アクセル・ワールド・アナザー 無法者のヴォカリーズ   作:クリアウォーター

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第九話

 第九話 楽しむこと

 

 

 試合が始まりゴウが降り立った場所は、硬質で青黒いタイルが敷き詰められた歩道だった。建物群の合間には濃い霧が流れていて、怪しくも荘厳な雰囲気を醸し出している。ここは《魔都》ステージ、建物が非常に硬いのが特徴のステージだ。

 対戦相手の姿は見えず、水色のガイドカーソルの方向にゴウは向き直る。相手の動向に気を張りつつ、大悟の言葉を反芻していたが、やはりピンと来ない。

『見極める』

 言われなくても、戦闘中はもちろん相手の動きに逐一対応できるように気を配っているつもりだ。一体自分には何が見えていないというのだろうか。

 そうこうしている内にカツン、カツンと足音が響き渡り、対戦相手が真正面から姿を見せた。

 今回の対戦相手であるグレープ・アンカーの第一印象は、昔絵本アプリで見たことがある海賊船の船長のようなM型アバターだった。アバターカラーは名前の通り、葡萄(ぶどう)色を基調にした色合いで、頭に被った海賊帽型のヘッドアーマー、右目には眼帯、襟を立てた外套に磨かれた長靴(ちょうか)。左腕には鉤型のフックよろしく、船の錨らしき物が装着されている。《アンカー》の名の通り、あれがメインウェポンなのだろう。

 不意打ちもせずに堂々と姿を見せたのは作戦か、はたまた余裕からか。そんな海賊アバターはゴウをじっと見ると、唐突に口を開いた。

 

「宝……」

「……?」

「宝だ! 目の前にはダイヤモンドを纏うアバター! 海賊である俺様と宝そのものである貴様が出会ったのは偶然か? 否! 必然であるぅ!!」

 

 ──()っ! キャラが滅茶苦茶に濃い! 

 バーストリンカーにはリアル割れを防ぐ一環として、又は現実の自分とは違う面を出す為の娯楽として性格(キャラクター)を作る者もいるが、アンカーは今まで出会った対戦相手の中でもぶっちぎりのインパクトだった。

 初対面で呆気に取られてしまったゴウだが、頭を戦闘状態に切り替える。

《魔都》ステージはオブジェクトも硬いので、壊して必殺技ゲージを溜めるにはかなり骨が折れる。加えて音が響くので、敵に位置を知らせやすい。

 アンカーのゲージは自分同様に空だ。見るからに武器である左腕の錨に注意を払いつつ、ショートレンジで一気に決める。

 そんな作戦方針を固めたゴウは、アンカーめがけて一気に走り出した。

 

「挨拶もなしに突撃か。よろしい!」

 

 声を張り上げるアンカーの左腕がゴウの前に出された瞬間、装着されている錨が勢いよく発射された。錨の尻にはアンカーの左手首と繋がる鎖が伸びている。

 ゴウは左前方に跳んで避けつつ、勢いを殺さずに突進を続行。眼帯を付けて死角になっているはずのアンカーの右側から拳を突き出す。

 

「──ふっ!」

「なんのぉっ!」

 

 アンカーは右腕でゴウの拳をガードしてきた。

 それでもアンカーの体力はわずかに削れたが、ジャストタイミングでガードされたことにゴウは驚く。視界の死角から狙ったはずだが、自分の動きを読んでいたのだろうか。ふざけた言動をしていてもさすがにレベル4、そう簡単には──。

 

「んん、良い拳だ、さすがはダイヤの腕。しかし、この眼帯による死角から攻めてくるのは読めていたぞ。だぁが残念! この眼帯はな、ちゃあんと周りが見えているのよぉ! これを《ショップ》で見つけた時、それはもうある種の運命かと──」

 

 ──声がでかい! この距離だと尚更……しかも聞いてもいないことまでベラベラ喋るなこの人! 

 それでもガードされた理由も勝手に話してくれるので、まぁ良しとしようと思った矢先、背後からじゃらりと音がした。ゴウは後ろから迫る錨をとっさに避けようとするが、脇腹を尖った錨の端が削る。

 

「うぐっ……」

 

 バックステップで距離を取るゴウは、アンカーの追撃を警戒し、いつでも防御態勢を取れるように腕を上げる。

 ところが、錨を左手に戻したアンカーは追撃もせずに、ゴウからわずかに削れたダイヤモンド装甲を拾って眺めているだけだった。しげしげと装甲の欠片を眺めていたアンカーだったが、やがて欠片はオブジェクトとしての寿命を失い、ポリゴン片となって消える。それを見ていたアンカーは、がっくりと肩を落として消沈した。

 まさか拾ったダイヤが消えたことに嘆いているのか。そんな様子を見ていたゴウはとうとう耐え切れず、アンカーに向かって叫んだ。

 

「あんた、一体何がしたいんだ!? アバターの装甲の破片を拾ったって、自分の物になるわけがないだろ! なのに宝だとか何とか……」

 

 自分でも驚くほど感情的な口調で問い詰めるゴウをじっと見つめるアンカーは、呆れたように鼻を鳴らすだけだった。

 

「分かっていないな、そんなことは百も承知だ。だが海賊である俺様が宝石に魅かれ、失われた宝石に落胆するのは、ごく自然のことだろうが。俺様はな、このブレイン・バーストにおいては『海賊』として楽しもうと決めているのだ。それよりも貴様、何故そんな追い詰められているように闘う? ポイントに余裕が無いのなら、地元で相性の良い相手を狙って稼げば良いだろう。どんな相手と当たるかも分からない、このアキハバラBGにわざわざ来る必要もないはずだ」

「楽しむ……」

 

 アンカーの自論はゴウには理解し難いが、確かに彼は生き生きとして戦っているように見える。

 勝つ為だけに戦うのとは違う、これが大悟のよく言っている『楽しむ』ということなのか。それをこの一戦で見極めようとゴウは決めた。

 

「よくは分からないけど……でも動きが固くなっていたのは認める。頭を冷やしてくれたのには礼を言うよ」

「ん? どうも勝手に納得したようだが……まぁ良い。かかって来ぉい!」

「言われなくても!」

 

 今度はゴウが接近する前にアンカーが錨を発射した。かかって来いと言っておきながら、自分から攻撃してくることに対して文句の一つでも言いたくなるが、ゴウは錨を回避して、錨に繋がっている鎖を右手でがしりと握った。だが、発射された錨の勢いは止まらずに、引っ張られて足が地面から浮き上がってしまう。

 ダイヤモンド・オーガー自慢の《剛力》アビリティも、力を込める前に腕が伸びきり、両足が地面から離れては発揮のしようがない。アバター一体分の体重が加わっても勢いが止まらない錨は、かなりの威力を持つことが窺えるが、それでもゴウは鎖を離さなかった。

 やがて錨は硬質な建物群の一つに直撃した。錨本体は頑丈な《魔都》ステージの建物の壁に、硬質な物体同士がぶつかる耳障りな音を立てながら半分ほど突き刺さる。

 ゴウはようやく停止した錨の鎖を、綱引きの綱のように思いきり引っ張った。

 

「おぉ……らぁっ!」

「ぬおぅ!?」

 

 さすがに驚いた様子のアンカーが鎖と繋がっている左手を前に、地面に平行の状態ですっ飛んでくる。

 ゴウはそのまま飛んできた無防備なアンカーの腹に蹴りを入れた。見事にクリーンヒットし、アンカーの体力を一気に二割削ることに成功する。

 腹を蹴られたアンカーは呻き声を上げながら錨を左手に戻すと、そのまま錨をゴウめがけて振り下ろすが、この時をゴウは待っていたのだ。

 

「《アダマント・ナックル》!」

 

 先の攻防で溜まった必殺技ケージが消費され、ゴウは硬質化した拳を振り下ろされる錨にぶつける。

 二つの硬い物体がぶつかったことで高音が周りに反響する。音が鳴り止むと、ゴウの必殺技を受けたアンカーの錨が砕け散り、アンカーの体力が更に削れた。

 ──やっぱり、予想通りだ……! 

 錨がデュエルアバターが装備する武器である《強化外装》ならば、独立した体力ゲージを持つのでアバター自身にダメージは無い。ゴウはアンカーの左腕と一体化している錨を、アバター自身の純粋な腕だと推測していたのだ。そうして、攻撃の基点となっている錨を破壊したこの隙を逃さず、ここで一気に攻めに入ろうと意気込んだその時。

 アンカーが右腕を素早く自身の外套の中に入れ、素早く取り出した。この間わずか一秒。外套に手を入れた前と後では大きく違う点が一つ。

 手にピストルが握られていた。それも現代の黒光りするオートマチックではなく、リボルバー式の古めかしい拳銃だ。どちらかというと海賊よりも、西部劇のガンマンが所持していそうな代物である。

 アンカーが銃の引き金を引くと、パンと冗談のように軽い音が続けざまに六回鳴った。

 

「ぐっ……!?」

 

 放たれた六発の弾丸の内、三発はゴウの腰から伸びる装甲が防ぐも、残りの三発がアーマーの合間を抜けて、左の大腿部を撃ち抜いた。ダメージ自体は大したことはないが、それでも鋭い痛みに隙が生じる。

 

「《リボーン・シンボル》!」

 

 その隙にやや距離を取ったアンカーが、間髪入れずに必殺技を叫んだ。すると、アンカーの左手に葡萄色の光が集まり、たった今ゴウが破壊した錨が復元した。

 一度破壊されたアバターの体や、強化外装が対戦中に復元する様を見たことのないゴウは、驚愕に目を剥く。

 続けてアンカーは復元された錨の鎖を腕一本分の長さまで伸ばし、左手を上に掲げてぶんぶんと振り回す。ゴウは回避しようとするも、足のダメージがそれを許さなかった。

 

「そぉれぇい!!」

 

 振り回された遠心力によって、たっぷりと威力の乗った錨が、ゴウめがけて振り下ろされた。

 ガードしようととっさに右腕を構えようとするも間に合わない。ゴウの右肩を直撃した錨の一撃は先程の比ではなく、肩の装甲を破壊し、アバター本体まで到達した。

 

「ぐああああっっ!!」

 

 ピストルの弾丸とは比べ物にならない痛みがゴウを襲う。体力が一気に削られ、更にまずいことに激痛を感じる右肩から下の感覚が無い。右腕が全く動かないのだ。近接攻撃しか攻撃手段を持たない今のダイヤモンド・オーガーにとっては、メインウェポンの一つを失ったに等しい。

 

「我が錨を砕いたばかりか、とっておきの銃を使わせるとは見事……。しかぁし! 船乗りにとって魂の象徴でもある錨は、俺様自身が砕け散るまで何度でも蘇るのだ!! ……まぁ、この銃はショップで買ったものだし、弾にスペアが無いから対戦では一度しか使えんが。ただその分、安かった! なんとポイントたったの──」

 

 銃を外套内に戻し、聞いてもいないことを誇らしげに語るアンカーは、先程よりも距離を取り、ゴウから反撃を受けないように警戒している。錨自体の復元はできても、さすがに失った体力ゲージまでは回復しないらしい。

 勝機が皆無なわけではないが、それでも左脚は撃たれ、右肩を砕かれたゴウには、ここから逆転するビジョンが浮かばない。

 ──……もういいんじゃないか? レベル的には格上の相手に、良い勝負をしたじゃないか。この経験を生かして次なら勝てる。今回負けても力を積んで次に──。

 

「──駄目だ!」

 

 自分の弱気な、妥協する考え方に思わず声を出すゴウ。喋っていたアンカーも口を閉じ、怪訝そうにこちらを見ている。

 ──まだ体力が残っているのに諦めてどうする。この逆境を越えていかなきゃ、最初の壁のレベル4にすら辿り着けない。頭を働かせて体力がゼロになるまで……諦めるわけにはいかない! 

 自分自身を奮い立たせるゴウ。以前の自分ならそんな発想に自力で考え付くことさえしなかった。知らず知らずの内に前を向くようになったのは、間違いなく大悟と、そしてブレイン・バーストに出会ったことによるものだ。

 今の自分にできることを考える。左腕は問題なく使える。銃弾を食らった足は痛むが、全く動けないわけではない。もう一度だけ近付ければ、中距離型のアンカーに近接型の自分が地力で負けることはないだろう。

 ただし、相手の振り回される錨の一撃は強力で、ガードしても装甲は破壊される。回避すればするほどダメージを受けている左脚は動きが鈍くなり、その内に動けなくなる。では近付くには──。

 その時、素早く分析をするゴウは試合前に大悟に言われたことを思い出し、体に稲妻が走ったかのような衝撃を受けた。

 

「まさか、そんな簡単な……? でも確かにやったことはなかった……。実際そんなに上手くいくのかどうか……」

「……いきなり叫んだり、ぶつぶつ言ったりと変な奴だ。まぁ、それなりに楽しめたぞ。そろそろ終わらせようかぁ!」

 

 勝負を決めようと錨を放つアンカー。迫りくる一撃をゴウは回避しなかった。

 攻撃をよく見る。見る。見る──見極める。

 さして力は込めずに握った自分の左手を、錨と直線上に重なるように構える。直撃の寸前、ゴウは錨に拳ではなく、手の甲部分を当てた。それも真っ向からではなく、拳を傾け逸らすような角度で当てる。続いて左腕を拳の角度に沿うようにして上に押し上げると、まるで電車の通る線路のように錨を導いた。結果的にゴウは腕全体を使い、錨を受け流したのだ。

 左腕のダイヤモンド装甲はほぼ無傷だった。強い衝撃には弱いダイヤモンドだが、表面を擦る力にはかなり強い。異なる二種類の物質を擦り合わせることでできる引っかき傷によって計測するモース硬度では、ダイヤモンドは最高値の基準である10となっているのだ。通常状態で正面から拳をぶつけても相討ちか押し負けるだけだろうが、このやり方なら最小限のダメージで対処することができる。

 つまり『受ける』のではなく『受け流す』。おそらくはそれを見極めろと、大悟はゴウに言っていたのだ。これまでのショートレンジで殴り合ってきた経験とアバターの反射神経があれば、可能であることを見抜いていたのかもしれない。

 自分の放った一撃が防がれ、隻眼のアイレンズを見開いて驚愕するアンカーだったが、放たれた錨をすぐに左手に戻す。

 ゴウはその際に後ろから迫ってきた錨を避けつつ、左脚の痛みに耐えながら後を追うように駆け出した。

 

「ぬうぅ、俺様の錨を腕一本で捌くとは……。やるな、実に面白いぞダイヤモンド・オーガー! だったらこれはどうだ!? 《バトルシップ・アンカー》!!」

 

 アンカーの左腕全体が輝き出した次の瞬間、左腕がアンカー自身よりも大きい錨に変貌し、錨の両端がロケットのように炎を噴射しながら、こちらに飛来してきた。

 そんな状況でもゴウには不安はない。走りながら左手を腰元まで引き、無傷の右足で強く地面を踏み締めると、幅跳びの要領で前方に飛ぶ。

 

「《アダマント・ナックル》!!」

 

 錨と自分が一メートルも空いていない距離に近付いてから、ゴウは必殺技を発動させた。互いの技はぶつかり合うのではなく、互いに擦れ合いながらもすれ違う形となる。さすがにかすり傷とはいかず、硬質化している拳以外の腕の装甲が一気に削られたものの、ゴウは跳躍状態のままアンカーに迫る。

 対するアンカーは自身の必殺技が受け流され、敵が接近しているのにもかかわらず、まさに拳大のダイヤモンドの塊となったゴウの左拳を、避けようとも防ごうともせず、ゴウには聞き取れない声量で呟いていた。

 

「おぉ……俺様渾身の必殺技とぶつかっても砕けぬか。なんと硬く、そして美し──」

 

 言い終える前に鬼の拳が顔面に直撃した海賊は、錐揉み状に吹き飛びながら頑丈な建物の壁面に激突していった。

 

 

 

「ふぅー……」

「さすがに疲れたか?」

「はい……。インターバルがあっても三連戦はしんどいですね」

 

 世田谷の歩道。昼よりいくらか気温が下がった夕方でも、まだ外は明るい。帰り道でゴウはアキハバラBGについて思い出していた。

 グレープ・アンカーに辛勝した後に二回対戦を行い、一回目は勝利したが、二回目ではタイムアップ判定で惜しくも敗北してしまった。

 しかし大きな経験を得られた、充実した一日だったと言えるだろう。ゴウはアドバイスをしてくれた、隣を歩く大悟に質問する。

 

「……大悟さんはいつから分かっていたんですか? 僕が相手の攻撃に対して受け止めるか回避しかしていなかったって」

「そりゃとっくの昔に。お前さんみたいに、なまじ強い体と装甲がある奴はどうしても力押しになりがちになる。序盤ならともかく、レベルが上がるごとに力押し一辺倒じゃ通用しなくなってくるんだが、それに自力で気付かなきゃ、やっていけないしな」

「うっ……」

 

 暗に「それくらいすぐに気付け」と言われている気がして落ち込むゴウ。

 

「そうしょげるない。攻撃を受け流すなんて口で言うのは簡単だけどな。実際にやるとなったら中々に難しいのは事実。気付いてからぶっつけで成功させたのは大したもんだ」

「そ、そうですか? ……あ、そうだ、大悟さんに聞きたいことがあったんです」

 

 急な質問に「何だ?」と不思議そうな顔する大悟にゴウは、周囲に人がいないことを確認してから、以前から気になっていたことを聞いた。

 

「僕は今、対戦してレベルアップして、最近は少し足踏みしてましたけど……ブレイン・バーストをしていて楽しいです。それでその、大悟さんはブレイン・バーストを楽しんでいますか?」

 

 グレープ・アンカーとの対戦の際に彼は「《海賊》として楽しんでいる」と言っていた。大悟も対戦開始前に自分に「楽しめ」と言った。

 では、大悟自身はどうのなだろうか。少なくともゴウは、大悟が自分以外と対戦している姿を一度として見たことはない。レベルアップにしても現在レベル8である大悟がレベルを上げたら、それは加速世界の支配者達、純色の六王と数値の上では同等ということになる。

 しかし大悟はどこかのレギオンマスターでもないし、それに以前レベル9にはさして興味がないと言っていた。では大悟は一体、何の為にブレイン・バーストをやっているのだろうか。

 ゴウの質問にしばらく黙っていた大悟はやがて口を開いた。

 

「……確かにお前さんからしてみればもっともな疑問だな。率直に言えば、楽しんでいるよ。このゲームを長くやっている奴ほど、いろんな楽しみ方を知っているものさ」

「でも大悟さんが対戦しているところとか見たことないんですけど……」

「んー、そうだな。答えはレベル4になれば分かる。今の調子なら夏休み中にはレベルも上がるだろ。後は念の為、安全マージン用のポイントを多めに確保しときな」

 

 質問をしたのに、ゴウには更に疑問が増えてしまったが、これ以上聞いても大悟は答えてくれなさそうなので諦める。そうこうしている間に別れ道に差しかかった。

 

「さて、じゃあここで。盆になると忙しいからしばらく会えないが、頑張れよ。それと蓮美に会ったら仲良くしてやってくれ。少しアホなところもあるが悪い奴じゃないんだ」

「は、はい、それはもちろん。あ、お菓子とお茶、お昼のお礼もその内しますね。そうだ、今日の交通費も奢りますよ。あそこに連れていってもらったお礼として」

「あー、いやいや、いいんだ。今回賭けでいくらか──」

「賭け?」

「…………」

 

 大悟は突然口を閉じると、こちらに目を合わさずに微動だにしなくなった。

 ──今、賭けって言ったよな……? 

 

「……ゴウ。一つ言っておく」

「……何ですか?」

「あそこに行くのは精々、月に一回か二回にしておけ。頻繁に行き来しているとリアル割れしやすくなるからな。それとファイトマネーはともかく、賭けは嵌まると面倒だからあまりオススメしないぞ。じゃあな。暑いからってクーラーつけっぱなしながら腹出して寝るなよ」

 

 早口にまくし立てると、大悟はダッシュで帰っていった。後にはゴウだけが、道にぽつんと取り残される形となる。

 

「僕に賭けていたのかな、それとも……」

 

 ──それはともかくとして……まずはレベル4目指して頑張ろう。大悟さんの言っていたことも分かるだろうし。その中で目いっぱい楽しみながら、対戦をして強くなるんだ。

 太陽が沈み始め、ヒグラシの鳴き声が響く中、ゴウは決意を胸に帰り道を歩き出した。

 


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