転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
#74 小さい秋
「んん~! 尻尾よ~し、お耳よ~し!」
ふりふりぴょこぴょこ、今日も私の体は絶好調なのですよ。
皆さまお久しぶりです。電子生命体でヴァーチャル配信者をやっております、わんこーろというものですー。
移住者の皆さまに褒めてもらっているこの尻尾と犬耳のお手入れは毎日欠かすことなく行っております。もはや私のシンボル的なものと言っても過言ではありません。
最近は夏の暑さも穏やかなものになり、比較的過ごしやすい日々が続いております。その間私は犬守村の各3Dモデルの情報更新やら、メンテナンスやらを配信して配信者として活動を続けています。
そうそう、あの大規模長時間コラボが終了してからというもの、私のチャンネル登録者は伸びに伸びて、現在では五十万人ほどにまで膨れ上がっています。
ええ、五十万。
……いやいや、どういうことですか。
確かにあの丸一日配信がとてつもない衝撃で話題になったことは知っております。エゴサが趣味というナートさんがわざわざそのことを興奮した様子で伝えてきたくらいですから、それはかなりのものだったのでしょう。
ですが、まさかここまでとは予想していなかったんですよ! だって私、最近した登録者記念配信といったら、一万人記念のやつが一番新しいんですよ!? 五十万人はおろか、キリの良い十万人記念だってまだしてなかったのに……!
まずい、これはまずいのですよ……! 先日のコラボで犬守村のほぼすべての制作物をお披露目してしまったのでこれといった記念配信用のネタが無いのですよ!
「んむむ~移住者さんもだれも教えてくれないし~!」
知ってますからね移住者の皆さん! あなたたちがメイクでどれくらい私のチャンネル登録者が伸び続けるか賭けをしていたことを! そしてその事実を配信終了までずっと黙っていたことを!
な~にが『わんころちゃん驚いたら思考フリーズするからw』ですか! ま、まあ確かに? コラボ中に登録者数について言われてもアワアワしてまともに反応出来なかったかもしれませんけども。
というよりあのコラボだって、私は落ち着いて進行してて素晴らしかったなんて視聴者さんにメイクでつぶやかれてたりしてましたけど、内心ハラハラドキドキでいっぱいいっぱいだったんですよねぇ……。
「FSのみなさんがさりげなくフォローしてくださったり、狐稲利さんの無邪気さに助けられましたね~」
「んふ~? おかーさー呼んだ~?」
「いえいえ、なんでもありませんよ~。おや、狐稲利さんはこれからお散歩ですか」
「うんっ! なんだか今日は暑くないから~みんなの様子も見てくる!」
「分かりました~道中気を付けてくださいね~」
「は~い!」
ふふ、狐稲利さんは今日も元気ですね。お気に入りの日傘代わりの番傘片手に今日もお散歩に出かけるようです。狐稲利さんもあのコラボ以降、友達というものを深く理解しようと頑張っているようです。
時には私のメイクアカウントを利用して自撮り動画などを上げていたりしているようです。
なんでも、自分の娘みたいだ、と好評なんだとか……。
……娘は、あげませんよ……?
「ふ~~む、やっぱり収益化について考えないといけないかもですね~」
私のチャンネル登録者数は五十万と少し。
そこまでたくさんの人に見ていただいていると、いくらかの視聴者の方に質問されるのです。"収益化はしないの?"と。
かつてどこかで言ったような気がするのですが、私は電子生命体ですから収益化してお金を頂いても利用する場面がほとんど無いんですよね。生きるために必要なものと言えば……電気? それくらいですので。
とはいえこれだけ登録者が増えると無収益での活動をいたく心配される方もおられるようで……。私としてはこのままでもよいのですが……。
だけど過去に収益化は考えてると発言した記憶もありますし……。
ううむ、それほど深刻に考えなくてもいいかもしれません。結局私がお金を催促しているわけではありませんし、極端に私の事を心配される方を落ち着かせるという意味で形だけ収益化しておいてもいいかもしれません。
「とはいえ~そのまま何もしないというのも~」
問題はその収益化によって可能になる"投げ銭"をしてくださった移住者さんに何かお返しになるものが思いつかない、ということなのです。
投げて頂けるかは分かりませんが、もし投げ銭機能を使って下さる移住者さんがおられるならば、感謝の気持ちだけでは収まりがつきません! 何か"特典"のようなものをご用意したいのです。
「でも~何をご用意すればいいのか~……」
わたしは肉体を持っていないので、現実におられる移住者さん達に形に残るようなものを差し上げるのはかなり手間なんですよね。
FSの皆さん経由でなら可能かもしれませんが、これは私の我儘のようなものなのでそれにFSの皆さんにご協力をお願いするのはなかなか心苦しいのです。
「ん~何かないかな~負担にならなくて~移住者さんからも負担だと思われない、お礼の品~」
「おかーさ!!」
「うわっ! びっくりした~~!! ど、どうしたの狐稲利さん~?」
思わず熟考していたせいで狐稲利さんが帰ってきていたことに気が付きませんでした!
なんでしょう? 何か忘れ物でもあったのでしょうか? 狐稲利さんはなんだか目をきらきらさせて両手を体の後ろに隠しています。
「これ! これ見つけたっ!」
「ん~? わ、わわわ~! これは……!」
狐稲利さんは隠していた両手を私の目の前に差し出し、その手に乗せられた一枚の葉を見せてきました。
その葉は、まるで人が手のひらを大きく開いているかのように葉が分かれている特徴的な葉、
椛は夏の間その葉を青々と茂らせている光景がいろんなところで確認できたのですが、狐稲利さんの手の中にあるその椛の葉は緑というより、黄緑がかっていると言えばいいのでしょうか……。
さらにはその葉の先はわずかに赤くなっていました。
「なるほど~もう、そんな季節なんですね~」
「おかーさ! これって、"小さい秋"って言うんだよね!」
「ええ~そうですよ~狐稲利さんよく見つけましたね~」
秋、秋ですか~、確かに最近涼しくなったと思ってはいましたが、もう椛が色付く季節になったのですね。
しかし、この狐稲利さんに手渡された椛、なかなかに綺麗に色が変わっておりますね。
まだ真っ赤に染まっているわけではありませんが、黄緑から黄色への変化によるグラデーションが美しく、まるで一つの芸術作品のよう……。
同じものなど一つとして存在しない、ただ一つだけの作品。それらがいくつも重なり合い、木の上で鮮やかにその葉を風に揺らす風景が目の前に浮かんできます~~……ん?
「そうだ……そうだ~~!! これ! これです~!」
「んふ? おかーさ?」
それぞれ色や形に特徴があって一枚で作品のよう、それらがいくつも集まることで美しい風景の一部になる。
そうです! 実物のものをお礼にできないなら、皆さんへのお礼を"この世界に実装してしまえば"いいんです!
「狐稲利さん! ちょっと手伝って下さい! 久しぶりにひとつ、大きな神社を建てますよ~!」
「おおっ! りょうかいー!」
さてさて~向かう先は犬守山の北! まだ開拓がされていない地帯を大規模な山地にしていきますよ~!
この度は本作をお読みいただき誠にありがとうございます。
更新再開させて頂きます。更新頻度はそれほど速くないですが、できるだけお待たせすること無いよう頑張っていきます。