アクセル・ワールド・アナザー 無法者のヴォカリーズ   作:クリアウォーター

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第四十八話

 第四十八話 無敵の正体

 

 

 幾本もの柱と崩れた建物が立ち並ぶ空間。

 部屋の上部には、直径一メートル近い大きさをした光る球体が浮かび、部屋中を太陽のように煌々(こうこう)と照らしている。

 そんな擬似太陽に負けず劣らずの光を装甲の各所から放っているのは、透過したサンバイザーと黒いサングラスが印象的なエピュラシオンのメンバー、サンシャイン・ソーラー。彼女はこの場を訪れた三人の敵を相手取り、未だに傷一つ付いていなかった。

 

「どうしたの? 三人がかりでもう終わり?」

 

 体の所々が黒く焦げているメディックとキューブを前にして、ソーラーの表情は余裕に満ちている。

 

「さてさて……どうしたものかしらね」

 

 メディックが静かに呟く中、キューブはこれまでの戦闘を頭の中で反芻していた。

 ソーラーの戦法は対戦開始当初に召喚した強化外装である、今は部屋の上部に浮かぶ光る球体から熱線を照射して攻撃、自らは目が眩むほどの光を装甲から放ち、その隙にこちらの攻撃を回避するというものだった。

 そこまでは良い。自身は眩惑、攻撃は強化外装に頼るというのは、《間接の黄色》に属するデュエルアバターの典型的な戦い方だからだ。

 問題はこちらの攻撃が確実にソーラーの体にヒットしたのにもかかわらず、まるで効いていないのだ。

 リキュールの撃った弾丸や、己の氷を纏ったパンチが確かに当たったのをキューブは確認したのだが、ソーラーは平然としていて、装甲には跡すら残っていない。

 相手とのレベルがあまりにもかけ離れ、高い防御力を持っているのなら話はまだ分かる。しかし、自分やリキュールとのレベル差は1つだけで、メディックとは同じレベル。その上、黄色系アバターの防御力は近接型のデュエルアバターに比べれば幾分劣る。

 必殺技は発動しておらず、アビリティにしても長時間相手の攻撃を受け付けないなんて話は聞いたこともない。

 メディックが真っ先に状態異常を回復させる必殺技を発動したのに効果がなかったことから、残る可能性は心意技だが、技名を発声しないで発動したとしても、肝心の過剰光(オーバーレイ)が見られなかった。

 分からないことだらけだが、いずれにせよ無敵の秘密を解かない限り、こちらに勝機は訪れない。

 ──どーすりゃ、いいんだよー……。

 氷に包まれた頭を捻るキューブは、メディックに声をかけられた。

 

「キューブちゃん、彼女に攻撃が当たった時の感じをもう一度教えてちょうだい」

「うん? 俺の攻撃のいくつかは確実にあいつに当たってるよー。ただ手応えを感じないんだ。上手く言えないけどー、どこか中身が詰まってないみたいでさ。でもー……装甲から出ている光で目は眩むし、あの太陽からの熱線も本物。おかげで氷がまー、溶ーける溶ける」

 

 キューブが全身のあちこちに身に着けているブロックアイスは、ソーラーの熱線を掠めた箇所が溶けて、まるで汗をかいているような様になっていた。これは体の至る所に立方体の氷を発生させ、装甲として用いるキューブのアビリティ《純氷鎧(アイス・エンフォールド)》によるものである。

 冷気を発生させて物体を凍結させたり、氷を作り出す氷結系統の技は数あれど、無色透明な純氷そのものをほぼノータイムで召喚する形態を取るのはかなり珍しいタイプで、キューブは氷を召喚する座標に存在する物体ごと氷で包んで固定するといった応用も編み出していた。

 氷は必ず己の体の一部に触れている状態でないと召喚できないものの、必殺技ゲージの消費量は少なく、ゲージの消費で何度でも召喚できる。ただし氷の性質上、炎熱系統の攻撃には滅法弱いのが難点であった。

 

「手応えを感じない……か。もっと調べようにもあの光る球が邪魔よね。でもあの高さじゃ、リキュールちゃんの攻撃しか当たらな──」

 

 メディックが間一髪で熱戦から避けると、今まで立っていた地面に新たな焦げ目が付けられていた。当然ながら、相手はのんびり作戦会議をさせるつもりはなさそうだ。

 ちなみにリキュールは、メディックとキューブとは離れた場所に身を隠している。柱や建物の陰を移動しては、ソーラーの攻撃の要である、光る球体を狙っているのだ。

 だが、球体はソーラーの意思で動かせるらしく、加えてそれ自体が時折強く発光することで狙撃を阻害、銃弾の連射をしようものなら、そこをめがけて熱線を撃ってくる。銃口に当たって熱で融けてしまえば、リキュールは攻撃手段をほぼ失うので、無闇に弾幕を張ることも難しい状況だった。

 八方塞に近付いているこの状況下、メディックが決意したように口を開く。

 

「……キューブちゃん、少し下がっていてくれる? あたしがやるわ」

 

 前に出るメディックに、キューブはすぐには頷けなかった。

 

「あたしが、ってメディック一人じゃ無茶だよー……。あいつに確実に攻撃当てようとするなら、メディック自身も巻き込まれるじゃんかー、だったら俺が──」

「キューブちゃんの氷は、あの子の熱線と相性が悪いでしょ」

「そりゃそうだけどー……」

「それより、リキュールちゃんのカバーに回ってちょうだい。一つ試してみたいことがあるの。……好きじゃないけど、リスクを負わなくちゃならないときもあるわ」

 

 今この場にいる仲間の三人の中で、戦闘経験が一番豊富なのはメディックだ。故に彼女の指示に従うのは的確なのだろうが、メディックの攻撃方法を知るキューブとしては、目論見(もくろみ)が外れたときのリスクが高すぎる気がしてならない。それに──。

 

「大丈夫よ、伊達に修羅場はくぐっていないわ。それに知ってるでしょ? あたし、サポートだけが能じゃないんだから」

 

 キューブの返答を待たずにウインクをしてから、メディックはソーラーに向かって駆け出していった。

 

「うーん……。その感じが死亡フラグっぽいって言おうとしたんだけどなー…………」

 

 語尾が間延びしながらも切迫感を声に混ぜるキューブは、不本意ながらメディックを見守りつつ、言われた通りに姿を隠しているリキュールを探しに向かった。

 

 

 

 ブレイン・バーストにおける《親子》とは、初期の無制限にコピー可能だった時代を除けば、互いに一人だけの唯一無二の存在だ。それは必ずお互いの現実の素性を知っていることを差し引いても、特別な間柄であることはバーストリンカーであれば誰もが理解している。

 アウトローメンバーの中で《親子》揃って在籍している者は、過去に在籍した者を含めても、アイオライト・ボンズとダイヤモンド・オーガー、カナリア・コンダクターとクリスタル・ジャッジの二組だけである。

 残りのメンバーには《親》がすでにおらず、また、身近に適正がある存在がいないのか、《子》を作らない者がほとんどだ。

 そんな中で《親》どころか《子》さえも失ったバーストリンカー、それがエッグ・メディックだった。

 今日出会った者が数日後には永久退場している。そんなケースもザラにあった加速世界の黎明期。生き残ることさえも厳しい時代。

 オリジネーターの一人だった《親》は、ブレイン・バーストをメディックに与えた二ヵ月後に、ポイント全損によって加速世界を去り、当時の現実でも親友だった《子》は、無制限中立フィールドへ行くことができるレベル4になる前に、通常対戦のギャラリーとして見守っていたメディックの前で消えた。

 もしもこの数日後に、後にアウトローを結成することになる仲間達と出会わなければ、メディックは失意の底に沈んだまま加速世界から消えていただろう。

 そんな過去も手伝って、メディックはアウトローという居場所を非常に大切に想っており、新たに加入するメンバーも我が子のように可愛がろうとするあまり、やや過保護になることもしばしばある。

 戦闘時には味方を支援系統の必殺技を用いて助け、立ちはだかる敵には一転して苛烈に攻め倒す。その両極端な二つの顔を見せるところから、いつしか彼女は《天使と悪魔(ダブル・フェイス)》と呼ばれるようになっていた。

 

 

 

 わざわざ上を向かずとも上方から降り注ぐ光が、自分が狙われていることを知らせてくれている。

 メディックは光る球体から放たれる熱線を、不規則なジグザグを描いて走ることで回避しながら、ソーラーの元へと走っていた。

 直接攻撃が不得手であるはずの間接型が、全く怯まずに自分との距離を詰めることが理解できないのか、ソーラーが小さく舌打ちをしながら、装甲を発光させてメディックの目を眩ませようとする。

 メディックはこれを見越し、顔を俯かせて強い光を直視せずに突き進み、そのまま体当たりをソーラーに食らわせた。

 ──……? 何かしら、この感じ……。

 攻撃が成功してソーラーがその勢いで下がっても、メディックは釈然としない違和感を覚えた。キューブの言っていた通り、確かに感触があるのに手応えがない。

 その時、真上から光が差し込んだ。光る球体が熱線を発射しようとしていること、もう回避はできないことも、メディックには理解できた。

 だが、そんなことは予想の範疇だ。ダメージを覚悟の上で特攻を仕掛けたのだから。

 メディックは素早く右手を真上に掲げると、その手に己と同色の鶏卵型をした物体を一つ出現させた。一瞬遅れて熱線がメディックの右手に直撃する。

 それと同時に、メディックの右手に乗った鶏卵より一回り大きい卵が、破裂音を響かせて爆発した。

 

「ああっ……!」

「なっ!?」

 

 右手が焼ける痛みに声を漏らすメディックをよそに、ソーラーが初めて驚きの声を上げた。それもそのはず、爆発した卵の殻が勢い良く四方八方に飛び散ったのだ。

 これこそがメディックのメインの攻撃手段、鶏卵型の手榴弾である。

 手榴弾は爆風よりも、爆発の勢いで炸裂させた外装を周囲に撒き散らすことで、対象にダメージを与えるものなので、一歩間違えると自らもダメージを負う代物だった。本来、自分の至近距離で使うものではない。

 メディックは痛む右手を押さえながらソーラーの方を向くと、手榴弾の破片を至近距離で正面からまともに受けたはずの彼女の体にはやはり傷一つ無い。だが──。

 

「この……!」

 

 無傷のソーラーは明らかに怒りを含んだ表情でメディックを睨み付けている。

 その様子を見たメディックは、続けて迫る熱線を避けながらまたも疑問を覚えた。

 あれは間違いなく、対戦相手からの攻撃を受けたり、相手の作戦にしてやられた者の表情だ。これまで攻撃を受けても平然としていたのに、今回に限ってどうして表情に変化があったのか。それにソーラーへぶつかった時の違和感。本当に、本当に自分は、彼女にぶつかっていたのだろうか。

 メディックは脳内で料理をするかのように、可能性を包丁で切り刻み、これまで確認した事実と一緒に鍋へ放り込んで煮詰めていく。

 敵の持ち味は『光』。光を戦闘に用いている。装甲から常に光を放っていて、敵の目を眩ませるほどに輝かせることができる。攻撃は太陽を模した球体を高所に浮かせて、収束させた光、熱線を放つ。発射速度は速いが、軌道は直線的で連発はできない。そして、彼女にこちらの攻撃が当たっても、体にダメージは見られない。その理由は──。

 そして数秒の内に考えを纏め上げ、ついにメディックは一つの仮定に至った。証明するには実践あるのみだ。

 

「リキュールちゃん!! この場所で一番高い建物を大至急で破壊して!」

「なぁっ!?」

 

 息を大きく吸ってから、この場のどこにいても聞こえるであろう声量でメディックがリキュールに指示を飛ばすと、手榴弾が爆発した時とは比較にならないほどにソーラーが動揺を見せた。

 

「アンタまさか……させるか!」

「こっちの台詞よ」

 

 メディックは両手に一つずつ手榴弾を出現させると、ソーラーの足下に叩き付けた。

 直後に周囲に破片が散らばっても、やはり傷付かないのにもかかわらずソーラーは怯み、上方に浮かんだ球体からの熱線の発射は阻止される。

 

「《イグナイト・バズーカ》!」

 

 どこからか、リキュールの声と砲撃音が響いた。

 弾丸は明確な場所を教えていなくとも、メディックの指示と相違ない、ここを見渡せるのに最適な場所へと飛来し着弾、大爆発を引き起こす。

 すると、リキュールの必殺技の追加効果で火の手が上がり始める建物から、人影が一つ飛び降りたのが見えた。他の建物が邪魔でメディックの立っている場所からは見えないが、人影は受身が上手く取れなかったらしく、鈍い落下音と痛みに呻く声がかすかに聞こえてきた。

 

「ミラ!!」

 

 人影の飛び降りた方向に向かって叫ぶソーラーにメディックが目を向けると、予想はしていたとはいえ、それでも充分に驚くべき光景がそこにはあった。

 今まで無傷だったソーラーの体が、傷だらけになっていたのだ。損傷具合から原因は明らかにメディックの手榴弾の欠片。一部の破片は深く突き刺さっているのか、常に輝きを放っていた装甲の数カ所からは光が消えていた。そんな明かりの切れた照明のような装甲には、ふわふわとした白い綿毛が貼り付いている。

 

「なるほどね。その綿毛が、あなたを無敵に見せていたカラクリなのね。もっと厳密に言えば、いま落っこちた人の心意技であたし達に存在を誤認させていたってとこかしら?」

「アンタいつから……いつから気付いていたの?」

 

 見破られない自信があったのだろう、ソーラーは信じられないものを見るようにメディックを睨み、全ての装甲から眩い光が消えた。どうやら装甲の光は自由に明滅できるらしい。

 光を消した装甲の全てに貼り付いていた綿毛も、少し間を置いてから溶けるように消えていく。

 その様子を見ながら、メディックは自分の推理を淡々と口に出していった。

 

「……攻撃が当たったのに跡も残っていない。この時点で有り得ない話よね。幻惑系統の技を気付かない内に受けていたにしても、触れた感覚は一応ある……。それなのにあなたが必殺技、アビリティ、心意技のいずれも発動した様子が見られない。だったら他に仲間がいる可能性を考えるべきなんだけど、あなたの派手な見た目と存在感が、それを頭の隅に追いやってしまう」

 

 それは手品師のやり口にも近い手法だ。動きが大きい片手の動作に目を引かれている間に、空いている片手で素早く仕込みを終えている。

 自らが堂々と姿を見せ、あまつさえ光まで放っていれば、嫌でも目に付いてしまうのだ。

 

「強化外装が直接自分で持つ必要のないタイプなのも、都合が良いわよね。これが銃だったら、攻撃の方向が見えているあなたの姿とズレて、もっと分かりやすかったんでしょうけど……」

 

 どうやらソーラーと仲間の心意使いは、メディック達に技を仕掛けていること自体を気付かせないことに重きを置いていたらしい。実際それは上手くいっていた。

 メディックの攻撃が指向性を持たない、周囲に破片を撒き散らす手榴弾でなければ。それがソーラーの本当に立っていたであろう位置まで攻撃範囲に入っていなければ。見破ることはできなかったのかもしれない。

 

「おまけにあなたの戦闘スタイルなら、万が一隠れている仲間の存在を考慮されても複数人を相手取れるわよね。強化外装は相手との距離に関係なく攻撃できるし、自分が狙われても光で目眩ましをして逃げられる。でも一番のポイントは、装甲が常に光を発していることで心意技の過剰光(オーバーレイ)を隠していたこと。……木を隠すなら森の中、なんてよく言ったものだわ。装甲の光を過剰光(オーバーレイ)のカムフラージュにしていたなんて。違うかしら?」

「……正解」

 

 思いの外、興が乗って探偵ばりの推理を披露したメディックに返事をしたのは、ソーラーではなく、ひどく沈んだ調子をした、か細い女性の声。

 声のした方向にメディックが振り向くと、今まで身を隠し続けていた、この場に存在する五人目のデュエルアバターがメディックの前に姿を現していた。

 明るい黄緑色のカラーリング、いかにも魔術師といった様子のローブ。F型アバターにしてはかなり背が高い反面、体つきは枝のように細く猫背気味で、顎下まで伸びる(すだれ)のような前髪のパーツが顔を覆い、歩く度に前髪が揺れることで顔をわずかに覗かせる。その姿は、メディックに一つの植物を連想させた。

 

「柳……。そう、じゃあ……綿毛は柳絮(りゅうじょ)ね?」

「それも、正解……。私、《ウィロー・ミラージュ》……レベルは……7」

 

 柳絮とはタンポポと同様に種子を包み、風に遠くまで運ばせる役割がある柳の綿毛のことだ。無論、実際の柳絮に幻覚を見せる効果などないが。

 ソーラーの隣に並んだウィロー・ミラージュは意外にも律儀に名乗り、レベルまで教えてくれた。依然として声は暗いが、それはデフォルトで性格は友好的なのだろうか。

 

「ミラ、アンタ大丈夫なの?」

「一応平気……痛いけど……。ありがとう、ソラ……」

「おーい、メディック~」

 

 隣に並び立ったミラージュの身をソーラーが案じる中、メディックにキューブが駆け寄ってきた。

 

「上手くいったねー。あ、リキュールは後ろでスタンバってるよー」

 

 振り向くと、やや離れた柱の上で銃を構えるリキュールが立っていたので、メディックは先の攻撃に対する賞賛の意を込めて手を振った。

 だが、まだ勝負は終わってはいない。メディックはすぐに敵である二人組みに向き直って問い詰める。

 

「さてと……第二ラウンドを始める前に一つ聞きたいんだけど、あなた達エピュラシオンは、心意技を普段の対戦でも使っているの?」

 

 ミラージュの発動し続けていた心意技は、基本である四種のいずれかを機能拡張させる、《第一段階》を明らかに上回る、独自の形態に発展させた《第二段階》に到達していた。

 つまりは相応の修行や経験を積んだことになるのだが、心意技は大なり小なり使用者を心の暗黒面に引き寄せる危険性を孕んだ、負の一面がある。

 そのことを知らずにいるのか、それとも承知の上で使用しているかで、メディックの彼女達への対応が変わってくるのだが、訊ねられたソーラーはこいつは何を言っているのかと言わんばかりに、大きく鼻を鳴らした。

 

「あのねぇ……バッカじゃないの? アタシらが心意技をホイホイ使うような間抜けに見えてんの? そんなことしてたらマスターに《断罪》されるっつーの」

 

 同意するように頷いてから、ミラージュも続く。

 

「うん、心外……。でも、今日は特別……。マスターの悲願が……叶う日だから……」

「悲願?」

「マスターは……今の加速世界を……良く思って……いない」

「最近の加速世界は乱れに乱れてんでしょ。特にあのISSキットとかいう、きっもち悪い目ん玉。あれをばら撒いてる奴らなんかがいい例よ」

 

 彼女達が心意システムに関する、一応の節度を持っているらしいことを理解したメディックだったが、また気になる単語が飛び出した。

 ISSキット。最近加速世界を騒がせている、着装すれば誰でも心意技の使用をできるようになるという量産された強化外装。使用者の心を蝕む危険な代物。

 使用者が増え続けている事態を重く見た王達が会合を開いたことを、ボンズから知らされたアウトローメンバーは、同時にISSキットを配布している集団の名前を知ることとなった。

 

「加速研究会……」

「へぇ、よく知ってるじゃん。でもね、キットのことを差し引いても、昔から加速世界は歪みを抱えているんだよ」

 

 ソーラーはメディックに感心しつつ、これまでより真剣味を深めた調子で話していく。

 

「いわれのない差別を受ける人間がいるのは、ここでも現実でも変わらない。理不尽な迫害を受けた人の大多数は泣き寝入りするしかないこともね。アタシ自身はそんな経験ないけど、大半のエピュラシオンのメンバーは、マスターに救われた形でレギオンに加わったんだ。このミラージュもそう」

 

 ソーラーが隣に立つミラージュを親指でクイと示す。

 

「この子はね、《親》を失ってから仲間を作ろうとしたけど、どのレギオンもこの子を気味悪がって相手にしなかったらしいの。そうして最後に行き着いた集団からは、エネミーの囮役をさせられていたのよ。ひどい話でしょ? アタシらが偶然見つけていなかったら、今この場にこうして立っていないでしょうよ」

 

 ミラージュは何も言わないが、ソーラーが作り話をしているようには、メディックには思えなかった。実際、似たような話を時たま耳にすることがあるからだ。

 デュエルアバターのビジュアルは、その人物の心を鋳型にしているので千差万別、当然ながら容姿にも差が付く部分はある。人間は視覚が五感の主体である以上、そうなってしまうのは無理からぬことでもあった。

 

「どうしてこんな話をしたのかって言うとね……」

 

 敵意はないことを示すように両手を挙げたソーラーが、数歩だけ前進する。

 

「──不意を突く為かな」

 

 瞬間、ソーラーの装甲各所から今までの比ではない輝きをした閃光が放たれた。

 

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