□【冒険家】ねねこ
ダメ元でアプローチしてみたところ、バリンさんは少し考えてからOKしてくれた。
ちょうど今はクエスト終了直後で、王都にはその報告に戻ってきただけだったみたいで、ここで捕まえられたのはちょーラッキーだった気がするよー。
それで先にその用件だけ済ませようと報告に向かったバリンさんについていった先は、なんと王国国教の大教会だった。
どうやらバリンさんはもう一つの上級職枠で【教会騎士】に就いてたみたいで、今回受けてた依頼もここからの要望で受けた指名依頼だったみたいー。
教会に入るや否やすれ違う人みんなから恭しく出迎えられて、中には拝みだす人までいてびっくりだよー。
見るからに偉そうな人達からも「バリン卿」って呼ばれて尊敬を集めてるみたいで、あたしが思ってた以上にバリンさんって凄い人みたいー。
でも考えてみればそっか、【聖騎士】で【教会騎士】なんていう高潔な騎士の鑑みたいな人なら、信心深い人達からは聖人のように思われてもおかしくないかもー。
一緒にいたあたしがまるで場違いだった(さすがに着ぐるみは脱いだよー)けど、バリンさんに知人として紹介されると打って変わって歓迎されて、バリンさんみたいに立派になるんだよって応援されちゃったー。
「すごいねーるーさんー、ちょーかっこいいよねー」
『…………』
「……それほどでもない。普通にクエストをこなしてきただけのことだ」
謙虚だなーあこがれちゃうなー。
って囃し立てようにもバリンさんってば素面でそんなこと言っちゃうから、あたしも思わずぽかーんだよー。
「……俺の用件は済んだ。イベントだったな、いくか」
「わーい! バリンさんありがとー!」
ちなみにあたしが声をかけなかったらここでまたクエストを受けてどっかに行ってたみたいー。あたしってばやっぱりラッキー。
ともあれ用件を済ませたなら教会を失礼して、そのまま王都の外に移動ー。
バリンさんから飛んできたパーティー申請を受諾して、るーさんを従属キャパシティ枠に移動ー。
ちょこちょこ鍛えてた《従属拡張》でもるーさん一匹だけでいっぱいになっちゃうけど、こうしないとイベント参加条件を満たせないから仕方ないよねー。
あ、るーさんから貰った【ターミナル・スライム】五号もこっちに移しとかないと……あぶなーい、こないだスキルレベルが上がってなかったらキャパオーバーだったよー。
「……随分と強くなったな。上手く育成できているようでなによりだ」
「んーふーふー、るーさんは賢くて強いからねー」
パーティーを組んだことで開示された簡易ステータス画面を見て、バリンさんが感心したように呟いた。
わかっちゃう? わかってくれるかなーるーさんの強さをー。バリンさんがそう言ってくれるなら自信ももっと湧いてくるよー。
「……【カオス・スライム】、聞いたことのない種族だな。スライムは特に独自性が高いとは聞くが……突然変異か? スライムとの交戦経験は何度かあるが、るーさんはそのどれとも違うな」
「なんかねー、いろんなものをいっぱい食べさせてたらこんな風に進化してたー。前は【ハイブリッド・スライム】だったんだけどねー」
「……成程、雑食性が特に高い新種というわけか。戦力としては申し分無さそうだ」
ちょっとだけ口数が多くなったことから、バリンさんもるーさんに興味津々みたいだねー。
やっぱりバリンさんって戦闘が好きなのかなー? あたしも嫌いじゃないけど、バリンさんからはもっとガチっぽい気配がするよー。
それを証明するように簡易ステータスにも合計レベル四〇〇オーバーって表示されてるしー、今就いてる【教会騎士】を極めたら堂々のカンストみたいだねー。
各ステータスの数値もあたしとは比べ物にならないよー。普通に四桁とかあるし、あたしじゃ一〇〇人いたって敵いっこないよー。
『おいおいおい、折角のバレンタインイベントで男女二人、あま~い雰囲気が普通のところをなぁに色気のない話題で盛り上がってんだよ御主人! ここは「俺が守ってやる」つって華麗にエスコートするところだろうがよってあだっ!?』
「黙れ。それは下衆の勘繰りというものだ」
囃し立てたオハンちゃんにバリンさんの鋭い拳骨が炸裂、うわーいたそー。
でもオハンちゃんの言う通り、確かに色気のない話だったかもー。
あたしだって女の子だしー、イケメンで年上の本物のナイト様とファンタジー世界で一緒にバレンタインなんだから、もっと華のあるお喋りとかがしたいよねー。
というわけで徐に腕を組んでみるー。
「……何をしている」
「んーふーふー、オハンちゃんが言う通り色気を出してみたー。どうー? 色っぽいー?」
『うーん、悪いがお嬢ちゃんだとちょいとちんちくりんすぎてってあだっ!?』
「黙れ。それは女性に失礼というものだ」
オハンちゃんが聞き捨てならないことを言いかけたような気がするけれど、バリンさんが先に拳骨食らわしたから聞かなかったことにするよー。
くそー、身長とかおっぱいとか、あたしが一番欲しがってるんだからねー……!
「……だがオハンの言うことではないが、俺に気の利いた返事は期待するな。……まぁ、将来性はあるんじゃないか?」
「ぐぬぬ……いつかおっきくなってギャフンって言わせちゃうもんねー!」
「……こちらではその機会も無いだろうに。まぁいい、乗れ」
そんなことを言ってると、愛馬を喚び出して飛び乗ったバリンさんが馬上からあたしを引き上げて後部に乗せる。
明らかに手慣れた動きに思わず呆気に取られていると、バリンさんは「しっかり掴まっておけ」とだけ言ってそのまま手綱を執って馬を走らせた。
「……バリンさんってやっぱずるいよねー?」
『こういう奴なんだよなー。分かる? 俺様の気苦労』
しみじみとして呟くオハンちゃんの声は、とても一言では言い表せない苦労感が滲み出ていたー。
◇
それから南へ馬を走らせること数時間、<サウダ山道>を越えて決闘都市ギデオンを望む<ネクス平原>の外れにあるエリアに到着すると、そこでイベントモンスターの狩りを始めることになったー。
右手の【ジュエル】からるーさんを喚び出すと、ようやく置き去りにしかけたことへの怒りが解けたのか「ぶるるるるっ」からいつもの「ぷるぷるっ」に戻っててホッと一安心ー。
……さすがのるーさんも馬ほどには速く動けないもんねー。普段るーさんに乗ってばかりだからそのへんすっかり忘れてたよー。ごめんよーるーさんー……。
「……俺と君のレベル差的にこの辺りが丁度良いだろう。とはいえ俺が率先していては碌に経験値も入らないだろうし、君をメインにして狩ることにしよう。俺はサポートに徹する」
「あ、そっかー。そのことも忘れてたよー……旨味が少なくてごめんねー」
「……気にすることはない。元より参加する予定も無かったイベントだ」
うーん、それってフォローになってるのかなー?
でもバリンさんなりの気遣いだってのはわかるし、ここは素直に甘えておくよー。
「……折角だ。あれからどれほど成長したのかを見せてもらおう。不要だとは思うが、何か疑問点があるなら俺に分かる範囲で良ければ答えよう」
「いいのー? それだとあたしばっかり得しちゃうけどー」
「……構わない。それに僅かな間のこととはいえ、目を掛けた後輩の成長を見るのも先達の醍醐味だ。好きなようにやるといい」
『と不器用な先輩風を吹かせる御主人なのであったってあだだっ!?』
「黙れ」
オハンちゃん、口は災いの元ってしってるー?
でもまぁオハンちゃんだしわざとかなー。バリンさんの相方も楽じゃないねー。
ともあれそういうことならはりきっていっちゃうよー!
あたしだって初ログインしたときのままじゃないってことを教えてあげちゃうもんねー。
「とゆわけでるーさん、キミにきめたー!」
『…………!!』
決めたもなにもるーさんしかいないけれど、そこは様式美ってことでー。
この辺を根城にする野生モンスターに紛れてる明らかに場違いな美少女悪魔モンスターにるーさんをけしかけると、近づくや否やぶわっと包み込むようにスライムボディを広げて呑み込むと、しばらくそうしたあとに残った骨でもペッと吐き出すようにして特殊ドロップのチョコだけが残ったー。
『うわっ、えぐっ。完全に見た目が十八禁じゃねーか』
「……スライムとしては特段変わった点のないオーソドックスな型だな」
オハンちゃん、それを言っちゃあおしまいだよー?
あたしも最初は思わないでもなかったけどさー、でもスライムだからこういう形に行き着くのは仕方ないよねー。
戦利品のチョコを持って戻ってきたるーさんをよしよし撫でると、嬉しそうにぷるんっと震えて二匹目の小悪魔に吶喊ー、そして同じように倒してもどりー。
これでも綺麗に倒すようにしてるだけマシなんだからねー。【グリーモール】を倒したときの戦い方が有効だと気づいたのか、あの後しばらくはグロテスク続きだったんだからー。
最近は余程の強敵相手じゃなければ体内攻撃は控えるようになったから、つまりこのイベントモンスターはるーさんなら余裕綽々な相手ってことだねー。
慣れてきたのか相手の体格に合わせて必要最低限の分体を仕向けるようになって、最終的には同時に二〇体に分裂した上で敵の急所を突いて仕留めるようになってたー。
「……間違いなく亜竜級上位の戦力はあるな。スライムとしての特性も加味すればほぼ純竜級と言ってもいいか」
「えへへー、すごいー? やっぱうちのるーさんってば最強ー?」
「……最強かどうかはともかくとして、テイムモンスターとしては破格の性能だと言える。これも君の<エンブリオ>の影響か……いや、るーさん自身のポテンシャルも群を抜いているか。野生では絶対に遭いたくない手合だ」
「そうなのー?」
思いがけずべた褒めなバリンさんに尋ねてみると、彼は思い出すように顎に手をやりつつ答えた。
「……一般的なスライムと比べて明らかに学習能力が高い。大抵のスライムは生存本能だけのモンスターで、無差別に獲物を仕留めるだけの存在だからな。中には知性の高い個体もあるかもしれないが俺は見たことがない。思考する液状生命体なぞ、大半の生物にとって天敵以外の何者でもない」
『少なくとも御主人じゃどうにもなんねーな。消し飛ばすような高火力は持ってねーし、《グランドクロス》でも多少体積削って終いだろ。基本的にスライム相手には逃げ一択だ』
「……俺は見ての通り防御力は高い方だが、僅かな隙間から体内に侵入されてはそれも無意味になるからな。相性上の不利ばかりは如何ともし難い。……ところでねねこ、今のるーさんの
「えっとー……八万くらいかなー? HPは特に伸びが良いからー」
「……完全に純竜と同等か」
HPが増えれば体積も増えるから、今じゃもうるーさんを抱っこできないんだよねー。
幸い液状生命体だから形はどうとでもなって、町中でもまだ外に出していられるサイズなんだけどー、それもそう遠くないうちに無理になっちゃうかなー。
その代わりとでも言うように外ではるーさんがあたしを
「……別格だな。これならもう少しレベル帯が上の狩場でも良かったか……ねねこ、物足りないようならもう少し先の、――ッ!」
『へいへい包囲されてんぜ御主人! お嬢ちゃんはるーさんの傍で大人しくしてな!』
ぶつぶつと評価を口にするバリンさんを見守っていると、不意に表情を変えて
そしてそれに遅れるようにしてあたしの《殺気感知》と《危険察知》にも反応があり、そこでようやくあたし達が何者かの襲撃を受けていることに気づく。
「――ヒャッハァー!! アベックは消毒だァー!!」
「騎士様と美少女がデートかよ? 祝福してやるぜぇ……盛大にな!!」
「カップル殺すべし!!」
すぐ傍でバリンさんが飛来したなにかしらを盾で弾くと同時に、周囲からそんな言葉と共に大勢の<マスター>――PKの集団が姿を現す。
その目はギラギラと煮え滾るような嫉妬に燃えていて……その矛先は明らかにバリンさんへ向けられていた。
つまりこれってー……そういうこと?
「うわぁ……」
「おいこらガキィ! なんだその憐れむような目はァ!? バレンタインに独り身でいるのがそんなに悪いかよ!!」
思わずドン引きすると共に憐れみの視線を向けてしまうと、それに気づいたPKの悲痛な叫びがこだました。
すごい……まるで血を吐くような呪詛の雄叫びだ……。なまじ実際に
「どいつもこいつもバレンタイン気分で浮かれやがって……俺達にゃあイベントに参加する資格もツラも無いってかぁ!? ふざけんじゃねぇえええええええええええ!!!」
「……イベントには同性同士でも参加できたはずだが」
「男同士でイベント参加っておめーホモかよ!! 美少女連れといて上から目線で言ってんじゃねーぞゴルァ!!!」
『……御主人、今のはアンタが悪いわ』
あたしもそう思う……でもバリンさんだしなぁ。
それにしても……んふふ、美少女かー。そう見えるー? これでもあんまりリアルからは離してないんだよー、ほんとほんとー。
「……所詮ゲームイベントだろう。頼めば引き受けてくれる女性もいるんじゃないのか?」
「だったらテメェはそこの可愛い子ちゃんに土下座して頼み込んだのかよぉ、えぇ!? だったら考え直してやらんでも」
「……いや、俺は誘われた」
「「「「「――ぶっ殺す!!!!!!!!!」」」」」
『ねぇ御主人、わざと? わざとなの???』
「……なにがだ」
……バリンさん、それ男子じゃなくても火に油ってわかるやつー。
オハンちゃんの気苦労も分かる気がするよー。終始こんな調子じゃあそりゃー口出しも多くなるよねー。
そんなこんなでほとんどギャグで始まった襲撃だけど、生憎あちらは誰も彼もあたしよりずっとレベルもステータスも上の戦闘職ばかりー。
数はざっと五〇人くらいって、うわぁ……いくらなんでもここまで集まるー……?
多分半分くらいはノリで付き合ってるのかもしれないけどー、一部の熱狂はマジだしー、なにより全員PK慣れしてるのか<マスター>相手でもまるで躊躇が無いなー。
そんな相手に全方位から襲われたんじゃ、バリンさんやるーさんはともかくあたしは一溜りもないよねー。
生憎【ぐりーもーる】で地中に逃げようにも装備する余裕も無いし……ここは二人を信じるしかないなー。
「ところであたしもやっぱりキルされるのー?」
「げっへっへ、そこの兄ちゃんを仕留めたら……王都まで送るんでその間デートってことにしてもらえませんかね?」
「テメェ、抜け駆けしてんじゃ」
「……余所見とは余裕だな」
「ぎゃあーっ!?」
……グダグダだぁ。
あたしのふとした疑問に答えたモヒカンさんと、それを咎めようとしたアフロさんがまとめてバリンさんにズンバラリ。
軽装ながらなかなかの防御力がありそうな装備にも関わらず、バリンさんが左手に握った夜のように黒い刀身の剣はそれを物ともせず、それどころか装備そのものには一切の傷を負わさないまま中の生身だけを斬り裂いてデスペナルティに陥らせた。
「それがお前の<エンブリオ>かぁ!? 大層なモン持ってんじゃねーか!!」
「……いや、違う。こいつバリンだ! "自由騎士"バリン、ギデオンの決闘ランカー! 戦ったことがある、そいつの得物は盾だ!!」
「とんだ有名人じゃねーか! ていうかなら剣は特典武具かよ! クソっ、見せびらかしやがって!!」
「だからなんだってんだよぉおおおおおお!! アベック死すべし!!」
ほうほう、バリンさんって決闘ランカーだったのかー。
ランキング掲示板は普段見てないから知らなかったなー、あたしには縁のない話だと思ってたしー。
それにしても"自由騎士"って通り名かっこいいなー! こういう異名で呼ばれたりするのってちょっとしたあこがれだよねー。
バリンさんが決闘ランカーという指折りの実力者と知ってもPK達に動揺は見られず、それ以上の怒りが彼らを突き動かしてバリンさんに襲いかからせる。
げに恐ろしきは嫉妬の魔力ってことかなー? なんだかこの状況って「あたしのために争わないでー」って感じでちょっとおもしろいよねー。
とはいえ多勢に無勢で戦況は明らかにバリンさんが不利なんだけど、一瞬で接近してくる敵を識別してるのか近づく端から攻撃を盾でいなしては剣で斬って、防御無視の刃で的確に急所を抉って一撃で仕留めていく。
たしか主要臓器の損傷や頚椎切断とかの怪我も傷痍系状態異常って分類になるんだったかなー。このゲームの状態異常って普通のゲーム以上に重いらしいねー。
中には見るからに盾では受けきれないような超大型武器で攻撃してくる敵もいるんだけど、バリンさんはそれにもまるで臆さずタイミングを見計らって盾での防御をそれに合わせると、
「――《グレイト・パリング》」
「げっ、は、反動がぁ!?」
明らかに重量差では負けているのも関わらず軽やかに相手の武器を弾いて、それによって曝け出された隙を突いてバリンさんの剣が心臓を抉った。
名前からして所謂
《グレイト・パリング》はどれもオハンちゃんで使用してるから、それがバリンさんの<エンブリオ>の能力の一つってことだよね、きっとー。
何度か見てるうちにそのスキルがちゃんと敵の攻撃に合わせなければ発動しないってのもわかってきたけど、それをこの乱戦で全方位から飛んでくる攻撃全てに合わせられているのは、それだけバリンさんが巧いってことだと思う。
正直あたしでは絶対真似出来そうにないプレイヤースキルの高さに、バリンさんが決闘ランカーだというのも頷けた。
「――《グランドクロス》」
「チキショウ、もう半分やられた!?」
「つ、つえぇ……決闘ランカーはバケモンかよ……!」
そうして敵の攻撃を引き付けつつ、一箇所に固まって足並みが乱れたと見ると強力な光の奔流を放って十数人をまとめて葬る。
《グランドクロス》は確か【聖騎士】の奥義だったかなー? 王国の華でもある【聖騎士】の奥義は有名だから、あたしも聞いたことがあるよー。
実物を見るのはこれが初めてだけど、成程奥義に相応しいエフェクトと威力ー。一言で言えばすっごくかっこいいー!
なんというかバリンさんの戦い方って、すごーくありふれた剣と盾スタイルなんだけど……それがすっごく洗練されてて隙が無いって感じー。
見た目も戦い方もほんとにナイト様そのもので、見ててすっごくテンション上がるよー。
きっと決闘でも大人気なんじゃないかなー? ほんと見てて華があるもんー。
「すごいねーるーさんー、かっこいいねー」
『…………!』
「えっ、何この子怖い。ていうかスライムヤバすぎだろ……」
「そっちは放っといてこっち手伝え! つかマジでこの騎士野郎つえぇー!?」
ちなみにるーさんの方は見せしめするように一人を内臓ぶち撒けたら誰も近寄らなくなったよー。
なので実を言えばこっちはもうほとんど安全なんだけどー、PKはバリンさん憎しで向こうに集中してるみたいで、まだまだ矛を収める様子は無かったー。
「クソッ、このまま何もできずに死ねるかよ! こうなったら……」
「あっ、テメ! 女の子には手出し無用って」
「うっせぇバーカ!! 死なば諸共じゃい!! くたばれぇッ!!!」
こっちは安全……そう思ってたんだけど、とうとうプッツンしちゃったPKが現れたみたいー。
そのPKは大型弓の弦を引き絞って鏃をこちらに向けると、るーさんでは対応できない超高速の一矢をあたし目掛けて放つ。
攻撃されようとしていることに気づいてから矢が放たれるまでは一瞬で、あたしはほとんど無意識に頭部目掛けて飛んでくる矢を認めて、この距離じゃあバリンさんの援護も間に合わないなと悟ってしまって、死を覚悟して咄嗟に目を瞑ってしまったけれど、
「《カバーリング・ムーブ》――下衆とは言わんが、悪手だな」
「なっ、あの距離を一瞬で――!?」
――次の瞬間にはあたしの目の前に現れていたバリンさんの背中に、自分の無事を知らされた。
一瞬前までバリンさんがいた場所では彼を見失って動揺するPK達の姿が見える。
一〇メートル以上も離れていた彼我の距離、バリンさんの
「……そのまま待っていろ。すぐに片付く」
「えっ? あ、はいぃー……」
……思わずときめいちゃったけど、仕方ないよねー?
◇
「……普段見る徒党ではなかったな。野良か、暇な連中だ」
そのまま鎧袖一触でPK集団を掃討したバリンさんは、剣を鞘に収めながらそう呟いた。
それまであたしはずっとバリンさんの戦い振りを眺めてて、終わってから口がぽかーんと開いてたことに気づく有様だった。
「か……」
「……?」
「かっこいいー……」
「……そうか。ありがとう」
タル~とは言わなかったけど、思わず本音が口をついて出ちゃったー。
今まで冗談でナイト様ナイト様って言ってたけどー、ほんとにナイト様みたいに守られちゃったら思わず心臓がバクバクしちゃうよー……。
うわー、うわー……どうしよー、こんなの見たらクラスの男子なんて眼中になくなっちゃうよー……。
本気でかっこよすぎてやばいー……バリンさんほんとずるいよー、もー!
「オハンちゃんオハンちゃん、バリンさんって決闘でもこうなのー?」
『まぁな。だからあっちじゃモテモテよぉ。俺様はさっぱりモテねぇってのにな!』
盾のくせに自意識過剰なー……それはともかく、決闘でもこんななのかー。
うわー、絶対あたしみたいに見惚れちゃう女子とかいるんだろうなー。絶対キャーキャー言ってるよー。
『…………』
「ありゃ、るーさん落ち込んでるー? しかたないよー、あれはどうしようもなかったもんー。生きてるだけ儲けものだよ儲けものー」
『…………』
一方るーさんはあの不意打ちを防げなかったことを気にしてるのか、明らかに「ぶるーん……」と気落ちしてたー。
とはいえステータス的に難しいのもわかってるからフォローするんだけど、それが却ってるーさんを追い込んじゃってるみたいー。
うーん、【グリーモール】のときはるーさんに助けられたんだし、たまたま今回は失敗しちゃっただけなんだから、そこまで落ち込まなくてもいいのにー……。
るーさんってほんとに真面目なんだからー。あたしを心配してくれるのは嬉しいけどー、だからってどよーんってされちゃあこっちだって悲しくなるよー……。
『そう言ってやるなよお嬢ちゃん。俺様も御主人の盾だからわかるぜ、みすみす主人を危険に晒しちまう不甲斐なさってのはそりゃあ重くのしかかるもんだ』
「そうなのー?」
『おおそうよ、きっと今のるーさんは自分が嫌で嫌で仕方ねぇんだろうぜ。ちょっと見てるだけでもこいつがお嬢ちゃんのこと大好きってのはわかるし、お嬢ちゃんを守るのが誇りってぇ従者がよぅ、テメェの油断で主人を危ぶませちまったらなぁ。……悪いことは言わねぇ、今はそっとしておいてやんな。時にはそれが慈悲になるってもんだ』
今までの軽口とは違って重い説得力を伴うオハンちゃんの言葉にあたしも頷いて、今は一人にしてあげようとるーさんを【ジュエル】に戻す。
いつもなら嫌がるるーさんもまるでそんな素振りを見せないまま《送還》されると、あとには死んでいったPK達の遺したアイテムの山が散らばっていた。
「……万事が万事順調にいくとも限らない。時には失敗することもあるだろう。重要なのは失敗から如何に学び、再び立ち上がるかだ。ねねこ、君のるーさんは賢い。いずれ必ず強くなるだろう。俺が言うまでもないだろうが、見守ってやるといい」
「うん、ありがとー。落ち着いたらバリンさんが励ましてくれたって伝えておくよー」
バリンさんなりの励ましを受け取って答えると、彼は小さく頷いて、
「……それはそれとして君の注意力は散漫だな。最初に気付けなかったのはともかく、戦闘が始まってから呑気に観戦気分とはいただけない。俺としてはるーさんよりも君こそが反省すべきだと思うが」
「げっ、バレてるー……」
「……【冒険家】に就いたのなら、最低限の警戒はできるよう訓練すべきだろう。折角の機会だ、この際それも鍛えるとしよう」
そう言ってスパルタモードに突入したバリンさんの指導の下、イベントのことなど頭から抜け落ちて夜までたっぷり訓練に明け暮れたのだった。
To be continued
□余談
《グレイト・パリング》
バリンの<エンブリオ>、オハンの固有スキル。
適切なタイミングで盾防御した場合、盾の防御力を「スキルレベル+1」分倍増させる。
副次効果として防御力が攻撃力を上回った分の【硬直】を与える。
現在のスキルレベルは五なので六倍。そしてオハンの防御力はかなり高い。盾なので。
(・3・)<【硬直】は制限系状態異常の一種。
(・3・)<極短時間のスタン。しかし戦闘中にそんな隙を晒すことのリスクは推して知るべし。
《カバーリング・ムーブ》
オハンの固有スキル。
スキルレベル×一〇メートル以内の対象への攻撃を庇う際に、対象の座標まで瞬間移動できる。
現在のスキルレベルは四。つまりバリンから半径四〇メートル以内は彼の防衛圏内。
スキルの使用には少なくないMPを消費するが、司祭系統を経由した【教会騎士】でもあるバリンのMPは前衛としてはかなり高いので然程の消耗にはならない。
(・3・)<この他にも《危険察知》や《殺気感知》の効果を高めるパッシブ固有スキルもあり
(・3・)<高防御、範囲カバー、範囲攻撃(《グランドクロス》)、回復魔法を網羅した
(・3・)<極めて隙の少ないビルドが彼の特徴です
(・3・)<さすがにパッシブの方は某【撃墜王】程ではないけどね
(・3・)<それでも並の前衛とは比べ物にならない精度なので不意打ちは難しい
(・3・)<そしてメインウェポンの特典武具は闇属性物理ダメージが特性の防御殺し
(・3・)<闇の剣と光の盾が合わさり最強に見える