転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

72 / 271
#71 花火と夜更かし

「ふいー気持ちよかったーお湯に浸かるのって最高だねー」

 

「やっぱ室長に風呂作ってもらうか」

 

「わんこーろさんありがとうございます。私達の浴衣まで用意して頂いて」

 

「いいのいいの~最初っから皆さんに着てもらいたいと思ってご用意していたものなので~」

 

『おかー』『おお! お風呂上りかわいい!』『しっとり濡れ髪がなんだか綺麗で美しい』『あのナートでさえそう思えてしまうほど恐ろしい補正がかかってますわ』『てかナートはなんで悲しそうな顔してんだ?』『なんか両腕で胸おさえてるし……どした?』

 

「ううぅ……狐稲利ちゃんにもてあそばれたぁ~~」

 

『!?』『ファ!?』『は? え、は!?』『ど、どゆこと狐稲利ちゃん!?』

 

「う? ん~、なーと、やわっこかった!」

 

『え』『ええええええええ!?』『!?!?!?』『胸を押さえるナート、満足げな狐稲利ちゃん……あっ』『なるほどね(すべてを察した眼差し』『あ、そういう…』『了解、狐稲利ちゃんは無自覚攻め、と(メモメモ』『何がやわっこかったんですかねぇ』『その手の動きやめなさい!』『狐稲利ちゃん羞恥心どこいったよ!?』『狐稲利ちゃんの羞恥心は実装したばかりだから……』『これは要教育ですわ』『いやむしろ移住者たちの教育の賜物では?』『教育すべきは狐稲利ちゃんではなく移住者のほうだったか』『わんころちゃん頭抱えとる』

 

 お風呂から上がり、さっぱりした状態で戻ってきた一同はわんこーろが用意した浴衣に身を包んでいた。それぞれ特徴的な柄の浴衣であり、彼女たちのアバターの情報更新を手伝ったわんこーろによってサイズはぴったり。

 ある程度知識のあるわちるでさえ身に着けた事のない浴衣というものに少しそわそわしてしまう。

 

「な、なんだか……すーすーします」

 

 落ち着かないわちるだが、それは慣れていないだけで決して着心地が悪いという訳ではなさそうだ。むしろいつもより窮屈な感じが無く、ゆったりとしているように感じる。

 その感覚が不慣れであることで心もとなく思ってしまっているのだろう。

 

『わちるんもお淑やかに見える』『わちるんはいつもお淑やかだろ! いい加減にしろ!』『←お、おお? …おお』『わんころちゃんの限界オタクがなんだって?』『ナートと比べればおしとやか』『なるほど』『ナートのインパクトが強すぎてな…』『わちるん髪色と同じ浴衣可愛い』『もじもじしてて可愛いー!』

 

 薄いオレンジ色が波打ち、ところどころに七宝柄が描かれた浴衣はわちるの髪色どころか、雰囲気まで網羅しているようでとてもよく似合っている。

 視聴者のコメントにいつになく恥ずかしそうにしているわちるをよそに、なにやら画面端で○一となこそがわちゃわちゃしている。

 

「ほれほれ視聴者どもーこいつも見てやれー」

 

「ちょ、まってよ○一ちゃん!」

 

 朝顔の柄が鮮やかに目立つ○一の浴衣も、彼女が着ると決して悪目立ちはしない。むしろ彼女のさっぱりとして、ある意味男前な性格をよく表しているようで不思議と違和感はなかった。

 そんな堂々とした○一の陰に必死で隠れようとしているなこそは薄墨色を基調とし、白い麻の葉柄が浮かぶ浴衣を着ている。FSメンバーの中では一番落ち着いた柄の浴衣ではあるが、それが逆になこそへ視聴者の視線を集めることとなる。

 

『なこちゃんが引っ張られてきたw』『ガチ焦りしてて草なのよ』『なこちゃんのトラウマ発動してんじゃん』『お前ら何を言うべきか分かってるな?』『そんなこと言われなくても分かってんぜ!』『おうよ!』『なこちゃんかわいい!』『かわいい』『とてもかわいいです!』『もっとよく見せてよ!』『可愛すぎか?』『かわかわ』『いつも可愛いけど今日はさらに可愛い!!』『最高に可愛いです』

 

「や、やめてよ! 私のキャラじゃないってぇ~」

 

「○一おねえちゃんいじめはよくありませんよ」

 

「そういう寝子だってかわいいかわいい言ってたじゃん」

 

「う……それは無意識で…」

 

 注目され、可愛いと言われることにやはり慣れないなこそはうなだれながら配信画面からフェードアウトしていく。

 そんな漫才を傍で見ていた寝子は逃げ出すなこその姿を見ながら小さく息をつく。

 寝子の浴衣は薄い水色に籠目柄が白く浮かび、その様子はまるで雪の降る青い空のようにも見えた。寝子の特徴的な白い髪と相まって涼し気な雰囲気の寝子だが、その赤い鮮やかな瞳は力強く輝き、おとなしさだけではないと主張しているようだった。

 

「いやー本日二着目の和装ナートだぞぉーレアもんだぞ視聴者ー」

 

 配信画面前でご機嫌にくるくる回ってその浴衣姿を見せびらかすナート。その髪色に合わせた大輪のヒマワリの描かれた浴衣は確かに今の楽しそうなナートの姿にぴったりだと言えるだろう。むしろ明るすぎるくらいではあるが。

 

『くそ、言い返せん』『普通に可愛いんだよなぁ』『しゃべらなければ金髪美少女定期』『寝子ちゃんもなこちゃんも……まあナートも可愛いかな』『姐さんも可愛いぞ』『○一姐さんは可愛いというか…かっこいい』『イケメン度上がってんじゃん』『帯刀してそう』『ござるとか言ってそう』『寝子ちゃんもかなり似合ってんね』『もしかしたらこの中で一番似合ってるかもしれん』『スクショしとこ』

 

「さてさて~お風呂も済んだことですし~後は寝るだけなのですが~それでは面白くありませんので~」

 

「これもってきたー!」

 

 わんこーろと狐稲利の両手には何やら大きな袋がぶら下がっており、その中には細い棒状のものや、箱の形をした何かが大量に詰め込まれていた。

 

「それでは~これより小さな花火大会を開催したいと思います~!」

 

「わーい!」

 

『小さいのに大会とはこれいかに』『花火ってあの空に打ち上げるやつ?』『見たところ手持ち花火だな』『小さいけど迫力はあるよ』『目の前で花火が見えるわけだしな』『へえ、それって熱くないのか?』『視聴者は花火するときは大人のひとと一緒にやるんだぞ! 移住者との約束だ!』『人に向けんじゃねーぞナート!! フリじゃねーからなマジで!』『てかわんころちゃんいつの間に火薬を……』『それに関しては触れてはいけない気がする……』『犬守村の闇』

 

「そんな悪いことしてませんよ~! 火薬は必要量以外は創らないように決めてましたし~! というか今回花火の為だけに創ったので残ってる火薬もありませんので誤解無きようお願いしますよ~!」

 

『ホントかね~?』『きっと村八分判定された移住者用のバクダンになるゾ』『わんころちゃんならマジで視聴者にバクダン(ウィルス)を送りつけられるだろうな~』『くれぐれも悪用するんじゃないぞ!』『くれ悪~』『くれ悪~』

 

「もーう! しませんってば! まったく~。今回用意したものは手に持って遊べるものと~地面に置いて点火するものですね~。小型の打ち上げ花火は今回はありません~火薬を! 制限! したので!」

 

「おかーさー。火のじゅんびできたよー?」

 

『語尾強調草』『画面に力説してて草』『ぷにぷにおててで握りこぶし作ってるのかわE』『真面目っぽい言葉も声音ゆるふわになるのはわんころちゃん特有のアレ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 犬守神社の縁側でFSのメンバーは浴衣を身に着け心地よい夜風に髪を揺らしながら、色鮮やかな火の明かりを楽しんでいた。

 色とりどりの閃光は花火の先端から流れるように発し、真っ暗な空気へと散っていく。

 いつまでも見ていたい、けれど一瞬しか咲かない火の花は刹那的な美しさを内包しており、始まりから終わりまで変化していくその火の姿は形無き移り変わる美を体現しているようだった。

 

 花火しかり、桜しかり、あるいはめぐりめぐる四季そのものしかり、この国の美には限られた期間にしか見ることのできない瞬間的な美しさを尊ぶ感覚がある。

 いつかは流れ、消え去る運命であるからこそ、その瞬間瞬間が美しくうつる、まさに無常、もののあはれ、だ。

 

「おおっ! 見て見て視聴者! どんどん色が変わってくよー!」

 

「派手でなくともこの火花が散る光景は新鮮で見ていて飽きませんね……!」

 

「おまっ、ナート振り回すなっつっただろうが!」

 

「わんころちゃーん、このねずみ花火っていうのやってみていいー?」

 

「ええと、水入りバケツはどこに~?」

 

 縁側にゆったりと腰かけるわんこーろはその光景を傍に寄りそう狐稲利と共に見守っていた。周囲に花火の光がちりちりと浮かんでは消え、浮かんでは消えるを繰り返し、白い煙がゆらゆら風に揺れ火薬の匂いがほのかに立ち込める。

 

「……狐稲利さん~楽しいですか~?」

 

「うんっ! たのしー! みんなといっぱいおはなしして、なかよくなったよ!」

 

「そうですか~それはよかったです~」

 

 いつもならFSのメンバーと共にはしゃぎまわっているはずの狐稲利は花火の喧騒から少し離れたところでわんこーろと静かに語り合っていた。視線は楽しそうなFSメンバーを見つめながらも、二人は互いに体を預け合いながら微笑んでいた。

 

「わたし、いままで、ともだちって、よくわかんなかったのー。おかーさはおかーさだし、いじゅうしゃはおとーさだしー」

 

「んふふ~移住者さんがお父さんですか~」

 

「うん! いっぱいいろんなことを教えてくれるし! おかーさとおなじくらいやさしいー。でもね、おかーさも、おとーさも分かったけど、ともだちってしらないのー。だからねっ、わたし、ともだちってなんなのかなー? って、それをみんなが教えてくれたー!」

 

「そう、ですか~。んふふ~」

 

 今日一日は確かにFSと視聴者にとって衝撃的で忘れられない時間になったことは言うまでもない。だが、もちろんそれだけでは無い。犬守村に彼女たちを迎え入れたわんこーろも狐稲利も確かにその時間を決して忘れることのない思い出とすることができた。

 

 この電子世界で現実世界の住人とふれあい、親交を深めることなど不可能。

 だがその不可能が可能になり友達を得た狐稲利の声音に、わんこーろはただ静かに頷いてFSの楽しそうな様子を見る。

 

「狐稲利さん~? おねむですか~?」

 

「ん~? んーん! んふ~なんだかねーきょうはあまりおかーさと一緒にいなかったからー……」

 

 寄り添う狐稲利はわんこーろの手に自身の手を重ね、優しく握る。まるでその暖かさを確認するかのように。

 

「さみしがりやですね~」

 

 呆れたような笑みを湛えながらわんこーろはふたまわりも大きい狐稲利の体に寄りかかる。

 二人で見る目の前の華やかな光景を見て、わんこーろはこの空間を創って、本当に良かったと感じることができた。

 

「おかーさー。あついー」

 

「んふふ~」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。