仮面ライダービルド×Fate/NEW WORLD   作:おみく

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第34話「ローグ新生」

 かつての戦友が、地べたに這いつくばってこちらを睨めつけている。一騎打ちの果てに、ランスロットが太陽の騎士ガウェインを下したときの記憶だった。生前の、遥か昔の記憶だ。

 決闘を申し入れてきたのはガウェインの方だった。許されざる不義の黒騎士を討つため、忠節の騎士は義憤の炎を燃やしてランスロットに勝負を挑んだのだ。

 太陽の騎士は、陽の光のもとに聖者の加護を受け、絶対的な戦力差でもってランスロットを苛烈に攻め立てた。誰も、陽の光のもとでかの騎士を打ち破ることは叶わない。

 だが、それでも、最後に勝ったのはランスロットだった。

 何度打たれ、攻め立てられても、ランスロットは立ち上がった。苦境に耐え、太陽の加護が消失する日没まで、決して戦いを投げなかった。

 

「Ga……ww――」

 

 眼前に立ち塞がる燃える炎の男(クローズマグマ)を見ているうちに、ランスロットはいつからか生前の友の姿を思い出すようになっていた。

 何度斬りつけ、打ち据えても、クローズマグマは燃え盛る炎をまとって立ち上がる。拳を握りしめ、その胸に宿る灼熱の闘志をランスロットへ向けてくる。

 立場は逆だが、生前のあの戦いを思い出さずにはいられない。

 

 いっそ、なにも考えることのない狂戦士のままでいられたならよかった。

 地球外生命の因子を取り込んだときからか、それともアサシンの霊基を取り込んだときからか。いつからかは判然としないが、ランスロットの霊基は、既に英霊バーサーカーとしての枠を逸脱していた。今は、刻一刻と思考がくっきりとした輪郭を持ち始めている。

 こんなことならば“進化の因子”など取り込まないほうがよかった。ただ、狂戦士として意思もなく暴れているうちに、誰かに倒して貰った方がずっとマシだった。

 騎士の誇りを捨てた己を自覚することが、こんなにも苦しいだなどと思ってもみなかった。

 

 明らかに動きが鈍り始めた仮面ライダーブラッドの眼前に、再びクローズマグマが立つ。

 

「オイ、どうした……動きが、鈍ってんぞッ!」

 

 ブラッドの反応が遅れた一瞬のすきをついて、背中のスラスターからマグマを噴射して肉薄してきたクローズマグマの拳が、ブラッドの仮面を打ち据えた。

 

「――ッ!?」

 

 燃え盛る溶岩の手甲が炸裂し、確かな熱量が装甲を突き抜けてランスロットの肌を焼く。

 クローズマグマの全身の装甲から、太陽フレアを思わせる炎が噴出した。常人ならばとっくに限界を超えているはずのコンディションに追い込まれてなお、クローズマグマの闘志は熱く燃えたぎっている。

 

「うぉおおおおおおらあああああッ!!」

 

 咄嗟に聖剣アロンダイトを盾代わりに構えるが、その刀身を燃える溶岩の拳が殴りつけた。ガイィン、と鈍い音を響かせて、ブラッドの腕にまで痺れが伝播する。

 燃える炎の拳は赤熱する灼熱の軌跡を描きながら、二度、三度とブラッドめがけて打ち込まれる。やがて、アロンダイトの守りがはじき上げられた。クローズマグマの炎のアッパーが、ブラッドの胸部装甲を打ち据え、炸裂した。

 

「Ga、aaaaaaa――ッ」

 

 爆裂する溶岩フレアの熱に足元をぐらつかせながらも、ブラッドはアロンダイトを振り上げ、瞬時に魔力を漲らせたその刀身でクローズマグマの溶岩の装甲を縦一線に斬り裂いた。

 その切り口から魔力が溢れ出し、再びクローズマグマの胸部で魔力と溶岩の輝きがはじける。攻め込んできたはずのクローズマグマが逆に吹き飛ばされ、再び巨石に背中を打ち付けて崩折れた。

 手応えでわかる。直撃だ。だがもう、ランスロットには、ただの直撃程度でこの一騎打ちが終わるとは思えなかった。

 

「う、おおおおお……ッ! まだ、だ……! まだ、終わらねェエエエッ!!」

 

 クローズマグマは、火の海と化した地べたを殴りつけて立ち上がった。

 心のどこかで“それでこそだ”と思う自分がいた。クローズマグマの不死身のタフネスに、ランスロットはもう、今更驚くことはなくなっていた。

 

   ***

 

 アーチャーとスタークの動きに翻弄されながらも、綺礼はまだ己の動きに余裕を感じていた。アーチャーの動きはたしかに驚異的だが、令呪によるエンチャントを得れば対応することは容易い。スタークに関しては、一撃の威力は大きいのかもしれないが、基本的なスペックはやはり人間の枠を逸脱していない。

 これでは、綺礼を殺すには足りない。

 

「ハッ!」

 

 背後から高速で迫り、綺礼の首を狙って振るわれたアーチャーの一刀を身を捩って回避し、黒鍵を投擲する。アーチャーはすかさず黒鍵を叩き落とすが、そこへ攻め込んできたのはスチームブレードを構えて飛び込んできたスタークだった。

 腕だけを振るって黒鍵で剣を打ち返すと、スタークはすでに脇腹にトランスチームガンを構えていた。それを認識したときには、既にボトルのエネルギーが充填された光弾が連射されていた。

 

「……ッ」

 

 地を蹴って身を翻した綺礼は、光弾をかわしながらスタークの仮面を蹴り飛ばし、跳躍する。そこを狙って飛来したのは、アーチャーの放った弓矢の一撃だった。

 

「宝具か――ッ!」

 

 光り輝く魔力を内包した矢の一撃には、さしもの綺礼も肝が冷えた。

 アレはおそらく、綺礼を確実に捉えて炸裂するタイプの宝具だ。回避することに意味はない。万事休すかと思われたそのとき、下方から煙幕をたなびかせて高速で駆け上がってきたのは、スタークの放った光弾だった。

 スタークのスチームショットは確実にアーチャーの宝具に狙いを定めて急迫し、綺礼に着弾する前に迎え撃った。同時に、炸裂する。綺礼はケブラー繊維で編み込まれた僧衣の袖で頭を庇う。爆発した魔力に煽られ、綺礼は吹き飛ばされる。

 

「……貴様」

「悪いなアーチャー。俺も綺礼を狙って撃ったんだが、どうやら間が悪かったらしい」

 

 挑発的な笑みとともに紡がれた謝罪に、アーチャーが言葉を返すことはなかった。

 地べたを転がって受け身を取った綺礼に向かって跳ぶ。そのときには既に体制を立て直していた。

 再び、アーチャーの刀と黒鍵がぶつかり合う。そこからは、人間の限界を越えた超速度での相克が繰り返される。互いの剣が、光の軌跡だけを残して激しくぶつかり合う。

 ちらと視線だけをそらせば、スタークは再びライフルを構え、スチームショットの構えに入っていた。直感的に察する。今度の一撃は、間違いなくこちらを狙ってくる。

 

「チッ」

 

 小さく舌を打ち、アーチャーの足元を払う。当然のように回避されるが、一瞬攻め手が緩んだのは間違いない。ほんの一瞬舞い込んだタイミングを逃すことなく、令呪によるエンチャントを得て威力を高めた一刀でアーチャーの刀を弾き返した。

 即座に身を翻し、スタークの放ったスチームショットの弾丸を真正面から叩き落とす。同時に、煙幕が噴出し、この場の全員の視界を遮る。

 

“――来るか”

 

 全員の視界がおぼつかない煙幕の中、スタークだけが蛇のように自在に動き、瞬く間に綺礼の懐へ飛び込んでくる。

 振り下ろされたスチームブレードと、綺礼の黒鍵が激突する。互いの得物がせめぎ合い、動きが止まったその瞬間、スタークは微かな声で囁いた。

 

「おい綺礼、いつまで遊んでるつもりだ?」

「なに」

「もう気付いてるんだろ、黎斗の遊びに付き合ったところで、おまえが満たされることはない」

「おまえには関係のないことだ」

 

 スタークの剣を弾き返し、追撃に出ようとしたところで――煙幕が、吹き飛んだ。

 超高密度の魔力の塊が空から飛来して、あたりを包む煙幕を引き裂いたのだ。

 綺礼の目が捉えたのは、今まさにこの場を抉ろうと急迫する虹色の剣と、それを放つために舞い上がった赤い弓兵の姿だった。

 

“もろとも始末する気か”

 

 綺礼は自嘲した。アーチャーは、既に綺礼とスタークの両方を敵とみなしている。

 こうも早くスタークを捨て駒にすることは意外といえば意外だが、その認識そのものが甘かったと自覚する。衛宮切嗣は、そういう男だ。

 すかさず令呪によって膂力を跳ね上げて、綺礼はスタークのスチームブレードを弾き飛ばした。同時に、その襟首を掴み上げ、足首を払う。

 身動きを封じられたスタークが――ほんの一瞬、嗤った。

 

「ああ、それでいい」

 

 アーチャーの放ったカラドボルグの一撃が、スタークの胸部装甲に突き刺さり、炸裂した。暴力的な魔力の奔流が周囲の巨石をまとめて吹き飛ばすが、綺礼はもう逃げはしなかった。

 スタークの身を盾にして、身を焼く魔力ダメージを令呪で即座に回復しながら、爆心地の中心でひたすらに耐える。

 やがて爆発が収まったとき、綺礼の代わりにアーチャーの宝具ダメージを真正面から受け止め、力尽きたように崩折れるスタークの腹部を貫いたのは、綺礼の黒鍵だった。

 

   ***

 

「うぉおおおおおおおおおッ!!」

 

 裂帛の叫びを響かせて、クローズマグマはブラッドの間合いに飛び込んできた。

 振り下ろされたアロンダイトの一撃を肩の装甲で受け止めながら、同時に炎の拳をブラッドの仮面に叩き込む。矢継ぎ早に、燃える炎の蹴りがブラッドの腹部を蹴り飛ばした。同時に溶岩フレアが爆裂して、ブラッドの装甲を焼く。

 

「――っ!?」

「ッらぁああ!!」

 

 数歩後退ったブラッドめがけて、マグマのジェット噴射で加速を得たクローズマグマの拳が、上段から振り落とされる。振り上げた剣と拳が激突し、魔力とマグマが噴出する。爆風が脆くなった巨石を吹き飛ばし、突風が周囲の火を巻き上げる。

 

「Gaaaaaaaaaッ!!」

 

 ブラッドは力いっぱいアロンダイトを振り払い、クローズマグマの拳を弾き返す。一瞬体制を崩したクローズマグマの腹部に、閃いた刀身の一撃を浴びせる。魔力と溶岩が吹き出して、またしてもクローズマグマは吹き飛んだ。

 

「――ァアアアアアアッ! まだだァアアアッ!!」

 

 今度は、今までとは違った。

 吹き飛ばされながら、クローズマグマはベルトのレバーを勢いよく回した。電子音声が鳴り響く。周囲の火がより集まり、燃える溶岩の八岐龍(マグマライズドラゴン)を形成する。龍の咆哮が大地を震わせる。

 

 ブラッドに吹き飛ばされたクローズマグマは、スラスターから噴射したマグマで体制を立て直すと、逆に巨石を蹴って、空へと飛び上がった。

 いつの間にか、キャスターが呼び込んだ暗雲は吹き飛んでいた。空に燦然と輝く太陽の光が、ブラッドの視界を焼く。

 

「――ッ」 

「うぅぅゥゥッ……わァアアああああああああああああッ!!」

 

 太陽を背に、燃え盛る炎の男は裂帛の絶叫を響かせて、その蹴り足をブラッドへと向けた。

 炎のドラゴンが、クローズマグマの脚部へと収束してゆく。一瞬ののちには、クローズマグマは太陽よりも眩しく燃える、炎の流星と化していた。

 

“嗚呼、そうか――”

 

 妙に冴えた頭で思考する。

 意識とは裏腹に、獣と化した体は自然と動く。重たい剣を振り上げて、最後の魔力を捻出する。かりそめの主から膨大な魔力を吸い上げて、赤黒い魔力の輝きを宿した剣を構え――魔剣と化したアロンダイトと、極熱必殺ボルケニックフィニッシュがぶつかりあった。

 

 光が迸る。衝撃が、周囲に残った巨石を纏めて吹き飛ばす。

 灼熱の炎と化したクレーターの中心で、クローズマグマの必殺のライダーキックは、アロンダイトごとブラッドの胸部装甲を穿った。そこから極熱のマグマが噴出し、周囲のすべてを焦土へと変えてゆく。

 

“――此度は、貴公の勝ちか”

 

 聴覚は濁り、嗅覚は鉄の臭いで塞がれている。あらゆる感覚が消失してゆく中、ぼやけた視界にランスロットが認めたのは、空に輝く太陽と、それに負けないほど熱く眩い火を放つ、燃える炎の男の姿だった。

 

 クローズマグマのライダーキックは、間違えようもなくランスロットの霊核を打ち砕いた。

 最後の瞬間、もっと魔力を要求すれば、或いは打ち勝つこともできたのかもしれない。だが、それをするには、もう――この体が持たなかった。

 本来ならばとっくに消失しているはずの霊基を、蟲による魔力と、地球外生命の因子、そしてアサシンの霊基でむりやり繋ぎ止めていたのだ。この体はすでに、人の子のそれではない。ただ壊し、喰らうだけの化け物だ。

 

 誇り高き湖の騎士の剣技は、化け物の体にはあまりにも重すぎた。

 体が光となって消失してゆく。霞ゆく視界の端に見える紅炎に、ランスロットはかつての友の勇姿を見た。

 

“私は王に、刃を向けた。狂気に身をやつし、騎士の誇りすら捨てて――”

 

 自分にはもはや、願う資格すらない。そんなことはわかっている。

 だが、それでも。自分という存在が完全に消えてしまう前に、震える喉から、掠れた声を絞り出した。

 

「――王を、頼む。忠節の騎士……太陽の如き、炎の男よ」

 

 その言葉が正しく届いたかどうかも、もうわかりはしない。

 それでもランスロットは願う。今もなお、悪しき呪縛に囚われたまま苦しむ王の救済を。

 たったひとつの願いを残して、長らく囚われ続けていた騎士の魂は、今、ようやく解放された。堕ちた魔剣とともに、ランスロットの霊基は光の粒子となって、完全に消失した。

 

 シャドウバーサーカーが完全に消滅するのを見届けると、クローズマグマの装甲は消失した。とっくにライダーシステムの限界を越えたダメージを受けていたが、それでも根性で変身をもたせていたのだ。万丈は肩で息をしながら、天を仰いだ。

 

「しょーがねえな……テメェの願いも、俺が背負ってやるよ」

 

 左の手のひらに右の拳を打ち付けて、焦土と化した庭園を、万丈は歩き出す。

 まだ戦いは終わっていない。今も城内で戦っている仲間たちを、放っておくことはできない。ふらつく足取りで、それでも万丈は一歩ずつ前進してゆく。

 

   ***

 

 崩れ落ちる石動惣一の体から、黒鍵を引き抜く。背中と腹部から鮮やかな赤を垂れ流し、どさりと落ちる石動を、綺礼は冷えきった氷の眼差しで見下した。

 ごふ、と無様に咳き込んで、石動の口元からも多量の血液が吐き出される。焦点の定まらない視線を綺礼へと向けて、石動は笑った。

 

「ごぼッ、がふ……っ、これ、で……親父の仇は……討てた、な」

 

 この期に及んで紡がれる軽口を聞き流し、綺礼は深く息を吐いた。

 

「今一度問おう。石動惣一、おまえは私になにを望む」

「やりたい、ように……やればいい。おまえの、悪性を……見せつけてやれよ」

 

 最期ににっと微笑むと、石動は静かに瞳を閉じた。

 

「――また会おうぜ、綺礼」

 

 それが、正真正銘、石動惣一が遺した最期の言葉となった。

 何人もの標的を処刑してきた綺礼にはわかる。疑いようもない、完全な死だ。アーチャーの宝具の直撃を受けた上で、黒鍵でトドメを刺したのだ。サーヴァントが相手であっても、確実に死ぬ。

 そう間を置かず、石動の遺体は真紅の靄となって消えた。カラン、と音を立てて、トランスチームガンが地に落ちた。

 

 ――上等じゃねえか。おまえにやられるなら、俺は本望だよ

 

 あの地下室で石動が言った言葉は、或いは本音だったのかもしれない。

 最初から、石動はこの結末を求めていたのかもしれない。取り留めのないことを考えて、それから綺礼は、自嘲した。

 ちょうど時を同じくして、シャドウバーサーカーから吸い上げられる魔力の反応が消えた。あの仮面ライダークローズとの戦いに敗れ、消滅したのだろう。

 くつくつと嗤いながら、綺礼は足元に転がるトランスチームガンを拾い上げた。

 

「そろそろ潮時だな」

 

 冷徹な眼差しで油断なくこちらを伺うアーチャーに向き合うと、綺礼は懐から取り出した一本のフルボトルをトランスチームガンへと装填した。

 決戦前夜、石動が地下室に置き去りにした紫色のフルボトルだ。

 

 『BAT』

 

 フルボトルの前面に、コウモリの紋章が浮かび上がる。

 

「蒸血」

 

 綺礼はトランスチームガンを構え、引き金を引いた。

 かつて生前の石動がそうしたように。

 

 『MYST MATCH(ミスト・マッチ)!』

 『BAT・BA・BAT』

 『FIRE!』

 

 軽快な電子音声とともに吹き出した煙幕が綺礼の体を覆い、僧衣の上から漆黒の装甲を装着させる。

 ブラッドスタークと同じ、スチームシステムによって構築された、蝙蝠の鎧。暗く閉ざされた煙幕の中、胸元に刻まれた蝙蝠のシルエットと、黄金のバイザーがひときわ眩く光を放つ。

 綺礼は、蝙蝠の戦士――ナイトローグへの変身を果たしていた。

 

 再び双剣を構え、次なる戦闘に備えるアーチャーを後目に、ナイトローグは頭部の煙突からもうもうと煙幕を噴出する。

 綺礼の意図を察したアーチャーは、すかさず地を蹴り煙幕の中に飛び込むが、既にそこにナイトローグの姿はなかった。双剣を振るい、煙幕を切り裂くが、ナイトローグはどこにもいない。

 

 逃げられた。そう思った次の瞬間、アーチャーは地を蹴り跳び上がった。

 直前までアーチャーがいた地点が爆発する。空に舞い上がると同時に、アーチャーは新たな敵の到来を認めた。

 

「……やれやれ、また仮面ライダーか」

 

 アーチャーの宝具でこの辺り一帯の巨石はすべて吹き飛ばされている。そうしてできた広場に、黒と緑の装甲を纏った仮面ライダー――クロノスが姿を現した。

 空中で身を翻したアーチャーは、すぐさま弓矢を形成すると、投影魔術で精製した宝具の矢をつがえ、弦を引き絞る。それを放とうとしたその瞬間、クロノスは両手で力強くベルトのボタンを押し込んだ。

 

 『PAUSE(ポーズ)

 

「――ッ!?」

 空中にいた筈のアーチャーの姿勢が崩れた。全身に焼けるような痛みを感じる。まるで幾重にも銃弾で撃たれたかのような激痛の中、地に落ち行くアーチャーは見た。

 ――今しがた放った宝具が、誰もいない場所に着弾する瞬間を。

 

 かろうじて受け身を取りながら地面を転がったアーチャーのすぐそばで、宝具が炸裂する。自分で放った魔力の炎に焼かれることにはならなかったが、それでもアーチャーはここへ来て初めて焦りを覚えた。額には脂汗が滲んでいる。

 

“なにが起こった……!?”

 

 クロノスは、一秒前とはまったく異なる場所で、悠然と佇立している。その手に握られたガシャコンマグナムを見たとき、アーチャーはひとつの仮説を立てた。

 

“時を、止められたのか……?”

 

 まっさきに思い浮かべたのは、衛宮切嗣が扱う固有時制御(タイムアルター)だ。自分の時間を加速させて、周囲の時の流れから切り離す特殊魔術。だが、タイムアルターを使えば、即座に世界からの修正を受ける。時を止めるほどの能力を行使して、何事もなく戦闘を継続することなどできるのか――

 

「ッ」

 

 疑問を振り払い、アーチャーは今度こそ油断なく、音のような速度で駆けた。

 常人が反応できる速度を越えて、クロノスの懐へと飛び込む。なにもない場所からガシャコンソードを精製したクロノスと、互いの剣を打ち合わせる。

 幾重にも金属音を響かせて、両者の刃がしのぎを削る。ほんの数秒の相克ののち、クロノスの剣の守りを崩したのは、アーチャーの双剣だった。すかさず急所たる首筋を狙って剣を閃かせる。

 対するクロノスは、既に体制を崩されている状態から、むりやりガシャコンソードを割り込ませて、アーチャーの攻撃を受けた。防戦一方の、やぶれかぶれの戦法だ。まともな英霊ならば、これをやった時点で次に続く手がないことを知っている。だから、やらない。

 

 ――だが、この敵は違う。

 アーチャーの読み通り、ガシャコンソードは弾き飛ばした。だけれども、同時にその衝撃で後退ったクロノスに、数歩分とはいえ距離を取られてしまった。

 まずい、と感じるよりも先に、クロノスは両手でベルトを叩いた。

 

 『PAUSE(ポーズ)

 

「――っ!!」

 次の瞬間、吹き飛ばされたのはアーチャーの方だった。

 一度目のポーズは空中にいたからまだよかった。二度目は地上だ。銃撃だけでは済まない。

 血反吐を吐きながら地べたを転がったアーチャーは、即座に自分のコンディションを認識する。おそらく、蹴りかなにかを受けたのだろう。肋骨と内蔵が破壊されている。霊核に届いていないことが不幸中の幸いだった。

 すぐに切嗣から魔力を吸い上げ、体の修復に入る。立ち上がろうと試みるが、上半身の感覚がない。重たい疲労感が全身に伝播し、指を動かすことすらままならなかった。

 

 間違いない。この敵は、ノーリスクで時間を止めることができる。

 時間停止の起動スイッチは、ベルトの二つのボタンだ。あれを押される前に仕留めれば、こちらにも勝機はある。そこまでは理解したが、しかしこの状況から逆転することは難しい。

 一度霊体化し、戦線を離脱するべきか。

 そう考えはじめたときだった。

 

「随分と……苦戦、しているようですねえ」

 

 ザッ、と。土を踏み締める音がアーチャーの耳朶を叩く。

 視線だけを動かして、声の主を捉える。銀髪のランサー、長尾景虎がそこにはいた。

 肩の鎧は既に砕け散り、胸元には血のあとが色濃く滲んでいる。美しかった白装束を土色に汚しながら、それでもランサーは喜色の笑みを絶やすことなく、クロノスを睨めつけている。

 

「ランサー! その仮面ライダーは時間を――」

「口出し無用ッ! そのようなこと、そなたに言われずとも分かっている!」

 

 アーチャーの警告を遮って、ランサーは吠えた。

 

 ぶんと槍を振り回し、構えを取る。深く息を吐いて、ランサーは眼前のクロノスを見据えた。

 令呪を使って体力と魔力を回復させるべきだというマスターからの打診は届いている。だが、それをランサーは拒否した。全身に鈍い痛みを引きずったまま、ソラウから供給される魔力だけで這い上がり、この戦場まで己の足で歩いてきたのだ。

 

 そしてケイネスは、それを許してくれた。

 既に致命傷を負ったサーヴァントに、時を止める敵への反撃を許してくれだのだ。

 ならば、二度目の無様を晒すわけにはいかない。その相貌に、剣のように鋭く輝く闘志を滾らせて、ランサーは槍の切っ先を突きつける。

 

「時の理すら乱す術とは、大したものです。ええ、まったく恐れ入りましたとも。……で、それだけです?」

 

 槍の切っ先を向けられたクロノスは、しかしなにも言い返さず呆然とランサーを見据えるだけだ。

 おそらくクロノスは、自分が今なにを言われているのか、自分が置かれた状況すらも理解していない。己が虎に睨まれた獲物であるということを、理解できていない。

 ゆえにランサーは、確信とともに叫ぶ。

 

「――そなたには、なにもない! 戦を生き抜く心得も、勝利を渇望する魂すらも! この長尾景虎、そなたのような木偶に敗れるほど堕ちてはおらぬッ!」

 

 敵が時間を止めるならば、それよりも速く駆け抜ければいい。

 空を駆ける飛燕の如く、この一撃に全身全霊をかけて、生道を切り拓くのみ。

 

「毘沙門天ぞ是にありッ! 刮目せよ、これぞ軍神の一太刀なり……!」

 

 腰を落とし、槍を低く構える。

 感覚が研ぎ澄まされ、不要な情報はすべて断ち切る。

 ここにあるのは、虎と、獲物。そのふたつだけだ。ほかになにも必要ない。

 両手を掲げ、ベルトを叩こうとするクロノスを前に、ランサーは叫んだ。

 

「いざ、参るッ!」

 

 刹那、ランサーの姿が掻き消えた。

 音より速く、光のように鋭く。迷いのない一撃が、風のように吹き抜けた。

 ほんの一秒にも満たない刹那のうちに、ランサーはクロノスの背後を取っていた。

 一瞬遅れてベルトを叩くが、時間停止はもう、発動しない。ベルトはただ、火花を噴出させるだけだった。

 

「――!? ――??? ????」

 

 ベルトを破壊され、時間停止能力を失ったクロノスは、困惑した様子で自分の両腕を眺めている。

 慌てて振り返ったところで、ランサーの槍が、クロノスの胴体を貫いた。

 クロノスの手がだらんと落ちる。装甲が消失するが、やはり中には誰も入ってはいない。緑色のピクセルデータの残像だけを残して、クロノスは消滅した。その残像も、やがて大気に溶けるように消えていった。

 

   ***

 

「フン。まあ、当然の結果といえよう」

 

 作戦会議室と化した居間のテーブル上に設置されたモニターの映像を眺めながら、ケイネスは自慢げに鼻を鳴らした。

 仮面ライダークロノスからの奇襲を受けた際、ケイネスは即座に令呪を切ってランサーを回復させようとした。けれども、それを拒否したのは他ならぬランサー本人だった。

 令呪がなければ戦えないようなサーヴァントだと思われることは、私には耐えられないと、ランサーはそう言ったのだ。

 少し前のケイネスならば、問答無用で令呪を切っていたことだろう。だが、今は違う。ここまでランサーはケイネスの期待に応え続けてきた。だから、少しだけ猶予を与えてもいいと思った。

 

「お見事です、ロード・エルメロイ。流石は戦国最強、上杉謙信とでもいうべきか」

「自分の祖国で戦っているのだ、これくらいはやってもらわねば困る。この程度、褒めるほどのことでもなかろう」

 

 あえてモニターを見ずに、自分の使い魔から送られてくる視覚情報のみで戦況を把握していた時臣の世辞を適当に聞き流しつつ、ケイネスはちらと切嗣に視線をやる。

 切嗣のアーチャーもランサー同様にクロノスに重症を負わされていたようだが、当の切嗣はなんの迷いもなく一画目の令呪を切っていた。膨大な魔力リソースが送られ、アーチャーは既に回復して自力で立ち上がっている様子だった。

 その判断をなじろうとは思わない。まっとうなマスターであれば、当然の対応だ。ケイネスとしても、やはり令呪による回復を行ったほうがいいのでは、と。そう思いかけたところで、ふいにランサーとの思考のパスが繋がった。

 

“あのう、ケイネス殿”

“……なんだ、ランサー。先程の戦闘はよくやったが方だが、まだ褒めてやるには早いぞ。なにしろ、諸悪の根源たるルーラーはまだ残っているのだからな”

“ええ、ええ。それはもちろんですとも。で、ですね……そのためにもお願いがあるのですが”

“……なんだ、言ってみよ”

 

 頭の中に直接響くランサーの声音が、わかりやすい猫なで声になった。

 

“あのですね。やっぱり令呪の回復とか、お願いしても~……”

“なッ……”

 

 周囲には気取られぬよう、淡々と念話を交わしていたケイネスの表情が、歪んだ。

 

“なんだ貴様は、あれだけ見栄を切っておいて!”

“まあまあ、かの者はもう討ち果たしましたし、私の有能さは証明できたということでひとつ!”

 

 ケイネスは深く息を吸い込み、思い切り吐き出した。

 手の甲に刻まれた令呪を輝かせ、この聖杯戦争が始まって以来、はじめての令呪を切る。同時に、ソラウを通じて、ランサーへと膨大な魔力が注ぎ込まれてゆく。

 時臣も切嗣も、ケイネスの令呪が一画消費されたことには気がついた様子だったが、なにも言おうとはしなかった。マスターとしては、やはり当然の行動であると認識されたのだろう。しかし、それはそれとして、一度は令呪を切らないと宣言した自分が令呪を切ることになったのは、それなりの恥じらいがあった。

 

 ふいに、屋敷の外でなにかが爆発するような轟音が響いた。

 全員が顔を見合わせる。誰よりも先に動いたのは、衛宮切嗣だった。

 愛用のキャリコ短機関銃を掴んで、コートを翻して廊下に飛び出る。ケイネスと時臣も、すぐに追従した。

 

 廊下を抜けて正面玄関を出たとき、真っ先に視界に入ってきたのは、入り口の扉を木端微塵に吹き飛ばされた土蔵だった。中には自分ひとりで身動きの取ることのできないアイリスフィールがいることを、全員が知っている。

 一瞬ののち、土蔵の中から、破壊された入り口をくぐって姿を現したのは、最前の戦いで姿を消したナイトローグだった。その肩には、意識を失いぐったりと項垂れるアイリスフィールが担がれている。

 

「……言峰綺礼」

 

 キャリコの銃口を向ける切嗣に対し、ナイトローグはその仮面の下で微かな笑みを零した。

 

「小聖杯の女は頂いていく」

「そんなことを、この僕が許すと思うのか」

「おまえの許可など求めていない」

 

 切嗣は、キャリコの引き金に指をかけたまま、固まった。

 今撃てば、ナイトローグは間違いなくアイリスフィールを盾にするだろう。いずれ聖杯に成り果てる運命だとしても、自分の手で撃ち殺すことは憚られた。

 固有時制御で接近することも考えたが、確実にアイリスフィールを奪い返す算段がないうちに動くことは危険だ。言峰綺礼は、間違いなくアイリスフィールの命をなんとも思っていない。

 状況の悪さに、切嗣は奥歯を擦り合わせた。

 

「――なんだ、その顔は」

 

 ナイトローグの仮面から、言峰綺礼の、低くくぐもった声が響く。

 

「なぜそんな顔をする? 撃てばいいだろう、おまえが今までそうしてきたように」

 

 ほんの数秒の沈黙が、何十倍にも長い時間のように感じられる。やがてその沈黙を引き裂くように、ナイトローグはひどく失望したような嘆息を落とした。

 

「おまえには失望したよ、衛宮切嗣」

 

 やおら掲げられたトランスチームガンの銃口から、光弾が発射される。

 咄嗟に飛び退いて回避するが、それが切嗣を殺すことを目的として撃たれた光弾でないことは明白だった。地べたを転がって光弾を回避し、再びキャリコの銃口を向けたときには、既にナイトローグとアイリスフィールの姿は煙幕に包まれていた。

 煙幕の中に、ふたりの気配は感じられない。切嗣は、キャリコを握りしめた腕を力なく下ろした。

 

 時臣も、ケイネスも、誰も切嗣を攻めようとはしなかった。

 ふたりのマスターからは顔を背けたまま、切嗣は深く息を吸い込んで、伏し目がちに瞑目した。

 この期に及んで、なぜ言峰綺礼がアイリスフィールの身柄を奪いに来たのか。これからやつはどこへ向かおうというのか。奪い返すためにはどうすればいい。今すぐにでもアーチャーを呼び戻して、綺礼を追跡させるべきか。幾重もの自問自答が思考を駆け巡っていく。

 

「……まずは檀黎斗を倒すことを優先するべきではないかね」

 

 時臣が、静かに口を開いた。

 

「ルーラーを撃破し、聖杯を奪還する。なんとなれば、一度解体してしまうことも視野に入れて構わない。綺礼の目的が聖杯だとすれば、黙ってはいられまい」

「同感だな。私としても、聖杯戦争に勝利したという実績さえあればそれでよい。このような片田舎で鋳造された聖杯などに、はなから期待は寄せておらぬ」

 

 ふたりの言葉に、切嗣は内心で驚愕していた。その驚きを決して表情に出すことなく、静かに振り返り向き、ふたりの顔を見比べる。

 切嗣がリサーチした事前情報によって考えると、ふたりがこんな発言をすることは完全なる想定外だった。

 

「――聖杯は僕が手に入れる。解体には賛成できない……だが、そのために檀黎斗の撃破を優先すべきだというのは、同意見だ」

 

 必要最低限の意思疎通を図ると、切嗣は踵を返して屋敷へと引き返す。

 仲間意識などというものは微塵もない。ただ、目下共通の敵が檀黎斗であることに変わりはない。あの男を始末すれば、残る問題は言峰綺礼(ナイトローグ)ひとりだ。

 ひとつでも多くの問題を解決するために創意工夫を凝らすのは当然のことだといえる。今は思考を切り替えて、そのために動く方が有意義だと判断した。

 

   ***

 

 庭園を抜けて城の正門にたどり着いた万丈は、同じく激戦を切り抜けてたどり着いたアーチャーとランサーの姿を認め、立ち止まった。

 ふたりとも、身に纏った霊衣のあちこちが裂け、布地に赤黒い血の痕が滲んでいる。外傷はそれほどでもないようだが、その姿を見れば、激戦をくぐり抜けてきたのであろうことは容易に想像がつく。

 再び出会えた仲間たちに、万丈は片手を掲げ、微笑みで迎えた。

 

「よお、そっちも大変そうだな!」

「いえいえ、別に大したことはありませんでしたよ。そちらこそ、シャドウバーサーカーはどうしたんです?」

「当然、ブッ倒したに決まってんだろ!」

「そうですかそうですか、それは何より」

 

 ランサーは上機嫌そうににこにこと微笑んだ。

 一方、その少し後ろを歩くアーチャーは、特段なにも言おうとはしない。いつも通りの無愛想さだ。

 

「……ん?」

 

 そこで万丈ははたと異変に気付いた。

 庭園が迷路になって離れ離れになる前は、もう一人いたはずだ。

 

「おい、スタークの野郎はどうしたんだよ」

「奴なら死んだ。下手人は言峰綺礼だ」

「なっ……」

 

 一瞬、自分がなにを言われたのか理解できなかった。

 絶句する万丈に、アーチャーは続ける。

 

「当の言峰綺礼は既に戦線を離脱した。黒い蝙蝠の鎧を纏った姿に変身して、ね」

「黒い蝙蝠って……ナイトローグかよ!? なんで言峰の野郎がッ!」

「それは私に問われても困る」

 

 アーチャーに掴み掛からん勢いで迫る万丈だったが、そのとき、城内で轟音が響いた。

 一瞬遅れて、白亜の石壁が吹き飛び、赤黒い闇が空へ向かって突き抜けていった。ブラッドが放ったアロンダイトの魔力放出と酷似した、闇の輝きだった。

 ランスロットの最期の言葉を思い出した万丈は、城の壁に開いた大穴から、中の様子を伺った。

 

 漆黒の闇を纏った偽りの聖剣を振るって苛烈な攻勢に出るセイバーオルタと、真紅の輝きを放つ魔皇剣で応戦するキバエンペラーの姿がそこにはあった。

 互いが剣を一振りするたびに、溢れ出した魔力の衝撃波が周囲の一切を薙ぎ払い、城を揺らす。

 既にエントランスホールは本来の姿を留めてはいない。むき出しになった地面と、そのクレーターの中心で、ふたりの英霊が人間離れした相克を繰り広げている。

 

「……まずいですね。押されてますよ、黄金の」

 

 ランサーが、低く唸った。

 キバエンペラーの魔皇剣も、間違いなくセイバーオルタにダメージは与えている。だけれども、ダメージを与えたそばから、即座に回復されている。

 逆に、セイバーオルタがキバの鎧に叩き込んだダメージを、キバエンペラーは回復する術を持っていない。

 一見互角のように見える相克だが、消耗しているのは明らかにキバエンペラーの方だった。このまま戦いが長引けば、負ける。

 疑いようもない事実に、万丈は居ても立っても居られなくなり、飛び出そうとしたところで――ランサーに腕を掴まれた。

 虎のように鋭い瞳が、正面から万丈を射抜く。口元は笑っているが、目は笑っていない。

 

「どうするつもりです、ライダー」

「助けるんだよ! このままじゃネロがやられちまうだろうが!」

「なんの策もなしに飛び込むつもりならやめておけ。ふたりがかりで挑もうと、消耗戦になれば勝ち目はないぞ」

 

 ランサーの意図を、アーチャーが引き継いで口にする。その冷静さが気に食わず、万丈はアーチャーの襟首を今度こそ掴み上げた。

 

「ならどうしろってんだよ! このまま仲間を見殺しにしろってのか!?」

「そうは言っていない。助けに入るつもりなら、確実にことを成せる方法を選べと言っている」

 

 万丈は、深く息を吐きながらアーチャーの襟から手を離した。

 少し落ち着いて考えれば、アーチャーの言っていることはわかる。ブラッドとの戦いで消耗している今、考えなしに戦いに飛び込んだところで、セイバーオルタの標的がひとり増えるだけだ。だが、かといってどうすればキバエンペラーを助けられるのかが、万丈には思いつかない。

 自分の無力さに腹が立つ。万丈は歯を食いしばり、瓦礫を殴りつけた。

 

「……策がないわけではない。賭けに近い手段ではあるがね」

 

 一拍の間を置いて告げられた言葉に、万丈は顔をあげる。

 アーチャーは、その鷹のように鋭い眼差しで、冷静に戦場を俯瞰している。自棄になった様子でもなければ、希望的観測でものを言っている様子でもない。

 

「だったら教えろ、その方法! 手遅れになる前に!」

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