ビタミン怪異譚   作:外道男

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お久しぶりの投稿
本来ハロウィン企画で考えてたネタを腐らせる男


kick rock baby 2

土曜日。緑畑高校正門前。

 休日と言う事もあり、正門前に立ってもあまり人の気配を感じない。

学校に居るのは一部の教師と部活動組くらいだろう。

グラウンドや体育館から聴こえる運動部の掛け声を掻き消すように、外で練習している吹奏楽部の金管楽器の音が良く通った。

 

 

 4月に入ったとはいえ朝の気温はまだ薄寒く、タマオはパーカーのポケットに突っ込んだ拳を開閉して、手を暖めていた。

昨日、双子の兄センジュから唐突に切り出された怪談ウォッチングとやらは冗談でも何でもなかったらしく、まだちびっこが朝の特撮番組に釘付けになっている時間帯にこうして駆り出されたのだ。

センジュはこの手の思い付きをやると言ったら絶対にやる男だった。それを失念していたタマオは朝食後の歯磨きを終えると同時に連行されたのだった。

 

 

「さあ!怪談ウォッチングにお集まりの諸君!準備は良いかー!」

 

 正門前の花壇の縁に立ったセンジュは今回の招集に応じた面子に呼びかけた。

 

「良くない良くない。帰ろうよ」

「良い返事だタマ隊員」

「話を聞かない隊長め。横暴だあ」

「…諦めろタマオ」

「諦めが早いよゴーヤはさあ」

 

 隣に立つゴーヤが左右に首を振った。

彼もまたタマオと一緒にセンジュに振り回されてきた側だ。

だが一足先に抵抗を止めたらしく、この状況に文句を言う素振りを見せない。

 

集まった面子を見てタマオは、おや、と首を傾げた。

いつもならもう1人定番の参加者がいるのだが。

 

「セン兄、クジョウは?」

「クジョウ隊員は"受験生を巻き込むな"と書き置きを残して逃亡した!くっそう、気付くのが早ければ捕まえたのにな」

「鬼かアンタは」

 

 2つ歳下の弟クジョウはセンジュを反面教師にして育ちましたと言わんばかりに落ち着いた性格である。今回の件も早くに危機を察知して姿を(くら)ましたのだろう。

そこまで分かっていながらどうしてタマオを置いて逃げたのか、姉としては遺憾である。合理的な思考を尊ぶ弟の事だから「囮が居ないと意味が無い」とか思ってそうだ。後でとっちめてやろう。

 

「そんな訳で、代わりと言っちゃあ何だがオカルトの専門家に来ていただきました!どうぞ、センセイ」

「…やれやれ朝早くに電話してくるから何かと思えば」

 

 クジョウの代役としてセンジュが連れてきたのは、オカルトマニアとして学内のみならず緑畑市中に名を馳せる超弩級の変人、ブドウである。

果物柄の派手なシャツを着た彼は呆れ眼でセンジュを見ている。

 

「あまり口出しする気はないが、迂闊な行動は止めてくれよセンジュ。僕としてもオカルトで死ぬのは不本意だからね」

「分かってる分かってる!それじゃ、楽しく行くぞー!」

 

「…不安で仕方ないよ。ゴーヤ、君からも何か言ってやってくれ。僕と同じく"見える側"の君が最後のストッパーだ」

「…あー、うん、無理」

「あはは、ゴーヤ口下手だもんねー」

 

…そう言えば、ゴーヤは"見える人"なんだったか。

 

 死者を間近に捉えてしまうその心境はどんな物であっただろう。

霊感の薄いタマオ達には想像も出来ない苦労があったろう。

普段からどこかボヤッとしていて、不意に何もない場所を見ては居心地の悪そうな顔をする彼は、周囲から浮いてしまいがちだった。

 

 

 

「ねえ、ゴーヤ。幽霊が見えるのってどんな感じ?」

 

 隣を歩くゴーヤに質問をすると、眉を少しだけ動かして返事が来た。

 

「…さあな」

 

「えーケチ。教えてくれてもイイじゃん」

 

「おーい!早く来いよタマ、ゴーヤー!」

 

「行くぞ」

 

「あっ、待ってよ!」

 

 ゴーヤは早足でセンジュを追って行った。

明らかにはぐらかされた気がして良い気はしなかったが、後にして思えば、それはゴーヤなりの優しさだったのだと思う。

 

 知らないなら、その方がずっと良い事もあるのだから。

 

 

 

 

「それで、怪談ウォッチングとか言ってるけど、当てはあるの?」

「もちろん何個かピックアップしてんぜ!」

 

 タマオの問いにセンジュは得意げにメモ帳を取り出した。

ペラペラと捲られる紙にはセンジュの物であろう大雑把な殴り書きが見えた。

 

「ほお、珍しいな。君が怪談話を蒐集するとは」

「まあブドウほど本格的じゃねえけど、俺だって知り合いから話聞けばこれくらいはな」

 

 昔から行動力の塊であったセンジュはとにかく顔が広い。

タマオも学内では友人が多い方だがセンジュはそれ以上である。

 

「ふむ…。じゃあナビゲートはセンジュに任せよう。ボクはただのアドバイザーだからね」

「おうっ!任せろ!行くぞ副隊長!」

「いつから副隊長になったんだ」

 

 センジュは無理矢理ゴーヤと肩を組んで先頭を歩き出した。

 

 

「不安だなあ…」

 

 自身と同色の癖毛を揺らして笑う双子の兄をタマオは信用しない。

その言葉の裏に一切の根拠が無かろうと、いつだってニコニコと笑うのだ。

不安になったタマオは思わずブドウの着ていた派手な柄物シャツの袖を引っ張った。

 

「ねえ、ブドウ。センジュあんな感じだけど本当に大丈夫?万が一、幽霊とか出会っちゃったら危ないんじゃ…」

 

「…まあ、不安になるのも分かるけども、そこまで心配する程の危険は無いはずだよ」

 

「ほんとに?」

 

 この手の話でブドウを信頼しない訳では無いのだが、全くの専門外の知識を鵜呑みには出来ない。

胡乱な目でブドウを見やると不敵な笑みで返された。

 

「ひとつ授業といこうか。例えば、あそこの電柱」

「何かあるの?」

 

 ブドウが指し示したのは、幾分か前を歩くセンジュとゴーヤのすぐ側の電柱だった。

何かの張り紙を剥がした後があるだけで、特に異常は無さそうだ。

 

「あの陰に幽霊が居る」

「…えっ!ウソ!?」

「ハハハ、例え話だよ。居ると仮定してくれ」

 

 なんだ居ないのか。

一瞬電柱の裏を凝視したが、そもそも自分には霊感が殆ど無い事に気付きブドウの話を促した。

 

「その幽霊は生前…そうだな、道向かいのタバコ屋の店員に恋をしていた」

「ふむふむ」

 

 確かに電柱から道を挟んだ所にタバコ屋がある。

ちらりと店に目を向けるとしわくちゃのお婆ちゃんが新聞を読んでいた。顔付きが若干険しいのは新聞の内容か、あるいは老眼によるものだろう。

更にブドウの話は続く。

 

「しかし恋は実らず。それが未練となって、死んだ後も幽霊となってあそこに留まり店を眺めている」

「ありゃりゃ」

「どう思う?」

 

 言って、前を見ていたブドウの顔が僅かにタマオに向けられた。

少し間が空いて、タマオは質問されているのだと分かった。

 

「えっ、何が?」

「この幽霊は危険かどうか」

 

 不意打ちの質問に面食らうが、話から推察する。

幽霊と言う時点でおどろおどろしい雰囲気はある。それに、かなりのストーカー気質だ。

だが、危険と言われるとどうだろう。

遠くから見つめる行為そのものは危険では無いような気もする。もっとも、幽霊の存在に気付いた女性がショックで寝込まなければ、という前置きは必要かも知れないが。

 

「では、前提を変えてみようか。幽霊が仮に相手を恨んでいるとすれば?」

 

 今度は完全に双眸がタマオを捉える。

長髪に隠れがちなタレ目と見つめあう形になり、タマオは思わずたじろいだ。

 

「えぇっと…、それって悪霊でしょ?やっぱり危険なんじゃないの?」

「ふむ」

 

 ブドウは一度頷いて、人差し指を立てた。

 

「少し別の話になるが怪談噺において、幽霊に危害を加えられた、という事例は聞いたことはあるかね」

 

 答えようとして直ぐには言葉が出てこなかった。

 

 そもそも怪談と言うからには、幽霊や怪奇現象によって酷い目に遭うことが大半だろうとは思うが、違うのだろうか。

タマオの反応を見てブドウは口角を上げた。

 

「では、幽霊に直接殴られた。刺された。殺された。と言うような事例はどうだろう」

「…いや、流石に殺されるまではない、けど」

「そこだよ」

「どこよ?」

 

 ブドウが話し好きなのは知っているが、タマオ自身物分かりの良い方ではない自覚があるのであまり勿体振って話されても困り物だ。

 

「幽霊にはね、人を死に追いやる程の力は無いのさ」

ブドウの言葉を上手く理解出来ず「はあ」と気のない相槌が零れた。

 

「分からないって顔だね。分かりやすく言えば、幽霊は人に触れられないんだ。当然、人も幽霊には触れられないだろ?」

「あー、なんとなく分かったかも」

 

 確かに。互いに触れられないのなら、殺される事は無いのだろう。

だが、それでも疑問はある。

 

「でもさ、それだと危険では無いって事にはならなくない?」

「そうだね。危険はある」

「えー。ここまで話しておいてそんなオチなの?」

 

 ブドウの言葉にタマオは少し不服そうに眉を顰めた。

 

「危険と分かっているのなら、付き合い方も分かると言う事さ。切れる刃物を握ったりはしないだろ?」

「そういう問題かなあ?」

 

 微妙に主旨をすり替えられているように感じる。

じっと顔を覗き込むと額に人差し指を当てて押し返された。

そのまま指を当たるか当たらないかの所でゆらゆらと動かす。

 

「幽霊は間接的なアプローチで人にプレッシャーを掛け続ける事しか出来ない。所謂(いわゆる)、霊障という奴さ」

「あっ、それなんか聞いたことあるかも」

 

「タマオが恐れているのは、霊障で幽霊から害を受けないか、と言う点だろうが、実は必勝法がある」

「あるんだ!そういう事は最初に言ってよー!話長いんだからー」

 

 緊張していたのが一気に楽になった気がした。

バシバシとブドウの肩を叩くと、少しよろけてから帽子を被り直した。

 

「簡単さ。気にしなければいい」

 

へ、と。

口から息が漏れた。

 

「幽霊だって馬鹿じゃない。そもそも狙うのは、心の弱い人間なのさ。ある意味、詐欺師に通じる点があるね」

 

 ブドウの言葉を理解できない。

何を言っているのか、いや、理解しても納得がいかない。

 

「よしんば悪霊に出会っても、心を強く持って向き合えば、向こうから興味を無くすさ」

 

「いや、あのさあ?」

 

 自分でもビックリするくらい冷たい声が出た。

この詐欺師のように弁舌が巧みな男は事もあろうに…。

 

 

最後の最後に根性論かよー!何だったのさァ、さっきまでの例え話は!

 

「ハハハ、付き合い方さえ弁えていればどんな幽霊でも怖くないと言いたかったのさ」

 

 憤って軽く殴りかかったがするりと避けられた。

初めからまともに会話して無かったのだろうか。ニヤニヤとほくそ笑んでいるように見えてきた。

 

「もー!結局なにがホントの事なのさ」

 

「全部真実だよ。伝えてない事の方が多いけどね」

「やっぱ詐欺師じゃん!」

 

幽霊より危険な存在なんて教えても信じないだろうしね

 

「ん、なんか言った?」

「何でもないよ。それより、センジュに置いていかれそうだ。走ろうか」

 

「うわ、もうあんな先に行ってる。待ってよーセン兄ー!」

 

 

 




なかなか話が進まない現象



人物紹介

クジョウ/根岸 九条(名前だけ登場)
センジュとタマオの弟。中学3年
上の2人がわりと賑やかしなので反して冷静な性格になった
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