仮面ライダービルド×Fate/NEW WORLD   作:おみく

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第16話「深層のデザイア」

 桜はもう、なにかを感じる、ということを放棄していた。

 体中の内と外を無数の蟲が這い回る。不快を叫び苦痛に涙を流したのも、今はもう随分と昔のことのように感じられる。

 はじめのうちはまだ両親か姉か、ともかく桜の身を案じてくれる誰かがこの地獄から救い出してくれるのではないか、そういう希望もあった。助けて欲しいと願い、声が枯れるまで叫び、涙が尽きるまで慟哭した。けれども、桜の声は誰にも届かなかった。

 蟲に嬲られはじめて三日もする頃には、もう声を出すことを諦めた。

 遠坂の屋敷で過ごした日々の記憶は、今はもう、ひとつの時代が過ぎ去り、それよりもずっと遠い昔に触れたかどうか、それくらいの微かな断片としか感じられない。ああいう平凡な日常を人は()()と呼ぶのだろうが、今はそれも夢幻のようにしか思えない。ただ、その記憶の断片の中で、今も鮮烈に桜の脳裏にこびりついているものがあった。

 それが、桜を送り出した父、時臣との最後のやりとりだ。

 生まれ育った屋敷から引き離され、敬愛する家族から遠ざけられ、見知らぬ家に養子に出されるとなったとき、桜は当然のように拒絶した。もう二度と、愛する母や姉とあの公園で遊ぶことはできないのだなどと、未だ五歳にも満たない桜が容認できるわけがなかった。

 けれども、時臣が桜の願いを聞き入れることはなかった。魔導の家に生まれた以上、桜には負うべき責任がある。これは桜のためだ。桜の幸福を思って、父は娘を間桐に送り出すのだ。時臣の言には有無を言わさぬ圧力があった。一家の大黒柱である時臣がなにかを決断した時、遠坂の一員は誰もそれに逆らえないことを、桜は幼いながらに理解していた。だから桜は、首を縦に振るほかなかったのだ。

 

 ――いい子だ、桜。

 

 桜を無事間桐に送り出せるとなったとき、時臣は安堵した様子で微笑んだ。その顔が、桜は忘れられない。

 結局のところ、桜は体よく()()()()()のだ。

 なにをやっても優秀で気品に溢れた姉に魔術を伝授するために、なにをやっても姉よりも劣っている桜は、魔術師として生きるため、人並みの幸福すらも剥奪されたのだ。

 どれだけ願っても唯一の希望たる父母は桜を救ってはくれず、桜が懐いたあらゆる望みは踏みにじられ、叶えられることはない。だったらもう、なにも考えず、ひたすら心を虚無に沈めてこの地獄をやり過ごした方が幾分マシであると、幼い桜は痛感した。

 いつからか桜は己の心を殺し、子供らしい希望を口にすることはなくなった。

 

「なんだよ、これ……なんで、あんな小さな子供が、こんな目に遭わされなくちゃなんねェんだよ!」

 

 雁夜の案内で屋敷の地下に敷設された工房へと足を運んだ万丈は、今まさに蟲に嬲られ、虚ろな瞳で天井を見上げる桜を見て、誰はばかることなく激怒した。

 万丈はいま、間桐の屋敷に迎え入れられた客人という立場にある。ライダークラスのサーヴァントでありながらマスターをも兼任する万丈は、当主である臓硯にとっても無碍にあしらえる存在ではない。聖杯戦争において、雁夜が同盟相手に選んだ男、という名目があれば、屋敷に忍び込むこと自体はさして難しいことではなかった。

 

「だから言ったろ、ライダー。狂ってるんだよ、魔術師ってのは。あんな小さな女の子を……ましてや自分の娘を、こんな地獄に放り込んでなんとも思わない。人の親のやることじゃない」

 

 雁夜の言葉に込められた憎悪の意味を、万丈は理解した。どうしてあれほどまでに時臣を憎むのか、どうして自分の命を犠牲にしてまで聖杯を求めるのか、その理由を。

 

「……それで、あんたが聖杯戦争に勝ち残ったら、あの子を解放するって……あのジジイはそう言ったのか」

「桜がこんな目に遭わされているのも、元を辿れば聖杯欲しさからだ。聖杯さえ手に入れば、臓硯が桜を苦しめる理由はもう、どこにもなくなる」

「それで……! 聖杯を手に入れたらあんたはどうなるんだ!」

「放っておいても俺はじき死ぬ。だが、桜をあの地獄から救い出せるなら……こんな生命に未練はない」

「……ンだよ、それ!」

 

 項垂れた万丈は、胸の奥にわだかまるやりきれない感情をどこへやっていいのかもわからず、握り締めた拳を石壁へと叩きつけた。

 

「これがますたぁの戦う理由です。ますたぁはもう、引き下がることはできないのです……あの子を、救うまでは」

 

 雁夜の背後で静かに控えていた和服の少女が、重たい口を開いた。今まさに、蟲蔵の底で夥しい数の刻印虫に体を嬲られている桜を見るバーサーカーの瞳が、見るに耐えないとばかりにそっと伏せられる。彼女の思いもまた、雁夜と同じであることを万丈は悟った。

 

「もうわかっただろ、ライダー。桜を救うためには、聖杯を獲る以外に道はない。だから俺は時臣を殺す……あの男がいる限り、あの子は何度でもこんな地獄に放り込まれる」

「違う! 遠坂さんが、こんなこと望むわけねェだろ!」

 

 雁夜は白く濁った瞳をきっと尖らせ、吠えた。

 

「お前もあのとき聞いただろう、ライダー! あの男は“死にも勝る修練”などというふざけた理由で自分の娘をこの地獄に放り込んだんだ! 結局あいつは、父親であることよりも、魔術師であることを選んだんだよ!」

「俺には魔術だなんだって難しいことはなにもわかんねェ。けどな、少なくとも、遠坂さんがこんなことを望んでるなんて……俺は信じねェ! 信じたくねェ!」

 

 万丈にはもう、これ以上語るべき言葉はなかった。ふたりに背を向けると、腹部に蒼炎が宿った。燃える龍の息吹が、万丈の思いに応えてビルドドライバーを精製する。

 

「なっ……ライダー、お前まさかッ!?」

「俺は遠坂さんに言ったんだ。桜が酷い目に遭わされてンなら、俺が救う。誰も傷付けさせねえって。だから俺は、その約束を守る!」

「やめろ、力技で解決するなら最初からやっている! それに、ここで強引に桜を奪ったとして、その先はどうする!」

「今度はあの人に約束して貰う! もう二度と娘を酷い目に遭わせるようなことはさせねえって!」

「そんな無茶が通るならはじめから苦労は――ッ」

「無茶でもなんでも、それをやンのが()()()()()()だろ!」

 

 雁夜の言葉と静止を振り切って、万丈はクローズドラゴンにフルボトルをセットし、ベルトへと叩き込んだ。変身待機音が鳴り響き、閉鎖された地下空間にけたたましく反響する。こんな騒ぎを起こせば臓硯に気取られるかもしれないとか、そういう後先のことは既に万丈の頭の中にはなかった。ただこの瞬間、万丈の心と体を支配した熱に身を任せ、叫んだ。

 

「俺が、みんな救ってやるッ!」

 

 この力は、ラブアンドピースのため、誰かの幸福を守るために使われるべき力だ。

 ここで苦しんでいる少女を見捨てるようでは、万丈はきっとこの先二度と仮面ライダーを名乗れなくなってしまう。それではこの力をくれた戦兎に申し訳が立たない。

 

「変身ッ!」

 

 背後から伸ばされた静止の腕を振り払い、万丈は眦を決し、石段から飛び降りた。

 宙に放り出された万丈の身を挟み込むように精製されたスナップライドビルダーが、即座にクローズの装甲を造り上げる。瞬く間にクローズへの変身は完了した。ビートクローザーを上段に構え、振り上げた刀身にごうと唸る蒼炎が宿る。

 

「オォォオオラァアアッ!」

 

 万丈はクローズの仮面の下で、自分自身を奮い立たせるように叫んだ。燃え盛る炎で、まずは眼下の刻印虫を焼き払ってやる。

 

「██▅▅▅█▀▀▀▀▀██▅▅▅███▅▅█▀████▃▃▃▅ッ!!」

 

 そのとき、猛り狂う猛獣を思わせる絶叫が、その場の全員の耳朶を打った。

 寸前まで誰もいなかった階下の闇から突如姿を現し、弾丸のように飛び上がった全身甲冑の黒騎士が、手に持った漆黒の大剣に無数の赤い毛細血管を血走らせ、クローズへと躍りかかる。

 

「ッ!!」

 

 刹那のうちに両者は激突した。蒼く燃えるビートクローザーと、黒騎士の大剣が激しくぶつかり合う。ほんの一瞬の拮抗ののち、剣を弾き飛ばされたのはクローズの方だった。

 

「な……ァ!?」

 

 空中で姿勢を崩したクローズの胴体を、黒騎士の甲冑に覆われた脚が蹴り飛ばした。砲弾のような威力だった。胴体がくの字に折れ曲がる。吹き飛ばされたクローズは蟲蔵の石壁へ背中を打ち付け、壁に巨大なクレーターを刻み込んだ。

 

「が、は……」

 

 地に落ちると同時に、肺の中に僅かに残った空気が吐き出される。

 はじめの激突の際、たまらず手放したビートクローザーは、地面に落下する前に黒騎士に掴み取られていた。見慣れた愛剣は瞬時にどす黒い闇に侵され、その刀身に真紅の毛細血管を血走らせる。

 

「なんなんだよ、コイツ……!」

「▀▀▀██▅▅████▅▅▅██!!」

 

 漆黒の剣と成り果てたビートクローザーを振り上げ、闇を纏った黒騎士が急迫する。すかさず地面を転がって回避すると、黒騎士の一撃は轟音を伴って石造りの地面を粉々に砕いた。

 起き上がったクローズを、黒騎士の猛攻が襲う。後退しながら回避するが、矢継ぎ早に繰り出される連撃の速度は凄まじく、間合いは瞬く間に詰められた。徒手空拳となったクローズは、いよいよ黒騎士に対抗する術を失った。

 

「▅██▅▅▅██▅███!!」

 

 両腕を前方に構え、防御姿勢を取ったクローズを、黒騎士の一閃が襲う。強大な膂力から繰り出される一撃は、クローズの装甲を容易く斬り裂き、血飛沫を思わせる火花が空に散る。

 

「うぉおおおぉ……ッ!!」

 

 防御姿勢を崩され、がら空きになった胸部を袈裟懸けに斬りつけられたクローズは、装甲を爆ぜさせ、火花を噴出させながら後退し、崩折れた。

 強制的に変身解除へと追い込まれた万丈の胸部を、黒騎士の鉄の足が踏み躙る。

 

「ぐ、お……ッ」

「ライダー!」

 

 雁夜の声が、飛びかけた意識を現実へと引き戻す。倒れ伏した万丈に、黒騎士は追撃をかけようとはしなかった。顔を上げた万丈は、黒騎士の姿をはじめてまともに直視した。一瞬遅れて、万丈は自分が敗北したことを悟った。

 万丈を打ち負かした黒騎士は全身を一分の隙もなく甲冑で覆っていた。顔を覆うフルヘルムの兜のスリットの奥には、鬼火のように爛々と燃える不気味な双眸の輝きがあった。

 

「少しは己の実力というものが知れたかのォ、ライダーよ」

 

 無数の虫が軋みを上げるような不気味な忍び笑いを漏らしながら、蟲蔵の階段を一人の男が降りてくる。萎びた老人の矮躯とは裏腹に、やせ細った髑髏のような顔には底の知れない剣呑な笑みが浮かんでいる。

 

「テ、メェ……間桐、臓硯」

「ほほう。些か短慮過ぎるきらいがあることは知れていたが、ワシの名前くらいは覚えておったか。善哉、善哉」

 

 万丈には難しい言葉の意味は理解できなかったが、自分が馬鹿にされているということだけは雰囲気から察することができた。立ち上がろうと上体に力を込めた万丈を押さえ付けるように、黒騎士が体重をかける。

 

「ッ」

「もうよい。下がれ、バーサーカー」

 

 臓硯の声ひとつで黒騎士は沈黙し、万丈から奪い取ったビートクローザーを投げ捨てた。黒騎士の手を離れた漆黒の剣から、その刀身を覆う闇が晴れてゆく。元の彩色を取り戻したビートクローザーは、そのまま粒子となって大気へと溶けた。

 

「――臓硯。俺の耳に狂いがなければ、あんたは今そいつを()()()()()()と呼んだのか」

 

 雁夜も、その傍らに控える和服の少女も、突如現れた見知らぬサーヴァントを油断なく睨めつけている。特にバーサーカーは、口元を扇子で覆い隠しながらも、その瞳は獲物を威嚇する蛇のように爛々と光らせている様子だった。黒騎士が少しでも雁夜に危害を加えようとすれば、即座にバーサーカーの炎が唸るのであろうことは容易に想像がついた。

 

「左様。このバーサーカーこそ、ワシが手ずから調練した秘蔵っ子。そこな()()()()()とはサーヴァントとしての“質”が違う」

 

 臓硯の杖が指す先にいるのは、雁夜が喚んだ和服の少女だ。あからさまに気分を害した様子で、清姫(バーサーカー)は冷たい声を発した。

 

「……なるほど、確かにこと戦闘における技量だけならばわたくしよりも勝ってはいるようですが」

「カカッ、そう気色ばむでない。おぬしとて曲がりなりにも間桐のサーヴァント。雁夜が聖杯を獲ると息巻いている限り、そう容易く切り捨てはせん」

 

 バーサーカーはあからさまに眉根を寄せた。不快を隠すつもりもないらしい。なにかを言おうとしたバーサーカーを片手で制し、雁夜は問いを投げる。

 

「あんたは今回の聖杯戦争は捨ててかかると言ったはずだ。それがどういう心変わりでそんなサーヴァントを味方につける気になった」

「いかにも。おぬしの言う通り、ワシの本命はあくまで次々回。今回は様子見に徹するものと決めておったが……蓋を開けてみれば、ほれ、この有様よ」

 

 臓硯の虚のような冷たい双眸が万丈へと向けられる。

 

「聖杯戦争とは、本来であれば七騎のサーヴァントで行われるもの。それが、今や八騎を通り越して、この冬木に召喚されたサーヴァントの数は十騎を超えておる……それどころか、斯様な一般人までもが英霊の座に召される始末」

「一般人で悪かったな!」

 

 吠え猛る万丈を嘲笑うように、臓硯は続ける。

 

「見ての通り、聖杯戦争のシステムは間違いなく狂いはじめておる。まずはその正体を突き止めることが寛容でな。そのためにも、まずはこの冬木を幽鬼の如く彷徨っていたこのバーサーカーから、ワシの傀儡にさせて貰ったというわけよ」

 

 雁夜は鼻を鳴らした。

 

「なるほど。流石に令呪を考案したあんたの手にかかれば、野良のサーヴァントひとり従わせるくらい造作もないってワケか」

「当然、タダというわけにもいかん。魔力供給の問題もあるでな。そこは()()()()()()()()刻印虫をふんだんに注ぎ込ませて貰ったわい」

 

 挑発的に、桜の純血を啜った、という言葉にアクセントを置いて語られた言葉を受けて、あからさまに表情を歪めたのは雁夜だった。

 

「カカカッ、元は消えゆく影とはいえ、瑞々しい魔力を惜しみなく注ぎ込んだワシのバーサーカーは、正規召喚されたサーヴァントとなんら違いはあるまい。或いは、遠坂のセイバーとも五分に戦えるやも知れんのう?」

 

 臓硯の言葉の裏に潜んだ明確な悪意に、しかし雁夜は言い返すことなく、歯を食いしばって堪えた。クローズに変身した万丈がこうも一方的に叩き伏せられる様を見せ付けられた直後だ。力技に訴えたところで勝算がないことは、他ならぬ雁夜自身も弁えているのだろう。

 

「あんたがなにに興味を持とうが勝手だ。だが、俺が聖杯を獲ったら、桜は解放して貰う。聖杯戦争のシステムが狂おうがなんだろうが、その約束だけは反故にはさせない……分かってるよな、()()()()

 

 たっぷりと皮肉を込めて、雁夜は憎々しげに父を睨んだ。

 

「安心せい。間桐の当主として、約束に二言はない……まあ、おぬしにできるなら、の話じゃがの」

 

 臓硯は現れたときと同じように忍び笑いを漏らしながら、踵を返した。無防備に背中を晒して、悠々と階段を登ってゆく。その態度が、雁夜や万丈など歯牙にもかけていないことの証左だった。

 蟲蔵の重い鉄扉に差し掛かったところで、臓硯ははたと立ち止まった。

 

「ああ、ひとつ言い忘れておったわ」

「なんだ、今日は随分と饒舌じゃないか」

 

 くるりと首を回し振り向いた臓硯は、口角を三日月のようににい、と歪めた。

 

「いやなに。おぬしには関係のないことやも知れんがの。遠坂の当主が、今更になって桜と面談したいなどと申し出てきおってな」

「なっ……」

 

 雁夜と万丈が、ほぼ同時に顔を上げる。臓硯は謳い上げるように言葉を続けた。

 

「大方、誰かになにかくだらぬ戯言でも吹き込まれたんじゃろうて。じゃがな、桜は既に間桐の娘。今更時臣めが弄言を呈したところで、なにも変わることはあるまい……のう、桜よ」

 

 臓硯の視線が、蟲蔵の中央の桜へと向けられる。桜はいつのまにか、己の脚で直立していた。とうに生気を失ったその目で、桜は最前までの戦闘など、なにごともなかったかのように言葉を返した。

 

「はい、おじいさま。私はもう、間桐の子です。遠坂に帰るつもりはありません」

 

 桜の冷たい声色からは、およそ感情の色は感じられない。心のない機械を彷彿とさせる、抑揚のない声だった。

 いったいどれほどの苦痛を味わえば、幼い子供が心を殺してそんな言葉を言えるのか、万丈には想像もつかなかった。誰も、なにも言えなくなった。しんとした静謐の中、臓硯の軋むような笑い声だけが蟲蔵に響き渡った。

 

 

 徐々に日が西に傾きはじめている。雁夜は客間のソファに深く腰掛け項垂れていた。

 思考がぐるぐると渦を巻いて、落ち着かない。雁夜が知る限り、時臣はどこまでも実利を優先する生粋の魔術師だ。あの男に家族に対する情愛などがあるとは思えない。けれども、いま、時臣は雁夜とバーサーカーとの接触を経て、桜に会おうとしている。いったいどういう風の吹き回しなのか、雁夜には理解が追いつかなかった。

 

「ますたぁ。もしも、もしもの話を致します」

 

 唐突に口火を切ったバーサーカーを、雁夜はまだ視力の残っている片目でちらと一瞥する。室内を落ち着きなく歩き回っていた万丈も、雁夜と同様にバーサーカーへ視線を向ける。

 

「もしも、遠坂時臣が桜の現状を知り、あの子を遠坂へ連れ戻すという判断をされたなら……ますたぁはいったい、どうなさるおつもりなのですか」

「――ありえないッ!」

 

 ほぼ反射的に、雁夜は声を荒げた。

 

「あいつは、自分の娘を自分の手で悪魔に売り渡したんだ……それが、今更、そんな、そんな都合の良い話があるものか……!」

 

 時臣を否定したいという、ただその一心で雁夜は吠えた。

 

「ますたぁ……」

「桜がああなったのだって、そもそもの原因は時臣だ……遠坂へ連れ帰ったところで、また同じことが繰り返されるに決まっている!」

 

 雁夜の胸中は今、時臣を認めたくない、という思いで満たされていた。

 時臣が桜を救う。そんな事実を認めるわけにはいかない。なにしろ雁夜は時臣への憎悪を糧に、体を極限まで酷使し、本来であれば十年かかっても足りない調練をたったの一年で積み上げたのだ。

 桜のために。

 その大義名分がなくなってしまえば、雁夜はもう、二度と立ち上がれはしない。桜からも必要とされなくなった雁夜は、ただ時臣への憎悪を吐き散らす悪鬼と成り果てて、同じく聖杯戦争に挑むただの敵のひとりとして討たれて終わる。そんな結末だけは、断じて受け入れるわけにはいかない。

 

「死ぬのは怖くない。未練もない。だが、そんな結末だけは……そんな結末だけは、認めるわけにはいかない……!」

「じゃあ、どうすんだ。桜を連れ帰ろうって遠坂さんを、それでもあんたは殺そうっていうのか」

「そ、んなこと……っ」

 

 単純な問いであるはずなのに、答えられず、口を噤んでしまったことに、一瞬遅れて雁夜は驚いた。

 絶望の日々の連続で心を閉ざした桜に、ようやく希望の光が差し込もうというのだ。それを、雁夜の憎悪ひとつで摘み取っていいはずがない。そんなことはきっと、葵も望まない。それくらいは雁夜にだってわかる。

 

「くっ……、俺は……ッ」

 

 雁夜は頭を抱えた。

 時臣は許せない。だが、桜には救われて欲しい。二律背反の感情が雁夜の思考を混濁させる。

 

「あんたもホントは分かってんだろ。遠坂さんを殺したって桜は喜ばねェ。あんたがやろうとしてるのは、桜から父親を奪うことなんだって」

「そんなことは分かっている! それでも、桜には……あの姉妹にはまだ母親が、葵さんがいる! 時臣さえいなくなれば、あの親子はまた、あの公園で笑って過ごせるんだ!」

「それを、桜は望んだのか。凛は、その葵さんって人は!」

「ッ」

 

 なにか言い返そうとしたが、言葉は雁夜の口から出てこなかった。返答に窮した雁夜は、血走った目を見開き、万丈を凝視するしかできない。

 万丈は、雁夜の肩を掴んだ。その真っ直ぐな視線が、じっと雁夜の瞳を見つめ返す。

 

「なあ雁夜。どんな理由があったって、あんな小さい子から父親を奪うことが正しいことだとは、俺は思えねェ。それでもあんたがあの人を殺すっていうのなら……俺は、あんたと戦わなくちゃならなくなる」

「だったら勝手にすればいい。俺は、お前に味方になってくれと頼んだ覚えはない」

「なんでわかんねェんだよ……!」

 

 雁夜の胸ぐらを、万丈が掴み上げた。死にゆく雁夜には、万丈の膂力に逆えるだけの体力などは存在しない。万丈は、叫んだ。

 

「俺は、あんたと戦いたくねェんだよッ!」

 

 真正面で叫ぶ男から、確かな熱を感じた。雁夜が失望した魔術の世界では、どれだけ探そうともついぞ出会うことのできなかった魂の熱量。混濁していた思考の一切が吹き払われ、雁夜の意識のすべてが眼前の熱血漢へと向けられる。

 

「あんたがほんとは優しい人だってことは知ってる! あんたが桜のために自分を犠牲にしてきたことも知ってる! だったら俺だって気持ちは同じだ……! あんたと一緒に戦いたい! 俺は、あんたと一緒に、あの子を救いてェんだ!」

「ライ、ダー……」

「そのために、俺と、あんたと、遠坂さんと……三人の力を合わせて戦う! それのどこに問題があンだ!」

「な……ッ」

 

 考えたこともない、考えようともしなかった新たな可能性。

 時臣を殺すでもなく、協力して臓硯に反旗を翻し、桜を奪い返す。あの圧倒的な戦闘力を誇るセイバーと、クローズに変身するライダーの力を借りれば、或いは。そういう考えが、一瞬雁夜の脳裏をよぎる。

 

「……だめだ。俺は、時臣を許せない。仮になにかの間違いで桜を救い出せたとしても、あの男は結局、何度でも繰り返す。幼い桜の幸福を、凡俗の一言で貶めたあの男は……!」

 

 万丈は、雁夜の胸ぐらを突き放した。突然放り出された雁夜の背が、ソファに沈み込む。

 

「だったら、俺が遠坂さんの真意を確かめてきてやる」

「は――?」

 

 一瞬、なにを言われたのか理解が追いつかなかった。

 雁夜が当惑しているうちに、万丈は踵を返して去ってゆく。客間のドアの前に立ったとき、万丈は振り返った。

 

「もし、遠坂さんが二度と桜ちゃんを苦しめないと約束したら……そンときは、あんたにも一緒に戦ってもらう」

「はっ……無理だ、あの完璧主義の魔術師が、人に言われたくらいで自分の考えを曲げるわけがない」

 

 吐き捨てるように諦念を口にした雁夜を一瞥した万丈は、それ以上なにも言わず、勢いよくドアを開け放ち、飛び出していった。

 姿勢をただし、よれたパーカーの襟を整える。ふいに、バーサーカーが雁夜の隣に腰掛けた。

 

「ますたぁ。ひとつ、わたくしに教えてくださいますか」

「……なんだ、バーサーカー」

 

 穏やかな口調。狂戦士とは思えない少女の声音に、雁夜は深く息を吐きながら応えた。

 

「わたくしはかつて、大きな過ちを犯しました。愛憎に狂い、蛇の化生へと成り果て……愛する殿方を、この手で――」

「ああ知っているさ。有名な伝説だからな……俺がお前に殺された男の生まれ変わりだ、なんて話は馬鹿馬鹿しい与太話もいいところだが」

 

 バーサーカーはくすりと微笑んだ。その微笑みの意味が、雁夜にはわからない。

 

「ただ衝き動かされるまま、わたくしは己の欲望を貫きました。生前のわたくしには、ほかの選択肢など目にも入らなかった。憐れなことに、清姫という娘は、そういうふうにしか生きられない女だったのです」

「バーサーカー……」

 

 安珍清姫伝説。

 愛する男に裏切られた怒りから、燃える蛇の化生へと成り果てた少女の物語。ただ、男に振り向いて欲しかった。それだけの祈りも届かず、嘘に嘘を重ねられ、最後には愛憎の炎で男を焼き殺し、自らの命をも絶ってしまった、あまりにも壮絶な人生。

 雁夜が喚んだバーサーカーとは、その安珍清姫伝説に語られる蛇の化生だ。

 彼女を召喚した夜、出会い頭にマスターである雁夜を安珍だと宣ったときには流石に頭が痛くなる思いだったが、それでも雁夜は自分が安珍であると偽ることはしなかった。

 雁夜は、いつだって自分の気持ちには正直に生きてきたつもりだった。魔術の世界に嫌気がさして逃げ出したことも、遠坂葵とその娘たちの幸福を心から祈ったことも、今こうして自分の命を消費してでも時臣に対し憎悪を燃やしていることも、すべては心のままに走り続けてきた結果だ。自分の生きざまに嘘をつこうと思ったことは、ただの一度だってありはしない。

 嘘を極端に嫌うバーサーカーのためにそうしようと思ったわけではない。今こうして、彼女と正面から向き合えるのもまた、雁夜が歩んだ人生がもたらした結果だった。そのバーサーカーが、真っ直ぐ雁夜を見つめている。

 

「――遠坂時臣を殺し、聖杯を獲って、あの子を救い出したところで、これより死にゆくますたぁが得るものなどなにもなく。そうまでして幸福を祈った女性が、果たして心から喜んでくれるのかどうか……もう、それすら知る術はないというのに」

「……そんなことは、言われなくてもわかっている」

「では、なぜ。どうして、ますたぁはそうまでして、死に急ぐのですか」

 

 バーサーカーの問いは、雁夜の原初の祈りに触れるものだった。

 雁夜はこれまでただ生きたいように生きてきた。自分の行動の結果になにが待つのかなんて、十年前は考えようとも思わなかった。雁夜が魔術を拒み、欲望のままに放蕩した結果として、間桐は家督を継ぐものを失った。時臣はそんな間桐に桜を養子として引き渡してしまった。それが雁夜の人生がもたらした結果だ。だから、雁夜は戦うのだ。

 贖罪のためといえば聞こえはいい。だが、それだけでないことを雁夜自身も理解している。いつか失った恋慕の情を憎悪へと変えて、憎しみの炎を糧と成し、命を燃やして戦う男。

 あまりにも不器用で、あまりにも馬鹿正直で、あまりにも愚かな人生。けれども、それこそが雁夜という人間の本質だった。

 

「ああ、わかってる……わかってるさ。俺は結局、どこまでいっても自分のためにしか戦えない。桜のためだなんだって言っても……結局俺は、こういうふうにしか生きられないんだ。今までそうしてきたように、これからも――きっと、俺は、自分の存在を懸けて、戦い続けることをやめられない」

 

 脳裏を、雁夜が知るはずのない情景がよぎった。

 たったひとつの想いを胸に屋敷を飛び出し、裸足のまま野を駆け、森を抜け、大河すら渡り、化生と成り果ててでも己の生きざまを貫き通した少女の記憶。

 いつか雁夜が夢に見た心象風景。

 

「――ああ、そうか」

 

 ぽつりと零す。

 あの夜、なぜ清姫が雁夜の召喚の喚び声に応えてくれたのかを、雁夜はいま、はじめて理解した。

 バーサーカーは、静かに立ち上がった。薄い微笑みを浮かべたまま、その細い腕で雁夜を抱きしめる。雁夜の視界が、薄緑の布地で埋め尽くされる。バーサーカーの声は、微かに震えていた。

 

「どうか、どうかあなた様は、わたくしのように間違えないで」

 

 抱き締め返すつもりにはなれなかった。どんな言葉を返すのが正解なのかが、雁夜にはわからなかった。清姫の人生を知ったからといって、彼女がなにを思うかなど、雁夜にわかるはずもない。慰めの言葉を吐いたところで、薄っぺらい上っ面の嘘にしかならないように思われた。

 

「あなた様には、まだ、選び取れる道があるはずです……その道を、どうか見失わないで」

 

 既に機能を失いつつある表情筋を吊り上げて、雁夜は不器用に笑った。乾いた笑みを零す。

 

「選択肢があったとしても……俺はきっと、俺の生きざまを貫くことしかできない。笑っちまうよな、憐れな男だ、って。お前が選んだマスターは、そういう生き方しかできない男なんだ」

 

 蟲に侵され、とうに感覚の薄れた細腕で、力なく清姫の背を撫でた。

 

「――だが、それでも。お前は最後まで俺に付き合ってくれるか、清姫」

「ええ、ええ。わたくしはあなた様のサーヴァントですから。いつかますたぁが果てるその刹那まで、わたくしは、あなた様のおそばにおります」

 

 これからどんな決断を迫られようとも、雁夜の望みは変わらない。ただ、大切な人たちが笑って過ごせる世界を取り戻したい。その過程でどれほどの矛盾を孕もうとも、それでも雁夜は、ただ前だけを見て突き進むしかできないのだ。

 

   ***

 

 聖杯戦争の監督役という立場を任されている言峰璃正が、誰にも告げずに姿を晦ましたまま、夕刻を過ぎても帰ってこないという状況は、息子である綺礼からしても十分に異常と呼べる状況であった。

 自室のソファーに腰掛けた綺礼の傍らに、見知ったサーヴァントが姿を表す。髑髏の面で素顔を覆い隠した長髪の女だ。多くのハサンの中から、綺礼がその能力を有用と見込んで側近として見繕った者である。

 

「綺礼様」

「どうだ、アサシン。父上の行方は知れたか」

「いえ。街中を探させているのですが、依然として」

 

 そうか、と綺礼は低く唸った。

 間が悪い、と思わずにはいられなかった。アーチャーやランサーとの連戦でアサシンの数自体が減らされているということもあるが、次にいつ攻めてくるかも知れないキャスター陣営の侵攻に備えて、アサシンを要石の要所に配置していたことが仇となった。よもや監督役の拠点たる教会内にいる神父が、白昼堂々姿を消すことになるだなどと予想だにしなかったのも事実だが、このまま監督役不在で聖杯戦争を進めるわけにはいかない。

 綺礼は肺にわだかまった空気を吐き出し、目線を伏せる。

 今にもキャスターが攻めてくるかもしれないというこの状況で、監督役は姿を消し、通信機越しに会話した時臣にはどうにも心ここにあらずといった印象を懐いた。懸念事項が多すぎる。

 先の通話の折、時臣はここでキャスターとランサーを確実に始末するために、残るアサシンをすべて使い潰すという判断を下した。けれども、土地の霊脈を守るためとはいえ、未だ能力の全容を明かしていないサーヴァントがいる段階で、アサシンという手札をすべて切ってしまうことは、賢い選択だとは思えない。逆に言えば、それだけ時臣が焦っているという証左でもある。

 

「畏れながら、綺礼様」

「なんだ」

「次回のキャスター陣営との戦闘についてですが。綺礼様は、本当に我らハサンをここですべて使い潰すつもりでおいでですか」

 

 これまで粛々と諜報活動をこなし続けてきた髑髏の女からの問いかけに、綺礼は僅かに視線を揺らした。アサシンの声音に不満が込められていることは明白だったからだ。

 

「なぜそんな質問をする。私が今まで導師の意にそぐわなかったことが一度でもあったか」

「いえ……ただ、いつになく神妙な面貌で悩まれているご様子でしたので、もしやかの采配になにか思うことでもあるのでは、と。畏れながら勘繰らせていただいた次第にございます」

 

 綺礼は笑みを零さずにはいられなかった。

 

「重症だな。お前にそんな勘繰りをさせるほど、私の悩みは顔に出ていたか」

 

 アサシンは言葉もなく、微かに頭を下げた。肯定の意を示しているのだろう。

 

「言わずとも、お前の望みは分かっているつもりだ。聖杯に手を伸ばすことなく、ここで全滅させられることの是非を問いたいのだろう」

「は……仰せの通りにございます」

「私の決断は変わらない。我が導師の采配に異を唱えるなど、弟子としてあってはならないことだ」

 

 正しく、美しくあれと願って生きてきた綺礼にとって、己の道を指し示してくれる恩師の判断に勘繰りを入れること自体が、下衆の行動にほかならない。なによりも、そんなことは璃正神父が望まない。

 

「では、衛宮切嗣の件はどうでしょう」

「……なに?」

 

 予期せぬ名前が飛び出たことに、綺礼の表情から笑みが消えた。

 

「綺礼様は、個人的に衛宮切嗣の動向を監視していたことを、導師に告げられてはいないように見受けられます。失礼を承知で申し上げますが、その行動にはなんらかの利己的な理由があったのでは、と勘繰らずにはいられませぬ」

 

 綺礼は黙り込んだ。

 流石に聖杯戦争が始まって以来、粛然と綺礼のそばに仕え続けた側近だけのことはある。綺礼が下した命令のひとつひとつに意義を見出そうとし、その中でも整合性の取れない命令に対しては、内心で疑念を抱き続けてきたのだろう。考えてみれば、綺礼は敵である筈の衛宮切嗣をシャドウランサーから保護する、という理由で多くのアサシンを使い潰したのだ。アサシンが疑念を抱くのも当然と思われた。

 綺礼はふと、いつかの石動の言葉を思い出した。

 もしもいま、なんでも好きなことができるとしたら、自分はいったいなにがしたい?

 ――その問いの解に最も近い位置に存在して人間こそが、他ならぬ衛宮切嗣という男なのだ。ここで時臣に従いアサシンを全滅させ、時臣のセイバーがアーチャー陣営を殺し尽くすようなことがあれば、綺礼が望む解に辿り着くことはできない。

 綺礼は乾いた笑みをひとつ零すと、アサシンに向き直った。

 

「流石に鋭いな。だが、お前にしては浅慮な問いであると言わざるを得ない。ここで私がもしお前に“謀反の意思あり”と判断したらどうする? 次回の戦闘を待たず、ここで脱落してしまう可能性を考えなかったのか」

「その可能性も考慮の上で申し上げておりまする。どのみち、このまま次回の戦闘を迎えれば、我らハサンの望みは潰えるのみでございましょう」

「なるほど。その覚悟あっての問い、というわけか」

 

 アサシンは頭を垂れたまま、微かな首肯で答えた。

 

「……安心しろ。私にお前を責める意図はない。聞かれて困る相手は、現状不在だからな」

 

 時臣と同盟を結んだ厳格なる父、璃正はここにはいない。監視の目がなくなった今、己が傀儡と向かい合う機会を得られたのはこれがはじめてだった。

 

「私には……私自身がわからないのだ。信心を得るためと称し、試練に身を置いたところで真理には程遠く、いかな克己と献身をもってしても、私を救う福音は鳴り響かず。挙げ句の果てに、師の目を盗み、敵である筈の男にまで解を求め彷徨うなど」

 

 時臣に秘匿してまでアサシンを独断使用し、衛宮切嗣に迫ったのは綺礼自身が救いを求めていたからだ。自分は何者なのか。どうすれば満たされるのか。その手掛かりを、己と似た環境に身を置き過酷な戦場を巡礼し続けた男に求めたのだ。そんな自分勝手な目的のために戦闘に駆り出され、敵であるはずの衛宮切嗣を保護するためにアサシンの大半を使い潰してしまったことを思えば、アサシンの不満も納得できる。

 

「その意味では、私もお前と同じだよ、アサシン。だからわかる。お前の苦悩も、解に辿り着かんと願うその心も」

 

 総勢にして九十にも迫る、分裂したハサン。うち、この世に生を受けたとき、最初に存在していた“一”とはいったい誰なのか。自分一人ではどれだけ考えあぐねても答えの出ない問答を、その解を、万能の願望器に託す。それが、百貌のハサンと呼ばれる“彼ら”の願い。

 綺礼には、なぜ聖杯が自分に令呪を託したのかがわからない。けれども、なぜ自分の呼び声に歴代ハサンの中から“百貌”が応えたのかはわかる。

 共感や同情を懐くつもりは微塵もないが、理解だけはできてしまう。

 

「――気が変わった。私からお前に提案がある……導師には内密にな」

 

 或いはそれは、ほんのささやかな気の迷いか。未だ己の深遠なる願いがどこにあるのかはわからないが、それでももう少しだけ足掻いてみるのも悪くないように思われた。

 アサシンは、綺礼から告げられる新たな指示に聞き入り、その髑髏の面を僅かに揺らした。彼女という“個”がなにを思うか、綺礼にはわからない。やがて短く了承の意を示したアサシンは、綺礼の足元に傅き、そのまま姿を消した。




【Servant Material】

サーヴァントの情報が開示されました。

【CLASS】バーサーカー
【真名】清姫
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具EX

【クラス別スキル】
●狂化:EX
 理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
 清姫の場合、意思疎通は完全に成立するが、マスターを「愛する人」と見定め、嘘をつくことを禁ずる。
 それを破ればどんな嘘でも必ず見破り、令呪を自動的に一つ消費させる。

【保有スキル】
●変化:C
 文字通り「変身」する。
 清姫の場合、東洋の低級竜に変身する。足が生えている間はひたすら走るが、足がなくなると地を這いずり、炎をも吐き出す。部分的に変化させることも可能。

●ストーキング:B
 愛した標的を追い求め続けるためのスキル。
 戦闘面では敵単体の防御力がダウンする代わりに、敵単体の攻撃力をアップさせる。

【宝具】
転身火生三昧(てんしんかしょうざんまい)
ランク:EX 種別:対人宝具(自身) レンジ:0 最大捕捉:1人
 炎を吐く大蛇、即ち燃え盛る竜への変身能力。とりわけ口から吐く炎の威力は凄まじい。
 清姫は竜種の血を引いていないただの人間だったが、恋焦がれた人間へのあくなき執念と「思い込み」によって竜に転身することができた。
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