後書きに記載した第一スキルの名称を変更しました。
□<イースター平原> 【従魔師】ねねこ
バリンさんの案内で訪れたのは、王都の東門を抜けてすぐの<イースター平原>っていうところだった。
王都の東西南北すぐに位置するエリアは最下級モンスターばかりの狩場で、初心者はまずここで戦闘に慣れていくんだってー。
発売初日は大勢の<マスター>でごった返していたけれど、内部時間で一年以上経ってる今ではある程度落ち着いて、昔よりはのびのびとレベリングができるだろうってバリンさんが言ってたー。
そして<イースター平原>に入って暫く歩いた先、王都が臨める小高い丘の上でバリンさんは立ち止まると、振り返っておもむろに告げた。
「……初めに言っておくことがある」
「なーにー?」
「……俺は君を甘やかすつもりはない」
「えっとー……、つまりパワーレベリングをするつもりではないってことー?」
「……そうだ。理由は分かるか?」
勿論あたしも端からそんなつもりなんてなかったけど……理由かー。
ここでそれを聞いてくるってことは、大事なことなんだよねー? バリンさんは無駄口叩くタイプじゃないってここまでの様子からもわかるしー。
んーと、んーと……そだなー……。
「……このゲームがVRMMOだからー?」
「……そうだ。コントローラーで操作する従来のゲームとは違い、VRゲームであるデンドロはプレイヤーの動きが戦闘力に直結する。戦闘に熟達するつもりなら、大なり小なり
「なるほどー。つまりパワーレベリングでおんぶに抱っこでレベル上げても、最初は良くてもそのうち詰んじゃうってことだねー」
「……その通りだ。無論、一概にそうとも言えない。特に<エンブリオ>というユニークシステムが存在する以上、従来のゲームのような定石は容易く覆される。所謂
バリンさんの忠告にあたしはこくこくと頷いた。
薄々勘付いてたんだけど、バリンさんって戦闘に関することになると饒舌というか、真剣になるよねー。
でもそれが嫌味に感じないってのは、本人の雰囲気というかVRゲームならではって感じなんだろうけどー。
コマンドぽちぽちで遊ぶゲームで今みたいなこと言われたら、鬱陶しいなーって思ってたかもしれないけどー。
「……その上で最初にやるべきことは、まず慣れることだ。君が過去にどんなゲームをプレイしてきたかはわからないが、そのいずれとも違う<Infinite Dendrogram>の戦闘を肌で感じることが先決だと考える」
「うんうん、わかるよー。言ってることはすごくわかるー。……でも、あたし達にできるかなー?」
「……それを知るためのサポートだ。俺は護衛に長けていて、回復魔法も習得している。安心しろとは言わないが、過度に不安がる必要もない」
そこまで言ってバリンさんは「周囲を見ろ」と促した。
それに従って見渡してみると、あちこちに一~三匹程度の見るからに雑魚っぽいモンスターの群れがちらほら散らばっている。
そのうちウサギ型の【パシラビット】というモンスターを指し示してバリンさんは言った。
「……まずはあのモンスターを相手に戦ってみろ。一匹だけでいる個体を狙って、るーさんと共に自由に戦ってみるといい」
「バリンさんはー?」
「……俺はここで見張っている。戦っている最中に口出しはしない。危険だと判断したなら中断させる。そして一戦ごとに休憩と反省を挟んで次の獲物と戦う。その繰り返しだ」
「りょー、わかったー。それじゃーいこっかー、るーさんー」
『…………!』
バリンさんはそう言ったきりだんまりになると、兜の奥から真面目な気配であたしを見つめた。
バリンさんが見張ってるなら大丈夫だとあたしも判断して、言われた通り一匹でいる【パシラビット】を見繕ってそーっと忍び寄っていく。
武器はキャラメイクの時に貰った剣だ。オーソドックスな如何にも初期装備って感じのやつー。
同じく防具も初期装備で、こんなんじゃ攻撃するにも防ぐにも不安たっぷりなんだけどー、バリンさんがツッコまないってことは多分大丈夫ってことだよねー。
「……よし、いくよー。――せいっ!」
『…………!!』
なるべく不意を打つようにして背後から忍び寄って剣を振りかぶったけれど、振り上げた瞬間【パシラビット】が素早く振り向いて、振り下ろす間もなくあたしのお腹に突進してきた。
「うぎゅぇっ!?」
『KYYYYYY!!』
『! ……!!』
その勢いは思ったよりもずっと強くて、痛みは無いけれど大きな衝撃で思わず後ろに倒れ込む。
【パシラビット】は可愛い見た目に反して野生動物そのものな威嚇の表情を見せて唸り、もう一度あたしに向けて飛びかかろうとしたところで、横合いからるーさんの突進を受けて吹き飛ばされた。
『KYYYYYYYYYYYYY!!!』
「……あれー? 全然効いてないー……」
吹き飛ばされたものの、【パシラビット】はまるでダメージを受けた様子も無く起き上がり、そのままあたしに突進しようとする。
るーさんがそれを邪魔するように何度も体当たりするけれど、不意打ちでもない体当たりでは今度は吹き飛ばすことすらできず跳ね返されて、【パシラビット】真っ直ぐにあたしへ向けて飛びかかった。
「せやーっ!!」
『KY!?』
でもあたしだって負けてばかりじゃいられないよー。
さっきは不意打ちが失敗した動揺でまともに食らっちゃったけど、落ち着いてみれば【パシラビット】の動きはあたしでも十分対応できる範囲のスピードだもん。
そのまま剣を構えて待ち受けて、体当たりの接近に合わせて剣を突き出すけれど……、
「ぬーん、カス当たりかー」
『KYUUUUUU……!』
【パシラビット】の真正面から突き出したつもりが剣先がブレて、【パシラビット】の頬をちょっぴり切り裂く程度に終わっちゃったー。
うーん、流石に剣を握る経験なんてあるはずもないから、やっぱり姿勢とか振り方とかがダメダメなのかなー。
まさかそこまでリアル志向だとは思いたくないけどー。じゃないと先行の前衛プレイヤーってどうやって序盤を乗り切ったんだって話だしねー。
『…………』
「落ち込んでる暇はないよーるーさんー。今はこいつを倒さないとー。諦めずに何度も体当たりしちゃってー、あっちもそれで気が散ってるみたいだから、その隙を突いてあたしが攻撃するよー!」
『…………!!』
◇
その後あたし達は作戦通りに戦って、それでも一五分くらいかけてよーやく【パシラビット】のHPを削り切って倒すことができたー。
あっちのHPを削り切るまでにあたしは何度も攻撃を食らっちゃって、なけなしのHPがもう四分の一くらいになってるー。
でもほとんど初期値のHPでこれくらいの減りだから、やっぱりあれが一番の雑魚モンスターなんだろうねー。それに苦戦しちゃうあたしはダメダメだけどー。
ちなみにるーさんのHPは無傷だったー。あたしと同じくらい【パシラビット】の攻撃を受けてたはずだけど、少しもHPが減らずにピンピンしてるー。さすがはスライムってとこかなー。
「……どうだった?」
「ふひー……しんどいー、苦戦したー……」
疲れて倒れ込んだあたしにバリンさんがそう尋ねて、あたしは素直な感想を返した。
るーさんと一緒に野原の上で大の字になるあたしに、バリンさんは「だろうな」と一言述べて沈黙し、暫く考え込んでから口を開いた。
「……評価点から述べていこう。まず、俺が想定していたよりも思い切りが良かった」
「というとー?」
「……従来のゲームとは違って、このゲームはとにかくリアル性が高い。良くも悪くもな。だから一口に戦うと言っても戦うための動きというものが最初は頭に無いし……そもそも
「……さすがにないかなー。お魚を捌くのとかとは違うもんねー」
「……そうだ。だからこそ普通の人間はそれをすることに躊躇するし、まして実際に攻撃して命を奪うとなると、プレイヤーによっては身動きすら取れなくなる。そういう意味でこのゲームの戦闘は恐ろしくハードルが高いと言える。その点君は不慣れながらも躊躇することなく攻撃し、反撃を受けながらも倒すまで何度も攻撃し続けられた。その覚悟と思い切りの良さは貴重な資質だ、誇ってもいい」
「やったー、褒められたー」
思ったよりも大きく褒められて嬉しくなる。
慣れないながらも頑張ったことを認めてもらえたのが一番うれしいかなー。
バリンさん、ちゃんと見ててくれたんだねー。やっぱりかっこよくて素敵ー。
「……そして反省点だが」
「だがー?」
「……それ以外の全てだ」
「……なんですとー!?」
『ガハハ! 言われちまったなぁ、お嬢ちゃん。だがまぁ仕方ねぇよ、前提条件からしてデメリットがありまくりだからな!』
盛大に上げて落とされ悲鳴を上げると、オハンちゃんが豪放磊落に笑ってフォローだかなんだかわからない慰めを言った。
前提条件から間違ってるって、まぁその理由は分かるけどさー。
「やっぱり、【従魔師】で直接戦おうとしてるのがー?」
「……半分正解だ。厳密には初期ジョブに【従魔師】を選んだ上で、満足な戦闘に適さないモンスターを使って戦おうとするのがそもそもの間違いだ、というべきだろう」
うー、一転してボロクソだよー……。
最初に褒められただけにショックが大きいー……よよよ。
「……ねねこ、何故君が苦戦したかわかるか?」
「それは……【従魔師】だからでしょー?」
「……なら、何故【従魔師】だと苦戦するのだと思う? この際テイムモンスターの強弱は脇に置いて、君自身に焦点を当てて考えてみろ」
るーさんの問題ではなくて、あたしの問題……なんで【従魔師】だとしんどいのか、かー。
バリンさんの問いかけを考えながら、その答えを探るべく悩みながらウィンドウを開いていろんな画面を見ているうちに……ふと気付きを得る感覚があった。
ひょっとしてだけど、その理由ってー……、
「……攻撃スキルが無いー? ゲームなら普通、そういうのあるよねー?」
「……いい読みだ。その通り、【従魔師】には直截的な攻撃スキルが無い。あるのは《従属拡張》や《魔物強化》といったサポートスキルばかりだ。言ってみればサポート職が無理して『たたかう』を連打して敵を倒そうとするようなものだ」
バリンさんが挙げた二つのスキルは、あたしが【従魔師】に転職すると同時に覚えたスキルで、従属キャパシティと配下の魔物……この場合はるーさんだねー、それのステータスを少し強化するだけのもの。
本来の【従魔師】なら十分に戦えるモンスターを《従属拡張》で増やしたキャパシティに入れて、《魔物強化》でより強くして「薙ぎ払えー」ってできるけれど、生憎るーさんはまだ弱いからキャパシティ拡張の意味が無くて、元のステータスが低いから強化も然程意味がない(今はレベル一で一〇%強化にしかならないしねー)。
つまり強みを全然活かせないうちに就いちゃったもんだからデメリットしか生まれてなくて、そのせいで必要以上に苦労しちゃってるってことかー。
所謂ひとつの地雷職ー? でもこの場合地雷なのはあたしかー。うー……悲しいー……。
「……初ジョブが【戦士】などの純粋前衛職なら、直接戦闘に寄与するステータスへの補正や武器スキルによって十分に戦えただろう。戦う上での動きそのものもジョブに就けばある程度補正が掛かって理解しやすくもなる。逆に【魔術師】などの後衛職でも、火力に長ける攻撃魔法で戦うこともできる。だが【従魔師】にはそのどちらも無い。あるのは相棒となるモンスターをサポートする術だけだ。これが君が雑魚モンスターを相手に苦戦している理由だ。理解は出来ただろうか?」
「うー……否応無く冷静な批評が突き刺さるよー……」
『御主人ってやつはダメ出しするときだけ饒舌になるとこがあるからなー』
「……そういうつもりは無いのだが。気に障ったのなら謝罪する」
『こういう奴なんだよ。お嬢ちゃんごめんなー』
「うー……、でもでも正論だからー」
これがバリンさんじゃなけりゃこのやろーってなるんだけどー……バリンさんだからなー。
いい人だってもうわかってるし、バリンさんなりに真面目に言ってくれてるだけってわかるからいいけれどー、それでもつらいものはつらいー……。
「……やっぱり【従魔師】やめて【戦士】とかになったほうがいいのかなー。【従魔師】になるのはその後でもー……」
「……そうは言っていない。俺が言っているのは君が苦戦する理由であって、君が勝てない理由ではない」
「それってほとんど一緒じゃないのー?」
「……全く違う。そもそも君がるーさんを従えている時点で、この近辺に生息するモンスター相手に苦戦する理由などどこにも無いのだから」
「それってどういう……、――?」
バリンさんの前言を翻すような発言にどういうことなのか尋ねようとした瞬間。
あたしの左手に埋め込まれた<エンブリオ>が輝き出して……その光が収まったとき、あたしの目の前にはひとつの
「……このタイミングで、か。俺も他者の<エンブリオ>の孵化に立ち会うのは初めてだ」
「これが、<エンブリオ>……あたしのー?」
「……ああ、紛れもなく君の<エンブリオ>だ。君だけのオンリーワン……確認してみるといい」
反省会を中断してそう促したバリンさんに従ってウィンドウを開く。
そしてメニュー画面を開いてあれこれ探していると、見つけた。
――【永世宝冠 ケテル】。これがあたしの<エンブリオ>……。
「おおー……豪華ー、かっこいいー!」
「見たところTYPE:アームズのようだが……頭装備か? さして特異なパターンではないが」
「ほうほう。んー、これはあたしにキングになれってことかなー? ……あれ?」
「……どうした?」
「……装備できないー……」
どう見ても頭装備のそれを被ろうとするけれど、見えない何かに邪魔されて装備できない……。
うそー……なんでー……? あたしの<エンブリオ>なのになんで装備できないのー?
ううー……ここにきて一番のショックだよー……。あたしの<エンブリオ>なのにー……。
「……ううー……もうデンドロやめるー……」
「……待て、早まるな。<エンブリオ>が所有者の役に立たない形で生まれることはあり得ない。冷静になって確認してみろ。どこかに理由があるはずだ」
思わず弱気になって引退宣言してみると、バリンさんがこれまでで一番焦った様子で制止した。
言われた通り冷静になっていろいろ探ってみるけれど、理由なんてー……。
半分涙目になりながらあれこれ操作していると、もっかい<エンブリオ>のページに戻ってきて、何か見落としは無いかもう一度てっぺんから見直して行くと……カテゴリーの項目に見慣れない文字があるのが見えた。
「えっとー……」
「……どうだ、何か見つかったか?」
「このカテゴリー欄のところなんだけどー……バリンさんの言ってたアームズってやつじゃなくて――TYPE:アームズ・チャリオッツって書いてあるー。これなーにー?」
あたしの返答にバリンさんは一瞬固まって、ジロリと睨みつけるような気配であたしを見つめた。
「……それは本当か?」
「ほんとほんとー。バッチリそう書いてあるー」
『ほっほーう、こりゃまた珍しいパターンだなぁオイ!』
「……確かに。第一形態から
なんか思わぬ反応……ひょっとしてレアなのかなー?
もしかして、つよいー? 俺TUEEEEー? 主人公最強ー?
……でも実際にその立場になってみると微妙かもー。それはそれでデンドロやる気が削がれるー。
「……何を勘違いしているかは知らないが、生まれたてで一気に強くなれるわけではない。ただ、物珍しいだけだ。あり得ないことではない」
「そっかー、よかったー。……で、珍しいって、なにがー?」
「……通常、<エンブリオ>のカテゴリーは一種類だ。進化を重ねる過程で他のカテゴリーが加わることもあるが、第一形態の時点では普通一種類だけが通例だ。だが稀にそうではない<エンブリオ>が存在する……という噂だ。だから少し、驚いた」
「カテゴリーってー?」
「……その説明が必要だったか。なら、簡単に説明しよう」
説明するバリンさん曰く、アームズは武器とか防具とか道具といったアイテムで、ガードナーがモンスター。
チャリオッツが乗り物で、キャッスルが建物。そしてテリトリーは異能力ー。
わー、すごくシンプルー。わかりやすいー。
「……何をしている?」
「チャリオッツだから乗ってるー」
ケテルのカテゴリーがチャリオッツだから、説明通り乗ってるんだけど……乗れないー。
あっれー? 乗り物のカテゴリーじゃないのー? あたしだって王冠に乗るなんておかしいなーって思ったけど、チャリオッツだっていうから乗ってみたのにー。
「……そうではない。確かに勘違いする理由もわからなくはないが、違う。将来的な話になるが、チャリオッツ系列には別の形もある」
「……それってー?」
「……アドバンス、といってもまだわからないだろう。今は気にしなくてもいい、いずれ分かる。だが、そうだな……」
バリンさんは意味深なことを言ってから少し考え込んで、再びあたしに向き直った。
どうでもいいけど意味深な発言ってその時言えよって思うよねー。漫画とか読んでてよく思うんだけどー。
でも親切なバリンさんの言うことだから、今は気にしなーい。いずれ分かるならそのときを待つよー。
「……状況から見て対象となるのは一つだけか。ねねこ、その王冠をるーさんに被せてみろ」
「るーさんに? わかったー。るーさんおいでー」
『…………!』
ここまで蚊帳の外だったるーさんを手招きして、ぷるぷる葛饅頭なボディの上にそっと被せてあげるー。
王冠はるーさんよりもちょっと大きかったみたいだけど、被せた瞬間一回り小さくなって、るーさんにピッタリなサイズになったー。
……うわー、これすごくキン○スライムっぽいー。色と表情以外は割とまんまー。かわいー!
『…………。――!!!!!!!』
「うわっ、すっごいぷるぷるしてるー!?」
「……やはり彼女に適合した<エンブリオ>だったか。だが、この反応は……?」
被せた途端すっごい小刻みにぷるぷる震え続けてたるーさんだけど、あたし達が見守るうちに少しずつ落ち着きを見せ始めて……数分もする頃にはいつもどおりのぷるぽよ感に戻っていた。
でもあたしにはわかる……今のるーさんはすごくドヤ顔してるよー! 『今までとは一味違うんだからね!』みたいにすごく自慢気にしてるー。
「おー、るーさんかっこよくてかわいいよー。あたしの<エンブリオ>がよく似合ってるー!」
『…………!』
「心なしかちょっとだけかしこくなってるー? リアクションがシャキッとしてるー。んーふーふー、えらいえらーい」
『…………』
頭の上には王冠があるから、人間で言うほっぺたっぽい部分をなでなでしてあげると、るーさんは嬉しそうに「ふにゃあん」ってなったー。
うーん、まだよくわかってない<エンブリオ>ってやつだけどー、るーさんがこうして喜んでくれるなら嬉しいなーって。
さすがあたしの<エンブリオ>ー、空気読んでるー。
「……無事に済んだようだな。おめでとう。これで君も<マスター>の仲間入りだ」
『おうおう、俺様もお仲間が増えて嬉しいぜ! 生憎俺様程弁が立つわけじゃあなさそうだがな、ガハハッ!』
「んーふーふー、ありがとーバリンさんー。それにオハンちゃんもー。ちょーうれしいよー」
うれしいなーうれしいなー、もうなんかこれだけでいいやーって気分ー。
……はて、何かを忘れてるようなー?
「……無事<エンブリオ>の孵化を見届けたところで、続けよう。君達の戦闘の話だ」
「あ、そうだったそうだったー。その話の途中だったー」
「……もう一度言うが、本来君達が苦戦する理由などどこにも無い。しかし君達は苦戦している……それが何故か分かるか?」
「んっとー……」
言われて考えるけれど、今度はわかんないなー。
うんうん悩んでみるけれど、どれだけ考えても答えは見つかんないー。
そうしてると今度はオハンちゃんの笑い声が響いて、バリンさんを咎めていた。
『おいおい御主人、流石にそれは今のお嬢ちゃんに気付けってのは酷だろうよ。判断材料そのものが無ぇんだから』
「……そうかもしれない。少し興が乗りすぎたようだ。済まない、確かに意地の悪い問いだった」
「いいよーべつにー。答え合わせはしてくれるんでしょー?」
意地が悪い理由が今のあたしにはわからないんだけど、詫びるバリンさんは悪くないよー。
ここまで親身になって教えてくれてるのは他ならぬバリンさんだからー、こっちこそ意図が汲めなくてごめんねー。
「……答え合わせか。だが、その必要は無さそうだ」
「というとー?」
『…………』
また意味深なことを言ったバリンさんの視線は、るーさんに向いていた。
そしてそれに応えるようにるーさんは「ぷるんっ」と震えて……、
◇
「おおー……すごーい、あっという間に倒せちゃったー……」
『…………!』
二度目の【パシラビット】への挑戦。
だけど今度は一回目とは比べ物にならない成果で、あっという間に倒せちゃったー。
それもこれもまたドヤ顔してるるーさんのおかげだよー。だってまさかー、
「【窒息】なんて状態異常があるんだねー。みるみるうちにHPが減っていったよー。【パシラビット】も呼吸できなくなって隙だらけだったしー、るーさんすごーい!」
『…………!!!』
バリンさんの言った「良くも悪くもリアル性が高い」という言葉の意味がわかったよー。
つまりこの世界のモンスターはほんとに生きていてー、ご飯も食べれば睡眠もするし、それこそ生きるために
そして生きるために呼吸が必要な生物ならー、その呼吸を止め続ければ【酸欠】で意識が朦朧として、【窒息】の末に死んじゃうなんて盲点だったよー。
一回目は碌に効かない体当たりしかしなかったるーさんだけど、ケテルを装備してからは見違えるような動きで【パシラビット】の顔に貼り付いてー、そのまま窒息死させちゃったー。
呼吸困難に陥った【パシラビット】の動揺もリアルそのもので、とてもじゃないけど武器を持って攻撃するあたしに構う余裕なんてなかったもんー。
戦い方ひとつでこんなに差が出るんだねー。バリンさんの言うことは正しかったよー。
るーさんもバリンさんもほんとすごーいー!
「……快勝おめでとう。どうだ、感想は?」
「すごかったー!」
『…………!!』
「……そうか。それは何よりだ。今君達がしてみせたように、このゲームの戦闘は創意工夫によって幾らでも変わる。およそ現実的に考え得るありとあらゆる手段は可能と考えていい。それが有効かどうかは相手次第だが、常に模索し続けることだ。選択肢を広げれば広げるだけ、手札は無限に増える。それを忘れるな」
バリンさんの言葉にあたしは何度も頷いた。
るーさんも同意するようにぷるぷると震えて答え、それを見てバリンさんが初めて小さな笑い声を漏らす。
「……フッ。そうか、ならいい。精々努力して、自由に生きることだ。ここはそういうゲームだからな」
「ありがとーございました! バリンさんとオハンちゃんにはすっごく助けられたよー!」
『…………!』
「……構わない。俺に出来ることをしただけだ、礼を言われる程のことでもない」
『照れ隠しだからあんまり気を悪くしないでやってくれよな!』
オハンちゃんのフォローにバリンさんの拳骨が繰り出された。ガゴンッっていった、ガゴンッってー。
それにしても……んーふーふー、さすがは麗しのナイト様ー。謙虚だなー、すごいなー憧れちゃうなー。
「……帰りは大丈夫か?」
「うんー、王都も見えてるし帰り道もわかるよー。戦い方もわかったから、もうちょっとだけ頑張ってみるー」
「……そうか。なら、俺は行く。悪いがそろそろ他用でな。……頑張れよ」
そう言うとバリンさんは右手の【ジュエル】から愛馬――馬型モンスターのヨラードを喚び出すと、それに乗って颯爽と駆け抜けていった。
あっという間に小さくなる影に思わず見惚れて、見えなくなるまで手を振って見送る。
「…………はー。いい人だったねー、るーさんー」
『…………!』
「それにすっごくかっこよかったよー。ナイト様だけど、王子様みたいだったー」
るーさんも完全同意してぷるぷるしてるー。
なんだかすっごい人に助けられちゃったなー。これじゃああたしも、あの人を幻滅させないように頑張るしかないよねー。
「それじゃーるーさん、もう少しだけがんばっていこー」
『…………!!!』
はりきり全開なるーさんを連れて、あたしは再び狩りを開始した。
んーふーふー、あたし頑張るよー。
To be continued
【永世宝冠 ケテル】
<マスター>:ねねこ
TYPE:アームズ・チャリオッツ 到達形態:Ⅰ
紋章:“冠を戴く女王の横顔”
能力特性:???
スキル:《
モチーフ:カバラの思想における生命の樹、第一のセフィラ
希少な第一形態時点でハイブリッドカテゴリーの王冠型<エンブリオ>
(・3・)<第一スキルの効果は、すっごく簡単に言うと「賢くなる」
(・3・)<将来的なカテゴリーはもうネタバレしたも同然
(・3・)<見た目はキ○グスライム(スライムは生態的に雌だけど)
(・3・)<勿論オブジェクトクラスではない