アクセル・ワールド・アナザー 無法者のヴォカリーズ   作:クリアウォーター

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決戦篇 肆
第六十話


 第六十話 師弟連携

 

 

「う……らあっ!」

 

 走るゴウは落ちていた瓦礫の一つを拾い上げて鷲掴みにすると、足を止めずに振りかぶり、プランバムに向かって投げつける。

 プランバムは自分の頭と同じくらいの大きさをした、瓦礫の剛速球が迫っていることに気付くと、大悟に振り下ろそうとしていた刃を一度止め、刃の腹で瓦礫をあっさりと防いだ。

 ガン、と音を立てて瓦礫が砕け散る間に、ゴウは一気に距離を詰めていく。

 仲間の窮地を前に、考えなしに飛び出した愚か者。プランバムにはそう見えたのだろう。参戦したゴウに驚きもせずに大剣の腕を再び掲げると、丸腰で突っ込んできたゴウを両断すべく振り下ろす。

 だが、ゴウは犬死にする気など毛頭ない。

 

「舐めるなあっ!」

 

 ゴウはスナップを利かせた右手で宙を叩くと、一瞬で実体化した物体を握り締める。

 それはガラスのように透明な、しかし見た目にそぐわない頑丈さと重量を兼ね備えた金砕棒。ダイヤモンド・オーガーの強化外装《アンブレイカブル》。

 

「何……!?」

 

 突然の強化外装の出現に、プランバムが驚きの声を上げた。

 

 ギャリリリリィ!! 

 

 ゴウは金棒で迫る刃を受け止めると、そのまま傾けて軌道を逸らし、巨大な刃は床を割り砕くだけで終わる。

 

「はあっ!」

「ぐ……!」

 

 続けてゴウはプランバムめがけて、気合と共に袈裟切り気味に金棒を振り下ろした。

 もはや躱せないと判断していたのか、プランバムは服の表面を硬質化させたらしく、硬い感触が武器を通じてゴウの腕へと伝わっていく。だが、只でさえ重量のある金棒はゴウの《剛力》アビリティも加わり、鉛の服をひしゃげさせてプランバムの体に深く食い込んでいった。

 

「お、のれぇ……!」

 

 ゴウの一撃を受けたプランバムは呻きながら悪態をつくと、その背中が盛り上がり、先が尖った太い槍が発射された。槍は後方の壁に刺さると素早く縮み始め、プランバムを引き寄せるようにその場から離脱させていく。

 ゴウはプランバムを深追いせずに、プランバムのアビリティから解放された大悟に手を差し伸べた。

 

「動けますか?」

「おう……助かった」

 

 大悟はゴウの手を取って立ち上がると、ゴウの持つ《アンブレイカブル》を見やる。

 

「上手く虚を突いたな。インストを操作して出したのか」

「はい。ボイスコマンドで出したんじゃ、多分防がれると思ったんです」

 

《アンブレイカブル》が突然現れた理由。それは、ゴウがプランバムと大悟の下へ走っていた時、インストメニューを操作しながら接近していたからだ。そして、タイミングを合わせて強化外装の召喚を選択した。

 強化外装を常時装備状態にしているバーストリンカーも多く存在するが、強化外装の召喚は基本的に登録したボイスコマンドによって行われる。そのためインストを操作することでの召喚は、声を発することで居場所を知らせたくないなどの限定的な状況下ぐらいでしか使われない。だからこそ、ゴウは確実にプランバムの不意を突けると確信し、この方法を取ったのだ。

 

「……目付きが変わったな。力、貸してくれるか?」

「はい、もう大丈夫です」

 

 交わす言葉はそれだけ。それでも満足そうに頷く大悟を見て、確かに通じ合えているようにゴウには思えた。

 

「さてと、それじゃあ……お前さんから見て、どうしたら良いと思う?」

「体は変化できても膨張には限界はあるみたいですね。今もすぐに回避しないで右腕が元に戻ってから背中から、えっと……槍? を伸ばしたのがその証拠です」

「確かに。あの鉛の服が奴にとっての主立った装甲なんだろう。多分、変化できるのはあくまで鉛の装甲部分だけで、体の原型は留めたままだ。そうでなけりゃ今の一撃だって、体そのものを捻じ曲げて避けられただろうしな」

 

 これまでの動きからプランバムの手の内を紐解いていくゴウと大悟。

 ただし、法服と中華道着をミックスしたような流体金属の服はほぼ全身を覆い、手足にも装甲は付いているので、脅威であることに変わりはないことも二人は承知している。

 少し離れた場所に立つプランバムの右肩の凹みが、みるみる内に元の状態に戻っていく。

 その様子を観察していた大悟は、確信するような口振りで言った。

 

「あの様子じゃ、治っているのはガワだけだ。ダメージは確実に与えている。少しは勝ちが見えてきたと思わないか?」

「それでも強敵ですけどね……。多分これまで以上に隙がなくなるんじゃ──うっ!?」

「隙は作るもんだよ。今回の決め手はお前さんだ。ここが正念場、準備は良いな?」

 

 活を入れるように大悟にバシンと背中を叩かれてから、ゴウは金棒を握り直す。

 

「痛てて……はい!」

 

 ゴウは返事をすると同時に、上から降ってくる鎖の付いた鉄球を弾き返した。

 小気味良い音を立てて飛んでいく鉄球は溶けるように形を崩し、元のプランバムの左手に戻っていく。その間にプランバムは右腕を槍状に変化させ、伸張する先端がゴウ達に迫る。

 ゴウと大悟がこれを避けると、鉛の槍は壁に突き刺さり、先程の回避と同様に縮みながらプランバムがこちらに向かってきた。

 

「そっち行ったぞ!」

 

 大悟が大声で知らせる間に、すでにプランバムはゴウとの間合いを詰めていた。右手を先端が球状に膨れた棍棒に変えて、ゴウめがけて叩き付けようと振り回す。

 

「おおっ……!」

 

 ゴウは《アンブレイカブル》でこれを受け止めたが、対する相手は変化しているとはいえ、片手であるのに押し返せない。やはりプランバムは単純な腕力や耐久力も《オリハルコン》によって底上げされているようだ。

 

「先程は後れを取ったが、今度はそうはいかぬ……!」

 

 プランバムがそう言うと、棍棒の球体の表面部分が震えるように波立つ。

 何かが来るとは分かっていても、両腕が塞がっているゴウには避けられない。

 だが、今のゴウは一人ではなかった。

 

「《紳》!」

 

 ゴウとプランバムの間に薙刀の厚い刀身が割り込み、無数に突き出た棘が伸び切る前にゴウを守る。

 この隙にゴウはすぐに棍棒を払って、プランバムの脛に金棒をぶつけようとする。

 ところが、プランバムは左脚を上げると、足裏をスプリングの付いた円盾に変えた。プランバムは円盾でゴウの攻撃を防ぐと同時に、反発を利用した跳躍で一気に距離を取る。

 

「くそっ、何でも有りか!」

 

 普通なら有り得ない防御方法に、ゴウがたまらず文句を言うと、次にプランバムは鞭に変化させた右腕を《アンブレイカブル》の先端に絡み付けた。

 

「それは没収させてもらう」

 

 たちまちプランバムが、凄まじい力でゴウから武器を奪い取ろうとする。

 

「ぐっ! う、おおおお……!」

 

 そうはさせまいとゴウは両足を強く踏み締めて抵抗し、半ば綱引きのような状況になる。それでも徐々にゴウの方が引っ張られ、両足が床に轍を刻みながらプランバムの元へと引き寄せられていく。

 大悟はプランバムの剣に変化した左腕と再び切り結んでいて、こちらを助けられる状態ではない。この状況を一人でどうにか切り抜けなければと、ゴウは頭を働かせる。

 ──なんて力だ。僕が力比べで押されるなんて……いや、引っ張られてんだけど……って馬鹿なこと考えてる場合か! ん……? 引っ張られる…………そうだ! 

 ふと閃いたゴウは、プランバムと綱引き状態になっていた金棒を唐突に手放した。

 すると、ゴウの《剛力》アビリティにも勝るとも劣らない力で引っ張られていた金棒が、ミサイルさながらに勢い付いてプランバムの元へ飛んでいった。

 迫る金棒を避けるプランバムだったが、その隙を大悟は逃さない。

 

「カアッ!」

「……!!」

 

 先程ゴウが打ち付けた部位をなぞるように、大悟が薙刀でプランバムの右肩を斬り付けた。

 

「はっはぁ! 今の良かったぞ、オーガー!」

「あはは……」

 

 それからはゴウと大悟は連携して攻撃を繰り返し、プランバムを追い詰めていった。常に付かず離れずの間を保ち続け、距離を取らせるなどの仕切り直しはさせない。

 度々反撃を食らっても、互いが相方の動きを助け、敵の攻撃は妨害することで、大きなダメージを受けないように立ち回っていく。ここにきて、二対一のアドバンテージの差が如実に出始めていた。

 ゴウが大悟と息の合う連携を可能にしているのは、ゴウが新米(ニュービー)の頃や心意の修行の他、手合わせという名のしごきを散々受けていたことも理由の一つである。

 大悟はもちろん加減はしていただろうが、それで立ち回りも含めて、殴る蹴る、薙刀を振り回すなどの動作をデュエルアバターの体に(物理的に)叩き込まれたのだから。

 そうして、この戦況を維持したまま勝利することが現実味を帯び始めた頃。

 

「調、子に……乗るな……!」

 

 体を丸めたプランバムが体中から棘を突き出して、ゴウと大悟を強制的に下がらせた。ハリネズミかヤマアラシか、あるいは剣山のようになったプランバムからは、これまで以上に明確な憤怒が感じられる。

 

「もはやこれまで……潰れて消えろ」

 

 より一層と軋んだ声を響かせて元の姿に戻ったプランバムの周囲が、ゴウにはどこか歪んだように見えた、その瞬間だった。

 

「《鈍重地帯(ヘヴィー・ベルト)》!!」

 

 ぎらついたメタリックブルーの過剰光(オーバーレイ)がプランバムから屹立すると一気に広がり、ゴウと大悟を呑み込まんと迫る。

 ゴウは何をすべきかを直感で判断していた。心意技を防ぐには心意技しかない、と。

 

「《黒金剛(カーボナード)》!」

 

 ゴウの体に純白の光が灯ると、透明なダイヤモンド装甲が二回り以上厚みを増し、表面には細かいカット処理が成されていく。また、白い過剰光(オーバーレイ)を乱反射させているにもかかわらず、装甲の色は無骨な黒色へと変わっていった。

 

「《天部(デーヴァ)地天(プリティヴィー)》!」

 

 ゴウの隣でも光が発生する。それはプランバムの発している過剰光(オーバーレイ)のような暴力的な輝きではなく、しかし存在を確かに主張する蒼。

 大悟の各所に巻かれた数珠が回転しながら増殖し、全身に纏う鎧に早変わりした。

 心意の修行では見せなかった技だが、この状況下で発動したということは、自分の《黒金剛(カーボナード)》と同様、《装甲強度拡張》に分類されるものなのだろうとゴウが判断した直後。

 

「──うっ!?」

「──む……!」

 

 円柱型をした銀青色の結界に包まれると、見えない巨人の手に上から押し潰されているような重力にゴウは襲われた。よく見ると自分とプランバムから発せられる、二色の光の境がちりちりと細かなスパークを発生させている。互いの心意技が相手の心意技を上書きしようとせめぎ合っているのだ。

 わずかでも気を抜けば、今にも膝を着いてしまいそうになるところを耐えるが、影響を受けているのはゴウと大悟だけではなかった。

 

 ガシャャアン! 

 

 突然の何かが割れた音がした方向にゴウが首を向けると、少し離れた場所の天井に備え付けられていた特大のシャンデリアが落下して、粉々になっていた。それだけに留まらず、落ちたシャンデリアの細い装飾部分が下に向かって、飴細工のようにぐにゃりと折れ曲がっていく。

 数える程度しか心意技の種類を見ていないゴウに、この現象は以前目にした広範囲の心意技を思い起こさせた。

 

「これはまさか、空間侵食……?」

 

 空間侵食。心意技を正と負、個人と範囲に分けた際に《第四象限》に分類される《範囲を対象にした負の心意》。使用者の憎悪を発生源とした、負の心意の究極系だという。

《ヘルメス・コード縦走レース》に乱入したラスト・ジグソーが発動させた、範囲内の全てを朽ち果てさせる《錆びる秩序(ラスト・オーダー)》はこれに属し、レース会場に阿鼻叫喚の地獄を作り出した。

 しかし、ゴウの推論を耳にした大悟は首を振った。

 

「いや、違うな。これは正の心意技だ」

「こ、これがですか? でもシャンデリアとか、いろいろ壊れていってますけど……」

「おそらく原理は第一段階の射程と威力の拡張を組み上げた、第二段階の心意技だな。この空間には闇を感じない」

 

 そう言われて、ゴウは改めて周囲を見渡す。確かにこの空間は何度か目の当たりにした、負の心意技が放つ暗い過剰光(オーバーレイ)ではなく、鮮やかに輝く青みがかった銀色ではあるが……。

 

「ただ、奴の怒りはお前さんも感じるだろ? 逆に言うとだ……。怒りの中にあっても、自分を見失っているわけじゃない。願いか信念か、そういった正の感情がこの心意技を生み出している」

「願い……信念……」

「それでもひどく危ういことは確かだ。強い意志によって制御しているが、何かの拍子に負の面へ転がる危うさを秘めている。あるいは、元々は負の心意だったものを無理やり作り変えたのか……ともかくこれはそういう技だ。……奴自身、それも承知の上なんだろうが」

 

 どこかやるせなさそうに説明する大悟。

 仮に大悟の見立てが事実であるならば、プランバムは己の行動を、『正しい』と信じて行動しているということだ。加速世界を良い方向に導こうとしているのも、嘘偽りではないという証明であり、覚悟でもある。たとえ、《心の傷》に引き寄せられた末に堕ちたとしても本望なのだと。

 改めて分かり合えない事実を突きつけられた気がして、ゴウにはひどく悲しくなるが、そうなる前に倒さなければならない。──きっとプランバム自身の為にも。

 ただのエゴでしかないと理解していても、ゴウはそう思わずにはいられなかった。

 

「さて、感傷に浸っているだけの猶予はない。この手の心意技は強力な反面、集中力が途切れたら維持し続けられないのが常だ。耳を貸せ、作戦を伝える」

 

 大悟はもう、ゴウに覚悟を確かめることはしなかった。とうにゴウは戦う意志を示したからだ。

 故にゴウもまた、頷いて耳を大悟に近付けるのだった。

 

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