アクセル・ワールド・アナザー 無法者のヴォカリーズ   作:クリアウォーター

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第十二話

 第十二話 アウトロー

 

 

「アウトロー……?」

 

 以前大悟は、レギオンには所属していないが、つるんでいる仲間がいると言っていた。つまりはここにいる彼らが──。

 ゴウから向けられた視線の意図を察して、大悟が頷く。

 

「気付いたみたいだな。アウトローとはこのプレイヤーホームの名前であり、ここに集まるバーストリンカー達の暫定的な所属でもある。レギオンじゃないから、システム的にはソロと同じだ。レギオンってのは、四人以上のバーストリンカーが《レギオンマスター・クエスト》をクリアすることで結成される。レギオンに加入するには、レギオンマスターが認証することで、志願者がレギオンへの加入が可能となる。これは前に話したことがあったな? 俺達がそのクエストをやらないでレギオンを結成しない理由はいくつかあるが、要はこの加速世界を自由に、ついでに楽しく生きたいからさ」

「自由?」

「……このプレイヤーホームは、ずっと昔に五人のバーストリンカーがポイントを出し合って手に入れた。俺、コング、メディック、そして今はもういない、二人のバーストリンカーでな」

 

 懐かしむ中に、わずかな悲しみが大悟の声に含まれていたのをゴウは感じ取ったが、黙って話を聞き続ける。

 

「加速世界の東京二十三区は、約六十のエリアで区切られている。そのエリアを巡ってレギオンは《領土戦》を繰り広げているわけだが、そのエリアに分けると、この世田谷第四エリアは二十三区の端、過疎エリアと呼ばれる中立地帯の一つだ。それでも無制限フィールドにはエネミー狩りや、現実で世田谷に住んでいるバーストリンカーがちらほら訪れる。そんな奴らがエネミーに襲われていたところを俺達が助けたり、はたまた偶然出会うことでここに集っていったんだ。もっとも、ここにいる中で世田谷住まいは俺とお前さんしかいないが」

「でも、ここを知っている人がこれだけしかいないんですか? もっといても……」

「いるにはいる。……無制限フィールドじゃ、知らないバーストリンカーと偶然出会うなんてことは、ほぼ起こらないんだ。ただでさえ一秒ダイブする時間がズレただけで、十六分近くも差ができるからな。それに、どこかのレギオンに所属しているバーストリンカーは、こんな僻地にはそう何度も来ない。自分の居場所がある奴が、わざわざ寄り付く必要がないからだ」

「つまり……レギオン未所属のバーストリンカーで、たまたまこの場所を知った人だけが集まっている、ってことですか?」

「その通り」

 

 ゴウと大悟の会話に、テーブルに紙を敷いて、ペンを走らせるメモリーが加わる。現実では紙製品は高価な代物で、今や日常生活の中で見ることはほとんど皆無だ。そういえば、と加速世界で記録媒体の類を見たことがないことにゴウは気付いた。

 

「ここじゃ、リアルを詮索する以外の大概のことは何をやってもいい。他愛のない話をするも良し、個人的にやりたい作業をするも良し……。例えば僕にとってここは、加速世界で集めた情報を記録する作業場でもあるんだ──こんな風に」

 

 メモリーがそう言うと、眼鏡型のアイレンズから横に伸ばした糸のように細い、赤い光線が放たれ、テーブルに置かれた紙に当たると、上部から下部へとスキャンするように移動していく。

 すると、光線が通過した箇所から、紙に書かれた文字が消えていくではないか。光が紙を完全に通り過ぎると、紙は何も書かれていない、まっさらな白紙へと戻っていた。

 

「こうすることで僕は書き記した出来事を記録しているんだ。対戦の分析とかにも使えるけど、それはまた機会があったら見せるよ」

「要するに、だ」

 

 再び大悟が説明を続ける。

 

「このアウトローは、六大レギオン達にも干渉されないこの場所で、加速世界を自由に楽しむ、言わば《サークル》ってとこだな。オーガー、俺は何も、お前さんをここの仲間にする為に連れてきたわけじゃない。だが、知ってほしかったんだ。この──」

「「ええー!!」」

 

 大悟の台詞をコングとメディックが大声で遮った。

 

「仲間に入らないか、でいいじゃない。ボンズちゃんてば、まーわーりーくーどーいー」

「そうだぜ! どっかのレギオンに入っちゃいないんだろ?」

 

 うんうん、と残りの面々もメディック達の意見に首肯すると、大悟は眉をひそめながら、頭巾を被った頭をガリガリと掻いた。

 

「えぇい、お前らはそう言うと思ったよ。だが、この子の意思が重要なんだ。無理に入らせてもしょうがないだろうが──あぁもう、分かったよ! 分かったってば。ったく……」

 

 ブーイングを黙らせた大悟が、咳払いをしてゴウに訊ねる。

 

「ダイヤモンド・オーガー。お前さんは、このアウトローメンバーの一人になりたいか?」

 

 大悟の声は以前、ブレイン・バーストをインストールするか確認した時と同様の、真剣な口調でゴウに問う。

 だが、ゴウの答えは確認されるまでもなく、すでに決まっていた。

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 軽く頭を下げてゴウは即座に同意した。反対する理由は何もない。ゴウにとって、加速世界を過ごすのに仲間の存在は密かな憧れだったのだ。師である大悟に不満があるわけではないが、多くの仲間との共闘もまた、ゲームの醍醐味の一つだろう。その中でまた一つ成長することができるはずだとゴウには確信があった。

 ゴウの答えを聞いた一同からは、やんやと歓声が上がり、何故かゴウは胴上げまでされてしまう。胴上げをされて目を白黒させていると、大悟が満更でもなさそうに軽く溜め息を吐きながら、こちらを眺めているのが見えた。

 

 

 

 ゴウの初めての無制限中立フィールドダイブから、およそ三時間近く経過した。

 アウトローの面々からの質問攻めが一旦落ち着き、渡された飲み物でゴウは喉を潤す。派手な色合いの割に、スポーツドリンクに近い味がした。

 本来、デュエルアバターに生理的欲求は無視できるものなのだが、それでもしゃべり通しでは喉の渇きを感じてしまう。これもショップで買ったものなのかな、とゴウは漠然と考えていると、大悟が椅子から立ち上がった。

 

「さて、そろそろ行こうか」

 

 他のメンバーも「うーす」や「はーい」と返事をしながら、ホームの出入り口へと向かっていく。ゴウも皆の後を追いながら、たまたま隣にいたキューブに訊ねた。

 

「どこかに行くんですか?」

「うん、エネミー狩りに行くんだー。基本的にここへダイブして消費した十ポイント分は稼ぐのが定番になってるんだよー。あんま人数がいないとやらないときもあるけど」

 

 ゴウの脳裏にほんの数時間前の記憶が甦る。

 トカゲエネミーの太く強靭な尾。腕の装甲に残る傷跡。ようやく手に入れた雀の涙程度のポイント。

 硬直するゴウを見て、キューブが垂れ目がちなアイレンズで心配そうに覗き込む。

 

「オーガー? オ~ガ~~? ボンズー、ちょっとー。オーガーが動かないんだけどー」

「どうした? ──んん? あぁ、さっきエネミーと初めて戦ったからな。オーガー、しっかりしろ。大丈夫だ、この全員でかかればさっきみたいに大変じゃない」

 

 ぺしぺしと頬を軽く叩く大悟の呼びかけに現実に引き戻され、はっとして周りを見るゴウ。言われてみればハイランカーを含むこの八人でかかれば、そう苦労はしないだろう。

 ゴウは自分でも頬を叩いてから意識を切り替え、皆に付いていった。

 アウトローを出た後、乾いたあぜ道を特に隊列を作るわけでもなく、一同は三々五々に進んでいく。

 そんな中でゴウは、メディックからエネミーについて解説を受けていた。

 

「エネミーは大まかに四段階に分かれていてね。一番弱いのが小獣(レッサー)級、オーガーちゃんがホームに来る前に戦ったってヤツね。弱いって言っても、ホントはレベル4がソロで戦うなんて無茶なのよ」

「あー……師匠がレベル7のバーストリンカー並だって言ってました。僕がエネミーにファーストアタック食らわせた後に」

「ホントにボンズちゃんはもう……。まぁ今はいいわ、次に《野獣(ワイルド)級》。一般的なエネミー狩りって言ったら、このタイプが該当するわね。ただ小獣(レッサー)級もそうだけど、群れを作っていることがあるの。一体に夢中になって戦っていたら、他の個体に囲まれていたなんてことも有り得るのよ。大きさは平均で五メートルくらいかしら」

 

 あのトカゲ型エネミー以上の大きさが、群れを成して襲ってくるなど考えたくもないゴウだが、いつか遭遇するのかもしれないのだと、どうにか腹を括る。

 

「三番目が《巨獣(ビースト)級》で三、四階建てのビルくらい大きいの。大体二十人のパーティーを組んで戦うのが妥当で、あんまり大きいから幹線道路とか開けた場所で見かけることが多いわね。その上が《神獣(レジェンド)級》。このクラスまでいくと偶然遭遇した、なんてことはまずないわ。ダンジョンの最深部のボスだったり、有名なランドマークを縄張りにしていたりするのがほとんど。中にはダンジョンのギミックで弱体化とか、特定の弱点を持っていたりとかで、強さに割と幅があるけど、ほとんどは数十人規模のパーティーが何度か全滅するのを覚悟して、何とか倒せるかどうかっていう怪物達よ」

 

『神獣』の単語にゴウは以前、大悟が純色の六王について話してくれた時のことをふと思い出した。

 

「……確か青の王《ブルー・ナイト》の通り名の一つに《神獣殺し(レジェンド・スレイヤー)》があったような……」

「あら、知っているのね? 彼がソロで神獣(レジェンド)級を倒したことからそう呼ばれているの。他に神獣(レジェンド)級をソロで倒したってバーストリンカーは聞いたことないわねぇ」

 

 確かに何人も他に同じことができる者がいれば、そんな大仰な通り名で呼ばれることはないだろう。未だ直接目にしたことのない、王に対する畏怖の念がさらに強まる中、後ろからメモリーがひょっこりと顔を出す。

 

「そんな神獣(レジェンド)級エネミーが、相手にならない最高位のエネミーも存在する」

「えっ? 今メディックさんがエネミーは四段階に分かれるって……」

「大まかに、ね。ていうかメモリーちゃん、何もこれからエネミー狩りって時に《超級》の話までしなくてもいいじゃない。最初の無制限フィールドのダイブで、あんまり怖がらせちゃ可哀想じゃないの」

 

 どうやらメディックは自分を気遣って超級エネミーなるものの存在を伏せてくれていたらしい。しかし、加速世界についてより深く知りたいと思うのは、ゴウでなくてもバーストリンカーだったら当然だろう。

 

「大丈夫です、メディックさん。メモリーさん、その超級エネミーって?」

「うん。超級エネミーは《帝城》と呼ばれるダンジョン、現実では千代田区の《皇居》に当たる場所で、そこに繋がる四方向の門を守護する《四神》とも呼ばれている存在達のことだ」

「帝城……四神……」

 

 ゴウは加速世界では元より、現実でも皇居を直接見たことはない。まさか現実における重要な場所が同じく加速世界でも、神と呼ばれる存在に守護される高難易度ダンジョンだとは夢にも思っていなかった。同時に国の重要機関の一角にも、加速世界がソーシャルカメラによって再現されているという事実に戦慄する。

 このゲームが一体どういう目的で作られたのか俄然気になるゴウだったが、今はメモリーの説明に集中する。

 

「この四神達は加速世界誕生以来、一度も倒されたことがないらしい。過去に数多のバーストリンカー達が、神獣(レジェンド)級エネミーのように大人数でパーティーを組んでもついに倒せなかった。まさに《神》だよ。一体だけを相手にしても、正面突破じゃ王全員が束になっても勝てないだろうな」

「王が……!? じゃ、じゃあそんなの誰にも倒せないじゃないですか。ゲームってどんなに難しくてもクリアできるものじゃないんですか?」

「オーガーちゃんの意見はもっともよ。ほとんどのバーストリンカーもそう思うはずでしょう。でもその答えはブレイン・バーストの『開発者』に会って聞くしかないわね」

 

 理不尽なゲーム難易度に不満を漏らすゴウに対し、メディックからの返答は驚くべきものだった。ゴウは今までブレイン・バーストの運営に関係するものに遭遇したことはない。

 一体どうすればコンタクトが取れるのか気になって、前のめりになるゴウに対してメモリーが苦笑気味に答える。

 

「その条件は『レベル10になること』──らしい。噂レベルの話だから、あんまり期待しないほうがいいよ」

「そう……ですか……」

 

 ゴウの膨らんだ期待が急激に萎む。結局何も分からず終いで落胆していると、一行の先頭を歩いていた大悟が全員に呼びかけた。

 

「見つけた。幹線道路に巨獣(ビースト)級エネミー発見。全員、戦闘準備ぃ」

 

 それを合図に緩んでいた空気が、何となく張り詰めた。今まで話していたメディックとメモリーの雰囲気も、若干引き締まったものへと変わる。

《荒野》ステージでは現実のビル群が岸壁となっている。そんな岸壁の陰から、かなり離れたここからでも巨大であることが分かる、何かがゴウにも見えた。

 無数の大岩が集まってできた四足獣のような姿だ。牛とも犬ともつかない長い口吻部のついた頭部。柱のように太い四肢の先には、尖った爪の形をした岩が三つ付いている。肢よりもいくらか細い、地面に付きそうな長い尾を揺らしながら、エネミーは悠然と歩いていた。

 

「よし、じゃあ前衛は俺、コング、キューブ。後衛はキルン、メモリー、リキュール、メディック。気ぃ引き締めていくぞー」

 

 おおー、と返す一同。いきなり野獣(ワイルド)級をすっ飛ばして巨獣(ビースト)級エネミーとの戦闘になることも予想外だったが、自分の名前が呼ばれなかったゴウは、おそるおそる大悟に質問する。

 

「あのー、師匠? その、僕の役割は……」

「うん? おぉ、もちろん忘れていないぞ。初めての集団戦闘だからな。きちんと指示を出す」

「あぁ、よかった。それでは初めに何をしたらいいんですか?」

「おう。まずは──死ね」

 

 ゴウは頭の中が真っ白になった。

 

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