転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
「まったく~移住者さんはとんでもないですよ~」
結局あの後配信は予定よりも早く終わらせてしまいました。あれだけ言ったのに絵馬全色コンプリート勢が大量に出現したり、通常コメントの代わりに絵馬のメッセージでずっとコメント投稿したりとやりたい放題で移住者の財布がヤバい事になりそうだったので。
配信はいつものんびり私のペースですればいいや、という気持ちで行っているので、投げ銭など配信サイトの機能についてあまり気にしたことが無かったのですが、今回はそんなことを言っているわけにはいきません。
少なくともお金を頂いている以上キッチリとしておくべきだと考えています。
なので一度、投げ銭機能の利用について先輩であるFSさんにご相談したのですが。
【もらえるもんはもらっとけ】とか【さすがわんこーろさんですね!あ、私もあの時赤絵馬投げました!】とか【わんころちゃん。お金はね、絞れるだけしぼるんだよ?】などとあまり参考にならない意見ばかりでした……。
「でもーおかーさ楽しそうだったー」
「う、それはまあ~皆さんにそれだけ認めて頂いているという訳ですから~」
収益化解禁しないの? と言って下さる移住者さんがおられる以上、多少は期待していた部分は当然あります。
ですがさすがにあそこまでとは私も予想していなかったのです。私の創ってきた犬守村という存在が、お金を払っても良いと思われるだけのものと判断された。
その事実に私は嬉しさでいっぱいで、思わず配信中ずっとにこにこしっぱなしでした。
……投げ銭である絵馬が降りしきる中、良い笑顔な私……。
「……お金いっぱいで笑顔だと思われてないかな~~……?」
さすがに現金にニコニコしてるなんて思われるのは心外ですよ?
だ、大丈夫ですよね? お金が大好きな犬耳幼女と思われてないですよね!?
そんなことを考えながら私は拡張領域へ一時的に保管していた絵馬を一個一個取り出していきます。
「【いつも楽しく拝見させて頂いています。これからも犬守村開拓頑張ってください!】んふふ~このメッセージだけでこれからも頑張っていこ~って元気が出てきちゃいますね~」
「おかーさこれ見てー! 【わんころちゃんの配信を見て、初めて料理をしました!これからも毎日自炊します!】だって!」
「おお~! このメッセージは嬉しいですね~ええと、どなたが下さったのかな~……か、【環研ニキ】さん……」
お、おおう……環研ニキさん……お仕事で忙しい上に料理まで……というか投げ銭まで頂いて……。
ん? ……ちょっと待ってください、これ傍から見たら私って環研ニキさんに過労死まっしぐらな量の研究資料を送り付けた上に投げ銭というお金まで貢がせている、という事ですか……?
……、……ごめんなさい環研ニキさん!! え~と、え~と、あ! あった!! 探したら環研ニキさんの投げ銭の投稿アカウントからメイクアカウント見つかりましたよ! とにかくフォローして、何か問題があるようなら私が全力でお手伝いしますとメッセージを送っておきましょう!
これで大丈夫!
……。
……いや、ほんとごめんなさい。
さて、そんな感じで頂いた投げ銭もとい、絵馬を確認しながら私と狐稲利さんは何をやっているのかというと、頂いた絵馬を実際に奉納、つまり神社に飾っております。
札置神社という名前から察せる通り、元々この神社は投げ銭として頂いた絵馬をたくさん奉納するための神社として造ったのです。神社の境内のあちらこちらに結ばれている朱色の紐は絵馬を結び付けるために用意したものという訳です。
玉垣に結ばれた紐すべてに絵馬を結び終えると、いくつもの絵馬が風に揺れて互いにからん、からんと小気味よい音を鳴らしてくれます。道を進みながら飾られたいくつもの絵馬が揺れ動く光景はなかなか美しく神秘的です。絵馬の色の鮮やかさも思っていた以上に神社の風景と合っていて違和感はありません。
単色の明るい色は悪目立ちすると思って静かな自然の風景とマッチするようにできるだけ明度を下げて落ち着いた色合いにしたのも良かったかもしれません。
「うう~ん、絵馬をいただくのは本当にありがたい、のですが~」
「いっぱいー飾る場所ないー?」
そうなんです。これでも札置神社は本殿を中心に"札置の迷い路"なんていう名前を付けるくらいにはかなり広大な土地が用意されており、その範囲にある玉垣や鳥居などにはもれなく絵馬を飾れるように朱色の紐が取り付けられているわけですが、なんとその全範囲の場所に絵馬を結び付けてもまだまだ飾り終えていない絵馬がたくさんあるのです。
「今まで飾り終えた絵馬と~残った絵馬の数を考えると~」
少なくとも札置神社の規模を五割増しにしないといけませんね。
ううむ、やはり移住者さん達の事を甘く見ていたのかもしれません。とにかく次の完全な札置神社のお披露目配信までに迷い路を大幅増築しておきましょう。
さて、次です次。
「おかーさー! いっぱい集まったー!」
「おお~いいかんじですよ狐稲利さん~このままどんどんあつめましょう~」
「はーい!」
ところ変わって現在私と狐稲利さんはわたつみ平原で収穫時期となった綿を摘んでいるところです。狐稲利さんと一緒に籠を背負いながらその中に綿花の柔らかなところをどんどん摘んでいきます。
秋は深まり、その後には寒い季節がやってきます。それまでにこの綿を使ってふかふかであったかな布団を作るのが第一目標です。
それが完了したら綿を糸に加工していろんな服や防寒具を編んでみるのもいいですね~。
「……ん~?」
しばらく狐稲利さんと綿摘みをしていると何やら遠くの平原が不自然に揺れ動いているように見えました。まるで陽炎や蜃気楼のように平原の地面がゆらゆらしている様子が遠くからでも確認することができます。
ですが今の季節は秋、それに晴れているとはいえそこまで日差しは強くなく、陽炎や蜃気楼が発生する条件は満たしておりません。
「なにあれー? ゆらゆら~?」
「おかしいですね~……っ!?」
「わひゃ!?」
私と狐稲利さんがその遠くの光景を不思議そうに伺っていると突然、私達の視線が一段、がくんと下がりました。思わぬことにバランスを崩して地面に手をつくと冷たい感覚が伝わってきました。
水、いえ海です。
「わたつみ平原が……!」
雨が降ったわけでも無く、わたつみ平原が海へと変化しようとしています! 視線が一段下がったのも足元の地面が徐々に海へと変化している為で、その変化はまだ続いています。
「あわわわ~おかーさ!?」
「狐稲利さんは一旦平原から離れて下さいっ私は塩桜神社に!」
これは完全にわたつみ平原の異常です。雨が降ったわけでも無く、降ったとしても一定の雨量や海への変化までの時間的猶予などがあるはずなのに、それらを一切省略して平原が海へと変わろうとしています。
私は狐稲利さんが平原の範囲外へ避難した事を確認してから海と平原の境界を駆け抜け、この平原の中枢であり全体管理を行っている塩桜神社へと急ぎます。恐らく塩桜神社のわたつみ平原と海とを切り替えるシステムに何らかのバグが生じているのでしょう。
「よっと、塩桜神社に到着~さ~て、どれどれ~」
中枢の塩桜神社に管理者権限を用いてアクセスします。中枢内部の切り替えシステムを確認しましたが、やはり海を発生させる条件に不具合が生じているらしく、それが原因でわたつみ平原は海へと変化しようとしているようです。
とにかく過去の
「ええと、ここがこうなって~これがおかしいのかな~? ……バグ発生時のデータは保存しておきましょう~」
これはとりあえずの応急処置になります。なぜバグが発生したのかという根本原因がいまだ不明なので後でゆっくりと原因の調査ができるよう、バグのデータを切り取って、その後にデータを更新しておきます。
すべての作業が終了すると、わたつみ平原から海は無くなり先ほどの静かな平原へと戻りました。
「ふう~驚きましたね~とにかく同じような問題が起こらないように調査しないと~」
神社を後にして平原へと戻ると遠くから狐稲利さんが慌てた様子でこちらに駆けてくるのが見えました。
今回は大した事ありませんでしたけど……なんだかイヤな予感がしますね。早急に今回の不具合対策をしないと。
本作と全く関係のない話ですが、稲作ができるという例のゲームを買いました。
おそらく更新速度はこれ以上低下することはないと思うのでご安心ください。