アクセル・ワールド・アナザー 無法者のヴォカリーズ   作:クリアウォーター

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第六十三話

 第六十三話 粛清者の仮面

 

 

 その少年はどこにでもいる普通の子供だった。

 彼が他の子供に比べて普通でないことを強いて挙げるのなら、三歳の頃にとある事故に巻き込まれた両親と死別していることだろうか。

 もちろん胸が引き裂かれるほどに悲しく、立ち直るのには相応の時間がかかったが、事故の後に親戚の元に引き取られた彼は、それでも心身共に(おおむ)ね健やかに成長していった。

 小学五年生になると、少年は当時の親友と呼べる友人からブレイン・バーストプログラムを受け取り、バーストリンカーとなる。ほとんどの子供の例に漏れず、少年がブレイン・バーストに夢中なるのに、そう時間はかからなった。

《親》である少年の友人は、とても小規模ではあるものの、レギオンのマスターを務めており、少年は《親》である友人に誘われるがままレギオンに加入した。特段、迷う理由もなかったからだ。

 少年にとってレギオンはすぐに居心地の良い場所となった。メンバー達は気さくで、彼らによる少年のデュエルアバターに合った戦略の提案やアドバイスなどもあって、少年は着実にレベルを上げていく。

 ある日、少年はクラスメイトのとある女子を《子》に選んだ。適正条件については元より、異性と直結してプログラムをコピーインストールすること、それを自分の口から話さなければならないのは、当時の少年にとって一世一代の大勝負だった。

 彼女が一昔前のジャンルである、対戦格闘ゲームを受け入れてくれるのだろうか。もしも拒絶された上に、これから距離を置かれたらどうしよう。それらの不安を振り払い、最大限に勇気を振り絞った結果、コピーインストールは無事に成功した。

 少女のデュエルバター名は《シルク・ピエリス》。

 その名の通り、滑らかな絹色をしたボディカラーと、背中には蝶の(はね)に似たパーツが付いた小柄なF型アバターで、対象に支援や妨害の効果を及ぼす鱗粉(りんぷん)を翅パーツから放出する、サポートタイプのアバターだ。

 快活な性格の少女にとって、当初は直接戦闘に不向きな支援型のアバターであることは不本意らしかったが、地面よりアバターの身長と同じ、およそ一メートル弱の高さまで浮遊可能な一種のホバー移動はすぐに気に入ったようだった。

《親》としての自覚も手伝い、少年は可憐な妖精のような容姿のピエリスを守り、導こうと意気込んだ。幸いにも比較的防御力の高いメタルカラーである少年は、華奢なピエリスの盾となるにはうってつけで、癖のないピエリスの支援効果も上手く噛み合い、タッグ戦での勝率は上々の戦果を挙げていく。

 毎日が楽しかった。頼れる《親》に仲間達、そして《子》がいる。そんな皆に囲まれた自分より幸福な人間はそうはいないであろうと、この頃の少年は本気で思っていた。

 だから、ピエリスがレベルアップ・ボーナスで得たとあるアビリティが、レギオンにとってもっとより良いことに繋がるのだと信じていた。

 それがレギオンの崩壊に繋がるなど、夢にも思わなかったのだ。

 

 

 

《ヒーラー》、回復術師。

 二〇四七年現在、ブレイン・バーストの歴史上で他者を回復させる能力を持ったバーストリンカーは、三人しかいないとされている。

 しかし実は、二〇四七年の四月にデビューしたライム・ベルより数年前に、三人目のヒーラーは存在した。それこそが、シルク・ピエリスだ。

 彼女がレベル3のレベルアップ・ボーナスで取得した必殺技の効果を確かめるべく、少年はピエリスと通常対戦を行った。

 ギャラリーとして観戦していた少年の《親》は、ピエリスが振り撒いた必殺技の鱗粉が、少年の体力を回復させたのを見るや血相を変え、その日の放課後にはレギオンの全員を招集した。

 そうして少年は話を聞いていく内に、ようやく事の重大さを理解し始める。

 体力吸収(ドレイン)系アビリティなどの一部の例外を除いて、基本的に通常対戦中でも無制限中立フィールド内でも、デュエルバターの体力を回復する手段は存在しない。

 これが領土戦において、途轍もないアドバンテージになることは言うまでもなかった。ヒーラーの存在はダメージの回復は元より、敵チームにとっては絶対に潰さなければならない対象として、こちらが敵の行動を読むことも、それを見越して罠を仕掛けることも容易くなるからだ。

 大げさではなくレギオンとしての飛躍的な戦力になり、東京の全領土を治めることも全くの絵空事ではなくなる。だが、当然このことが知られれば、大小様々なレギオンが黙ってはいないだろう。

 しかも、少年がバーストリンカーになるよりも前に、史上二人目のヒーラーとなったバーストリンカーは己を巡る争いに耐えかねて、自らブレイン・バーストをアンインストールし、永久退場してしまったという。これでは手放しに喜べるはずもない。

 当人であるピエリスは回復技を使わずに隠すことを望み、少年も賛同した。レギオンマスターである少年の《親》が、ひとまずはレギオン内でこの件には戒厳令を敷くように決め、この日は解散となる。

 この時の少年は、大変な騒ぎになってしまったが、すぐにほとぼりも冷めるだろうと楽観視していた。それがひどく甘い見積もりであるとも知らず。

 この日を境にレギオン内には、徐々に言いようも知れない空気が漂い始め、それは日に日に重苦しいものになっていった。重大な秘密を抱え続けることは、殊の外ストレスが溜まるものなのだ。

 ある日挑戦した領土戦の燦々たる結果により、再度レギオン内での話し合いが開かれた。議論は過熱し、いっそ強力なレギオンとの合併をするべきではないか、という意見まで出る始末。

 近隣レギオンとの合併や分裂は、当時はそこまで珍しくもなかったのだが、それでは構成員が十人にも満たないこちらが吸収される形になるのは目に見えている。少年は元より、ほとんどのメンバーがこの意見を望まなかった。

 結局、この日も答えは保留となり、次第にレギオンは回復能力の秘匿派と開示派の二つに分かれていく。

 問題はどちらもこのレギオンの為を思って考えていることだ。秘匿派である少年は、どうにか開示派を納得させられないものかと考え続けていた。

 だからこの時、当人であるピエリスの心境を、本当の意味で理解できてはいなかったのかもしれない。以前と変わらずに現実ではクラスメイトとして、加速世界では少年とタッグを組んで対戦をする彼女が、明るく振る舞うその裏で何を思っていたのかを。

 

 

 

 ある晩、ピエリスが少年にボイス・コールをかけてきた。

 会話の内容は、今度の授業での課題がどうとか、最近友達の何某(なにがし)が誰々と付き合い始めたかもしれないなどの学校について。今度の対戦では、こんなコンビネーションをしてみたいといったブレイン・バーストについて。

 他愛のない、しかし久々に穏やかで安らげる時間がしばらく続き、やがて「また明日ね」と彼女が。少年も「また明日」と返して通話は終了した。

 翌日。登校して教室で少女を目にした少年は、虫の知らせというか、ふと違和感を抱いた。

 まさかと思い、マッチングリストを確認した少年の背中を、滝のような冷や汗が流れ出す。シルク・ピエリスの名前がマッチングリストに載っていなかった。

 生徒は学校の敷地内に入ると、学業や体調把握などの為に、学内ローカルネットに強制接続される。グローバルネットをオフラインにしていても。

 現実のピエリスである少女が教室にいる以上、少年と同じローカルネット接続されていることは確実で、同ネット内のマッチングリストには必ず載っているはずなのだ。──ブレイン・バーストプログラムを彼女のニューロリンカーがインストールしている限りは。

 少年はクラスメイトと談笑していた少女を半ば強引に教室から連れ出し、人気のない所まで引っ張っていくと、動揺から震える声でブレイン・バーストに関する質問をしていく。

 こちらの剣幕に戸惑う少女の答えに、少年は愕然とした。彼女はブレイン・バーストについて憶えていなかったのだ。

 正確には、少年とネットゲームをしていた記憶はおぼろげながらにあるらしいが、ブレイン・バーストの名前さえ思い出せない様子だった。懸命に記憶を引っ張り出そうとしている表情は真剣そのもので、嘘を言っているようにはとても見えない。

 もう認めるしかなかった。目の前の少女の中に、シルク・ピエリスの魂は存在しないのだと。少女は昨晩の少年との会話の後、ブレイン・バーストを自らアンインストールしたのだと。ブレイン・バーストをアンインストールした者は、ブレイン・バーストに関わる記憶を失うという噂は正しかった。

《子》を失った《親》である少年はひどく落ち込んだ。実の両親を失った時と同じかそれ以上に。

 両親の件は自分にはどうにもならない不慮の事故だった。しかし、今回は違う。

《親》である自分が何かしらの決断を下せば、《子》であるピエリスを守ることができたはずだ。この事態に至るまでピエリスを追い詰めた原因の一つに、間違いなく自分も含まれている。

 現実の少女は生きていても、加速世界の彼女は死んだ。自分とこの数ヶ月間に加速世界で育んだ《親子》の絆は、もうどこにも残ってはいない。

 その事実は少年に対する罰だとしても、あまりにも重すぎるものだった。

 

 

 

 少年のあまりの落胆ぶりに、少年の《親》は立ち直らせようと様々な手を尽くしたが、どれも成果はなく、ついには荒療治にと、少年とレギオンメンバーを引き連れて無制限中立フィールドへエネミー狩りに繰り出した。

 こちらの事情など関係なく、目にしたバーストリンカーを無差別に襲うエネミーは、一時的にでも少年の気を紛らわせることには成功した。問題はその後に起こる。

 今回エネミー狩りに参加したメンバーのレベルは4と5で構成されていた(そもそもレベル6以上のバーストリンカーは、このレギオンには在籍していない)。その為、ターゲットは精々が小獣(レッサー)級か野獣(ワイルド)級、それも単独でいるものだけだ。

 元より少年の気分転換に少し足を運ぶ程度のもの。長居する気は最初からなかった。

 故に誰もがタイマーによる自動切断などの保険さえかけていなかった浅はかさが、文字通り致命的になる。

 少年達のレギオンはエネミーを深追いしすぎて、群れを呼び寄せてしまった。相手は野獣(ワイルド)級、それも自分達の数よりも多い。

 一行はとっさに目に付いた岸壁の裂け目に逃げ込んだ。

 入口は非常に狭く、岩盤が硬かった為にエネミーの大きさでは入って来られなかったが、エネミー達は執念深く、入口の周囲に居座ってしまったらしい。唸り声は一向に鳴り止まなかった。

 裂け目の奥は空洞になっていたが、どこかに繋がってもいない、完全なる袋小路。

 それでも、少年達に全く生き残る道が残されていないわけではなかった。例えば、敢えて一度エネミーの群れに殺され、幽霊状態から一時間後に復活する。この場所は本来、エネミー達の縄張りではないのだから、標的であるバーストリンカーがいなくなれば、エネミー達が留まる理由もない。

 だが、窮地らしい窮地を経験したこともなく、エネミー狩りの最中で負傷と疲弊をしていた彼らには、冷静に状況を判断することはできなかった。

 数時間経って、誰かが言った。「こんな時に回復技があれば……」と。少年の心臓が、跳ねるようにドクンと嫌な鼓動を刻んだ。

 実際、体力ゲージを回復しようとも、それで必ずしもこの窮地を脱せられるとは限らない。しかしそれでも、思ったことをそのまま口に出した発言は、今のレギオンにとって充分な着火剤となった。

 仲間達による言い合いが始まった。議論などではない、ただただ自分の身を案じているだけの感情の吐露。

 少年はどうにか皆を宥めようとするが、誰かが少年に言った。「こうなったのは、いつまでも落ち込んでいたお前のせいだ」と。心をナイフで刺されたような気がした。

 数名がこの発言に賛同すると、他の数名が彼らを責め立てた。この場を収めるべきレギオンマスターである、少年の《親》はただうろたえるばかり。

 段々とヒートアップしていく仲間達を目にする内に、少年の中で何かが生まれ始めていた。

 そして、誰かが言った。「もしもピエリスがいなければ、レギオンの雰囲気が変になったりしなかった。こんな目に遭ってはいなかった」と。

 その発言が出る前に、誰が何を言っていたのかを少年は憶えていない。重要なのは、それが本心から出たということだ。

 聞いたことがある。極限下の状況でこそ、人の本性が浮かび上がるのだと。

 少女は──ピエリスはお転婆ではあったが、身勝手ではなかった。仲間を想う気持ちは誰よりも強かった。

 少年は知っている。ピエリスが回復技をボーナスで選択したのは、必殺技のモーションから、対象への支援効果がある技だと判断したからだ。彼女は自分一人の強化よりも、仲間達に力を与えることを望んだのだ。

 それに比べて目の前の彼らはどうか。

 ピエリスの気持ちを考えもせずに、自分のことしか考えていない。《加速》の恩恵を日常生活でどれだけ利用していたのか知らないが、ブレイン・バーストを失う恐怖しか頭にない。

 ピエリスがブレイン・バーストを捨てたのは、間違っても答えの見えない泥沼の話し合いに嫌気が差したからなどではない。レギオンメンバー間の仲違いを、原因である自分が永久退場することで解消しようと考えたからだ。

 同じ選択を、この愚か者共の中で一人でもできる者がいるだろうか。

 そう考えると、彼女が自らを犠牲にしてまで守ろうとしていたレギオンが、仲間の皆が、少年にはひどく醜悪な存在に見えた。怒りが血潮のように全身を駆け巡っていく。

 罪なき者が責められ、何もしなかった者達が異を唱えて、さも被害者のように振る舞っている。間違っている。歪んでいる。誰かが正さなければならない。誰が。──自分が。

 少年は温和な性格だった。協調性を重んじ、波風を立てることを避ける。それは長所にも短所にも成り得るものだ。

 ただし、そんな人間にも許容できない一線は存在する。今回、仲間達は本人さえ無自覚だった虎の尾を踏み抜き、龍の逆鱗に触れることとなった。

 少年は喉が潰れんばかりの大声で叫んだ。

 皆がこちらを向いて驚愕する。少年の絶叫にではなく、少年のデュエルアバターの身から立ち昇る、暗く沈んだ色調の、重苦しい印象を与える鉛色のオーラに。

 周囲を暗色で照らす光は、必殺技のエフェクトではない。ただ、漠然と力が漲るのを感じた少年が一歩進むと、足が地面にめり込んだ。

 ただならぬ少年の様子に恐れを抱いたのか、メンバーの一人が飛びかかる。

 倒そうとしたのか、抑えようとしたのか。少年には分からなかったが、飛びかかった仲間に片手で触れた。それだけで事足りると悟ったから。

 少年が触れた瞬間に、仲間は地面に叩き付けられた。というよりも重力に負けて、自重で倒れたようだった。少年はほとんど力を入れていない。持っているアビリティに似ているが、ここまでの効果はない。それも今はどうでも良かった。

 少年が掌を押し当てると、仲間は全身がみるみる内に地面にめり込み、やがて潰れたカエルのような呻きと悲鳴を上げて死亡した。死亡マーカーが出現する。

 仲間達が怯える中、少年は岸壁の入口に続く場所に陣取ると、仲間達めがけて両腕に備わるメインウェポンの鎖分銅を発射した。これもいつもより遥かに威力が増していて、分銅は仲間達の装甲を砕き、絡んだ鎖は手足や首をへし折る。

 一分も経たない内に少年の仲間──だったバーストリンカー達は全員が死亡マーカーになっていた。

 少年がオーラを纏ったまま岸壁の裂け目から出ると、やはりエネミー達が待ち構えていた。

 それぞれが象並みに大きい狼型エネミーの群れは、少年から立ち昇るオーラを目にすると、より剣呑な雰囲気を醸し出し始める。

 傍から見て絶体絶命の状況に置かれている少年が、構うことなく胸に渦巻く感情を一気に解放すると、纏うオーラが拡がっていく。エネミーの群れも、今まで内部に避難していた崖も、少年を除く光の結界内に存在する全てを不可視の力が押し潰した。

 

 

 

 エネミーの群れが全滅し、瓦礫の山と化した崖を少年が登っていくと、天辺には回転する複数の死亡マーカーがあった。どうやら死亡地点に障害物があると、マーカーはその上に移動するらしい。

 それから少年は、仲間だった者達が復活しては殺すことをひたすら続けた。逃亡とレギオンマスターの《断罪》にだけは注意を払い、彼らが復活する度に謎のオーラを発動する。自分よりレベルが同じだろうが上だろうが、倒すのは容易かった。

 時折現れるエネミーも、片っ端から仕留めていった。どうもこのオーラはエネミーを引き寄せる効果があるらしい。

 仲間だった者達はいつしか一人、また一人と死亡マーカーではなく、リボン状の光のコードになって宙へと消えていった。バーストリンカーの《最終消滅現象》だ。

 少年に対して恨み言を吐いていた者も、説得を試みようとする者も、ポイントが残りわずかになると等しく命乞いをし始めた。それでも少年は手を休めない。

 とうとう最後の一人が光になって消えていったのを見届けたところで、少年は自分の顔に異変を感じた。いつの間にか、何かが顔面を覆っている。

 手で触れてから、メタルカラー特有の光沢ある流体金属の服を鏡代わりに顔に向けると、外縁をリング状の固定具で留めた、何の装飾も柄も無いのっぺりとした仮面を着けている自分の顔が映った。同色だからか、まるで元々装着していたかのように見た目に違和感はない。

 精神的なショックなどの影響によって、デュエルアバターの外見や装甲色が変化することがあるという噂を聞いたことはあったが、まさか自分が体感するとは思わず、少年はさすがに驚いた。

 しかし、これは結果的に良かったのかもしれない。これで今この瞬間を、決して忘れることはないだろうから。

 

 

 

 これより先、居場所も仲間も自らの手で壊した少年は一人で活動していくこととなる。

 仲間とエネミーから得た莫大なバーストポイントは、自分の強化と情報収集に費やした。

 情報を得てPK集団を潰していく内に、謎のオーラの正体が心意システムという名の、ブレイン・バースト内の事象を上書きする現象であることも知る。デュエルアバターを創造した《心の傷》を源泉にしていることや、トリガーとなる感情の種類により正と負の二つの面があることも。

 そうして表舞台から姿を消して加速世界を巡っていく内に、PK集団に限らず、至る所に悪意が存在することが分かった。同時にそれらによって虐げられる者達が存在することも。

 

 ──『助けられた恩として、この身を貴方に』

 

 PK集団の一員として奴隷扱いをさせられていた、鋼の巨人がいた。

 

 ──『ふーん、物好きね。でもまぁ……嫌いじゃないかな、そういうの』

 

 諍いの絶えない周囲に()み疲れ、隠遁生活をしていた、輝く太陽がいた。

 

 ──『てめえに付いていけば、もっと戦えんのか?』

 

 粗暴さ故に《親》から理解されずに愛想を尽かされたが、ひたすら対戦に真摯で実直な、獰猛なる鰐がいた。

 

 ──『私も一緒に……いて……いいの……?』

 

 その容姿と仕草から周囲に疎まれ、エネミーの釣り餌にさせられていた、幻術使いの柳がいた。

 

 ──『あんた、凄えなぁ! オイラ達も連れてってくれよ! なっ、ボルちゃん?』

 ──『う、うん。そうだね、クエイ君。えっとあの……よろしくお願いします』

 

 周りを巻き込んでしまう戦い方から煙たがられていたことに共感し、二人寄り添って行動していた、地震引き起こす(いわお)と小さな火山がいた。

 

 ──『貴方の理念、とても共感しました。どうぞ私にも、お力添えさせていただけませんでしょうか?』

 

 どこで自分達の存在を聞き付けたのか、自ら近付き己を売り込み尽力する、抜け目のない蠍がいた。

 いつの間にか歩く道の後ろに付いてくる者達が増え、やがて人知れず加速世界を生きる少年の中に、一つの使命が生まれる。

 それは、『加速世界に潜む悪の一掃と秩序の維持』。

 自分達の領土の保全と拡大しか頭にない、大レギオンのハイランカー達など当てにはならない。他ならぬ己が正しき加速世界を作らなければ。

 少年は同じ道を歩む同志達との結束の形として、レギオンを結成した。

 レギオンの名前は《エピュラシオン》。その意味はフランス語で『粛清』である。

 

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