転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#93 犬守写真機

「みなさ~ん~おかえりなさい~犬守村のわんこ~わんこーろですよ~」

 

「むすめの狐稲利だよー」

 

『ただいまー!』『ただいまです』『今日も帰ってきたぜわんころちゃん』『しょっぱな二人一緒に居るのは珍しいね』『なんかメイクで大切なお知らせってあったけど?』『なになに?』

 

 犬守村の天候はイワシ雲が泳ぐ晴天。肌寒い風がぴゅうぴゅうと吹いているのでお外ではなく、家の中のいつもの部屋から配信を始めております。

 

 今日も休日のお昼から犬守村開拓配信を行っている私と狐稲利さんですが、家の中に居る、という事から察せるように、今回のメインは開拓ではなく先日FSさんと一緒に考えたとあるアプリのお披露目となっております。

 

 あの後も何度かFSさんにご相談に乗ってもらい、どんなアプリなら皆さん喜んで下さるかを考え、そして今回ついにみなさんにお見せできる状態にまで持ってこれたわけです。

 

 さて、ではお待たせするのも悪いので早速始めちゃいましょう。

 

 

 

 

 

 お知らせに関しては現在犬守村で発生している小規模なバグについての説明から始めました。

 私でも正確に特定できないバグで、犬守村全体をスキャンして得た情報では判断できない事。

 その為、この目で一つずつバグを確認していかなければいけない事。

 それには私と狐稲利さんだけでは圧倒的に人手が足りない事などを出来るだけ丁寧に説明していきました。

 

 ほとんどの移住者さんは私の説明にある程度納得して下さり、そのバグによって配信を見ている移住者さん側で不具合などが発生しない事も合わせて説明することで、ある程度安心して頂けたかと思います。

 現在バグの発生を確認しているのはこの犬守村の存在する空間に限られており、それ以外の拡張空間や副管理空間などには問題が起こっていないようでした。万が一のことを考えて現在、動画配信サイト等を経由した犬守村への皆さんのアクセスは、私が一から制作し完全に独立した管理空間を経由するように設定してあります。この管理空間にはいくらかのヨイヤミさんを常駐させており、映像データ等、配信の動作に必要な通信以外のデータ転送を感知した場合即座に情報の転送をヨイヤミさんがシャットアウトしてくれるように命令をしてあります。

 ヨイヤミさんが行き来するデータの良し悪しを判断できないならば、そもそも規定以上のデータの流れそのものを阻止するよう命令すればいいというわけです。もちろん完全な力業ではありますが、現状これくらいしか対処方法がないのです。もちろんこの仕組みはこれからお披露目するアプリにも組み込まれています。

 

 

 

 あと、鵺の発生に関しては説明することは止めておきました。

 

 これはFSさんとも相談して決めた事なのですが、あまりにもすべての情報を視聴者さんに公開することが、決して正解とは言えないらしいとの事。

 

 配信者本人からの情報の開示は情報を得るルートが限られている視聴者さんを安心させ、不安を払しょくする為に必要な行為ではありますが、今回のように原因がはっきりしない問題を視聴者さんに公開しても、安心どころか不安しかもたらさない、となこそさんに説明して頂きました。

 

 確かに現状を包み隠さず話したとなると、原因は分からず私や狐稲利さんに危害を加える存在の発生、根本的な対策法が不明という事実は、移住者さんを不安にさせ、心配させる以外の結果をもたらさないでしょう。

 

 そう考え、今回はバグの発生という事実だけを公表することにしたのです。

 

『それってわんころちゃん達は大丈夫なん?』『バグは増えてんの? 悪化してるとかある?』『わんころちゃんも対策出来ないとは……』『俺たちに出来ることとかある?』『人手が足りないって話だよね?』

 

「はい~実は今回移住者の皆さんにお願いしたいことがありまして~配信をさせて頂いたのです~そのお願いとは~わんこーろの開発したアプリをプレイして頂くことなのです~」

 

『アプリ!?』『わんころちゃんアプリ開発もできたんか!』『唐突に電子生命体らしさだすじゃん』『でもなんでいきなり?』『なんのアプリ? ゲームアプリかなんか?』

 

 皆さん興味津々なご様子。ですが口で説明するよりは見て頂いた方が早いでしょう。私は配信画面の端の方にウィンドウを表示させ、移住者さんにお見せします。

 

「今は配信画面に映し出しておりますが~実際は携帯端末用のアプリとなっておりますので~そのつもりでご覧ください~」

 

 最初、真っ白だったゲームウィンドウですが、徐々に文字が浮かび上がってきます。ウィンドウ中央部に<犬守写真機>と表示され、その下に<覗き込む>という選択肢が現れます。

 

『犬守写真機?』『アプリの名前かな?』『覗き込むって何?』『なんだか作りはシンプルだな』『まだ何をするアプリなのかわからんな』

 

「んふふ~これはですね~言ってしまえば犬守村を探索するゲームアプリです~」

 

『えっ!』『ほ?』『マ!?』『探索!?探索ゲー!?犬守村を!?』『まさかの犬守村ゲーム化!?』『ど、どういう事なの!?』

 

「ではゲームを始めていきますよ~<覗き込む>をタップすると始まります~」

 

 真っ白な背景はタップすると霧が晴れるように画面の視界が晴れていきます。

 そして映し出されたのは、紅葉降りしきる屋根付き橋の上。

 

「ふむふむ~初期位置はランダムにしたのですが~なかなか良いところから始まりましたね~」

 

 このアプリ、犬守写真機(いぬかみかめら)は犬守村の全てのエリアを探索することができる探索ゲームアプリとなっております。

 アプリの説明という名のフレーバーテキストはこうです。

 

 "犬守村と呼ばれる場所に迷い込んでしまった移住者(あなた)は、そこに住まう不思議な少女に小さな『かめら』を渡されます。あなたは少女から受け取った犬守写真機と呼ばれたそれを使って、このせかいの美しさを写し取ってきてほしいとお願いされました。春の花、夏の雨、秋の空、冬の山、いろんな景色を写し取り、少女の願いを叶えてあげましょう"

 

 とまあ、こんな感じです。アプリを配布するにしてもアプリストアなどを通さないと安全性を疑われるだろうと思い、ストアに登録したのですが、その際に私の事を知らずに興味本位でアプリをダウンロードされる方もおられるかと思い、このような説明文らしいものをくっつけてアプリストアに登録したのです。

 

 移住者さんの持つ携帯端末を『かめら』に例え、そのカメラから犬守村の光景を覗き込んでいる、という設定ですね。

 

『うおおおおお!?』『携帯端末版犬守村きちゃ!!!』『画質もなかなかっぽいな』『紅葉の落葉具合とか滑らかすぎて携帯の充電が心配すなぁ』『携帯アッツアツになるやつや!』『ついに移住者がいつでも犬守村に帰ってこれるようになった……!』

 

「犬守村の描写はあくまで犬守村側で処理しておりますので~それほどあっつあつ~にはならないと思います~ただ~通信回線は良いものの方が快適かと思います~」

 

『全然カクついてないのな』『実機でもこの滑らかさで遊べるのか!?』『情報処理はわんころちゃん持ちか。犬守村にあるカメラを現実の携帯端末でリモート操作するイメージかね?』『←こちらの端末でやることは映像出力だけってわけか』『塔から地下に張り巡らされてる通信網のおかげで回線の方は問題ないだろうな』

 

「では~次にこの犬守写真機の遊び方について説明させて頂きます~。と言っても、それほどゲーム性は濃くありません~。のんびり~ゆっくり~犬守村を見て回ってもらって~「あ、これいいな~」とか、「これ珍しいな~」と思ったものを見つけたら~この画面左端にある丸いボタンをタップしてもらうと~」

 

 一瞬画面が暗転し、カシャリ、という音が聞こえます。

 

「これで写真を保存できます~撮影した写真は画面下の本の形をしたマークをタップして頂くといつでも確認することができます~」

 

『ふむふむ』『なるほど、犬守村を撮影し放題というわけですな』『写真の最大保存枚数が[--]って表示されてますが……』『あと撮影した写真のスミに書かれてる数字って何?』

 

「最大保存枚数ですが~これは皆さんの携帯端末依存という意味ですね~端末の容量が多ければ多いほど保存枚数の上限も上がります~。あと、写真の数字ですが~それは写魅(うつしみ)ぽいんとです~」

 

『写魅?』『現身じゃなくて?』『写真にポイントがあるの?』『評価ポイント的なヤツか』『わんころちゃん説明ぷりーず』

 

「りょうかいです~。皆さんは写真機というものが初めてこの国にやってきた頃、どのような存在とされていたかご存知ですか~? かつて写真機は、写したものの魂を抜きとる、なんて言われていたんですよ~。この写魅ポイントとはいわば、その写真に写り込んだ、魂を数値化したようなものと思っていただければ~~まあ、簡単に言っちゃうと珍しい動物や風景、自然現象などを撮影して頂くと~通常の写真よりも高い写魅ポイントを得ることができるという仕組みです~あと、バグと思われるものを撮影して頂くと別途追加の写魅ポイントを進呈いたします~」

 

『よし探すか』『楽しくバグを見つけよう! ってことですねw』『われら移住者兼デバッガー』『ひとつ残らず見つけてやんよ!』

 

 この部分がこのアプリにおけるもっとも重要なシステムになります。

 バグは犬守村全体の変化、つまりは"成長"と見分けがつかず、現地で確かめるしかありません。その確かめる作業を移住者さんに任せ、私達は見つけて頂いた(さつえいされた)バグを即時修正していく、という具合に動いていく、と移住者さんに説明していきます。

 

「写魅ポイントはゲーム内のガチャに利用できます~ガチャで消費しても累計ポイントは記録され続けておりまして~今後累計ポイントのランキングなんかも設置しようかと考えています~」

 

 

 バグの修正と、私の新しい試みとして開発したこの犬守写真機ですが、移住者さん達にはかねがね好評のようです。ガチャによるゲームの優劣はほとんど無く、ランキングによる報酬なども特に設置する予定ではないので、写魅ポイントは本当についでで付けた要素になっていますね。

 

 移住者さんの大半はそれよりも犬守村をいつでもどこでも探索することができるという点が魅力的に映ったようで、無料で配布する予定だと言うとほとんどの移住者さんはダウンロードしてみると言ってくださいました。

 

 ちらほら『無料で配布していいレベルじゃねえぞ!?』なんてコメントが流れますが、このアプリをアプリストアに登録するためのお金は移住者さんからの絵馬の奉納料から出ていますので、遠慮せず遊んでほしいですね。

 

 あ、そうです。ついでにゲームの権利関係についてストアに記載しておきましょう。

 

 "このゲームを利用した動画等の制作物を共有サイトに投稿および実況それに伴う収益化に関して、著作権侵害を主張しません"

 

 これでよし。まあ、実況してくださる配信者の方がおられるかは分かりませんが、これで興味を持ってくださる方が増えるといいですね~。

 

 


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