転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

88 / 257
#86 秋のお祭り準備

「さて~! それではこれから田んぼの稲刈りをやっていきますよ~!」

 

「わーい!」

 

『わーい!』『腰壊れるヤツ~~』『意外と狐稲利ちゃん鎌似合うな』『鎌似合うってなに!?』『そら得物としてよ』『かっこいい……?』『稲を刈り取る――形をしてるだろ?』『?鎌なんだからそれは当たり前では?』『ネタにマジレスいくない』『レス……?』

 

 現在はお昼前の涼しい時間。私と狐稲利さんは良く実ってこうべを垂れている稲穂を刈り取る稲刈り配信を行っているところです。

 たすきで和服の袖部分をたくし上げて結び、刈り取り用の鎌を装備して黄金色の稲の中に入り込みます!

 

「ふ~む、田植えをしていたときはどうなるかと不安でしたが~良い感じに豊作となりましたね~!」

 

 さらさらと風に流れる稲は穂の部分が大きく実り、重さで緩やかなカーブを描いて垂れています。粒の数も大きさもきっと豊作と言っていいくらいの良質が予想されます。

 

『結局試作の米が上手く育たなかったのってなんで?』『恐らく土が原因じゃないかね、本来田植え前に念入りに土づくりをしておかないといけないらしい』『そういやわんころちゃんが時間早めて創った時は土なんて気にしてなかったっけ』『実際に田植えを始めた時は土とかも実際のデータをもとにしっかり作ってたからね』

 

「土の問題もありますけど~時間を早めるとその期間に苗が影響を受けるはずだった気温の変化なども完全に無視されてしまっていたので~それも原因かもです~」

 

 植物にとって気温の変化は季節を察知するために非常に重要な要素です。あと日照時間なども関係あるのですが、それらの外的要因を一切無視して稲だけの時間を早めた事で上手く成長してくれなかったのではないか? と結論付けました。

 実際にこうやって通常の方法で育てた稲は良い感じに成長してくれたわけですしね。

 

 

「おかーさーこれどーするのー?」

 

「おお~狐稲利さんいっぱい刈り取りましたね~」

 

 狐稲利さんは両手いっぱいに刈り取った稲を抱え、にこにこしています。顔に泥や葉っぱなんかが付いているのもお構いなし。まったく、そういうところはまだまだ子供なんですから。

 

「これはですね~こうやって紐で束ねて~天日干ししていくんですよ~」

 

 木材を組んで、まるで物干しざおのようにしたところに束ねた稲を掛けていきます。穂の部分が下になるようにしっかりと乾燥させて、実際に脱穀するのは乾燥させ切ってからになります。

 

「んん~なんだか稲刈りの後って感じでいいですね~」

 

「おかーさー疲れたー」

 

「んふふ~狐稲利さんもお疲れ様です~おかげでだいぶ広範囲の稲刈りを終えることができました~」

 

 さすがに今日だけで今の田んぼすべてを稲刈りするには時間が足りません。後は配信外で刈り取りをしましょう。もし移住者さんから要望があればいつも通り作業垂れ流しの動画としてメイクに上げてもいいですね。

 

『二人ともお疲れ~』『いっぱい休んでもろて』『疲れてそうだけど笑顔w』『心地よい疲労感って感じかな』『稲刈ったあとの田んぼってなんかいいねぇ』『なんかさっぱりしてさみしい気もするけどね』

 

 稲刈り後の田んぼは稲の根元が並んだ土地が広がり、天日干ししている稲がまるで小さな家のように並んでいます。ほのかに枯れ草のような植物の匂いが漂い、そんな中をちらほら現れ始めた赤とんぼが飛んでいます。

 

「それじゃあちょっと休憩しましょうか~」

 

 刈り終わっている稲穂をすべて天日干し用の稲木に掛け終え、今日の作業はおしまい。家に戻ってゆっくりしながら移住者さんとお話する時間にしましょう。

 

 

 

 

 

 

 刈り終えた田んぼを家の縁側で眺めながら、見えませんがその先にあるだろうわたつみ平原の事を考えます。

 先日起こったわたつみ平原のバグですが、結局なぜ発生したのか原因を特定することは出来ませんでした。その問題が発生した時間に、他のエリアで通り雨が降った履歴があったのですが、もしかしたらその通り雨に反応してしまったのかも、というのが今のところ一番考えられる原因です。

 通り雨はここ最近になって実装した現象です。雨自体最近はほとんど降っていなかったので、わたつみ平原の仕様とどのように干渉するのか深く検証していませんでした……。

 

 今後はもっとしっかり実装内容と現在の犬守村の状態を精査して検証していく必要がありそうです。

 

「おかーさー熱いお茶がいいー?」

 

「そうですね~最近涼しくなってきましたし~熱いのでお願いします~」

 

「りょうかいー!」

 

『相変わらず狐稲利ちゃんの返事かわいい』『最近お手伝いも自分からやってくれるようになったんだね』『教えられたことはしっかりと覚えてるし、そこから自発的に動けるのえらい』『俺よりも有能だなぁ……』『いいのいいの、上司の言うことだけ聞いてればいいんだよ……』『変にやる気出して失敗したら目も当てられないしね……』『お、お前ら……』『落ち込むな落ち込むな、ほらわんころちゃんの顔見て元気出せ!』

 

「んふ? なんです~?」

 

 今後の犬守村開発に関して考えていたせいでコメントを見ていなかったのですが、なんだか呼ばれたような気がしたので配信画面に手を振ってコメントの確認を~っと。

 って、なんだか赤い絵馬が降ってきたんですけど!?

 

『手を振るわんころちゃんかわいい!!ありがとうございます!!!!』『これであと十年は社畜続けられる!』『失敗を恐れて挑戦しない者に成功はないですよね!』『チョロイ』『移住者はチョロイのばっかか』『感謝の言葉と一緒に赤絵馬は草』『手を振るだけで5桁¥を貢がせる犬耳幼女』『全盛期のわんこーろ伝説コピペ作るか』

 

「お金は大事に! いや、ありがとうございます~ではあるんですけど、皆さん無理しないで下さいね!?」

 

 移住者さん投げ銭を解禁してから息を吐くように投げるじゃないですか!? さすがにこれはいけないと思って投げ銭オフの配信をしたら『なぜオフにしているのか?』『なぜ投げさせてくれないの……』なんていう、どう反応していいか困るコメントが大量に流れたりしましたし。なぜ、はこっちのセリフですよ。

 

「皆さんが遠慮なく絵馬を奉納していくので~奉納先である札置神社は今パンク状態ですよ~? 前に皆さんにお見せした状態で問題ないと思っていたのに~! 予想以上に絵馬を頂けるので現在札置神社は増築工事の真っただ中なのですよ~!」

 

 予想以上に絵馬が増え続けているので既に今の増築計画が追いついておりません。最悪、札置神社一帯の空間を歪ませて神社の土地を見た目以上に拡張してみようかと考えているほどです。

 

『草』『わんころちゃん困らせるために赤絵馬投げるわ』『もっと困らせてけ~』『マジかあの迷路まだ拡張されんのか……』『あれ以上増築されたら誰も踏破できんぞ』『一種のダンジョンみたくなってるからな』『今後も絵馬投げられるのは確実だし、恐らく神社も延々と増築を繰り返すことだろう』『知らぬ間に広がっていく迷路』『こわ』『絵馬は投げたい……わんころちゃん的には迷惑……?』

 

「迷惑なんてそんな事ありませんよっ! ありがたいのはありがたいのですけど~! あくまでご自身の生活を優先してくださいね! わんこーろも移住者さんが幸せでいる方がうれしいですからっ! ……さ、さて刈った稲はしばらく干しておかないといけないので~今日の配信は此処までにしておきたいと思います~次回は脱穀した新米や、秋の美味しいものを使った"収穫祭"を行おうかと思っているので、どうぞ犬守村へ帰ってきてくださいね~」

 

『お疲れ~』『筋肉痛には気を付けて!』『しっかり汗を流してくださいね』『収穫祭!おいしいものいっぱい!』『また飯テロ回だぁ!』『新米楽しみ~』『秋の味覚か~』『収穫祭!絶対見るわ!』『乙~次回楽しみ~』『おつおつ! いってきます!』

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。