「むうう!」
『ふくれっ面寝子ちゃんかわいい』『寝子ちゃんが育てた肉がぁ……』『ご飯粒ついてるぞナート』『ナートに太る呪いをかけた』『領有権の侵害だぞナートぉ』
「ナートちゃん肉だけじゃなくて野菜も食べてね、はい」
「ちょ! 勝手に私のお椀に入れんなよぅ!」
「おや~ナートさんはわんこーろと狐稲利さんの育てた野菜が食べられないので~?」
「……なーと、きらい」
「ぐふぇ!?!? わ、わんころちゃん……狐稲利ちゃ……」
『なこちゃんナイス』『いやーなこちゃんはやさしいなあ(棒)』『わんころちゃんと狐稲利ちゃんに追撃されてて草』『当然の結果』『狐稲利ちゃん! もっと嫌いって言ってくれ!!!』『草』『どうも変態が紛れ込んでいるようですね』『お? 久々に村八分か?』
「おし、ナートが瀕死だ、寝子も肉食え肉」
「わ、わ、自分で取るから大丈夫ですよ○一おねえちゃん」
「まったくーこの味の滲みたネギの美味さがわかんないとはねぇ、あ、お豆腐うまー」
食卓は各自が思い思いに食事を楽しんでいた。ナートは執拗にお肉を狙い、食べごろのものをかっさらっていく。そんなナートに苦言を呈する寝子だが、ナートは動じない。バランスよく野菜とお肉を自身のお椀によそうなこそが油断したナートのお椀に味の滲みた野菜たちをどっさり盛ってやる。
非難するナートだが、やはり炎上体質のナート。よく考えない発言によってわんこーろと狐稲利のジト目を一身に受け絶望顔を晒している。
もちろんわんこーろも狐稲利も本気で怒っていないのでナートの沈んだ様子がおかしくて、クスクス笑っているのだが、アワアワ慌てているナートは気づきそうにない。
「ねえねえわんこーろさん。さすがにお肉は無理だと思いますけど……卵くらいなら何とかなるんじゃないですか?」
「卵というと、ニワトリってことですか~? そうですね~ニワトリの飼い方を調べないとですね~」
「私も一緒に調べますよ! もっともっと犬守村をにぎやかにしていきましょう!」
『ニワトリかー飼い方調べてくる!』『ひよこから育てます?』『飼育小屋作ろ!』『飼う品種は何にしましょう?』『野生動物に襲われないよう対策もしなきゃですねー』
「んふふ~そうですね~皆さんも一緒に頑張っていきましょ~」
日が沈み、外の空気に食卓の雰囲気が解けていく。それはにぎやかな笑い声と共に、犬守山を包み込んでいくようだった。
食後の満腹感にすっかり慣れた一同は効率食では味わえないこの、何とも言えないリラックスした時間を存分に楽しんでいた。
なにかをするわけでも無く、既に日が沈んだ後の犬守村の風景を眺めていた。蛙と虫たちの音色がぬるい空気に響くのを静かに聞いているだけで、不思議と心が落ち着くように感じてしまう。
同時に片づけられた食事の残り香が、外から漂う草木や土、あるいは水の匂いと相まってなんだか懐かしいような、もの悲しいような感覚も覚えてしまう。
現実では味わおうにも味わえないそんな新鮮な感覚に浸っている最中、わんこーろが声をかけてくる。
「みなさ~んお風呂沸きましたよ~」
「風呂か……! 実は期待してたんだよな」
一番に声を発したのは○一だ。現実にてFSの住んでいる家には浴室はあっても浴槽というものは無かった。シャワーだけが備え付けられており、FSのメンバーはそのほとんどが湯船に浸かるという体験をしたことが無い。そのため一同はお風呂という言葉に強く興味を惹かれていた。
その中でも○一は最も犬守村のお風呂の存在に関心があった。元々綺麗好きな○一はシャワーの数倍の心地よさを得られるなどと視聴者から聞いたことのあるお風呂に一度入ってみたいと思っていたのだ。
それ以外の事柄ならめんどくさいと言い捨ててしまう○一唯一のこだわりと言ってもいいかもしれない。
「では~○一さんが一番風呂を~」
「ええぇー!! わたしだって一番に入りたいっ! ○一ちゃん一緒に入ろうよ!」
「それはちょっとずるいですよ○一おねえちゃん! 私も興味あります!」
「……いやー実は私も……」
わんこーろの"一番風呂"という言葉に食いついたナートが○一に異議を申し立てると続いて寝子が風呂場に行こうとしていた○一に縋りつく。
お風呂という肌を晒すイベントに若干遠慮がちではあるが、好奇心には抗えずなこそも手を上げ、恐る恐る主張する。
「……もう皆さんで一緒に入ります?」
「…………え?」
「いやいや、さすがに狭すぎんだろ!?」
そんな中発せられたわちるの言葉に一瞬時が止まったような気がした。なこそは何やらとてつもないショックを受けた様子で呆けたようにしているし、○一もさすがにツッコミを入れる。
だが、そんな様子の一同を見てわんこーろはなんでもないようにその案を採用する。
「いいんじゃないですか~? お風呂場も浴槽も皆さんで入れるくらいの大きさに造ってあるので入るぶんには問題ありませんよ~」
「決まりですね! ほら、皆さん着替えを忘れないで下さい! わんこーろさんお風呂場って向こうだよね?」
「ちょ、ちょっとわちるおねーちゃん!?」
「む、無理無理むりぃいい!! わちるちゃんちょっと落ち着こ!! やっぱ私はお風呂後でもいっかなー!」
「往生際が悪いぞなこそ。お前が肌晒すのは恥ずかしいってのは知ってっけど、さっき手を上げたとこで手遅れなんだよ」
「ひぃいいいいい!?」
「な、なこそおねえちゃんのこんな表情初めて見ました……」
「まあ~視聴者の皆さんには見えないように配信画面は此処に放置しておくので~まだマシなのでは~?」
「だといいんだがな」
結局なこそは両腕をナートと○一に抱えられる形で風呂場へと連行されていく……。
「あ、わんこーろさんと狐稲利さんも一緒に入りましょうよ!」
「え、わんこーろもですか~!?」
「うんー! はいる!」
わんこーろが聞き返す中、狐稲利は一瞬の迷いもなく肯定する。
「はい決まりです! わんこーろさん一緒にはいりましょー」
「わ、わ、わ~! 分かりましたから抱っこしないでください~! 逃げませんから~!」
「おかーさ……かわいい」
夕飯の後片付けやお風呂上がりの皆の着替えを用意しようと考えていたわんこーろは突然のわちるの提案に驚くが、なにか反論をする前にその小柄な体をわちるに抱きかかえられてしまい、これまたなこそのようにお風呂場へと連行されてしまう。
その後ろを嬉しそうに追いかける狐稲利に苦笑を送りながらも、わんこーろは分け隔てなく接してくれるわちるに感謝し、されるがままでいるのだった。
『おーおー犬守村の風景がよう見えるわ』『いい雰囲気ですよねー最高だわ』『この風や虫なんかの音を流しながら眠りたい……』『いやー本当、心落ち着きますね』『……』『……』『……いやいや! おかしいだろ!』『わんころちゃーん!! せめて前回みたいに風呂場の前に配信画面を移動させてくださーい!!』『いちゃいちゃする声も、わちゃわちゃする声も……衣擦れの音も聞こえん……』『これはこれで良いけど、そうじゃないんじゃよ!!』『お風呂ーー!! お風呂イベントやーい!!』『おいお前ら! ナートの配信画面はまだ動いてるぞ!』『←でかした!』『あ、気づかれた』『映像差し替えられたあああああ!?』『コメント阿鼻叫喚で草』