アクセル・ワールド・アナザー 無法者のヴォカリーズ   作:クリアウォーター

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第七十三話

 第七十三話 昨日の敵は今日の客

 

 

 一つの直面していた問題が解決し、ゴウは中々に晴れやかな気持ちと軽やかな足取りで、これまで何度も通ってきた無制限中立フィールドの道を歩いていく。

 今日は七月六日、土曜日。

 アトランティスでの激闘から約一週間が経った、アウトロー定例集会の日である。今日からは新たに一人と、戻ってきた一人がアウトローに加わることになっていた。

 目的地であるホームに近付いているのを知らせるように、前方の空に薄く煙が立ち昇っている。

 これはアウトローメンバーの一人であるキルンが、ホーム裏で鍛冶作業をしているということ。先週は、ISSキット装着者を呼び寄せてしまう可能性があるということで自重していたが、もう再開をしたようだ。

 それもそのはず、この一週間でISSキットを装着したバーストリンカーをゴウは目にしていない。

 アトランティスで晶音達と対峙をした、アメジスト・スコーピオンの装着していたキットが突然その機能を停止したというし、やはりキット本体に何か異常があったのは間違いないだろう。

 この推測を肯定するように、数日前にゴウは以前キットに精神を汚染されていたバーストリンカー、シトロン・フロッグから乱入され、対戦が始まるや否や、土下座を決め込まれるという出来事があった。

 あちこちでマッチングリストを確認してゴウを探し回っていたらしいフロッグの話では、熱に浮かされた状態のように多少ぼやけてはいるものの、キットを装着してからの記憶はしっかりとあったという。フロッグは散々ひどい言葉を吐いたことを謝罪し、アメジスト・スコーピオンに倒された後、ゴウがスコーピオン相手に立ち向かっていったことへの感謝と、これからも対戦をしてくれないかと懇願された。

 もちろん、ゴウにフロッグの頼みを断る理由などあるはずもない。

 また、もう一つのご機嫌な理由として、アトランティスでの戦いを経たゴウは、新たに一つのアビリティを取得していた。

 デュエルアバターに備わるアビリティは始めから所持しているか、レベルアップ・ボーナスで取得するしかない必殺技とは異なり、この他に何らかのトリガーによって、ごく稀に発現することがある。

 アトランティスにて、触れた対象の身動きを取れなくするプランバム・ウェイトのアビリティ《重圧付加(プレス・アディション)》の効果を受けて、なすすべもなく地面に落下していた際にゴウが体を動かし、体勢を逆転できた理由が、このアビリティによるものだった。

 後に確認したアビリティの名称は《限界突破(エクシーズ・リミット)》。

 効果は必殺技ゲージの減少と引き換えに、筋力値が増大するというもの。要は、元より備わっていた《剛力》アビリティをアクティブスキル化した強化版である。

 シンプルだが、接近戦ではより優位になるのは元より、自分の身の丈と同じくらいの岩を、まるでハンドボールのように投擲可能なまでの膂力が得られるので、遠隔系アバターへの対応策の一つとしても有効だ。

 欠点は一度発動すると、必殺技ゲージ量に関系なくゲージが空になるまで解除不能になることと、アビリティ発動中は必殺技が発動不可能になること。効果終了直後から発動していた時間の分だけ再発動が不可能になるので、連続での使用ができないこと等々。

 それでもゴウはこの一週間に行った対戦で使い方とタイミングを把握していき、良好な戦果を挙げている。

 そんなことを思い出している内にゴウはホームへ辿り着くと、始めに裏側へと回る。

 

「キルンさぁん! こんにちはぁ!」

 

 金槌を打ち付ける音に負けないようにゴウが大声で挨拶すると、いつものように窯の前で作業をするキルンが、その手を止めて振り返った。

 

「おう、オーガーか」

「もう作業を再開したんですね」

「あたぼうよ。前の戦いでゴーレムの腕のストックは全部オシャカ、胴体もほぼ大破しちまったからな」

「えっ!? 被害甚大じゃないですか!」

「だからこそ、こうして金槌振ってるってわけよ。まぁノウハウは分かってっから、前よか早くできそうだ。今度はもっと装甲を厚くしてよ、新しくドリルの腕も──」

 

 自らの手で生み出す、ゴーレムのバージョンアップに思いを馳せるキルンと話していると、いきなりホーム内部から黄色い歓声が上がり、ゴウは驚いてホームの方を振り向いた。

 

「な、なんだ?」

「あぁ……。ワシもキリの良いところで入っから、先に行ってな。ボンズの奴がいつ来るか分からねえぞ」

「へ?」

 

 キルンは何故か半笑いでそう言うなり作業に戻ってしまったので、仕方なくゴウは正面入口に戻って、扉を開けた。

 

「──そこでボンズが一歩踏み出して、ジャッジをこう、ぎゅっと抱き締めたの」

「「キャア────!!」」

「よっしゃあー!」

 

 扉を開けると、再び歓声。

 ホーム内は宇美を中心に据える形で残りの皆が座り、宇美の話に耳を傾けている状態だった。

 ゴウは会話の断片から、先週の大悟と晶音のやり取りについてだと、瞬時に理解する。

 

「な、な……」

「あっ、オーガーだー。やっほー」

「おーっ、キューピッドの登場だ。ほら、来い来い!」

 

 最初にゴウに気付いたキューブに続いて、コングがしきりに手招きをする。

 

「あのー、キューピッドって……?」

「オーガーちゃんがボンズちゃんの背中を押してくれたんでしょ? それでやーっと二人の仲が進展したんだもの!」

 

 自分のことのように喜ぶメディックに、ゴウははたと一つの事実に気付く。

 

「それって……じゃあ、皆も知っていたんですか? その……」

「あたしもコングちゃんも、当然カナリアちゃんも。当時のメンバーは全員ね。カナリアちゃんが、どうしたらお互い素直になるんだろうって、よく悩んでたわ」

「二人きりにして陰から見守ろうにも、ボンズは勘が働くからすぐ気付かれるんだよなぁ」

 

 懐かしむように語るメディックとコング。

 しかし、この場にその当事者の一人の姿が見えない。

 

「あの、師匠はまだ来ていないんですよね? ジャッジさんもですか?」

「彼女なら、そっちにいるよ」

 

 ゴウの問いに、常のように紙にペンを走らせているメモリーがバーカウンターを指差したが、その先には誰も見当たらない。

 そこでカウンターの方へ歩いていくと、何やら声が聞こえ、ゴウはカウンターの向こうを覗き込んだ。

 

「──聞こえません聞こえません何も聞こえません私は何も知りませんあー何も知りません何のことやらさっぱりです──」

 

 そこには体育座りの状態で耳を塞ぎ、小声でぶつぶつと呟いている晶音の姿が。

 

「躍起になって否定すると、かえって肯定しているみたいだと考えたらしくてね。フォックスの話が始まってから、ずっとあの調子なんだよ」

 

 やや苦笑気味にメモリーがゴウに解説をする。

 

「そ、それでフォックスちゃん。それからどうなったんですか?」

 

 普段控えめなリキュールが、意外にも興味津々な様子で前のめりになり、宇美に話の続きをせがんでいる。やはり女子であるなら、この手の話題は気になるのだろうか。

 

「それから一度離れて、ボンズがジャッジの涙を拭いて……」

「いや、フォックスさんストップストップ。師匠が来たらまずいですって」

「それは大丈夫よ。もしボンズちゃんが来たら、キルンちゃんが合図出してくれる手筈になってるから。さすがにボンズちゃんのいる場所じゃ話せないわよぉ。先に手が出てきそうだしね」

 

 話を再開するフォックスを慌てて制止しようとするゴウに、余裕たっぷりのメディックが冗談を飛ばしながら笑っていると──。

 

 ──コンコン。

 

 ノックするような音に全員が振り向くと、窓の外に大悟が顔を覗かせていた。額の《天眼》を煌々と輝かせて。

 

「あちゃー……」

 

 一同が凍り付いていると、キューブがその一言の後にアビリティ《純氷鎧(アイス・エンフォールド)》を発動し、座っている椅子ごと己の全身を氷塊で包み込み、文字通り凍り付いてしまった。

 

「あっ、キューブ、おまっ、一人だけずる──」

 

 鉄拳制裁を予期して防御行動を取るキューブに、コングが文句を言おうとする間もなく、入口の扉が開く。

 

「……内緒話をするんなら、もう少し声のトーンを落とすべきだな。外から丸聞こえだぞ」

 

 のっそりとホームへ入って来た大悟は、一見冷静な様子でカウンターの方へと歩いていくと、腕をカウンターの向こうに伸ばした。

 

「あうっ……?」

 

 ぺしりと軽い音の後に、晶音が小さく声を上げる。と、

 

「そんでもってお前さんは何をやってんだ。ほれ、そこから出ろ。堂々としてれば良いんだよ」

「うぅ……確かに取り乱しすぎましたね。お恥ずかしい……」

 

 もぞもぞと立ち上がって晶音が姿を見せると、大悟はそのままカウンターのスツールに腰かけ、これ見よがしに大きく溜め息を吐く。

 

「……先週はアウトロー結成以来、三本の指に入るでかい出来事だった。それを乗り越えたとなると、やっぱりその余韻というか……平時よりも気分は高揚するよな。だから結果として、俺もついオーバーなアクションをした。うん、それは認めるとも。ジャッジのことは……大切な友人の一人として情を持っているわけだからな。はい、この話は以上。それとフォックス──フォックス? 取って食ったりしないからこっち向け」

 

 大悟に呼びかけられ、イタズラをして叱られる飼い犬のように顔を横に向けていた宇美が、渋々と大悟の方を向いた。

 

「いいか? お前さんがアウトローの一員として活動するのであれば、仲間のリアルを詮索したり、言いふらしたりしないこと。仲間とはいえ、リアルの行動を暴露するような真似はいただけないな。これら最低限のルールは守らなきゃならない。できるか?」

「……うん」

「そうか。分かってくれれば良いんだ」

 

 うんうんと満足げに頷く大悟。

 ──おぉ、さすが大悟さん。上手いこと話を終わらせた。しかもこんな時でも冷静だ。

 諭すように言い聞かせる大人な対応をする大悟に、ゴウは内心で拍手を送る。

 そうして大悟は、しゅんとなって軽くうなだれている宇美に穏やかに呼びかけた。

 

「別に怒っちゃいないから、そうしょげるなって。なーに、いちいちこの程度のことに目くじらを立てるような狭い器量の──」

「でも間が悪くなかったらあの時、絶対キスまでいってたと思う」

 

 ──ぴしっ。

 

 何も割れていないのに、何かに亀裂が走ったような音をゴウは聞いた……気がした。

 

「こ…………」

 

 下を向いた大悟は、わななくように全身を震わせると──。

 

「こんのコンコンチキぃ! その尻尾捥ぎ取って襟巻きにしてやらぁ!!」

 

 先程までの態度はどこへやら。瞬間湯沸かし器を超える早さで激昂し、物騒なことを喚きながら、座っていたスツールから立ち上がった。

 

「やべ……ボンズがキレた、押さえろ!」

 

 そう言うなり、コングがアメフト選手ばりのタックルで、大悟をその場に押し倒す。

 続いて、ゴウも考えるより早く体が動き、倒れた大悟の両腕を取って抑えた。

 緊急時に即座に動けることこそ、ブレイン・バーストにおいて求められる資質の一つである。まさかこの状況で活かされるとは思わなかったが。

 

「ま、まぁ師匠、落ち着きましょう。ね? ほら、減るものでもないじゃないですか……」

「離せぇ、てめえらぁぁ……! オォォガァァァ……仮にも師匠を羽交い絞めたぁ、良い度胸だなぁぁぁ……。てか確実に俺の何かが減っただろうがぁぁ……」

「ひぃぃぃ……!」

 

 ゴウとコングに押さえられたまま、地獄の底から響くような低音で唸り、体を捩じらせる大悟。

 白い毛並みをした尾を守るように両手を後ろに当て、姿勢を低くして状況を見守る宇美。

 顔を覆って悶絶する晶音を、左右から質問攻めにするメディックとリキュール。

 巻き込まれてはたまらないと、書き記した紙束を回収し、その場を離れようとするメモリー。

 そして、全身に氷を纏ったまま微動だにしないキューブ。

 場がそんなカオスな状況に包まれる中、ホーム入口の扉が開いた。

 

「……何やってんだ、おめえら」

 

 扉の向こうに立つキルンが、呆れた様子で感想を漏らした。

 

「あの、取り込んでいるなら日を改めますよ……?」

 

 すると、キルンの他に入口に誰かいるのか、遠慮がちな声がゴウの耳に届いた。聞き覚えのない、少女の声だ。

 

「いや、気にすんない。いつものこと……ってわけじゃねえが、こんな日もあらぁな。──おい、客が来たぞ!」

 

 ガンガンと入口の縁を叩いて、キルンが全員を注目させて中に入ると、二体のデュエルアバターが後に続いてホームへと足を踏み入れ、大悟もひとまず暴れるのをやめた。

 一体は今キルンと話していた声の主と思われる、小柄なキルンより更に背の低い赤系のF型アバター。流れるような赤色のロングヘアーパーツに、アバターの体色同様の茜色をしたワンピースドレスを身に着けている。

 もう一体は力士のような体型をした、大柄な茶色系統のM型アバター。縦にも横にも広い体で少し窮屈そうに扉をくぐってから、ぶはーと大きく息を吐いた。

 

「お邪魔しまーすっと。ここがアウトローのホームかぁ……おっ、バーだ! バーがあるぜボルちゃん!」

「うん、クエイ君。わぁ……凄い。私達にはプレイヤーホームは無かったもんね。ちょっと憧れちゃうなぁ」

 

 見た目も性格も正反対そうな二人は、物珍しそうにホーム内を見渡している。

 

「……キルン、どうして彼らがここにいるんだい?」

「そんなのこいつらに聞いてくれ。ワシがホームに入ろうとしたら、声かけてきたんだ」

 

 やや強張った様子でメモリーが訊ねると、キルンが立てた親指で二人を指した。

 ゴウ同様に、この二人と面識が無いらしいリキュールがおずおずと質問する。

 

「あの、メモリーさん。そちらの人達は知り合いですか?」

「知り合いと言えるほどに親しくはないかな。そこの二人はマダー・ボルケーノとカーキ・クエイク。僕とキルンがアトランティスで戦った、エピュラシオンのメンバーさ」

 

 メモリーがそう答えると、さっきまでとは別の種類の緊張がホーム内に広がり、ゴウも大悟から離れて身構えた。

 晶音に至っては、即座に召喚した杖をボルケーノとクエイクに向け、臨戦態勢を取っている。

 

「……貴方達のリーダーを倒したことへの(あだ)討ちですか? だとしたら、受けて立ちますよ」

 

 今の今までうろたえていたことが嘘のような鋭い声に、エピュラシオン所属の二人が慌てた様子で両手を頭の上まで上げた。

 

「うおお!? おいおい待ってくれよ。オイラ達、そんなつもりないって!」

「ご、誤解です。私達はあれからのことを伝えようと思って来ただけなんです……」

 

 ボルケーノの言う『あれから』とは、アトランティスでの戦いの後のことを指しているのだろう。

 ゴウとコングの拘束から解放され、すでに立ち上がっている大悟が、落ち着きを取り戻した様子で口を開いた。

 

「確かに戦う気があるなら、とっくにキルンを攻撃しているわな。ジャッジ、大丈夫だよ」

 

 大悟に言われて、晶音は警戒心をアイレンズに宿らせたままだが、しぶしぶと杖を降ろした。

 それを見たクエイクが、ほっと息を吐いてから上げていた手を下ろす。

 

「だろだろ? ほら、手土産も持ってきたんだぜ。ボルちゃん」

「う、うん……」

 

 クエイクに促されたボルケーノが、一枚のアイテムカードを実体化させると、カードは持ち手の付いた二つの白い箱に変化した。箱の側面には英語で何やら文字が書かれている。

 

「まぁ!」

 

 箱を見るや、メディックが喜色を含ませた声を上げて、手を合わせた。

 

「それって、もしかして《ブルローネ》の……?」

「ご存知でしたか。はい、《ペルルジェラード》です。皆さんでどうぞ」

 

 ブルローネとは、無制限中立フィールドを徘徊する生物型(ムービング)オブジェクトの一つである、超巨大なリクガメの甲羅の上に建つ、ショップの中でも珍しい《移動式ショップ》であると、ゴウは以前アウトローで聞いたことを記憶の片隅から掘り起こす。

 何でも、女性バーストリンカーが好むアクセサリーや服などのファッションアイテムを揃えている、隠れ家的スポットだとか。

 ボルケーノからメディックが箱を受け取って丸テーブルに置くと、仲間達がぞろぞろと集まりだしたので、ゴウも後へ続く。

 ただし、晶音だけは未だに警戒を解かずに、凛とした声で言い放った。

 

「ジェラードだか何か知りませんが、物で簡単に信頼を得られるほど、我々はそう甘くありませんよ」

 

 

 

 数分後。

 

「──それでオイラが必死こいてあのカメを引き付けてる間に、ボルちゃんが甲羅の上にある店まで辿り着いたまでは良かったんだけど、オイラは追い詰められてもう少しで踏み潰されちまうところだったんだ。文字通り命懸けだったよ」

 

 どっと男性陣が笑い、話しているクエイク自身も豪快に笑いながら、片手に持った三杯目のドリンクを呷る。

 

「ボルケーノさんはあそこで何か買ったんですか?」

「今回の目的とは違ったので、ジェラードを買ってすぐに撤収しました。囮役になってくれたクエイ君にも悪いですし。それに一度中に入ったら、何時間もいちゃいそうで……」

「分かるわぁ……。見ているだけで時間を忘れちゃうものね。上手く条件が揃わないと行けないから、あたしも数えるくらいしか入ったことないんだけど、どれもこれも可愛くて目移りしちゃうわよ」

「へぇー……。私もいつか行ってみたいなぁ」

 

 片や女性陣も、ボルケーノと会話に花を咲かせている。

 

「──って馴染みすぎです!!」

 

 そんな和気藹々とした空気に耐えかねたように、晶音が叫びながら立ち上がった。

 実は会話に混ざっていたゴウも、内心では晶音と同意見ではあった。クエイクもボルケーノも、ゴウ自身が戦った相手ではないが、それにしたってさすがに仲良くなるのが早すぎるのではなかろうか(コングに至っては、クエイクと肩まで組んでいる)。

 

「おう、やっと食べ終わったか。美味そうに食ってたな」

 

 大悟が可笑しそうに肩を震わせる。

 クエイクとボルケーノの持ってきたぺルルジェラードは、コーンカップに乗ったジェラードアイスに色鮮やかな粒々がトッピングされていて、ゴウの食べたものはバニラ風味に果実と潮風が混ぜ合ったような不思議な味がした。

 ちなみに晶音は受け取った分を口にした瞬間、アイレンズを輝かせながら、ちびちびと味わうように今まで黙々と食べていた。

 

「確かに美味しかったです……。ご馳走様でした、また食べた──ではなく! 結局、貴方達は何をしに来たのです!」

 

 クエイク達を問い詰める晶音は夢中でジェラードを食べていた手前、少しバツが悪いからか、ゴウには何となく勢いに任せている気がした。

 それでも晶音の剣幕に、巨漢のクエイクが居住まいを正す。

 

「お、おう、悪い……。つい楽しくて元々の目的を忘れてた。えー……オイラとボルちゃんはお前らにも伝えておこうって思ったんだ。オイラ達のレギオン、エピュラシオンが一時的に解散したことを」

 

 一同が真面目な状態に切り替わる中、クエイクとボルケーノから、エピュラシオンのその後の顛末を教えられた。

 アウトローメンバーを相手に死亡してから一時間も経たない内に復活し、ダンジョンの外へワープすることになり、建造物を背負った途轍もなく巨大な空飛ぶクジラ(管理AIテティスの話から推測するに、元々移動式に設計されていたという《アトランティス》そのもの)が沖合に向かうのを呆然と見送るという、訳の分からない状況下のこと。

 エピュラシオンメンバー達は副長のチタン・コロッサルから、レギオンマスターであるプランバム・ウェイトが敗北し、《オリハルコン》のデメリットと第三者の手に渡った際のリスク故に、自らアンインストールをすることで《オリハルコン》諸共消滅したことを聞かされたという。加えてエピュラシオンが掲げていた、加速世界の秩序を正すという目的を、プランバムが自分とは違う方法で探すように言い残したことも。

 話し合い結果、ひとまず考える時間と違う視点が必要だという結論に至り、エピュラシオンメンバーは籍を残して一時解散をするという話にまとまったそうだ。

 曰く、コロッサル、それにコングと戦ったインディゴ・クロコダイルはソロ活動を(本人は腕を上げてコングに再挑戦しようと息巻いているらしい)。メディック、リキュール、キューブの三人と交戦したサンシャイン・ソーラーとウィロー・ミラージュの二人、クエイクとボルケーノの二人はそれぞれコンビで活動していくことになったという。

 そして残るアメジスト・スコーピオンだが、アトランティス内でプランバムからマスター権を継いだコロッサルが《断罪》、全損に追いやったらしい。

 アトランティス最深部でプランバムが晶音から、ISSキットを所持し、使いこなしていたスコーピオンが加速研究会自体との繋がりを仄めかしていた事実を聞き、『報いを受けさせる』と言っていたのをゴウは耳にしていた。それは確かに果たされたようだ。

 己にとっての宿敵が永久退場したと聞いた晶音は驚きこそしたが、仮にスコーピオンが本当に加速研究会との関わりがあったとしても、研究会についての情報を吐くとは考え辛い上に、遁走する可能性が高かったことから、またどこかで誰かを不幸にする前に、コロッサルがスコーピオンへ《断罪》を下したことについては概ね肯定的だった。

 

「……お前らがこの世田谷第四エリアに拠点構えて、土曜の昼から夕方にかけて活動している可能性が高いって情報は知らされていたから、ダメ元で探し回ることにしてよ。何度か間を空けてダイブしてたら、煙が昇ってるのが見えたから、それを辿ってここに着いたんだ」

 

 ラッキーだった、とクエイクが付け加えて話を締めくくる。

 アウトローは活動事体を取り立てて隠しているわけでもない。おそらくはプランバム、ないし参謀役を務めていたらしいスコーピオンが、どこかの情報屋からアウトローの構成員に加えて、この場所の情報も入手していたのだろう。

 二人の話を聞き終え、ゴウは改めて途轍もない体験をしたのだと感慨深く思うと同時に、彼らのマスターであるプランバムの瀕死の姿が脳裏をよぎり、少しだけ胸が痛んだ。

 

「あの……あなた達は僕らが憎くはないんですか?」

 

 自分達のレギオンマスターが永久退場した元凶といっても差し支えない集団を前に、敵意は湧かないものなのだろうかと、ゴウはクエイクとボルケーノに聞かずにはいられなかった。

 すると、ボルケーノがクエイクとじっと顔を見合わせた後に、頷き合ってからゴウへと向き直る。

 

「……確かに思うところはあります。私達は多少経緯に違いはあっても、皆マスターに救われましたから。でもコロッサルさんから、マスターは敗北を納得した上でアンインストールを決断したと聞いています。だったら、私達があなた達を恨んだりするのは筋違いだと思うんです」

「そうとも」

 

 頷きながらクエイクが続く。

 

「『過ぎたことは変えられない、だからこそ前を向いて進め』ってプランバムのダンナはよく言ってた。オイラ達がいつまでも下を向いてちゃ、オイラ達に後を託したダンナが浮かばれねえよ」

「過ぎたことは変えられない、だからこそ前を向いて進め……」

 

 無意識に復唱するゴウには、プランバムの言っていたというその言葉が、以前精神的に自縄自縛に陥り、心意の暴走を引き起こした際に大悟から言われた言葉と重なった。

 

 ──『どんなに後悔していても、それでも人は前を向いて生きなきゃいけないってことだ。立ち止まったところで何の、誰の為にもなりはしない』

 

 そんなゴウは胸の内で、自分以外にとってはおそらく何てことのない、しかし本人にとっては重要な、とある一つのことを決意するのだった。

 

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