遊戯王 ~クロスオーバーディメンションズ~   作:鬼柳高原

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プロローグ第五弾”榊 遊矢”です。


榊 遊矢

 

 

 

 

信じてたよ、遊矢ならきっと、決闘で皆を笑顔にできるって

 

……お帰り、柚子!

 

ただいま、遊矢……!

 

 

 

 

これで終わりだと思ったら大間違いだ!

遊矢よ、お前の本当の闘いはテストに合格したこの瞬間から始まるんだ!

プロとして、闘い続ける覚悟はあるか?

 

もちろん!

オレはこれからも決闘で皆を笑顔にする!

そして必ず、父さんを超えるエンタメ決闘者になって見せる!

お楽しみは、これからだ!!!

 

 

 

 

 

 超満員の決闘スタジアムにて、強敵にして最大のライバル”赤馬 零児”を破って笑わせて見せた”榊 遊矢”。不愛想な社長も、笑わない赤子も、世界を滅ぼしかけた”悪魔”でさえも笑顔にするエンタメ決闘をやり抜き、見事プロテストに合格した。

 大切な人”柊 柚子”との再会も果たし、プロ決闘者として、そしてエンタメ決闘者として新たな一歩を踏み出した。その一歩目にして最大の壁、尊敬するエンターテイナーにして父親の”榊 遊勝”との決闘に挑む。

 

「行くよ父さん! 闘いの殿堂に集いし――――」

 

 

遊矢……榊 遊矢……

 

 

「え?」

 

 突然聞こえてきた声に思わず口上を止めて振り向く遊矢。後ろには涙が乾き切らない幼馴染とその父親、友人達、決闘の開始を今か今かと見つめるライバル達、そして未だに笑いが収まらず肩を揺らしている社長――――誰も自分を呼んだようには見えない。

 

「気のせいか……?」

 

 

ペンデュラムの創始者……笑顔の伝道師……モンスターの声を聞く者……悪魔――――

幾多の闘いを超えし者……最強の”決闘者”

 

 

「気のせいじゃない!? この声は……?」

 

 

集え、我が下に――――その”定まりし信念”をもって、我が試練を受けよ!

 

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 突然スタジアムが眩い光に包まれる。先程も同じような事が起こったせいか、スタジアムの人間の殆どが演出だと思って特に問題とはしなかった。

 

「……遊矢? 遊矢!?」

 

 だが問題は起こっていた。このステージの主役である遊矢の姿が消えていたのである。

 演出だと思っていた会場の人々も、流石に何時まで経っても遊矢が戻ってこないことに騒然とする。柚子は消えた遊矢の行方を案ずると同時に、言葉にできぬ胸騒ぎを覚えていた。

 

「遊矢……」

 

 

 

* * *

 

 

 

「うう……何だ一体……」

 

 あまりの眩さに顔を覆っていた腕を下げると、遊矢はスタジアムとは違う場所に立っていた。

 

「ここは……シンクロ次元?」

 

 そこはボロボロな建物が並ぶ廃墟のような街。遊矢はこの街に見覚えがある。

 

「コモンズの居住区みたいだけど……何だろうこの感じ?」

 

 自分の知っている街と同じだが、どこか違和感を感じる。近いようで遠いような――――言葉に表せないモヤモヤ感が遊矢を襲う。

 

「……決闘に夢中になりすぎて気にしてなかったけど、もう夜だったんだなぁ。早く戻らないと父さんはともかく、お客さんが帰っちゃうよ。……いや、下手したら父さんもどっか行くかも!? 急げ!」

 

 遊矢がRSV(リアル・ソリッド・ビジョン)搭載のローラーシューズを起動させようとした瞬間、薄暗い視界の端にあるものを見つける。

 

「あれ? これって……」

 

 遊矢が見つけたものは赤い1台のDホイール。それは遊矢がシンクロ次元で使っていたものだった。ヘルメットまで付いている。

 

「何でこんなところに……でもこれがあればもっと早く戻れるぞ」

 

 遊矢はDホイールに跨ると、ライディングスーツの代わりに肩に掛けていた学生服の上着を着こみ、ヘルメットをかぶろうとする。

 

「よいしょ……うわぁ!?」

「動くなよ? 決闘者」

 

 突然、前方から前照灯の光が遊矢を照らす。驚いた遊矢が光の方を見ると、1台のDホイールと一人の男のシルエットが浮かび上がっていた。

 

「おい、そのDホイールどこから盗んだ?」

「ぬ、盗んだって……違うよ! これは貸してもらったもので――――」

「ほーう、一生借りていくってやつか? 何にせよ盗みの言い訳の常套手段だな」

「ほ、本当に貸してくれたものなんだ! 評議会の人か治安維持局に確認してもらえば分かるよ!」

「俺はその”治安維持局”の人間だがな」

「え!?」

 

 男がゆっくりと遊矢の前に進み出る。見ると太い眉毛に浅黒い肌の体格の良い男で、遊矢も見覚えのある制服に身を包んでいた。

 

「俺は治安維持局直属公安組織”セキュリティ特殊追跡部隊デュエル・チェイサーズ”所属の”牛尾 哲”……ま、早い話が”お巡りさん”ってやつだ」

「デュエル・チェイサーズ!?」

 

 デュエル・チェイサーズ――――治安維持局と共に、シンクロ次元に渡った遊矢にとっては苦い思い出の象徴である。もう元凶である”長官”は存在しないものの、再び前に現れては流石の遊矢も顔が引きつる。

 

「だ、だったらすぐに確認して貰って――――」

「あーその必要はねぇ。実はそんなことどうでもいいんだよ。決闘者がいたら問答無用で拘束しろとの命令だ。決闘盤(それ)を腕に付けてる時点でアウトってわけだ」

「そ、そんな!?」

「逃げようなんざ思うなよ? お前の取るべき道は2つ! このままおとなしくお縄に就くか、俺と決闘することだ」

「決闘を?」

「そうさ、それがここでのルールだからな。ほら早くDホイールに乗って走りだせ! じゃないと腕づくで捕まえんぞ!」

「わわ!?」

 

 牛尾は自身のDホイールに駆け戻って跨り、エンジンを始動させる。遊矢も慌ててヘルメットを被ってDホイールに跨り、エンジンを始動させて走りだす。牛尾もそれを追いかけて走りだした。

 

「くそう! 何なんだ一体!」

『遊矢!』

 

 Dホイール上で遊矢がぼやいていると、3人の少年が姿を現す。全員が遊矢と同じ顔付きであり、遊矢のそばで浮いている。明らかに異常な光景だが、牛尾にはそれは見えていない。3人は遊矢の中に存在する意識だけの存在なのだ。

 

「”ユート”?」

『”ユーゴ”が何か言いたいことがあるそうだ』

 

 ユートと呼ばれた黒い衣装の少年が、ユーゴと呼んだ白いライディングスーツを着た少年を遊矢の前に出す。ユーゴは先程からキョロキョロと辺りを見渡しており、確信したように頷いてから遊矢と向き合う。

 

『遊矢! ここはシンクロ次元じゃねぇ!』

「何だって!? でもここはどう見ても――――」

コモンズ(俺達)の住処に似てるけど、違う! ずっと住んでたオレが言うんだ! それに……』

 

 ユーゴは後ろから追いかけてくる牛尾を一瞥する。

 

『あいつも見たことねぇんだ! セキュリティなら嫌になるほど見てきたけど、あんな奴セキュリティにはいねぇ!』

『キミ、あんなウジャウジャいる奴らの顔を見分けて覚えているのかい?』

 

 紫の衣装の少年”ユーリ”が胡散臭いものを見るような表情でユーゴにツッコむが、ユーゴは自信を漲らせた態度で牛尾を指さす。

 

『覚えてるわけねぇだろ、あんな皆同じような顔した奴ら! だからこそ分かる! あんな濃いオッサンが紛れてたらすぐに分かるぜ!』

『成程ね……オベリスク・フォースの中にバレットが紛れてたらすぐ分かるだろうね。それと同じか』

 

 ユーリが納得した様に頷くと、ユートが呆れた様にため息をついた。

 

『今はそんな話をしている場合じゃないだろう……やるのか遊矢?』

「あの人は本気でやる気だ。やるしかない!」

 

 遊矢は自信の決闘盤をDホイールにセットし、Dホイール付属のデッキホルダーを腕に装着する。

 

『せっかくプロになったって言うのに、またセキュリティに追っかけられるのかよ!』

 

 愚痴りながらもユーゴが楽しそうに笑う。遊矢はデッキホルダーにデッキを挿入し、オートシャッフルを行う。

 

『今更セキュリティに負けるキミじゃないだろう? 軽く捻ってあげなよ』

 

 ユーリも愉快そうに笑う。ゆったりと構えており、遊矢が負けるとは微塵も思ってはいないようだ。遊矢は2人に笑って応えると、決闘盤を起動させ、RSVで形成されたプレートを展開する。

 

『うん? 遊矢、この決闘盤何かおかしくないか?』

「え?」

 

 ユートに指摘されて遊矢が決闘盤を見ると、プレートが何時もより大きいように見える。

 

「何で大きく? まるでモンスターゾーンが二つあるみたいだ」

『……今考えても仕方ない! 来るぞ遊矢!』

「ああ!」

 

{フィールド魔法《クロス・オーバー・アクセル》セット}

 

 

 

「「 ライディング・デュエル! アクセラレーション!!! 」」

 

 

 

「オレの先攻だ!」

 

 廃墟のような市街地を舞台に始まったライディング・デュエル。先攻となった遊矢はDホイールのモニターで場の詳細を確認する。

 

「何だ!? P(ペンデュラム)ゾーンが魔法・罠ゾーンと統合されてる!? それにEX(エクストラ)モンスターゾーンって……」

『……ユーゴの言葉を信じるならば、ここは俺達の知っている次元とは異なる世界。そして、それは決闘の違いも意味しているのかもしれない』

「ユート?」

『気を引き締めろ遊矢! まだ何かあるかもしれない!』

「ああ! オレのターン! 永続魔法《補給部隊》を発動! そして――――」

 

 遊矢は手札から2枚のカードを取り出し、掲げる。

 

「オレはスケール6の《EM(エンタメイト)リザードロー》とスケール8の《EMオッドアイズ・ユニコーン》でPスケールをセッティング!」

 

 遊矢が魔法・罠ゾーンの両端にカードを2枚置くと、プレートに”PENDULUM”の文字が浮かび上がり、それと同時に遊矢の場の両側面に光の柱が立ち上がる。左の柱の中にはカードの襟巻、シルクハット、タキシードを着込んだトカゲの紳士が、右の柱の中には美しくも愛らしい二色の眼を持つユニコーンの子供がそれぞれのPスケールの数字と共に浮かび上がる。

 

「リザードローのP効果発動! もう片方のPゾーンにリザードロー以外の”EM”が存在する場合、このカードを破壊して1枚ドローする!」

 

 光の柱の中のリザードローが消滅すると、遊矢はデッキから1枚ドローする。

 

 遊矢 手札:2→3

 

「よし! Pゾーンにスケール2の《EMオオヤヤドカリ》をセッティング!」

 

 消滅したリザードローの代わりに左の柱の中に浮かび上がったのはその名の通り大きなヤドカリ。よく見るとヤドの中には小さな生物が住み着いているようだ。

 

「これでレベル3から7のモンスターを同時に召喚可能!」

 

 左の柱には2の文字、右の柱には8の文字。そして二つの柱の間を巨大な振り子(ペンデュラム)が揺れ動く――――

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!」

 

 振り子が何度も往復を繰り返すと、遊矢の場の上空に異空間の穴が開く。

 

「ペンデュラム召喚! 現れろ俺のモンスターたち!」

 

 遊矢の号令と共に穴から2つの光が飛び出し、遊矢の場へと降り立つ。

 

「EXデッキからレベル3《EMリザードロー》!」

 

 EMリザードロー 地属性 爬虫類族 ペンデュラム レベル3 DEF:600

 

「そして手札から現れろ! 雄々しくも美しく輝く二色の眼!」

 

 リザードローに続いて場に現れたのは、赤と緑のオッドアイを持つ赤いドラゴン。二色の眼を光らせ、雄々しく咆哮を上げる。これこそが遊矢のエースモンスターにして”四天の龍”の一体。そして始まりの”ペンデュラム”――――

 

「レベル7《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 闇属性 ドラゴン族 ペンデュラム レベル7 ATK:2500

 

「おおう、派手にやるじゃねぇか。そうこなくちゃな!」

 

 牛尾は遊矢を捕まえる立場であって本来は逮捕に集中しなければならないのだが、どこか呑気であり、遊矢との決闘を楽しむつもりであるのが見て取れる。

 ペンデュラム召喚を終えた後、遊矢は場を見て首を傾げた。

 

「あれ? リザードローがEXモンスターゾーンに置かれてる。もしかしてEXデッキから出したモンスターはあそこに置かれるのか? ……ということは、EXデッキからは2体しか出せないってこと!?」

 

 ペンデュラム召喚の最大の長所はEXデッキからの大量召喚であり、それを大きく制限されることは遊矢にとってはかなりの痛手である。

 

「Pゾーンの統合といい、何かオレに不利なルールだな……カードを伏せてターンエンド!」

 

遊矢

LP:4000

手札:0

EXモンスター

②:EMリザードロー DEF:600

④:

メインモンスター

③オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK:2500

魔法・罠

①LS:EMオオヤヤドカリ スケール2

③補給部隊

④セット

⑤RS:EMオッドアイズ・ユニコーン スケール8

 

「だが派手にやればそれだけ目立つ。捕まえてくださいって言ってるようなもんだぜ! 俺のターン!」

 

 牛尾 手札:5→6

 

「だったら俺も派手にやらせて貰うぜぇ! オラオラオラァ!」

 

 牛尾は手札から3枚のカードを取り出すと、それを1枚ずつ豪快に墓地へと送る。

 

墓地に送ったカード

ゲリラカイト

魔神童

ライト・サーペント

 

「行くぞぉ! レベル4! レベル3! レベル3! 以上手札より3枚を墓地へ送って、《モンタージュ・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

 牛尾の場に3色の光の壁が現れ、それが並ぶことによって1体の竜の姿を浮かび上がらせる。光の壁が弾け散ると、その中から三つ首の竜が現れ、大きな翼と腕を振るいながら咆哮を上げる。

 

 モンタージュ・ドラゴン 地属性 ドラゴン族 レベル8 ATK:?→3000

 

「こいつの攻撃力はこのカードの効果で墓地へ送ったモンスターレベルの合計の、300倍だ!」

「300倍!? ……って、攻撃力3000か。高いけど、300倍って言われるともっと凄い数値を想像しちゃうな……」

「ここで墓地に送った《ライト・サーペント》と《魔神童》の効果発動! それぞれ表側と裏側で特殊召喚する!」

 

 モンタージュ・ドラゴンに続き、牛尾の場に光輝く蛇が現れ、その隣にモンスターがセットされる。

 

 ライト・サーペント 光属性 爬虫類族 レベル3 ATK:1200

 

「《魔神童》をリリース! 《手錠龍(ワッパー・ドラゴン)》をアドバンス召喚!」

 

 セットモンスターが光の中へと消えると、その光から嘴と尻尾が手錠のようになった龍が現れる。

 

 手錠龍 風属性 ドラゴン族 レベル5 ATK:1800

 

「バトル! モンタージュ・ドラゴンでオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを攻撃! 【パワー・コラージュ】!」

 

 モンタージュ・ドラゴンがオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンへ三つの頭を向けると、口に光を集中させる。

 

「そうはさせないぞ!」

 

 遊矢は辺りを見回すと、通路の先にカードが数枚落ちているのを見つける。遊矢はDホイールから身を乗り出し、その内の1枚を手にする。

 

A(アクション)マジック《回避》! 攻撃を無効にする!」

 

 遊矢が拾ったAカードを発動させると、牛尾も身を乗り出して遊矢がとらなかったカードの1枚を手にして発動する。

 

「Aマジック《ノーアクション》! Aマジックの発動を無効にする! 俺様の攻撃に水差すんじゃねぇや!」

 

 牛尾の発動したAマジックが遊矢のAマジックを掻き消した瞬間、モンタージュ・ドラゴンが光のブレスを放ち、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを吹き飛ばす。

 

「うわぁ!?」

 

 遊矢 LP:4000→3500

 

 遊矢は攻撃の衝撃でよろけるDホイールを立て直し、その隙を突いて追い抜いて行った牛尾を追いかける。

 

「EMリザードローと補給部隊の効果発動! リザードローはこのカード以外の自分の表側モンスターが破壊された場合、自分の場の”EM”の数だけドロー! そして補給部隊は1ターンに1度、自分のモンスターが破壊された場合、1枚ドローする! 合計2枚ドローだ!」

 

 遊矢 手札:0→1→2

 

「ちっ! そっち先に破壊すりゃよかったな。ライト・サーペントでリザードローを攻撃!」

 

 ライト・サーペントがリザードローに飛び掛かり、噛みついて破壊する。

 

「ここでEMオオヤヤドカリのP効果発動! 1ターンに1度、”EM”が戦闘で破壊された時、自分のPゾーンの”EM”か”オッドアイズ”を特殊召喚する! 《EMオオヤヤドカリ》を守備表示で特殊召喚!」

 

 光の柱からオオヤドカリが飛び出し、遊矢の場で防御体勢を取る。

 

 EMオオヤヤドカリ 水属性 水族 ペンデュラム レベル5 DEF:2500

 

「手錠龍の攻撃力より守備力が上じゃねぇか! くそっ! カードを伏せてターンエンド!」

 

牛尾

LP:4000

手札:0

EXモンスター

②:

④:

メインモンスター

②手錠龍 ATK:1800

③モンタージュ・ドラゴン ATK:3000

④ライト・サーペント ATK:1200

魔法・罠

③セット

 

「あの人、Aデュエルを知っている! この次元にも存在しているのか? ……オレのターン!」

 

 遊矢 手札:2→3

 

「Pゾーンにスケール1《EMスマイル・マジシャン》をセッティング!」

 

 オオヤドカリがいなくなった左の柱に”スマイル”カードを手に持った金髪の美青年が浮かび上がり、眩しいほどの笑顔を場に向ける。

 

「これでレベル2から7のモンスターを同時に召喚可能!」

 

 左の柱には1の文字、右の柱には8の文字。そして二つの柱の間を巨大な振り子(ペンデュラム)が揺れ動く――――

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!」

 

 振り子が何度も往復を繰り返すと、遊矢の場の上空に異空間の穴が開く。

 

「ペンデュラム召喚! 現れろ俺のモンスターたち!」

 

 遊矢の号令と共に穴から2つの光が飛び出し、遊矢の場へと降り立つ。

 

「手札からレベル7《EMスライハンド・マジシャン》!」

 

 最初に現れたのは、下半身が遊矢の持つペンデュラムに似たクリスタル、上半身が左手にステッキを持った道化師風のマジシャン。奇抜な姿をしたそれは空手だった右手に突然トランプを出現させる手品を披露しながら場に降り立つ。

 

 EMスライハンド・マジシャン 光属性 魔法使い族 レベル7 ATK:2500

 

「EXデッキからレベル7《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 闇属性 ドラゴン族 ペンデュラム レベル7 ATK:2500

 

 続けてオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンが現れるが、遊矢は不思議そうに首をかしげる。

 

「あ、あれ? オッドアイズだけ? リザードローも召喚したつもりだったんだけど……」

 

 遊矢はモニターを確認すると、リザードローはEXデッキに残ったままであった。

 

「おいおい兄ちゃん、もしかしてEXデッキからもう1体出すつもりだったのか?」

「そうだけど……」

「無理に決まってんだろ? EXモンスターゾーンは一人一つまで。EXデッキからもっと出したかったら”リンクモンスター”を出すこった。もう一つも使いたかったら”エクストラリンク”を狙うんだな」

「リンクモンスター? エクストラリンク? それがこの世界の”召喚法”なのか?」

「さあどうすんだ? 当てが外れてお手上げか?」

「そんなことないさ! 行くぞ! オオヤヤドカリの効果発動! 自分の場のPモンスター1体の攻撃力をターン終了時まで”EM”の数の300倍アップする! オッドアイズの攻撃力を600アップだ!」

 

 オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK:2500→3100

 

「あっ真似しやがって! だが……」

 

 牛尾は前方に向き直ると、上空に浮いたAカードを手を伸ばして掴む。

 

「Aマジック《ティンクル・コメット》! モンスター1体の攻撃力をエンドフェイズまで1000下げ、相手に500ポイントのダメージを与える!」

 

 牛尾が発動したAマジックから無数の流星が飛び出し、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンと遊矢を襲う。

 

 オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK:3100→2100

 遊矢 LP:3500→3000

 

「うわぁ!? ……くっ!」

 

 Aマジックの奇襲によって再びよろけた遊矢。体勢を立て直し、悔しそうに前方を走る牛尾を見る。

 

「(ライディング・デュエルじゃコース上にAカードが置かれるから、先を走られたらAカードをどんどん使われる。よーし……何としてでも前にでてやる!) オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンでモンタージュ・ドラゴンを攻撃!」

「おいおい! モンタージュ・ドラゴンの攻撃力の方が上だぜ? ……ならやることは一つだな!」

 

 牛尾は身を乗り出し、Aカードを手に取る。道の先にはもうAカードは見えない。

 

「(俺が先を行く限り、お前にAカードが回る可能性は下がる! Aカードに頼った戦術じゃ俺には決して勝てないってことよ!)」

 

 遊矢はAマジックでオッドアイズを強化してモンタージュに挑みに来る――――そう考えた牛尾は先んじてAカードを取ったのだが、遊矢の視線はAカードには向けられていなかった。

 

「《EMオッドアイズ・ユニコーン》のP効果発動! このカードPゾーンに存在する限り1度だけ、”オッドアイズ”の攻撃宣言時、そのモンスター以外の”EM”1体の元々の攻撃力をバトルフェイズ終了時まで攻撃モンスターに加える! EMスライハンド・マジシャンの攻撃力をオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンに加える!」

「何ィ!? Aマジックじゃねぇのか!?」

 

 スライハンド・マジシャンがステッキをオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンにかざすと、オッドアイズ・ユニコーンの嘶きと共にパワーが流れ込む。

 

 オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK:2100→4600

 

「攻撃力4600だぁ!?」

「行け! 【螺旋のストライク・バースト】!」

 

 オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンは飛び上がると、口から赤い閃光のブレスをモンタージュ・ドラゴンへと放つ。

 

「チィ! Aマジック《ハイダイブ》! 自分の場のモンスター1体の攻撃力を1000アップする!」

 

 モンタージュ・ドラゴン ATK:3000→4000

 

「これでダメージを抑えてやる!」

「オッドアイズの効果発動! 相手モンスターと戦闘を行う場合、このカードが相手に与える戦闘ダメージは倍になる! 〈リアクション・フォース〉!」

 

 ブレスがモンタージュ・ドラゴンに命中すると、モンタージュ・ドラゴンは爆散し、爆風が牛尾を襲う。

 

「うおお!? チクショウ!」

 

 牛尾 LP:4000→2800

 

「続けてスライハンド・マジシャン! 手錠龍を攻撃! 【ノーギミック・マジック】!」

 

 スライハンド・マジシャンがトランプを手裏剣の様に手錠龍へと投げつけると、手錠龍を切り裂き破壊する。

 

 牛尾 LP:2800→2100

 

「ぐうう!? 調子に乗るなよ、手錠龍の効果発動! 相手の攻撃によって破壊され墓地に送られた時、このカードを装備カード扱いとして攻撃モンスターに装備する!」

 

 破壊されたはずの手錠龍がスライハンド・マジシャンの目の前に現れ、嘴と尻尾で捕らえて拘束する。

 

「装備モンスターの攻撃力は1800ポイントダウンするぜ!」

 

 EMスライハンド・マジシャン ATK:2500→700

 

「スライハンド・マジシャン!? よーし……」

 

 遊矢は牛尾がダメージでよろけている隙をついて追い抜き、身を乗り出して再びAカードを手に取る。

 

 遊矢 手札:1→2

 

「スライハンド・マジシャンの効果発動! 1ターンに1度、手札を1枚捨てることで場の表側表示のカード1枚を破壊する! 抜け出して手錠龍を破壊しろ!」

 

捨てたカード

加速

 

 スライハンド・マジシャンは手錠龍からスルりと抜け出し、再びトランプで破壊する。

 

「ターンエンド!」

 

遊矢

LP:3000

手札:0

EXモンスター

②:オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK:4600→2500

④:

メインモンスター

②EMスライハンド・マジシャン ATK:700→2500

③EMオオヤヤドカリ DEF:2500

魔法・罠

①LS:EMスマイル・マジシャン スケール1

②セット

③補給部隊

④セット

⑤RS:EMオッドアイズ・ユニコーン スケール8

 

「小僧だからって油断してたぜ! 俺のターン!」

 

 牛尾 手札:0→1

 

「それじゃここでお手本を見せてやろうか」

「お手本?」

「リンクモンスターを出して見せてやろうってんだよ。よーく覚えておきな」

「!? くるのか? この世界の召喚法!」

「《ダークロン》を召喚!」

 

 牛尾の場に手足とボサボサの金髪を生やした丸い悪魔が現れる。

 

 ダークロン 闇属性 悪魔族 レベル1 ATK:100

 

「ダークロンの召喚に成功した時、俺の場のモンスターは全て闇属性となり、レベルが1つ上がる!」

 

 ライト・サーペント 光属性→闇属性 レベル3→4

 ダークロン レベル1→2

 

「現れろ! 御上の威光が照らすサーキット!」

 

 牛尾が空中を指さすと、その先にアローヘッドが現れる。

 

「アローヘッド確認! 召喚条件は”モンスター2体”! 《ライト・サーペント》と《ダークロン》をリンクマーカーにセット!」

 

 牛尾の場のライト・サーペントとダークロンが風を纏い、アローヘッドの右下と左下のリンクマーカーへと飛び込んでリンクマーカーを点灯させる。

 

「サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れろLINK-2! 《魔界の警邏課デスポリス》!」

 

 光り輝くアローヘッドから飛び出したのは、ドクロのアクセサリーを身に着けた婦人警官。腰に提げた手錠と警棒を揺らし、腰に手を当てビシッと敬礼する。

 

  魔界の警邏課デスポリス 闇属性 悪魔族 LINK-2 ATK:1000

 

「(リンク召喚……そこから呼び出されるリンクモンスターか。一体どんな力を秘めているんだ?)」

「罠カード《裁きの天秤》! 相手の場のカードの合計が自分の手札・場のカードの合計よりも多い場合、その差分だけドローする! お前の場に8枚、俺の場には2枚、よって6枚ドロー!」

 

 牛尾 手札:0→6

 

「魔法カード《ワンタイム・パスコード》! 俺の場に《セキュリティー・トークン》1体を守備表示で特殊召喚!」

 

 牛尾の場に浮遊する監視カメラが1台現れる。

 

 セキュリティー・トークン 光属性 サイバース族 レベル4 DEF:2000

 

「魔法カード《二重召喚(デュアルサモン)》! このターン、もう一度通常召喚するぜ。チューナーモンスター《ヘル・セキュリティ》を召喚!」

 

 続けて牛尾の場に警棒とメガホンを持ち、頭にパトランプを乗せた小さな悪魔が現れる。

 

 ヘル・セキュリティ 闇属性 悪魔族 レベル1 ATK:100

 

「チューナー!? まさか……」

「そのまさかよぉ! レベル4《セキュリティー・トークン》に、レベル1《ヘル・セキュリティ》をチューニング!」

 

 ヘル・セキュリティが光輪へと姿を変え、セキュリティー・トークンを囲み、4つの光、そして光の柱へと変える。

 

「悪が蔓延るこの街を、守る男がここにあり! シンクロ召喚!」

 

 光の柱から現れたのは、バイクに跨る双頭の悪魔。爬虫類を思わせる二つの頭は奇声を上げ、大きな翼を広げながらバイクで走り出す。

 

「泣く子も黙る双子の野獣刑事! 《ヘル・ツイン・コップ》!」

 

 ヘル・ツイン・コップ 闇属性 悪魔族 レベル5 ATK:2200

 

「EXモンスターゾーンじゃなくてモンスターゾーンに……!」

「リンクモンスターのリンクマーカーが指し示すメインモンスターゾーンはEXモンスターゾーンと同じようにEXデッキのモンスターを呼び出せるのだ!」

「これがこの次元でのEXモンスターを展開する手段なのか! それにしてもS(シンクロ)モンスターまで使ってくるなんて!」

「装備魔法《デーモンの斧》を《ヘル・ツイン・コップ》に装備! 攻撃力を1000アップする! バトルだ!」

 

 ヘル・ツイン・コップ ATK:2200→3200

 

「攻撃力が!? ここは!」

 

 遊矢は前に向き直ると、攻撃を防ぐためのAカードへと手を伸ばす。

 

「オラァ!」

「うわっ!?」

 

 完全にAカードへ意識を向けていた遊矢は一気に間合いを詰めてきた牛尾に隙を突かれ、体当たりを受けてカードを手放してしまう。

 

「Aカードを止められるのがAカードだけだとでも思ったか? 俺から目を離してんじゃねぇ!」

「ひ、卑怯だぞ!」

「卑怯でもなんでもねぇ。これが”ライディング・デュエル”の世界よ! やるかやられるか! 教えてやるぜ! ヘル・ツイン・コップでスライハンド・マジシャンを攻撃!」

 

 ヘル・ツイン・コップが手に持った斧をコースに擦り付けながらスライハンド・マジシャンへと爆走し、斧で薙ぎ払って破壊する。

 

「スライハンド・マジシャン!?」

 

 遊矢 LP:3000→2300 手札:0→1

 

「ヘル・ツイン・コップのモンスター効果! 相手を戦闘破壊し墓地へ送った時、攻撃力をバトルフェイズ終了時まで800アップしてもう一度攻撃できるのだ! オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンに攻撃だぁ!」

 

 ヘル・ツイン・コップ ATK:3200→4000

 

 スライハンド・マジシャンを斬り捨てた勢いで前へ出ていたヘル・ツイン・コップがUターンし、今度はオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを叩き斬る。

 

「うわぁ!? オッドアイズ!?」

 

 遊矢 LP:2300→800

 

「まあこんなもんだ! バトル終了!」

 

 ヘル・ツイン・コップ ATK:4000→3200

 

「ここでデスポリスの効果発動! モンスター1体をリリースし、場のカード1枚に警邏カウンターを1つ置く! デスポリス自身をリリースし、《ヘル・ツイン・コップ》にカウンターを乗せるぜ!」

 

 デスポリスはヘル・ツイン・コップに向かって敬礼し、そのまま消滅する。

 

 ヘル・ツイン・コップ 警邏カウンター:0→1

 

「カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

牛尾

LP:2100

手札:0

EXモンスター

②:

④:

メインモンスター

③ヘル・ツイン・コップ ATK:3200 警邏カウンター:1

魔法・罠

②セット

③デーモンの斧(装備:ヘル・ツイン・コップ)

④セット

 

「ふー、アドバンテージで圧倒したと思いきや、一気に切り込まれちゃったよ」

『だらしないねぇ、君が手こずる相手じゃないだろう?』

『そろそろ温まってきたころだろ? な!』

 

 ホッと一息つく遊矢に後ろから現れたユーリとユーゴが煽りを入れ、前に現れたユートが笑みを浮かべて腕を組んだ。

 

『そろそろ見せてやってもいいんじゃないか? ”お前の決闘”を』

「そうだな……お楽しみはこれからだ!」

 

 ニッと笑った遊矢は疾走するDホイールの上で立ち上がり、両腕を広げた。

 

「レディースエーンドジェントルメーン!!!」

「うおっ!? 何してんだあぶねぇ!?」

 

 唐突な遊矢の奇行に、前を走りながらチラリと後方を窺っていた牛尾はギョッとして振り返る。

 

「心配ご無用ミスター牛尾! これも私めの”エンタメ”でございます!」

「急にどうした!? まさかライディング・デュエルにビビッてどうかしちまったんじゃねぇだろうな!?」

「むしろワクワクしてきました! 私がプロ決闘者になってから初めてのエンタメデュエル! 存分にお魅せしましょう! 私のターン!」

 

 遊矢 手札:1→2

 

「罠カード《ディーラーズ・チョイス》! お互いのプレイヤーはデッキをシャッフルし、1枚ドロー! その後手札を1枚捨てる!」

 

 遊矢 手札:2→3→2 捨てたカード:EMスプリングース

 牛尾 手札:0→1→0 捨てたカード:ヘルウェイ・パトロール

 

「次はお馴染みP召喚! EXデッキから現れよ《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 最初に異空間の穴から飛び出したのはエースであるオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン。3回目の召喚だが疲れもダメージも感じさせない雄々しい咆哮を上げる。

 

 オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 闇属性 ドラゴン族 ペンデュラム レベル7 ATK:2500

 

「またそいつかよ? いい加減見飽きたぜ」

「飽きさせなんてしませんよ! それではご覧いただきましょう! 二色の眼が魅せる大魔術の輝きを! 魔法カード《ペンデュラム・フュージョン》! 場とPゾーンのカードを使って融合召喚を行います!」

「Pゾーンのカードで融合召喚だぁ!?」

「EXモンスターゾーンの《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》とPゾーンの《EMスマイル・マジシャン》を融合!」

 

 遊矢の場に異空間の渦が現れると、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンとスマイル・マジシャンが光となって渦に吸い込まれる。

 

「笑顔の伝道師よ、まばゆき光となりて龍の眼に今宿らん! 融合召喚!」

 

 遊矢が両掌を合わせた瞬間、渦の中から大きな金色の輪を背負ったペンデュラム・ドラゴンが現れる。頭部にも金色の輪を戴き、右目は義眼によって閉じられてしまっているがそれを補うかのように左目が輝く。

 

「出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 闇属性 ドラゴン族 レベル8 ATK:3000

 

「攻撃力3000? 何がくるかと思えば、まだ足りねぇじゃねぇか?」

「魔法カード《ペンデュラム・ホルト》! 自分のEXデッキに表側Pモンスターが3種類存在する場合、デッキから2枚ドローします!」

 

 遊矢 手札:0→2

 

 遊矢はドローしたカードを見て頷き笑う。そして明るい表情で牛尾へと振り返る。

 

「応援されれば勇気凛々! 《EMチア・モール》を通常召喚!」

 

 続けて飛び出したのはチアガールの恰好をした雌のモグラ。場に躍り出ると同時に応援の舞を披露する。

 

 EMチア・モール 地属性 獣族 ペンデュラム レベル2 ATK:600

 

「へんちくりんなモンスター出しやがって……それで足りたなんて言うのか?」

「そう、ミスター牛尾の言う通り足りません。何が足りないか、お解りですか?」

「そんなもん、攻撃力に決まってんじゃねぇか! 馬鹿に――――」

「今この場に足りないもの! それは”笑顔”です!」

「はぁ!? 何言ってんだお前?」

「エンタメとは、皆を”笑顔”にすること! それこそが私の目指す決闘です!お楽しみはこれからだ!」

 

 Dホイール上で立ち上がり、遊矢は1枚のカードを掲げる。遊矢にとっての”憧れ”の象徴にして”原点”。揺れる遊矢を何時だって奮い立たせてきた”魔法”のカード――――

 

「魔法カード《スマイル・ワールド》を発動します!」

 

 遊矢が発動したカードから”笑顔”が溢れ出す。それは場を縦横無尽に飛び回り、空間を埋め尽くすかのように浮かぶ。

 

「な、何だこりゃあ!?」

「スマイル・ワールドを発動したターン、場のモンスターの攻撃力は場のモンスターの数の100倍アップします!」

 

 空間に浮かぶ笑顔に感化され、EM達、ルーンアイズ、そしてヘル・ツイン・コップまで笑顔となる。

 

 ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK:3000→3400

 EMオオヤヤドカリ ATK:500→900

 EMチア・モール ATK:600→1000

 

 ヘル・ツイン・コップ ATK:3200→3600

 

「へ、ヘル・ツイン・コップ……なんつー顔してんだ。ブフッ!」

「ふふ! ミスター牛尾も楽しくなってきたところで、愛らしいチアガールの応援と行きましょう! EMチア・モールの効果発動! 元々の攻撃力よりも攻撃力が高いモンスター1体の攻撃力を1000ポイントアップする! ルーンアイズを応援するんだ!」

 

 遊矢から指示を受けたチア・モールが可愛らしく踊ると、ルーンアイズは興奮したように咆哮を上げる。

 

 ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK:3400→4400

 

「ちぃ! そういうことかよ!」

「ここでオオヤヤドカリを攻撃表示に変更! 効果を使い、自身の攻撃力を600アップさせます!」

 

 EMオオヤヤドカリ DEF:2500→ATK:900→1500

 

「これで準備完了です! バトル! ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴンでヘル・ツイン・コップを――――」

「甘いんだよ! 永続罠《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》! こいつがある限りレベル4以上のモンスターは攻撃できねぇ! ゴヨウだぁ~!」

 

 ルーンアイズが動き出そうとした瞬間、光の網が全体を覆い、ルーンアイズとオオヤヤドカリを捕らえる。チア・モールは網の隙間から抜け出し無事のようだ。

 

「ああ!? なんてことでしょう……ルーンアイズ達が捕まってしまいました!?」

「お巡りさんに楯突くからだ。このままゲームセットまでご同行願おうかね?」

「いやいやそうはいきませんよ? なんてったってルーンアイズはまだ融合召喚されたばかり、つまりまだ悪いことはしていないんですよ。これは冤罪、誤認逮捕です」

 

 遊矢がいやいやと首を振り腕でバッテンを作る。牛尾は付き合いきれないと言うかのように溜息をついた。

 

「ノってやっただけありがたいと思えよ。で、どうすんだ?」

「決まってます! これは冤罪なのですから、堂々と解放させてもらいますよ!」

「出来もしないことを……もう遊びは十分だろ? さっさと決闘を――――」

「さあ行きますよ! 奇跡の大脱出! 3、2、1――――」

 

 カウントダウンの最後に遊矢が指を鳴らすと、ルーンアイズから眩い閃光が放たれる。牛尾は思わず顔を背け、閃光が止んで再び向き直ると、網の中にはオオヤヤドカリのみが捕らえられていた。

 

「何だと!? ドラゴンは何処に――――」

 

 後方を見渡した後に前方を向くと、そこには疾走するルーンアイズと遊矢の姿があった。

 

「何ィ!? 何時の間に!?」

「ルーンアイズのモンスター効果! P召喚されたモンスターを素材に融合召喚したターン、このカードは相手のカード効果を受けないのです! さあバトル再開!」

 

 ルーンアイズが反転してヘル・ツイン・コップへと向き直ると、背中の輪の前に3つの光球を浮かべる。

 

「ルーンアイズでヘル・ツイン・コップを攻撃! 【シャイニーバースト】!」

 

 ルーンアイズが光球の一つから光線を放ち、ヘル・ツイン・コップへと命中させる。

 

「がぁぁ!? だがヘル・ツイン・コップには警邏カウンターがあるぜ! こいつはヘル・ツイン・コップの身代わりとなる!」

 

 牛尾 LP:2100→1300

 

「ならばもう一度! ルーンアイズの融合素材となった魔法使い族のレベルが5以上の場合、ルーンアイズはモンスターに3回まで攻撃できる! 【連撃のシャイニーバースト】!!」

 

 ルーンアイズが残り二つの光球に魔力を集中させ、一気に光線として撃ち出す。この一撃にはヘル・ツイン・コップも耐えられず、爆散してしまった。

 

「ぐわぁぁぁ!?」

 

 牛尾 LP:1300→500

 

「これで最後だ! チア・モールでダイレクト・アタック!」

「させるかよぉ! 罠カード《ピンポイント・ガード》! 相手の攻撃宣言時、自分の墓地のレベル4以下のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する! 墓地の《ヘルウェイ・パトロール》を特殊召喚!」

 

 チア・モールが牛尾に飛び掛かろうとした瞬間、バイクに乗った悪魔の警官が現れ、牛尾を庇う様に並走する。

 

 ヘルウェイ・パトロール 闇属性 悪魔族 レベル4 DEF:1200

 

「この効果で特殊召喚されたモンスターはこのターン破壊されねぇ! ルーンアイズの攻撃だって通さねぇぞ」

「くっ……バトル終了(削り切れなかった!)」

 

 後一歩のところまで牛尾を追い詰めた遊矢。しかし倒し切れず、LP800で低攻撃力のモンスター2体を晒すという大きな隙を見せてバトルを終えることになってしまった。

 

「(このままじゃ危ない! Aカードも……さっきから見ない。使い切ったのか)」

 

 Aデュエルを彩り支えるAカードも無限ではない。バラまかれた物を使い切ればそれまでである。便利ではあるが、それに頼り切っていては後々に響く事となるのだ。

 

「ここは……墓地の《EMスプリングース》の効果発動! 墓地のこのカードを除外することで自分のPゾーンの”魔術師”、”EM”、自分の場のPモンスターの中から2枚を手札に戻す! 場の《EMオオヤドカリ》と《EMチア・モール》を手札に!」

 

 遊矢が墓地からスプリングースのカードを取り除き、2枚のEMのカードを場から手札に戻すと、場の2体のEMが同時に消滅する。

 

 遊矢 手札:0→2

 

「そうだな、そうしねぇとお前自身がやられちまうかもしれねぇからな。賢いぜ坊主」

「くっ……これでターンエンド!」

 

遊矢

LP:800

手札:2

EXモンスター

②:ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK:4400→4000

④:

メインモンスター

魔法・罠

③補給部隊

④セット

⑤RS:EMオッドアイズ・ユニコーン スケール8

 

「いや、面白れぇじゃねぇか坊主。仕事じゃなきゃもっと楽しみてぇところだが……俺も”決闘者”だ。容赦はしねぇぞ! 俺のターン!」

 

 牛尾 手札:0→1

 

「こういう時の引きってやつは残酷だぜぇ? 魔法カード《貪欲な壺》! 墓地のモンスター5体をデッキに戻してシャッフル! 2枚ドロー!」

 

戻したカード

ヘル・セキュリティ

ライト・サーペント

魔神童

ヘル・ツイン・コップ

魔界の警邏課デスポリス

 

 牛尾 手札:0→2

 

「更に魔法カード《マジック・プランター》! 自分の場の永続罠を1枚墓地へ送り、2枚ドローする! 《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》を墓地へ送り2枚ドロー!」

 

 牛尾 手札:1→3

 

 牛尾の場の超重力の網が消滅する。これで牛尾も高レベルモンスターでの戦闘が可能になった。

 

「(よかった。もし2体を戻していなかったら大変だったぞ……!)」

「助かった~なんて顔するんじゃねぇぞ? ここからだ! チューナーモンスター《ジュッテ・ナイト》を召喚!」

 

 牛尾の場に十手を持ち、提灯を背負った小さい岡っ引が現れる。

 

 ジュッテ・ナイト 地属性 戦士族 レベル2 ATK:800

 

「ジュッテ・ナイトのモンスター効果! 1ターンに1度だけ、相手の攻撃表示モンスターを守備表示に変更する!」

 

 ジュッテ・ナイトが十手から特殊な音波を放つと、それを受けたルーンアイズは勝手に防御体勢を取る。

 

 ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK:4000→DEF:2000

 

「ルーンアイズが守備表示に!? そしてチューナーってことは……!」

「そのまさかよぉ! レベル4《ヘルウェイ・パトロール》にレベル2《ジュッテ・ナイト》をチューニング!」

 

 ジュッテ・ナイトが自身を2つの光輪へと変える。2つの光輪はヘルウェイ・パトロールを囲むと、4つの光、そして光の柱へと変化させる。

 

「ビリビリくるぜぇ……! シンクロ召喚!」

 

 光の柱の中から現れたのは歌舞伎役者のような姿をした大柄の岡っ引。縄の付いた十手を構え、ポーズを決める。

 

「出あえ! 《ゴヨウ・ガーディアン》!」

 

 ゴヨウ・ガーディアン 地属性 戦士族 レベル6 ATK:2800

 

「ここでSモンスター……しかもこのカードって!?」

 

 直接戦ったことはないが、シンクロ次元のセキュリティ隊員がこのモンスターを使用していたのを遊矢は見たことがあった。

 ゴヨウ・ガーディアン――――明らかに遊矢を苦しめた”ゴヨウ”シリーズの一体であり、厄介な能力を持っていることは疑いようもない。

 

「ここで墓地の《ヘルウェイ・パトロール》の効果発動! こいつを除外することで手札の攻撃力2000以下の悪魔族1体を特殊召喚できる! 2体目の《ヘルウェイ・パトロール》を特殊召喚!」

 

 続けて牛尾の場に先程のとは別のヘルウェイ・パトロールが現れる。

 

 ヘルウェイ・パトロール 闇属性 悪魔族 レベル4 ATK:1600

 

「バトルだぁ! ゴヨウ・ガーディアンでルーンアイズを攻撃! 【ゴヨウ・ラリアット】!」

 

 ゴヨウ・ガーディアンが十手を先に付けた縄を放ると、十手がルーンアイズに命中し、粉々に粉砕してしまう。

 

 遊矢 手札:2→3

 

「ルーンアイズ!?」

「ここでゴヨウ・ガーディアンの効果発動! 戦闘で破壊し墓地へ送ったモンスターを俺様の場に守備表示で特殊召喚する! ウェルカムルーンアイズちゃぁん!」

 

 粉々になったルーンアイズが牛尾の場で再び形となり、縄で雁字搦めの状態で放置される。

 

 ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 闇属性 ドラゴン族 レベル8 DEF:2000

 

「ルーンアイズが……!?」

「これで終わりよぉ! ヘルウェイ・パトロールでダイレクトアタック!」

「くっ! 速攻魔法《スマイル・ユニバース》! EXデッキから表側Pモンスターを可能な限り特殊召喚する! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

 迫りくるヘルウェイ・パトロールの前にオッドアイズが飛び出し、行く手を阻む。

 

 オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 闇属性 ドラゴン族 ペンデュラム レベル7 ATK:2500

 

「このカードで特殊召喚したモンスターの効果は無効となり、相手は特殊召喚したモンスターの元々の攻撃力の合計分LPを回復する」

「ということは俺様のLPは2500回復するってか! ははぁはぁー! 甦る甦る!」

 

 牛尾 LP:500→3000

 

「――――が、これじゃヘルウェイ・パトロールの攻撃は通らねぇな。バトル終了! カードを伏せてターンエンド!」

 

牛尾

LP:3000

手札:0

EXモンスター

②:

④:ゴヨウ・ガーディアン ATK:2800

メインモンスター

②ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン DEF:2000

③ヘルウェイ・パトロール ATK:1600

魔法・罠

③セット

 

「強い……だけど、諦めるもんか! オレのターン!」

 

 遊矢 手札:3→4

 引いたカード:オッドアイズ・ドラゴン

 

「これって……そんな!? どうしてこのカードが!?」

 

 それはもう存在しないはずのカード。かつてのズァーク、そして遊矢の相棒であり、ズァークの力によって”ペンデュラム・ドラゴン”へと生まれ変わったはずの”オッドアイズ・ドラゴン”であった。

 

『おそらく……これは俺の推測だが』

 

 困惑する遊矢の前にユートが現れる。

 

『”悪魔”が俺達の中から離れたことが原因だと思う。”オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン”は元々悪魔――――ズァークの力によって発現し、”オッドアイズ・ドラゴン”が変化したもの……だったな?』

「ああ」

『能力と”ペンデュラム”はお前の下に残されたが、大部分の影響は消え去ったんじゃないだろうか』

「どういうこと?」

『俺達は一つとなったが、”悪魔(ズァーク)”とは別れた。つまり、悪魔の力の顕現である”ペンデュラム・ドラゴン”とお前の象徴である”オッドアイズ・ドラゴン”も同じように引き離された……確証は無いが、そういうことじゃないか?』

「うーん、そう言われるとそうなのかな?」

 

 遊矢はカードに描かれた懐かしい相棒の姿を見つめる。

 

「ズァークにとっても、オレにとっても、全てはここから始まったんだよな……」

『そうだ! そして、またここから始まるんだ!』

「え?」

 

 今度はユーゴが姿を現す。

 

『色々あったけどよ、それはもう終わったんだ! リン――――柚子がいて、家族がいて、ライバル共がいる! もう引っ掻き回す野郎は何処にもいねぇ! 目指していいんだぜ! 最初からまた!』

「ユーゴ……」

『ここまで一緒にいて思ったけど、キミは本当に世話がやけるねぇ』

 

 今度はユーリが現れ、やれやれと首を振る。

 

『キミは僕で、僕はキミなんだから好きにやればいいのさ。迷う必要なんてない。敵なんていないんだから』

「ユーリ……オレはもう迷ったりなんかしないよ」

『そうかい? だったらさっさとあいつを倒すことだね』

「そう簡単にはいかないよ。あの人はただのセキュリティ隊員じゃない」

『ほらそれだ』

「え?」

 

 ユーリが下がると、ユートが入れ替わって遊矢の前に出る。

 

『遊矢、俺達はズァークという”一人の人間”だった……だがな、四人に分かれてからはその性質を分け合った”ズァークではない一人の人間”だったんだ。だからこそ分けられたものを独自に進化させ、モノにすることができた』

 

 3人はそれぞれ1枚のカードを取り出す。

 ユートの手には”ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン”。

 ユーゴの手には”クリスタルウイング・シンクロ・ドラゴン”。

 ユーリの手には”グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン”。

 それぞれのエースの進化形態である。

 

『遊矢、ペンデュラムや覇王龍、お前が手にした力の大半はズァークによるものだ。ズァークの憎悪が潜んでいたのはお前の中であったから当然のことなのかもしれない……』

『だからと言って、僕を倒すほどのキミの中に”力”が無いなんてことは有り得ないよねぇ?』

『俺達は”一つ”だったんだからな! お前にだってあるんだ遊矢!』

「オレの”力”……」

 

 3人の言葉を受け遊矢は手元のオッドアイズ・ドラゴンへと視線を落とす。それは他の3枚と共鳴するかのように輝きを放ち始める。

 

『ユーゴでもユーリでも、俺でもズァークでもない。他の誰でもない”榊 遊矢”!』

『行きなよ。キミを止められる奴なんて何処にもいないんだから』

『進め進め! 駆け抜けろ! お前の決闘を見せてやれ!』

 

 輝きが最高潮に達すると、カードの絵とテキストが描き変わる。

 何時の日か、もうずっと昔のことの様に思える。舞網スタジアムでチャンピオンに追い詰められたあの時、同じようにカードが輝き変化した。”ペンデュラム”を手にした始まりの決闘――――

 

「そうか……また、始まるんだな……よぉぉしっ!」

 

 新たなる力を手にし、遊矢は駆け出す。

 

「《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》をリリース!」

「何ィ!? ここでアドバンス召喚か!?」

 

 牛尾が驚いて振り向く中、オッドアイズは光の中へと消える。

 

「このカードはレベル5以上のモンスター1体をリリースすることでアドバンス召喚できる!」

 

 光の中から飛び出したのはオッドアイズ・ドラゴンとそっくりな二色の眼を持つ赤き竜。違いは体が一回り大きいことと、大きな翼を持っていること。雄々しくも美しい咆哮と共に風を翼で巻き上げ、その”進化”を遂げた巨体を大地に下ろす。

 

「進化を促す二色の眼! その証たる大いなる翼を持って飛翔せよ! 《オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン》!!!」

 

 オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン 闇属性 ドラゴン族 レベル8 ATK:3000

 

「オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンの効果発動! アドバンス召喚に成功した場合、相手のモンスター1体を選んで破壊し、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える! 破壊するのは《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

「ルーンアイズの攻撃力は3000! そして俺の……やべぇ!?」

「行くぞオッドアイズ! ルーンアイズ、魔力を解き放て! 〈リアクション・ノヴァ〉!」

 

 オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンがルーンアイズに向かってブレスを放つと、それを受けたルーンアイズは反応したように魔力を解放させ、牛尾の場で大爆発を起こす。

 爆炎に包まれる牛尾の場に突っ込み、遊矢はオッドアイズと共に駆け抜けて煙の中から飛び出した。

 

「やったか……?」

 

 牛尾のLPは残り3000である。これが決まっていれば遊矢の勝ちであるが――――遊矢が振り向いた瞬間、牛尾も煙の中から飛び出してきた。

 

「永続罠《女神の加護》! LPを3000回復する! どうだまだ終わりじゃねぇぞ!」

 

 牛尾 LP:3000→6000→3000

 

 牛尾は凌いでいた。遊矢にとっては起死回生の一手が外れた形となったが、遊矢の表情は明るい。一点の曇りも無い”笑顔”であった。

 

「……変な野郎だ。逆転劇を止められたっていうのにヘラヘラしやがって」

「牛尾さん、オレは止まらないよ。家族と、仲間と、ライバル達と、オレのカード達……皆と一緒に進んでいく! 今もこれからも! だから……行くよ牛尾さん! バトル!」

「……面白れぇ! 来いや坊主! 突破できるもんならしてみろやぁ!」

 

 遊矢の宣言と同時にオッドアイズが飛び上がり、口に炎を蓄える。

 

「オッドアイズでゴヨウ・ガーディアンを攻撃! 【螺旋のストライク・フレイム】!」

 

 オッドアイズの口から放たれた螺旋状の炎がゴヨウ・ガーディアンを包み込み、焼き尽くす。

 

「うおぉ!? ……だが俺のLPはまだまだたっぷりとある! ヘルウェイ・パトロールを攻撃されても余裕だ! やはり突破なんて不可能なんだよ!」

 

 牛尾 LP:3000→2800

 

「オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンの効果発動! 戦闘でモンスターを破壊した時、手札・墓地からレベル5以上のモンスター1体を選んで守備表示で特殊召喚する! 墓地から《EMスライハンド・マジシャン》を特殊召喚!」

 

 オッドアイズが咆哮を上げると、その隣にスライハンド・マジシャンが現れ防御体勢をとる。

 

 EMスライハンド・マジシャン 光属性 魔法使い族 レベル8 DEF:2000

 

「そんな能力まであるのかよ!? だが守備表示、追撃はできねぇ! やはり突破は無理だ!」

「いいや牛尾さん。これでフィナーレだ!」

「何!?」

「バトルを終了し、スライハンド・マジシャンの効果発動! 手札を1枚捨てることで場の表側表示のカード1枚を破壊する!」

 

 遊矢 手札:2→1

 

「場の表側……あ!?」

「ミスター牛尾の”救いの女神”は、どうやら私にとっての”勝利の女神”だったようです! スライハンド・マジシャン!」

 

 ”女神の加護”は破格のLPをプレイヤーに与えてくれる。しかし場から離れた時、それと同等のLPをプレイヤーから奪い去ってしまう。スライハンド・マジシャンの投げたカードが女神の加護を切り裂き、爆発を起こす。

 

「ぐわぁぁぁーーーー!!?」

 

 牛尾 LP:2800→0

 

 決闘が終了し、RSVが消滅する。決闘の先を見据え、迷いなく駆け抜けた遊矢の勝利であった。

 牛尾のDホイールの強制停止装置が作動し、白煙を上げながら減速、コースの中心でエンジンが停止した。遊矢は反転し、牛尾の近くでDホイールを止める。二人は同時にヘルメットを脱ぎ、息を吐いた。

 

「かぁー! チクショウ! まさか負けちまうとはな」

「ありがとうございました。……オレ、逮捕されませんよね?」

 

 遊矢が不安そうに尋ねると、牛尾は豪快に笑って遊矢の背を叩いた。

 

「勝者を逮捕する権限なんざ俺にはねぇ! 勿論もう追いかけたりもしねぇよ。これも”決闘者の仁義”ってやつだ」

「よかった……」

「ただし! 犯罪を見つけたら容赦なく逮捕すっからな! 覚悟しておけよ!」

「ええ~!? しないよそんなこと!」

 

 二人で暫く笑い合った後、牛尾は改まって遊矢の前に立ち、懐から取り出した何かを遊矢に差し出す。

 

「こいつは俺に勝ったご褒美……まあお前のエンタメへのおひねりってやつだな。楽しかったぜ」

「これは?」

 

 見るとどうやらカードパックのようだ。表面には”リンクモンスターパック”と書かれている。

 

「それにはリンクモンスターが入ってる。これでちょっとはお前の”ペンデュラム”も動かしやすくなるんじゃねぇか?」

「リンクモンスター!? へぇー! これがオレのリンクモンスター……」

 

 遊矢はさっそくパックを開封し、未知なる世界のモンスターに対して目を輝かせる。

 

「……こうしてみると、本当にただの坊主にしか見えないんだがな? 何モンだ?」

「榊 遊矢! 今日プロ決闘者になったばかりの若輩者ですが、どうか応援をよろしくお願いいたします!」

 

 遊矢はカードを仕舞うと、紳士の様に牛尾へと礼をする。

 

「おう、お前の活躍楽しみにしてるぜ。……それじゃ、とっとと行くことだ。俺以外のセキュリティもうろうろしてっからな。また追いかけまわされるぞ」

「いい!? 解った! ありがとう牛尾さん!」

 

 そう言って遊矢はDホイールに跨り、廃墟の中を駆け抜けて消えていった。牛尾はそれを見送りながら無線機を取り出す。

 

「任務完了。これで役目を終える」

 

 そう言った瞬間、牛尾の姿は消えていた。

 再び始まった遊矢の旅。彼を待ち受けるは”人々の笑顔の世界”か、それとも”悪魔が笑う地獄”か――――




遊矢の相手は皆大好き牛尾さんでした。
デッキテーマは”牛尾さんオールスター+デスポリス”です。
といいながらズムウォルト忘れてた(汗)


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