アクセル・ワールド・アナザー 無法者のヴォカリーズ   作:クリアウォーター

64 / 74
第六十四話

 第六十四話 死は常にあなたの隣に

 

 

 プランバムを追って、玉座の下に隠されていた穴に落ちていったゴウは、落下してすぐに仲間達の戦いの喧騒が耳から消え、体が不思議な感覚に包まれた。

 ──これは……ワープしている? 

 単なる光の届かない場所とは異なる暗闇の中。視覚は元より、聴覚と嗅覚も感じられず、何かに引き寄せられる感覚だけがある。

 数秒経つと光が見え、ゴウの意思とは関係なく、そこに向かって押し出された。

 闇を抜けた先は、先程までいた大広間の半分程度の広さをした、岩盤に囲まれただけの殺風景な場所だった。不思議なことに、ダンジョンの至る所にあった発光する岩や松明などの光源は見当たらないのに、部屋の隅々までよく見渡せる。

 そんな障害物も全く無い、空間の中心にプランバムは立っていた。

 

「……やはり貴様が来たか。私の心意技との相性を考慮すれば妥当だが」

「この場所は……隠し部屋なのか?」

「終着駅だ。貴様にとっての。言っておくが、そこから戻ることはできぬ」

 

 プランバムに指を差され、ゴウが後ろを向くと、そこにあったのは輪郭のぼやけた闇。手を入れようと試すが、空を切るだけだった。どうやらプランバムの言う通り、この穴は一方通行のワープゲートで、こちらからは向こうには行けないらしい。

 

「ここもまた、ダンジョンの内部ということだけは教えておこう。それで? 貴様一人で何ができる。よもや、私に勝てるとでも?」

 

 装甲代わりに身に着けている服の一部が破れたことで、左胸から左腕にかけて露出し、顔を覆う仮面に一条の亀裂が走っていても、プランバムは弱々しさをまるで感じさせない。それを証明するように左胸の《オリハルコン》の輝きも健在だった。

 未だに難敵である相手を前に、ゴウは右肩に金棒を担いで、臆さずに一歩踏み出す。

 

「僕はお前に勝つ為にここに来た。明日からも僕はバーストリンカーで在り続ける」

「《親》から激励の言葉でも受け取ったか。その度胸は認めよう。だが──」

 

 プランバムの右腕が、先端に鉄球が付いた棒状の武器に変化した。

 切断、貫通攻撃に耐性のあるこちらに対応する為のものだろう。先程までの闘いでも度々見せていたそれを、確か(すい)という中国の打撃武器だったかと、ゴウは頭の中の知識を引っ張り出す。

 

「貴様達はこのアトランティスで消える。その事実は変わらない」

「負けないさ。だって今この瞬間、お前は一人で戦っているけど、僕は皆と一緒に戦っている」

「離れていても心は傍にいると? 青臭い、聞くに堪えない戯言だ。貴様は独りだ。そして今、最期の時を迎える」

 

 そう断言するプランバムが駆け出した。正面から最短距離でゴウに到達し、錘を振るう。

 

「ふっ!」

 

 呼吸一拍、迫る錘の鉄球部分との衝突を避け、ゴウは金棒で錘の柄の部分を弾いた。

 それからも立て続けに、錘と金棒が打ち合う。やはり、プランバムは左上半身の服が千切れ飛んだことで、左腕に変化を回すまでの余力がないのか、左腕は元の形を保ったままだった。

 それでも武器そのものになった右腕は強力で、加えて隙あらば肘や膝からは(こん)を伸ばし、爪先や踵を金槌に変えた蹴りでゴウを襲う。

 あらゆる手段で攻撃してくるプランバム。しかし、ゴウはいつも以上に体がよく動いていた。

 自分でも驚くほどに動きに固さはなく、超重量の《アンブレイカブル》もいつも以上に体の一部であるかのように扱えている。

 何より、プランバムの動きをわずかながらに先読みできていた。打ち合いの中で牽制を見抜き、避け切れない攻撃はわざと当たりにいくことで、受けるダメージは最小減に。同時に、着実にプランバムへ反撃をしていく。

 仲間達に道を拓かれ、大悟からは彼なりのエールを受け取ったことによる心の支え。長時間の戦闘による、精神的疲弊から来る適度な脱力。己の矜持を貫き通すべく、プランバムを倒すのだという決意。

 これら複数の要因が上手く合致し、ゴウ自身はほとんど無自覚だが、スポーツ選手のいわゆるゾーン状態にも似た良質なパフォーマンスを発揮していたのだ。

 ──ここだ! 

 ゴウはプランバムの錘となっている右腕を地面に向けて叩き落すと、そこへ金棒を交差するように突き立てた。これですぐには錘を持ち上げることはできない。

 

「く……」

 

 即座にプランバムは右腕を元に戻していくが、それも見越していたゴウは《アンブレイカブル》を手放し、自由になった両手でプランバムの両腕を掴む。

 

「せぇのっ!」

「っ……!?」

 

 ゴウは一歩踏み込ながら首を反らせると、頭突きをプランバムに勢いよく食らわした。ダイヤモンドの角と鉛の仮面がぶつかり合い、カァァン! と高音と響かせ、小さな火花を散らせる。

 更にゴウは体を半身にすると、仰け反るプランバムに追い討ちを食らわせるべく、左腕を腰まで引いて拳を握った。

 

「《アダマント・ナックル》!」

 

 右足を軸に、左足で地面を蹴って勢いづいた正拳突きが、プランバムの顔面の中心に直撃した。

 完璧なクリーンヒットを決めると同時に、ゴウは一つの確信をする。

 いかに自分の動きのキレが増しているとはいえ、プランバムがこうも一方的に押されるのは、それだけが理由ではないはず。やはりプランバムは、先程までの自分と大悟の連携攻撃によって、相当に消耗しているのだ。この空間での戦闘前に見せた余裕には少なくない虚勢、ハッタリが含まれていたのだろう。

 

 ──『覚えておけよ。ブレイン・バーストじゃ、自分が体を動かす感覚でデュエルアバターを動かしている以上、精神的な駆け引きの要素も出てくるもんだとな』

 

 自分の劣勢を悟らせない仕草だけでも、勝因の一つに成り得る。そんなことを以前、ゴウは大悟に教えられていた。

 ──いずれにせよ、このチャンスは逃せない……! 

 ゴウが追撃しようとすると、殴り飛ばしたことで仰向けだったプランバムが弾けるように起き上がった。仮面には頭突きに必殺技と立て続けに攻撃を受けたことで、亀裂が更に増えている。

 

「やってくれる……」

 

 プランバムがそう言うと、両腕から鎖分銅を発射した。それもゴウに直接向けるのではなく、ゴウの頭上に。

 一体何をする気なのかとゴウが上に注意を向けると、それを見計らったようにゴウの足下の地面が割れ、鉛色の槍が数本飛び出した。

 

「うわっ!?」

「《プラミッツ・インゴット》!」

 

 地中からの完全な不意打ちにゴウの体勢が崩れた瞬間を逃さず、プランバムが叫ぶ。

 二つの鎖分銅が溶けるように空中で混ざり合い、巨大な一つの分銅となってゴウめがけて落下してきた。

 ──地面からの奇襲は囮……! この必殺技は食らっちゃいけない。僕が優勢になっている流れを崩しちゃ駄目だ……。

 分銅が押し潰さんと迫る中、ゴウはすぐに体勢を立て直し、全身に力を込める。

 

「《黒金剛(カーボナード)》!」

 

 再び心意技を発動し、黒い鎧を纏ったゴウは両腕を上に掲げ、真上から落下する巨大分銅を受け止める。あまりの重量に触れた瞬間、片膝が地面に着いた。心意技を発動していなければ、触れた瞬間に衝撃で腕が両方砕けていただろうが──。

 

「おお……おおおおおおっ!!」

 

 ゴウは分銅を受け止め、堪えていた。今こそ《剛力》アビリティの見せ所である。

 

「ぅ……らああああああぁぁっ!!」

 

 分銅に十の指を食い込ませ、歯を食いしばってそのまま立ち上がると、プランバムめがけて分銅を投げ返した。

 巨大分銅が地面に落ちて、激しい地響きを立てる。投げ返されたプランバムは、下敷きになってしまったのか姿を見せない。

 緊迫した時間が流れる、しばしの静寂。それを破ったのは、プランバムの一言と不気味な音だった。

 

「──《重力特異点(グラヴィショナル・シンギュラリティー)》」

 

 ベキ……ピキピキ、ビギバギ…………べゴン!! バギィィン! ガゴゴン! 

 

 巨大分銅が、悲鳴のように甲高い音を立てながら潰れていく。

 やがてオブジェクトとしての寿命が尽きたのか、分銅だった金属塊は光の粒子となって消え、分銅のあった場所にはプランバムが立っていた。全身から重苦しい鉛色の過剰光(オーバーレイ)を揺らめかせて。

 先程見せていたメタリックブルーの過剰光(オーバーレイ)をより暗く濃くしたそれは、今度こそ間違いなく負の心意によるものだと、ゴウには確信できた。

 

「……よもや、耐えるどころか投げ返すか。呆れた馬力だ」

 

 静かな口調で話すプランバムが、ゴウに向けて右腕を伸ばす。当然伸ばした腕が届くような距離ではない。

 

「しかし、この技を使わせた以上、万が一にも貴様に勝利は無い」

「──なっ……!? うぐぁっ……!?」

 

 突如としてゴウの体が意思に反し、プランバムの元へと引き寄せられ始めた。抵抗するも、プランバムに近付くほどに、全身を全方位から圧迫されるような力に襲われて体が動かなくなっていく。

 数メートル離れていたプランバムに首を掴まれて宙吊りにされる頃には、圧迫どころか押し潰されそうになるほどに、見えない力の威力は増していた。

 

「……一瞬で圧砕されないか。心意システムを付与されたダイヤモンド装甲、凄まじいものだな。だが──」

 

 何が起きたのか理解できないゴウが、どうにか相手を見ようと目線を下に向けると、淡々と事実を確認しているようなプランバムが、空いている左手で拳を握るのがわずかに見え──。

 

「心意による身体強化は、何も貴様の専売特許ではないぞ」

 

 プランバムの拳が、ゴウの胸部を貫くように打ち出された。

 

「かっ……!? がふっ……!!」

 

 肋骨が砕けたのかと錯覚する衝撃を受けて殴り飛ばされる中、舞い散る黒い欠片がゴウの目に映った。それは紛れもなく、《黒金剛(カーボナード)》によって強化された装甲の破片だ。

 ──な、何がどうなって……あれ? おかしいな、何だか……暗く……。

 岩の壁に背中から激突したゴウは、残りの体力が二割を切り、胸部の装甲が無残に砕かれているのを確認したところで意識が途切れた。

 

 

 

「呪詛諸毒薬 所欲害身者 念彼観音力 還着於本人──」

 

 玉座の大広間。数珠を両手に絡ませ、合掌する大悟は経を唱え続けていた。仲間達を相手に暴れ回る海竜に、遠い記憶を思い起こさせられながら。

《帝城》。現実では皇居に位置する難攻不落のダンジョン。周囲は幅五百メートルの外堀に囲まれており、入るには東西南北に繋がる大橋を渡って、その先にそびえる四方の門のいずれかを通る以外に選択肢はないとされる。ちなみに、大橋を除く外堀の全周囲にダメージ判定のある超重力が発生していて、何らかの方法で渡ろうとしても奈落の底に落とされてしまう。

 この四方の門と門に繋がる大橋には、一体ずつエネミーが配置されていて、バーストリンカーの進入を許さないようになっているのだが、このエネミー達が尋常ではなかった。

 ブレイン・バースト黎明期にレベル4に達し、無制限中立フィールドの存在が知られるようになると、《帝城》に挑戦しようとする、当時はBBプレイヤーの名称で呼ばれていたバーストリンカー達が多く存在した。

 そんな彼らが門番である超級エネミー達に敗れ、時には奥深くまで進んで戻れなくなり、時には全損に至ったケースを大悟は密かに目にしてきた。門を守護し、神の名を冠する《四神》の恐ろしさも。

 東には、特殊効果を含む技の数々を持ち、成長の糧さえ喰らう流水の鱗。

 西には、瞬間移動と見紛う速度で駆け巡り、侵入者を切り裂く疾風の爪牙。

 南には、目に付くもの全てを焼き尽くし、灰に帰させる火炎の翼。

 北には、不動のままに吸い寄せ押し潰す、何者も通さない頑健な大地の甲羅。

 五段分の体力ゲージに加えて、相互リンクしている《四神》はいずれか一体が戦闘を開始すると、残りの三体が支援と回復の援護まで行ってくる。それ故に倒そうとするなら、パーティーを四等分して戦いに望まなければならない。

 その難易度が広まると、すぐに誰も挑戦しなくなり、《帝城》は《絶対不可侵領域》として扱われるようになった。そうして今日まで、誰一人として《四神》を打倒したパーティーは現れていないとされる。

 ──ロータス、それに《四元素(エレメンツ)》よ、お前さん達は本当に《四神》に挑んだのか? だったら奴らは、こいつの何倍強かったんだ? 

 一応は友人と呼べる程度には、気心の知れているつもりの黒の王やその幹部勢のことを思い浮かべ、経を紡ぐ口は止めないまま大悟は胸の内で訊ねる。

 

「──────────ッッ!!」

 

 文字に表せない、音そのものを吐き出しているかのような金切り声で吼えるリヴァイアサン。その体は、大広間の入口に覆い被さるように存在している、異空間へと繋がっている黒い穴に度々引き戻され、未だに全貌を見せていない。それでも直線に伸ばせば、少なくとも体長三十メートルはあろうかという全身の鉛色の鱗を逆立だせた。

 

「全方位攻撃、来るよ!!」

 

 その仕草を見る前にメモリーが前衛で動く他のメンバー達に聞こえるように、ほとんど怒鳴り声に近い声量で知らせる。

 

『全員、ワシの後ろへ! キューブ頼む!』

「《立方氷片(キューブロックス)(ウォール)》!!」

 

 キューブが無数の氷の立方体で組み合わされた心意の壁を作り出し、すぐ後ろをキルンの搭乗するゴーレムが片膝を着いて防御体勢を取ると、二重の防御壁の陰に前衛メンバー達が一時避難する。

 直後にリヴァイアサンが波打つ長大な体を震わせ、全身を覆う鱗が一斉に撃ち出された。

 一枚の幅が三十センチ近い鋭く尖った鱗は、氷の壁へ立て続けに突き刺さっていく。連続で刺さったことで氷壁を貫通したいくつかの鱗は、すでに所々がひび割れて蒸気が漏れ出しているゴーレムの分厚い外装でどうにか阻められた。

 

「キューブ、大丈夫か?」

「うん大丈夫……。まだまだ、いけるよー……」

 

 心配するコングにキューブが頷く。

 これまで、避け切れない攻撃はキルンのゴーレムが盾になるか、防御の心意技を持つキューブとコングによって防がれている。

 おそらくキューブが心意技を実戦で発動するのは今日が初めてか、数える程度しかないだろう。音を上げることはせずにリヴァイアサンに果敢に立ち向かっているが、精神を集中させて発動する心意技の断続的な使用により、表情には疲労の色が浮かび始めている。

 一方で大悟は、ある程度距離を離していることもあるが、護衛役に就いた晶音の作り出す心意システムが付与された晶壁によって、しっかりと守られていた。

 鱗の嵐が収まり、鱗が再び生え揃うわずかな時間を狙い目とばかりに、仲間達が一斉に攻撃へ転じていく。その光景を歯痒い気持ちで見ながら。

 大悟の心意技発動の準備は半分程度進んでいる。他の皆も連携し合って、未だに重傷者は出ていない。しかしそれでも、圧倒的に不利なのはこちらの方だった。

 リヴァイアサンの体力を表示する四段のゲージは、一段目の四割も削れていない。それはまだ良い。こんな短時間に神獣(レジェンド)級エネミーの体力ゲージを一段だって削れるとは、最初から思ってはいない。

 問題はここに来るまでに、大悟も含めて全員がエピュラシオンのメンバー達と交戦したことで、大なり小なり消耗していることだ。

 デュエルアバターの体は生身のように、肉体的な疲労が蓄積されたりはしないが、長く戦っていればそれだけ精神的な疲労は出てくる。激戦であれば尚のこと。

 ただでさえ九人という、最高クラスのエネミーを相手取るには少ない人数。一度のミスが文字通りの命取りになってしまい、一人減ればそれこそ全滅の可能性も充分に有り得る。そうなれば出口が無いこの大広間で死亡しては復活し、再度死亡させられることを繰り返す、無限EKに陥ってしまうだろう。

 厳密には今すぐにでも、ここからの脱出できる道が一つだけ存在する。玉座が鎮座してあった場所に空いた穴だ。しかし、ここに飛び込むのは最後の手段である。

 理由はいくつかあるが、まずはこの穴にプランバムとゴウが落ちていったのに、下から戦闘音らしきものが一切聞こえてこない。

 ダンジョンという場所において最もレアなアイテムとは、基本的にダンジョンの最深部にあることから、《オリハルコン》があったらしいこの大広間が最深部でないとは考え難い。

 つまりあの穴は、このダンジョンの別の場所に繋がるワープゾーンである可能性が高いのだ。そこがここより安全であるとは限らないし、そこでプランバムに再びリヴァイアサンを召喚されれば、元の木阿弥である。

 もう一つに、プランバムの相手はゴウに任せているからだ。

 最初に出会った頃はオドオドするばかりだったあの少年が、自ら格上の相手との戦いを希望したのだ。私情が多分に含まれているが、彼の意思を尊重してやりたいという、ある種の親心が大悟にはあった。

 それにゴウはプランバム相手に思うところがあるらしい。何となく察しは付くが、それも野暮だと思い、大悟は敢えて確認はしなかった。

 そうやって信じて送り出したはしたものの、それでもゴウの身を案じてしまうのは別の話だし、目の前の仲間達に任せきりになっているこの状況が焦燥に拍車をかける。

 

「焦れているようですね」

 

 そんな大悟の心境を見抜いたように、晶音が前を向いたまま口を開いた。

 

「返答はしないで、そのままお経を。大丈夫ですよ。オーガーも私達も、貴方に常に守られなければいけないほどに弱くはありません。それに、私に肩の力を抜けと常々言っていたのは貴方でしょう? だったら貴方も気負いすぎないで、私達をもっと頼ってください」

 

 大悟は思わずポカンと呆けてしまった。まさか晶音にそんな言葉をかけられる日が来るとは思わなかったからだ。ただ、良い気付けになったことは確かだった。

 ──全くその通りだな。全員が最善を尽くして戦っている。だったら俺も俺のできることをするしかないだろうに。……分かっていたつもりで、実際は俺が一番分かっていなかったわけだ。それをこいつに教えられるとは……。本当、ダンジョンで離れてから何があったのやら……。

 晶音の華奢な背中がやけに頼もしく見えて、人知れず小さく微笑んだ大悟が、一層の集中力を込めて心意技の準備に望もうとしたその時。

 大悟はリヴァイアサンと目が合った、気がした。

 

「これは……。皆、チャージ攻撃が来る! 防御じゃ駄目だ、回避──」

 

手記記録(メモランダム・ライター)》によって、リヴァイアサンの行動を予測したメモリーが切羽詰った様子で指示を出すも、リヴァイアサンはすでに行動に移っていた。

 一声吼えると、黒穴から噴き出した海流を身に纏わせ、突進を開始する。距離的にコングとキューブの防御心意技はもう間に合わない。

 

『あぁ、くそったれ……!』

 

 ゴーレムに乗ったキルンが悪態をつきながら、リヴァイアサンの直進上に躍り出た。皆の回避に移る時間を稼ぐ為に両腕を前に突き出し、リヴァイアサンを押し留めようとする。

 だが、渦巻く激流を纏った海竜は、土巨人の両腕を粉砕し、押し倒し、ものともせずに進んでいった。そうして進撃を続ける先に立つのは晶音、その更に後方には大悟。

 

「《玻璃晶壁(クリスタル・プロテクション)》!!」

 

 前に出た晶音が発動した、純白の光を放つ水晶の結界がリヴァイアサンと衝突する。

 

「逃げて!!」

 

 晶音が叫ぶ。

 ほんの数秒間の拮抗の後、水晶の防御壁が無残に砕け散った。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。