今後の参考になるので出来れば感想をお願いします。
連載するかは未定です。
春先の晴天の下、ブドウは趣味の一環として市中散策に興じていた。
ストレートの長い黒髪に被せた帽子を時々被り直しながら、うろうろと視線をあちらこちらに向ける彼は、妙に派手な柄のシャツやらズボンの所為もあって完全に不審者といった風情ではあるが、本人は特に気にもせず歩き続けていた。
現在、ブドウが歩いている休日昼過ぎの閑静な住宅地など何も無いように見えるが、ブドウの考え方は違う。
何も無さそうに見えているだけの風景なのだ、と。
そして、そういう場所にこそ、彼の探し求める物が転がっている可能性がある。
だからこそ、あてのない市中散策に興じているのだ。
ブドウの趣味とはズバリ、超常現象を観測すること。
彼は世間一般の認識でオカルトマニアと呼ばれるそれである。
そうなるに至った経緯は簡単な事で、そもそも彼が霊感の強い、いわゆる"見える人“であったからだ。
一般の人には見えない存在がいて、それらにも一定の法則や、存在するに至る成り立ちがある。
幼い頃から知的好奇心の強いブドウがそちらの世界に惹かれたのは必然であったのだろう。
気が付けば、そこそこに歩いていたようで、1度ブドウが足を止めると、近くに10階建てのマンションが見えた。
住宅地から少し坂道を上った所にある、周辺では一番高い建物だった。
古いマンションであり、整備のされていない道や、草が伸び放題の花壇の様子からも、あまり入居者が居なさそうであると予想出来た。
何となくで歩いたにしては中々に“趣味に合いそうな場所“に着いたので、ブドウはマンションをじっくり見て回る事にした。
玄関と駐車場のあるスペースをじっくりと見て周り、あまり目を引く物は無いなと帽子で顔を扇いでいる時のことだった。
…トンッ……トンッ……トンッ……
その音は、マンションの裏手から聴こえてくるようだった。
サッカーボールやバスケットボールが地面に跳ね返る音に聴こえた。
マンションの駐輪場には小さめの自転車もあったので、きっと子供がボールで遊んでいるんだろう、そう思い、ブドウは裏手に回った。
そこには、誰も居なかった。
あるのは電柱と、坂道とマンションとを区切るガードレールくらいで、なにもないスペースがあった。
そして、そこまで来ると、音の正体がボールなどと言う生易しい物では無い事が直ぐに理解できた。
…ドンッ………ドンッ………ドンッ
一定の間隔を空けて聴こえるそれは、まるでハンマーで地面を強打するような音だった。
ブドウは悪寒で全身が粟立つ感覚に襲われた。
同時に納得した。
ああ、これは間違いなく、居るな、と。
ここまで来たからにはその正体を確かめずにはいられなかった。
音に向かって、ブドウがゆっくりと歩いていると、
…ドンッ……………
ある場所に来た瞬間に、音が止まった。
そこで初めて人の気配を感じた。
じぃ、と。視線を向けられているのも分かった。
自身の、足元からだった。
恐る恐る、視線を下げると、
男の生首がそこにあった。
目を陰鬱そうに開いた男だった。
ブドウが思わず後ずさっても、生首は変わらず、じぃ、と陰鬱そうにみていた。
見つめあって30秒は経っただろうか。生首がボソボソと喋り出した。
「すいません……お聞きしたいのですが…」
恥じ入るような、か細い声だった。
「私の…カラダ…見ませんでしたか」
それが自身に向けられた言葉だと分かり、ブドウはハッキリと答えた。
知らない。見ていない。
「……そうですか……そうですか」
虚ろな口調で呟いた生首はブドウの見ている前で、すぅ、と消えた。
思わずため息を吐き出した、その時。
………ドンッ
自身の直ぐ横で聴こえた音に、ブドウは思わず息を詰まらせた。
また、足元に生首がいた。
先ほどと同じ、青ざめた顔の男だった。
ブドウは、聴こえていた音の正体がやっと分かった。
この男の頭が地面に落ちた音だったのだ。
良く見ると、近くのガードレールには花瓶が置かれていた。
「すいません……お聞きしたいのですが…私の…カラダ……見ませんでしたか…」
ブドウは、再び男の質問に答えると、そっとその場を離れた。
すぐにマンションの管理人室を訪ねると、高齢の老婆が出てきた。
派手なシャツを着た若者の突然の訪問に怪訝な顔をしていた老婆は、ガードレールの花瓶について尋ねられると、ああ、と納得したように眉を下げた。
あの花瓶は、老婆の置いた物らしい。
「1年程前のことなんだけど、住んでた男の人が屋上から飛び降りてねえ。私も屋上の鍵を分かりやすい場所に置いてたから、こっそり使っちゃったんだって」
老婆の話では居住者の男性が飛び降り自殺を図ったそうだ。
見つかった遺書には、疲れた、ただそれだけが書いてあったらしい。
「立ち会ったけど、恐ろしい現場だったのよ。その人ね、飛び降りた時に、あのガードレールで首を打ったらしくて…」
ある意味で、飛び降りた男性への"慈悲"だったのか。
その"
ただ、と老婆は続けた。
「あのガードレールの向こうに…落ちたんだけど…。いつまでたっても見つからなかったのよ」
分かたれた男性の頭部は本来ならばガードレールの向こうへと落下し、坂道を転がっていても可笑しくはない。
しかし、坂道には血の跡ひとつ付いていなかった、と老婆は語る。
そして、その頭部は無事に見つかったらしい。
「来てたお巡りさん絶句してたわよ。現場検証で屋上に上がったら見つかったんだもの」
屋上の縁から、現場を見下ろすように頭部が置いてあったそうだ。
話を聞き終えて事件の顛末をメモしたブドウはマンションから立ち去った。
裏手から聴こえる落下音は、止まることはなかった。
「とまあ、この間そんな事があった訳だよニラ」
「……なるほど」
「どう思う?」
翌日の学校にて、ブドウは友人のニラに遭遇した事をつまびらかに語った。
大柄な坊主の青年ニラは、ブドウの話を静かに聞いて顎をさすっていた。
「死ぬ間際に頭と胴体が分かれた事で魂も分かれてしまったのだろうな」
ニラはノート紙に簡単な人体図を書いて、頭と胴体の間に一本の線を引いた。
「本来ならば一つものとして成仏すべき魂が2つに裂かれ、頭の持っていた魂だけが死の間際の鮮明なイメージを持ったままその場所に取り残されたのだろう」
「自殺と言う強烈な思念を遺したままカラダを探す幽霊か…。カラダとの繋がりを探して死に続ける地縛霊、差し詰め"辻褄合わせの生首"と言った所かい?」
ブドウは今回記入したページ頭にタイトルをつけて締めくくるとメモ帳を閉じた。
「しかし、カラダとの繋がりが死後の自由さえ束縛するとは、あの幽霊も不憫な事だ」
「幽霊とは得てしてそのようなものだ。何かとの繋がりを求めているからこそ現世に留まってしまう。そう言った、死してなお捨てられぬ繋がりを“未練"と呼ぶのだからな」
「はは、寺の子が言うと説得力があるな」
「茶化すな。…それで、他にも要件が有るのだろう」
ニラは鋭い眼光をブドウに向けて腕組みをした。
ブドウはニヤリと笑って返す。
「さすがニラ、話が早くて助かるよ」
カバンから幾つかの新聞記事の切り抜きを取り出して、ニラの机に並べていく。
「……これらは?」
「ああ……。間違い無く、怪異による殺人事件だ」
完
登場人物
ブドウ/武田 道満
県立緑畑高校の学生。
霊感が強く、好奇心から怪談をフィールドワークで収集するオカルトマニア。
友人のニラを捕まえて良く怪談話を聞かせている。
ニラ/西島 羅漢
県立緑畑高校の学生
寺の住職の一人息子。
ガタイの良さと眼光で誤解されがちだが、非常に真面目。
ブドウと同じく霊感が強く、幽霊の話を聞いてはこっそりと除霊を試みている。