転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
皆さんこんにちは~わんこーろですよ~。今私は炊事場でお芋を洗っている最中です~。
そう、お芋です。紫色の皮が特徴的なサツマイモと呼ばれているお芋さんですね。これも畑で育てているものなのですが、今の季節が丁度収穫時期でして、本当なら配信で移住者さんと収穫配信をしたかったのですが狐稲利さんがどうしてもと言うので、とりあえず試しに四つほど大きめのサツマイモを掘り返してみたのです。
「んふふ~たき火で焼き芋ですか~狐稲利さんも乙な事考えますね~……いや、移住者さんかな~?」
移住者さんも狐稲利さんも前回の大型コラボから食に関する知識を貪欲に求めているように感じます。
新しい料理についての情報もそうですが、かつて存在していたレシピを探し出そうとされてる方もかなりおられる様子です。
狐稲利さんも料理について調べた時に焼き芋についての知識を得たのか、はたまた移住者さんが狐稲利さんに教えたのか、そのどちらかでしょうね。
そういえば前に狐稲利さんが三つの秋が~と言っていましたね……これは食欲の秋、でしょうか?
「おかーさー!!」
「はいはい~今行きますよ~」
焼き芋の為に落ち葉を集めていた狐稲利さんが元気の良い声で私を呼んでくれます。どうやらわちるさんとナートさんが到着したみたいですね。あの子達の検診ついでにお二人にも焼き芋を味見して頂きましょう。
「ではみなさ~ん、横に並んでくださ~い」
私と向かい合う形で左から狐稲利さん、わちるさん、ナートさんの順番で畳に座って頂いています。狐稲利さんは女の子座りで膝の上にタヌキのよーりさんが、わちるさんは正座でその上にカラスのヨルさんが、ナートさんは胡坐でその中にキツネのナナさんが丸まっています。
「それでは~検診の方、始めさせて頂きますね~」
さてさて今回皆さんにわざわざ犬守村まで来ていただいた本題へ入らせてもらいましょう。もちろん焼き芋の為に呼んだわけではありませんよ!
私が検診と称して行っているのは現在犬守村出身の生物の中でも特殊な存在、"特異点"とも呼ぶべき三匹の状態を詳しく視るためなのです。
本来この子たちは犬守村で生まれた存在で、その体は犬守村で活動することを前提として最適化されています。
ですが、この子たちはその前提から外れた子たちなのです。
よーりさんは幽世を介した魂のループから抜け出し、ヨルさんとナナさんは犬守村の外で活動することを選択しました。
それ故に何か問題が起きないかを逐一確認して、この子たちと、その飼い主の安全を確認する必要があるのです。
「じゃあ狐稲利さん~よーりさんをこちらに~」
「うん~! よろしくおねがいします~」
狐稲利さんの膝の上で眠っていたよーりさんを無造作に持ち上げる狐稲利さん。自身の両手でよーりさんの両手を掴む、まるでバンザイしている状態で持ち上げられているよーりさんを慌てて回収します。
少し動物の持ち方というものを教えないといけないかもしれません……。
ですが当のよーりさんは特に気にした様子もなく、私がおとなしくしててねと口にするとしっかり言うことを聞いてくれます。
タヌキのよーりさんは自力で魂の循環による記憶の初期化を拒み、狐稲利さんの元に帰ってきたタフな子だ。前世分の経験値をそのままに転生しているものだから、知識やそれを使うための知恵はかなりのものだろう。
いつかはその名前の通り、化けたりするかもしれません。
「ふむふむ~どこも異常はありませんね~うん、もういいですよ~」
「ありがとおかーさ! よかったね~よーり~」
「では次は~ヨルさんをお願いします~」
「は、はい! よろしくお願いしますわんこーろさん」
カラスの姿をしたヨイヤミさんであるヨルさんはこの三体の中でも最も強い自我を備えているようです。ヨイヤミさんという、この空間の防衛を担う存在でありながら自らの意思でわちるさんについていくことを決意したのですから。
自身が抜けた後の事も考えてしっかりと他のヨイヤミさんとの情報共有という名の引継ぎを行っていたのには驚きましたが、それほどまでにわちるさんに興味を持ち、彼女の傍にいることを決意したその心は確固たるものとしてそこに存在しているということでしょうか。
「ふむふむ……問題はなさそうですね~……ところでわちるさん、ヨルさんはお役に立っていますか~? この子は本来防衛特化の能力を持ったヨイヤミさんなので~推進室のお仕事にも積極的に参加させてあげて欲しいです~この子も、もっと役に立ちたい~と言っていますよ~?」
「ほ、本当ですか! 私としては今でも十分助かっているんですけど……」
「この子ならネットの深部にまでダイブしてもわちるさんに傷一つ負わせません~……と、本人が言ってます~」
「本人……? え、えと、あまり無理はさせたくないので……でも、これからも頼りにさせてもらうね? ヨル」
ヨルさんはそんなわちるさんの声に応じるように一鳴きすると、私の手からわちるさんの肩へと飛び移り、懐くようにそのくちばしをわちるさんにすりすりと擦り付けています。
「さて~それでは最後にナートさん~ナナさんをこちらに~」
「うん! ほらナナー全部診てもらうんだぞーって、ちょ、暴れんな! 痛っ!?」
おやおや、ナートさんがナナさんを持ち上げようと手を伸ばすとその指先にナナさんが噛みつきました。ナナさんはどうやら遊んでもらっているつもりのようで、ナートさんの手をかいくぐりながらその指をカミカミしまくってます。
「イタッ、痛い!! マジの力で噛むなよ!? いった!?」
「あははーなーとよわいー」
「ナートお姉ちゃん、と、とにかく落ち着いてください」
「ん~仕方ないですね~"ナナさん"」
私が名前を呼ぶとナナさんは少しビクッと体を震わせたあと、さっきまでのわんぱくさが嘘のように静かになりました。
元気なのは良い事ですけど、これではいつまでたっても検診が終わらないので、少し注意しておかないといけません。
「ナートさんのご迷惑になってはいけませんよ~? ナナさんの生みの親として私も責任がありますので~」
まるで稲荷神社にあるお稲荷さんの石像のごとく、姿勢正しくこちらの話を聞くナナさん。分かりましたか? と私が尋ねると、ものすごい勢いで首を縦に振ります。
「……わ、笑いながら怒ってるわんこーろさん久しぶりに見ました……」
「……わんころちゃんの背後に鬼が見えるよぅ……」
……何かわちるさんとナートさんがとても失礼なことを考えているような気がしますが、突っ込むと藪蛇になりそうなのでスルーです。
「んん! さて、それではナナさんの検診始めますよ!!」
ナナさんの状態を確かめている間、ナナさんは微動だにせず、私が軽くその頭に触れるとビクビク震えています。
んん? ちょっと注意しただけのつもりだったのですが……。
……。
……おとなしくしてくれるなら、まあ、いいでしょう。あまり深く考えない方がいいと私の第六感が告げています。ええ、そうです。怖がられてるなんてそんなはずがありません。
そんなはず無いったら無いんです!
ちょっとしたハプニングはありましたがあの後無事に検診は終了し、三匹とも異常なしな結果となりました。
そのまま帰るのもなんなので、わちるさんとナートさんを神社の正面、暖かなたき火の前へとご案内。
たき火では、ぱちぱちと落ち葉が音を立てて燃えていきます。
狐稲利さんが集めた犬守神社境内の落ち葉はちょっとした小山になり、焼き芋を作るには十分な火になってくれました。
その中にまるまると大きなサツマイモを四つ投入し、焼き上がるまでしばし雑談の時間です。
「いやーそれにしてもここってホントに見るたびに景色が変わるよねーわんころちゃんの配信見てるけど、どんどん葉っぱの色が変わったり、雲の形が変わったりして面白いよねー」
「犬守村は今、秋ということになるんですか?」
「ええ~そうですよ~現実では何か秋にまつわる催し物などは復活してます~?」
「ぜーんぜん。わんころちゃんが教えてくれたものがちょっと流行ってるくらいかな。まだ先だけどハロウィン? てやつとか」
なるほど、情報としてはいろいろ復興し始めているようですけど、実行するとなるとまだハードルは高いようですね。ですがネット内だけでも盛り上がって話題となれば現実で復活する可能性はあります。現実に生きる方々は非効率なものを捨てたのでなく、なくしただけで、興味がない訳では無いのです。
それは夏の大型コラボが証明していますから。
そんなことを考えている私の隣で狐稲利さんが何やらうんうんと唸っています。しばらくそうしていると、何かを思い出したように目を輝かせ、わちるさんとナートさんに向き直ります。
「催し物! ばーちゃる、りんく、ふぇす!」
「ああ~そういえば~わちるさんとナートさんもメインで参加されるんですよね~?」
そうですそうです! 近々行われるリアルイベントと言えばそれがありました! FSさんが主軸となって様々な催し物を開催する大規模イベント。私も参加予定なのに、うっかりしてました。
「はい! 会場で最新のゲームを用いたリアルタイム実況配信とか、参加者を募っての対戦ゲーム実況なんかをするって室長から聞いてます……あと、歌を歌う、とか……」
「ほ~! 歌ですか~わちるさんの声は綺麗ですから~それは楽しみですね~」
「う……わんこーろさんの期待の眼差し……うう、初配信のとき以上のプレッシャーが……」
わちるさんが深刻そうに俯くなか、逆にナートさんは唇を尖らせて何やら怒っている様子。
「そーなんだよ! わんころちゃん聞いてよ! 歌はムリ! って言ってるのに今年もステージに立たされて歌えって室長に強制されて!」
「ナートお姉ちゃんはまだいいじゃないですか! 私なんてFSに加入してからまだ半年も経ってないんですよ!」
「歌下手で毎回弄られてるわたしよりましだよぅ!!」
わちるさんとナートさんがうなだれながらも言い合っている様子をしり目に、よーり、ヨル、ナナの三匹は縁側の傍で仲良く遊んでいます。
故郷である犬守村に帰ってきたヨルさんとナナさんは地面の感触を確かめたり、空気の匂いを確かめるように鼻をならしたりしながら周囲を伺っているようでした。よーりさんはそんな二体から一歩引いた位置にいますが、離れようとはしていないので決して二匹が煩わしいとは思っていないようです。
まあ、よーりさんは比較的おとなしくておっとりした性格のようなので他の二匹ほどアクティブに遊ぼうとはしないようです。
「歌、ステージですか~まるでアイドルみたいですね~」
わちるさんとナートさんは歌の練習が大変とか、当日の打ち合わせで覚えることがいっぱいだとか、そんなことをお話しされます。
ですが、語る二人の顔は悲痛なものでは無く、逆に楽しみなイベントにワクワクしているように私には見えました。
「んー! おかーさ! もういい感じだよー」
「はいはい、それじゃあ取り出してみましょうか~」
電子生命体の完璧な体内時計を用いた完璧な焼き加減を見極めた狐稲利さんに急かされ、落ち葉の中のサツマイモを取り出しにかかります。……まあ、私もそれで美味しい焼き芋ができるなら電子生命体のハイスペックを存分に利用するとは思いますけど……。
「あれ? なんだかいい匂いがしますね~」
「なになにー? また新しい食べ物作ってんのー?」
焼いた芋のほんのり甘い香りがわちるさんとナートさんの元へ届き、二人を此方に引き寄せます。
「んふふ~お二人の分もちゃんと焼いてますよ~」
枝の先で突き刺したサツマイモは焼けて真っ黒になっていますが、少し皮をむけば黄金色でホクホクな中身が顔を覗かせます。
先ほどまでほのかに漂っていた甘い香りですが焼き芋を二つに割ったとたん湯気と共に焼き芋特有のかぐわしい濃い香りが漂います。
「はいわちるー食欲のあきをどーぞー」
「狐稲利さんありがとうございます! あつつ!」
「はいなーとも、食欲のあきをどぞー」
「ちょ、狐稲利ちゃん、顔近いって……熱っ!? あつい!? 狐稲利ちゃん! ちゃんと受け取るから直接食べさせようとしないでぇ!?」
二人は予想以上の熱さに四苦八苦しながら焼き芋を口に入れてその味を確かめています。シンプルですがそのおいしさは二人の幸せそうな笑顔を見ていれば間違いなさそうです。
安堵と共に私も焼きたてのお芋をぱくり。
燃え残るたき火と熱々な焼き芋が体の中と外を温め、肌寒い空気を連れてくる秋風もなんのその。
うん、甘くてとっても美味しい。確かにこれは"食欲の秋"ですね。