転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#79 ゾワゾワしましゅ!

 

 わんこーろは激怒した~必ず、かの悪戯三昧のお子様をお仕置きしなければならぬ~と決意した~。

 

 まあそういう訳です。狐稲利さんによって私の寝顔が全世界に拡散されました。ついでに移住者さんの間で頻繁にその時の切り抜きが行き来し、それを元にしたファンアートまで生み出されている始末。

 

 いや別にいいのですよ? 嬉しいかと問われれば、とっても嬉しいのです。どんな姿でも移住者の皆さんに喜んでいただけているわけですし、皆さんを落胆させるような事をやってしまったわけではないので今の状況を収束させようと躍起になっているわけでもありませんし。

 

 でもやっぱり恥ずかしいじゃないですか……!

 

 尻尾を足の間に挟んですやすやしている姿が可愛いと言われても、嬉しさ以上にやはり羞恥が勝るのですよ!

 

 なので今回は狐稲利さんにも私と同じような恥ずかしさを感じていただくことにしました。

 おっと、これは復讐なんかじゃありませんよ? 一度とてつもない恥ずかしさを経験してもらうことによって今後同じような悪戯をしないように教育するわけなのです。

 

「という訳で~皆さまおかえりなさい~今夜も犬守山に帰ってきてくれてありがとね~」

 

『どういう訳!?』『うーんこれはこい虐!』『むしろ虐待されるのは移住者の方な気がするぞ』『開幕可愛いが押し寄せてきとる!?』『狐稲利ちゃんいいなー俺も膝枕されたい』『わんころちゃんの膝枕は気持ちよさそう』『最近サルべされて話題の猫虐待コピペかな?』『よく見たら狐稲利ちゃんの足によーりが寝てて草』

 

「んふ~ねむねむ~」

 

 コメントでも書き込まれておりますが、現在狐稲利さんは私の膝の上に頭を乗せてなんだか満足そうにしています。その足元にはタヌキのよーりさんも一緒に横になって眠っている様子。

 前にもおねむな狐稲利さんを膝にのせて雑談配信を行ったことはあるのですが、今回は前の時のように寝落ちさせるつもりはありませんよ。

 これはあくまでお仕置きなので、とことん恥ずかしさを教え込んであげましょう。ついでに移住者さんも巻き込みます。

 

「ではちょっと失礼して~」

 

「! お、おかーさ!?」

 

 狐稲利さんはいつも目が隠れるくらいに前髪を伸ばしておられます。私が切るか、まとめてあげようかと聞いたことがあるのですが狐稲利さんは前髪をおさえて首を横にぶんぶん振って拒否するのです。

 いろいろとわんぱくな狐稲利さんですがどうも素顔を見られるのだけは今でも恥ずかしいらしく、今日はそれを利用し……じゃなくて克服してもらうために今日の配信中は素顔そのままを移住者さんに見て頂きながら進行していくことにしました。

 

「おかーさ! おかーさ! ごめんなさい! もうしないからー!」

 

「は~い、それでは前髪と一緒に耳元の髪も動かして~隠れているお耳を見させて頂きます~」

 

「あう~! おかーさ怒ってる~!」

 

『草』『なんかえっちいぞ……!』『狐稲利ちゃんの素顔綺麗!』『可愛いけどどっちかというと美人さんって印象』『わたわたしてるけどうまい具合にわんころちゃんに押さえつけられてて草』『耳の形可愛いね^^』『←き、きもぉ……』『キモイって言うな!!』『まあASMRに釣られて視聴している時点で、ね……?』

 

 そう、今回の配信はASMR配信と呼ばれるものになっております。

 ASMR配信とは簡単に説明すると音声などによって心地よさや、ぞわぞわするような感覚を味わうことができる体験です。

 その中でも今回配信で行おうとしているのは耳かきボイスという、聞いている移住者さんが実際に耳かきをされているかのような感覚を味わえるASMRになっております。

 

「んふふ~そうです~今回は耳かきASMRの配信なのですが~なぜ狐稲利さんがこのようにされているか分かりますか~?」

 

『え?そりゃ愛でるためっしょ?』『いやいや、膝枕してるってことは!』『ほうほう、ASMRに合わせて狐稲利ちゃんも耳かきされるというわけですな』『耳も目も幸せになるやつ~~』

 

「んふ~なるほど~狐稲利さんも一緒に耳かきですか~非常に惜しいですね~正解は~」

 

 そう言って私は露出した狐稲利さんの左耳に向かって優しく、ふぅ、と吐息をかけてあげます。

 

「んひゃ! あにゃあぁ……」

 

『あ』『ひ!?』『うお!!!』『左耳ばくはつした』『左からだけゾワゾワ~ってなった!!』『あれ、もしかしてこれって狐稲利ちゃんと繋がってる!?』『えマジそうなの!?』

 

「んふふ~そういうことで~す!」

 

 本来耳かきASMRはバイノーラルマイクと呼ばれる特殊な機材を用意しなければなりません。

 人の頭部を模した模型で耳の部分が音を拾うマイクとなっているアレですね。人の耳と同じ構造を再現し、それを録音することで、まるで本当に耳の中に耳かきが入っているかのような音が記録できるという仕組みです。

 

 そして今回、私は狐稲利さんの耳と移住者さんの音声受信用端末とを繋ぐことで、そのバイノーラルマイク以上の臨場感を体験して頂くことにしたのです。

 当然狐稲利さんの耳を移住者さんと繋ぐことは事前に狐稲利さん本人から了承を得ております。

 まあ、素顔公開については何も話していなかったのでこのように慌てておりますが。

 

「さて~それでは始めていきますね~狐稲利さん~痛かったらちゃんと言ってくださいね~」

 

「おかーしゃ、たすけ……」

 

『これはとんでもないところに来てしまったのでは……』『まるで自分が狐稲利ちゃんになったような感覚になる~~』『視覚と聴覚が完全にリンクしてるから没入感がヤバすぎる』『優しくお願いしますぅ……』

 

「それじゃあ~まずは~お耳を綺麗にしていきましょうか~水で程よく濡らした絹で~優しく耳のふちから綺麗にしていきますね~」

 

「ひうう、んんー!」

 

「だめですよ狐稲利さ~ん耳かきが始まって動いたら危ないですからね~」

 

 耳元に近づいてささやいているので自然といつも以上のゆったりした口調になってしまいます。狐稲利さんはその感覚がこそばゆいと身じろぎしますが、それを許してしまうとこの後の耳かきが危ないのでしっかり注意します。

 

「さて~本番の耳かきにいきますよ~」

 

 覚悟してください~狐稲利さん~あと移住者さん~。

 

 

 

 

 

「それでは~最初はやさし~く」

 

「んんっ……!」

 

「時折こりこり、っと~」

 

「ひいんっ!」

 

「こう、ぐるりと耳かきを回したり~」

 

「あ、あんっ」

 

「仕上げは尻尾のふさふさで~」

 

「あひゃ、ひゃ、ひゃあん~~!」

 

 

 

 

 

 

 結局あの後、すさまじくうにゃうにゃ言い出した狐稲利さんは、反対の耳に移行する途中脱兎のごとく逃げ出してしまいました。

 私が耳かきを置いてもうしないからと説得するまでずっと部屋の隅にいたのは少し可愛い……いえ、さすがにかわいそうだったのでそこで終了となりました。

 

『まだ左耳だけジンジンしてる感じあるんだけど……』『わんころちゃんのおててが俺の耳を触って……おうふ……』『わんころちゃんの吐息だけじゃなくて狐稲利ちゃんの吐息まで聞こえて来て心臓ないなった』『吐息というかあれはあえぎ……』『それ以上言うな……狐稲利ちゃん顔真っ赤にして手で覆い隠してるだろ』『一応教育?は成功ということでいいのか?』『俺たちまでわんころちゃんに教育されたぜ……』

 

「んふふ~ちょっとやりすぎましたかね~?」

 

「んう~~ひどい~おかーさひどい~」

 

「あはは~すみません~」

 

 弱々しくこちらを不満そうに見つめる狐稲利さんの頭を撫でながらご機嫌をとります。最初は私がいつものようにその頭を撫でようとすると先ほどのゾワゾワした感覚を思い出して複雑そうな顔をしていた狐稲利さんですが私が手を置き、そのさらさらとした髪を優しく撫でると、とたんに気持ちよさそうに目を細め、身をゆだねてきました。

 

「もうやっちゃだめですよ~」

 

「うん~わかった~」

 

『不思議と心穏やかになるぅ……』『仕事の疲れが解けていくようだ』『このアーカイブ聞きながら寝るわ!!』『ぜひぜひ次回は両耳フルバージョンでやってほしい!!』『耳かきもいいけどマッサージとかもオナシャス!』『ここぞとばかりに注文する移住者達』『癒しが欲しいんじゃよ……』『夏休みも終わっちゃったしなー』

 

「ん~?移住者さんはもっと癒されたいのです~?」

 

 既に夏季休暇も終わってかなり経ちますし、お仕事が大変な社会人の方は癒しを求めておられるのでしょうか?

 なるほど……癒しの空間、そんな場所を創ってもいいかもしれませんね。

 夏も過ぎて、これから寒くなることを考えれば、体が温まってリラックスできる癒しの空間……。

 

「……んふふ~次に実装するものを決めました~」

 

 やっぱり寒い時期と言えば温かいお湯に浸かってゆっくりと紅葉や雪化粧を見るのが一番の娯楽で、癒しですもんね~。

 


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