転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
「なんかゲームっぽくない~?」
皆さまこんにちは、私わんこーろは今日も絶賛生配信中です。先日の人形作りの場面が切り抜かれて様々なSNSで拡散されておりました。
【モデラーワイ、ポリゴンを削るノミを密林で検索中】【こらっ重力で遊んじゃいけません!】【おれだってなぁ!物理演算ONで一発実装してぇんだよ!!】【暇を持て余した神の遊び(V配信)】
などなどのつぶやきが溢れ、その結果今回の配信は開始前から100人以上の方が配信開始を待っていました。あまり関心のなかったチャンネル登録者数も同じくらい増えていました。
はっきり言いまして、とてつもなく緊張してます。配信待ちの人数3桁を確認した時点でお腹の下あたりがきゅっと痛くなったような気がします。もちろん電子生命体なのでそんなことはないのですが。
でも情報データで作られた指先が震えていたのは確かです。
あうあう言いながらなんとか自己紹介を終えて今回の目標を発表しました。
まず前回お披露目したこの、真っ白な空間からポリゴンを切り出し3Dモデルを制作する技術で空間自体を創ることにしました。
イメージとしては、もうこの世界では存在しない日本の原風景。イイ感じの田舎を創っていきたいと考えています。
ただ都市を作っても珍しさはないでしょうし、かつて存在していた日本の風景なら私も前世の記憶からある程度イメージしやすいです。
といっても現在できたことは空間の床を選択して色を付けて、私の周りだけ起伏を付けた程度です。
色は鮮やかな緑色にして、起伏は切り出したポリゴンの形を山っぽく整えて設置。見た目は3Dゲーム初期の荒いポリゴンで作られたフィールドのよう。
『ゲームっぽい?』『どんなゲーム?』『百年前とか言い出すんじゃねーだろーな』
「あ、そっか~ごめんごめん~こんなかんじのことが言いたかったの~」
配信画面に荒いポリゴンのゲーム、そのスクリーンショットを表示させる。懐かしくも味わい深いその映像は今の世代にはいまいちピンとこないかもしれない。ついでだけどこの画像は250年ほど前のデータをサルベージした際に出てきたものです。
『似てる』『キャラがカクカク』『初めて見たぞ』『もはやどんな古物が出てきても驚かない視聴者達』
「うーん、わんこーろ的にはもっとリアルな感じが欲しい~」
荒いポリゴンで構築されたような古い3Dゲームを彷彿とさせるその風景は私の考えている風景とはちょっと違う。
まるで本物みたいな風景を表現したいのだが思った通りにいかないなあ……
「と、いうわけでこんなものをあらかじめ作っておきました~」
などと言いながら私は格納しておいた3Dモデルデータを空間へと展開し、見える状態にします。
『うおおおおおお』『でっかい!』『なにこれ』『木ですね』『この木なんの木』『木になる』
「はい~そのとおりです~これは天然の木を模して作った3Dモデルになります~」
取り出したのは一本の樹を模した3Dモデルです。映像データをかき集めて丁寧に制作したもので、見た目はリアルな樹木としか見えません。
とはいえ視聴者さん達は木材でない天然の木を見たこともない人も多いようなので、そこらへんに設置した後、配信画面をぐるりと回しながら木の外観を映していきます。
「はいはいぐるぐる~、ど~ですか~?見えてますか~?」
『なんか不思議な形してんな』『こんなじっくりみたことねー』『教育関係の映像データだけじゃ3Dモデルなんてつくれねーぞ!?』『環研の保護棟で見たことある』『←まじかよ環研の関係者!?』『国のエリートがV配信見てんのかよ…』
様々なコメントが流れていきますがその中で私は『作ってるとこ見たかった』というコメントが目にとまりました。
人形作りの場面を切り抜いた動画もそれだけでかなりの再生回数となっていたので、もしかしたらそれなりに需要があるのかもしれません。
とはいえ前回の配信では3Dモデル一つ制作するのに一枠使っているので毎回3Dモデル制作配信をしていてはほかの事が出来なくなってしまいそうです。
……私も何かつぶやきを投稿できるSNSのアカウントを持つべきでしょうか?
生配信はこの白い空間の開拓をメインにして、その他小物の制作風景などはSNSで投稿していく、という風にしていこうかな?
「さてさて~それでは唐突に植えましたこの木さんをですね~複製していきますよ~」
そういって私はまたまた格納領域より一つの道具を取り出します。
「『
『コピペ提燈wwww』『コピペを視覚化したアイテムか』『他の道具とおんなじデザインかわいい』『ははーん、さてはめんどくさくなったなw』
さすがに山を覆うほどの木を手作りするのは骨が折れるんですよ!
その提燈は私の頭ほどの大きさで、持ち手部分は紙垂が垂れ、白い貼り紙の中でぼんやりと揺らめく火の光が確認できます。
さて、この提燈を使うと照らされた木には当然影ができるのですが、その影が本体と同じ色形を持って出現します。
「どんどん増やしてどんどん植えていきますよ~」
そうして数百本ほどに増殖させた木を適当に山々に植えていきます。見た目は緑の山に木々が生い茂るように配置することが出来ました。
ですが、遠目から全体を確認してみると妙な違和感が……。
「……なんかゲームっぽくない~?」
冒頭と同じことをつぶやいてしまいます。適当に植えた木々は近くで見れば確かに自身が森の中にいるような感覚を持つのですが少し離れてみると何とも不自然なものでした。
後から考えれば当たり前ですよね、ランダムに植えたといっても植えた木はそのすべてが全く同じものなのですから。
幹の太さや全長、枝の数や葉の付き具合まで全く同じ。
その同じ木がいくつも存在している光景はまさに違和感だらけ。これは、失敗ですね。
何とか修正しようにも、今から別パターンの3Dモデルを創るには配信時間が足りません。木の位置を変えてごまかそうとしてもどこかで違和感が出てしまいます。
そうこうしている内に配信終了時間になってしまいました。
……とりあえず今日はこのぐらいにしておきましょう。
「え~と、途中ですけどもう時間になりましたので~ここまでにしたいと思います~」
『いかないで』『いかないで』『もうか、早いな』『植林配信助かった』『おつ』
「みなさんもおつかれさまです~、それでは今日もありがとうございました~わんこーろでした~」
あ、次の配信までにSNSのアカウント作っとかないと。