仮面ライダービルド×Fate/NEW WORLD   作:おみく

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第25話「カオスは加速する」

 間桐の庭園は、遠坂のそれと比べれば幾分手狭ではあるものの、それでも一般的な邸宅と比べれば馬鹿馬鹿しい広さだった。バイクから降りた万丈は、屋敷へと続く一本道の先に、門番よろしく佇立している雁夜を認識し、足を止める。雁夜の傍らには、清姫(バーサーカー)もいる。

 清姫の表情に、昨日までの穏やかな微笑みはない。雁夜とふたりで、油断なく万丈を睨め付けるその視線に、万丈は胸が苦しくなる思いに駆られた。

 あのふたりはもう覚悟を決めている。それでも、そうと分かったところで、問わずにはいられない。

 

「なあ、雁夜……あんた、ほんとにこれでいいのかよ。遠坂さんを倒したって、なにも得るものなんてねェだろ……!」

「ああ、お前の言う通りだよライダー。だが、もうそういう問題じゃあない。俺は……ここで立ち止まるわけにはいかないんだ」

 

 雁夜が自嘲気味に笑うと、そのパーカーの内側から、黒光りした甲虫がぶぅうん、と羽音を立てて宙へ舞い上がる。庭園の茂みから、屋敷の窓から、どこからともなく湧いて出た蟲が靄のように空を埋めるのに、そう時間はかからなかった。

 舞い上がった虫たちは、ぎちぎちと顎を鳴らして万丈を威嚇する。

 

「……それがあんたの答えかよ、雁夜!」

「俺は、こういう風にしか生きれない男なんだ。お前は俺という人間を根本的に誤解している」

「なんでだよ……ッ、あんた、桜のために、そんなになるまで苦しんでたんだろ!」

「それがそもそもの誤解だと言ってるんだ。確か、お前は言ったよな。桜の幸せよりも、時臣への憎しみを優先するのなら……そんなやつは俺が倒す、と」

 

 思わず息を呑む。雁夜の刺すような視線が、万丈を見据えて離さない。

 

「だったら、今がそのときだ。本気で俺を止めたければ、ここで俺を倒してみせろ、ライダー!」

 

 叫んだ雁夜の頬の内側で、血管がのたうつ。苦痛のあまり前のめりにうずくまる雁夜とは裏腹に、揚々と宙に舞い上がった甲虫たちが、一斉に加速する。黒い靄が、万丈へと殺到する。けたたましい羽音が、戦闘開始のゴングとなった。

 

「ああそうかよ……そっちがその気なら、ぶん殴ってでも目を覚まさせてやるッ!」

 

 変身、と叫ぶと同時、万丈はボトルを装填したクローズドラゴンをベルトに叩き込んだ。クローズのハーフボディが万丈の前後にすかさず生成される。蟲の群れが万丈の間合いに入るよりも素早く装甲を身に纏った万丈は、クローズとなって飛び出した。

 手にした剣、ビートクローザーのグリップエンドを勢いよく引く。万丈の体内で生成された魔力が、唸りを上げて蒼炎へと変換される。クローズは自分目掛けて飛んでくる虫の群れ目掛けて、横一閃に剣を振り抜いた。

 

「オォラァアアアッ!!」

 

 剣が纏った魔力の蒼炎は、またたく間に上空へと広がり、迫りくる蟲たちを焼き払う。炎の幕に囚われた蟲は次々と燃え落ちるが、一度では足りない。二度三度と剣を振るい、蒼炎を飛ばす。

 ふいに、蟲の群れがふたつに割れた。蒼炎を纏った清姫は、蟲の群れを掻き分け、獲物へと急迫する猛禽類のように飛翔する。

 

「シャァァァアアアアッ!!」

「テメェ、バーサーカーッ!」

 

 清姫の燃える鉄扇と、クローズの剣が激突した。ふたりを起点に炎がぶわりと舞い上がり、周囲を漂っていた蟲たちは成す術なく焼け落ちてゆく。

 鉄扇に炎を纏わせた清姫は、蒼炎による魔力噴射を得て、怒涛の勢いでクローズへと炎の舞いを叩き付けてくる。不覚だけは取らないようにとビートクローザーで攻撃を受け続けるが、じりじりと追い詰められているのはクローズの方だった。

 

「ぐっ……一発一発が、重てェ……ッ!」

 

 目の前で鉄扇を振るうサーヴァントが、昨日まで柔和に、嫋やかに微笑んでいた華奢な少女と同一人物とは思えず、万丈は仮面の下で驚嘆した。

 幾度目かの激突の末、清姫は宙でとんぼ返りの要領で身を翻した。同時に、周囲にぼんやりと蒼い火の玉が浮かび上がる。はじめは蒼く揺らいでいた火の玉は、またたく間にその熱量を跳ね上げ、蒼の火球となった。

 

「わたくし、これでも戦いは不得手な方ですのよ。ですが、だからといって、怨念籠もって龍にまで成り果てたわたくしの炎……見くびられては困ります」

 

 清姫は一見優しく、されど剣呑に微笑んだ。瞳は笑っていない。万丈の背筋を、ぞっとするような悪寒が駆け抜けた。清姫の周囲に浮かんだ火球が、唸りを上げて加速した。

 最初の数発はビートクローザーで叩き落としたが、殺到する火球の速度は先程の蟲の比ではない。連続で急襲する火球に対応しきれず、やがて一発の火球がクローズの胸部装甲に炸裂した。火球は爆ぜ、舞い広がった蒼炎がクローズを包む。

 

「あッ、づゥ!」

 

 装甲越しの炎ならば恐るるに足らず、と思っていた自分の判断を万丈は呪った。清姫の火球は、装甲を突き抜けて万丈の肌に熱をもたらした。装甲が万全に機能していない。一瞬動きを止めたクローズに、火球は次々と炸裂した。

 

「ライダー。わたくし、これでもあなたには感謝をしているのです……本当に。ですが、此度ばかりは譲るわけにはまいりません。ますたぁの邪魔をするなら、ここで……!」

 

 清姫の放った火炎に苛まれながら、それでもクローズは叫んだ。

 

「それがッ……そんなことが、ホントに雁夜のためになると思ってんのかよ!?」

「自分の信念を曲げて、後悔とともに死んでいくくらいならば……わたくしは、自分の想いを貫く道を選びます。それはますたぁとて同じこと。ならばどうして、同じ志を持って喚ばれた()()()()()()()、戦いをやめろなどと言えましょうか!」

「ンだよそれ……俺にはお前が言ってることは難しくてよくわかんねェよ! けどな、今の雁夜を放っておくことが間違いだってことだけはわかる! だから俺は、お前らを止めるッ!」

「ええ、それでよいのです。あなたはあなたの信念を貫きなさい」

 

 清姫の頬が、一瞬緩んだ。が、すぐに眦を決した清姫は、再び蒼炎によるジェット噴射を強め、燃える弾丸となって加速した。

 クローズは間合いに飛び込んで来た清姫から距離を取ろうと、地べたを転がって回避する。同時に、火球によって装甲へと燃え移った炎を、地面の土で消そうという魂胆もあったのだが、アテは外れた。炎はクローズのボディに纏わり付いたままだ。鎮火できない。そこにまず、驚愕した。清姫によって齎された蒼炎の枷は、標的を見定めた蛇のように、念入りに、執念深くクローズを焼き、じわじわと体力を奪ってゆく。

 

「うッわ、ンだこれ! 炎が纏わり付いてきやがる!」

「うふふ。わたくしの炎は怨念そのもの。ただの火遊びとはわけが違いますわ」

 

 空中で立ち止まった清姫は、袖で口元を隠し、婉然と笑った。

 万丈は、マスター能力として付与されたスキルで、己のステータスを確認した。案の定、明確なバッドステータスが、状態異常として付与されている。

 清姫の持つ固有スキルによるデバフ効果だろう。クローズの防御力を低下させる状態異常と、やけどによるダメージを上昇させる()()()()が、やけど状態と一緒に付与されている。快復するためのスキルを、万丈は持っていない。それを認識した途端、どっと体力を奪われた気がした。

 

「チッ、それがテメェらの戦い方か!」

 

 炎を操るバーサーカーの戦闘スタイルを理解した万丈は、延焼効果を振り払うことを諦め、ビートクローザーを構え直した。此方の体力が尽きる前に清姫を叩けば、勝機は十分にある。

 再びクローズの間合いへと飛び込んできた清姫は、握りしめた鉄扇から真紅の炎を噴き上げ、それを剣と見立てて振り抜いた。両者の刃が激突し、二種類の炎が舞い上がる。熱風が、波動となって周囲の草木を吹き払った。

 サーヴァント相手とはいえ、クローズとて膂力では負けていない。激突の末、クローズの剣が鉄扇を弾き上げた。清姫は大海原を自由に泳ぎ回る海蛇のように身を捻って、距離を取る。

 

「ッ、流石はライダー……接近戦ではわたくしの方が不利ですね」

 

 清姫は、ちらりと背後に視線を送った。雁夜が、血反吐を吐いて蹲っている。これ以上戦闘を長引かせれば、雁夜の命に関わることは、誰の目にも明白だった。

 清姫の額を、つう、と脂汗が伝ってゆく。雁夜の体力が尽きるより前に、せめてクローズを戦闘不能に追い込む必要がある。

 

「いいでしょう。少々恥じらいはありますが……そうも言ってはいられません」

 

 大気を伝う熱気が、ぐんと跳ね上がる。清姫の纏う魔力量が上昇している。大技を仕掛けてくるつもりだと、万丈は本能的に悟った。

 

「お前ッ……今の雁夜の様子見て、それでも宝具ブッ放そうってのか!」

「ええ。たとえ愚か者と蔑まれようとも、これこそがますたぁの選んだ道。ならばわたくしは……この身を炎と変えてでも、その道を阻む障害を燃やし尽くすまで。この命、常にますたぁとともに――!」

 

 清姫の魔力は蒼い炎へと変じて、和服の裾を、袖を燃やしてゆく。炎は、瞬きの間に清姫の衣服を焼き払った。華奢で、容易く手折れてしまいそうな、しなやかな手首の先がちらりと見えたが、それすらも蒼い炎が覆い隠した。炎は、渦を巻いて清姫の体を包み込む。

 

「馬鹿野郎ッ……だったら、ぶっ倒してでも止めてやる!」

 

 決然と叫ぶと、クローズはベルトのレバーを勢いよく回転させた。

 蒼く輝く魔力が全身から噴出し、オーラとなってとぐろを巻く。クローズから放たれた高圧力の魔力の波濤は、クローズの後方の空に蟠り、稲光を伴いながら龍の形をかたどった。清姫と同じ、蒼く燃える炎の龍だ。

 

()()()()()()ッ!!」

 

 炎の中から、清姫の声が響いた。決して悲愴を感じさせない、決然とした声だった。

 クローズの呼び出した蒼龍に対峙するかたちで、小柄な少女の体を焼き尽くした蒼炎は、巨大な炎のうねりへと変化してゆく。クローズと同じ、蒼く燃える炎の龍だった。 

 二頭の龍は互いに蛇のようにうねり、のたうち、庭園のあらゆる草木を焼き払いながら咆哮を響かせる。蒼く煌めく炎が空を覆う。結界の内部は、舞い上がる黒煙とクリスタルブルーの彩りに覆われていた。

 清姫が変じた龍が、その顎門から極熱の火炎を放射する。燃え盛る火の海の中、クローズは跳んだ。屋敷の屋根よりも、高く、高く、空へと跳び上がった。

 

「はぁぁあああああッ!」

 

 ともに空へと駆け上ってきた蒼龍、クローズドラゴンブレイズが、クローズの背に極熱のブレスを放射する。クローズは、燃えたぎる蒼炎を己のエネルギーとして取り込み、右足に集約させる。

 必殺のドラゴニック・フィニッシュ(ライダーキック)に対し、清姫の変じた龍は、臆することなく真正面から向かってくる。 

 

「上等だ、正面からぶちかますッ!!」

 

 清姫の龍もまた、大口を開けて咆哮した。

 クローズは自ら、龍の顎門の中へと飛び込んだ。龍はかまわず、クローズの全身を丸呑みにする。獲物を捕食する大蛇のように。

 

「うぉぉおおおおおおおらぁああああああああッ!!」

 

 クローズを飲み込んだ蒼龍の内部から、万丈の裂帛の叫びが響いた。

 清姫の変じた龍の炎の体のあちこちから、稲光が漏れる。龍の体内を、一筋の稲妻が走り抜けていった。

 一瞬遅れて、蒼龍の炎の体が揺らぎ、ほつれた糸のようにくずれはじめた。体を形成する炎と炎の間に裂け目ができる。その裂け目から、蒼龍の背中を突き抜けたクローズは、全身に蒼炎を纏いながら落下し、地べたを転がった。

 

「あッづ、あづッ、あぢィィッ!」

 

 清姫の宝具によって付与された火傷状態に、重ねがけされた延焼効果も相俟って、もはや装甲越しでも生身で身を焼かれているのと変わらないほどの熱量の炎に万丈は苛まれていた。全身を手ではたくが、その程度で火の手は収まらない。

 後方に気配を感じ、振り返る。蒼炎を再び和服へと変換した清姫が、ふわりと舞い降りるように着地した。扇子で口元を隠してはいるものの、その額には脂汗が浮かんでいる。顔色も決してよくはない。

 一瞬遅れて、崩れ落ちたのは清姫の方だった。けれども、万丈とてそれどころではない。クローズの装甲は強制解除され、それに伴って炎も消え去ったが、体力の消耗は甚大だった。

 

「ます、たぁ……ますたぁ」

 

 それでも清姫は、痛む体に鞭打って立ち上がり、蹲って血反吐を吐く雁夜の元へと走り寄った。クローズとの戦いで、清姫は大幅に魔力を消耗していることは想像に難くない。雁夜も、もうまともに戦える体ではないことは火を見るよりも明らかだった。

 血反吐を吐きながら咳き込む雁夜を抱き起こす清姫に、万丈はひりひりと痛む体を擦りながら、歩み寄った。

 

「あんた、そんな体で、それでもまだ遠坂さんとやりあおうってのか」

「がふッ……げふ……っ、当然、だ……俺はどうせ、放っておいても、じき死ぬ。だが……なにもなせず……、死ぬのだけは、御免だ……ッ」

 

 雁夜の容態が、昨日よりも悪化していることに、万丈は気付いた。今の戦闘は、きっと更に雁夜の寿命を縮めたに違いない。

 はじめから、万丈と戦う必要などなかったのだ。当初の予定通り、雁夜は時臣だけを狙って立ち回ればよかった。避けて通るべき戦いに、それでもふたりは正面からぶつかってきたのだ。その想いを、万丈へと叩き付けるように。

 万丈はゆるくかぶりを振って、視線を伏せた。

 

「桜は……きっと、遠坂さんが助け出す。それでも、挑まねェわけにはいかねえのか」

「ああ……いかない、ね。どうしても、止めたければ……ここで、俺を、殺すしかない」

 

 雁夜の白濁とした瞳に宿る闘志に、万丈は諦念の吐息を零した。

 

「わかった。もうあんたを止めようとは思わねェ。それであんたが救われるなら……好きにしろ」

 

 己の耳を疑うように目を丸めて、雁夜は万丈を見上げた。白く濁ったその瞳は、もう、焦点が定まっていない。今の雁夜に、万丈の姿が正しく見えているとは、あまり思えない。

 

「だぁああもうッ、こうなったらしょーがねえだろ! ただし、やるなら男と男の真剣勝負だ、卑怯な真似は許さねェ! そういう約束なら……この勝負、俺が最後まで立ち会ってやる。誰にも邪魔はさせねえ……!」

「よいのですかライダー。あなたは誰も死なせたくなかったのでは」

「ああ。だからお前らに遠坂さんは殺させねェし、遠坂さんにもお前らを殺させねェ。俺が見届けンのは、あくまで男と男の真剣勝負だ!」

「……、あなたという人は、まったく」

 

 はじめ、目を丸くした清姫は、小さく失笑を零しては袖で口元を覆った。清姫はすぐに堪えきれなくなり、くすくすと笑みを零し始めた。

 

「ンだよ、なにがおかしいんだよ!」

「うふふ……なにもおかしくはございませんわ。ただ、あなたもつくづく愚かな人だと思っただけです。もっとも、ますたぁほどではございませんが」

「うッせェな、誰のために愚かなヤツになってると思ってンだ! せめて馬鹿って言え、あと筋肉付けろ!」

 

 筋肉馬鹿とサーヴァントのやり取りに、雁夜の頬が僅かに緩んだ。

 万丈は、雁夜が穏やかな笑みを浮かべている姿を見たのは、これが初めてだった。こんな風に笑える人間が、これほどつらい宿命を背負い、これから死に行かなければならないことが、万丈にはつらかった。

 庭園の正門の鉄柵が、きぃいと音を立てて開いた。真っ赤な背広をきっちりと着こなす壮年の男がいる。遠目には一人で来たように見えるが、遠坂時臣が霊体化させたセイバーを引き連れていることは明白だった。

 先の戦いの余波で既に火の海と化した庭園をぐるりと見渡した時臣は、やがて雁夜に冷徹な視線を向け、嘲笑った。

 

「私が誅を下すまでもなく既に満身創痍とは……哀れなものだな、間桐雁夜」

「貴様……、時臣ィイイ!」

 

 憎々しげに来訪者の名を呼び、雁夜は立ち上がった。ふらつく姿勢を、清姫が支える。

 

「そこを通して貰えるかな。私は今日、間桐の翁より招待を受けてここへ来たのでね。君に我が道を阻まれる筋合いはないはずだが?」

「そうは、いかないね……聖杯戦争は、まだ終わってない。これは、俺からの宣戦布告だ……! 受けて貰うぞ、時臣ィ……!」

 

 時臣は、まるで最初からこうなることが分かっていたかのように笑みを深め、携えていたステッキを胸元の高さまで緩く掲げた。

 

「いいだろう。君との間に浅からぬ因縁があることもまた事実。精算するにはいい機会だ」

「遠坂さん……」

 

 万丈のすぐそばで、大気中の霊子が人の形に凝縮されていく。寄り集まった光の粒は、黒装束のサーヴァント、紅渡(ネロ)の姿を形成した。見計らったように、時臣のそばにもセイバーが姿を現す。両者ともに、腰に提げた魔皇剣に指をかける。無言のまま、因縁のふたりは睨み合った。

 

「クローズ、そちらは任せます。セイバーは僕が」

「いや、お前ッ……ずっといたんならさっきの戦いの時点で出てきとけよ!」

「あれは、あなたの戦いです。ひとりの仮面ライダーとしての」

「あァん!?」

 

 ネロの思惑が計りきれず、万丈は唸りをあげた。今に始まったことではないが、言葉が足りない。けれども、結論としての方向性は万丈の目的と合致しているので、これ以上なにかを言い返す気は起こらなかった。万丈はふらつく雁夜に寄り添った。

 

「……おい、まだ戦えるか、雁夜」

「ああ……元より死にかけの体だ。いまさら恐れるものなどなにもない」

「……そうか」

 

 雁夜は深く息をついて、呼吸を整えながら答えた。それでも、時折咳き込んでいる。白濁とした瞳に時臣を捉え、雁夜は不敵に笑った。今にも消えそうな笑みの儚さに、万丈は胸が締め付けられる思いに駆られた。

 清姫も、気丈に振る舞ってはいるものの、既に息が上がっている。クローズのドラゴニックフィニッシュをほぼ直撃で受けたようなものだ。マスターからの魔力供給も満足になされていない今、清姫とてまともに戦える状態でないことは明白だった。

 それでもふたりは、前だけを見て進む。万丈がかけてやれる言葉は、もうなにもない。

 

「こっから先は、あんたの戦いだ」

 

 最後の決戦に挑まんとする男から、万丈はそっと静かに距離を取った。

 この戦場における仮面ライダークローズの役目は、これで終わりだ。後はただ、男同士の戦いを見届けることくらいしか、できることはない。

 

「キバット、タツロット!」

 

 ネロの叫びに応じて、どこからともなく蝙蝠と小龍がやってくる。セイバーも同じだ。金と黒に彩られたネロのキバットとは配色の異なる赤と黒のキバットが、セイバーの腕の中に収まる。

 

「「変身」」

 

 セイバーとネロ、ふたりの声が重なった。ふたりの魔皇力が、大気に波紋を描きながら周囲へと伝播してゆく。ふたりの戦士は、ほぼ同じタイミングでキバへの変身を遂げた。

 変身と同時に、キバエンペラーを中心として、大地に真紅の魔法陣が描かれる。即座に広域展開された魔法陣は、この場の全員を飲み込んで赤く煌々と煌めく。ネロの標的は、最初からたったひとりだけだ。引き抜いた魔皇剣を大地に突き立て、黄金のキバは高らかに宣言した。

 

「宝具、展開――招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)

 

 魔力の華が吹き荒れる。突風は燃え盛る火の手を吹き払い、万丈の視界を埋めた。眩いエーテルの輝きののち、ふたりのキバは、庭園から姿を消していた。

 さすがの時臣もこれには驚いた様子で目を丸めていたが、それも一瞬だ。時臣が構えたステッキに嵌められた宝玉を中心に、周囲の炎が渦を巻いて掻き集められてゆく。

 

「ふん、君との戦いに英雄王(セイバー)は不要。間桐雁夜、なにするものぞ」

「はっ……上等じゃないか。これで邪魔者はいなくなったってワケだな、時臣ィイイッ!」

 

 雁夜は笑った。屋敷の窓から、一斉に蟲の群れが飛び出した。ここは、間桐の本拠地だ。蟲なら腐るほどいる。空を埋める黒い靄となった蟲の群れは、時臣を取り囲むように陣形を組んだ。万丈との戦いで繰り出した数の比ではない。蟲は屋敷の奥から無尽蔵に供給され続けている。出し惜しみはしないし、する必要がない。これが、雁夜にとって最後の戦いになるのだから。

 

   ***

 

 新都の駅前広場に駆けつけた警官隊は、銃を構え、一斉に発泡した。既に多くの民間人は避難している。ここにいるのは、鋼鉄の体で武装した怪人(スマッシュ)の軍団と、それを鎮圧するために出動した警官隊だけだ。

 スマッシュの軍団は、拳銃による弾丸をその身に受けながら、微塵も怯む様子を見せなかった。分厚い戦車の装甲に向けて銃を撃っても効果をなさないのと同じだ。スマッシュの軍団の中から、翼を持ったスマッシュが飛び出した。低空を滑空して、警官隊の只中へと突っ込んでくる。

 そこからはもう、一方的な蹂躙だった。どちらが狩るもので、どちらが狩られるものであるかはあまりにも明白だった。両手に剣を構えたスマッシュが、両腕の豪腕を振り上げたスマッシュが、色とりどりの鋼鉄軍団が、逃げ惑う警官隊を襲う。

 

「ひ、ひぃィああ、来るな、来るなあ!」

 

 逃げ遅れビルの壁際へと追い詰められた警官のひとりが、尻もちをつきながら、拳銃の引き金を引いた。弾丸は狙い過たずスマッシュに命中した。火花が散った。それだけだった。

 もはや逃げ場を失った警官を前に、ミラージュスマッシュは舌なめずりでもするように緩く剣を掲げた。警官は死を覚悟し固く瞑目したが、その瞬間が訪れることはなかった。

 地面に、どす黒い泥沼のようなひずみが生じている。そこから、まるでゾンビを思わせる所作で湧き出した白い装甲の戦士たちが、ミラージュスマッシュの腰元と足に纏わり付いた。

 

「なっ……なんだ」

「ヴェェアァアアア……」

 

 淀んだ呼吸とも唸りともつかない異音を発しながら、スマッシュを上回る勢いで増殖を開始した仮面ライダーゲンムが、警官隊に変わって反撃を開始した。各々のゲンムが手にした鎌や弓矢、剣を振るって、スマッシュ軍団を押し返していく。

 ゲンムたちに纏わり付かれ、身動きを封じられたミラージュスマッシュを、新たに現れたゲンムの一人が、鎌状の武器(ガシャコンスパロー)で袈裟懸けに斬りつける。当然、ミラージュスマッシュは反撃に打って出ようとするが、増殖したゲンムたちが腕に纏わり付いているため、それも叶わない。

 十体を超えて増殖を続けたゲンムは、その全てがミラージュスマッシュに覆い被さるように纏わり付き、その身を地面に生じたひずみへと押し込み、圧縮してゆく。ミラージュスマッシュは、断末魔の叫びすらあげることなく、ゲンムたちによって圧潰させられ、爆発した。その爆発も、ゲンムの群れによってできた厚い壁の外に漏れることはなかった。

 

「た……助かった、のか」

 

 ゲンムに命を救われた警官は、すぐに立ち上がることができなかった。一度は死を覚悟するほどの恐怖に囚われたこともあって、腰が抜けている様子だった。深く肩で息をしながら、救世主たるゲンムに視線を向ける。

 

「ヴェェエエアアア……」

 

 ゲンムの腕に装着された紫色のパッド(バグヴァイザー)から照射された光を浴びたところで、警官の意識は途切れた。警官は、既に人ではなくなっていた。制服はそのままだが、地肌を晒していた頭部と両手は、既に異形のそれへと変貌している。

 果たして、ゲンムは決して人間の味方などではなかった。

 既に息絶えた警官は捨て置いて、まだ交戦している警官をバグスターウイルスの戦闘員へと変貌させ、スマッシュに対する意思のない尖兵へと仕立て上げる。ゲンムとバグスターウイルスの軍団による、スマッシュ軍団への反撃が始まった。

 檀黎斗神は、冬木上空にぽつんと浮かび、戦場と化した新都を俯瞰しながら、乾いた笑みを漏らした。

 

「こんなところで我が宝具を解放させられたのは甚だ不本意だが、どのみち怪人を目撃した人間など、 聖杯戦争(ゲーム)の進行において邪魔になるだけだ。ならば、せいぜい私のために役立って消えるがいい」

 

 宝具、死満つる夢幻の奈落へ(ディープ・インサイド・ナイトメア)

 無限に増殖を繰り返すゲンムによる人海戦術。ゲンムの襲撃を受けたNPCは強制的にバグスターウイルスに変貌させられ、檀黎斗神の意思のままに動く操り人形となる。

 街中で白昼堂々使うべき宝具でないことは重々承知しているが、もはや聖杯戦争の体を保ち続けるのも限界が近い。現に、聖堂協会のスタッフは、既にほぼ全員が消されている。おそらくは、スタークの毒牙にかかったと見て相違ない。

 

「いったいなにを考えている、スターク……私の神聖なるゲームを破綻させるつもりか?」

 

 増殖を続けるゲンムと、街に溢れたスマッシュの戦いを眺め、黎斗は独りごちる。戦場にいるのは下級怪人ばかりで、スタークは姿を見せていない。

 黎斗が見下ろす街並みの中、一軒のビルの屋上に、スナイパーライフルを構え、スコープ越しに戦場を俯瞰する衛宮切嗣の姿があった。傍らには赤の弓兵も随伴しているが、すぐに戦場へ投入する気はないらしく、アーチャー陣営はあくまで『見』に徹している。

 国道に沿って、一台のバイクがやってくるのが見えた。桐生戦兎は、半ばバイクから飛び降りるようにして戦場へと飛び込んで行く。戦兎の姿がビルドへと変じると同時、霊体化を解いた長尾景虎(ランサー)が、周囲のスマッシュへと飛び掛かった。

 ビルドとランサーの奮戦を眺めながら、黎斗は満足気に深く頷いた。

 

「フン、君たちはそれでいい。NPCとはいえ、一般人を見捨てるわけにもいくまい」

 

 迫りくるゲンムの群れを真紅の大剣(フルボトルバスター)で薙ぎ払いながら、赤と青の装甲を纏ったビルドは戦場の真ん中へと躍り出た。

 

「なんッだよコレ、これじゃ俺のいた世界の二の舞じゃねえか」

 

 戦兎はビルドの仮面の下で嘆いた。破壊されたビル、街に溢れた瓦礫、逃げ惑う人々、押し寄せる怪人たち。人間同士の戦争と、エボルトの侵略によって破壊し尽くされた旧世界の町並みを思い出し、戦兎は心を抉られる思いに駆られた。こんな景色は、二度と見たくはなかった。

 

「戦兎、この者ら……まさか」

 

 警官の制服を着たバグスター戦闘員を、槍による峰打ちで叩き伏せながら、ランサーは笑顔のまま、珍しく動揺の声を漏らした。

 

「ああ、元は人間だ。殺すわけにはいかない」

 

 言いながら、豪腕を振り上げて襲い掛かってくるストロングスマッシュに、フルボトルバスターの刃を叩き込む。カウンターをもろに食らって怯んだスマッシュの胴に、ガンモードへと変形させたドリルクラッシャーの弾丸を浴びせる。

 

「このスマッシュも、バグスターも、みんな元は人間だったはずだ。少なくともスマッシュは倒せば元の姿に戻る。だが、バグスターの方は……俺の方にはデータがない。助けられる保証がない!」

「なんとまあ……あのスタークとかいう輩、やってくれましたね」

 

 半ば悲鳴のような戦兎の叫びを受けて、ランサーは器用にも微笑みをたたえたまま歯噛みする。殺到するゲンムの群れを華麗な槍捌きでいなしながら、地獄と化した街をぐるりと見渡す。主犯と思しきブラッドスタークは、この場所にはいない。

 

「とにかく、一人でも多くの市民を助けるぞ。今は人命が最優先だ」

「心得ました。こうなっては、神秘だなんだと言っている暇はありませんから、ね!」

 

 にいと微笑むと同時、ランサーは超人的な跳躍力でゲンムの群れへと飛び掛かった。逃げ遅れた警官へと向けられていたバグヴァイザーを槍による一撃で弾き上げ、背後の警官を庇いつつも敵の群れへと切り込んでいく。

 

「味方になれば、あんなに頼もしいやつもそうはいねえな」

 

 戦兎は、ビルドの仮面の下で、信頼からくる安堵の吐息をついた。すぐに背後に迫っていたスマッシュへと振り返ると、ラビットタンクスパークリングボトルを取り出し、耳元で振る。ボトル缶の中で、炭酸がしゅわしゅわと弾ける音がする。内部の成分が活性化している証拠だ。

 横合いから飛び掛かってきたフライングスマッシュの攻撃を屈んで回避しながら、ビルドはスパークリングボトルをベルトへ叩き込んだ。

 

 『RABBIT(ラビット) TANK(タンク) SPARKLING(スパークリング)!!』

 

 『Are You Ready?』

 

「ビルドアップッ!」

 立ち上がると同時に構え直す。ビルドの前後に生成された金型が、ビルドを挟み込む。全身から炭酸を思わせる泡を放出しながら、ビルドの強化変身がなされた。戦兎が徹夜で再調整した力だ。

 

 『シュワっと弾ける!』

 『ラビットタンクスパークリング!!』

 『イエイ! イエーイ!』

 

 赤と青の装甲の各所を鋭角的に尖らせて、ラビットタンクスパークリングへの変身を遂げたビルドは、両手にフルボトルバスターとドリルクラッシャーを構え、二刀流で駆け出した。まずは、この場にいるすべての下級スマッシュを鎮圧する。スパークリングならば、決して遅れを取ることはない。

 

 

「あの男、随分と派手なことをやってくれたな」

 スコープ越しに戦場を眺めながら、衛宮切嗣は誰にともなくぼやいた。

 いざという状況に備えてアーチャーも傍に待機させてはいるものの、この混沌とした戦場に馬鹿正直に突っ込んでいくべきかどうかは、未だ思案中だった。

 少なくとも、ルーラーは市民の命に頓着しているようには見えない。人命救助を気にせず戦うのであれば、ゲンムの軍勢と、ビルド、ランサーがいれば十分にスマッシュは鎮圧できるだろう。ルーラーによる追加令呪の報奨を思えば、切嗣としては首謀者と思しきスタークのみを仕留めたいところだ。

 

「おそらく陽動だろうな。これではあまりに目立ちすぎる」

 

 傍らのアーチャーが口を開いた。腕を組んで戦場を俯瞰しながら、冷静に所感を述べたのだろう。無言のまま、ちらと視線だけをくれてやる。

 

「しかし、陽動にしても愉快ではないやり方だな。放っておけば被害も拡大するだろう」

「僕らの仕事は人命救助じゃない」

 

 アーチャーはなにを言い返すでもなく、深く息を吐くと、無言のまま静かに瞑目した。

 自分の意思を押し殺したようなその対応が、切嗣にとっては不愉快だった。アーチャーは依然として、なにを考えているのか読めない節がある。人命救助など、あの仮面ライダーとランサーにでも任せておけばそれでいい。

 ふいに、懐に忍ばせた携帯電話が鳴った。インカムの通信県外からの連絡手段として、切嗣は舞弥に携帯電話を持たせていたのだ。無言のまま、切嗣は着信を取った。

 

『街に放っていた使い魔から報告がありました。間桐邸にて、遠坂と間桐が戦闘に入った様子です。おそらくこの戦いで、いずれか……または両陣営ともに敗退する可能性が高い』

「それは放っておけない状況だな。そっちは今、現地にいるのかい」

『向かっている最中です。十分もかけずに到着するかと』

「わかった。なら、到着しても下手に動かず、あくまで監視にのみ徹してくれ」

 

 必要なやりとりだけを済ませて、すばやく電話を切る。それから、切嗣は思案する。

 スマッシュによる市街地の襲撃と同じタイミングで発生した間桐邸での決戦。眼下で繰り広げられる戦闘が陽動とするならば、間桐邸での戦いこそがスタークにとっての本陣である可能性が高い。だが、だとすればスタークと組んでいると思しき言峰綺礼は今、なにを考えているのか。あまりにも不確定事項が多すぎる。

 

「どうした、マスター」

「アーチャー、お前も間桐の屋敷へ向かえ」

「……それは別段構わないが、いったいなぜ」

「屋敷で動きがあった。お前は現地で舞弥と合流し、監視を続けろ」

「そうか。委細了解した」

 

 必要最低限の指示だけ下す。アーチャーは、すう、と溶けるように消えた。

 背後に侍っていた従者の気配が完全に消えるのを確認してから、切嗣は煙草を一本取り出し、静かに火を付けた。思考の整理には、ひとりの時間が欠かせない。

 ビルの下から聞こえてくる剣戟音や砲撃音、悲鳴や雄叫びを聞き流しながら、切嗣はふうと煙を吐き出した。街のあちらこちらで上がっている白煙と比べれば、煙草の煙などあってないようなものだ。

 当初想定していた聖杯戦争から、事態は大きく逸れ初めている。聖杯を求めて相争う魔術師同士の殺し合いでは、既になくなっている。なにか大きな力による妨害を受けているように切嗣は感じ始めていた。

 戦いに勝利するためには、常に最新の情報にアップデートしながら、戦略を切り替えていく必要がある。いつまでも従来の聖杯戦争の感覚で挑み続けるのは、愚か者のすることだ。ここからは、思索の時間が必要になる。

 

   ***

 

「どうにも今朝は騒がしくていかんのう。老人の耳には堪えるわい」

 窓の向こうで燃え滾る火の海を横目に、間桐臓硯は二階の一室に誂えたソファに深く腰掛け、しわがれた頬を歪めて笑った。

 庭でサーヴァント同士の決戦が繰り広げられていることは知っている。新都の市街地で、スタークの放った化け物どもが誰彼構わず人を襲っていることも知っている。それぞれの戦場で戦う戦士たちが、なにを思って戦うのかも、臓硯は知っているつもりだった。

 

「なに、もう少しの辛抱さ。今日で聖杯戦争は大きく動く。少なくとも、時臣はこれでジ・エンドだ! そうなったら、あんたのシャドウバーサーカーに勝てるやつはいなくなる」

 

 背後からかかった老獪な声に、臓硯はより笑みを深める。

 真紅の装甲を身にまとった偉丈夫が、屋敷の壁に寄りかかっていた。エメラルドグリーンに煌めくバイザーの奥で、スタークがどんな表情を浮かべているのかは知らない。だが、知る必要もない。結局、聖杯のシステムを真に理解しているのは、御三家だけだ。スタークがなにを企んでいようと、臓硯の手から聖杯を簒奪することはできない。

 はじめは聖杯戦争の裏に潜んだ野望を暴くことが目的だった。正確には、今だって目的のひとつではある。だが、最終的に聖杯が手に入るのであれば、裏にどのような思惑が潜んでいようともはや関係はない。雁夜がどうなろうと、桜がどうなろうと、どうだってよかった。

 

「カカッ、それは善哉。雁夜めは最後まで能無しの息子であったが、せめて最後くらいは役に立って欲しいものよ。まあ、期待はしておらんがの」

「そう言うなよ。父親であるあんたのために、健気に働いてくれたカワイイ息子じゃねえか」

 

 雁夜による謀反を警戒した臓硯は、刻印虫を通して常にその生殺与奪を握っていたつもりだった。けれども、結局雁夜による謀反はなかった。最初から雁夜になど期待はしていなかったが、目下最大戦力を保有している遠坂の陣営を屠るための舞台を演出してくれたことだけは褒めてやってもいい。雁夜の心を、自らの手で壊せなかったことだけは心残りだが、その程度の娯楽は些末な問題だ。

 

「まったく、お主はげに面白き男よ。よもやこの歳になって、こうも他人の世話になる日が来るなどとは夢にも思っておらなんだわ」

「おォいおい、よせよ爺さん。あんたが匿ってくれなきゃ、今頃俺は路頭に迷ってたに違いない。世話になってンのは俺の方だよォ」

「カカッ、相変わらず口の上手い男じゃて。ならばせめて、助けてやった恩には報いて貰うとしようかの」

「わかってるよォ。あんたの望むゲームは、しっかり俺がメイクしてやる。大船に乗ったつもりでドシッと構えてな」

 

 スタークは、無骨な赤い手で枯れ枝のような臓硯の肩を叩いた。嘘にまみれたスタークの笑い声に応えるように、臓硯もまたくつくつと笑う。

 決してスタークに心を許したわけではないが、少なくとも現時点でスタークの手綱を握っているのは臓硯だ。あとはどこでこの蛇男を切り捨てるか、問題はそれだけだ。

 やがてスタークは馴れ馴れしくもぽんぽんと臓硯の肩を二度三度叩くと、大きく伸びをして窓際へと移動した。

 

「いいねえ。どっちもいい具合に殺気立っていやがる」

 

 スタークの眼下では、雁夜と時臣が睨み合っている。一触即発とはこのことだ。スタークは鼻で笑った。

 

「ま、せいぜい潰し合ってくれ。脱落するサーヴァントは、多ければ多いほどいい」

 

 雁夜が、先に仕掛けた。蟲の軍勢が一気呵成に畳み掛ける。

 スタークにしてみれば、雁夜と時臣の因縁に別段興味はない。だけれども、今ばかりは雁夜を応援してやってもいいと思われた。雁夜の敗北は最初から確定しているが、なにかの間違いで運良く時臣を仕留めてくれれば、それはそれで都合がいい。期待はしていないが。

 スタークは、晴れ渡った空を見上げた。日は徐々に高く登りつつある。戦争はまだはじまったばかりだ。




【Servant Material】

サーヴァントの情報が開示されました。

【CLASS】ルーラー
【真名】檀黎斗
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力C 耐久EX 敏捷C 魔力E 幸運B 宝具C

【クラス別スキル】
●神明裁決:A
 ルーラーとしての最高特権。
 聖杯戦争に参加した全サーヴァントに対し、二回まで令呪を行使できる。

●真名看破:C
 ルーラーとして召喚されることで、直接遭遇した全てのサーヴァントの真名及びステータス情報が自動的に明かされる。ただし、隠蔽能力を持つサーヴァントに対しては幸運判定が必要となる。
 また、檀黎斗は座から召喚された英霊ではないため、このスキルの恩恵を十全に受けられてはいない。

●単独顕現:A
 単体で現世に現れるスキル。単独行動のウルトラ上位版。
 本来はビーストしか持ち得ぬスキルだが、檀黎斗はゲームマスターとしての権能を行使してこのスキルを自力で獲得し、座を介さずに顕現することに成功した。

【保有スキル】
●孤高のカリスマ(神):EX
 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
 本来であれば団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる能力であるが、檀黎斗の場合、その効果は自身にのみ適用される。
 戦闘面においては、自身の攻撃力をアップ&自身の貯蔵魔力をアップするスキルとして機能する。

●英雄作成(神):EX
 数々のガシャット、及びライダーシステムを開発し、世界を救った英雄たる仮面ライダーエグゼイドらを世に送り出した実績と、檀黎斗を完全なる絶対神へと押し上げた逸話から得られたスキル。
 戦闘面においては、自身の攻撃性能を大幅にアップ&自身の最大HP大幅アップ&自身のクリティカル威力大幅アップとして機能する。

●自己改造(神):EX
 檀黎斗はゲームマスターとしての特権で自身の霊基を操り、凡そ想像し得る最優のサーヴァントとして自身を定義している。
 このスキルによって、檀黎斗が変身した仮面ライダーゲンムにのみ「ブレイクゲージシステム」が適用される。ただし、ブレイクゲージシステムが適用されるのは変身中のみである。
 戦闘面においては、自身のクリティカル率とクリティカル威力を大幅にアップさせるパッシブスキルとして機能する。


【宝具】
●第一宝具
死満つる夢幻の奈落へ(ディープ・インサイド・ナイトメア)
ランク:C 種別:結界宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:50人
 ゾンビといえば増殖がつきもの。この宝具の発動圏内では、自身と同じ姿の分身をゾンビのように無限に出現させることができる。
 この宝具によって出現したゲンムには、物質を腐敗させる能力が備えられており、各種ライダーシステムに触れれば、そのシステムに深刻なダメージを引き起こす悪性プログラムを流し込むことができる。
 また、この宝具圏内においてゲンム以外のライダーシステムは装着者の保護機能が解除されており、変身の自動解除とゲームエリアからの撤退は一切行えない。
 まさしく、敵ライダーを確実にゲームオーバーに追い込むことを目的としてデザインされた宝具である。 

●第二宝具
死と絶望の輪廻(デス・ザ・クライシス)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
 対魔力、或いは対抗するに足るシステムを持たない対象を、バグスターウイルスの戦闘員へと変質させ、使役する。基本的にはNPCにのみ有効。
 上述した第一宝具によって増殖したすべてのゲンムがこの能力を有しており、例えゲンムの変身が解除されたとしても、この宝具によって変質させられた対象が元の人間に戻ることはない。
 黎斗の知る限り、元に戻す手段があるとすれば、仮面ライダーエグゼイドによる『リプログラミング』のみである。
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