転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#95 火遊治神社

「つまりです、私は別にお風呂嫌いという訳では無いのですよ~」

 

『そうなの?』『ちょっと意外かな、尻尾とか乾かすの大変そうだし』『お風呂上がりのさっぱりわんころちゃんは見た事あるけど、濡れてへにゃへにゃになってるのは見たこと無いな』『あれ?前にへにゃへにゃになってなかったっけ?』『犬守山に川を造った時だな、移住者にはその後の濡れわんころしか記憶にないだろうけど』『画面に映ってなかったけど裸になって服乾かしてたんだよな』『おkそれ聞いてアーカイブ視聴決定した』

 

 現在私は一人で先日生み出した火山の麓にやってきております。火山の活動は一旦落ち着いたようで、流れ出た溶岩もほとんどが固まり、あたりは岩石と黒く焼けた木々の跡が残るだけとなっております。

 本当は狐稲利さんと一緒の予定だったのですが、今後予定している読み聞かせ配信の準備をしたいとの事でしたので、私だけの配信となっております。

 まあそれだけでなく、火山の核を落としちゃった事で少し後ろめたさがあって火山に近づきたくないという思いもありそうです。

 移住者さんにあの時のことを怒られるのでは、と。

 

『狐稲利ちゃんのあのてへぺろ顔はかわいすぎ』『あの笑顔で俺のハートに火がついた』『それはマグマで発火しただけでは』『b<アイルビーバック』『もう帰ってこなくてもいいよ^^』『辛辣すぎだろ!』『狐稲利ちゃんの可愛さに気付くのが一億万年遅いんだよ!!』

 

 まあ、そんなに気にしなくても良さそうですけどねぇ……。

 

 

 そんな焼けた跡を移住者さんと雑談しながら進んでいるのですが、どうも移住者さんの中には私はお風呂が嫌いなのでは? それなのに温泉造るの? と思っておられる方もいるようでそれに関して少しお話をしておりました。

 私がわんこな姿である事や、夏の大型コラボの際にわちるさんに抱きかかえられて風呂場に連行された場面だけを見た視聴者さんがそのように誤解してしまったようです。

 

 実際の私はお風呂は大好きです。電子生命体として生まれる前は毎日お風呂に入っておりましたし、電子生命体になってからは、最初はともかく風呂場を造ってからは毎日入っています。

 犬守村開拓や畑仕事など体が汚れることも多くなりましたし、最近は寒くなってきましたから体を暖める意味でもお風呂はとても重要です。

 

 今回造る予定の温泉も狐稲利さんと一緒に飽きるほど入りまくってやろうなどと考えています。

 

「! おおっと~歩く場所は気を付けないといけませんね~」

 

 周辺の様子を確認しながら火山を登っているのですが、時折岩の隙間から白い蒸気が吹き上がることがあります。

 熱せられた空気と水が勢いよく上空へと立ち昇る様子は壮観ではありますが、同時にやけどしないように注意しないといけませんね。火山を造った時はあらかじめ熱の遮断をしていたのですが……そういえば今はそんな事していませんでした。

 

『あぶなっ!』『熱遮断してもろて……』『やけど注意よ~』『あまり近づくと危険だな』『間欠泉の場所は覚えといた方がいいね』『後で囲いでも作っといた方がいい』

 

「温泉街と一緒にそこらも整備しておきましょうかね~」

 

 北上山地はブナの原生林をはじめとした大規模な森林地帯となっており、地下には雨水がため込まれ、その水脈は山地全体を覆っております。

 当然火山の生成された地帯にも地下水脈は存在し、熱せられた地下水は間欠泉として地上に勢いよく吹き出したりします。

 その勢いと高温すぎる事から、ここらの間欠泉自体は温泉としては利用できなさそうです。ものによっては高温による火傷だけでなく、お湯に溶け込んだ成分の濃さによって危険な場合もありますからよくよく泉質を吟味して、よさそうな場所を見つけて温泉街を造りたいですね。

 

「よっと、もうちょっとで山頂ですよ~」

 

 山道のごろごろした岩石の上を跳びながら登っていくと、頂上の目印が徐々に見えてきます。

 それは灰色をした大きな石の鳥居でした。表面はなめらかに加工され、白い紙垂が火山からの熱によって発生した風にゆらゆらと揺れています。

 

 日の光が当たった鳥居の表面がちかちかと細かい光を反射させます。これは鳥居に使われている石材にガラス質の微小な結晶が含まれていることが要因です。というのも、この鳥居は冷え固まった火山岩を加工して作ったものだからです。

 

 前回タカチ峡から取り除いた石柱を利用したものなのですが、当初は木製の大鳥居にする予定でした。

 ですが、そうすると火山の熱で燃える可能性があるのでは? と考え直し、このような石の大鳥居になった経緯があります。

 

 火山の頂上にある鳥居をくぐると、いまだ白い蒸気とガスを噴出し続ける火口が見えます。全体としては既に冷えて固まっている様子ですが、ところどころ溶岩やガスが吹き上がる場所がぽつぽつと確認できます。

 上空まで高温の灰や噴石を吹き出すような個所は紙垂の垂れた太い柱によって封印してあり、火口にはそのような柱がいくつも突き刺さってあります。

 

 そんな光景の中でも特に目が行くのは火口の中央に存在するもの。太い柱がいくつも束ねられ、その上に小さな社が建ててあります。

 

『すげー絶景!!』『溶岩や蒸気が吹き上がる光景は迫力やばい!』『犬守写真機じゃまだ火口まで行けないけど、こうなってるのか』『早く撮影したいなぁ』『しかし溶岩なんかのボコボコいう音は聞こえるけどかなり静かだな』『高所なうえ活火山だから動物が寄り付かないからかね』『それもあるけど、なんだか神聖な感じが…』『それ分かる。犬守村は全部珍しいものばっかで新鮮だけど、ここはなんというか……危険って意味以外の近づきがたい雰囲気がある』

 

「火山というものはですね~その噴火の様子から昔は神様が怒っているのだと思われていたわけですね~その怒りを鎮めるために~神社を造り、祀られていたという事も少なくありませんでした~元々大きな山や大きな湖など神秘的な光景には神様が宿ると言われており~その地域では多くの神社が存在していたのですよ~」

 

 とはいえこのような危険な場所に神社が存在していても参拝できる人は限られるわけです。なので、この火山山頂にあるのは"奥宮(おくみや)"。

 

 気軽に参拝できる社殿は火山の麓の温泉街の中にあります。温泉街はまだ建設前なのですが、この火山と温泉街の中枢となる神社だけは、すでに造ってあるのです。

 

 

 さて、火山山頂がどうなっているのか見て頂いたので早々に下山することとしましょう。溶岩の噴出は収まっても、この火山は活火山として大変危険、長居は無用です。

 まあ私は溶岩の中に落ちても問題ないのですが、視聴者さんにトラウマを植え付けてしまう訳にはいきませんので。

 

 

 

 

 

 

 

「は~い皆さん~こちらが温泉街の~予定地になっております~」

 

 場所は変わり火山の麓までやってきました。この辺りは溶岩の流出によって地形が大きく変化しております。

 特徴的なのは常に湯気を立ち昇らせる池の存在でしょう。池といってもまるで大きな落とし穴のような窪みの中が池となっているようで、恐らく流れた溶岩が冷え固まる際に溶岩内に含まれていた気泡部分が崩落、このような穴となったのだと思います。

 池の水は火山によって温められお湯になり、僅かに乳白色に色を付け地表へと姿を見せていて、まさに温泉そのものといった具合です。

 

 とはいえ泉質や温度の関係で入浴できるかは微妙なところ。

 

「この池をぐるりと囲むように~温泉街を整備していきますよ~」

 

 とはいえこの池自体は非常に大きく目立つので、此処を中心として温泉街を造っていくことにしました。

 

「温泉街についてはまた移住者の皆さんとお話ししながら造っていきましょう~土地の広さとか~どんな構造のお宿を造るかなど~いっぱい相談することはあります~。それではもうちょっと先に進んでいきますよ~」

 

『どんなんがいいかなー』『やっぱ雰囲気重視で!』『ひっそりと存在している秘境的なものも良い……』『←いいな!隠れ宿って感じか!』『バリバリ観光地って感じでもいいかも。温泉だけじゃなくていろんな名所があったり』

 

 温泉街はその土地によってさまざまな姿があります。日本の古き良き旅館が立ち並ぶ場所や、モダンな建物が密集している場所など、そのどれもが風情があり、観光地としても人気があった場所たちです。

 

 温泉街については犬守村全体との雰囲気を一致させるために旅館のある風景を主軸として造っていってもいいですし、異国情緒を沸き立たせるためにモダンな建物をメインとしても面白そうです。

 それらについても移住者さんと一緒に考えていけたらいいですね。

 

「さてさて~それでは先ほど移住者さんに見て頂いた奥宮の、参拝できる社殿の方をご覧いただきますね~」

 

 温泉街予定地をさらに奥に進んでいくと紅葉した木々のあいだに広大な広場が現れます。玉砂利によって綺麗に整備された土地の前に朱色に塗られた立派な神門が構えられ、そこをくぐるとこれまた立派な社が壮観な姿を見せてくれます。

 拝殿、本殿、共に鮮やかな朱色で存在感を示し、けれど決して悪目立ちしない静々とした雰囲気の中、丁寧に手入れされた桜の木々がその光景を寒々しいものにまで落ち込ませないにぎやかさを主張しているようでした。

 

 まあ、今は秋なので桜自体は咲いていないのですが、春になれば美しい桜の姿を拝むことができるでしょう。

 

『ほうほう、ここもいい感じの神社だね』『春はここで花見とか出来るかな』『温泉入って花見か!最高だな』『ところでわんころちゃんこの神社のお名前はどのように?』

 

「ここはですね~火山を鎮めるために造営された神社、という設定でして~名前は~"火遊治神社(ひゆじじんじゃ)"と名付けました~」

 

 火は勿論火山の事で、遊は温泉街を意味しています。温泉街を漫遊してもらう、とか外遊、遊覧するという感じですね。治は温泉で疲れを癒すという思いを込めて、すべて合わせて火遊治神社としました。あとは火山の近くの湯屋だからひゆやという意味も含めております。

 

「合わせて火山の名前を~火遊治火山として~温泉街の名前もとりあえず火遊治温泉としました~」

 

 いつまでも火山、火山と呼んでいても味気ないですし名前があった方が移住者さんとしても親しみやすいでしょう。

 

「火遊治温泉の建築状況は逐一メイクでご報告したり~配信内でご覧いただく予定なので~今後もご期待下さい~」

 

『これは期待!』『泉質はいろいろあるといいな~』『いろんな効能の温泉も欲しい』『露天風呂も良いし、こじんまりとしたとこも欲しい!』『お宿の方も気になるな、旅館とか泊まってみたい』『温泉に入りながら一杯してみたいものだなぁ』『ここも犬守かめらで撮影できるようになる?』『←お?村八分?』『温泉を撮影?』『盗撮かな?』『ちげーよ!?俺は純粋に温泉に入っているわんころちゃんが撮影できるか気になっただけだ!!』『……純粋?』『誰かこいつを火遊治火山に放り込め』

 

「あはは……温泉街の風景は撮影できますけど~さすがに盗撮は~……」

 

 温泉内での撮影はおやめください……!




本作をお読みくださった皆様、今年は大変お世話になりました。おそらくこれが今年最後の更新となると思います。

作者がここまで書き続けてこれたのは読者である皆様のおかげであります。
私の知識不足や技術不足により思うように書くことができなかったり、更新が滞ることもありました。
ですが、それでも続けられたのは応援してくださった皆様がいたからです。

上手い返しができない作者なので感想の返信はほとんど行っておりませんが、すべて目を通させて頂いております。本当にありがとうございます。

来年もどうかよろしくお願いいたします。よいお年を!



※漢字の意味が本文の説明と異なっていたため、火遊冶神社(ひゆやじんじゃ)を火遊治神社(ひゆじじんじゃ)へ修正

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