アクセル・ワールド・アナザー 無法者のヴォカリーズ   作:クリアウォーター

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災禍の鎧篇
第十四話


 第十四話 ミステリアス師匠

 

 

 夏の後の過ごしやすい秋はすぐに終わり、寒い冬になったかと思えば、あっという間に新年、西暦二〇四七年を迎えていた。

 振り返る度に年々一年が過ぎるのを早く感じてしまうゴウとしては、十三歳の現在でこれでは、二十歳になる頃には、赤系のレーザー攻撃のように一年があっという間に過ぎてしまうのではないかと冗談交じりに考えてしまう。

 ただし、思考が千倍に加速しているブレイン・バースト中はそんなことは微塵も考えない。たとえ自分が戦っていなかったとしても。

 現在ゴウは、特定のデュエルアバターを登録することでそのアバターの対戦を観戦することができる《自動観戦予約》によって、自動的に加速した観戦者、つまりギャラリーとなっていた。

 ギャラリーになれるのは、対戦開始場所のエリアが自分の現実にいる位置に含まれている場合に限られ、もちろん自分は戦えないものの、他のバーストリンカー達の戦いを見るのは楽しいし、勉強になるものだ。

 今回のステージは《原始林》。植物群が生い茂るジャングルで、視界は木々によってかなり悪く、大小多くの動物型オブジェクトが徘徊する、いろんな意味で退屈しないステージだ。

 戦況としては小柄で身軽な緑系のアバターを、大柄な赤系アバターがごついマシンガン片手に追いかけるという構図になっていた。現在、緑系アバターの方が体力は多く残っていて、このまま制限時間まで逃げ切ろうという魂胆らしい。

 片や赤系アバターはそれを許すまいと、時折銃撃を逃げるアバターに浴びせながら追跡するも、植物達が障害となって中々当たらない。すでに対戦時間は終了まで数分を切っていた。

 

「これは勝負が見えたかもね」

 

 対戦を見守るゴウの隣にと同じくギャラリーである、アバターの一人が並んだ。夜空の月のような白い装甲にほっそりとした体つき。狐のデザインをした頭部を持つアバターは、ゴウのよく知る人物だ。

 

「フォックスさん、こんにちは。それってフロッグが逃げ切るってことですか?」

「そ、これだけ障害物が多いと、銃持ちの方は厳しいでしょ。……それにしてもオーガー、最近リアクション薄くない? ちょっと前までいきなり声かけたらビクッってなってたのに。つまんないの」

「えぇ……? そ、そんなこと言われても……」

 

 ゴウがブレイン・バーストを始めて最初に対戦したムーン・フォックスは、現在のレベルはゴウと同じ4。今でも週に一度はほぼ対戦しては、勝ったり負けたりを繰り返している、ライバルの一人と言っても過言ではない存在だ。

 当時はF型、つまり女性とは知らず(そもそもそんなことを考えている余裕がなかった)、完敗のデビュー戦の翌日にこちらから乱入した再戦時には、散々地面に叩き付けた挙句、必殺技の正拳突きで顔面を殴り飛ばして勝利するという、男性としてはあまりにいただけない方法で勝利した。

 ところが、負けた当人はちっとも気にしておらず、次回の対戦時にはF型と知り萎縮してしまうゴウは、彼女の尻尾でぶっ飛ばされてしまった。

 これにより活を入れられたゴウは、フォックスがバーストリンカーに男女の差などないと教えてくれたことを密かに感謝している。さすがに気恥ずかしいので、本人には軽く礼を言うだけだったが。

 ちなみにフォックスのメインウェポンでもある尻尾は、戦闘中に三本まで増やせるという、対戦相手としては全くありがたくない成長を遂げていた。

 そんなフォックスは対戦時以外では、比較的気さくで人当たりが良いので、ギャラリーで会うと、このように度々ゴウに声をかけてくれている。

 

「冗談だよ。まぁ、《親》があのアイオライト・ボンズなら嫌でも度胸が付くか」

「あははは……」

 

 フォックスに対して曖昧に笑うゴウ。

 実はレベル4になるまでゴウは、対戦終わりなどに聞いたこともない中小レギオンから、果ては六大レギオンの一角に至るまで、何度かスカウトを受けたことがある。さすがにその場で即決はせずに大悟に相談すると、「レベル4になるまではとりあえず無所属でいてくれ」と言われ、返事を保留していた。

 当時は大悟の真意は分からなかったが、レベル4になって無制限中立フィールドに存在するプレイヤーホーム《アウトロー》に連れて行かれたことで、その疑問は晴れた。

 アウトローは厳密にはレギオンではないただの集まり、サークルのような存在なのだが、それでもゴウは居心地の良いあの場所以外に腰を落ち着けようとは思わなかった。訪れた当日から巨大なエネミーとの戦闘、祝杯と称しての宴会、個性的なメンバー達、それら全てに戸惑いながらも楽しいと心の底から思えたからだ。それ以来ゴウは週に一度の集まりにも、ほとんど欠かさずに出席している。

 それ以降、レギオンの勧誘もすっぱり断ったのだが、それでも食い下がる者は何人かいた。困ったゴウははっと閃き、「どうしてもと言うなら自分の《親》に相談してほしい」と言って大悟の名前を出すと、それ以降ぱったりと勧誘は来なくなった。

 以前に聞いたように、どうもミドルレベル以上のバーストリンカーのほとんどは、アイオライト・ボンズの存在を知っており、その上かなり恐れているようだった。

 ──《荒法師》って呼ばれてんだっけ。今度アウトローの皆にその理由を聞いてみよう。……本人がいないときに。

 

「ところでオーガーは杉並には行かないの? 世田谷辺りに住んでいたら気になるでしょ。《ネガ・ネビュラス》のこと」

「んー、まぁ興味がないわけじゃないんですけど、今のところ特別気になったりは……」

 

 約三ヶ月前、加速世界に激震が走った。かつて《純色の七王》の一人として数えられていた《黒の王》が約二年の時を経て、再び表舞台に舞い戻ってきたのだ。

 ゴウ自身はそれがどれだけ凄いことなのかほとんど分からなかったが、他のアウトローの面々は、それぞれがかなりの驚きを見せていた。聞くと、約二年前に黒の王は、ほぼ同時期にレベル9となった他の王達が停戦協定である、相互不可侵条約を提案する中で唯一人、異を唱えていたらしい。

 何故そんな論争が起きたかというと、レベル10に至るには同レベルのバーストリンカー、つまりはレベル9の王であるバーストリンカーを五人倒す必要があるからだ。しかも、レベル9同士の対戦は負けた方がポイント全損をするという、強制的なサドンデス・マッチになってしまう特殊ルールが存在しているのだという。

 そして、王同士の会合の最中、黒の王は停戦を強く唱える《赤の王》を討ち取り、他の王達との戦闘の末に逃亡。それ以来、加速世界最大の賞金首として、多額のポイントがその首に懸けられ続けていた。

 会合での謀反以降、黒の王の名はどのエリアのマッチングリストにも一度として表示されず、一部ではすでにポイント全損したという噂まで流れていたという。そんな中での復活は一般のバーストリンカーはもちろん、六大レギオンをさぞ驚愕させただろう。

 だが、黒の王が再び姿を見せたことだけが驚きの原因ではなかった。黒の王は自身の《子》を作っていたのだ。

 その名は《シルバー・クロウ》。加速世界始まって以来初の《飛行》アビリティ持ち、翼を持つデュエルアバター。

 こうして黒のレギオンは再び動き出しはしたものの、現在所属メンバーが三人ということもあってか、三ヶ月経った現在でも領土は杉並に留まっている。

 それでも六大レギオン改め、七大レギオンの残り六つは、黒のレギオンの動向一つを取っても気が気じゃないのだろうと、ゴウは漠然と思っていた。

 そんなゴウの返答に、フォックスは対戦を眺めつつ、ふーんと返す。

 

「そんなものなのかな。まぁ、シルバー・クロウも最近は攻略され始めて、最初よりも勢いは落ち始めたらしいけどね」

「やっぱり、誰でも一度は壁にぶつかるんじゃないですか? 僕もそうだったし……」

 

 最初は《飛行》によるアドバンテージで凄まじい勢いで成長していたシルバー・クロウも、以前のゴウと同様に攻略法が見つかり始め、現在のレベルで足踏みしているようだった。

 かつて遠距離攻撃と強力な打撃攻撃に苦しんでいたゴウも、現在では少なくとも一方的な負けはなくなり、勝率も増えてきた。彼も自分の壁を乗り越えて、いや飛び越えていくのだろうか、とギャラリーで数回だけ見たことのある、空を舞う鴉について考えていると、フォックスが呟いた。

 

「あ、時間だ。やっぱり逃げ切ったか。じゃ、またね」

「え? あ、ああ、じゃあ、ま──」

 

 ゴウがフォックスへ別れの挨拶を言い終える前に、長い鬼ごっこを逃げ通した緑アバターの判定勝ちによって対戦フィールドが消滅した。

 

 

 

「ボンズについてぇ?」

「はい。教えてくれませんか?」

 

 無制限中立フィールド、世田谷エリアに佇む一軒の平屋型プレイヤーホーム、アウトローは数人のバーストリンカー達の集会所として存在している。

 数日前のフォックスとの会話で大悟について気になったゴウは、珍しく大悟だけがまだ来ていないのを良い機会と思い、ホームに備え付けられたカウンターバーでフォレスト・ゴリラことコングに質問をした。

 

「そんなん《子》のお前が聞けば答えてくれんじゃねえの?」

「いや、師匠って全然自分のこと話してくれないんですよ。聞いてもはぐらかしてばかりだし」

 

 深皿に盛られた豆のようなものをポリポリ食べているコングに、ゴウは頭を掻きながら説明する。

 大悟はゴウと出会う前について殆ど教えてくれないのだ。分かっているのはレベル8のハイランカーで接近戦の達人であること。このプレイヤーホームを当時の仲間と購入したこと。《荒法師》の二つ名で知られ、かつてはかなり暴れていたらしいということくらいだった。

 現実では同じ中学校に通う中学三年生で(風貌はそれ以上の年齢に見えるが)、偶然とはいえ妹の蓮美と去年の夏休みに出会い、自宅の場所まで知ってはいるが、それ以上のプロフィールはゴウには分からない。ちなみに夏休みに成り行きで入った大悟の部屋は殺風景とまでは言わないが、趣味に関わりそうな物も特に見られなかった。

 

「師匠の名前を出したら、レギオンの勧誘もぱったりなくなるし──いや別にそこに入りたかったわけじゃないんですけど……あの人って昔、何をしたんですか?」

「そういうことなら、ちょっとだけ教えちゃおうかな、ボンズちゃんのこと」

 

 バーカウンターから、ぬっと顔を出したエッグ・メディックがそう言うと、他のメンバーもどうしたどうしたとぞろぞろ集まってきて、椅子やらソファーやらを動かしてゴウの周りに座り始める。

 

「ボンズちゃんはね、今でこそ結構落ち着いているけど、初めて出会った頃はもう血気盛んって言うのかな、ガンガン対戦していたのよ。相手との相性なんて関係なくね。負けることも多かったけど、それでも戦う内に成長していって、レベルも上がって有名になっていったの」

「誰彼構わず対戦申し込んでは暴れ回る僧兵アバター、だから《荒法師》。俺との出会いも対戦がきっかけだったなぁ」

 

 メディックの説明に、コングが懐かしそうに頷いた。

 やはり大悟は戦いの中で成長していき、二つ名が付くほど有名になったようだ。

 それからメディックは声のトーンを落とし、少し悲しげに話を続けた。

 

「そんなボンズちゃんには常に行動を共にしていたバーストリンカーが二人いたの。二人共このホームをあたし達と一緒に買った大切な仲間……」

 

 以前大悟はコング、メディック、その他二人の仲間と一緒にアウトローと名付けた、このプレイヤーホームを購入したと言っていた。今はもういない、とも。

 気にはなるが、沈んだ口調のメディックを見るにさすがにずけずけと聞いてはいけないことだと察し、ゴウは自重して黙って話を聞いていた。

 今度はコングが説明を引き継ぐ。

 

「その二人が去って、ボンズはここに来なくなった。その間、二十三区中で対戦したり、無制限フィールドを巡っているって噂を聞いた。欠けた何かを埋めようと、以前より苛烈に戦っていると。そこで付いた二つ名が──」

「《暴虐の僧兵(タイラント・モンク)》だな」

 

 椅子に座って腕を組んでいた小柄なアバター、クレイ・キルンが口を開いた。

 

「ワシがここに加入する前にゃ、あいつは一部でそう呼ばれてた。当時の《純粋色(ピュア・カラーズ)》、現在の王の一人に挑もうと、それを邪魔しようとする取り巻き連中も巻き込んで、連続で十人と対戦をしたって聞くぜ。直接は見てねえけどな」

「じゅ──」

「十人!? そんな《連続対戦》した人なんて聞いたことないですよ!」

 

 ゴウよりも先にワイン・リキュールが驚きのあまり大声を出すが、それも無理からぬことだった。

 通常対戦は勝者が加速停止をするか、三十分の制限時間を終えることで対戦ステージは消滅するのだが、勝者が望むなら対戦終了後にギャラリーに対戦を申し込んで、その相手の同意を得られさえすれば、連続で戦える仕様がある。これが連続対戦。

 体力と制限時間は戻り、ステージも変更されるが、それでも一回対戦してから間を空けずに再度対戦をするのは想像以上に難しい。

 ゴウも駆け出しの頃に一度だけやったが、二回戦目は一回戦目の精神的疲労からか、動きに精彩を欠き、結局負けてしまった。

 ましてやその数が十人ともなれば、当時の大悟のレベルも、その対戦相手のレベルも知らないゴウでも、その凄さだけは充分に理解できた。

 

「やっぱ、ボンズって凄いんだねぇー。でも俺は二年前の件で有名になったと思ってたんだけど」

 

 のんびりした口調で感想を漏らすアイス・キューブに対し、インク・メモリーが補足を始める。

 

「まぁ、《十人切り》は直接見た人が少ないし、かなり昔の話だからね。与太話と思われても不思議じゃない。今のミドルランカーじゃ二年前にボンズのことを知った、って奴がほとんどだろうな」

「その『二年前』って何があったんですか?」

 

 またまた新たな情報が出てきて、ゴウはメモリーに訊ねた。

 

「約二年半前に黒の王が赤の王を全損に追い込んだのは知っているだろう? それによって赤のレギオン《プロミネンス》は恐慌状態に陥った。なにせ、いきなりトップが退場してしまったんだからね。そんなプロミネンスの領土を他のレギオン達が狙うのは当然。マスター喪失で意思がバラバラのプロミネンスはメンバーが抜けるは、領土戦では敗北が続くはで、結果的に領土もメンバーも半減して、このまま大レギオンの一つが崩壊するのかと思っていたんだけどね」

「その前に二代目赤の王が混乱を収めたんですよね。でも、それと師匠に何の関係が……?」

 

 中野や練馬を領土としている赤のレギオンと、世田谷を拠点にしている大悟との関係が想像できないゴウに、メモリーがピッと人差し指を立てた。

 

「ここからが本題。そんな戦乱の中にボンズは自ら飛び込んで、赤のレギオンを狙う連中と戦っていったんだよ。一時的にプロミネンスに加入してまで。それから戦況が落ち着き始めたら、レギオンマスターから《断罪》を食らわないように一ヶ月の雲隠れを経て、ここに戻って来たんだ」

 

 断罪とは、レギオンマスターが所属するバーストリンカーにのみ行使できる、《断罪の一撃(ジャッジメント・ブロー)》という名の特別な必殺技を指していて、ほぼゼロ距離でないと当てられないが、当たれば相手を一撃でポイント全損の永久退場にするという凄まじい特権だった。レギオン所属中から脱退後の一ヶ月間まで行使可能なそれを逃れるのに、大悟が逃げ回っていたというのはゴウにも分かる。だが──。

 

「でも、どうしてそんな全損のリスクを背負ってまで、師匠はプロミネンスを助けようとしたんですか? 師匠は今の停戦状態を良く思っていないみたいなのに、それを肯定していた人のレギオンを建て直そうとしたのがよく分からないんですけど──」

「それはそれ、これはこれだ」

 

 扉が開くと同時に入口からした声に、全員が振り向いた。立っていたのは、話の中心であるアイオライト・ボンズ、大悟だった。腕を組んで憮然とした様子で、こちらに向かって歩き始める。

 

「ったく、ちょっと遅れて来たら何か盛り上がってるし、何を話してるかと思えば俺のことだし、黙って様子見てたら人の身の上ペラペラ喋りまくるし、どういう了見だ」

 

 不満を漏らしながら近くの椅子を引っ掴んで座り込む大悟は、背もたれに寄りかかってフーッ、と大きく息を吐いた。

 ゴウはそんなあからさまに機嫌の悪そうな大悟におそるおそる話しかける。

 

「えぇっと、師匠? せっかくだから教えてくれませんか? 何で当時の赤のレギオンに手を貸したのかを」

「うん、僕も気になるな」

「そうそう、良い機会だしよー、俺らにも聞かせてくれよ」

 

 メモリーとコングもここぞとばかりにゴウの味方をする。他のメンバーも知らない秘密を果たして答えるのかと身構えるゴウに対して、しばらくして大悟がようやく口を開いた。

 

「…………まぁ、言ったところで減るものでも困るものでもないが……。──個人で付き合う分にはともかく、組織が絡むと面倒なしがらみができる」

 

 ふんぞり返っていた状態から座り直した大悟が、いかにも気が乗らなさそうに話し始めた。

 

「初代赤の王《レッドライダー》とは古くからの知り合いの一人でな。昔はよく対戦したもんだ。確かにあいつの肯定する停戦協定に関しては気に入らなかったが、それでも戦友の大切にしていたレギオンがあっさりと消えていくのはあまりに忍びなかった。そこで俺は、崩れかけのレギオンを建て直す手助けでもしようと、分裂したプロミネンスの一団に加わって戦っていた、ってわけだな」

「水くせえなぁ。そんなんだったら俺らだって力を貸したってのによ」

 

 文句を言うコングに対し、大悟は首を横に振った。

 

「領土戦をするにはレギオンに一時的にでも加入する必要があった。もちろんずっと籍を置く気なんざさらさらなかったし、一番酷かった混乱状態が落ち着くと他の奴らも戦いの中で勝率を安定させていったから、さっさと抜けたんだ。プロミネンスの全員が俺の加入に納得していたわけじゃなかったし、さすがに全損は勘弁だったから、戦況が完全に落ち着く前に抜けた方が良いと思ってな。それにお前さん達まで巻き込んで、同じように抜けようとした誰かが万が一にも断罪された日にゃ、俺は手を貸したプロミネンスを、今度は潰す為に動かなきゃいけなくなる」

 

 最後にさらっと恐ろしいこと言いながら、大悟は話を締めくくったが、話を聞き終えたゴウは大悟の行いに鳥肌が立つほどに感動していた。友の大事にしていた場所を、危険を冒してまで守る。これを漢と言わず何と言うのか。

 

「凄く良い話じゃないですか! 何で他の皆にまで言わなかったんですか? 全然後ろめたいことでもないのに」

「あのなぁオーガー、後ろめたかろうがなかろうが、俺は言いたくなかったの! 自慢話みたいになるだろが。大体、動機の半分は派手に暴れられる良い機会だったからであってだな……」

 

 喚き散らして顔を背ける大悟。そんな意外な一面が可笑しくて、ついゴウは笑ってしまう。

《親》である大悟をまだまだ知らないゴウだが、こうして少しずつ知っていけばいいのだ。以前のようにいきなり深く踏み入ろうとしなくても、きっと時を経て分かることも増えていくのだから。

 

「さぁ、さっさとエネミー狩りに行くぞ。──お前らもいつまでニヤニヤしてんだ! 張り倒すぞ……ったく……」

 

 くるりと背を向け、足早にホームを出る大悟。彼の取り乱す姿が珍しいのか、面白そうににやけていた他のメンバーも、あまりからかうと後が怖いと思ったようで、続々と外に向かっていく。

 ゴウもそんな皆の背中を追って、エネミー狩りへと繰り出していった。

 


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