仮面ライダービルド×Fate/NEW WORLD   作:おみく

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第22話「皇帝・ゴールデンフィーバー」

 空に浮かぶ月は燃え立つような赤に染められ、周囲には薔薇の花吹雪が吹き荒れる中、恐れも、痛みも、そして悲しみすらも、なにひとつ感じさせることのない凛とした宣戦布告が響いた。

 アルターエゴとして現界したネロは、その瞳にギラついた闘志を宿し、右手を高らかに掲げる。

 

「キバット、タツロット!」

 

 ネロの呼び声に応えるように、彼方から黄金色をした蝙蝠と小竜が飛来する。

 

「久々に、キバっていくぜッ!」

「びゅんびゅーん、いつでもあなたの元へ!」

 

 ネロは蝙蝠(キバット)をその右手に掴み取ると、己の左手へとあてがった。左手へと突き立てられた蝙蝠の牙が、ネロの全身に眠る膨大な魔皇力を目覚めさせる。首筋から頬にかけて毛細血管にも似たステンドグラスの紋様が奔ると同時に、腰元には何重にも重ねられた鎖が纏わり付いていた。

 

「ガブッ」

「変身」

 

 鎖が変じた真紅のベルトに蝙蝠を装着すると、周囲を滞空していた小竜は自らの意思でネロは左腕へと収まった。ベルトを中心に、黄金に輝く波紋が大気中に波打つように広がってゆく。

 一瞬の後、ネロの体は眩い煌めきとともに黄金の鎧に覆い隠された。溢れ出る魔皇力が、炎のオーラとなって鎧を中心に吹き上がる。

 

「キバ……ッ!」

 

 憎々しげに、セイバーの変じた闇のキバ(ダークキバ)がその名を呼んだ。

 対するネロが変身を遂げた黄金のキバ(エンペラーフォーム)は、その鎧に闇のキバと酷似した意匠を纏いながらも、全身は黄金と真紅に彩られ眩く煌めいている。漆黒の闇そのものを鎧にしたようなダークキバとは対称的に、黄金の輝きをそのまま鎧に閉じ込めたような、光り輝くキバがそこにはいた。

 振り上げた魔皇剣の鍔を掴むと、キバエンペラーは勢いよくそれを剣先へ向かってスライドさせる。鍔となって取り付いているザンバットバットの牙に研磨された刀身は、魔皇力の赤い輝きを宿す。

 

「ハァッ!」

 

 キバエンペラーは、真紅に輝く魔皇剣を横一閃に振り抜いた。

 魔皇力のエネルギーが、斬撃の衝撃波となってダークキバへと奔る。ダークキバの魔皇剣に、ザンバットバットはない。だけれども、なんの予備動作もなしにエンペラーと同等の輝きを刀身へと纏わせると、ダークキバはそれを縦一閃に振り下ろす。

 両者の魔皇力が激突し、爆発が起こった。その爆音をゴング代わりに、キバエンペラーは宿敵目掛けて飛び掛かった。

 

「ハッ!」

「ぬうッ!」

 

 両者のザンバットソードが激突し、魔皇力の閃光が舞い散る。

 魔皇剣は、接触した敵の魔力を自ら吸いに行く性質を持つ、命喰らう魔剣だ。魔力を原動力とするすべてのサーヴァントの天敵と呼べる特性だが、それが魔皇剣同士の激突であれば、互いの魔力を喰い合うだけに終わる。ダークキバが今まで誇っていた優位性のひとつが失われた瞬間であった。

 ダークキバのザンバットを跳ね上げたキバエンペラーは、すかさずザンバットによる斬撃を振り下ろす。虹色に煌めく魔皇石でつくられた刀身が、ダークキバの胸部装甲を斬り裂き、火花が舞い上がる。

 

「ハッ、黄金のキバとはその程度か!」

 

 即座に繰り出された反撃の一撃が、キバエンペラーの鎧を斬り裂き、火花が上がる。いかな魔皇剣とはいえ、核爆発の直撃を受けても傷一つつかないキバの鎧を、ただの斬撃で傷付けることなどできはしない。

 互いの魔皇剣をぶつけ合わせ、時折鎧を斬り付けることには成功するが、互いに火花が散るだけで決定打は与えられない。それでも膂力の差で押されているのは、キバエンペラーの方だった。

 

「やはりな。黄金のキバといえども、所詮は闇のキバを元に造られた鎧……ましてや、鎧を纏う者が貴様のような紛い物では、宝の持ち腐れというもの」

 

 ダークキバの魔皇剣が、再びセイバーの魔皇力を吸い上げ、その刀身に真紅の煌めきを宿した。キバエンペラーはすかさずザンバットバットで魔皇剣を研磨し、同様に真紅の輝きを纏わせるが、己の意思一つで魔皇力を充填できるダークキバと比べて、キバエンペラーの方が一手遅い。

 両手で魔皇剣を上段に構える。その上から、ダークキバの魔皇剣が叩き付けられた。

 

「ぐ……ッ」

 

 魔皇力の閃光が一気に弾け、炎のオーラが爆風となって拡散する。ダークキバは流れるような動きで、赤熱したままのザンバットソードを横薙ぎに振り払い、キバエンペラーの防御をすり抜けてその鎧を斬り付けた。

 

「フン!」

「が……ッ」

 

 鎧の表面で魔皇力が爆裂し、キバエンペラーの体が吹き飛ぶ。すかさず宙空から飛び出した黄金の鎖が、空中に浮かんだキバエンペラーの四肢を絡め取った。

 ダークキバは、魔皇剣の切っ先をキバエンペラーへと突き付けるように掲げた。背後に、無数の黄金の歪が生じ、そこから数えるのも億劫になるほどのザンバットソードが飛び出し、キバエンペラーの鎧へと殺到した。

 

「ぐっ、ぁああああああッ!」

 

 天の鎖(エルキドゥ)を解除すると同時に、キバエンペラーは今度こそ吹き飛び、鎧から白煙を上げながら地べたを転がった。並のファンガイアならばとうに死んでいる威力の攻撃を雨のように浴びせられたのだ。頑強なキバの鎧を突き抜けるには至らないが、大量の魔皇剣を叩き付けられたことで、鎧越しに魔力が吸い上げられているのを、ネロは実感し、呻いた。

 数歩前進したセイバーは、ダークキバの仮面の下でくつくつと嗤った。

 

「所詮貴様は紛い物の皇帝。真のファンガイア皇帝(キング)は、ただひとり……この(オレ)だ」

 

 両手で構えたダークキバの魔皇剣に、膨大な魔皇力が注ぎ込まれてゆく。あまりにも強大過ぎる魔皇力の奔流は、たちまち魔皇剣から溢れ出し、突風となって渦を巻く。

 今しがたキバエンペラーから吸い上げた魔力をも自らの糧として、セイバーは膨大な魔力消費を強いられる大技を放とうとしている。対するネロは、まだ宝具すら発動していないというのに、既に魔力を大幅に消耗させられている。

 

「まずいぞ、アルターエゴ! 奴は再び宝具を撃つつもりだ!」

 

 後方で、キャスターが叫んだ。逃げろ、と言いたいのであろうことはネロにもわかる。

 ネロは己のザンバットを地面へと突き立て、身を起こした。ダークキバを中心に渦巻く圧倒的な魔力の風が、キバの鎧を突き抜けて、その素肌を総毛立たせる。

 だけれども、キバエンペラーに後退の選択肢はなかった。本能的に鎌首をもたげた恐怖心すらも己の胆力で呑み込んで、キバエンペラーは二本の足で地を踏み締め、立つ。

 

「言ったはずだ、キング……お前は、僕が倒すと。誰かを虐げ、力で支配するしかしなかったお前に、皇帝(キング)の資格はない……!」

「ほざくなよ雑種、紅音也はもう死んだ。今更貴様ひとりが喚ばれたところで、この闇のキバを前になにが出来る!」

 

 ネロは――紅渡は、かつて、父である紅音也とともにキングを打ち倒した。

 父は、我が子の未来のため、己の身を焦がす愛を貫くため、自らの命をも燃やし尽くしてダークキバへと変身し、渡の変身するキバエンペラーとともに戦ったのだ。

 ふたりのキバが力を合わせてようやく撃破するに至った最強にして最大の強敵。あらゆる魔族を滅ぼし尽くし、たったの一代でファンガイアを至高の魔族へと押し上げた一族の英雄王。それが、ファンガイアのキングだ。

 それでも。彼我の圧倒的な戦力差を理解してなお、ネロは宿敵を前に一歩も引かず、もう一度剣を執る道を選んだのだ。

 

「僕は……ひとりで戦ってるんじゃない」

 

 渡の背中を押して、今もこの胸の内で消えることのない音楽(メロディ)を奏で続けてくれる人がいる。その音楽を美しいと認め、渡に力を貸してくれた英霊がいる。

 なによりも、守護(まも)るために戦いに、渡の力を必要だと求め、喚んでくれた人がいる。

 それを心に思い浮かべたとき、絶対に負けられない、負けてはならないという強い感情が、心の奥底から湧き出てくるのを感じた。

 

奏者(マスター)ッ!」

 

 セイバーの猛り狂う魔皇力の嵐を前にして、ネロは高らかに叫んだ。

 瞬間、心が通じた気がした。ネロを喚び出した者たちの願いが、この心へと流れ込んでくる。

 愛と平和を守りたいと強く願う心が、美しいメロディとなって伝わってくる。

 

「――ったく、サーヴァントが戦ってるってのに……マスターの俺が、おちおち寝てるわけには、いかねえよなあ……!」

 

 目を覚ました桐生戦兎が、キャスターに支えられながら立ち上がった。左手に刻まれた令呪が、燃え立つように光り輝いている。

 キバの仮面の下で、ネロはほんの一瞬、頬を緩めた。そして、すぐに気を引き締め直し、眦を決して眼前のダークキバを睨め付ける。

 

「僕に、魔力をッ!」

「ああ、わかってる。ここが令呪の使いどきだっていうんだろ……!」

 

 たったの一言で、ネロと戦兎は意思を通わせた。ネロがなにを求め、叫んだのかを、マスターである戦兎は汲み取ってくれたのだ。その願いの強さに呼応するように、戦兎の左手に宿った輝きは光度を増す。

 

「令呪を以て命じる……アルターエゴ、ネロ・クラウディウス!」

 

 名を呼ばれたネロは、膨れ続ける真紅の魔力に真っ向から向かい合ったまま、次の言葉を待つ。

 煌々と輝く令呪を眼前に構え、拳を握り込んだ戦兎は、今もっともネロが求める願いを、高らかに叫んだ。

 

「――あのセイバーを、倒せッ!」

 

 キバエンペラーは、力強く、決然と頷いた。

 瞬間、戦兎の左腕に刻まれた令呪の一画が、燃えるように剥がれ落ちていった。それと引き換えに、膨大な魔力がネロの根幹へと流れ込んでくる。

 全身に、力が漲ってゆく。宿敵キングを倒すために必要な魔力が、令呪を通してネロの体を満たしてゆく。

 

「宝具の発動なぞさせるものか。貴様はここで絶滅せよ……!」

 

 既に魔力の充填を完了し、魔皇力の嵐の中心で、魔皇剣を高く振り上げたダークキバに対し、キバエンペラーはザンバットソードの切っ先を勢いよく地面へと突き刺した。真紅の魔力が一気に膨れ上がり、キバエンペラーを中心に半球を形成する。

 半球は瞬く間に巨大化し、セイバーを、後方で待つキャスターらを、戦いの場である柳洞寺をも呑み込んだ。

 英霊ネロ・クラウディウスは、謳うように叫ぶ。

 

「我が才を見よ! 万雷の喝采を聞け!」

 

 周囲のすべてがなにもない虚無の暗闇へと落ちる中、激戦の余波で捲れ上がった石畳が、周囲を取り巻く無数の木々が、後方に座する巨大な柳洞寺の本殿が、この世に存在するあらゆる物質が、零と一のみで構成された電子のグリッド線へと姿を変えた。

 

「インペリウムの誉れをここに! 咲き誇る華の如く……!」

 

 ネロを中心に、この電脳世界におけるフィールドデータが急速に書き換えられてゆく。

 薄緑のグリッド線となった世界の上に、強制的に黄金の曲線が投影され、上書きしてゆく。新たに描かれた曲線は実体を持ち、最前まで形成されていた景色は完全に消失した。

 

「開けッ、黄金の劇場よ!」

 

 ネロの叫びとともに、周囲のフィールドデータの書き換えが完了した。

 もはや、夜空に浮かぶ満月も、連戦による激戦区と化していた柳洞寺も、どこにも存在しない。

 真紅の床材に彩られた、黄金の劇場。吹き荒ぶ薔薇の花吹雪の中、その広大なホールの中心に、ふたりのキバは立っていた。

 

「なッ……馬鹿な!? これは……この場所はッ!」

 

 キバエンペラーの後方に位置する、燭台の明かりに照らされた真紅の玉座を見たとき、セイバーはついに狼狽の声を上げた。

 決してセイバーが知るはずのない招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)。しかし、この玉座を、かのセイバーが知らないわけがない。

 玉座に、真紅の薔薇の花弁がうず高く降り積もってゆく。劇場の中心に再現されたのは、黄金の皇帝(ネロ・クラウディウス)に体を貸し与えた紅渡にとっても見慣れた景色。

 ここは、ネロによって展開された黄金劇場。皇帝のためだけに存在する絶対皇帝圏でありながら、王の居城(キャッスルドラン)でもあるのだ。

 

「この場所に再現されたのは、僕らもよく知るキャッスルドランの心象風景。それが何を意味するか、これからお前は身をもって知ることになる」

「それがなんだというのだ! 貴様の宝具で再現されたキャッスルドランなど、我が魔皇剣の一撃で――ッ」

 

 言いかけたセイバーは、そこで言葉を詰まらせた。

 魔皇剣に集約した真紅の魔皇力が、霧散してゆく。ひとたび放てばあらゆるものを灰燼に帰す圧倒的な魔力の奔流が、まるで最初から存在しなかったように消失し、振り上げたザンバットソードは元の無色の刃へと戻ってゆくのだ。

 輝きを失った魔皇剣を見上げ、ダークキバはその切っ先を降ろし、凝視する。

 

「何故だッ、何故……我が魔皇剣から、輝きが失われてゆく……!?」

「当然だ。この場所は長年に渡ってザンバットを封印し続けてきた王の居城! この空間にいる限り、お前はザンバットの力を振るうことはできないッ!」

 

 魔皇剣を突き付け、キバエンペラーはそう高らかに宣言する。

 

「この場所にザンバットを封じたのは、キング……お前自身だ」

「な……ッ」

 

 キングはかつて、自らへの戒めとして、このキャッスルドランにザンバットソードを封印した。この空間は、キングによって刻まれたキャッスルドランの歴史を、そのまま宝具へと昇華したもの。

 いかな魔剣であろうとも、それが()()()()()()()()の性質を持つ限り、この黄金劇場の中では無力化される。

 そして、この絶対皇帝圏内にいる限り、黄金皇帝たるネロに敵対するあらゆる存在はステータスの弱体化を余儀なくされる。それこそが、皇帝ネロの発動した宝具の真髄!

 

「ぬう……、ザンバットが……ッ」

 

 ダークキバが手にした魔皇剣(ザンバットソード)が、ずん、と沈み込むように地に落ちた。セイバーの意思とは関係なく、その切っ先は地面を割って深くめり込み、そのままセイバーの膂力ではびくともしなくなった。黄金劇場の効果によるザンバットの封印と、その絶対皇帝圏がもたらす効果によるセイバーへの弱体化が、相乗効果を及ぼしているのだ。

 霊脈を奪われ、魔皇剣を封じられ、その能力すらも大幅な制限を受けたダークキバは、もはや常勝無敗の絶対王者などではない。

 

「お、のれェ……っ、おのれおのれおのれェエエエエッ!! 許さんぞ、黄金のキバッ! 許さんぞ、紅渡ゥウウウッ!!」

 

 もはや輝きを失ったザンバットをその場に捨て置き、ダークキバは咆哮した。

 片手を翳し、そこから膨大な魔皇力の波動を放つ。キバエンペラーはザンバットバットで刀身を研磨し、赤く煌めく魔皇剣を一閃した。魔皇力の衝撃波が、ダークキバの放った波動と相殺し、爆発した。

 

「なッ……何故だ!? 何故、貴様のザンバットだけが」

「ザンバットバットは、暴走したザンバットの力を制御するため、この王城で生まれた新たな命。この()()()ある限り、我が魔皇剣が王城の封印を受けることはないッ!」

 

 音也との約束を守るため、渡に力を貸す三人の家臣が、己の思念とライフエナジーを注いで生み出した絆の結晶、それがザンバットバットだ。

 キャッスルドランがザンバットソードを封じる結界とするなら、ザンバットバットはその封印効果を無力化する礼装と言い換えられる。

 無敗にして無敵のキングは、その生涯果てるときまで、ついぞ誰にも理解されることはなく、孤高の王者で在り続けた。他者の力を必要とせず、己の絶対的な力ただひとつを拠り所としてきた男は、自身が()()()()()()と断じて切り捨て続けてきたものによって、今、討たれるのだ。

 

「これで最後だ、キング!」

 

 ザンバットバットの顔面を覆うように装着されていたウェイクアップフエッスルを取り外したキバエンペラーは、それをベルトに収まったキバットの口元へとセットする。

 

「キメるぜ渡ゥ! ウェイク、アーップ!」

 

 広漠としたふたりきりの劇場に、キバットの叫びと笛の音色が反響する。ザンバットバットで研いだ魔皇剣の刀身が、今までとは一線を画する眩い真紅の輝きを宿し、溢れ出た魔力の波濤がオーラとなって周囲の闇を赤く彩った。

 

「貴様だけは、貴様だけはァアッ! キング自ら絶滅させねば気が済まんッ!!」

 

 四方から天の鎖が殺到するが、駆け出したキバエンペラーを止めるには至らない。真紅の魔皇力に燃えるザンバットソードを振るい、キバエンペラーは殺到する鎖を片っ端から叩き落とす。真紅のマントを靡かせて、迫り来る攻撃の嵐の中をひた走る。

 瞬く間に互いの距離は縮まった。もはや正面からの打ち合いは避けられない。ダークキバは己の拳に赤黒い魔皇力の闇を纏わせ、身構えた。

 

「ォォオオオッ!!」

「ハァアアッ!!」

 

 鎖の嵐の中を流れるように駆け抜けたキバエンペラーは、ダークキバの拳を身を屈めて回避すると、すれ違いざまに魔皇剣を振り抜いた。

 必殺の()()()()()()()()()()()は、ダークキバの胸部に直撃し、そのまま脇腹にかけてを一気に斬り裂く。生命喰らう魔皇石の刃は、闇のキバの鎧に食い込み、セイバーの霊基へと確かに食らい付いた。

 

「フンッ!」

 

 ダークキバの後方へと走り抜けたキバエンペラーは、ザンバットソードを中段に構え、その刀身をもう一度研いだ。ザンバットバットが元の位置に収まると同時に、魔皇剣が纏った真紅の輝きは霧散する。それを合図とするように、ダークキバの体から、燃えるような炎のオーラがキバの紋章をかたどって浮かび上がった。

 一瞬ののち、ダークキバは膝からがくりと崩れ落ちた。

 

   ***

 

 深山町、遠坂邸の地下工房で、遠坂時臣はデスクに腰掛けたまま頭を抱えていた。

 

「馬鹿な……、英雄王(セイバー)が、あのような外様の魔術師にしてやられるなど……」

 

 当初、時臣の掌に赤々と刻まれていた三画の令呪は、今やその三分の二が掠れて消え、残り一画となっていた。セイバーの敗北を悟った時臣は、あのアルターエゴなるサーヴァントにトドメを刺される前に、セイバーを撤退させたのだ。

 だけれども、最後に残った令呪を消耗することは、絶対に許されない。最後の一画は、時臣が聖杯戦争に勝ち残る最後のひとりとなったとき、己がサーヴァントを自害させるために残しておく必要があるからだ。

 この場で悪罵を吐き捨て、机を殴り付けたいという本能的な衝動に駆られるが、それは余裕とも優雅さとも程遠い暴挙だ。遠坂の当主としてあるまじき言動である。時臣は深く息を吸い込み、もう何度目になるかもわからない嘆息を落とした。

 

『アルターエゴの宝具評価は、セイバーと比べれば大きく見劣りするもの。しかし、今回に限っては相性が悪すぎましたね』

 

 淡々とした戦況分析が、宝石通信機の向こうから聞こえてくる。

 アサシンの目を通して、常に戦況を知らせてくれていた言峰綺礼の声だ。アサシンはその戦力の大半を失い、セイバーに至ってはまさかの完全敗北を喫するという、およそ想定しうる最悪の戦況結果を前にしても、綺礼の声には一切の乱れなく、時臣のような焦燥を抱いているようにも聞こえない。

 

「そう、だな……今回は、我々の、完全敗北だ」

 

 認めなければならない。今回の戦闘において、時臣の陣営は予期せぬ大打撃を受けたことを。

 ここでアサシンを使い潰してでもキャスター、ランサー両陣営を柳洞寺に縫い止め、セイバーで一気に殲滅するという戦略そのものは、間違いではなかったはずだ。だが、まさか罠を仕掛けたつもりが、逆に諸葛孔明の策に嵌められていただなどと、つい数時間前までは考えもしなかった。否、或いは、絶対的なアドバンテージたる霊脈を奪い取られるというありえない状況からくる焦りが、時臣の判断力を鈍らせたのかもしれない。

 時臣は、劉備玄徳に対し、圧倒的な戦力差で一気呵成に攻め込んだはずの曹操が、孔明の罠に嵌められまんまと撃退された逸話を思い出さざるを得なかった。よもや今という時代で、自分が曹操と同じ轍を踏む羽目になるだなどと誰が予想したものか。時臣はここへきて己の慢心を強く悔やんだ。

 

「なんにせよ、ここからは戦い方を改める必要がある。あのアルターエゴがいる限り、セイバーを不用意に出陣させるわけにもいかなくなった。すまないが綺礼……ここからは、代行者としての君の力を頼りにさせて貰うことになるだろう」

『ええ、もとより私はそのつもりです』

 

 淡々と、感情の変化を感じさせない声音で通信機の向こうの綺礼は返答をする。

 考えようによっては、まだ状況は万事が絶望的というわけではない。こちらはこの一戦で、ランサーの真名とその能力を把握することができた。キャスターのマスターも、見慣れないライダーシステムを用いてはいるものの、魔術師としては外様も甚だしいことは確定している。

 セイバーの勝手な行動のために、今回は結果的にライダーをも敵に回す事態になってはしまったが、あのライダーの活躍で、アサシンが全滅は免れたことも事実だ。時臣自身には、万丈龍我をすぐに敵に回す意図はない。そう考えれば、時臣の手元には、まだ手札が残っているといえないこともない。

 引き続きライダーを籠絡することに注力して味方に引き込むか、或いは今回の戦闘において静観を決め込んでいたアインツベルンとの同盟を組むか。かつて冬木ハイアットにてケイネスをその宝具の一撃で葬ろうとしたアーチャーの手腕は、味方につけられれば頼もしい。アーチャーが選ぶ手段の是非はともかくとして、時臣にはもう、なりふりをかまっていられる余裕はない。

 今後の戦略について、想定しうるパターンを瞬時にいくつか思い浮かべるが、なにを考えたところで、暗澹とした気持ちは晴れず、時臣は肺にわだかまった空気を大きく吐き出した。

 そもそもの話、あのアルターエゴさえいなければ、と思わずにはいられない。

 

「まったく、璃正神父がいれば、あのような不正召喚など、断じて許さなかっただろうに……」

『導師。そのことで、私から話さなければならないことが』

 

 そこではじめて、綺礼の声のトーンが僅かに落ち込んだ。

 自陣営の敗北ですら動じなかった綺礼の変化に気付いた、時臣は僅かに顔を上げる。

 ほぼ時を同じくして、魔術師として培った時臣の第六感が、この場に現れた侵入者の到来を察知した。遠坂邸に張り巡らされた結界に対し、何者かがなんの魔術対策もなしに不用心にも踏み込んだのだ。

 

「すまない、綺礼。どうやら予期せぬ来客のようだ……話はまたの機会に」

 

 時臣は椅子の傍らに立て掛けてあった樫材のステッキを手に取り、立ち上がった。握りの頭に象られた特大のルビーには、時臣が生涯をかけて錬成してきた炎の魔力が封じ込められている。ケイネスが風と水の二重属性からなる月霊髄液を持つように、時臣もまた炎の礼装を所持している。

 セイバーが敗北した機を見計らったかのような襲撃。この状況で、時臣に仕掛けてくるものがいるとしたら、ひとりくらいしか思い当たらない。

 

「いいだろう。そちらから仕掛けてくるとあらば、是非もない」

 

 あの日先送りにした誅罰を、今ここで下して終わらせてやることは、時臣にとって()()でもある。

 まだ見ぬ敵の顔を思い浮かべ、その瞳を獲物を見定めた猛禽のように爛々と輝かせながら、時臣は戦場へと続く階段をゆっくりと登ってゆく。

 

   ***

 

「勝った、のか……俺たち、あのセイバーに」

 

 煌めく霊子の粒子だけを残して、光とともに消えていったセイバーがいた場所を眺めながら、桐生戦兎はおずおずと呟いた。

 既に戦場は元の柳洞寺へと戻っている。光り輝く劇場も、降りしきる薔薇の花弁も、そのすべてが幻のように消え去って、戦闘の余波で捲れ上がった石畳の中心に佇んでいたキバエンペラーは緩慢な動作で振り返った。

 ベルトから蝙蝠が、左腕から子竜が離脱し、少女のような顔立ちの青年が顔を見せる。ネロと名乗った青年は、戦兎の顔を認めると、緩く相好を崩して微笑んだ。

 

「僕の名前はネロ。皇帝ネロ・クラウディウスを名乗っています」

「皇帝ネロって……ローマの? どう見ても日本人だが。あ、桐生戦兎」

 

 頭に思い浮かんだ疑問を真っ先に口にしながら、戦兎は掌を軽く掲げると、取ってつけたように名前を名乗った。

 ネロはこくりと小さく首肯すると、ゆったりとした歩調で戦兎へと歩み寄る。傍らを追従するようにぱたぱたと飛んでいた黄金の蝙蝠が口を開いた。

 

「おう、厳密に言うとこいつには“紅渡”って立派な本名がある。けど、今は渡に力を貸してくれた英霊の名前を名乗ってるんだ」

「うわッ、なんだ!? 蝙蝠が喋ってる! どういうガジェットだ!?」

 

 身を大きく乗り出してキバットを掴もうとした戦兎の腕をすり抜けて、キバットは器用に目元をしかめて見せた。

 

「うおっ……なんだあ、人がせっかく説明してるってのに失礼なやつだな! だいたい蝙蝠とはなんだ、俺様にはキバットバットⅢ世って立派な名前がだな――」

「私はタツロットと申しまぁす! 渡さんが戦うなら、時空を越えて、いつでもどこでも駆けつけまァすよォ~!」

「なんだ、ガジェットじゃねえのか……」

 

 憤慨するキバットを遮るように、タツロットと名乗った子竜が戦兎の眼前でふわふわと上下に揺れる。非常に機嫌がよさそうに小躍りしているのは結構だが、ガジェットではない時点でさほどの興味もないので、視線の先でふらつかれるのはそれなりに邪魔だった。

 タツロットを片手で軽く払いのけながら、戦兎はネロへと向き直る。

 

「ってことは、あんたも疑似サーヴァントか」

「そうとも言えますが、違うとも言えます」

「なんだよ、はっきりしねえな」

「僕は複数の英霊や神霊が複合された存在……ハイ・サーヴァント、と呼ばれるものです」

「ハイ・サーヴァント……? そういうのもあるのか」

 

 眉根をしかめて頷く戦兎に代わって、今度はネロを喚び出した張本人であるキャスターが前へ出た。

 

「確かに、私は自らの宝具を用いて、あのセイバーを倒し得るものに、英霊としての霊基を与えるつもりでいた。しかし、それが皇帝ネロになったのはまったくの想定外だ。なぜ君が喚ばれたのか、私には説明がつかない」

 

 いまキャスターが語った宝具については、戦兎も既に熟知している。

 キャスターが誇る第二宝具、出師表(すいしのひょう)とは、特定の人物に、勝利のために必要な霊基を与えてサーヴァント化させる能力分配型の宝具だ。今回の場合は、仮面ライダーキバに、キャスターの知るとある英霊の霊基を複合させることを目論んでの作戦だった。

 

「失礼を承知で言うが……私が霊基の分配を狙ったサーヴァントは、皇帝ネロではない。別の英霊のはずだが」

「ええ、それも知っています。ですが、あなたが喚ぼうとした英霊は今、座にはいません。ですから、皇帝ネロが名乗りをあげたのです。彼女の言葉を借りるなら……『電脳世界における戦ならば、余をおいて右に出る者はおるまい』と」

「なっ……」

 

 キャスターの表情が固まる。

 戦兎にしてみれば、皇帝ネロを彼女と表現したことが気がかりだったが、キャスターの言葉を信じるならば、そういうこともままあるのだろう。話の腰を折るのも不粋なので、戦兎は余計なことは口にしないことにした。

 

「勿論、それだけが理由ではありません。今回の戦いに、かの皇帝が選ばれたことには理由があります」

「ふむ。その、理由とは」

 

 問われたネロは、戦兎の隣をゆったりとした歩調で通り過ぎると、未だ倒れたままの万丈の傍で立ち止まり、振り返った。

 

彼女(ネロ)には、かつてとある世界で()()()()()()()()()と相対し、これを撃退した……という実績があります」

「外宇宙からの……侵略者」

「僕には、()()()()と戦うための力が備えられている」

 

 この瞬間、戦兎をはじめ、キャスターとランサー、この場にいる全員が、おそらく同じ人物の顔を思い浮かべた。はっとして周囲を見渡すが、既にブラッドスタークの姿はない。

 面倒なことになる前に、どさくさに紛れて姿を消したのだろう。音もなく忍び寄り、気付かぬうちに去っていく蛇のように。

 

「いや、ちょっと待て」

 

 万丈のすぐ側、ネロの足元の近くの薄暗い闇の中に、なにかが落ちていることに気付いた戦兎は、それに駆け寄り、拾い上げた。

 紫色をした、小型の電子パッドだった。これを最前までスタークが左腕に装着していたのは、まだ記憶に新しい。

 なにも映し出されてはいない液晶画面を眇める。ボタンを押すと、画面の中になんらかのデータ情報が表示された。

 

「これは……」

「はて、かの者が落としていったのでしょうか?」

「いや……スタークがそんなミスをするとは思えない。意図的に残していったんだ」

 

 きょとんと小首を傾げるランサーの言葉を、確信をもって否定する。

 スタークはこのバグヴァイザーからバグスターウイルスを精製し、果てはビルドの攻撃をも打ち消してみせた。なんの意図もなく、これみよがしの自分の持てる能力(システム)を衆目に晒し、その上、それを放置して撤退するなど、なんらかの企みがなければありえないことだ。

 いったい何故、どうして。なんの目的があって敵に塩を送るようなことをするのか。スタークの企みについて思考を巡らす中、長らく沈黙していたバーサーカーが、ふいに口を開いた。

 

「もし。よろしいでしょうか、キャスターのマスター」

「バーサーカー……いや、清姫、だったか」

 

 名を呼ばれたバーサーカーは、にこりと微笑みを浮かべると、傍らで倒れたままの万丈に視線を落とした。

 

「ライダーのこと、あとはあなた様にお任せしても?」

「ああ、その馬鹿は頼まれなくてもこっちで面倒見るつもりだが……そっちはそれで構わないか」

「ええ、あなた様がそう仰ってくださるなら、わたくしも安心いたします」

「そうか……清姫、お前には色々と感謝してる。ありがとな」

 

 戦兎をあの窮地から救ってくれたのが、他でもないバーサーカーであることを思い出し、戦兎は謝礼を口にした。

 おそらく、この世界に飛ばされた万丈の面倒を見てくれたのも、彼女なのだろう。柄ではないと自覚しつつも、万丈が世話をかけた相手に礼を言うのは、仕方のないことだと思えた。

 

「ふふ。お礼だなんて、そんな」

 

 一瞬目を丸めたバーサーカーだったが、すぐに柔らかく頬を緩めた。穏やかな微笑みのまま踵を返し、バーサーカーは一同に背を向ける。それから、口元を扇子で隠したまま、首だけを回して、バーサーカーは一瞥を寄越した。

 

「それでは、わたくしは急ぎゆかねばならぬ場所がございますので……これにて」

「待て、バーサーカー」

 

 キャスターが、清姫を呼び止める。

 

「君のマスターに伝えて欲しい。遠坂時臣を打倒し、間桐桜を救うことを目的とするならば……我々も協力を惜しむつもりはない、と」

「あら、これは意外な……それでいてありがたいお申し出。かしこまりました、あなた様の言葉は、しかとますたぁに伝えさせていただきます」

 

 にこりと柔らかく微笑んだバーサーカーの体が、足元から溶けるように消えてゆく。

 

「それでは、キャスター。願わくば、またお会いするそのときも、味方であらんことを」

 

 言い終えるころには、バーサーカーの姿は完全に視界から消えていた。サーヴァントによる霊体化だ。

 戦兎は溜息を落としながら、万丈へと視線を落とした。バーサーカーのこと、遠坂との同盟のこと、そして何者かに授かったという英霊の力のこと。聞き出さなければならないことは山ほどある。

 ひとまず、戦兎は万丈の額を掌ではたいた。一瞬表情を歪めるが、意識を起こす気配はない。今度は頬を左右から二度はたく。そこでようやく万丈は目を覚ました。

 

「ふがっ……なんだ、どういう状況だ!?」

 

 身を起こした万丈は、左右をきょろきょろと見渡して、両腕で拳を構えた。セイバーの宝具の直撃を受けたにしては、存外に元気そうに見える。クローズマグマがいったいなぜあの規模の攻撃を受けて耐えられたのか、興味は尽きないが、今はひとまず万丈を連れ帰ることが先決だ。

 戦兎はしゃがみ込んで、視線の高さを万丈に合わせた。

 

「お前が寝てる間に全部終わったっつーの。ほら、帰るぞ万丈」

「はっ!? えっ、なに、終わったァ!? セイバーは!?」

「もう倒した」

「はぁアアッ!? いつの間に!?」

 

 大口を開けて驚愕する万丈の間抜けな顔が見てられず、戦兎は首を回して後方へ振り返る。セイバーを倒した張本人であるネロは、真顔ではいられず、くすりと笑みを零した。それがおかしくて、戦兎もまた笑った。

 小さな羽をぱたぱたと羽ばたかせてやってきたキバットが、ネロの顔の隣で滞空する。

 

「どうやらいいチームのようだな、渡。お前を召喚したマスターがどんなやつなのかと俺ァ冷や冷やしてたが、一先ず信じてもよさそうだ!」

「うん。そうだね、キバット」

 

 ネロは、無邪気な子供のように穏やかな微笑みで答えた。戦兎たちに見せる笑顔とは、性質が違う。ネロとキバットのたった一言のやりとりに、戦兎は不思議と安堵させられた。

 

「あっははははは、此度の戦は我らの大勝利に終わったということで、これにて一件落着! ですね!」

 

 呵々大笑するランサーを尻目に、戦兎は万丈に手を差し伸べる。

 はじめ、わけがわからず当惑していた様子の万丈だったが、すぐにいつもの不敵な面構えに戻ると、戦兎の手をがっしりと力強く掴んで、起き上がった。ふらつく万丈の肩へ、戦兎が腕を回す。

 ランサーとネロが見守る中、二人三脚でもするように、ふたりはゆっくりと歩き出した。

 

 

 

「――お前は、まァた先を越されちまったなあ、戦兎ォ」

 柳洞寺本殿の瓦屋根の上に片膝立てて腰掛けながら、スタークは月夜を見上げ独りごちる。

 ライダーの霊基を得た万丈は、既にクローズマグマにまで変身できる。ダークキバを倒すほどの仮面ライダーまで現れたというのに、戦兎は未だにハザード止まりだ。ラビットラビットはおろか、スパークリングにすら変身できない。かつての戦いでも、戦兎は万丈の進化についていけず、置き去りにされた期間があったことを思い出す。

 のんきに万丈と肩を組んで石の階段を降りてゆく戦兎の背中を眺めながら、スタークは嘆息した。

 

「だが、お前はこんなところじゃ終わらない。なにせ、人間ってのは、進化する。進化し続ける生き物だ。その果てに待つものが破滅だとも知らずにな」

 

 人間とは、常に自己の限界に挑み、進化を続ける生き物であることを、スタークは知っている。だからこそ、ヒトは愛おしいのだ。

 ライフルモードへと変形させたトランスチームガンのバレルを左腕の装甲に乗せて、その銃口を戦兎の背中へと合わせる。引き金に指をかけると、ばん、と子供の遊びのような銃撃音を口先だけで表現しながら、スタークは笑った。

 

「そのバグヴァイザーはお前にくれてやるよォ、戦兎。そのデータを活かすも殺すも、お前次第だ」

 

 よっ、と声を発しながら立ち上がったスタークは、月明かりの下で背筋を伸ばし、ぐっと力強く伸びをした。

 これからは少し、立ち回りを考える必要がある。今までのように、聖堂教会の権威を笠に着て、堂々と動くことはもうできない。否、今にして思えば、スタークの現状も、檀黎斗の想定の範囲内だったのかもしれない。

 よくよく考えれば、以前この円蔵山で檀黎斗と話した時点で、あの男はスタークの心に野心があることを見抜いていた。だというのに、こんなにも容易く言峰璃正を追い落とせてしまったこと自体が不自然だ。その証拠に、聖杯戦争の監督役が死んだというのに、ゲームマスターの檀黎斗は未だに姿すら表そうとしない。

 なにかある、と考えておいた方がいいだろう。

 

「まあいい。ともあれ、これで聖杯戦争は大きく動く。誰が最初に聖杯を獲るのか、こっから先は競争だ……悔いのないように、頑張ろうぜ!」

 

 最後に一言、チャオ、と付け足すと、スタークの額の煙突から黒煙がもうもうと吹き出した。闇に溶けるように拡散した煙幕は、スタークの全身を覆い隠す。どす黒い煙幕の中で、スタークのエメラルドグリーンのバイザーだけが妖しく煌めいていたが、その輝きも次第に薄れ、消えていった。

 煙幕が晴れたとき、そこにはもう誰もいない。

 吹き飛んだ瓦、捲れ上がった石畳、折れひしゃげた木々の群れ。刻み込まれた惨憺たる乱戦の爪痕だけを、淡い月明かりがぼんやりと照らしていた。




【Servant Material】

サーヴァントの情報が開示されました。

【CLASS】アルターエゴ
【真名】ネロ・クラウディウス
【依代】紅渡
【属性】秩序・善
【ステータス】
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力B 幸運C+ 宝具B
(※黄金のキバへの変身時)

【クラス別スキル】
●対魔力:B
 魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

●騎乗:A++
 乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。
 ドラン族最強の個体である「キャッスルドラン」と心を通わせた逸話から得られたスキル。
 アルターエゴは、本来騎乗スキルでは乗りこなせないはずの竜種を例外的に乗りこなすことが出来る。

●ハイ・サーヴァント:A
 複数の神話エッセンスを合成して作られた人工サーヴァント。
 ネロ・クラウディウスの、かつて「星の脅威(ヴェルバー)を撃退した」という逸話から、その決戦の折にネロと融合していた女神ヴィーナスの要素を併せ持つ。

【保有スキル】
●神秘殺し:B+
 ファンガイアやレジェンドルガといった魔族を葬ってきた逸話により得られたスキル。
 魔族・魔性といった性質を持つ敵と戦闘する場合、ステータスに補正が得られ、対神秘への攻撃に特攻状態を付与する。

●皇帝の紋章:A
 ファンガイア・キングとしての資質にして、キバの鎧の継承権。
 キバの鎧を身に纏っている限り、魔皇力で出来た巨大なキバの紋章を形作り、そのまま攻撃・拘束に転用することが可能となる。
 紋章による拘束は、同ランク以上の対魔力があれば判定次第で抜け出すことも可能。

●皇帝特権:EX
 本人が主張すれば、本来持ち得ないスキルでも獲得できる能力。
 紅渡は、短期間とはいえ自らをキングであると主張し玉座に就いた。また、かつてとある世界で“世界の破壊者”に旅のはじまりを告げ、世界を渡り歩く旅路へと送り出した逸話を持つ。それらの経歴を総合的に見て得られたスキル。
 本来の紅渡はもう少し口下手であるのだが、このスキルの影響か、誰とでも分け隔てなく会話できる代わりに、どこか遠回しな表現をすることが多くなった。――創造は破壊からしか生まれませんからね、残念ですが。
 また、このスキルの応用で、本来ならば王の資格がなければ使えないもの、或いは、正しい()()()でなければ扱えない兵装をも自在に使いこなすことができる。
 戦闘面においては、セイバークラスに対する攻撃不利の打ち消しと、対セイバークラス、または対「領域外の生命」の特性を持つ敵への攻撃に特攻状態を付与する。


【宝具】
●第一宝具
光輝放つ真紅の皇帝(スーパーノヴァ・エンペラー)
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大捕捉:1人
 黄金のキバへの変身能力。または、その上位態への強化変身能力。下位フォームへの変身はできない。
 キバの鎧そのものが限定的な「空想具現化」の性質を有しており、全身から魔皇力を放出することで、自身の力を最大限発揮できる環境に世界の状態を変化させることが可能。
 ただし、真祖ほど万能というわけではなく、自由自在に能力に融通を利かせられるわけではない。具体的には、周囲を疑似的に夜に塗り替え、魔皇力のオーラで赤く染まった満月を夜空に浮かべる、というものである。

●第二宝具
招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)
ランク:B 種別:対陣宝具 レンジ:30、60、90 最大補足:100人、500人、1000人
 ネロ・クラウディウスが生前、ローマに建設した劇場を魔力によって形成、再現した空間。自己の願望を達成させる絶対皇帝圏を展開する。
 ネロの意思次第で、再現する建造物はある程度カスタマイズ可能。今回は紅渡を依り代としているため、紅渡が使役する「キャッスルドラン」城内の特性を持つ空間を再現できる。
 戦闘面では、展開時に敵に防御力無視の物理ダメージを与えた上で、3ターンの間、敵の筋力・耐久力を低下させる。
 キャッスルドランの性質を再現した場合は、場内で発動するあらゆるザンバットソードを無力化し、封印する。ただし、例外としてザンバットバットにはこの性質は適用されない。

●第三宝具
『――――――――――――』
ランク:??? 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000人
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