アクセル・ワールド・アナザー 無法者のヴォカリーズ   作:クリアウォーター

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第四十二話

 第四十二話 出現、アトランティス

 

 

「それでは行きましょうか」

 

 ホーム内で確認を兼ねた約十五分間の最終ミーティングを行ってから、晶音がソファーから立ち上がると、一枚のアイテムカードを出現させた。今回ダンジョン近くの場所へ転移させるトランスポーター・カードである。

 ゴウが以前に一度だけ見たことがあるトランスポーター・カードは、《ヘルメス・コード縦走レース》の観戦用スタジアムへ移動する為のもので、青く透き通った大空を思わせる色だったのだが──。

 

「何だか……派手ですね、そのカード」

 

 晶音が指で挟んでいる、ギラギラとした原色で配色された背景に二頭の金色の龍が絡み合っているという、ずっと見ていると目がチカチカしそうなデザインのカードに、ゴウが率直な感想を述べた。

 

「トランスポーター・カードは転移先によって、デザインが異なりますからね。これは中華街エリア入口にある門の一つに転移するようになっています。最大転移人数はこの場にいるメンバーと同じ十人です。一枚で事足りたのは幸運でした」

「大丈夫なのか? 団体用のトランスポーターなんて、随分ポイントを使ったんじゃ……」

「安い物ではないですが、バーストポイントに影響するほどではありませんよ。では、外へ」

 

 気遣うような調子で訊ねる大悟に、晶音がどうということでもなさそうに答えてから、やがて全員がホームから出た。

 最後にメディックがホームの鍵を閉めると、晶音がカードをタッチして、しばし何らかの操作を行った後に一同に向き直った。

 

「それでは、これから転移を開始します。準備は良いですね?」

 

 全員が頷いたのを確認した晶音が最後に大きく頷き、「いきます」とだけ言ってタッチしたカードが輝き始める。

 

「わ……!」

 

 自分の体も同じく発光していることにゴウが声を漏らすと、光は更に輝きを増していった。

 突然の眩い光、仲間のどよめき、足首まで浸かった水の感触などが全て消え、視界が暗転する。

 やがて再び足が水に入る感覚と同時に視界が回復すると、転移前と変わらず《水域》ステージのままではあるが、景色は異なり、目の前には白く乾いた柱がそびえ立っていた。数歩下がって見上げると、それが左右の道路を跨ぐ門であることに気付く。

 

「ここは現実の《横浜中華街》の東門、《朝陽門(ちょうようもん)》に当たる門です。このステージでは少し味気ないですが──」

「なんだか地味ねぇ」

「《水域》ステージじゃしょうがねえさ。《繁華街》や《奇祭》だったら、もうちょい派手だっただろうになぁ……」

「ねーねー、あの遠くに見えるちゃんとした建物ってショップかなー?」

「横浜と東京とだと、ショップの品揃えも違うんでしょうか?」

「せっかくだし、中華まんとか売ってたら土産に買いたいよな」

 

 やや味気ない白い門を眺めるメディックとキルンに、無制限中立フィールドに点在するショップを見つけたのか、今にも買い物に赴きそうなキューブ、リキュール、コング。

 晶音の説明を聞いているのかいないのか、メンバー達は思い思いに意見を言い合っていた。

 メモリーに至っては、普段足を踏み入れる場所ではないからか、生成した紙にペンで何やら熱心に書き込んでいる。

 

「まー、マイペースな奴らだよ、ホントに」

「はいはい! 今回は観光に来たのではありませんよ。こちらに付いてきてください」

 

 他人事のように苦笑する大悟をよそに、パンパンと手を叩いて皆を注目させた晶音が先頭を歩き、ようやく一同は移動を開始する。

 朝陽門に背を向けてほんの二百メートルほど歩くと、オブジェを囲む噴水のある、海沿いの空き地へと出た。

 この場所にゴウは見覚えがあった。小学生の時に遠足や家族との旅行で、何度か訪れたことのある場所だったからだ。

 

「ここは……《山下公園》? ここにアトランティスが現れるんですか?」

 

 かつての大震災の瓦礫を埋め立てて作られたという海浜公園に、海に沈んだとされる土地の名を冠したダンジョンが現れるのかと、何となく作為的なものを感じたゴウだったが、晶音は小さく首を横に振った。

 

「正確にはここに隣接する場所に現れるのです」

「隣接……?」

 

 晶音はゴウにそう言いながらも、更に公園内部に進んでいく。

 その先にあるのは深い青色をした海に浮かぶ、貨客船だった。ゴウは頭の中の記憶を漁り、確か名前は《氷川丸(ひかわまる)》だったか、とうろ覚えながらに思い出す。

《水域》ステージに存在する他の建造物のように骨組みだけではないものの、全体が日焼けした白い船は長年放置され続けて静かに朽ち果てているようにも見えて、やはりどこか物悲しい雰囲気を感じた。

 他のメンバー達も似たような気持ちを抱いているのか、静かに船を眺めながら進み続ける。

 やがて海に突き出ている桟橋の先端、小さな灯台のオブジェクトの前で、晶音はようやく足を止めた。

 

「……雰囲気は少し寂しいですが、エネミーが少なくて都合が良かった。スムーズにこの目的地まで着けたのは良い調子です」

「ジャッジ、この船が目的地なの? いい加減、教えてくれても良いんじゃない?」

 

 宇美が焦れたように晶音に問うのも、至極当然である。

 先日のテキストチャットでも、転移前のアウトロー内のミーティングでも、晶音はダンジョン自体についての具体的なことは口に出さなかったのだ。

 ダンジョン内に入った場合の動き、戦闘が発生した際の対応などは全員で取り決めたものの、現実のどこに位置するランドマークなのか、または入口はどこなのか、といったことを誰かが訊ねると、「それは直接、自分の目で確かめた方が良いでしょう」と言うだけだった。

 そんな晶音が首を振る。

 

「いいえ、この船は関係ありません。もう少しすれば自ずと分かりますよ。きっと物珍しいと思いますので、期待して待っていてください。それよりも……エピュラシオンのバーストリンカー達がこれから現れるかもしれません。もしかしたらもうすでに──」

「いや、この公園の敷地内には俺らしかいなさそうだ。少なくとも今は」

 

 晶音の話を遮った声に反応した全員が振り向くと、一行の最後尾に立つ大悟の頭巾を被った額から、枯れ草色の光が漏れ出している。

 アイオライト・ボンズの持つアビリティ、《天眼》を発動した時に似ているが、光の量も質も、ゴウの知るものとは異なる。

 更に目を凝らしていると、ゴウはその光があるものだと気付いた。

 

過剰光(オーバーレイ)……心意技ですか?」

「これをお前さんに見せるのは初めてだったな。《天眼》の心意技版だと思ってくれれば良い。ジャッジ、ここの他にダンジョンの入り口は存在しないんだな?」

 

 バーストリンカーの持つイメージによって、ブレイン・バースト内のシステムに干渉して事象の上書き(オーバーライド)をさせる現象を見ているゴウに、大悟は首肯してから晶音へと確認した。

 

「ええ、その筈です」

「だったらここで張っていれば、奴らも来るだろ。開けた場所だから奇襲の心配もなさそうだし、ダンジョンが現れる残り時間まで待つとしようや。なに、皆でだべっていたらあっという間だろうよ」

 

 

 

 皆で山下公園内とその周囲を警戒しつつ、雑談しながら待つことおよそ一時間半。ついにその時が訪れた。

 

「────!! 来ましたね……。皆さん! 桟橋へ行きます、付いてきてください!」

 

 鋭い声を飛ばす晶音に全員が注目し、桟橋へ視線を向けると明らかな異変が起きていた。

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドド────。

 

 桟橋自体ではなく、桟橋の先の海面が音を立てて、真っ二つに割れ始めていたのだ。

 ゴウ達が桟橋の先まで辿り着いても、なおも海面は緩いカーブを描きながら沖へ向かって割れ続け、更には桟橋の先からは海水が固形化し、なだらかな階段を形作った。

 

「これこそが幻のダンジョン、アトランティスへと続く道です。ここから少し歩きますよ」

 

 呆気に取られるメンバー達をよそに、晶音はためらうことなく足を踏み出し、水の階段を下り始めた。

 なるほど、と晶音が勿体ぶっていた理由をゴウは理解する。

 これは確かに滅多に見られない光景だろう。実際にハイランカー達も唖然としている。

 他のメンバー達がおそるおそる階段を下りていく中、ゴウも桟橋の先に繋がる、潮の香りが漂う海水が作り出した階段に足を踏み入れた。

 足の裏から数センチだけ沈み込んだものの、海水でできた揺らめく階段はそれでも確かな安定感があり、その形を維持し続けている。

 晶音を先頭に数名ずつ横並びになって、長い階段を降り続けていると、海が割れてむき出しになった海底へ到達。そこが到着地点ではなく、やがて歩いていく内に、一行はいつしかマンション四階分に到達しそうな高さになっていた、海水の渓谷の底を進んでいた。

 

「…………ランドマークじゃなくて、海の中とは一本取られた。これは知らなきゃ、見つけられるわけがないわな」

「でも、ソーシャルカメラって海中にまで入っているんですか?」

 

 殿(しんがり)を歩き、脱帽したように呟く大悟に、隣を歩くゴウは質問した。

 ブレイン・バーストは現実のソーシャルカメラの映像を基にフィールドが再現されていて、ソーシャルカメラの死角はある程度の補完によって補われている。カメラの設置されていない屋内の場合はステージに問わず、その建物内への進入不可能になるケースも多い。

 では海中の場合はどうなるのかと、ゴウは疑問に思ったのだ。

 

「うーむ、そうだな……まず見たところ、海中にはエネミーは居なさそうだよな」

 

 大悟が会話をしながら、海水の壁に腕を突っ込んだ。

 大悟の腕はほとんど抵抗なく海中に入っていき、大悟の歩みを止めることもなければ、腕を引き抜いても壁には穴が開くことも、そこから水が溢れ出すこともない。

 今回ダイブしてからまだ一度も遭遇していなかったので意識から外れていたが、透明度の高い海の中をゴウが見渡しても、エネミーどころか魚型のオブジェクトすら見当たらなかった。

 

「じゃあ……いま歩いているこの場所は、カメラの補完されている空間なんでしょうか?」

「そうとも断言はできないな。ここは《横浜港》、外海に位置しているわけじゃないから、海上は陸地からソーシャルカメラが映しているのかもしれない。ただ、さすがに海中まで監視の目を用意する意味はなさそうだから、この海底は補完されたものかもな」

「なるほど……」

 

 大悟の仮説を交えた説明に頷くゴウ。

 

「そういや水中繋がりの話なんだが、上野エリアの《不忍池(しのばずいけ)》には主である巨大エネミーがいるって噂が──」

「ああ、そんな……!?」

 

 前方からの驚愕した声が、大悟の話を遮った。

 ゴウが振り向くと、先頭を歩いていた晶音が慌てたように駆け出す。

 大悟との会話に意識が向いていて気付かなかったが、前方にはいつの間にか《黄昏》ステージに存在するような、白い石灰岩からなるギリシャ風の遺跡らしき建物の姿があった。

 

「待ってジャッジ!」

 

 宇美が晶音を呼び止めながら追いかけ、ゴウ達他のメンバーもそれに続く。

 この遺跡が海底の道の最奥のようで、遺跡の後ろも左右と同じように海水の断崖に囲まれた、袋小路の形となっていた。

 遺跡は横幅と高さ、奥行きが全て十メートル程度。形状的には立方体の箱に近い。

 

「そんな……これは……」

 

 そんな遺跡の前で、ようやく立ち止まった晶音が信じられないように呟いた。

 ここが行き止まりである以上、この遺跡がアトランティスへの入口に当たるのだろう。

 だが、遺跡正面の縦長の扉は閉ざされている。黒ずんだ物体が、白灰色の両扉を塞いでいるのだ。

 扉の中程から下に向けて、扉と一体化したように固着している塊を、前に出たキルンが軽く叩く。

 

「こりゃあ……岩みてえだな。それも内側から塞いだようにも見える」

「以前にこれが出現した時には、こんなものはありませんでした。つまり……」

 

 晶音がその先を言わなくても、この場の誰もが理解できた。

 誰かが内側から意図的に扉を塞いだのだ。

 普通に活動をしていたら、偶然見つけることはほぼ有り得ないであろうこの場所に、今日訪れる可能性がある存在は一つしかない。

 

「すでにエピュラシオンの奴らは、ダンジョン内にいるってことだな」

 

 大悟の言葉に晶音が首肯する。

 

「で、でも……それじゃあエピュラシオンの人達は、この道ができる前にこの場所に来ていたことになりますよね? どうしてわざわざそんなことを……」

「おそらくですが……スコーピオンは私がここに来ることを予期していたのかもしれません。ダンジョン攻略前に無駄な戦いをすることを避ける為、私達が公園に到着する前に、別の場所から泳いでこの入口に辿り着いたと考えるのが一番自然です。そうでなければ、この通り道を知っているスコーピオンが使わないはずがない」

 

 困惑するリキュールに対して、晶音がうなだれながら答えた。

 いつからエピュラシオンがアトランティスに入っているのかは不明だが、どうやら相手は相当に用心深いようだ。

 

「でもさー……そうやって泳いでここまで行けるならさ、今日でなくてもこのダンジョンの中に入れるんじゃないのー?」

「それはないかな。それこそ彼らが今日ここに来る理由がない。どうしても推測になるけど、この建物自体が現実時間の今日の日付か、加速世界での数日から数時間前にかけてしか現れないんだと思う。仮に道が作られると同時に現れたとしたら、扉を破壊した音とかに僕らが気付いただろうしね」

 

 キューブの質問にメモリーが異義を唱えて推論を立てると、晶音が賛同する。

 

「私もそう思います。ただ……こうして扉が修復されていない以上、彼らがダンジョンに入ってから変遷は起きていないようですが、それでもいつ入ったのかまでは特定できません。今から数時間前、数日前なのかもしれない。こうしている間に、すでに目的を達成する寸前だとしたら──」

「少し落ち着け、ジャッジ」

 

 晶音の前に立った大悟が、両手を晶音の両肩に置いてから軽く叩いた。

 

「悲観しすぎだ。確かにスタートは向こうが一枚上手だったみたいだが、これから追いかけていけば問題ない」

「もう全て無駄足になるのかもしれないのですよ? どうしてそう楽観的になれるのですか!」

「落ち着けと言うに……。仮にな? 仮にエピュラシオンがダンジョンの《秘宝》とやらを手に入れて、俺達が間に合わなかったとしよう。だとしても、それはそれで良いんだ。明日以降に連中を見つけて戦うなり、話し合うなりすればいい」

 

 あっさり言ってのける大悟に晶音が何か言おうとしたが、それを制して大悟が続ける。

 

「それよりもだ。お前さんはテンションが上がらないのか? ただ向かうだけでもこんなに手間取るダンジョンがそこにあってよ、一体何が待ち受けているのかと思うとワクワクしないか? アウトローは加速世界を自由に生き、そして楽しむ為に集まった集団だ。それはカナリアの奴が何よりも重きに置いていたことでもある。あいつの《子》であるお前さんが一番分かっていることだろう」

 

 大悟の言葉に、ゴウは大悟に初めてアウトローへ連れられ、どういった場所なのかを説明された時の記憶が甦った。

 

 ──『六大レギオン達にも干渉されないこの場所で、加速世界を自由に楽しむ、言わば《サークル》ってとこだな』

 

 かつてアウトローに所属していたバーストリンカー、カナリア・コンダクター。

 病によってこの世を去っている、大悟と血を分けた双子の弟である彼について、ゴウはほとんど知らない。

 しかし、彼の存在は今も尚、大悟を始めとした初期のメンバー達に強く影響を残していることを改めて確信する。それはアウトローを離れた晶音も例外ではない。

 大悟の言葉を受けた晶音はカナリアの名を聞くと、じっと大悟を見つめ、大きく深呼吸した。

 

「…………ずるい人ですね、貴方は。彼の名前を出されたら、私が耳を傾けざるを得ないと知っていて、そういう言い方をしたでしょう?」

 

 ふてくされたように言う晶音だったが、先程までの焦燥感は消えているようだった。

 

「否定はしないが、酷い言い草だな。ただ、連中にみすみす《秘宝》とやらを手に入れさせる気もない。それに……いくつか因縁もできた相手だしな」

 

 晶音の言葉を受けて、肩をすくめた大悟が一瞬だけゴウを見てから、ゆらりと闘気を立ち昇らせる。

 

「第三者の邪魔も入らないこの場所は都合が良いとも言える。向こうの構成人数までは知らんが、ダンジョン攻略に出し惜しみをするとは思えないし、ここは一丁派手に全面戦争といこうや。──皆はどう思う?」

「そりゃいいや! 無制限フィールド(こっち)でエネミー以外を相手取るのなんて久々だ。腕が鳴るぜ」

「そんじゃ、今日までの成果を試すとするかね」

「よぉーし、俺もやるぞー。あー、何だかウズウズしてきた!」

「え、援護は任せてください!」

「そうだね、たまにはこんなのも悪くないかな」

「ふふ、ウチのジャッジちゃんとオーガーちゃんにちょっかいを出してくれた相手なら、遠慮は要らないわよねぇ……」

 

 いかにも楽しそうな声で語りかける大悟に、メンバー達が次々に賛同の声を上げた。

 晶音は「このやり取りも懐かしいですね……」と観念したように呟き、宇美に至っては、見事に好戦的な意見しか出てこない彼らの様を見て、小さく笑いつつも口元が引きつっていた。

 ──そういえば、初めてのエネミー狩りでいきなり『死ね』って指示を出すぐらい、無茶苦茶な人達だったな……。

 あれも一応は理由があっての指示だったが、当時のゴウに思考がフリーズするほどの衝撃を与えたものだ。

 約十ヶ月前の出来事を思い出していたゴウも、皆に遅れて同意の声を上げた。

 

「僕も全力を尽くします!」

「決まりだな。それじゃあオーガー、よろしく頼む」

「え? 何をですか?」

「殴り込みをかけようと思う。──文字通りな」

 

 大悟が塞がれた扉を指差す。

 それだけで、大悟の言わんとしていることを理解したゴウは大きく頷いた。

 

「あぁそういう……えっと、じゃあ……全員少し下がってください。危ないので」

 

 ゴウは自分より後ろに皆を下がらせると、塞がれている扉の前で右腕を肩まで大きく引いて、左腕を右肩に添えた。そして右腕を勢いよく突き出して、必殺技を叫ぶ。

 

「《モンストロ・アーム》!」

 

 ゴウの右腕が大きく膨れ上がり、巨大化した腕は遺跡の扉を塞いでいた岩と扉を諸共にぶち抜いた。

 轟音を立てた後に、ゴウの右腕が元のサイズに戻ると、ぽっかりと空いた大穴が作られ、大悟と晶音と宇美を除く、このゴウの必殺技を初めて見たメンバー達がやんやと喝采を上げる。

 それから遺跡のできた穴を通り抜けると、そこは壁に埋め込まれたいくつもの明かりが空間を照らし、奥に入口の扉と同じくらいの大きさをした扉が一つ備え付けられているだけの、ひどく殺風景な場所だった。

 ただし、扉からはゴウが感じたことのない、漠然とした威圧感が放たれていて、まるでこれから通る者を値踏みしているかのように感じられる。

 

「……どうやらこの遺跡は外周部で、あれが本当のアトランティスの入口のようですね」

 

 晶音がつかつかと内部の扉に歩み寄った。幸い、外の扉のように塞がれてはいない。

 

「ここから先はどうなっているのかは、私も知りません。皆さん、覚悟はできていますね?」

 

 晶音の問いに対して首を横に振る者は、誰一人としていなかった。

 


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