仮面ライダービルド×Fate/NEW WORLD   作:おみく

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第12話「同盟のセオリー」

 冬木市の川沿いに位置する市民公園が、親子の待ち合わせ場所に選ばれた。

 最初に到着したのは凛の父である遠坂時臣だ。両者の共通の知人である石動を交え、聖杯戦争に参加したばかりで右も左も判らぬ万丈と軽い自己紹介を交わしているうちに、黒塗りのセダンを走らせ、母である遠坂葵も到着した。

 凛の無事を確認するや、葵は今にも泣き出しそうな面持ちで我が子へと駆け寄り強く抱き締めた。ふたりの傍らに立つ時臣も柔らかな微笑みをたたえている。心から安堵している様子だった。

 

「感動の親子の再会ってやつか。無事でなによりだよ。なあ、万丈」

 

 親子の様子を遠巻きに眺めていた万丈の肩に、石動が馴れ馴れしく手を置いた。万丈は不快感を隠すこともせず、肩を振るってその手を振り払う。正体がエボルトと分かった時点で、万丈には石動と馴れ合う気は毛頭なかった。

 

「この事件も、明日には大きく事実を歪めて報道されることだろう。死傷者が出る前に解決できたのも、聖堂教会としちゃ不幸中の幸いってやつでね。そういう意味じゃ、お前には感謝してんだ。ちったあ胸を張れよ、ヒーロー」

「うるせえ」

「なんだよ、つれねえなァ」

 

 石動は肩を竦めると、感情のない酷薄な笑みを浮かべて嘆息した。

 シャドウキャスターに囚われていた他の子供たちもみな意識を失っているだけで、命に別状はないとのことだった。子供らの保護については、既に()()()()()()()が手回ししていたらしく、川沿いにパトカーと救急車が列をなす様子を万丈も目撃している。

 

「あんだけ大事(おおごと)になって、それでも揉み消せんのかよ」

「その辺の手回しも俺の仕事だ。安心しろよ、魔術の痕跡は跡形もなく消してるし、シャドウキャスターの断片データも既に全部ルーラーが回収してる。おそらく、下水での戦闘はそのものが()()()()()()になるだろう」

 

 シャドウキャスターの残骸を粒子化して紫のパッド(バグヴァイザー)に取り込んだ檀黎斗は、万丈に聖杯戦争に関する簡単な説明だけ寄越すと、やることがある、と告げて足早に立ち去ってしまった。

 

「ンだよそれ。そんなに簡単なモンなのかよ」

「なんだ、不服そうだな。それとも不安なのは背景設定の方か? だったら、こういうのはどうだ。誘拐犯の素性は依然不明のまま現在も逃走中。足取りを掴む手がかりは見当たらず……そのうち世間からも忘れられ、事件は無事迷宮入りだ。そうすりゃ角が立たねえし、聖杯戦争の秘密も守られる」

「ッ、そうまでして、人間同士で()()争わなきゃなンねえのかよ!」

 

 沸き起こる激情に駆られて、万丈は石動の襟首を掴む。やっと元の世界で起こった戦争を終わらせたというのに、どうしてまた人間同士の戦争に加担しなければならないのか。そういう思いをぶつけたかったが、万丈の腕はすぐに振りほどかれた。

 

「だから掴むなって、シワになるだろォ~!」

「テメェ……」

 

 石動は煩わしそうに万丈に掴まれた襟首を叩いて伸ばしながら、あからさまな嘆息を落とすと、声のトーンを一段落とした。

 

「いいか万丈。お前が巻き込まれたのは、そういう戦争なんだよ。みんな、自分の願いを叶えるために必死なんだ。死にたくないなら、受け入れるしかねえだろ」

「なんでだよ、なんでッ……あの親子だって、あんなふうに笑えんのに! 凛が助かって良かったって、あんなに嬉しそうにしてんのに! それがなんで、殺し合いなんて酷いことができんだよ!?」

「あのなあ……それが人間ってモンだろ? みんな自分の幸福を守るために戦ってんだ。あの親子が笑ってるのだって、自分の幸福が守られたからだ。人間は昔から、そうやって戦って進化を続けて来た。違うか」

「それ、は……そうかもしンねえけどッ」

 

 万丈は言い淀み、言葉に詰まった。

 

「聖杯戦争はもう始まってんだ、それは変えられない。お前が望むと望むまいとに関わらず、参加者は容赦なくお前に牙をむく。その時お前は、戦いたくないからって、ただ黙ってやられんのか?」

 

 返す言葉を失った万丈の肩を、石動はもう一度叩いた。万丈の左手に刻まれた三画の赤い龍の紋章を、石動は一瞥する。

 

「いい加減割り切れよ。その令呪を手にしちまった時点で、お前はもう戦うしかない。それにどのみち、聖杯戦争に勝たなきゃお前だって元の世界に戻れないんだ。ここがゲームの世界だって考えりゃ、少しは気もラクになるだろ?」

「そういう問題じゃねえんだよ!」

 

 怒号をあげて石動を振り払う。

 仮想世界であろうとも、この世界に生きる人々はみな、自分を本物の人間だと思って一生懸命生きている。凛の涙を見た時、万丈はそれを悟ってしまった。ただのデータと割り切って戦争に乗るには、万丈の心はあまりにも純粋に過ぎた。

 

「これは、穏やかな雰囲気ではないな。取り込み中だったかな」

 

 玲瓏な紳士の声を耳にしたその刹那、万丈の体から急速に熱が引いていった。時臣と葵は、この世界が仮想現実であることを知らない。どこまで話を聞かれたのだろうか。一瞬、返答に窮した万丈に代わって、石動が口を開いた。

 

「いや、大したことじゃないさ。俺がちょっと無神経なことを言っちまっただけ。悪かったな、万丈……ま、あんまり後ろ向きに考えすぎないこった。なっちまったモンは、もうなるようにしかならねえんだから」

 

 軽くとんとんと万丈の肩を叩いた石動は、そのまま万丈の隣を通り過ぎていった。

 

「それじゃ、俺がいても微妙な空気になるだけだろうから、今日はここらでお暇するとしましょうかね。お三方とも、夜ふかしもほどほどに」

 

 最後に振り返った石動は、わざとらしさを多分に含ませて、片腕を腹部に添えながら恭しくお辞儀をしてみせた。

 

「チャオ〜」

 

 くるりと背を向け、掌をひらひらと振った石動は、当惑している万丈とは対象的に、どこまでもマイペースな歩調で夜の闇へと姿を消していった。

 

「今日は本当にありがとうございました。娘を助けてくださったこと、なんとお礼を申し上げていいか」

 

 依然として表情を陰らせたままの万丈に、凛の母親である遠坂葵は、もう何度目になるかもわからない感謝の言葉を告げて、深々と頭を下げる。心中は決して穏やかではないが、万丈はそれを悟られぬよう、努めて口角を上げてみせた。

 葵は、万丈が聖杯戦争の参加者となってしまったことを知らない。彼女に伝えられているのは、万丈は凛の発見に貢献した聖堂教会門下の人間、という偽りの情報だけだ。不要な心配はかけないように、という時臣からの提案だった。

 

「本当に、君には感謝しているんだ。娘が無事に保護されたのも、すべて君のお陰だと聞いている。凛も随分と君を気に入っているようでね、私もひとりの父として、君とは良い関係を築いていきたいと思っている」

「あ、ああ……そりゃ、どうも」

 

 差し伸べられた時臣手を、万丈は困惑しつつも握り返した。時臣の手のぬくもりが伝わってくる。

 エボルトの言葉の通りならば、時臣もまた聖杯戦争に参加するマスターのひとり。今は葵がそばにいるから、芝居をしているのだろうかとも疑うが、できることなら凛の父親を悪く思いたくはなかった。あの人間の出来た立派な女の子育て上げたのは、他ならぬこのふたりなのだから。

 

「さあ、今日ももう遅い。凛は明日も学校だろう。君はそろそろ禅城の屋敷に戻りなさい」

 

 ひとしきり握手を交わしあったのち、時臣は葵に帰宅を促した。葵は特段反論することもなく、夫の提案を柔和な笑みを浮かべて受け入れた。最後にもう一度万丈に向き直った葵は、淑女らしい気品溢れる仕草で頭を下げた。

 

「本当に……凛が無事で済んでよかったわ。随分怖い目にあった様子だけど、今はもう落ち着いている様子で……それもこれも、万丈さんに勇気づけてもらえたおかげだと思います。本当に、ありがとうございました」

「い、いや。もういいって、あんまり頭下げられすぎっと、なんか……背中が痒くなってくるっつーか!」

 

 いよいよ背中がむず痒くなってきた万丈は、片手を背に回して掻き毟る。

 

「あら。ふふ、面白い方ですね」

 

 片手で口元を隠し微笑む姿は、美しく、たおやかであった。

 葵は最後にもう一度礼を言うと、今度こそ踵を返し、車へと戻った。

 走り去ってゆく車のテールライトと見送りながら、万丈は手を振った。窓ガラスの奥で、ちらと万丈に視線を送った凛は、一瞬逡巡した様子で瞳を伏せたが、すぐに手を振り返してくれた。

 凛には随分と心配をかけてしまった。きっと、万丈が時臣と殺し合わなければならない、という事実をひとり胸に秘めて、しばらくは不安に駆られることになるのだと思う。それは、万丈にとっても不本意だった。

 

「……なあ、遠坂さん」

「なにかな、万丈くん」

「俺、やっぱ凛には笑っていて欲しいんだ。あんないい子が悲しむ姿なんて、見たくねえ」

「それは私も同意見だ。魔術師の娘として、きっと凛にはこれから数々の困難が降りかかることだろう。だが、それでも……親である以上、娘の幸福を祈らずにはいられない」

 

 時臣の穏やかな語り口に、嘘があるようには思えなかった。

 人間は、自分の幸福を守るために戦うものだとエボルトは言った。突き詰めて考えればそうなのかもしれないし、実際に時臣もそういう理由で戦っているのかもしれない。だが、それでも、万丈はもう、難しいことを考えて堂々巡りに陥りたくはなかった。だから、もう、後先を考えずに、思ったことをそのまま口にすることにした。

 

「凛が傷付けば、あんたが悲しむ。あんたが傷付けば、凛が悲しむ。俺とあんたは敵かも知れねえが、それでも俺はあんたを傷付けたくねえ。それが今の俺の正直な気持ちだ」

 

 時臣は、ふむ、と小さく唸った。

 

「どうやら君は……思っていた以上に優しく、そして純粋な人間らしい。魔術師には不向きだな」

 

 褒められているのか貶されているのか分からず、万丈は押し黙った。

 

「……いや。事実、君は魔術師ではないのだろうね。本来なら、サーヴァントになるべき人間でもなかったのだろう。その令呪を手にしてしまったことは、まさしく君の不幸だ」

「でも、この力がなきゃ凛は救えなかった!」

 

 即答する。時臣は一瞬目を丸くしたが、すぐに微笑んだ。

 

「君は本当に気持ちのよい人間だな。私とて、君のような人間と戦いたくはないと思っている」

 

 時臣が向き直った。万丈と目を見合わせる。 

 

「そこでだ。私と、同盟を組む気はないかね」

「同盟?」

「そうだ。聖杯戦争が終結するまで、我が陣営は君への協力を惜しまない。だから、君も私とともに戦ってはくれないだろうか。そうすれば、凛を悲しませずに済む」

「でもそしたら、今度はあんた以外の人間と戦わなきゃなンねえだろ。それじゃ、一緒なんだよ! 俺はもう誰のことも傷付けたくねぇ!」

「それは、仕方のないことだ。これは聖杯戦争なのだから」

「仕方のないことで済ませられっかよ!」

 

 時臣は万丈を宥めるように深く頷いた。

 

「そう言う君の気持ちもまた、わかる。私もまたひとりの人間だ。他者の命を奪わずに済むのなら、それに越したことはないと思っている」

「それでも、あんたらは戦争をするんだろ!」

「聖杯戦争は続行する。だがやりようはある」

「ッ……なんか方法があンのか!?」

「君が人を殺めることを躊躇するならば、サーヴァントだけを倒す、という戦い方もある、ということだ」

 

 万丈はハッとして、跳ねるように顔を上げた。

 

「君が望むなら、私も極力はマスターを害さないよう配慮しよう。召喚されたすべてのサーヴァントを倒してしまえば、誰の命も奪うことなく、聖杯戦争を終わらせることができる」

「――そ、そ、そ、それだァーーーッ!!」

 

 思いもよらぬ名案に、万丈は思い切り声を張り上げて叫んでしまった。

 サーヴァントというものがいかなるものであるかを万丈は詳しく把握してはいないが、あのシャドウキャスターのような敵をすべて倒して戦争を終らせることができるなら、それが最良の選択であるように思われた。最前までの淀んだ表情が嘘のように、万丈は嬉々として破顔した。

 

「それなら確かに、誰も傷付けずに済む! 凛や遠坂さんたちを守りながら戦うことだってできる! 遠坂さん……あんた、頭いいなァ!」

「大したことではないさ。では、私と同盟を結んでくれる、ということでいいのかな」

 

 大きく首肯し、万丈が同盟を了承しようとしたその時だった。

 

「嘘、ですね」

 

 底冷えする冬の湖面のように冷たく、凛とした女の声だった。

 振り返る。和服を着た年若く美しい少女と、ぶかぶかのウインドブレーカーを着込み目深にフードをかぶった男が、ゆっくりと街灯の光の下に歩み出た。少女は開いた扇子で口元を覆い隠してはいるものの、微かに揺れる薄緑の髪の奥の眼光には、憎悪に燃える昏い輝きが見て取れた。一方で、男は足に不自由があるのか、少女の後ろをぎこちない足取りで追従していた。

 

「遠坂、時臣ィィ!」

「間桐雁夜とバーサーカー、か。マスターになったとは聞いていたが……随分と変わり果ててしまったものだな」

「俺がこんな無様な姿に成り果てたのも、すべては今日、この日のためだ。貴様をこの手で倒すため、それだけのために、俺は……!」

 

 雁夜と呼ばれた青年は、フードの奥で憤怒に顔を歪め、憎々しげにその名を呼んだ。ぶぅぅ、んと羽音を立てて、大量の蟲が一斉に沸き上がる。蟲の群れは街灯の光の中に黒い靄のように蟠り、その全てがこちらに向けて敵意を放っていることを、万丈は本能的に感じ取った。

 

「な、なあ遠坂さん、あいつらも聖杯戦争の参加者か」

「ああ。魔導を否定し逃げ出したにも関わらず、欲望に駆られ舞い戻ってきた恥知らずだ」

 

 時臣の物言いに、最前までの優しさ温かさは皆無だった。万丈には時臣がなにを言っているのかよくわからなかったが、決して穏やかな間柄でないことだけは十分に察することができた。

 

「もし、そこのお方」

「……ッ、俺!?」

 

 バーサーカーと呼ばれた和服の少女が、たたんだ扇子の先端で万丈を指した。

 

「人を信じるのも結構ですが、もう少し疑いの目を持ちなさい。その男の我が子を想う気持ちにこそ嘘はないようですが……あなた様に対しては、話が別です」

「別って、どういうこったよ」

「その男があなた様にかけた言葉は嘘八百。人を殺めずに済めばいいだなどと、思っているはずもございません。それどころか、その男は魔導において外様も甚だしいあなた様を見下してすらいるご様子」

 

 驚いた万丈は、思わず振り返り時臣を見る。時臣は、最前までとなんら変わらぬ優雅な微笑みをたたえていた。

 

「どうやらマスターに似てサーヴァントも礼儀を知らないらしい。いったいなにを根拠にそのような言いがかりをつけるのかな」

 

 時臣が口を開いたその刹那、憎悪の炎が一層激しく熱を持った。バーサーカーの周囲を取り囲むように、蒼炎が人魂のように燃え上がり、ごうと灼熱の唸りをあげる。

 

「わたくしには、嘘が分かるのです。ああ、嘘……嘘、嘘、嘘。なんと醜い言葉でしょう。この世から、嘘がなくなってしまえばいいのに。いいえ、あなたのような嘘吐きそのものが、この世から燃えてなくなってしまえばいいのに!」

 

 宙に浮かんだ蒼炎の弾丸が射出された。計六初の蒼炎は、火の粉を振りまきながら一斉に時臣目掛けて急迫する。悩んでいる時間はなかった。

 守りたい。

 万丈の燃えるような熱い思いに応えて、腹部にビルドドライバーが出現する。バーサーカーの放った蒼炎よりもなお熱く、万丈の蒼炎が燃え上がる。瞬時に蒼龍の戦士への変身を遂げたクローズは、ベルトの電子音が鳴り止むよりも早く、燃え上がる剣を振り払った。

 

「オォォラァアアッ!!」

 

 放たれた剣気は蒼炎の魔力を纏って、バーサーカーの放った炎と激突する。炸裂した蒼炎が、轟音と熱風を撒き散らした。

 

「シャァァアアアッ!!」

 

 爆炎をかき分けて、下半身を燃え上がる蒼龍へと変化させたバーサーカーが、宙を高速で泳ぐように駆け抜け、クローズへと躍り掛る。手にした扇子を燃え上がらせ、巨大な炎の鉄扇へと作り変える。

 クローズのビートクローザーと、バーサーカーの炎の鉄扇が激突した。蒼の炎と赤の炎がないまぜになって周囲へと振り撒かれる。

 

「どきなさい! その男は、息を吐くように嘘を吐く男! 生かしておくわけには参りません!」

「どかねえ! 例え俺に言った言葉が嘘だとしても……この人は、凛の父親なんだよ!」

 

 クローズの炎の剣が、バーサーカーの燃える鉄扇を押し返した。力いっぱい振り払うと、バーサーカーは大きく後方へと跳ね飛ばされ、空中で静止する。憎悪に燃える瞳をクローズへと向けて、バーサーカーは叫んだ。

 

「嗚呼……これが、これが嘘吐きの所業! その嘘に騙されるのは、いつの世もあなた様のような正直なお方! それが……それがわたくしには憎くて堪らないのです!」

 

 バーサーカーが再度炎を燃やして加速する。和服の裾から伸びる蒼龍の尾が、より巨大になった。少女の下半身は、既に人間から遠く離れた龍の形状へと変わり果てていた。

 

「たとえ騙されたとしても! 俺は俺が信じたものを守るために戦う! それだけだろうがッ!」

 

 ベルトのレバーを高速で回転させる。クローズの全身から沸き立つ蒼炎の魔力が実体を持ち、巨大な龍を頭上に形作った。蒼龍と化したバーサーカーに対し、クローズの蒼龍もまた正面から激突する。空中でひときわ巨大な爆発が炸裂し、両者ともに爆風に煽られて後方へと吹っ飛ばされた。

 地べたを転がりながら、土を殴り付けて起き上がる。白く靄のかかった視界の向こうでは、元の人の形を取り戻したバーサーカーもまた起き上がっていた。白い和服はところどころが黒く煤けてはいるものの、少女そのものの体に怪我は見られなかった。

 異変が起こっているとすれば、バーサーカーではなく、そのマスターの方だった。すぐに異常に気付いたバーサーカーは、時臣に対する怒りなど忘れたように、崩折れ血反吐を吐き散らす雁夜に駆け寄った。

 

「ま、ますたぁ!?」

 

 全身の血管が破裂したのか、雁夜は体のあちこちから血液を噴出させながらへたり込んだ。それでも雁夜の双眸には憎悪と敵意に満ちた焔が未だギラついているように万丈には見えた。事実として、雁夜は未だに舞い上がる甲虫の群れを引っ込めようとはしない。噴出した血で作られた赤々とした霧の中で、雁夜はなおも時臣を睨め付ける。

 

「ああ、ますたぁ……無理はしないでくださいまし! わたくしのせいで……わたくしのせいでこんなにも」

 

 今にも倒れそうな雁夜の体を、バーサーカーの細くしなやかな両腕が支える。雁夜の咆哮に応えるように、大量の蟲の群れが一斉に時臣へと加速した。

 

「哀れなものだな。もはや侮蔑を通り越して、憐憫さえ覚える。それほどまでの醜態を晒しながら、なおも魔導に縋ろうとは」

 

 言葉の最後に短い詠唱を続けると、時臣はステッキを軽く振りかざした。それだけで、ごうと唸る火炎が放出され、迫り来る蟲を焼き払う。時臣の作る火炎の壁を、雁夜の蟲が突破できるワケもなく、焼き尽くされた蟲の群れは原型を留めず灰へと変えられた。その間も血飛沫を迸らせる雁夜を押し留めるように、バーサーカーは抱き締めた。

 

「もう、やめてくださいまし! どうか戦いならわたくしにお任せになって。これ以上は、ますたぁの身がもちません!」

 

 雁夜はバーサーカーの華奢な体を振り払うと、もう一度よろめきながら立ち上がった。

 

「遠坂、時臣ィイ! 貴様だけは、殺す……殺して、やる!」

 

 時臣は嘆息し、一歩踏み出した。

 

「わからないな。なぜ魔導に背を向け逃げ出した落伍者が、今更になってそうも聖杯に縋る。その醜態だけでも、間桐の家は堕落の誹りを逃れられまい」

「貴様にはわからないだろうな! 魔導に取り憑かれ、娘を悪魔に売り渡した人でなしの貴様にはッ!」

 

 時臣は眉をしかめた。

 

「人でなしは、己の責任すら果たさず目先の娯楽を追い掛け、今また欲に憑かれ醜態を晒す君の方ではないかね。そも、君のような落伍者から、我が子の未来について口出しされる謂れはない」

「貴様はッ、自分の娘の未来を間桐に……あの妖怪に売り渡したんだッ! あの子が今、どれほどの地獄の中で絶望し続けているかも知らずに!」

 

 なにを言い出すのかと思えば、と呟き、時臣は薄く呆れ笑いを零した。

 

「魔導の家に生まれ、魔導に生きる道を決定付けられた時点で、その人生にはありとあらゆる苦難が待ち受けているもの。それでも万難を排し、死にも勝る修練を積み重ね、自らの責任を果たしたものだけが真の魔術師足り得るのだ。それを地獄と切り捨て、自らの責任を放棄した君の怒りは、筋を違えているとしか言いようがない」

「死にも勝る修練だと!? ふざけるなよ時臣……貴様、そんな理由で桜をあの妖怪に売り渡したのか!」

「当然だ。それもすべては愛娘の未来に幸あれと願えばこそ」

「な……っ」

 

 雁夜は瞠目したまま、空いた口を塞ぐことができない様子だった。

 

「魔導の薫陶を拒否した君にはわかるべくもない話だろうが……二子を儲けた魔術師は、いずれ誰もが苦悩する。秘術を伝授できるのはひとりのみ。いずれ一子は凡俗に落とさねばならぬというジレンマに」

「凡俗……? お前は、あの遠い日の母子たちの姿を……ただ凡俗とだけ切り捨てるのか!?」

「そうだ。いずれかひとりの未来のために、もうひとりが持つ才能を摘み取り、誇りある魔術師としての未来を閉ざしてしまうなど……親として、そんな悲劇を望むものがいるか。姉妹双方の才能について望みを繋ぐには、養子に出すほか道はあるまい」

「ああ、そうか……そうかよ。今わかったぞ時臣。貴様は――貴様は狂ってるッ! 桜の苦しみを知らず、そんな理由で子供たちの当たり前の日常を奪った貴様を、俺は許さないッ!」

 

 時臣は深く息を吐きながらゆるくかぶりを振った。

 

「君のような落伍者に語り聞かせるだけ無駄な時間だったな。魔導の尊さを理解せず、あまつさえ一度は背を向けた裏切り者の君に」

「ほざけェエエッ!」

「ま、ますたぁ……!」

 

 バーサーカーの静止を振り切って、雁夜は叫ぶ。全身の血管が盛り上がり、雁夜の皮膚の下をめちゃくちゃに這い回る。万丈は、それがただの血管だけでないことを悟った。あの男の皮膚の下には、蟲がいるのだ。

 万丈の察したとおりに、雁夜のウインドブレーカーの内側から、再び大量の蟲が這い出て、羽を開いて空へと飛び立った。もうやめろ、と叫び出したい気持ちに駆られるが、先に前へ踏み出たのは、やはり時臣だった。

 

「君が家督を拒んだことで、間桐の魔術は桜の手に渡った。結果だけを見れば感謝する筋合いとはいえ……それでも私には、君という男が赦せない。血の責任から逃げた軟弱さ、その事実になんの負い目も抱かぬ卑劣さ……」

 

 軽くステッキを掲げた時臣は、二節ほどの詠唱を短く済ませると、それを勢いよく振りかざした。

 

「間桐雁夜は魔導の恥だ。ここで(まみ)えた以上、もはや誅を下すほかあるまい」

 

 ステッキに埋め込まれた赤の宝石が煌めき、特大の火炎が放射された。

 咄嗟に雁夜を庇うように前に飛び出たバーサーカーが、大きく息を吸い込み、吐いた。それだけでバーサーカーの吐息は灼熱の龍の息吹となって、迫りくる火炎を迎え討つ。

 バーサーカーが息を吹き込むほどに放射される灼熱は温度を上げて、炎の壁となった火炎が、時臣の火炎を飲み込み、相殺する。バーサーカーの魔力の行使によって、蟲の励起によって既に満身創痍であった雁夜は深く項垂れ、吐血した。地べたに血液が飛び散り、飛沫をあげる。

 

「なんと無様な。己の意思で立つことも出来ず、サーヴァントに庇われるに任せるなど……見るに堪えんな」

 

 もはや言葉を発することすらも難しくなった雁夜の代わりに、憎悪の炎にその双眸をギラつかせながら、バーサーカーが口を開いた。

 

「ええ、ええ……あなた様からしてみれば、今のますたぁの姿はまさしく無様そのものといえましょう。ですが、わたくしにはますたぁよりも、あなた様の方がよほど愚かで、滑稽に見えてなりません」

「なに……?」

「あなた様は、間桐の魔術に関してあまりにも無知に過ぎる。今のあの子は、まともな魔術師としての教育など受けてはおりません。いいえ、受けられるべくもない。間桐臓硯の道具として利用され、幼くして女としての尊厳すら踏み躙られ……苗床として生かされているだけの哀れな少女」

「――馬鹿な」

 

 ここへ来て、初めて時臣の視線が揺らいだ。バーサーカーの言葉には、きっと嘘はない。彼女がいかに嘘を憎んでいるかは、先程の激突でひしひしと伝わってきた。

 

「桜は生まれついてより稀代の才能に恵まれ、魔術師としての教育を受けるべくして生まれた身。そこの落伍者とは違う」

「それは、遠坂の才能でしょう。間桐の才能ではありません。間桐臓硯は、最初からあの子を世継ぎを育成するための『苗床』としてしか見てはいない。だからますたぁはあの子のいる場所を指して『地獄』と言ったのです。そんなことも知らずに、あなた様という人は……」

「やめろ……、バーサーカー……そんな、人でなしに……なにを言っても、無駄だ。結局、あいつは……骨の髄まで魔術師なんだ。あいつはもう、父親でも夫でもない……!」

 

 息も絶え絶えに、雁夜は顔を上げ、袖で口元に付着した血を拭った。

 最前まで余裕に満ちた怜悧な瞳で射抜くように雁夜を見下していた時臣も、流石に言葉を失っている様子だった。万丈には詳しい話はわからないが、事態が当初思っていたほど簡単なことではないということは、なんとなくわかった。

 

「俺は……桜を、救う。あの子が、どれほどの地獄にいるのかも知らず、のうのうと魔導にかまけてられるような男とは、違う……違ってやる!」

 

 よろめきながらも、雁夜は立ち上がる。それだけで体中から血が滲み、ウインドブレーカーはもはや血塗れ雑巾のように成り果てている。バーサーカーは己の白い着物が血に汚れることも厭わず、マスターである雁夜に寄り添い立つ。

 

「時臣様」

 

 不意に、背後に気配を感じた。万丈は飛び上がりそうになる気持ちを堪えて、クローズの仮面の下、現れた闖入者を凝視する。

 全身を漆黒の衣で覆い隠し、顔の大部分を骸骨の面で覆った男だった。

 

「アサシンか」

「キャスター、ランサー両陣営が、遠坂の管理する土地に置かれた要石を破壊して回っています。目的はおそらく、霊脈の管理権の奪取かと」

「なッ……ん、だと。要石の場所は慎重に秘匿されていたはず。なぜ奴らがその所在を把握している」

「はて、それは皆目見当もつきませぬ。しかし、霊脈を守らんとするならば、一刻も早い対処が必要であることに違いはありますまい」

 

 必要最低限の情報だけを伝達すると、アサシンと呼ばれた影は霧のように消え失せた。

 時臣は絶句して、しばし黙り込んだ。神妙な面持ちで逡巡した時臣は、雁夜とクローズをそれぞれ眇めると、額に指先を添えて嘆息した。

 

「なぜこうも次から次へと……。すまないが、万丈くん。こちらも事情が変わってしまった。私はすぐに向かわなければならない」

「えっ、すぐにって……じゃああいつらはどうすんだよ!」

 

 血で出来た水溜りの上で憎悪を滲ませるふたりをクローズは指差した。

 

「気がかりではあるが、今は保留にせざるを得ない。緊急事態なんだ」

「緊急事態って……その桜って子、あんたの娘なんだろ! あんたの娘が、今苦しんでんだろ!? 自分の娘より大切なことなんてあんのかよ!?」

「それについても今は保留としか言いようがない。いや、そもそもの話、あの落伍者とそのサーヴァントの言葉だけを鵜呑みにして、裏付けもなしに事実と決め込んで動くわけにもいくまい。まずは間桐の翁に確認をとる必要がある」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で、時臣はバーサーカーに一瞥を送った。未だ敵意に満ちた瞳で時臣を睨み据えてはいるものの、その場ですぐに激怒しないことを見れば、おそらく時臣は嘘をついていないのだろう。バーサーカーの嘘を見破る能力が事実であれば、の話だが。

 

「嘘じゃ、ねぇよな。自分の娘のこと、ちゃんとホントに心配してんだよな」

「本当だ。こと娘たちに関わることで、私が嘘をつくことはない。ふたりとも、私の大切な愛娘だ」

 

 クローズの仮面越しに、万丈はじっと時臣の顔を見る。時臣は視線を逸らさなかった。決然とまなじりを決する時臣の顔に、嘘があるとは思えなかった。

 

「わかった。だったら、あんたは今、あんたがやるべきことをやってくれ。俺は、あの雁夜っておっさんをなんとかする」

「……なんとかする、というと?」

 

 クローズは声を荒げた。

 

「なんとかはなんとかだッ! 安心しろ、悪いようにはさせねえ。あんたのことも傷付けさせねえし、その桜って子が酷い目にあってるならそっちも助け出す。誰も傷付けずに、こんな戦争とっとと終わらせてやる!」

 

 しばし返答に窮した様子だったが、やがて時臣は、わかった、と一言を告げると、踵を返し背を向けた。

 

「私に用向きがあれば、遠坂の屋敷の門を叩いてくれ。我が娘の命を救ってくれた君の訪問ならば、いつでも歓迎でもって遇すると約束しよう」

 

 最後に振り返った時臣は、最前までの柔和な微笑みを取り戻し、クローズに笑いかける。額には脂汗が浮かんでいた。無理をした笑顔であることは、万丈にも理解できた。

 

「待て、時臣ィィ……!」

 

 雁夜は去りゆく時臣の背中へと手を伸ばし駆け出そうとするが、体が思うように動かないのか、一歩を踏み出す前に前のめりに倒れ込んだ。

 

「おい、無理すんなおっさん!」

 

 駆け寄るクローズの前に、バーサーカーが立ち塞がる。

 時臣に対して見せた程の憎悪は感じないが、それでも警戒ゆえかまなじりをきっと尖らせてクローズを睨んでいる。さしものクローズも動きを止め、ベルトに装着されていたクローズドラゴンを引き抜いた。魔力で精製されたビルドドライバーとクローズドラゴンは、万丈の戦意の喪失とともに消失する。

 

「あんたらと戦う気はねえ。その桜って子が苦しんでんのなら、俺にも話を聞かせてくれ! 俺にできることをやらせてくれ!」

「だま、れ……時臣に味方する男の言葉など……信用、できるか!」

 

 上体を起こし、血反吐を吐きながら敵意を剥き出しにする雁夜を、バーサーカーが慌てて支える。

 

「ますたぁ。このお方の言葉に嘘はありません。本気であの子を救いたいと願っているご様子」

「だからなんだッ! コイツは、時臣を傷付けないと言ったんだぞ……! 時臣に与するものはすべて俺の敵だ!」

「おっさん……」

 

 憎しみに突き動かされるままに腕を振るい、血反吐を吐き散らす雁夜のその痛ましさに、万丈は思わず目線を伏せた。この男は、憎しみに囚われている。

 不意にエボルトの言葉が蘇る。人は結局、自分の幸福を守るために戦っているに過ぎない、と。本当にそうだろうか。その桜という少女を救い出し、遠坂時臣を殺せば、本当にこの男は救われるのだろうか。それは、どこか違うような気がした。

 一拍の間を開けて、万丈は決然と顔をあげた。

 

「あんた、苦しんでる子供を助けたいって言ったよな。さっきのあんたの言葉は、本気だった。少なくとも、俺はそう感じた! だから俺は、あんたを信じてみたいと思った……!」

 

 雁夜へと歩み寄った万丈は、雁夜のぶかぶかのウインドブレーカーの襟元を掴み上げた。バーサーカーは、万丈の行動を止めようとはしなかった。顔を近付け、万丈は一際声を荒げる。

 

「あんたいったいなにと戦ってんだよ! なにがしてェんだよ!? 遠坂さんを傷付けたいのか、子供を救いたいのか……あんたにとってホントに大切なのはどっちだ!?」

 

 雁夜は表情を歪め、押し黙った。濁った双眸は、万丈を直視できずに空を泳ぐ。構わず万丈は声を張り上げた。

 

「もしも桜を救うことよりも、あの子たちから父親を奪うことの方が大切だって言うのなら……! そんなやつは、俺が今ここでブッ倒してやるッ!」

 

 腹部に再度蒼炎が宿る。どこからか現れたクローズドラゴンが、その小さな身体で咆哮をあげながら飛び回る。その気になればいつでも変身できるという意思表示だった。

 雁夜は無言のまま万丈の腕を振り払うと、力なくその場にへたり込み、咳き込んだ。バーサーカーは穏やかな表情のまま、雁夜を抱き起こす。

 

「……ますたぁ。そんなに意固地にならないでくださいまし。今いちばん大切なことは桜を救うこと、でございましょう? それとも、ますたぁがこんなになるまで頑張ったのは……あの男を殺すため、なのですか。桜を救いたいと()()()願ってくれる方を退けてまで」

「バー、サーカー……」

「ねえ、ますたぁ。この方の言葉を信じてみるのは、そんなにも悪いことでしょうか? ますたぁが()()()()()()()()()()()はなんなのか……どうか忘れないでくださいまし」

 

 とうに艶の消え失せた雁夜の白い髪を、バーサーカーの細くたおやかな指が優しく撫でる。雁夜の全身を駆け巡っていた血管が、徐々にすう、と薄らいでいった。荒い呼気のまま、雁夜はバーサーカーの腕から抜け出しやおら立ち上がる。今度は正面から万丈と向き合い、問うた。

 

「お前……、名前は」

「万丈龍我。ライダークラスのサーヴァント、仮面ライダークローズだ!」

 

 掌に拳を打ち付けて、万丈は決然と名乗った。

 

「マスターは」

「いねえ!」

「は、はは」

 

 呆れた様子で、雁夜は笑う。気が抜けたのだろう、足元がふらつく。すかさず雁夜の体を、雁夜よりも遥かに小柄で華奢なバーサーカーが支えた。

 

「こいつはいい……天下の英霊サマが、自分から桜を救いたい、だって? ああ、悪くない。そういうのも、悪くはないのかもな」

「ただし、遠坂さんを傷付けることには加担しねえ。俺が手を貸すのは、その桜って子を救うため、それだけだ!」

「そいつは難しいな。話はそんなに簡単じゃない。だが、ひとまず事情は教えてやる。その後のことは、ライダー……お前の判断に任せる。それでいいんだろ?」

 

 力なく呟く雁夜の提案に、万丈は強く首肯した。バーサーカーが、にっこりと破顔した。

 まずは話を聞くことから始める必要がある。凛の姉妹とされる女の子が、どれほどの苦しみを味わわされているのか。どうやればそれを救い出すことができるのか。それは、話を聞いてから考えればいい。

 万丈は、バーサーカーとともに雁夜の肩を支え、冷たい風の吹く夜の冬木へと歩み出した。

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