ゆるぽよデンドロライフ   作:ふーじん

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(唐突な新作で)本当に申し訳ない


出会い

 □王都アルテア ねねこ

 

「はえー……」

 

 念願叶って<Infinite Dendrogram>の初ログインを果たしたあたしは、初期所属国家に選択した王国――騎士の国アルター王国の王都で西洋ファンタジーの街並みを見渡していた。

 開始地点すぐの王都南門には鎧姿の衛兵さんが立っていて、門から延びる石畳の大通りには大勢の人が行き交っていて……その先に聳える王城は文字通り白亜の巨城そのもの。

 似たような光景は前に家族で行ったディ○ニーランドでも見たけれど、あくまでテーマパークのあちらとは違って、日常生活の基盤として根付いているこちらは明らかに空気が違う。

 所謂()()()()()ってやつなのかなー、そういう謳い文句で宣伝されてたデンドロだけど、なるほどこりゃ確かに大口叩くだけのことはあるわって感じだねー。

 

「ようこそ、<マスター>さん。見慣れない顔だけれど、ひょっとして新しい来訪者かな?」

「あれ、NPCなのにそういうことわかるの? てかめっちゃ流暢に反応してる……」

「えぬぴーしー……ああ、そう言うってことはやっぱり<マスター>だね。どうも<マスター>の多くは、我々ティアンを最初はそう呼ぶことが多いらしいから」

 

 あ、そういやこのゲームではNPCをティアンって呼ぶんだっけか。

 それに会話の受け答えもすっごいスムーズでとてもAIとは思えない……でもキャラメイクを担当した管理AIも同じくらいスムーズだったし、そういうこともあるのかな。

 

「ともあれ、ようこそアルター王国へ。キミが我らの良き隣人となってくれることを願うよ」

 

 いろいろと驚く部分が多すぎて反応に遅れていると、衛兵さんは慣れた様子でそう言って通行を許可してくれた。

 おのぼりさんみたいにあちこち見渡しながら歩いていると、王都の住民や先行プレイヤーと思しき<マスター>に微笑ましいものでも見るように見送られる。

 リアルでは七月に発売された<Infinite Dendrogram>だけど、あたしはクリスマスプレゼントに強請ってようやく遊べるようになった後発組だから、やっぱり今だとあたしみたいな新規プレイヤーは珍しいのかもしれない。

 なんせデンドロの売りの一つが「ゲーム内時間三倍速」だったから、それが事実だとするとこっちではもう一年以上経ってんだもんね。MMOで一年以上のブランクと言えば、けっこーな遅れだもん。

 

「とりあえずー……どうしよ?」

 

 事前情報でこのゲームが所謂メインストーリーの存在しないフリーシナリオゲームであることは知ってたから、ほんとに何から手を付けたものか判断に困る。

 とりあえず適当な戦闘職に就いてモンスター倒して、あとは最大の目玉らしい<エンブリオ>の孵化を待つってのが定石らしいけど、それもなんだかなー。

 コントローラー操作ならそれもいいかもしんないけれど、マジモンのVRゲーなデンドロだとぶっちゃけまともに戦える気がしないもんね……。

 こちとら殴り合いすらやったことのない一般人だぞー。喧嘩も口喧嘩までだし、それも大概泣かされる側なのにー。

 

「お金はあるし、食べ歩きでもしよっかなー」

 

 幸い軍資金は初期配布の五〇〇〇リルがあるし、円換算で一リル一〇円なら所持金は五万円だ。

 こんだけあれば余程の高い買い物でもしなければ数日は保つだろうし、なにして遊ぶかはしばらくぶらぶらしてから考えても遅くはないよねー。

 

 ◇

 

「おほー、うまうま。なにこれめっちゃおいしー」

 

 ほい、そういうわけで王都探索がてらあちこちの屋台で買い食いですよー。

 いやーすごいねデンドロ、五感の完全再現ってほんとだったんだー。タレの滴る串焼きとか、蒸し上がりホカホカのお饅頭とか、もーこれリアルと遜色ないどころかそれ以上のお味だもんー。

 意外だったのは日本人の舌にもぴったり合う味付けのご飯がいっぱい揃ってたところだよねー。

 見た目完全に西洋ファンタジーなのに、見た目や味どころか名前までそのまんまな料理がそこら中で売ってるんだもん。

 この辺は日本人ユーザーにもウケやすいように運営側で設定してんのかなー? まぁ変に本場の味再現されても口に合わないことも多いし、そのへんはご都合主義バンザイだよねー。

 本場四川料理とか、おとーさんは好きらしいけどあたしには辛すぎの風味強すぎでイマイチだったし。特に山椒がキツすぎるのがなー。

 

「……でも美味しすぎるのも困りものだよねー。もうお金が……」

 

 そんな感じで絶賛デンドロライフ満喫中のあたしだったけど、ひとつだけ誤算が。

 とはいっても単純でー、あんまりご飯が美味しいもんだからついつい食べ過ぎちゃって……残りが約四〇〇〇リルしかなかった。

 円換算で既に一万円分も食べ歩きしちゃったわけで、これリアルだとおかーさんに超怒られるやつだよー。

 まだお金稼ぎのあてもできてないのに散財しちゃって、寝泊まりはログアウトすればいいにしても、そのうち戦闘とかするなら武器や防具を揃える必要もあるよね、たぶんー。

 一応初期装備は貰ってるけど、こんなのすぐにお役御免になっちゃうし……うっかり使い切る前になんとか稼ぐ手段を見つけないとー。

 

「うーん……そろそろ適当なジョブに就いたほうが」

「おっとそこの道行くお嬢ちゃん! 戦闘でお悩みなら是非ともおいちゃんの店を覗いていきな!」

 

 考え込んでいると、横から威勢の良い声がかけられた。

 振り向くと建物と建物の間の狭い路地で、幾つもの宝石を並べたサングラスのおじさんがあたしを見ていた。

 首にはタオルを巻いて目には丸いサングラス、まるで噂のひよこ売りみたいなぶっちゃけ胡散臭いスタイルー。

 そのおじさんはニカッと笑って手招きし、あたしもリアルなら近寄らないけどここはまぁゲーム内だしってことで、ちょこちょこ近付く。

 

「お、素直に来てくれた。おいちゃん嬉しいねぇ、どうも怪しまれて客足が遠いんだよなぁ」

「だっておじさん、ちょー怪しいもんー。あたしだってプレイヤー……じゃなかった、<マスター>じゃなきゃ近づかないよー」

「やっぱり? これでもちゃんと許可取ってんだけどねぇ」

「それよりもさ、これ何なのか教えてよー。呼び込むほど自信あるんでしょー?」

「おっとそうだったそうだった、んじゃま品を……の前に、見たとこ説明が必要そうだね? それじゃあおいちゃんが張り切って説明してしんぜよう!」

 

 あたしをひと目見てそう判断したらしいおじさんは、商品である宝石――【ジュエル】について説明を始めた。

 そして一頻り説明を受けてあたしなりに理解したところ、つまりは生物版の【アイテムボックス】ってことだねー。

 キャラメイクのときに初期装備一式のひとつとして貰った【アイテムボックス】だけど、この【ジュエル】には生物……奴隷にした人間や、テイムモンスターを収めて持ち歩くことができるみたいー。

 

 奴隷というのは言葉通りで、王国だと犯罪者や借金返済ができなかった人とかが身を落とすことがあるみたいで、テイムモンスターというのは【従魔師】っていうモンスターを仲間にするのが専門のジョブが手懐けたモンスターのことなんだってー。

 流石に奴隷の方はイメージちょー悪いし、同じ人間を従えて扱き使うってのは抵抗あるけど、テイムモンスターの方はちょっとキョーミあるよねー。【従魔師】のことも覚えておこー。

 そしておじさんが商品にしてる【ジュエル】の中身はモンスターで、お手頃価格のモンスターを並べてるんだってー。

 ちなみに奴隷の方は別途許可が必要らしくて、そっちの許可は持ってないみたいだから扱ってないんだってー。売られてても買わないけどー。

 

「お嬢ちゃんは見たとこ駆け出しで、ジョブにも就いてない<マスター>の卵。んでもって他の<マスター>のようにすぐにジョブに就いて戦おうとしないってことは、戦闘にも不慣れ。あるいは()()()()()()()()()()()……ってとこかな。どうよ?」

「おー……すごい、だいせいかーい。確かに一口に戦ってみろーなんて言われても、わかんないもんー」

「そこで助けになるのがテイムモンスターだ! 一度テイムされたモンスターなら、他人の手に渡ってもある程度は言うこと聞くし、従属キャパシティに入れておけば戦闘をモンスター任せにしておいても経験値が転がり込んでくるってぇ寸法よ! どうよ、お得だろぉ?」

 

 従属キャパシティっていうのは仲間にしたモンスターをシステム的にも仲間にするための数値で、このキャパシティ内に収まるモンスターなら何の問題もなく使役できるらしい。

 パーティー枠に入れるのと従属キャパシティ内に収めることの違いはいろいろあるらしいけど、それは割愛するとしてー、

 モンスターをテイムするのには【従魔師】である必要があるみたいだけど、テイムモンスターを従えるのには必ずしも【従魔師】である必要は無いみたいだから、今のあたしでも十分使役できるだろうってさー。

 まぁモンスターが育ってきたならキャパシティを広げないといけなくなるし、【従魔師】にはテイムモンスターを強化するスキルもあるみたいだから、テイムモンスターを戦闘の要にする人は大抵従魔師系統に就くらしいけどねー。

 

 うーん、聞けば聞くほどお得に思えちゃうなー。

 おじさんのセールストークが上手いのもあるけど、戦闘をモンスター任せにできるってのがあたしにとってすごーく重要かもー。

 別に必ずしもゲームを遊ぶのに戦闘は必須でもなくて、なんなら生産職に就いてそっちをメインにするっていう選択もあるけど、あたし別に生産がやりたいわけでもないからなー。

 それにリアルではつい最近までペットを飼ってたしー……そっちは寿命で死んじゃったけど、でもやっぱペットって欲しいしー……うーん。

 

「ねーねーおじさん、テイムモンスターって死んじゃわないの?」

「そりゃ、もちろん死ぬこともあるけどね。でも【ジュエル】の方でHPが危険域になったら自動で収容する設定もできるし、危ないと思ったらすぐに戻せるよ。おまけに【ジュエル】の内部時間を止めることもできるから、余程のことが無い限りは早々死なないはずだよぉ……超高火力の奇襲攻撃でも受けない限りは」

 

 けっこー不穏なこと言われたけど、可能性としてはかなーり低い話みたいだねー。

 うーん、うーん……これは……どうしよっかなー……そうだねー、やっぱりー……。

 

「……買っちゃおうかなー」

「よしきた! それじゃあ好きなのを選んで」

「で、おひとつ幾らー?」

「へ……?」

 

 うん、買うのはいいよー。あたしにとっても渡りに船だしー。

 でもさー、生憎あたしってば初ログインして一日も経ってない駆け出しだからー、お金は初期配布分しかないんだよねー。

 買い食いもしたあとだから四〇〇〇リル、正確に言えば四一二〇リルだけどー……お手頃価格とはいえモンスター、生物だもん。

 ハムスターじゃあるまいし、その程度で買えっこないよねー。

 でーもー。

 

「おじさんさー、自信満々に呼び込んだんだからさー、とーぜんあたしにも買える子いるんだよねー? 予算は四〇〇〇リルしかないけどー」

「へっ、四〇〇〇……リル? ……そんだけ?」

「おじさんの言った通り駆け出しのぺーぺーだからー。……で、そんなあたしにわざわざ声をかけてセールスしたんだから、とーぜんいるよねー? ちゃんと戦闘もできるモンスターがさー」

 

 まー自分で言っててかなーり無茶な言い分だとは思うけどー。

 こんだけ熱心にセールストークされてさー、こっちの購買意欲を煽ったんだから期待しちゃってもいいよねー?

 どーしても無理なら縁のなかったお話ということでさよならだけどー、まーでも呼び込みかけといてそれじゃあちょっとガッカリ~……だよねー。

 

「ぐ、ぐぬぬ……」

「あんだけ熱烈に口説いてくれたんだからー……おじさんのかっこいいとこ、見てみたいなー?」

 

 とゆーわけでダメ押しの上目遣い~。

 あたしのおねだりならおとーさんだってイチコロだもんねー。

 デンドロのプレゼントがクリスマスまでもつれ込んだのはおかーさんの仕業だしー。おのれおかーさんめ、やりおるー。

 

 で、そんなあたしの追撃におじさんは、思いっきり唸りながら悩みに悩んで……

 

「…………くぅ~~っ、畜生! そこまで言われちゃ仕方ねぇ! 四〇〇〇リルぽっきりで売ったらぁ!!」

「やたー! おじさんかっこいー!」

 

 バン、と膝を叩いて男らしくそう宣言した。

 まさか通ると思わなかったおねだりにあたしも思わず囃し立てる。

 

「ただし! 流石に有りもの全部から選んでもらうわけにゃあいかねぇ、おいちゃんも商売だからな。……だからギリギリその値段で売れるモンスターをこっちで用意するから、その中から選びな! ぶっちゃけ赤字不可避だけどよ、お嬢ちゃんの強かさに免じてここは泣いたらぁ!」

「おじさん……いま、ちょーかっこいいよー。イケてるー、モテモテー」

「現金だなぁオイ! それにイマイチ気の抜ける声のせいで心が籠もってねーぞ!? ……まぁいい、ちょっと待ってな」

 

 そう言っておじさんは並べていた【ジュエル】を吟味しながら片付けていき……やがて三つの【ジュエル】を残してあたしに向き直った。

 

「うし、嬢ちゃんに売れるのはこの三つのうち一つだ! いいか、一つだけだぞ!? 流石に二つ以上はおいちゃんの財布が泣いちまわぁ、カーチャンにもどやされちまう。……んじゃあそれぞれの中身を説明すんぜ」

 

 一つは【リトルゴブリン】。

 王都周辺でもよく見られるゴブリン種の最下級モンスターで、よくあるファンタジー的なゴブリンそのもの。

 特徴としてはそこそこ知性があるのである程度の武器を使うことができて、人型のため普段遣いにも便利なことがある。……かもしれない。

 バリエーションも豊富で、上手く従えられれば駆け出しのテイムモンスターとしては十分だろう、とのこと。

 

 二つ目は【ティールウルフ】。

 こちらも【リトルゴブリン】と同じ王国でもメジャーなモンスターの一種で、その名の通り狼型モンスター。

 身体能力的には【リトルゴブリン】よりもやや優れ、狼型なだけにキチンと主従関係を躾けられればよく従い、よく戦う忠実な下僕になる。

 ネックとしては少々エサ代が掛かるかもとのことだけど、それを差し引いてもやはり駆け出しのお供には最適、とのこと。

 

 そして最後が【ミニスライム】。

 こちらは変わり種。というのもこの世界におけるスライム種は所謂ドラクエ的な雑魚モンスターの類ではなく、液状生命体由来の物理無効化能力や分裂能力で数あるモンスターの中でもなかなかの強敵として知られているらしい。

 ……とはいえそんなスライムを四〇〇〇リルで購入できるはずもないので当然訳アリ。

 この【ミニスライム】は親となるスライムから独立して間もない幼体であり、分裂能力は当然無く、物理無効化能力もHPや属性耐性全般がまだまだ貧弱なせいで、ちょっとした火の気に当たるだけで即死亡のリスクも大いに有り得る。

 それでもスライムに代わりは無いので、上手く育て上げられたなら素晴らしい戦力として期待できるだろうが、大器晩成型になるだろうな、とのこと。

 

 ていうかこれって……

 

「御三家かなー?」

「ゴサンケ? なんだそりゃ」

「ううん、こっちの話ー」

 

 まるで某名作シリーズの相棒モンスターみたいなラインナップに思わずクスリとしながら考える。

 ジュエルを覗き込めば内部時間の止まった中で硬直する三種のモンスターの姿も確認できて、まるでショーウィンドウだ。

 現時点での性能的には三種とも大差ないけれど、将来的なことも考えれば難しいラインナップに、あたしも唸りながら悩んで……、

 

「ん?」

『…………』

 

 幾度となく三種の【ジュエル】を眺めてるうち、ふと脳裏に「キュピーン!」と来る感覚があって目を留めた。

 それは【ミニスライム】の収められた【ジュエル】で、停滞した時間の中で身動きどころか意識一つすら無いだろうそれが何故か、あたしに呼び掛けているような気がしてならなかった。

 

「そろそろ決まったか?」

「うーん…………」

 

 へーんな感覚。

 今はもういない()()()()を拾った時にも似たような感覚を覚えたような気もするけど……。

 でも三種とも甲乙付けがたい中で唯一違和感を生じさせたのなら、それを根拠に決めちゃってもいいかもしれない。

 ……そだねー、なら、やっぱそうしよっかー。

 

「じゃーこの【ミニスライム】でー」

「あいよ、こいつでいいんだな? 受け取ったら最後、やっぱナシは聞かねーぞ?」

「うん、大丈夫ー。この子でお願いー」

「よっしわかった。ならこれを右手に……」

 

 代金を支払って、おじさんの言う通りに右手を差し出すと……甲部分に【ジュエル】が埋め込まれる。

 左右の手のどちらかにこうやって装備するのが通例らしい。翳した右手の【ジュエル】からは、間違いなく【ミニスライム】が眠っていることが確認できた。

 

「これで取引成立だな。いやぁ思いがけず手強いお客さんで、おいちゃんもヒヤヒヤしたぜ。まったく女は幾つだろうとおっかないねぇ」

「ひどーいー。……でもおかげでいい子が買えたから、許してあげるー。おじさんありがとねー」

「いいってことよ。ああ、育て方とかについては従魔師ギルドを頼りなよ。そっちの方がわかりやすいから。……それじゃあな、大事にしてくれよ」

 

 「今度はちゃんと金用意しとけよー」というおじさんの声を後にしながら、あたしは表通りに戻っていった。

 

「んーふーふー、この子の名前どうしよっかなー」

 

 残り一二〇リルしかないけれどー、この子をお迎えできたんなら惜しくはないよねー。

 減ったお金はまたあとで取り戻せばいいさー。あては無いけどなんとかなるなるー。

 

 おかげでひとまずの目的もできたしねー。

 おじさんのアドバイス通り、まずは従魔師ギルドに行ってみよーっと。

 

 

 To be continued

 




(・3・)<人気VRMMO、女主人公、テイマー、初期モンスがスライム……
(・3・)<これはなろうですよ!!(デンドロはなろう定期)
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