転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#76 V/L=F(ヴァーチャル・リンク・フェス)

 わちるさん達の所属するヴァーチャル配信者集団フロント・サルベージ、通称FSはこの国の文化復興省の復興推進室と呼ばれる機関が運営しておられます。

 個人勢であるこの私、わんこーろは、友達でありFS所属の九炉輪菜(くろわな)わちるさんとの縁からこの復興推進室との協力関係を築いており、その関係は大型コラボ終了後も続き、むしろあのコラボ後の方がより強固な関係となっているような気がします。

 

 わちるさんとはもちろん、白臼寝子(しらうすねこ)さんや虹乃(にじの)なこそさんとは定期的に勉強会などを行っています。夏のコラボの際に教え方が上手いとなこそさんに褒められたので、今でもこうやって勉強を見てほしいと言われるのです。

 

 ナーナ・ナートさんや○一(まるいち)さんからはその日の配信に関するアドバイスを求められたり、相談事をされたりと自身の配信スタイルを客観的に観られる存在として私の意見を求めて下さいます。

 

 運営である白愛灯(はくああかり)さんとは恐らく一番会話している時間が長いのではないでしょうか? その内容の大半は私の創っている3Dモデルに関する事です。

 一度NDS(ネットダイブシステム)を用いてネット内に直接ダイブした灯さんとお会いしたことがあるのですが、その際に灯さんが予想以上に興奮していたのをよく覚えています。

 その理由は私の利用している3Dモデル制作ツールをご覧になったからでした。

 私は犬守村に実装する3Dモデルを制作する際、3Dモデル制作ツールの効果を実体化させた各種ツールを利用しています。

 それが、灯さんの興味を非常に惹いたようなのです。

 灯さんはFS運営の中でわちるさんや他のFS配信者さんのヴァーチャルな姿を制作された方で、3Dモデル制作の技術者としても、私の使っているツールは一度触れてみたいと思っていたらしいのです。

 

 実際にツールの能力を十全に扱うには電子生命体の情報処理能力が前提となるのですが、そこは私がバックアップすることで灯さんには大変満足していただけました。

 

 そして、最後にこの推進室の室長である室長さん。

 

 室長さんは皆さんのお話を聞いた限り、大変お忙しいお方のようです。FSと復興省の実質的な橋渡しをしておられる方で、その気苦労もかなりのものだと灯さんから伺っています。

 ですが、そんな室長さんも食事やその後の時間はFSの皆さんと緩やかに過ごしておられるようで、その時間帯にわちるさんとの通話をすると他のFSの方と一緒に室長さんも会話に混じっていらっしゃることが多いです。

 

 

 

 

 

『――まあ、出来るだけあの子たちの傍に居ようとは考えているんだがな……』

 

「室長さんも苦労してるんですね~」

 

『上手くいかない事も多いが、な』

 

「でも~わちるさんも室長さんにとっても感謝されてますよ~? 今の私が居るのは室長さんのおかげだ~って~」

 

『あの子は良い子だからな……』

 

 現在私は室長さんとちょっとした打ち合わせを行っております。

 夏の大型コラボの時ほどの綿密な打ち合わせというものではないのですが、今後復興省が行うというとあるイベントに関する大切な打ち合わせなのです。

 

『……ところで、本当にいいのか? こちらとしてはありがたい限りなんだが、そちらの負担になってはいないか?』

 

「も~う、大丈夫ですってば~室長さんはFSの皆さんの時みたいに私のことも心配されるんですね~」

 

『それは当然だろう? 此方は協力してもらっている身だ。それ以上にわんこーろはわちる達の友人だからな、無下にするわけないさ』

 

「……お母さんですね~」

 

『おい』

 

「んふふ~それで先ほどのお話ですけど~いつくらいから情報の公開はされるのですか~?」

 

『ふむ……既に関係各所との情報共有は済ませてある。わんこーろの許可があれば、タイミングを見てFSの公式配信で発表、というところだな』

 

「ほうほう! ではついに始まるのですね~」

 

『告知が、というだけで実際に開催するのは恐らく秋の終わり頃になるとは思うがな』

 

「楽しみですね~ヴァーチャル配信者と視聴者のフェスティバル、ヴァーチャル・リンク・フェス(V/L=F)!」

 

 

 復興省が主催する、ヴァーチャルと繋がる、ヴァーチャルを行き来する、ヴァーチャルを愛するすべてのファン達の為の大規模イベント、それがヴァーチャル・リンク・フェス。

 配信者グループ、フロント・サルベージの始動と共に第一回が開催され、今回で三回目の開催らしいです。

 本来地下にお住みの方が地上へやってくるにはかなりのお金や、ある程度の身分が保証されていないといけないらしいのですが、このフェスの凄いところはなんとフェスの開催期間中は配られたフェスのチケットを持っている方ならだれでも地上へ上がり、フェスが行われる"塔の街"へとやってくることができるという事です。

 

 去年まではFSさんと数組ほど外部からのヴァーチャル配信者を招いての中規模なものだったらしいのですが、昨今の文化復興の流れや、視聴者と共に"楽しむ"配信をされる配信者の増加傾向を考慮し、その規模を数倍にまで拡大させたのだとか。

 

 さらに今年はFSさんのお披露目や私との大規模コラボで大々的に宣伝したNDSを実際に現地で体験して頂くことも可能らしいです。

 

 さらにさらに、フェスに参加を希望した配信者にはNDSを格安で貸し出すという。

 

「外部の配信者さんには既にこの話は~?」 

 

『いや、まず前回のフェスに参加してくださった企業や個人の配信者へ話をして、その後他の配信者へ大々的に告知するつもりだ』

 

「ほうほう~これはかなりの配信者の方が興味を示されるでしょうね~」

 

『あの子たちと、わんこーろのおかげだ』

 

「室長さんや灯さんの努力もあってこそですよ~?」

 

『……そう言ってもらえると、ありがたいな……』

 

 私とFSさんの夏の大型コラボはこの時代の若い方を中心にとてつもない衝撃をもたらし、それは今までほぼ進んでいなかった、もしくは見向きもされていなかった伝統、文化、風習の全てをすさまじい速さで復興させております。

 かつての原風景に強い興味を示した視聴者さん達は自身の家の中などを徹底的に捜索し、復興の為になりそうな情報を次々とネットに上げていきました。

 

 それらの情報はほとんどがあまり意味のない情報ではありましたが、いくらかは復興省ですら存在を諦めていた貴重な資料であったりと、その大きな流れは確実に今の世界を好転させる流れとなっています。

 

 そんな状況を鑑みた室長はNDSによる重度のネット依存の危険性を下方修正し、NDSに対する態度を軟化させました。

 その結果、今回のNDS貸し出しはフェス参加を打診し承諾して下さったヴァーチャル配信者全員にくわえて、さらにヴァーチャル配信者志望の一般人を身分貧富問わず数十人規模で募集して、何度かの面接を経て合格した十数人に無料で貸し出すというのです。

 

「んふふ~私もV/L=F協力配信者の一人なのですから~何か催し物を用意しておきたいですね~」

 

『む? 何かしたいのか? 必要ならわんこーろのブースをフェス会場に設置するが』

 

「ん~~まだ考え中ですね~犬守村探索! でもいいかもしれませんけど~それじゃあ夏のコラボと変わりありませんし~新鮮さがありません~」

 

『それでも十分だとは思うがな……とにかく、会場にはわんこーろの専用ブースも設置しておくよ。NDSも必要なら言ってくれ。……暇なら会場に設けたディスプレイにでも顔を出してやってくれ』

 

「んふふ~了解です~サプライズでいきなり登場しましょうかね~~あ、そういえば室長さん~V/L=Fの会場ってどこなのです~? 塔の街のどこかです~?」

 

『ん? 言っていなかったか、V/L=Fの会場は前年と同じく街の中心、"塔の中"だ』

 

 

 


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