ゆるぽよデンドロライフ   作:ふーじん

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聖騎士

 □従魔師ギルド・交流スペース 【従魔師】ねねこ

 

「それじゃーお散歩しよっかー」

『…………』

 

 顔合わせと命名の儀も終えたところで、いよいよ本格的に触れ合いを開始ー。

 といってもるーさんを抱っこしながらあちこち見て回るだけだけど、るーさんはまだまだ幼いから目に映るもの全てが新鮮みたいー。

 さっきから腕の中でずっとちっちゃくぷるぷるしっぱなしで、広場のあちこちで手持ちモンスターと交流してる人に向けるたびに楽しそうにしてるー。

 ちなみにるーさんは全然でろでろしてなくて、まるで水風船みたいにぷるぷるしてて抱っこしやすいよー。

 るーさんの方でも腕から落っこちないように安定した形になろうとするから安心ー、でもちょっとだけ重いかもー。STRも伸ばさないとなー。

 

「こんにちはー。その子見てってもいいですかー?」

「ん? ああどうぞ、そっとならね」

「ありがとー」

 

 この広場で手持ちモンスターを連れてる人に声をかけてー、ちゃんと許可を貰ってからモンスターが嫌がらない範疇で触ってみるー。

 これでも物心ついたときからペットと生活してるから、係員のおじさんに言われるまでもなくそのへんちゃんと心得てるもんねー。

 

『…………!』

「あ、この子も気になってるみたいー。触っても大丈夫ですかー?」

「ああ、いいよ。見たとこちゃんと躾けられてるみたいだし。にしてもスライムとは珍しいな……」

「んーふーふー、うちの子かわいいでしょー?」

 

 声をかけたおにーさん(左手に紋章があるから<マスター>だ)の連れているでっかいトカゲ? 人も乗れそうなくらい大きな四足歩行の爬虫類が気になる様子のるーさんに、飼い主さんに許可を貰って触らせてみる。

 最初はおっかなびっくり触手を伸ばしていたるーさんだけど、そのトカゲがじっとして動かないのを悟るとぺたぺたと何回か触って触手を引っ込めた。

 るーさんが満足したのを見てからあたしも触らせてもらったけど、やっぱり爬虫類って鱗がすべすべしてて気持ちいいよねー。ひんやりしててかわいいー。

 

「おにーさんの子もかわいいねー。あたし的には目が高ポイントー」

「爬虫類系モンスターに物怖じしないのも珍しいね。ともあれありがとう、自慢の子だからそう言ってもらえると嬉しいよ」

 

 やっぱねー、ペット好きとしてはねー。うちの子を褒められるのが一番うれしいからねー。

 猫好き犬好きペット好きの輪はこうやって広がるのが醍醐味だよねー。なーさんがいたときが懐かしいなー。

 なんかこれだけでも【従魔師】になった甲斐があるよー。

 

「ところで僕もその子に触らせてもらってもいいかな? 手懐けられたスライムって珍しいから、つい気になって」

「ほうほう。るーさんどうー?」

『…………』

「『あんまり強くつつかないでね』、だってー。どうぞー」

「…………流石にスライムの考えてることはわからないな。ともあれお言葉に甘えて」

 

 掌の上にるーさんを乗せて差し出すと、おにーさんは忠告通りゆっくり指を近づけてそっと触れさせた。

 見るだけでもわかる「ぷにっ」とした感触に目を丸くすると、そのまま何度かぷにぷにしてー、

 

「おぉぉ……こ、これは……」

「新感覚でしょー?」

 

 ぷにぷにぷにぷにぷにぷに……って何度も真顔でぷにぷにしてた。

 わかるよー、だってちょー気持ちいいもんねー。思わず夢中になっちゃう感触だよー。

 でもそろそろるーさんがつらそうにしてきたからここまでだねー。

 るーさんは生まれたてのやわらかタンクだから、あんまりつつくとそこから腐っちゃうのだー。嘘だけどー。

 

「ふぅ……ありがとう、堪能したよ。いいね、スライム……」

「おにーさんのトカゲもよかったよー」

 

 一頻り交流したあと、そうお互いに褒めあって別れる。

 ペット好きの間に自己紹介はいらない、ただうちの子を愛しよその子を尊重する姿勢だけがあればいいのだー。

 だけどちゃっかりフレンド登録はするー。このゲームはフレンド間での連絡機能は無いけど、こうやって縁をつなぐのも触れ合いの醍醐味だよねー。

 

 ◇

 

 その後もあたし達はいろんな人とお話して、その人が連れてた子とも少しずつだけど触れ合っていったー。

 いやーすごいよデンドロー、モンスターのバリエーションが半端ないー。

 中にはモンスター型の<エンブリオ>だっていうTYPE:ガードナーとかもいて、その子達もテイムモンスターに紛れて<マスター>さんとのんびりしてたー。

 

 ちなみに一人だけ気位の高い子がいて、黒い豹? ジャガー? みたいな子だったんだけど、撫でようと思って飼い主さんに許可をもらおうとしたらその子本人にダメって言われちゃったー。

 飼い主なのに様付けして呼んでたしー、ひょっとしたらお猫様系の主従なのかもねー。

 豹もジャガーもネコ科動物だしー、お猫様の言うことには誰も逆らえないのだー。なーさんもそれがわかってる節あったなー。

 

「みんな優しい人達でよかったねー、るーさんー」

『…………』

「ねー、お外は怖くないでしょー? これからもっといろんなものが見れるからー、楽しみにしててねー」

 

 腕の中のるーさんも当初と比べて楽しそうー。

 あちこちでおしゃべりしてるうちに大分人馴れしてきたみたいだし、この調子ならもう少しすれば戦え……って、あー

 

「そういえばるーさんが戦えるのかどうかがまだだったよー」

『…………?』

 

 あたしがまだ一人で戦えそうにないから、テイムモンスターを頼っちゃおうってのがここに来るまでの理由だったけどー……肝心要のるーさんが戦えなきゃ意味ないじゃんー。

 この場合の戦える戦えないは性能的な意味じゃなくて、性格的な意味ねー。

 あたしだってプレイヤー……<マスター>だからスペック的には戦えないわけもないんだけど、性分的に切った張ったは難しいよなーって思うのと同様に、るーさんだってひょっとしたら戦うのを怖がるかもしれないじゃんー。

 露店のおじさんも言ってたように、保険はあるにしてもテイムモンスターが死ぬことがないわけじゃないし、無理して戦わせて死なせたら、それこそショックだよー。

 ……だってるーさんや他の人達のとこの子も、みんな生きてるしー。他のゲームみたいに死んでも蘇生ーってわけにもいかないから、そうなったら立ち直れなくなっちゃうかもー……。

 

「うーん、うーん……どうしよっかなー……、あたっ」

『…………!』

 

 思いがけずあれこれ悩んでいると、なにかにぶつかってずっこけちゃった。

 うー、前方不注意だよー……るーさんもいるのに歩きスマホならぬ歩き悩みなんて危ないー……うん、るーさんは無事だねー。

 

「ごめんなさーい、そっちは怪我してないですかー?」

「……問題ない。こちらこそ不注意だった」

 

 尻餅つきながらぶつかっちゃった相手に謝るとそんな返事が。

 見上げてみるとおっきなお馬さんの手綱を引いて一緒に歩いてた……、

 

「おおぉー……見るからにメイン盾だー……」

「……?」

 

 全身甲冑姿の、どこからどう見てもメイン盾な騎士サマがいたー。

 てことはこちらのお馬さんはその騎馬かなー? 全身白銀に赤マントで、ちょーかっこいいー……。

 背中には大盾を背負ってて、腰には剣の王道スタイルもちょーイカすー。

 

「……立てるか?」

「え? あ、うんー」

 

 おまけに手を差し伸べてくれる紳士っぷり……やだー、今まで見てきた人の中で一番かっこいいかもー。

 差し出された左手を掴んで立ち上がると、るーさんがぴょいんとあたしの肩に飛び乗ってぷるぷる抗議してた。

 

「違うよるーさんー、今のはこっちの不注意だったんだからー。それよりも驚かせちゃってごめんねー、ナイト様もー」

「様付けされるような身分ではないが……何にせよ怪我が無いのなら、よかった」

 

 でも思わず様付けして呼んじゃう風格だよー。

 ステータスとかは全然わかんないけど、装備の見た目からして絶対強いってわかるしー。

 

「……新規プレイヤーか。<エンブリオ>の孵化もまだの内にテイムモンスターを連れてるのは、珍しいな」

 

 そのナイト様はあたしの左手とるーさんを見て、驚いたようにそう言った。

 ここに来るまでにおしゃべりした人達みんなそれを驚いてたけど、やっぱり珍しいのかなー?

 あたしとしては成り行きの結果だから、そのへん全然実感無いんだけどー。

 

「……TYPE:ガードナーの<エンブリオ>でもない限り、初ジョブで【従魔師】に就く<マスター>は多くない。テイムするにもある程度のステータスは必要だし、購入するにも初期資金ではまるで足りない」

「ほえー」

「……見たところその【ミニスライム】も幼体とはいえ特に弱っている様子も無い。どういう伝手かは知らないが、随分と幸運に恵まれたようだ」

 

 ナイト様はとても驚いてるみたいー。

 とても気になってる様子なので、ここまでの経緯をかくかくしかじか説明すると、ナイト様は呆れたような表情(といってもフルフェイスの兜で顔は見えないんだけど)で小さく溜息をついた。

 

「……よく無事だったな。そのような怪しい露店、子供でも近づかないが。いくら<マスター>でも隙が多すぎる。幸い風貌に反して良心的な店主だったからいいが、この世界には詐欺やぼったくりも存在する。他のゲームみたいにシステム的に売買ができるわけじゃない。もっと注意すべきだ」

「うー……、改めて言われてみればおバカだったよー……」

 

 とつとつと冷静に注意されれば、さすがのあたしも反省するよー。

 うー、るーさんをお迎えできて、詐欺にも盗みにも遭わなかったからよかったけれど、ナイト様の言う通り危なっかしいにも程があるよねー……。

 

『おいおいおい、御主人よ。初対面でそう説教垂れるもんじゃねーよ、お嬢ちゃんも半泣きになりかけてるじゃねーか。もうちょっと言葉を選べ、言葉を』

「……済まない、そういうつもりではなかった。どうやら言い過ぎてしまったらしい、謝罪する」

 

 項垂れてると第三者の声が聞こえて、それを受けたナイト様の謝罪があった。

 誰だろうと思って辺りを見回してみるけど、あたし達以外に近くで話し込んでいる人はいない。

 

『おっといきなりで驚かせちまったか? 俺様は【オハン】、この一言多いんだか少ないんだかわかんねぇ騎士もどきの<エンブリオ>よ。よろしくな、お嬢ちゃん』

「おぉー……盾がしゃべってるー……」

 

 再び声が聞こえてその発生源をたどってみると、声の主はなんとナイト様が背負っていた大盾だった。

 ほえー、あの大盾も<エンブリオ>なんだー。それに無機物なのにしゃべるんだ、不思議ー。すごくファンタジーっぽいー。

 

「オハン、俺は騎士もどきではない」

『そういうことを言ってるんじゃねーよ御主人。それよりもお前、自己紹介もまだじゃねーか。悪いなお嬢ちゃん、人付き合いの下手な御主人でよ』

「んーんー、いいよー気にしてないー」

 

 ていうかちょっと浮いてるとこのあるナイト様と、減らず口だけど常識的なオハンちゃんって、案外良い組み合わせかもー。

 人間と無機物で一人漫才コンビって、リアルじゃ絶対見れない光景だよねー。

 っと、オハンちゃんが言ってたけどあたしの方も自己紹介がまだだったー。

 ペット好き同士で話し込むでもなく迷惑かけちゃった相手だから、ちゃんと挨拶しないとー。

 

「さっきはごめんねー、あたしはねねこって言うんだー。この子は【ミニスライム】のるーさん。二人で【従魔師】やってますー」

「……俺はバリン。こいつは愛馬のヨラード。一人と一匹で【聖騎士】をやっている」

『俺様は? どう見ても俺様がコミュニケーションの要だろうが!』

「……無機物をカウントすべきだろうか」

『おいおいおい、日頃の献身の甲斐もねぇ冷たい御主人だぜまったく!』

 

 どうしよう、この人達かなり面白いかも。

 うーん、あたしの直感がこのナイト様は相当なイケメンだと告げている……。

 不思議系イケメンナイトとツッコミ役の<エンブリオ>かー、デンドロってすごいなー。

 あ、お馬さんも精悍ですごくかっこよくてかわいいよー。ナイト様……バリンさんとの組み合わせちょー絵になってるしー。

 

「ところで【聖騎士】ってなにー?」

「……上級職だ」

『だから説明が足りねぇって! 【聖騎士】ってのはこの国固有のジョブで、騎士系統の上級職だぜ。王国の英雄ラングレイ卿が就いてる【天騎士】の前提ジョブでもあるな。近衛騎士団の団員は皆【聖騎士】で、自慢じゃねーが<マスター>で就いてるやつはあんまりいないレアジョブなんだぜ?』

「ほえー……すっげー、かっこいいー」

「……そうか。よく分からんが、気に召したようならよかった」

 

 【聖騎士】かー、やっぱりメイン盾でナイト様だったー。すごいなーあこがれちゃうなー。

 

「……ところで君は何をしている?」

「? お散歩してるー」

『すまん、また言葉足りてねぇ! 「ジョブに就いたばかりで<エンブリオ>の孵化もまだ。それに【従魔師】が初ジョブだと戦闘にも苦労するだろうが、どうやってレベルを上げるつもりだ?」って言いてぇらしい』

「そーなの?」

「……間違ってはいない」

 

 すげー、あの端的な言葉にこれだけの意図が組み込まれていたとはー。

 なんだかバリンおにーさん、なーさんやるーさんよりも内心読み難くてかわいいかもー。

 見た目はすごく立派なのに言動がちょっと不思議ちゃんなとことか、ギャップ萌えかなー?

 

「えっとねー、最初にるーさんを買ったから、テイムモンスター任せで戦えるように【従魔師】に就いたんだけどー」

「…………」

「よくよく考えてみれば、るーさんが戦えるのかどうかもわかってなかったなーって。それでちょっと悩んでたとこー」

「……成程」

 

 お悩みを打ち明けてみたところ、バリンさんも思い当たる節があるのか小さく頷いて、跪いてるーさんに目線を合わせた。

 そして真顔(っぽい雰囲気だけど)で視線をるーさんと合わせると、静かに一言。

 

「……るーさん、君は戦えるのか?」

『…………』

「……分からん」

『だろうな! 御主人がスライムと意思疎通できるわけねーじゃん!』

「あ、るーさん『わかんない』だってー」

『わかるの!?』

「……そうか」

 

 失礼なー、野良ならまだしももううちの子だよー? 考えてることわかるに決まってんじゃんー。

 むしろ意思疎通という意味ではバリンさんの方がわかりにくいよー。言わんとするところはわかるけどさー。

 

「……主従揃ってわからないなら、実際に試してみるしかないな」

「だよねー。でも万が一死なせちゃったらって思うと、やっぱり二の足踏んじゃうー」

「……確かに。ある程度育っているならまだしも、幼体だとスライムでも怪しいか。……このサイズだと丸呑みされては一溜りも無い」

「ううー……だよねー……」

 

 スライム全般が物理攻撃無効ってわかってても、丸呑みにされて消化されたらやっぱりマズイもんねー。

 うー……最初の壁が高すぎるよー。あたしの攻撃力も全然だし、武器を買い換えるだけのお金ももう無いしー……。

 

「……手伝おう」

「へ……?」

『まーた言葉が足りてない……。えっとな、『このまま見過ごすには寝覚めが悪い。かといって先立つものを貸すほどの付き合いもまだない。一人で行かせるにしても<マスター>はともかくモンスターの方は万が一の場合取り返しがつかないから不安だ。だからちょうど今は暇だし自分がサポートしよう』って言いてぇらしい。そうだろ御主人?』

「……間違ってはいない」

『そこは素直に「その通りだ」って言えよ!!』

 

 その申し出は渡りに船で嬉しいけれどー、いいのー?

 会ったばかりでーってのはここまでの話しぶりで疑うつもりはないけどさー、あたしみたいな初心者に付き合ってもメリット薄いよー?

 お返しできるものなんにもないしー、ありがとーってお礼の気持ちだけはいっぱいあるけどー。

 

「……構わない。見返りが欲しくて申し出たことでもない」

「なら、なんでー?」

「……初心者には優しく。始めたばかりのルーキーの危機を見過ごすのは、先達の名折れだ」

 

 ……おおー。

 すごい、MMOプレイヤーの鑑だ……。

 あたしも幾つかMMOを遊んだ経験はあるけど、こういう親切な先輩プレイヤーって希少だよー。

 普通はわかってても時間が勿体無いから知らないふりするもんー、あたしだって何度もしたことあるしー。

 だけどせっかくの申し出だから、ここは素直に甘えちゃおっかなー……。

 

「なら、よろしくお願いしますー?」

「……ああ、俺の名に誓って君の安全を約束しよう」

『そういうことだ。よろしく頼むぜ、お嬢ちゃん。なぁに護衛に関しては御主人は天下一品よ! ま、俺様の助力あってのことだがな。ガハハ!!』

 

 儀礼のように盾と剣を構えて応えたバリンさんは、思わず息を呑むくらい様になってたー。

 でも初めて見たオハンさんのデザインはその、ちょっとびっくりかなーって。

 ……ムンクの叫びみたいな表情した真実の口が描かれた盾って、正直ちょっと不気味ー。

 

 ともあれ思いがけない良い出会いを経て、【聖騎士】のバリンさんと一緒に初めてのモンスター討伐に挑むのだった。

 ……んーふーふー、楽しみだねーるーさんー。




(・3・)<次回、初戦闘。
(・3・)<<エンブリオ>も孵化します。
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