アクセル・ワールド・アナザー 無法者のヴォカリーズ   作:クリアウォーター

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第二十八話

 第二十八話 修行開始

 

 

 大悟の部屋で目を開けたゴウは、真正面にいる有線ケーブルで繋がった大悟と目が合った。今まで他人に明かしたことない過去まで話した手前、なんとなく気まずくなって目を逸らす。

 一方の大悟はケーブルを引き抜いて立ち上がり、先程ケーブルを取り出した時のように、机の引き出しを開けると、何かを探し始めた。目当ての物はすぐに見つかったらしく、片手に何かを持ちながらゴウの正面に座り直す。

 

「これ、見てみ」

「これは……写真? なんだか……」

「ニューロリンカーじゃなくて古いデジタルカメラで撮ったものだからな、画質の粗さはしょうがない」

 

 大悟がゴウに見せた物は写真スタンドだった。写真は現在の撮影機器に比べると画質は悪いものの、ピントはしっかり合っているので、見るのに支障はない。

 写真には瓜二つの容姿をした細身の男の子が二人、笑顔で並んでいる姿が撮られていた。同じおかっぱの髪型に、シャツの色以外は同じ服装。一目見ただけのゴウでも双子だと分かる。

 

「この子達は……大悟さんの親戚ですか?」

「親戚っていうか右側に写っているのは俺だぞ。六歳の時だ」

「あぁ、それもそうですよね。自分の部屋にあるんだし……ってはぁ!?」

 

 今年一番の衝撃を受けたゴウは光の速さで首を動かして、写真の中で愛嬌のある可愛らしい笑みを浮かべる男の子と、成人男性と言っても通じる長身強面(こわもて)(ゴウ主観)の目の前に座る大悟を見比べる。

 ──コレがアレに!? 似てない!! 共通点が男ってとこぐらいしか──いや、言われて見比べると目の形が似てるような……? 

 強いて言うなら、切れ長で吊り目の方は大悟に似ていなくもない、と失礼なことを考えつつもゴウは無理やり納得した。

 そうして写真の大悟と見比べると、隣にいるそっくりの男の子は、垂れ目気味の柔和そうな目付きをしているようにも見えた。大悟に兄弟は妹の蓮美しかいないとばかり思っていたのだが──。

 

「俺の隣にいるのが如月経典(つねのり)。亡くなった双子の弟だ」

「あっ……」

 

 それを聞いて数秒前までのゴウの驚愕は、発生と同じ速度で終息してしまった。同時に一つ納得したこともある。

 蓮美は大悟のことを『大兄ぃ』と呼ぶが、普通は二人兄弟の家庭で名前を付けて呼ぶ必要はないのではないだろうか。例えば二人以上兄弟がいて、呼び分ける必要がある場合でもなければ。

 ゴウは何を言えばいいのか分からず、俯くことしかできない。

 

「……俺と弟は産まれた当時、未熟児ってやつでな。成長しても体が弱くて……。九歳の時だった。春になる前、新学期を迎える前に逝っちまったよ……。──どうしていきなりこんな話をしたかって言うとな……」

 

 大悟は一度深呼吸してから話を続ける。

 

「全てとはもちろん言わないが、俺も身内を亡くした身だから少しはお前さんの気持ちを理解できるつもりだ。弟に言い遺した言葉は十や二十じゃきかない」

「…………」

「これは少し冷たい考え方かもしれないだろうが、俺は死んだ人間に対して生きている人間ができることなんて、ほぼ無いと思っている」

「……だから後悔なんて抱えていても仕方ないと、そう言いたいんですか?」

「違う。どんなに後悔していても、それでも人は前を向いて生きなきゃいけないってことだ。立ち止まったところで何の、誰の為にもなりはしない」

「だったらどうしたら良いんですか!!」

 

 ゴウは思わず声を荒げ、大悟に向かって怒鳴り付けた。

 そんなゴウを、大悟は慌てる様子もなく冷静に見つめている。

 

「忘れることなんて、できるわけがないじゃないですか。死んだ人間に対して気に病んでもしょうがないなんて、思えるわけがないじゃないですか。だから僕は……」

「誰がそんなこと言ったよ。いいか、落ち着いて聞けよ? つまりお前さんは昔の出来事を経て今の価値観と矜持を持つに至った。だが今回それを守れなかった。ならずっと俯いているのか? 違うだろ!!」

 

 今度は大悟の方が声を荒げて、更には立ち上がる。初めて見る、ここまで感情的な大悟の姿に、ゴウは驚いた。

 

「たとえ他人に理解されない考えでも、今までのお前さんを形成してきた要素であることは揺るがない。手放せないのなら、今度こそはその矜持を守る為に成長するしかない。違うか? 破れかぶれの暴走に頼ってどうするよ?」

「で、でも、僕だけじゃそんなこと……」

「だから俺がいる! アウトローの奴らだっている! 御堂ゴウ、お前さんはまだまだ強くなれると俺達が保証する。ブレイン・バーストに限った話じゃない。人間としてもだ。……俺達だけじゃ、足りないか?」

「!!」

 

 大悟の目は真っ直ぐにゴウの目を見据え、言葉がその場凌ぎで言っているわけではないことが伝わってくる。伝わってきてしまう。

 ──あぁ、そうか。僕はきっと……。

 ゴウはもう、込み上げてくる熱いものを抑えることはできなかった。

 ――ずっと前から誰かにこう言ってほしくて……。

 顔を片手で覆って俯くと、立ち上がっていた大悟が部屋の入口に足を進める。

 

「……少し腹の具合が悪くてな。十分もしたら戻るだろうから、悪いが少し待っていてくれ」

「はい…………。ありがとう……ございます……」

 

 大悟の気遣いに、ゴウはそんな礼の言葉を搾り出すのが精一杯だった。

 結局大悟が戻ってきたのは、それから十五分後。

 嗚咽が完全に収まったのがおよそ二分前だったので、ゴウとしてはありがたかった(おそらくはまだ目は赤いままなのだろうが)。

 そんなゴウに大悟が唐突に訊ねる。

 

「ゴウ。今日は夜まで時間あるか?」

「え? ええと……一応大丈夫です。門限は夜の九時までですけど……」

「よし、じゃあ親御さんに門限までに帰ると連絡しておきな。今から心意システムの修行に入る」

「い、今から?」

「おう。まずは場所を移す──あ、いきなりごめん。今日ってそっち行っていいかな?」

 

 いきなり話が進み困惑するゴウをよそに、大悟は誰かとボイスコールで連絡を取り始めていた。その口調はやけに砕けている。

 心意システムはアウトローで説明を行うと決まっていたが、急遽予定を変更したのはどういうわけだろうか。

 大悟は話し続けているので、その間にゴウは母親に帰りが遅くなる旨をメールで伝える。度々学校の友達らと夕飯を食べて帰ることはあるので、この時間に伝えていれば問題はないだろう。

 

「じゃあ、今から向かうわ。はーい、後でー。……よし、行くか」

「えっと、どこへ?」

「修行だからな。寺に行く。話は通してあるから大丈夫だ」

 

 ──いや、その発想はおかしいんじゃ……? 

 あまりに大悟が軽い調子で言うので、ゴウは抱いた感想を口に出すか迷ってしまった。

 

 

 

 バスに乗って目的地に向かっている間に、ゴウは大悟に今回の目的地について聞かされていた。大悟の言う『寺』とは、大悟の父親の生家のことらしく、つまり大悟は寺の家系ということになる。

 

 ──『もっとも、後継は俺の伯父が継いでいるんだけどな』

 

 大悟は特に気にしない様子でそう説明した。ちなみに大悟のいとこに当たる伯父の息子が後を継ぐ為に、今年から仏教系の大学に入って勉強中なのだそうだ。

 バスを降りて数分後。目的地の寺へと辿り着いた。

 ゴウは神社には初詣で最低でも年に一度は赴くが、寺に入ったことは人生においてほぼ記憶にない。神社と寺の違いはなんだったか、と敷地内に入っても記憶から掘り起こそうとしていると、大悟に案内されて瓦屋根に木造建築の母屋らしき建物が見えてくる。現在は取り壊されてしまった祖母の家も木造だったので、ゴウは少しだけ郷愁らしき感覚に胸がちくりと痛んだ。

 

「さて、──どうもー!」

 

 大悟が仮想デスクトップを操作し、引き戸の入口を開錠してから大声で挨拶をした。築年数は長そうでも、さすがにセキュリティは電子化しているらしい。

 

「はいはーい、いらっしゃい!」

 

 少し待つと、和風家屋の中から四十代くらいの女性が現れ、人好きそうな笑顔で大悟とゴウを出迎える。その声は、先程ボイスコールで大悟と会話していたものと同じ声だ。

 

「お友達もこんにちは! 大悟の伯母です。今日はゆっくりしていってね」

「ど、どうも、お邪魔します……」

「伯母さん、早速なんだけど……」

「はいコレ、今は使っていないから好きにしていいよ」

 

 ゴウが伯母さんへ会釈をすると、大悟が伯母さんから金属製の小さな鍵を受け取る。

 

「ありがとう。じゃあ、一時間ばかし使わせてもらうから」

「はい、どうぞ。ご飯作っておくから。食べてくでしょ?」

「うん。蓮美にも連絡しといたから、部活帰りにこっちに来ると思う。予定があるなら伯母さんの方に連絡するように伝えてっから。んじゃゴウ、こっちだ」

 

 そう言って大悟はゴウを連れて、本堂に繋がっている建物へと案内した。貰った鍵で入口に掛かっていた古めかしい南京錠を開けると、木製の引き戸が重々しい音を立てる。

 靴を脱いでから入った先は、半分が板張り、半分が畳となっている道場だった。

 

「ここは期間限定で事前予約をした参拝者が修行体験をする場所なんだが、平日は使ってないからたまに俺が使わせてもらってんだ。じゃあ、畳の方に」

 

 大悟に促され畳に座ると、イグサの香りがほのかに感じられる。ここで瞑想でもするのだろうかと考えているゴウは、大悟が正座で向き合ったので、慌てて正座に座り直した。

 

「別にあぐらかいていいぞ、痺れちまうからな。じゃあ上にダイブするか」

「はい! ……えっと、それだけですか?」

「それだけって?」

「いや、だって……ダイブするならわざわざここに来る必要なかったじゃないですか。てっきりこう、精神統一的なのをするのかなーって、その、思ったんですけど……」

「はぁ? そんなわけないだろ、念仏唱えて問題解決できたら苦労しないわ」

 

 仮にも寺の家系として、それはどうなのかという返答をする大悟に、ゴウは肩透かしを食らったように感じた。

 

「まぁ、それっぽいだろ。気分気分」

「えぇ……?」

「それじゃ、いよいよ心意システム修得の為の修行を始める。──だがその前に、だ」

「な、なんです?」

「これから心意を実戦で使えるようにする為に、無制限中立フィールドで一ヶ月間の修行に入る。仮にそれ以上かかるのなら、俺はお前さんには心意システムの修得は不可能と判断する」

「一ヶ月……」

 

 つまり一ヶ月経って心意を覚えることができなければ、『見込みなし』ということだ。この期を逃せば、おそらく心意システムを修得する機会は二度とないだろう。だが、聞かれるまでもなく、ゴウにはとうに覚悟はできている。

 

「分かりました」

「よろしい。時間が勿体ないからレクチャーは向こうでするぞ。んじゃスリーカウント。三、二、一……」

「「《アンリミテッド・バースト》」」

 

 果たして心意システムを修得することができるのか、一体何をするのか。ゴウは不安を抱きつつも、意気込んでコマンドを唱えた。

 

 

 

「────……? うわっ!」

 

 無制限中立フィールドへとダイブした瞬間、足に何かが這い回る感覚が走り、ゴウは思わず声を上げてしまった。

 足に触れたのは気持ち悪いデザインの金属虫。ゴウの声に反応すると、ギチギチと不気味な音を出しながら、そそくさと逃げ出していった。

 周りを見渡すと道場の壁や床には、金属光沢を帯びた棘だの(ひだ)だのが飛び出していて、生物と金属が融合したかのような不気味なデザインに変貌している。有機的なデザインが特徴の暗黒属性のステージ、《煉獄》ステージだ。

 

「はっはっはっ。(しょ)(ぱな)のステージとしちゃ、幸先が悪いな」

 

 金属虫に驚くゴウの姿を見て、アイオライト・ボンズとなった大悟は笑っている。

 

「いきなり足に虫が纏わり付いたら誰でもびっくりしますよ……。ところで初っ端ってどういうことですか?」

「とりあえずは道場を出てから話す。ほれ、こっちだ」

 

 大悟に促されてゴウが道場の外に出ると、黄色や緑に変わる毒々しい空模様が広がり、建物群は道場同様に変貌していた。厳かな雰囲気が広がっていた寺院が、まるで伏魔殿(ふくまでん)のような有様だ。

 二人は現実では石畳と玉砂利で構成されていた、今や浮き出た血管や触手が走る怪物の肌のような地面に立つと、大悟が咳払いをする。

 

「まずは心意システムとは何ぞや、ってとこからだ。長くなるぞ。ブレイン・バーストプログラムにはデュエルアバターを操作する為の補助回路、《イマジネーション回路》が存在しているのは知っているか?」

「イマジネーション……回路?」

 

 早速聞き覚えのない単語が出てきて、クエスチョンマークがゴウの頭を占め始める。

 

「《イメージ制御系》とも言う。まぁ、アウトローのメンバーは基本人型の原型を留めている奴しかいないから想像しにくいか。そうだな……例えばお前さんのライバル達、ムーン・フォックスの尻尾やシトロン・フロッグの伸びる舌なんかは、本来人間の肉体には備わっていないだろ? 尻尾は元より、舌はあっても何メートルも伸びるわけじゃないし」

「あーなるほど、確かに人間としては有り得ないものですよね」

「そういったアバターの機能を十全に使う為の補助装置だと思うといい。それでだ、バーストリンカーの強い意識、己のイメージがこのイマジネーション回路を通して《事象の上書き(オーバーライド)》をしてしまう現象、これをいわゆる《心意システム》と俺達は呼ぶ」

「オーバーライド……」

「心意技を発動させると自身の想像力、イマジネーションがイメージ制御系を通る。この時、システム外の力故にイレギュラーな信号が粒子状のエフェクト、つまりは光として発生する。これを《過剰光(オーバーレイ)》と呼ぶ」

 

 説明する大悟が右腕を平手で突き出し、先程の直結対戦でも見せた、青紫の光を掌に灯す。このオーラのような光を、ゴウはこの数日で自分の発現させたものも含めて、幾度も目にしてきた。

 

「実戦で扱うとなると、ある程度の過剰光(オーバーレイ)が見えるくらいのイマジネーションが必要になってくるが──」

 

 大悟は少し歩いて眼球の意匠をした灯篭に近付くと、光る右手で灯篭に触れた。

 

「口で言うほど簡単じゃないぞ。発動にはもはや『想像』の域を超えた、『確信』をさせる意志の力が必須だからな。──だからこそあのISSキットとかいう代物は異常だ」

 

 大悟が右手に軽く力を込めただけで、眼球型の灯篭は卵の殻のようにあっさりと握り潰された。《煉獄》ステージのオブジェクトは特別強固ではないが、それでも軽く握るだけでこうも簡単に砕ける物ではない。

 

「……心意技は基本的に、そのデュエルアバターの性質に合致したものしか扱えないからだ。だから心意は決して万能じゃないし、ましてやアバターに関係なく遠近両方の強力な心意技を使えるようになるなんて聞いたこともない。修得に時間もかけないなんて尚更な。おまけにアバターの《同レベル同ポテンシャル》の原則からも逸脱している。何よりも、心意技を扱うには己の《心の傷》と向き合う必要がある」

「その《心の傷》ってさっきの対戦でも言ってましたよね? でも僕は一応ですけど心意技らしきものを使えましたけど……」

 

 これまでの話で、装甲が強化され、黒く染まった現象が心意のよるものだと確定した。強く一心に念じたことで、発動できた原理も何となくだが理解できる。だが、それを傷と言われてもゴウにはピンとは来ない。

 そんなゴウを見て、大悟がうんうんと頷く。

 

「お前さんは心意システムの原理も知らないで、発動自体はできちまったからなぁ。いいか? 《心の傷》とはデュエルアバターを創り上げる核とも、願望から生まれた穴とも言えるものだ。最初にブレイン・バーストプログラムをインストールした晩に、プログラムがお前さんのトラウマや渇望を濾しとってアバターを創り出したと説明をしただろ? つまりはそのトラウマ、欠落こそが《心の傷》だ」

心的外傷(トラウマ)……」

 

 その説明にゴウは少し得心がいった。ゴウのトラウマとは間違いなく祖母の家での窃盗事件で『無力だった自分』。そして渇望したのは、強盗を懲らしめる為の『強い力』だった。

 ダイヤモンド・オーガーが《剛力》アビリティを初めから取得していたのは、それ故だったのかもしれないと、ゴウは推測をする。

 

「じゃあ僕は、もう《心の傷》を自覚したってことですか?」

「一応はな。ただし心意を発動する際に、使用者は必ず心の暗黒面に引き込まれる」

「暗黒、面……?」

「ここが重要なんだが、心意を発動させればその欠落、つまりは穴に引き込まれていく。人によって大小や質は違えど、自身のトラウマと向き合う必要があるからだ。穴に完全に嵌れば最後、お前さんの魂は引き返せない修羅道へと堕ちる。……実際そうなったバーストリンカーを、俺は今までに何人か見たよ」

 

 大悟の声はいつしか暗く沈んでいたが、ゴウはその説明によって確信したことが一つあった。

 ゲームでしかないはずのブレイン・バーストにおいて、まるで所有者の怨念が乗り移ったようになってしまうという、魔性の存在について。

 

「師匠、もしかしてその中には、あの《災禍の鎧》も……?」

「……そうだ。アレは《初代クロム・ディザスター》の暴走した心意によって生まれた呪いだ。だからこそ、この危険な技術は秘匿され続けてきた。何故そんなものをお前さんに教えようとしているのか。それも分かっているか?」

「心意技に対抗できるのは心意技しかない……からですか?」

「正解。心意技自体にはシステムが規定した必殺技やアビリティは通じない。それらをイメージから成る心意技の方が上書きするからだ。──元々はリキュールやキューブのように、お前さんが最低でもレベル6になってから教えるつもりだった。二人に教えたのは去年の夏前だったな……」

 

 これでゴウは、大悟がすぐに心意の修得をさせようとする理由がようやく分かった。

 一つはいま言ったように、ISSキット等からの自衛手段として。もう一つの理由は感情の暴走から心意を発動させたゴウのやり方を矯正する必要があるからだ。どちらにしても、それはゴウを思ってのことなのだろう。

 

「──とまぁ、若干話が逸れたが、ともかく心意技を振りまく輩が現れたとなれば、自衛の術を教えないわけにはいかん。後は実際に体で覚えていくしかない。どうだ? これまでの話を聞いた上でも尚、心意を修得する覚悟はあるか?」

 

 大悟の真剣な表情でゴウを問い詰めるが、ゴウの心はすでに大悟の部屋でのやり取りで決まっていて、揺るぎはしない。

 

「はい!」

 

 ゴウの即答に大悟はわずかに驚いたようだったが、すぐに嬉しそうに笑った。

 

「──悪い、そうだよな。今のは俺が野暮だったな。よし! 始めるか」

「はい! ……それで何をすればいいんですか?」

「おう。まずはあの黒い装甲を発動させる」

「えぇ!? いやでも、あれは暴走なんですよね……? 長く発動すれば体が保たないですし」

「それは負の感情から発動させたからだ。以前にお前さんのアバターの体が崩壊したのは、心意に耐えられなかったというよりも、お前さんが心意によって、自身の体を痛めつけていたと表現した方が正しい。そもそもの着眼点は悪くない。強固な装甲こそ、お前さんの強みの一つだからな。それを正の感情から引き出せれば良いんだ。そのあたりもやりながら解説する。まずは──」

 

 大悟がゴウに対して半身に構えた。体からはすでに心意発動を証明する光、過剰光(オーバーレイ)が放たれている。

 

「この状態で今から俺が攻撃していく。ただし実際に当てるのは十回に一度の頻度。お前さんは強いイメージでこれを防ぐ。そうやって段々と心意を引き出していくぞ。これが第一段階だ。さぁ、構えろ」

 

 大悟に促されゴウも全身に力を込める。ゴウはここまで真摯に修行へと臨んでくれる大悟に内心感謝していた。

 ──ありがとうございます、大悟さん。必ず心意システムを修得してみせます。一ヶ月とは言わず半月、いや一週

 

「ぐぼぉっ!?」

 

 顔面に大悟の拳が直撃し、ゴウは吹き飛ばされた。大悟の動きを見逃してはいない。ただ、フェイントを交えて攻撃すると宣言され、初撃から打ち込まれるとは考えていなかった。

 ──ホントに心意システム、修得できるかなぁ……? 

 早速フェイスマスクが砕けたのを感じる中、かくしてゴウの修行が始まった。

 


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