アクセル・ワールド・アナザー 無法者のヴォカリーズ 作:クリアウォーター
第四十七話 敵も
キルン操るゴーレムの突き出した左手、破城槌と言っても過言ではない勢いとサイズをした杭がクエイクに迫る。
「ぐぬっ……おおおおおおおおおお!!!!」
クエイクはこれを左腕に装備された丸盾で防ぎ、野太い声を張り上げて耐えようとする。
ぶつかった直後に吹き飛ばされなかっただけでも賞賛に値するものだが、それでも盾は威力に耐えられず、ヒビが入り始めている。盾が貫かれるのは時間の問題だと、メモリーが見抜いたその時だった。
「おおおお──《
クエイクが叫んだ直後。クエイクの盾から衝撃波が発生し、杭の先端が砕かれ、杭に繋がるゴーレムの左腕が勢いよく弾かれた。
『何だぁ!?』
キルンが驚きの声を上げると、クエイクは衝撃に巻き込まれて立っていた場所から、先程ボルケーノが作り出し、すでに固まり始めている溶岩の端まで吹き飛ばされ、仰向けに倒れていた。左腕の盾は砕け、残骸が光の欠片になって消滅していく。
「今のは必殺技じゃないね。おそらくはあの盾で受け止めた運動エネルギー、それらを溜め込んで衝撃に変換して放つことができるんだろう。さすがに許容限界を超えたみたいだけど」
『なるほどな。まさか初撃から壊されるたぁ思わなんだが……まぁいいさ。破損は元々覚悟の上よ。──《
メモリーが再びペンと紙を手にしながら、ゴーレムの隣に立って推測を話すと、早速装備の一部を破壊されたキルンが落ち着いた様子でコマンドを唱える。
すると、ゴーレムの先端が折れた左手が光に包まれ、数秒後には右手同様に五本の指が付いた、無傷の左手に変化していた。
「それくらい早く本体も召喚できれば良いのにね」
『アビリティ本来の、正規の使い方じゃねえからな。こんだけでかいとどうしても
また始まったと嘆息するメモリーにも気付かずに、過去の出来事を思い出すキルンが恨めしそうに独り言を呟き始めた。
キルン曰く、《
今回、キルンとメモリーが二人で一度に相手と応戦しなかったのも、それが理由だった。
ちなみにこのゴーレム、実は二代目である。初代は現在の赤の王が登場するまで、加速世界最大の遠距離火力を誇ったバーストリンカーとの対戦の末に、惜しくも破壊されたのだ。
相手もまた、通常対戦では基本的にほぼ不可能である、厳しい条件をクリアして巨大ロボットを作り出すという似通った点があったからか、時間と労力、そして心血を注いだゴーレムを破壊されたのは、キルンにとってはかなり悔しかったことらしい。
尚も恨み節とも反省ともつかない独り言を続けるキルンを見て、メモリーも他人のことは言えないと自覚しているが、キルンも大概一つのことに熱中しすぎると周りが見えなくなるタイプだと思い、頭を掻いた。
「キルン、反省はそのへんにしておいてそろそろ……」
『あん? おお、そうだな』
相手の方へ向き直ると、倒れたクエイクを庇うように彼の前に立つボルケーノの姿があった。銃身になっていた右腕も、すでに元の手に戻っている。
「す、すまねえ、ボルちゃん、このままじゃ……」
「クエイ君、大丈夫だよ。私が守るからね」
呻きながら体を起こそうとするクエイクに、優しく声をかけるボルケーノ。パートナーとの絆が窺える光景だった。
「……端から見たら、僕ら悪役だよね」
『言うなよ。やり辛くなるだろうが』
そう言いながらも、キルンはゴーレムの足を動かし始める。向こうが勝負を諦めていない以上、こちらも手を止めるわけにはいかない。
とはいえ、遠隔系のボルケーノ一人で何をするのかとメモリーが思っていると、ボルケーノがクエイクから離れ、更にこちらに歩み寄り、凛とした声で叫んだ。
「ここからは私が相手になります。──《イラプション・オブ・ライフ》!」
突如としてボルケーノのワンピースドレスが横断幕のように伸び上がり、硬質化。四メートル近い高さをした三角錐へと変化する。その天辺に位置するボルケーノの胸部からは赤く輝く大砲が出現し、噴火そのものの勢いで灼熱の溶岩が発射された。
『メモリー、下がれ!』
ゴーレムを操って前進したキルンが、一身に溶岩を受け止める。
鍛冶作業を行うデュエルアバター故に、炎熱耐性を持つキルン。その装甲と同様の性質を持つゴーレムも、溶岩自体にダメージはあまり受けていないようだが、噴き出し続ける溶岩の勢いによって、それ以上進めずにいる。やがて辺りにはゴーレムにぶつかり、そこら中に飛び散った溶岩が薄く煙を上げていた。
ゴーレムの後ろでその様子を観察し続けるメモリーは、ボルケーノの必殺技の威力に驚きながらも、同時に疑問も覚え始めた。
これだけの高出力の攻撃を、すでに一分近く放ち続けているのにもかかわらず、まるで勢いが衰えていない。必殺技ゲージがフルチャージの状態だったとしても、これは異常だ。
心意技の可能性も考えたが、
周辺に飛び散る溶岩に当たらないようにボルケーノの様子を窺うと、火山と化したボルケーノの全体が真っ赤に染まり、ここからでも感じる熱気によって陽炎が揺らめいている。その表情は判別し辛いが、苦しんでいるようにも見えた。
その光景と必殺技のニュアンスから察するに、どうやらボルケーノは必殺技ゲージの他に、体力ゲージを消費して技を放ち続けているのだとメモリーは推測した。
だが、キルンが耐えている以上、いたずらに体力を削る意味はないはずだ。にもかかわらず必殺技を発動し続けているのは、必殺技の仕様なのか、それとも他に理由があるのか──。
「どちらにせよ、すぐに決着を着けるしかないか……」
相手の思惑が図れない以上、この状況を一気に打破するしかない。そう考えたメモリーはゴーレムの背後から飛び出し、静かに走り出した。
真っ赤な溶岩の飛沫が、体の至るところに当たるが、歯を食いしばってこれに耐える。
ボルケーノに気付かれて溶岩の矛先をこちらに向けられでもしたら、耐えられる自信はないので声を出すわけにはいかない。
自分の必殺技の射程圏内に入ったことを確認し、ボルケーノの斜め前方の位置から、メモリーは両腕をボルケーノへと向けた。
「《ウィーケン・インク・フォッグ》!」
万年筆型をした両腕の手甲の先端から、霧状に噴き出したインクがボルケーノを包み込む。ある程度はボルケーノに付着する前に蒸発していくが、濃霧に近い密度の霧は完全には蒸発しきらずに、ボルケーノに触れた箇所からぽつぽつと黒い染みとなって広がっていった。
「何、これ……!?」
ボルケーノが墨色に染まり始める己の身に気が付くが、もう遅い。放出される溶岩の勢いが徐々に減衰を始めた。
この必殺技は触れた相手を墨色に染め、ステータスを一定時間減少させる霧を放つことで、一種の
そして噴火の勢いが弱まった今、キルンも攻撃に移行できる。
「キルン、決めろ!!」
メモリーの援護により、赤熱したゴーレムが左手だけで溶岩を受け止め、右手を握りこんで構える。そして、突き出した右腕の手首から爆発が発生すると、そのまま爆炎を噴射させながら右手が飛んでいった。
土の巨人の拳が、荒ぶる火山となったボルケーノめがけて飛来する。すぐに三角錐の小山となっているその体の中腹に着弾し、押し砕き──。
「──《
メモリーが勝利を確信した直後。大震動がコロッセオ中を揺るがした。地割れが発生し、フィールドであるコロッセオの台座どころか、地面を通してコロッセオの壁面、洞窟の天井にまで幾条もの亀裂が伸びていく。
あまりの震動に立っていられず、膝を着いたメモリーは見た。ボルケーノを貫通したロケットパンチの先、黄土色の
──ここで心意技か!
ボルケーノと同じく、ロケットパンチの直撃を受けて爆散するクエイクを見て、ようやくメモリーは相手の思惑を理解した。
彼らは侵入者を倒すことから、是が非でもこの先へ通さないことに戦法を切り替えたのだ。ボルケーノの必殺技は、こちらのクエイクへの意識を逸らす意味もあり、おそらくクエイクは心意技発動までの集中力を高めていたのだろう。
『メモリー!』
ゴーレムの巨大な手にメモリーはむんずと掴まれ、広がった腹部のコックピットに放り込まれた。溶岩を受け止め続けていたゴーレムの内部は蒸し風呂のような温度になっていたが、今はそんなことを気にしては入られない。
「完全にしてやられたね……。心意技を使う可能性はあったけど、ここまで真っ当に戦っていたからてっきり僕ら同様、迎撃にしか使わないスタンスなのかと……。対戦に勝って勝負に負けた気分だ」
「そうまでしてワシらを止めるたぁ、そんだけボスを慕ってやがんのか……ともかく、もう間に合わねえ。今は頭を守ってじっとしてな、考えんのは落ちてからだ」
ゴーレムが落下に備えて身を丸める。その内部にいるキルンとメモリーは崩落する地面と共に奈落の底へと落ちていった。
キルンとメモリーが大崩落に巻き込まれている頃より、時間は遡る。
ドーム型の広間でゴウは、エピュラシオンの副長であるチタン・コロッサルと遭遇し、交戦していた。
レベル8。王を例外としても到達した人数は数少ない、バーストリンカーとしては最強クラスの存在。そのほとんどが、ベテランとして長きに渡り加速世界で生きてきた猛者達。
《親》であり師である大悟と、数字の上では同等の存在であるコロッサルを倒せるのだろうかと不安になる気持ちを振り払って、ゴウは拳を振るう。
分かりきっていたことではあるが、非常に手強い相手だ。近接戦での単純な力比べでは、同レベル帯においてほぼ敵無しだと自負しているゴウでも決定打は与えられず、少しでも気を抜けば、重い一撃を食らうだろうと確信できた。
コロッサルの動きは大柄な体格に似合わず、機敏かつ洗練されていて、ゴウの攻撃を単に受け止めるよりも、いなしながら受け流し、そのまま攻撃に転じてくる。クリーンヒットはせずともごくわずかに、しかし確実にゴウは体力ゲージを削られていた。
そんなゴウは以前エピュラシオンと遭遇したことで、彼らについて少し調べていた。
情報通であるメモリーでさえ、具体的なプロフィールはついに分からなかったが、そうではなく『名は体を表す』と言うように、アバターネームから相手について知ろうと試みたのだ。デュエルアバターのカラーネームは元より、それに続く固有名からでもいくらか知れる、あるいは推測できることはある。
特にチタン・コロッサルのようなメタルカラーの場合では、否が応でも名に冠された金属の特徴が、その身に少なからず反映される。そうして調べて分かったチタンの特徴とは、加工は難しいものの、優れた耐食、耐熱性を備え、鋼鉄よりも頑丈な上に軽いということだ。
現に近接戦では、その特性が遺憾なく発揮されている。格闘技術は本人の鍛錬によるものとしても、敏捷性と防御力のステータスに、確実に影響を及ぼしているだろう。
そんなコロッサルの繰り出した前蹴りを両手で受け止めたゴウは、両手を素早く相手の足首とふくらはぎに持ち直した。
「う……──らあっ!」
「…………!」
一度横に振って勢いを付けてから、コロッサルの足を掴む腕を上に掲げ、地面へと叩き付けた。大柄で重量級のメタルカラーでさえ、今のゴウには振り回すことは容易い。
そうして右手を腰元まで引くと、顔をしかめても呻き声一つあげないコロッサルに向けて狙いを定めた。
「《アダマント・ナッ──ぐぼっ!?」
ところが、必殺技の正拳突きが届く前に、仰向けの状態のコロッサルに両足で蹴りを入れられた。たまらず吹き飛ばされたゴウが向き直る頃には、すでにコロッサルは立ち上がって体勢を立て直している。
「ゲホッ……! ゴホッゴホッ!」
拳の勢いが乗る前だったので、完全なカウンターにまでは至らなかったが、それでも一割近く体力が削れていた。やはり、必殺技一つ当てるのも一筋縄ではいかない。
「……焦燥が感じ取れる」
「何だって……?」
この場で戦闘を開始してから、コロッサルが初めて言葉を発した。
「貴様が焦っている、と言ったのだ。時間が経つ程に顕著になっている」
「そんなこと──」
「
そう断言するコロッサルに、ゴウは返す言葉が見つからなかった。たったいま言われて初めて、自分でも無意識だった行動を自覚したからだ。
「どうして……どうしてそれを僕に言うんだ? 敵である僕のコンディションが良くないなら、そこに付け込んで黙って倒せばいいだろ」
「何も貴様の為ではない。ただ、思い違いを正しておかねばならぬと判断しただけのこと」
戸惑うゴウに対するコロッサルの無機質な返答には、間違ってもゴウを
「仮に貴様がこの先に進んだところで、我が主を倒せるものか。だが、下らぬ些事に主を煩わせる訳にもいかない。故に自分は貴様を通さないし、ここで死亡してもらう」
暗に「いてもいなくても大差ない」と言っているらしい。
これには比較的温厚なゴウも腹に据えかねるものがあったが、目の前の鉄人が会話に応じている今を好機と見て、努めて冷静に質問をぶつける。
「……そうまでして、このアトランティスの《秘宝》を求める目的は何だ? エピュラシオンは、プランバムは何をしようとしているんだ?」
「目的か……話す義理は無いと言えばそれまでだが……。──我が主、プランバム・ウェイトはこの加速世界の有り様を正す為に動いているのだ」
ゴウの頭に、以前プランバムが口にしていた『歪みを正す』という言葉が再び響く中、コロッサルは続ける。
「貴様は知らぬかもしれぬが、この加速世界では周りから不当な扱いを受けている者も少なからず存在する。エピュラシオンはそのような境遇にいた者、主の考えに共感した者達によって構成されたレギオンなのだ。……自分も主によって救われた者の一人。その恩義に報いる為に自分はここにいる」
「恩義……?」
「そうだ。他のメンバー達の胸中までは知らぬがな。だが、たとえ他の者がレギオンを去ったとしても、自分だけはブレイン・バーストを永久退場するその日まで、主と共に闘うと誓ったのだ」
コロッサルの言葉には、一切の迷いも引け目も感じられなかった。だからなのか、以前の怒りに囚われて暴れていた時は別として、今のゴウは敵であるはずのコロッサルを憎むような感情が湧いてこない。
「……そろそろ終わらせるとしよう。貴様以外の者が、ここにいつ来るかも分からぬ」
「いやいやそう言わずに、俺としてはもう少しいろいろと聞きたいな」
「「!?」」
ゴウとコロッサル、そのどちらでもない人物の声が会話に割り込んだ。ゴウ達が振り返った先、このドームに通じる入り口に立っていたのは、一体の僧兵アバター。
「師匠! 良かった、無事だったんですね」
「おう。ちょっと半魚人達と戦う羽目になったけどな」
「はい? いや、それはいいか──」
仲間に再会したことでゴウが大きな安堵感に包まれる中、大悟が近付いてくる。体にはいくらか傷はあったが、かすり傷程度で別段大きなダメージは見られない。
「話、聞いてたんですか?」
「話というか……その前にお前さんが、そいつの足を掴んで床に叩き付けた時から」
「そこそこ時間経ってるじゃないですか!」
「いや、すぐ出て行こうと思ったら、話し始めるもんだから……。ともかく、おおよその事情は分かった」
隣に並んだ大悟との若干気の抜けた掛け合いの中であっても、ゴウは油断なくコロッサルから注意を向けていたが、当のコロッサルは大悟の姿を見るなり、気配がより剣呑なものに変わっていた。文字通りの鉄面皮にも緊張が走っているようだ。
そんな登場しただけで敵を警戒させている大悟は、ゴウに向かって驚くべき言葉を投げかけた。
「オーガー、お前さんは先に行け。こいつの相手は俺がやる」
「えっ!? いや、でも……あいつはここを通さないって──」
「……良いだろう」
「!?」
信じられないことに、先程まで絶対に通さないとゴウを阻んでいたコロッサルが、何の迷いもなく道を開け、戦闘前と同じく腕組みまでしていた。
「ほれ、門番の許可が降りたぞ」
「…………」
大悟が促すが、言われたゴウにとっては、当然素直に喜べる心情であるわけがない。
これでは本当に、自分の存在が眼中に無いようではないか。レベル8のハイランカー達にとって、自分はそれほどまでに取るに足らない存在なのだろうか。
「いいか誤解するなよ?」
大悟がゴウの右肩に手を置いた。いつものようにゴウの心境を見抜いて諭すような声は、コロッサルには聞こえない程度に声量を絞っている。
「あいつだって、好き好んでお前さんを先に通したいわけじゃない。俺達二人を相手にするのは厳しいからこその、それなりに苦渋の決断なんだろうよ」
「だ、だったら尚更、二人であいつを倒せばいいじゃないですか」
「あの奥でプランバムが何かをしているなら……肝心な何をしているかは知らんが、それを妨害する奴が必要だ。それをお前さんに任せたい」
「でも……師匠が先に進んで、僕がこのままコロッサルの相手をするのは駄目なんですか?」
「そうなると、コロッサルは是が非でも俺を追いかけてくるだろうな。そして俺達はタッグで戦うことになる。その事態を避けたいのは分かっているだろ?」
ここまで言われれば、ゴウも納得せざるを得なかった。
コロッサルが主と呼ぶプランバムも、おそらくはレベル8なのだろう(根拠はないが、レベル9にまで到達しているとはさすがに考えにくい)。そんなレベル8のタッグと戦うには、一人だけレベル6の自分がいるこちらがやはり不利だ。
故にゴウがプランバムの足止めをしている間に、コロッサルを倒した大悟が加勢に来るという構図がベスト。もっとも、ゴウや大悟が合流する前に、互いの相手に倒されるという懸念事項を除いた場合の話だが。
──他の皆がいつ来るか分からない以上、こちらが勝利する確率が一番高いやり方だけど……。やっぱり悔し──。
「うっ!?」
ゴウの額に軽い衝撃が走る。大悟がゴウにデコピンを食らわせたのだ。
「はぁー、お前さんはつくづく分かりやすいな。大方、二対二になれば自分が足手まといになるとでも思ったんだろ」
「うっ……。でも事実じゃないですか」
「まぁな」
ストレートすぎる物言いに、デコピン以上のショックを受けるゴウ。
しかし、大悟がすぐに言葉を付け加える。
「確かに俺はあいつらを初めて見た時に、只者じゃないと感じ取った。その中でもプランバムは殊更な。でも今のお前さんの力量なら、奴の相手でも通じると俺は信頼している。だから先に行けと言ったんだ」
「師匠……」
「それにな、目の前にいるコロッサルだって、俺がここの入口で隠れていても気付かないくらい、お前さんとの対戦に集中していたんだ。お前さんは強いよ、自信を持ちな」
バシッと大悟に背中を叩かれると、不思議と胸に詰まったわだかまりのようなものが、氷のように溶けていくのをゴウは感じた。何だか勝手に独り相撲をしていたようで、可笑しくなってしまう。
大悟が人を乗せるのが上手いのか、自分が単純なのか。どちらにせよ今は、そんなことを考えている場合ではない。
「分かりました……勝ってくださいよ?」
「任せとけ。それといつも言っているが、まずは楽しめよ。格上の相手と戦うという、この状況さえもな」
「はい!」
「よし、良い返事だ」
大悟が広げた手に応えるように、師弟はハイタッチを交わした。
ゴウが奥へ通じる道へ進むのを、腕を組んだまま見届けるコロッサルに、部屋に残った大悟は声をかける。
「いや悪いな、律儀に待ってもらって」
「──《荒法師》アイライト・ボンズ……。その名、以前に直接対面するより前から耳にはしていた。《首刈り坊主》とも呼ばれていたと聞く」
「俺らについて調べたのか……。二つ目の呼ばれ方は新手の妖怪みたいであんまり好きじゃない。海坊主じゃあるまいし」
どうやら以前、無制限中立フィールドで出会ってから自分を、ひいてはアウトローについて調べていたらしいコロッサルから、かつての悪名を持ち出されたことに大悟は辟易する。
今より三年近く前。
レギオンマスターが討たれたことで崩壊の一途を辿っていたプロミネンスが、その領土を数多くのレギオンに奪われる中、大悟は崩れかけたプロミネンスに加入し、結果的にレギオンの建て直しに貢献した。
その際に付いた二つ名が《首刈り坊主》。
強化外装の薙刀を振るっては、数多の敵チームの首を斬り落としていたことが由来だと大多数から思われているのだが、事実はやや異なる。
実際には強化外装を持ち出すのは、大悟が多数から一度に囲まれた状況下に限った話で、基本的に徒手空拳で戦うことがほとんどだった。それが噂に尾ひれが付いて、まるで敵の首を求めて戦場を駆ける悪鬼のように広まったのだ。
挙句、「その名前を言ったら首を刈られるぞ」と周りに冗談を吹聴していた者が対戦相手の中にいたらしく、知らずにその者の首を落としたことで一気に広まってしまった。
ただし、元々《荒法師》で通っていたこともあって、知っている者は知っているが、かつて十人連続対戦に挑んだことに由来する《
そんな余談めいた経緯など、おそらく知る由もないのだろうと大悟が考えていると、コロッサルが組んでいた腕を解いた。
「……貴様を初めて目にした時に直感で分かった、この男は危険だと。同胞によるアウトローの構成員についての調査結果を聞いて、それも確信に変わった。世田谷を拠点に活動するレギオンではない集団──《
「さすがに過大評価が過ぎるな。情報も少し違う。俺はアウトローのリーダーじゃないし、そもそもアウトロー内に上も下もない。従わせている? 心外極まる」
どうも向こうからは、レギオンにおけるレギオンマスターに相当する存在だと思われていたようだ。大悟にしてみれば、見当違いもいいところである。
「アウトローは自由に加速世界を過ごす連中の集まり、来る者拒まず去る者追わず。存在を知っている者は知っているし、知らない者は知らなかったところで何の問題もない。──まぁ、確かに全員、腕に多少の覚えはあるがね」
「事実がどうあれ、貴様が脅威であることに変わりはない。たった今、奥に進んだダイヤモンド・オーガーなど及ぶべくもない程に。貴様をこれより先に進ませてしまえば、主にとって好ましくないことになるだろう。故に今ここで憂いの芽は摘み取らねばならぬ」
今にも飛び出しそうな臨戦態勢となるコロッサル。
対するを大悟も構える。ここに来るより前、ダンジョンに設置された罠の一つである、半魚人のデザインをした動く彫像の大群を全滅させた大悟もまた、普段以上に気持ちが
「おぉ、やる気だな、そうこなくちゃ。聞きたいことはお前さんの主に聞くことにして、今は楽しむとしよう。──お互いに体も温まっていることだしな!」
敵はハイランカークラスのメタルカラー。相手にとって不足はない。
大悟は歓喜の声を上げながら、突風のようにコロッサルへと向かっていった。