遊戯王 ~クロスオーバーディメンションズ~   作:鬼柳高原

2 / 14
プロローグ第二弾”遊城 十代”です


遊城 十代

 

 

 

 

俺は、ただ走り続けるだけさ!

 

真っすぐ! 真っすぐ!! 真っすぐ前を見つめて!!!

 

ガッチャ!!!!!

 

 

 

 

 

 

「んあ~~~……」

 

 小鳥が鳴き、眩しい朝日が差し込むロンドンの街――――だった廃墟の真ん中、一人の青年が胡坐をかき、間抜けな声を上げて体の筋を伸ばす。

 

『十代君、何時までそうしてるつもりなのかにゃ~?』

『だらしないねぇ、まだまだやる事が山積みなんじゃなかったのかい?』

 

 青年――――”遊城 十代”の傍には男か女か見分けがつかない異形の悪魔と、ふよふよ浮かぶ光る玉、そして一匹の太った猫が寄り添っている。しかし、一般人が見れば十代と猫の姿しか見えないだろう。何せ悪魔は”精霊”と呼ばれる存在で、玉の方は”霊魂”なのだから。

 

「だってよ~あんなすげぇ決闘の後だぜ? 充電しなくちゃ動けねぇって」

『もう一晩たったじゃないか。僕にとっては知ったことじゃないけど、カードがヨハンやカイザーの元に戻ったか確認しに行くんじゃなかったのかい?』

『それにこの街もこのまま放って置くわけにもいかなのにゃ~! 早いところ万丈目君のお家に連絡して何とかしてもらったほうが――――あ』

 

 十代の周りをグルグル飛んでいた霊魂に向かって猫が飛びつき、そのまま加えこんだ後飲み込んでしまう。

 

「おお”ファラオ”ナイスジャンプ。流石猫だよな~”大徳寺先生”にゃ悪いけど」

『で、どうするんだい十代?』

「解ってる、解ってるって”ユベル”。あ~よっこらせっと!」

 

 十代は精霊”ユベル”に向かってブラブラと手を振りながらピョンと立ち上がる。豊かな茶髪を揺らし、燃えるような赤い制服――――改造したオシリス・レッドの制服についていた砂ぼこりを払い、決闘盤などの道具が入った袋を肩に掛けてフ―っと一息。頭をボリボリ。

 

「あー……どうすっかなー……街はーとりあえずこの国の人に任せてー……まずはヨハンのとこかなー……」

『(駄目だねこれは……まあ、一晩中”力”を使い続けて、その後にあれだけ激しい決闘をしたんだから、無理ないか……)』

 

 世界各地で起こっていた”謎の決闘者襲撃事件”を追い、数日間を追跡と闘いに費やし、とうとう黒幕を突き止めた十代。偉大なる先輩”武藤 遊戯”と未知なる後輩”不動 遊星”、二人の協力を得てようやく打倒し、事件を収束させた――――つい昨日の出来事である。

 

「あー……あー……決闘してぇなー」

『そんなフラフラして何言ってるんだい。決闘ゾンビみたいになってるよ。もう本当に二十代なんだからシャキッとしなよ』

「年齢の事は言うなよなー……」

 

 

十代……遊城十代……

 

 

 まどろむ頭に響く謎の声。それは十代の疲れ切った頭を強制的に覚醒させる。

 

「誰だっ!?」

『十代……?』

「ユベル! 今何か聞こえなかったか? それともお前か?」

『いや、違うけど……何かあった?』

 

 ユベルは十代からただならぬ様子を感じ取ると翼を広げ、臨戦態勢を取る。しばらく二人でキョロキョロと辺りを見回していた。

 

「(何だ今の……精霊かと思ったけど、違う……何だったんだ? 気のせいか――――)」

 

 

遊戯を継ぐ者……正しき闇の力を持つ者……精霊を身に宿す者……覇王――――

幾多の闘いを越えし者……最強の”決闘者”

 

 

「(――――気のせいじゃない!!?) 誰だ!? どこにいるんだ! 出てこい!」

 

 

集え、我が下に――――その”取り戻した心”をもって、我が試練を受けよ!

 

 

「何!? うわぁぁぁーーーー!?」

 

 眩い光が廃墟を包み込む。近くにいたファラオはこれに驚き、飲み込んでいた大徳寺の霊魂を吐き出す。

 

『はぁ~いきなり跳びかかるのは反則だにゃ~……あれ?』

 

 大徳寺の霊魂は何かを探すかのようにふわふわと辺りを飛び回る。

 

『……十代君? 十代君!?』

 

 早朝の廃墟に霊魂の声が響く。霊感の無い一般人から見れば、そこは猫一匹だけが寝転ぶ静かな廃墟に過ぎなかった。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

「ううっ……何なんだ一体……」

 

  眩い光を遮っていた腕を下げると、十代は辺りをキョロキョロと見渡す。そこは自分たちがいた廃墟ではなく、きれいな建物や道路を有する巨大都市であった。

 

「な、何だここ? ロンドンじゃねぇ……日本みたいだけど……これは一体……」

 

 確かにここはロンドンではない。そこらを歩いている住民はほとんどが日本人であるし、近くの看板に掛かれている文字も日本語。だが明らかにおかしい事がある。十代の言葉で例えるならば――――

 

「……”摩天楼2‐ヒーローシティ”……みたいな街だなこりゃ。あり得るのか現実で?」

 

 ここは日本のようだが、明らかに日本ではない。正しくは”時代が現代日本”ではないのである。SF作品に出てきそうな奇抜な建物に乗り物、空中で縦横無尽に引かれている道路、まさに”未来都市”と呼ぶにふさわしい街並みなのである。

 

「(何処なんだここは……やたら人通りが多いな)」

 

 どうやらここは都市の中心部にある広場らしい。多くの人が行き交い、特に目の前にある大きな建物の出入りが激しい。気になった十代は建物の広い出入口付近へと近づき、出入り口上部に掛けられている看板を見上げた。

 

 

                     HEARTLAND STATION

 

 

「ハートランド……ステーション? 駅ってことか? ハートランド駅……ハートランドって何処だよ?」

 

 訳の分からない場所へと飛ばされ、十代は顔をしかめながら頭を掻く。

 

「ユベルー……おいユベル」

 

 精霊の名を呼ぶが、返事はない。無事なのは解る、ユベル自身に異常は起こっていない。かの精霊は自分の半身なのだ。再び呼ぶが返事はない。

 

「……無視ぶっこきやがって。まあいいや……」

『クリクリー』

「お、”相棒”! お前はちゃんと出てきてくれるんだな! よしよし」

 

 突然十代の横に羽の生えた可愛らしい毛玉のような天使が現れる。これでもユベルと同じ”精霊”だ。十代に撫でられてうれしそうに体を揺する。

 

「”ハネクリボー”、お前は何か感じたりしてないか?」

『クリー……』

「そうか……手掛かりナシ、っと……そういやなんか疲れが取れてんな? 体かりぃ」

 

 十代が体の調子を確かめるように軽く体を動かしていると、突然後ろから背中を小突かれる。

 

「うおっ!? 何だ?」

 

 十代が振り返ると、そこにはどこかの学校の学生服を着た少年二人が立っていた。中学生くらいだろうか、お世辞にもガラはよくなく、イキがった態度を丸だしにして十代をにらみつけている。

 

「(何だこのガキンチョ達……)」

「お前、”決闘者”だろ?」

 

 少年の一人が十代に向かって指を差しながら訪ねる。流石にムッとくるが、十代はもう大人だ。少年達を刺激しないようにかつ舐められないようにするため、感情を顔に出さないようにして少年達を上から見下ろす。

 

「だったら何だよ? 決闘してぇのか?」

「俺達じゃねぇよ。”シャークさん”が相手を探してる。ちょっと来い」

「お、おい!?」

 

 少年達は十代を二人掛かりで引っ張り出すと、広場の中心へと連れていく。

 

「シャークさん、見つかりました」

 

 広場の中心で待っていたのは、この二人と同じ制服を着た少年。ガラの悪いのは共通しているが、二人とは明らかにガラの悪さの”格”が違う。おそらくは不良少年達のリーダーと言ったところだろう。

 

「……決闘者か。待っていたぜ」

 

 ”シャーク”と呼ばれた少年は十代の前に立ち、鋭い視線で睨みつける。前の二人のようなイキがった態度ではなく、目の前の十代がどれ程のものなのかを静かに見定めている。

 

「(チューボーだろうけど、こいつきっと強いだろうな)」

「ちょっと遊びに付き合ってくれよ。決闘だ」

「おういいぜ! 決闘は大好きだ!」

「ただの決闘じゃねぇ、アンティルールだ。お互いのデッキを掛ける」

「はぁ!? 何言ってんだよお前……そんなことしてどうすんだよ?」

「決まってんだろ? この都市には身の程知らずが多すぎる。どいつもこいつ雑魚のクセに決闘者を名乗りやがって、イラっとするんだよ」

 

 シャークは不愉快そうに吐き捨てると、決闘の為に十代から距離を取った。十代の後ろには子分の少年二人が張り付く。十代が逃げ出さないようにするためだろう。

 

「だから思い知らせてやるんだよ。決闘で負かして、目の前でデッキを奪い取る。お前に決闘者を名乗る価値なんてねぇんだよってな」

 

 残虐な笑みを浮かべて答えるシャークを十代は静かに見つめていたが、少し考える様にして俯いた後、顔を上げる。

 

「分かった、やろうぜ。ただこっちからも条件を出させてもらえないか?」

「あ?」

「お前が勝ったら俺のデッキをやるよ。ただ俺が勝った場合だが、俺は何もいらない。何もいらない代わりに一つ約束してくれ」

「……何だ?」

 

 怪訝な表情を浮かべるシャークに、十代は真面目な顔を崩してにかっと笑う。

 

「楽しい決闘にしようぜ!」

「……笑えねぇ、テメェ……イラっとすんだよ!」

 

 シャークはそう叫ぶと、懐からD・パッドとD・ゲイザーを取り出し、パッドを決闘盤に、ゲイザーを左目に装着する。

 

「決闘だ! 叩き潰してやる!」

「おお! 来い!」

 

 十代も袋からオシリス・レッドモデルの決闘盤を取り出し、左腕に装着して展開させる。そして気付く。決闘盤の違和感に――――

 

「うん? わっ!? 決闘盤が何かおかしいぞ!?」

 

 いつの間にか増設されているEXモンスターゾーン。当然十代はこれが何なのか知るはずがない。

 

「(取り替えようにも予備なんてねぇし……このまま行くしかねぇ!)」

 

 

 

「「デュエル!!!」」

 

 

 十代 LP:4000

 シャーク LP:4000

 

「ようし、俺のターン! ドロー――――うおっ!?」

 

 十代が勢いよくカードをドローしようとすると、それに負けない勢いで決闘盤から警告音が放たれる。

 

『先攻プレイヤーは1ターン目にドローすることはできません』

「ええ!? 何でだよ!?」

「おい何やってる! せっかく先攻をくれてやったんだ! 早くしやがれ!」

「だ、だってよ……どうなってんだこりゃ? とりあえず俺のターン!」

 

 ドローできなかった十代は気を取り直し、手札を確認する。

 

「(何故かドローできなかったが……そんなのは関係ないぜ! まだ昨日の決闘が俺の中で燃えてんだ! 全力全開、出し惜しみは無しでいくぜ!) 魔法カード《融合》! 俺は手札の《E・HERO(エレメンタル・ヒーロー) クレイマン》と《E・HERO バーストレディ》を融合!」

 

 十代の場に岩の体を持つ大男と赤いヒーロースーツを身にまとった気の強そうな女性が現れ、中心に現れた渦の中に吸い込まれて混ざり合う。

 

「融合召喚! 《E・HERO ランパートガンナー》!」

 

 十代は素材となった2体を墓地スロットに送り、融合デッキから取り出したカードをモンスターゾーンに置き――――再び決闘盤から警告音を鳴らす。

 

「うわっ!? またか!」

『EXデッキから特殊召喚する場合はEXモンスターゾーンに置いてください』

「ええ? 俺が融合したのは融合デッキから……それにEXモンスターゾーンってなんだよ?」

「まさかこんなド素人だったとはな。お前の決闘盤にもあるだろう? 好きなほうに置け!」

 

 シャークが十代に向かって自身の決闘盤についているEXモンスターゾーンを指し示して見せる。

 

「ああ、この二つあるとこか! よーし、じゃあ右側に融合召喚!」

 

 十代がカードをEXモンスターゾーンに置くと、渦の中から巨躯を鋼鉄の鎧に包んだ女戦士が現れる。右腕にランチャー、左腕に盾を装備し、盾を構えながら相手の出方を伺う。

 

 E・HERO ランパートガンナー 地属性 戦士族 レベル6 DEF:2500

 

「魔法カード《融合回収》! 融合に使用した《E・HERO バーストレディ》と《融合》を墓地から手札に加える!」

 

 十代 手札:1→3

 

「よっしゃ! 景気よくもう一発いくぜ! 魔法カード《融合》! 手札の《E・HERO フェザーマン》と《E・HERO バーストレディ》を融合! 融合召喚! 《E・HERO フレイム・ウィングマン》――――うわぁ!?」

 

 十代がもう片方のEXモンスターゾーンにカードを置いた瞬間、再び警告音が鳴る。

 

「何でだよ! ちゃんとここに置いただろ!?」

「……まさかろくにルールも理解してないとはな。EXモンスターゾーンは各プレイヤーに一つずつだ。例外もあるがな……次同じようなことしたらデッキだけおいて失せろ! イラっとさせやがって!」

「(聞いたこともないぜそんなルール……にしても使えるのは一つだけって、それじゃあここでは融合モンスターは1体しか出せないってことかよ?) ……ターンエンド!」

 

 

十代

LP:4000

手札:3

EXモンスター

②:

④:E・HERO ランパートガンナー DEF:2500

メインモンスター

魔法・罠

 

 

「俺のターン!」

 

 シャーク 手札:5→6

 

「永続魔法《ウォーターハザード》を発動! 1ターンに1度、自分の場にモンスターが存在しない場合、手札からレベル4以下の水属性1体を特殊召喚できる! 来い、《ビッグ・ジョーズ》!」

 

 シャークの場に機械による強化改造を施された巨大な鮫が現れる。

 

 ビッグ・ジョーズ 水属性 魚族 レベル3 ATK:1800

 

「自分の場に魚族・海竜族・水族が召喚・特殊召喚された時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる! 《シャーク・サッカー》!」

 

 続けてシャークの場に大きなコバンザメが現れる。

 

 シャーク・サッカー 水属性 魚族 レベル3 ATK:200

 

「《マーメイド・シャーク》を通常召喚!」

 

 今度は人型の上半身を鼻先から生やした鮫が現れ、他の二匹の鮫と並ぶ。

 

 マーメイド・シャーク 水属性 魚族 レベル1 ATK:100

 

「マーメイド・シャークの効果発動! 召喚に成功した時、デッキからレベル3から5までの魚族1体を手札に加える! レベル4の《サイレント・アングラー》を手札に加え、特殊召喚!」

 

 マーメイド・シャークが鳴き声を上げると、それに呼応するかのように巨大なアンコウが現れる。

 

 サイレント・アングラー 水属性 魚族 レベル4 ATK:800

 

「サイレント・アングラーは自分の場に水属性が存在すれば手札から特殊召喚できる」

「おおすげぇ! 並べてきたな! 今度は何すんだ?」

 

 シャークのデュエルタクティクスに十代は興奮を隠さずウキウキと尋ねる。シャークは苛立ちを顔に浮かべ、EXデッキに手を伸ばした。

 

「教えてやるよ素人野郎。”EXモンスター”の使い方ってやつを! ……現れろ! 深海へと続くサーキット!」

 

 シャークが空中を指さすと、その先にアローヘッドが現れる。

 

「な、何だ!?」

「アローヘッド確認! 召喚条件は”水属性2体”! 《マーメイド・シャーク》と《サイレント・アングラー》をリンクマーカーにセット!」

 

 シャークの場のマーメイド・シャークとサイレント・アングラーが風を纏い、アローヘッドの右下と左下のリンクマーカーへと飛び込んでリンクマーカーを点灯させる。

 

「(何だこれ!? 融合召喚でも遊星がやってた”シンクロ召喚”でもねぇ! 俺の知らない新しい召喚法!?)」

「サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れろLINK-2《マスター・ボーイ》!」

 

 光り輝くアローヘッドから飛び出したのは、ダンディな髭を蓄えた巨大なヒトデ。くるくると回転しながらシャークの場へと降り立つ。

 

 マスター・ボーイ 水属性 水族 LINK-2 ATK:1400

 

「リンク召喚……ははっ、すげぇ! シンクロ召喚も凄かったけど、こんな召喚法もあるんだな!」

「……チッ! マスター・ボーイが存在する限り、場の水属性の攻守は500アップし、炎属性は400ダウンする!」

 

 マスター・ボーイ ATK:1400→1900

 

「何ヘラヘラしてやがんだ決闘中に!」

「え? そりゃこんだけ楽しいことが起きてんだから、しょうがねぇだろ?」

「むかつくぜテメェ……叩き潰してやる! レベル3の《ビッグ・ジョーズ》と《シャーク・サッカー》でオーバーレイ!」

 

 シャークの場の2体の鮫が青い光へと姿を変え、黄金の光の渦の中に吸い込まれる。

 

「(リンク召喚……かと思ったらまた違う召喚法かよ!?)」

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

 渦の中心で黄金の閃光が放たれると中から不気味なオプジェが現れる。それは蛇が巻き付いた巨大な眼球の様にも見え、何度か鼓動した後変形を始める。

 

「エクシーズ召喚! 現れろ《No.(ナンバーズ)17 リバイス・ドラゴン》!」

 

 変形が終わると、それは1体の龍へと姿を変えた。2つの青い光―――”水のオーバーレイ・ユニット”が龍の周りに漂う。

 

 No.17 リバイス・ドラゴン 水属性 ドラゴン族 ランク3 ATK:2000→2500 ORU:2

 

 リバイス・ドラゴンと対峙する十代。十代は強敵との遭遇に胸を高鳴らせるが、それと同時に”No.”が持つ異様な力を本能的に感じ取っていた。

 

「(エクシーズ召喚……すげぇ、すげぇけど……何だこの感じ? これはまさか――――)」

『精霊ではないね』

「ユベル!?」

 

 ここに来てから一切姿を見せなかったユベルがようやく姿を現す。

 

『精霊ではないけど……十代、気をつけろ。あれはただのモンスターじゃない』

「エクシーズったっけ? どんな能力持ってんだろうな?」

『そういう意味じゃないよ。あれはデュエルモンスターズ以前に、異様な力を持っている……とにかく用心することだね』

 

 そう言うと再びユベルは姿を消す。

 

「用心ね……ん? いやちょっとまて! おいシャーク!」

「何だ?」

「おま、なんでそいつモンスターゾーンに出してんだ? 融合デッキ――――じゃなくて、こっちではEXデッキだったな! そっから出すときはEXモンスターゾーンに出さなきゃならねぇんだろ?」

 

 十代の一見もっともな言い分にシャークは鼻で笑って返す。

 

「これが”リンクモンスター”の力だ。EXデッキからモンスターを特殊召喚する場合、リンクモンスターが持つ”リンクマーカー”が指し示すメインモンスターゾーンにも置くことができるんだよ」

「あの矢印にはそんな意味があったのか……」

 

 シャークが使えるEXモンスターゾーンにはすでにマスター・ボーイが収まっているが、マスター・ボーイのリンクマーカーは右下と左下のモンスターゾーンを指し示している。

 

「ってことは……シャークはあの二ヶ所にEXデッキからのモンスターを呼び出せるってことか!? ズルいぞ~!」

「文句はリンクモンスターを手に入れてから言うんだな。ま、テメェは俺に負けてデッキを奪われるんだから関係ねぇよなぁ! リバイス・ドラゴンの効果発動! 1ターンに1度、ORU(オーバーレイ・ユニット)を一つ取り除くことで攻撃力を500ポイントアップ! 〈アクア・オービタル・ゲイン〉!」

 

 リバイス・ドラゴンは周りを漂うORUの1つを食らうと、体から禍々しいオーラを放つ。

 

 No.17 リバイス・ドラゴン ATK:2500→3000 ORU:2→1

 

「攻撃力3000か……!?」

「バトル! リバイス・ドラゴンでランパート・ガンナーを攻撃! 【バイス・ストリーム】!」

 

 リバイス・ドラゴンがランパート・ガンナーに向かってブレスを放つと、ランパート・ガンナーを盾ごと消し飛ばす。

 

「ランパート・ガンナー!?」

「マスター・ボーイでダイレクトアタック!」

 

 マスター・ボーイは高速回転し、手裏剣のように飛んで十代に命中する。

 

「ぐわっ!?」

 

 十代 LP:4000→2100

 

「これでターンエンドだ! テメェが俺に勝つなんてありえねぇんだよ。とっとと諦めちまいな!」

 

 

シャーク

LP:4000

手札:2

EXモンスター

②:マスター・ボーイ リンク先:No.17 リバイス・ドラゴン(左下) ATK:1900

④:

メインモンスター

①No.17 リバイス・ドラゴンATK:3000 ORU:1 

魔法・罠

③ウォーターハザード

 

 

「へへ、こんな楽しい決闘、諦めてたまるかよ! 俺のターン!」

 

 十代 手札:3→4

 

「(今ならフレイム・ウィングマンを呼べる。だけど、フレイム・ウィングマンじゃあのドラゴンは倒せない……よし、やってやるぜ!) 速攻魔法《手札断殺》! お互いに手札を2枚墓地へ送り、2枚ドローする!」

 

 十代 手札:3→1→3

 

 墓地に送ったカード

  E・HERO フェザーマン

 E・HERO バーストレディ

 

 シャーク 手札:2→0→2

 

 墓地に送ったカード

 ジョーズマン

 シャークラーケン

 

「よし、魔法カード《融合》! 手札の《E・HERO ネオス》と《ネクロ・ガードナー》を融合!」

 

 十代の場に銀色の輝く筋肉質な肉体を持つヒーローと鎧をまとった白い長髪の戦士が現れ、場の中心に現れた渦の中へと吸い込まれていく。

 

「融合召喚! 現れろ《E・HERO ネオス・ナイト》!」

 

 渦の中から飛び出したのは最強の戦士の姿を模したネオス。普段は己の肉体一つで闘うネオスだが、手に持った剣を慣れた様子で振るい、盾と共にシャークの場に向かって構える。

 

 E・HERO ネオス・ナイト 光属性 戦士族 レベル7 ATK:2500

 

「ネオス・ナイトの攻撃力は素材にしたネクロ・ガードナーの攻撃力の半分の数値分アップする!」

 

 E・HERO ネオス・ナイト ATK:2500→2800

 

「ハッ! その程度の強化じゃリバイス・ドラゴンの敵じゃねぇ!」

「それはどうかな? バトル! ネオス・ナイトでマスター・ボーイを攻撃! 【ラス・オブ・ネオススラッシュ】!」

 

 ネオス・ナイトが剣を構え、マスター・ボーイに向かって突進。マスター・ボーイは避ける暇もなくネオス・ナイトの剣によって両断された。

 

「ネオス・ナイトの攻撃で発生する相手へのダメージは0になるぜ」

「マスター・ボーイの効果発動! 戦闘・効果で破壊された場合、自分の墓地の水属性1体を手札に加える! 《シャーク・サッカー》を手札に加える!」

 

 シャーク 手札:2→3

 

「フン、狙いはマスター・ボーイだったか。これでリバイス・ドラゴンの攻撃力を下げようって魂胆だろうが――――」

 

 No.17 リバイス・ドラゴン ATK:3000→2500

 

「リバイス・ドラゴンはもう1度効果を使える! すぐにテメェのモンスターの攻撃力を超えてぶっ潰してやる!」

「ならその前に倒させてもらうぜ。ネオス・ナイトは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる! 行けネオス・ナイト!」

 

 ネオス・ナイトは再び剣を構え、リバイス・ドラゴンに向かって斬りかかる。リバイス・ドラゴンが噛み付こうとするのをかわし、ネオス・ナイトはその胴体に剣を突き刺す。

 

「よっしゃー!」

「フン、言い忘れてたぜ。”ナンバーズ”は――――」

 

 ネオス・ナイトが剣を引き抜こうとした瞬間、リバイス・ドラゴンがネオス・ナイトに食らいつき、剣ごと胴体から引きはがして放り投げる。剣によって付けられた傷は瞬く間にふさがってしまった。

 

「――――”ナンバーズ”でしか戦闘破壊できない。残念だったな!」

「まじかよ……決まったと思ったのに! ターンエンド!」

 

 

十代

LP:2100

手札:0

EXモンスター

②:

④:E・HERO ネオス・ナイト

メインモンスター

魔法・罠

 

 

「俺のターン!」

 

 シャーク 手札:3→4

 

「魔法カード《浮上》! 自分の墓地のレベル3以下の魚族・海竜族・水族モンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する! 浮上しろ《ビッグ・ジョーズ》! そして手札から《シャーク・サッカー》を特殊召喚!」

 

 シャークの場に再びビッグ・ジョーズとシャーク・サッカーが並ぶ。

 

 ビッグ・ジョーズ 水属性 魚族 レベル3 DEF:300

 シャーク・サッカー 水属性 魚族 レベル3 ATK:200

 

「《ドリル・バーニカル》を通常召喚!」

 

 続けてシャークの場にフジツボをくっつけた巨大な甲殻類のモンスターが現れる。

 

  ドリル・バーニカル 水属性 水族 レベル3 ATK:300

 

「レベル3の《ビッグ・ジョーズ》、《シャーク・サッカー》、《ドリル・バーニカル》でオーバーレイ!」

 

 シャークの場の3体の水属性が青い光となって飛び上がると、場に現れた赤い光の渦の中に吸い込まれる。

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 渦の中から赤い閃光が放たれると、渦の中から海竜の戦士が現れる。三つの刃が付いた大槍を軽々と振り回し、ネオス・ナイトへと構える。

 

「現れろ《トライエッジ・リヴァイア》!」

 

 トライエッジ・リヴァイア 水属性 海竜族 ランク3 ATK:1800 ORU:3

 

「トライエッジ・リヴァイアの効果発動! ORUを1つ使い、場のモンスター1体の攻撃力をターン終了時まで800ダウンし、効果を無効にする!」

 

 トライエッジ・リヴァイア ORU:3→2

 

  トライエッジ・リヴァイアが槍から波動を放つとネオス・ナイトに命中し、ネオス・ナイトはその場に膝をつく。

 

 E・HERO ネオス・ナイト ATK:2800→1700

 

「ネオス・ナイト!?」

「魔法カード《アクア・ジェット》! 海竜族のトライエッジ・リヴァイアの攻撃力を1000アップ! そしてリバイス・ドラゴンの効果発動!」

 

 トライエッジ・リヴァイアの背中にジェットエンジンを身に着け、リバイス・ドラゴンは最後のORUを食らって己の力を高める。目の前の獲物(十代)を仕留めるため、2体のドラゴンが動き出そうとしていた。

 

 トライエッジ・リヴァイア ATK:1800→2800

 No.17 リバイス・ドラゴン ATK:2500→3000 ORU:1→0

 

「このターンで終わりだ! バトル! リバイス・ドラゴンでネオス・ナイトを攻撃!」

「墓地の《ネクロ・ガードナー》の効果発動! このカードを除外することで1度だけ相手の攻撃を無効にする!」

 

 リバイス・ドラゴンのブレスがネオス・ナイトに届く直前、ネクロ・ガードナーの影が間に割って入り、ブレスをかき消して消滅する。

 

「チィ! トライエッジ・リヴァイア! 【トライデントウォータースパウト】!」

 

  トライエッジ・リヴァイアが槍の一撃をネオス・ナイトに浴びせると、ネオス・ナイトの側の空間が歪み、中へ吸い込まれて消滅してしまう。

 

 十代 LP:2100→1000

 

「ネオス・ナイトー!?」

「トライエッジ・リヴァイアが破壊したモンスターは除外される! ターンエンド!」

 

シャーク

LP:4000

手札:0

EXモンスター

②:トライエッジ・リヴァイア ATK:2800 ORU:2

④:

メインモンスター

①No.17 リバイス・ドラゴン ATK:3000 ORU:0

魔法・罠

③ウォーターハザード

 

 

「へへっ、ピンチだ……だがエキサイティング! もっと楽しくなってきたぜ!」

「……いい加減にしやがれ!」

 

 シャークはもう我慢できないと言う様に怒鳴りだす。

 

「何が楽しくなってきただ! 場にも手札にもカードは無い、LPもたったの1000、俺のモンスターの一撃で消し飛ぶ! 強がってんじゃねぇ!」

「おいおい……何ムキになってんだよ? まだ決闘は終わってないんだぜ? 諦められるかよ……そんなに突っかかって何が言いたいんだ?」

「諦めろってことだ。テメェは俺に勝てねぇ! 諦めねぇとか抜かして無駄に足掻く奴を見るとイラっとすんだよ!」

 

 シャークが十代を威圧するように睨みつける。十代はここで初めてその視線をまっすぐ受け止める。受け止めた後、静かに言葉を返した。

 

「……なあお前、諦めちまったのか」

「ああ?」

「話してたらさ、そんな気がした。お前さ、決闘楽しめてないだろ? さっきからイライラするって言ってるけど、それは決闘を楽しめないからだ」

「な、何を……」

 

 十代の言葉が核心を突いたのか、シャークは顔に動揺を浮かべる。

 

「決闘を楽しめないのは、お前が決闘を諦めちまってるからだ。具体的に……って言われたら俺にも解らねぇけど……俺はそう感じたんだ」

「こ、この……!」

「お前はそれを悔しがってるけど、どうにもできない事だと思ってる。だから俺に諦めろってしつこく突っかかるんだ。……解って欲しいんだろ? その悔しさを」

「テメェ下らねぇことぬかしてんじゃねぇ! ふざけやがって!」

「……何でどうにもできないって思ってるのかは知らないけどさ、楽しんじまっていいんじゃねぇか? 好きなんだろ決闘? だから今も続けてんだろ? 好きなことに無我夢中になれるのは”子供の特権”だぜ」

「訳の解らねぇことを――――」

「解んなくてもいい。今は解らなくてもいいんだ」

 

 十代は自身の胸に手を置くと、瞳を黄色と緑のオッドアイに変化させる。

 

「誰だってな、何時かは”大人”になる日が来るんだ。沢山、沢山考えて、悩まなくちゃいけなくなる……だからさ、今だけは”大事な物(デュエル)”を諦めんなよ。何もかも振り払って、突っ走ってみるんだ」

 

 オッドアイを元に戻すと十代は決闘盤を構え直し、デッキトップに指を掛ける。

 

「それになシャーク、大人になってから解るんだ。子供の頃に突っ走れたのなら、大人になった時、それは”掛け替えのない宝物”になるってことを! 俺のターン!」

 

 十代 手札:0→1

 

「シャーク、俺はもう大人だ! やらなきゃいけないことはたくさんある! だけどな、俺は今も突っ走ってるぜ! ”宝物”がハートの中で燃え上がり、俺を突き動かしているからな! 魔法カード《ホープ・オブ・フィフス》! 自分の墓地の”E・HERO”を5枚選択し、デッキに加えてシャッフル! この時、自分の手札・場に他のカードが存在しなければカードを3枚ドローする!」

 

 十代 手札:0→3

 

 デッキに戻したカード

 E・HERO フェザーマン

 E・HERO バーストレディ

 E・HERO クレイマン

 E・HERO ランパート・ガンナー

 E・HERO ネオス

 

「魔法カード《コンバート・コンタクト》! 自分の場にモンスターが存在しない場合、手札及びデッキから(ネオスぺーシアン)を1枚ずつ墓地へ送り、デッキから2枚ドローする! 手札から《N・グラン・モール》、デッキからは《N・アクア・ドルフィン》を墓地へ送り、2枚ドロー!」

 

 十代 手札:2→1→3

 

「自分の場にカードが存在しない場合、このカードは手札から発動できる! 罠カード《NEXT(ネオスペースエクステンション)》を発動! 手札・墓地から”N”または”E・HERO ネオス”を表側守備表示、効果を無効にして好きな数だけ特殊召喚する! さっき墓地に送った2体と手札から《N・ブラック・パンサー》を特殊召喚!」

 

 十代の場にイルカ頭の筋肉質な戦士、ブレストアーマーを装備したモグラ、マントを身に着けた黒豹が現れ、それぞれ防御態勢をとる。

 

  N・アクア・ドルフィン 水属性 戦士族 レベル3 DEF:800

  N・グラン・モール 地属性 岩石族 レベル3 DEF:300

  N・ブラック・パンサー 闇属性 獣族 レベル3 DEF:500

 

「魔法カード《スペーシア・ギフト》! 自分の場の”N”1種類につき1枚ドローする! 俺の場にいるNは3種類! よって3枚ドロー!」

 

 十代 手札:0→3

 

「シャーク! 俺はお前に全てをぶつける! 俺の決闘でお前の”諦め”を吹っ飛ばしてやる! 魔法カード《ミラクル・コンタクト》! 自分の手札・場・墓地から融合素材をデッキに戻し”E・HERO ネオス”を融合素材とするE・HERO融合モンスター1体を召喚条件を無視してEXデッキから特殊召喚する! 場のN全てと手札の《E・HERO ネオス》をデッキに戻す!」

 

 ネオスが十代の場に現れると、3体のNを連れて遥かなる宇宙へと飛び立つ。

 

「限界を超えた”コンタクト融合”を見せてやる!」

「何だ……何をする気だ!?」

 

 シャークが飛び立ったヒーロー達を見上げていると、空から眩い光が放たれ、一つの流星が場へと目掛けて飛来する。

 

「クアドラプルコンタクト融合!」 

 

 流星は場に落ちる直前に姿を変え、新たなる”ネオス”となって場に降り立つ。ストーム、マグマ、カオス――――その姿はこれまでのネオスの姿を複合したものであり、ネオスというヒーローの”完成形の一つ”と言っても過言ではない。

 

「現れろ! 《E・HERO コスモ・ネオス》!」

 

 E・HERO コスモ・ネオス 光属性 戦士族 レベル11 ATK:3500

 

「な、なんだこれは……!?」

「コスモ・ネオスの効果発動! EXデッキからの特殊召喚に成功した場合、このターン相手は場で発動する効果を発動できない!」

「させねぇ! トライエッジ・リヴァイアの効果発動――――」

「そうはいかないぜ! この効果に対して相手は効果を発動させることはできない! 〈ネオスペース・ノヴァ〉!」

 

 トライエッジ・リヴァイアがコスモ・ネオスを抑えようと動き出した瞬間、コスモ・ネオスが決闘場全体に向かって波動を放つ。波動を受けたトライエッジ・リヴァイアとリバイス・ドラゴンは力を失い脱力してうなだれる。

 

「何だと!?」

「コスモ・ネオスでトライエッジ・リヴァイアを攻撃! 【ビッグバン・オブ・ネオス】!」

 

 コスモ・ネオスは左手にエネルギーを集中させると、小さい恒星を作り出す。作り出した小恒星はコスモ・ネオスの手から放たれトライエッジ・リヴァイアに命中、そのまま大爆発してシャークを巻き込む

 

「ぐあぁ!?」

 

 シャーク LP:4000→3300

 

「バトル終了! 《カードブロッカー》を召喚! こいつは召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、守備表示になる!」

 

 十代の場に剣と盾を持った小さな戦士が現れ、盾を構えて身構える。

 

 カードブロッカー 地属性 戦士族 レベル3 ATK:400→DEF:400

 

「ターンエンド! この瞬間、コスモ・ネオスの効果発動! こいつをEXデッキに戻し、相手の場のカードを全て破壊する!」

 

 コスモ・ネオスが再び小さい恒星をリバイス・ドラゴンに放ち、炸裂させてから姿を消した。爆発はシャークの場全体を巻き込み、全てのカードを跡形もなく消し飛ばしてしまった。

 

「なんて野郎だ……No.ごと俺のカードを吹き飛ばしていきやがった!?」

「さあこいよシャーク! 全力で掛かってこい!」

 

十代

LP:1000

手札:0

EXモンスター

②:

④:

メインモンスター

③カードブロッカー DEF:400

魔法・罠

 

「くそが……叩き潰してやる! 俺のターン!」

 

 シャーク 手札:0→1

 

「魔法カード《貪欲な壺》! 墓地からモンスター5体をデッキに戻してシャッフル! 2枚ドロー!」

 

戻したカード

マスター・ボーイ

トライエッジ・リヴァイア

No.17 リバイス・ドラゴン

シャーク・サッカー

サイレント・アングラー

 

 シャーク 手札:0→2

 

「《スピア・シャーク》を召喚!」

 

 シャークの場に鼻が槍先のように尖っているサメが現れる。

 

 スピア・シャーク 水属性 魚族 レベル4 ATK:1600

 

「こいつは貫通能力を持っている! これでトドメだ! スピア・シャークでカードブロッカーを攻撃!」

「カードブロッカーの効果発動! 攻撃対象となった時、デッキの上からカードを3枚まで墓地に送る! 墓地に送ったカード1枚につき、このカードの守備力を500アップする! 俺が墓地に送るのは3枚! 守備力を1500アップ!」

 

墓地に送ったカード

E・HERO フェザーマン

E・HERO バーストレディ

シャッフル・リボーン

 

 カードブロッカー DEF:400→1900

 

 スピア・シャークが鋭い鼻先をカードブロッカーに向けて突っ込むと、カードブロッカーはそれを盾で受け止め弾き返す。

 

「チィィ! なんで届かねぇんだ!」

 

 シャーク LP:3300→3000

 

「落ち込んでる暇なんかないぜ! どうするよ?」

「黙れ! くそ……負けて堪るか! 《サイレント・アングラー》を特殊召喚!」

 

 シャークの場に再びサイレント・アングラーが現れる。

 

 サイレント・アングラー 水属性 魚族 レベル4 ATK:800

 

「レベル4の《スピア・シャーク》と《サイレント・アングラー》でオーバーレイ!」

 

 スピア・シャークとサイレント・アングラーが青い光となって飛び立ち、シャークの場に現れた赤い光の渦の中へと飛び込む。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 渦から赤い閃光が放たれると、閃光の中からサメの特徴を有する海竜が現れ咆哮を上げる。

 

「吠えろ未知なる轟き! 深淵の闇より姿を現わせ! 《バハムート・シャーク》!!」

 

 バハムート・シャーク 水属性 海竜族 ランク4 ATK:2600 ORU:2

 

「おおカッケー! まだこんなとっておきがあるなんてな!」

「ターンエンド! これが俺とテメェの差だ! 偉そうに説教できる立場じゃないんだよお前は!」

 

シャーク

LP:3000

手札:0

EXモンスター

②:バハムート・シャーク ATK:2600 ORU:2

④:

メインモンスター

魔法・罠

 

「俺のターン!」

 

 十代 手札:0→1

 

「墓地の《シャッフル・リボーン》を除外して効果発動! 自分の場のカードをデッキに戻してシャッフル! その後に1枚ドローする! 《カードブロッカー》をデッキの戻して1枚ドロー!」

 

 十代の場のカードブロッカーが消滅すると、十代がデッキトップからカードを引き抜く。

 

 十代 手札:1→2

 

「来た来た来た来たぁ~! 行くぜ! 魔法カード《ミラクル・フュージョン》! 自分の場・墓地から融合素材を除外し、”E・HERO”を融合召喚する! 墓地の《E・HERO フェザーマン》と《E・HERO バーストレディ》を融合!」

 

 十代の場にバーストレディと白い翼を生やしたヒーローが現れると、場に現れた渦の中へと吸い込まれ混ざりあう。

 

「融合召喚! 現れろマイフェイバリットカード! 《E・HERO フレイム・ウィングマン》!」

 

 渦の中から飛び出したのは左右非対称の姿をした異形のヒーロー。緑の左半身には大きな白い翼。赤い右半身には竜の頭となった右腕。そして腰からは竜の尻尾が伸びているなど、とてもヒーローの姿には見えない。だが、この異形のヒーローこそが十代のお気に入りの1体。異形の姿に正義の心を宿したマイフェイバリットヒーロー、フレイム・ウィングマンである。

 

 E・HEROフレイム・ウィングマン 風属性 戦士族 レベル6 ATK:2100

 

「攻撃力2100? そんなザコはバハムート・シャークの敵じゃねぇ!」

「慌てるなよ、ヒーローにはヒーローに相応しい、闘う舞台ってもんがあるんだ! フィールド魔法《摩天楼 -スカイスクレイパー-》発動!」

 

 十代が決闘盤のフィールド魔法スロットにカードを収めると、場が夜の闇に包まれる。何事かとシャークが辺りを見回した瞬間、周りに無数の高層ビルが現れ場を囲む。

 

「な、何だ!?」

「スカイスクレイパーが存在する限り、”E・HERO”がその攻撃力より高い攻撃力を持つモンスターへ攻撃した場合、ダメージ計算時のみ攻撃するE・HEROの攻撃力を1000アップする!」

「攻撃力を1000上げるだと!? ……ハッ!?」

 

 シャークが気づく。フレイム・ウィングマンの姿が何処にも見えない。ふと視線を上げて目に付いたのは、高層ビル群の中心にそびえ立つ巨大な摩天楼。目を凝らして摩天楼の頂点を見ると、そこには月を背に佇む異形のヒーローの姿があった。

 

「さあ舞台は整った! バトル! フレイム・ウィングマンでバハムート・シャークを攻撃! 【スカイスクレイパー・シュート】!」

 

 E・HERO フレイム・ウィングマン ATK:2100→3100

 

 フレイム・ウィングマンは炎を纏って摩天楼から飛び降り、ビルの間を縫う様にすり抜けバハムート・シャークへと突っ込む。バハムート・シャークは果敢にも燃え盛るフレイム・ウィングマンを受け止めるが、炎と突進に押し切られて破壊される。

 

「うおお……なっ!?」

 

 シャーク LP:3000→2500

 

 バハムート・シャークを倒したフレイム・ウィングマンはシャークの眼前に降り立ち、右腕

の竜頭――――”ドラゴンブラスト”をシャークに向けて構える。

 

「フレイム・ウィングマンの効果発動! 戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える! バハムート・シャークの攻撃力分、受けて貰うぜ!」

 

 ドラゴンブラストから炎が放たれ、炎がシャークを包む。

 

「ぐあぁぁぁ!!!」

 

 シャーク LP:2500→0

 

 ソリッドビジョンが消え、決闘終了のアラームが鳴り響く。

 十代は倒れたシャークに向き直り、右手の人差し指と中指を伸ばして揃え、シャークに向かって突きつける。”遊城 十代”の代名詞、勝利のポーズ。今日の熱い決闘と対戦相手に感謝して、一声――――

 

「ガッチャ! 楽しい決闘だったぜ!」

 

 その瞬間、シャークの決闘盤からリバイス・ドラゴンのカードが飛び出し、十代に向かってまっすぐ飛んでくる。

 

『十代!』

 

 ユベルの声に反応し、十代はとっさに瞳をオッドアイに変化させ、飛んでくるリバイス・ドラゴンのカードを掴み取った。

 

「ビックリした……何だ一体? ユベル、何で”力”を使う必要があったんだ?」

『危なかったね。”力”を使ってなかったら今頃君、このカードに意識を乗っ取られてたよ』

「マジかよ!? え、じゃあこれどうすんだ? シャークに返すか?」

『とりあえず僕が預からせて貰うよ。調べれば何か解るかもしれないしね』

 

 そう言ってユベルは十代からリバイス・ドラゴンを取り上げて姿を消す。

 

「おい……ったく、相変わらず自分勝手だな」

「おい、さっきから何一人でぶつぶつ言ってやがんだ」

 

 十代が声に振り向くと、立ち上がったシャークがこちらに近づいてきていた。

 

「ほらよ」

 

 シャークは懐からカードパックを取り出すと、それを十代に押し付ける。

 

「おお、なんだ? ……”リンクモンスターパック”?」

「アンティルールだ。テメェは俺のデッキをいらねぇっつったからな。代わりだ。……勝者は得て敗者は失う。それがこの世界でのルールだ。覚えておくんだな」

 

 そう言ってシャークは踵を返して立ち去ろうとする。それを見た十代は慌てて呼び止めた。

 

「おい待てよシャーク!」

「あ?」

「……”シャーク”ってあだ名だろ? 本名、何て言うんだ?」

「……”神代 凌牙”……遊城十代、一つ忠告してやる。今のお前のデッキじゃこの先生き残るのは不可能だ。決闘もテメェ自身も、”この世界”に適応出来なければ終わりだ。……精々突っ走るんだな」

 

 そう言うとシャーク――――神代 凌牙は去って行った。取り巻きの二人もいつの間にかいなくなっている。

 凌牙の背を見送った後、十代はふと違和感に気づく。

 

「そういや凌牙、俺の名前呼んでたな? 俺名乗ってなかった気がすんだけど……まぁいいか」

 

 細かいことは気にしない、それどころではないのだ。

 ここが何処なのか、何故自分はここへ連れてこられたのか。何故凌牙は自分の前に現れ、突然決闘を挑んできたのか――――考えることは山積みだ。

 

「(でも、一つだけハッキリしたことがある)」

 

 それはこの先に強い決闘者と楽しい決闘が待ち受けているということ。十代にとっては何よりも重要なことであった。

 

「それだけ分かればやる気マックス! エキサイティング! これは俺に与えられた試練なんだ!」

 

 最初の無気力はどこへやら、子供のような台詞を口走りながら十代は駆け出す。”遊城 十代”の新たな旅立ちがここに始まったのだった――――




第二弾は十代。相手はシャークこと凌牙でした。
デッキテーマは”アニメ初期と漫画版2作の合成”です。
前のハノイもシャークもこれから先の面子もそうですが、デッキ内容は原作に+αした内容になっています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。