アクセル・ワールド・アナザー 無法者のヴォカリーズ 作:クリアウォーター
第三十八話 逆転の大博打
「そーら、一個見つけた!」
ゴウが晶音との交戦中に建物に入ったその頃。大悟は宇美と戦いながら、絶えず移動をしていた。すでに《天眼》アビリティを発動して宇美の動きを把握しつつ、攻撃して動きを止めてはステージ中に浮遊するクリスタルを破壊する。これで壊したクリスタルの数は総計五個。
単純な敏捷性では、獣形態となっている宇美の方が上なので、少し開けた場所にあるクリスタルは宇美が破壊するのだが、大悟は建造物で入り組んだ地形にばかり入るので、それを追う宇美が破壊したクリスタルの数は二個と、数の上では大悟に劣る。
「ちょっと……! 残り時間をずっと走り回るつもりなの!?」
建物の屋上に四足で立つ宇美が、大悟に向かって苛立たしげに文句を言い放つ。いきなり背を向けて走り出してから今まで、大悟はほとんどまともに宇美を相手にせず、クリスタルを破壊していくばかりなので当然だろう。
現在の大悟の体力は九割近く、宇美は残り七割となっていた。
更に大悟が視界上部のゲージ群を確認すると、ゴウは先程一気に体力が削られて残り四割。晶音は未だに無傷となっている。近接の物理攻撃しか持たないゴウは、やはり晶音に苦戦を強いられているようだ。
タッグ戦は時間切れになった場合、チームの体力合計の多い方が勝利する。たとえこのまま逃げ続けたところで、負けるのは自分達であることは大悟も百も承知だ。
「まぁ、待ってな。そろそろ向こうも──これは……?」
「何を──えっ……!?」
大悟が怪訝な声を上げると、少し遅れて宇美も驚愕してゴウと晶音がいるであろう、石英の壁がある方向を振り向いた。
「嘘……有り得ない! 対戦中になんてそんな……」
「できないわけじゃないけどな。とはいえ、さすがに俺もこれは予想外だ」
宇美が慌てるのも当然だ。大悟とて遭遇したことのない事例である。しかし、これを大悟は彼の覚悟の表れと見ていた。
すると突然、轟音と共に晶音の体力が二割減少する。これまで無傷だった晶音に、ゴウがとうとうダメージを与えたのだ。
「くっ……!」
宇美がすぐにゴウ達のいる方向へと駆けていく。
それを追いかけるように大悟も同じ方向へ走り出した。
決着の時は近い。
「や、やった……!」
ゴウは思わず歓喜の声を上げた。
道を塞いでいた石英の大壁、その一ヵ所に乗用車も余裕で通れるくらいの大穴が開いている。たった今ゴウが破壊してできたものだ。
その近くには膝を着く晶音の姿があった。透明な法服が引き千切られたように破け、その間からはまるで芸術品のような装飾が成された美しい装甲が剥き出しになっている。
「これが、狙いだったのですね……」
「何の確証もありませんでしたけどね。師匠なら『結果オーライ』って言うかもしれません」
晶音が立ち上がる中、ゴウは改めて視界上部に存在する自分の名前を確認する。そこには残りおよそ十分の対戦時間を表示しているカウント、この対戦フィールドに存在する四人のデュエルアバターの名前、それぞれの体力、必殺技ゲージが表示されている。
その内の一人、ゴウの分身であるデュエルアバター、ダイヤモンド・オーガーの後ろに表示されていたレベルは対戦開始と異なり、レベル5から6となっていた。
ブレイン・バーストには《インストラクション・カード》、通称《インスト》と呼ばれる、対戦中であっても開くことが可能ないわゆるメインメニュー、ステータス画面が存在する。その機能の一つには自分のバーストポイントを操作する項目があり、必要ポイントを消費さえすれば、対戦中であってもレベルアップが可能だ。
ゴウはたった今そのレベルアップを行い、レベルアップ・ボーナスによって取得した必殺技で石英の壁を砕いてみせたのだ。その威力は凄まじく、必殺技に直撃していない晶音にもダメージを与える結果となった。
「レベルを上げて基礎能力の底上げ、加えてボーナスまで取得……保有ポイントは大丈夫なのですか?」
晶音の疑問は至極真っ当なものだ。
本来レベルが高くなるほどに、大量の所持ポイントを消費させる必要があるレベルアップという行為は、基本的に安全マージンが充分であることを前提に、対戦の開始前や終了後などにするものであって、間違っても慌ただしい対戦の最中にするものではない。
ましてやレベルアップ・ボーナスはレベルが一つ上がるごとに一回分のみ発生し、一度選んだボーナスのキャンセルは原則不可能である。個人差はあれ、吟味して取得するのがセオリーだ。
「まぁ、なんとか……。ごっそり持っていかれましたけど、悔いはありません」
「……本当ですか?」
「…………もちろん」
「ボーナスをこんな短時間で選んで、本当に後悔はありませんか?」
「………………全然?」
半分嘘である。本当は強がりも入っていた。
レベル5になって随分経ったゴウは、ポイントがもう少し貯まったらレベル6に上がろうかと確かに考えてはいた。次はどんなボーナスがあるのかと、楽しみにしながら。
数分前に選んだ必殺技のモーションを見て、この対戦に勝つにはこれがベストだと、選択した時は直感的に選んだ。実際に予想以上の威力を持った一撃を自ら放ち、目にしたことで間違っていなかったとも断言できる。だが──。
──あっちの必殺技もカッコ良かったなぁ……。あっ! あのアビリティを選んでたら、これからの戦略の幅が広がっただろうなぁ……。
内心かなり引き摺っていたが、おくびにも出さない(ように努める)ゴウだった。
「ジャッジ!」
壁に開けた大穴から飛び出してきた宇美が、ゴウから庇うように素早く晶音の前に移動した。やや遅れて大悟も姿を現し、ゴウの隣に立つ。
「よう、斬新な呼び出しだったな」
「師匠、さっき笑いながら逃げてましたよね? もしかして遊んでたんじゃ……」
晶音との戦闘中に、壁の向こうの二人が移動していたのは、大悟の遠ざかる高笑いが聞こえていたので分かっていた。
そんな別の場所にいた彼らがすぐに戻って来たのは、ゴウのレベルの変化を見たからだろう。レベルアップは図らずも、再合流する為の合図としても一役買ってくれていたのだ。
「馬鹿言え。かなりのやり手だぞ、お前さんのライバル。それよりも……さっきの必殺技、今は打てないよな?」
「あ、ゲージを見たら分かりますもんね。はい、強力ですけどその分ゲージ消費は激しいみたいです」
向こうに聞かれないように、ゴウと大悟は小声で素早く情報の共有を始める。同時に張り詰めていた緊張も少し和らいだようにゴウには感じられた。これは隣に一緒に戦う仲間がいることで得られる、頼もしさと安心感によるものだ。
「よし、俺に考えがある。ちょっと耳貸してみな。いいか──」
大悟が更に声を小さくし、ゴウに作戦概要を耳打ちして伝えていく。
その間に向こうのチームも、この対戦で始めて姿を見せた時と同じように宇美が晶音を背に乗せ、何やら話し合っているようだ。
ここに来てようやくこの対戦が、タッグの様相を見せ始めていた。勝利するのは連携がより密に取れた方だと、この場にいる誰もが確信している。
「えっ、そんなことができたんですか? いや、それよりも上手くいきますか? それ……」
「これはジャッジも知らないから確実に不意を突ける。まぁ、息が合えば上手いこといくさ。こういうチームワークこそがタッグ戦の真髄だ」
大悟から聞かされた新たな事実と作戦に驚きつつも、妙に自信ありげな大悟にゴウは従うことにした。
「分かりました、信じますよ」
「よく言った、それでこそ我が弟子。始めるぞ──着装、《インディケイト》」
大悟の右手に長大な薙刀が召喚された。大悟は強化外装を晶音達に向けるのではなく、長い柄を自分の右肩で担ぎ、刀身近くの柄を両手で握ってから、石突側を背後に移動したゴウへと向ける。
事前に決めていた通り、差し出された柄をゴウは大悟と同じく両腕でしっかりと握り締めた。
「持ちました」
「よーし。一気にいくから離すなよ」
妙な動きをするゴウ達を見て、宇美は体をかがめながら全身に力を込め、晶音は杖をこちらに向けて構えている。こちらがどう動いても対応できるように身構えているが、これからすることを予想できる者はおそらくいないだろう。
大悟が大きく足を開くと腕に力を込め、少しだけ前傾姿勢になる。大悟の肩を支点に梃子の原理で薙刀の石突側が上へと傾き、それに連動してゴウの腕が上がったその時。
「《
大悟が鋭い声でそう唱えるなり、突然薙刀の柄が勢い良く伸張した。まるで西遊記に登場する孫悟空の如意棒のように。
「わわっ……!」
一気に地面から足が離れ、高くなっていく視点にゴウは思わず声が漏れた。伸びた薙刀を担ぐ大悟、驚いてこちらを見ている晶音と宇美、そして神秘的な《霊域》ステージの一角がよく見える高さで薙刀は伸張を止め、ゴウの重さでたわみ始める。
「コォ────……喝!」
大きく息を吸い込んだ大悟が掛け声と共に、一本背負いの要領で体を沈めながら、力一杯腕を引いた。すると、たわんだ柄に運動エネルギーが伝わり、一瞬の浮遊感の後、薙刀の先端にぶら下がるゴウが吹き飛んだ。その姿は投石器から発射された石そのものだ。
「わああああああ!?」
想定以上の勢いで空を飛んでいくゴウの視界の端に、晶音と宇美が唖然とした表情でこちらを見る姿が一瞬だけ映った。その勢いのままゴウは目的の場所へと向かっていく。
──これ思ったより……でもさすが大悟さん、目標ドンピシャ、後は──あれ? この勢いだと着地
ボッゴォォン!!
考えが纏まらない内に、人間ミサイルと化したゴウは建物の屋根に激突した。
「やべ……」
大悟が呟く中、ゴウが着地、というより着弾した場所から薄い粉塵が舞い上がっていた。
さすがに悪いことをしたかと反省するが、派手な動きに相手チームが気を取られている今を大悟は好機と見た。
「《
伸びていた薙刀がコマンドを唱えることで、元の長さへと素早く戻っていく。
これこそがアイオライト・ボンズの持つ強化外装、インディケイトの能力だった。
必殺技ゲージを消費することで、その柄を大悟の思いのままに伸縮させることが可能になる。ただし伸ばせる範囲はおよそ十メートルまで。その真価は今のような
「《紳》」
薙刀を中段に構えて狙いを定めると、その刀身がゴウに気を取られ隙を見せていた晶音達へ向かって、閃光の如き勢いで伸びた。
晶音がこちらに気付いたが、もう間に合わない。幅広い刀身が一撃で仕留めるべく晶音の心臓部分へと突き立つ──かに見えたのだが。
「あっ……!」
声を上げたのは晶音。ただし刃は晶音ではなく、宇美の腹へと突き刺さっていた。
晶音よりわずかに早く大悟の攻撃に気付いた宇美が《シェイプ・チェンジ》を解除し、人型に戻ったことで背中に乗っていた晶音を後ろに落としたのだ。結果、晶音の心臓部分があった場所に移動した宇美の腹部に薙刀は刺さった。
「──《プリズム・ジャッジメント》!!」
大悟の知らない必殺技名を、晶音が明らかに怒りを含んだ声で叫んだ。
狙いを外した大悟は薙刀をすぐに元の長さに戻し、いつでも必殺技に対処できるように《天眼》を発動させる。
薙刀が体から抜けた宇美が片膝を着くと、天に掲げた晶音の持つ杖が眩しく輝いた。
宙にはその光を浴びる七つの六角錐の形をした水晶が出現し、頂点がこちらを向いている。すると、いきなり水晶の一つから虹色をした太い光線が発射された。
大悟は光線を避けつつ、避けた場所を振り向くと、大悟の立っていた場所の後ろにあった建物の壁に光線が放たれ、未だに光線を放ち続けている。
《天眼》と自身の観察眼から、大悟はこの必殺技は水晶が晶音の杖から放たれる光を動力源としたプリズム光線を発射させるものだと分析した。当然ながら現実に存在するプリズムにはない出力量だ。
すると、光線を放つクリスタルが傾きだし、つられて光線も大悟めがけて動き出す。
「まずいな……」
そう呟いて別の二つの水晶から逃げる大悟へと、左右の逃げ場を封じるように光線が発射され、一本目の光線も背後から合流しようとしていた。大悟にとっては良くないことに、光線を発射する水晶はまだ四つも残っている。
大悟が《天眼》で先読みがしようが、避けようがないように計算して晶音は水晶を操作しているのだ。
止む無く足を止めた大悟に、間髪入れずに残りの四つの水晶から放たれた光線が直撃した。
「ぐおおっ……!」
移動しようにも、二つの水晶から細く収束した光線に両足を射抜かれ、すぐには動けない。厄介な追尾機能と引き換えにひとつひとつの威力はやや控えめだが、それでも七本全てが直撃している今、体力ゲージが急激に減少していく。
七本全ての光線を浴び続け、デュエルアバターの身が赤熱していく中、大悟はその先にいる今は亡き弟が選んだ《子》の姿を見る。
かつて共に加速世界で行動した仲間、同い年ながらバーストリンカーでは後輩である彼女がここまで成長したことが、どこか感慨深かった。
──経典。お前さんの《子》は東京を離れても腕を磨き続けて、こんなにも強くなったよ。……でもな、俺の《子》だって負けちゃいないぞ。
光を灯した杖を持つ晶音の頭上から急接近する、一つの影が大悟からは見えていた。
ゴウは眩い光に向かって、建物の屋上から身を投げ出していた。
建物の屋根に激突して頭にチカチカと星が瞬いた時は、さすがに大悟に文句の一つでも言おうと思ったが、これだけ派手なアクションなら陽動の役割を果たせたし、必殺技ゲージの足しにもなったので、ひとまず良しとする。
──『いいか、体力的にこのまま向こうに粘られたらこっちが負ける。勝つ為には不意を突いて高威力の一撃を与えるしかない』
数分前の打ち合わせで、大悟にそう耳打ちをされた。
そこでまずは大悟がゴウを、陽動も兼ねて移動をさせる。その先の地点にあるのは正八面体のクリスタルオブジェクト、大悟が事前に《天眼》アビリティによって見つけていた物だ。クリスタルは回転運動をしているので、なんとか感知できたらしい。
その間に隙を付いた晶音達を大悟が攻撃する。不意打ちは一定の効果はあるだろうが、決め手にはならないだろうと大悟は言っていた。
つまり真の決め手はゴウの役目だ。クリスタルを破壊してゲージをチャージし、準備は整った。
晶音は必殺技を発動し、その必殺技でダメージを受け続ける大悟が屋上からも見える。宇美は晶音の横で、腹部を押さえながら立ち上がろうとしていた。もしかしたらすでにこちらの必殺技ゲージの上昇を確認して、行動を開始するのかもしれない。ここを逃せばチャンスは訪れない。
即座に助走を付けて屋上から飛び出し、戦場に向かって落下する中、ゴウは右腕を肩の位置まで大きく引き、左腕を右肩に添える。これこそがゴウが先程取得したばかりの必殺技の発動モーションだった。
「《モンストロ・アーム》!」
ゴウの右腕が輝き出し、内側から膨張するように大きく膨れ上がり始めた。地上にいる三人の注目を浴びる中、尚も右腕は巨大化を続ける。ようやく巨大化が止まる頃には右腕の長さはダイヤモンド・オーガーの身長と同程度、太さに至っては胴体の三倍近くになっていた。
「いっけええええええええ!!」
ゴウは大きく叫びながら右腕を振るった。大きくなった腕を伸ばしても、晶音達には到底届かないが問題ない。
「しまった……フォックス! 貴女だけでも回避を──」
すでに一度この必殺技を見ていた晶音が指示を飛ばすが、もう遅かった。晶音と宇美がいきなりその場に倒れ込み、同時にその周りの地面が陥没する。
ゴウの新必殺技《モンストロ・アーム》は巨大化した腕で殴るというシンプルなものだが、そこには取得前にモーションを見た時には分からなかった、一つの副次効果があった。パンチを放つ勢いが強力な風圧による空気砲となり、相手へダメージを与えることができるのだ。
必殺技ケージの大量消費、腕が巨大化するまでに隙ができる上に取り回しが難しいが、一撃の破壊力もさることながら、これまで持たなかった距離の離れた相手にも有効な攻撃というのは、ゴウの新しい武器となってくれるだろう。
空気砲に遅れて、異形と化したゴウの右腕が晶音と宇美へと直撃し、二人の体力がゼロになると共にステージ全体を揺るがした。
『……都合が良いので、このままで話しましょうか』
対戦終了後。ファミレスのテーブル席で意識が戻り、ケーブルに繋がったままの四人の中で、始めに思考発声で発言したのは晶音だった。
『……やられましたね。私の記憶では、貴方の強化外装が伸びるなんて記憶はありませんでしたよ』
『とっておきの一つだったからな。そもそもお前さんにあの武器自体、ほとんど見せる機会がなかったし』
じろりと見る晶音に対し、大悟は悪戯っぽい笑みを作りながら答える。
『お前さんの方こそ、随分と派手な必殺技を取得したな。アレは堪えた……。それに石英の発生量も昔の比にならないほどになっていたな』
『レベルは見たでしょう? 私だって成長したのです』
むくれた表情の晶音が、ゴウの方へ首を動かす。
『しかし御堂君。貴方も無茶をしましたね。対戦中にレベルアップをしたバーストリンカーなんて、初めて見ましたよ』
呆れと感心が入り混じりながらも、晶音はどこか楽しそうにそう言った。改めて晶音の顔を見ると目立たない服装と髪型をしながらも、端正な顔立ちをしていることに気付く。
今まで出会った同年代の中でも間違いなく美人に入る彼女に見られていることを意識してしまい、ゴウは慌てて目を逸らした。
「え、あ、あの時はああでもしないと勝てないと思って……あ。でもレベルの合計が一緒だったのに対戦中に僕が上げたら、こちらが勝ったと言って良いのかどうか……」
今になって思い出し、赤くなっていたゴウの顔が急激に青ざめ始めた。
そこまで考えてはいなかったのだ。もしかしたらこの対戦自体、無効試合になるのではないかとゴウが思い始めていると、晶音が手を口に押さえて肩を震わせていた。何事かと思ったが、どうやら笑っているらしい。
『──ごめんなさい。でもそんなこと言うなんて思わなかったものですから……。気にする必要はありませんよ、ルール違反をしたわけでもなし。今回は間違いなくこちらの完敗です』
『……晶音、ごめんね』
これまでずっと黙っていた宇美が俯きながら、口を開いた。
『私がもっと上手くやっていたら、勝負は分からなかったのに……。最後のオーガーの必殺技だって私がすぐに気付いていたら──』
『そんなに気に病まないでください。貴女が庇われなければ、私はあの薙刀の一撃で死んでしまっていた。貴女に落ち度はありませんよ』
『そうとも。落ち度って言うなら、それは対戦の勘が鈍っていた晶音にあって、お前さんが気にする必要はない』
晶音の助け舟に加え、意外にも大悟がフォローを入れる。ゴウはその時の状況を見てはいないものの、晶音が大悟に反論しないことから、概ね正しいことを言っているようだ(晶音は睨んではいるが)。
『それに動物型アバターらしい、躍動感のある良い動きだった。ほぼソロ状態の活動であそこまでできる奴はそういまい』
『私の自慢の《子》ですからね。人型と動物型、二つの形態でスムーズに動けるように、さんざん鍛えたものです』
二人に褒められて宇美もいくらか元気が出たのか、金髪を揺らして顔を上げると、少しだけはにかんだ表情を見せた。
そこでふと気付いたゴウが質問をする。
『でも、ジャッジさんは肉弾戦をするタイプのアバターじゃないですよね? どうやってフォックスさんを鍛えたんですか?』
『あぁ、それね……。対戦ステージで石英にあちこちから攻撃されながら、動きを体に叩き込まれたの。何とか砕いても、いくら避けても、休む暇なく石英が襲ってきて……キツかったなぁ』
『そ、そうですか』
遠い目をする宇美にゴウはそれ以上踏み込んで聞けなかった。現実でも加速世界でも穏やかそうな容姿に見えて、晶音はかなりスパルタな性格をしているようだ。
『──それでよ。対戦の後でも気持ちは変わらないか?』
大悟が改めて核心を突くと、それまで話していたゴウと宇美も晶音の方を向いた。
『俺が思うに、この場の全員が死力を尽くした対戦だった。それはお前さんだって分かっているはずだ、いい加減何があったか話してくれても良いだろ』
これにはゴウも同意だった。元々は想定外の対戦だったが、どちらが勝ってもおかしくない切迫した内容だったと思う。根拠はなくとも、いくらか晶音の心にも届いたものがあったとゴウは信じたかった。
『はぁー…………我ながら単純な性格だと、貴方は私を笑うでしょうね』
やがて大きく溜息を吐いてから、晶音は大悟に向かって少しだけ恨めしそうな顔を向ける。
『ああも真剣に向き合わられて、関係ないと言えはしないでしょう』
『それって……!』
一瞬だけゴウを見てから晶音が言い辛そうに頬を掻き、宇美が期待を込めた顔を見せる。
『──順を追って話しましょう。先に言っておきますが、気分の良い話ではありませんよ?』