ゆるぽよデンドロライフ   作:ふーじん

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初転職

 □王都アルテア 【従魔師】ねねこ

 

 あけおめことよろー。

 というわけで初ログインからリアルで一週間が経過して、あたしのデンドロ生活は順風満帆だよー。

 バリンさんのチュートリアルを経て戦い方を学んだあたし達は、こちらの時間で大体半月をレベルアップに費やしていたのだー。

 年末年始は家族で年越ししたり初詣にいったりしたからその分ちょっとだけロスはあるけど、なかなかいいペースでレベリングできてるんじゃないかなーって思うー。

 

 今がちょうど冬休み期間だったのがラッキーだよねー。

 一月七日までが冬休みで、こちらの時間だともう半月くらいの猶予はあるから、その間に【従魔師】もカンストできるかなって感じー。

 現時点でのレベルは四三で、上手く狩り続けられれば二日ちょいくらいでカンストできる見込みかなー。

 でもレベリングばかりってのももったいないっていうかめんどいしー、合間合間に王都で遊んだりべんきょーしたりもしてるから、実際にカンストするのはプラス一~二日って感じになるかもー。

 

 ……え? デンドロで何をべんきょーするんだって?

 んーふーふー、それはだねー、何を隠そうモンスターのお勉強なのだー。

 ていうのも【従魔師】をメインにしていく以上、その主柱となるモンスターの知識が必須になるのは当然のことでー、従魔師ギルドでは新米【従魔師】に向けたモンスター講座なんかを定期的に開催してたりするんだよねー。

 あたしも受付嬢さんと初転職のときに案内してもらったおじさんに勧められて(この二人とは何度か顔を合わすうちに仲良くなったよー)、せっかくだからるーさんと一緒に受講したんだよねー。

 

 ちなみにこの講習はジョブクエストにもなっててー、ちゃんと最後まで受講すれば経験値がもらえるお得仕様なのだー。

 もちろんちゃんと最後まで真面目に授業を受けないと達成扱いにはならないし、受講そのものにもお金は掛かるけれど、それを差し引いても知識と経験値の実入りはいいからお得だよー。

 

 それとよく勘違いされるんだけどー、あたしは別にべんきょーできない子じゃないしねー。

 リアルには存在しないモンスターの生態解説や、たまに実物を交えての説明もあったりして、学校の授業よりずっと面白いからべんきょー苦手な子でもきっと退屈しないと思うよー。

 

「――本日の講義はここまでです。忘れ物をなさらないよう、お気をつけてお帰りください。皆さんお疲れ様でした」

「ありがとうございましたー」

『…………!!』

 

 そんなこんなで今日の講習も終わって、教師役(ほんとに【教師】っていうジョブがあるんだよー)のおねーさんに挨拶して荷物を纏める。

 ちなみに授業中は邪魔にならないサイズならモンスターを出しておくのも許されていて、るーさんもあたしの机の上で一緒に授業を受けてたのだー。

 そのるーさんはというと、実はあたしよりも熱心に授業を受けてるところがあって、授業中はずーっとぷるぷるぷるぷる震えてるー。

 

「るーちゃんまたね! それにねねこちゃんも!」

「噂のスライム生徒かわいー! 授業中ずっと気になってて今日の内容危ないかも……」

「次の講習も受けるのかな? また一緒になったらよろしくねー」

「ういういー。みんなまたねー」

 

 そんなだから受講五回目になる今ではちょっとした有名人になってたりー。

 マスコット扱いなのも『うちの子かわいい』を信条とするペット愛好家としてはステータスだよねー。

 そのるーさんも今ではすっかり人馴れして、危険のない相手には触手を振って返事したりとかすごーく表情豊かになったよー。

 帰っていく受講者達に一緒に手を振りながら見送って、今日も満足げなるーさんを抱っこするー。

 

「人気者だねーるーさんー。あたしも飼い主として鼻が高いよー」

『…………』

「今日の授業はスライムについてだったしー、るーさんはお仲間の生態とか説明されてどうだったー?」

『…………』

「『非常に興味深い内容だった。同族の生態を客観的視点から知る機会を得られて嬉しい』。……るーさん、かっこいいこと言うなー」

 

 るーさんはモンスターで、しかも人間とは何もかも違うスライム種のはずなのに、きちんと授業内容を理解してるんだー。

 それもあたしの<エンブリオ>が孵化と同時に覚えた《大いなる活動(アッシャー)》っていうスキルのおかげなんだと思うけど、このスキルも大概謎なんだよねー。

 だってスキル説明文には「優れた思考活動を得る」とだけ記載されてて、具体的な説明はほとんどないフレーバーテキストみたいな内容だもんー。

 

 そんな曖昧なスキルなんだけど、最近のるーさんを見るに効果はしっかりと出てるみたいだから、まぁいいかなーって。

 出会った当初は無邪気な子供からちょっと偉ぶりたい優等生なお年頃って感じで、これはこれでかわいいしねー。

 でもこれのおかげでるーさんはケテルを外すことを極端に嫌がって、【ジュエル】の中にも戻ろうとせずほとんど外に出ずっぱりなんだー。

 

 どうも自由に見聞きすることを制限されるのが嫌みたいー。一応【ジュエル】の中からでも外の様子は見えるって話だけどー、それでは自由に見れないから嫌なんだろうねー。

 あたしもるーさんの立場ならその気持ちも分かるから、なるべく【ジュエル】に戻さず一緒に行動するようにしてるんだー。

 場所によってはモンスターを外に出してると怒られることもあるから、そういうときは我慢してもらうしかないけどねー。

 

「ねねこちゃんは勉強熱心ですね。それにるーさんも。<マスター>さんと言えばどうしても戦いがって、こうした講習には見向きもしない方が多いのですけど。感心ですよ」

「ニルさんの授業はおもしろいから退屈しないしねー。それにるーさんも受けたがってるからー」

 

 荷物を片付けてるーさんと駄弁ってると、教師役をしてくれたおねーさんが話しかけてきたー。

 何を隠そうこのおねーさんこそあたしが従魔師登録手続きをしたときの受付嬢さんで、サブジョブに【教師】も置いているギルドの先生なのだー。

 今では名前で呼び合うくらいには親しくなって、こうして業務以外でもお話したりするようになったよー。

 

「モンスターが人間の授業を受けたがるのも珍しい……というか聞いたこともないのですけどね。とはいえある意味教師冥利に尽きます、私としても教え甲斐があるというものです」

「やっぱり珍しいのー?」

「モンスターに人間の知識など必要ありませんからね。人間以上の知性の持ち主と言えば高位の純竜などがいますが、そうした存在ほど俗世に関わろうとしないものですし」

 

 それもそっかー。確かにあたしもメダカの学校で授業受けてこいーって言われても困るもんねー。

 メダカの授業内容が人間の役に立つとも思えないし……でもそうなるとるーさんってー?

 

「役に立ってるの? るーさん」

『…………』

「彼女はなんと?」

「『それを判断するためにも知識の蒐集は必要だ』ってー」

「本当に彼女はスライムなのでしょうか……」

 

 思わず冷や汗なニルさんだけど、るーさんなら仕方ないなー。

 なーさんもすっごく賢くてー、近所の野良猫とかみーんな従えてたし、あたしの悪戯も一度も引っかからなかったもんー。逆はしょっちゅう引っかかるのにさー。

 

 そうそう、ニルさんがるーさんのことを彼女って呼んでたけど、るーさんは女の子なんだよー。

 ていうかスライムって生態的にみーんな雌なんだってー。これはさすがのあたしも気づかなかったよー。

 つまり今のるーさんはインテリ委員長なスライムなのだー。属性てんこもりー。

 

「ところでねねこちゃんはもうすぐ【従魔師】がカンストしますね?」

「そだねー、数日中にはなりそうだよー」

「次に就くジョブなどは考えているのでしょうか?」

「うーん……」

 

 ニルさんの質問に考える。

 最初は失敗したかなーって思いかけた【従魔師】だけど、バリンさんのアドバイスのおかげでここまで育てられた。

 従魔師系統で覚えられるスキルのレベルも育ってきて、最近はすっかり【従魔師】として熟達してきたって感じなんだけどー……それだけに転職のビジョンが見えてないんだよねー。

 

「上級職になれれば一番なんだけどー」

「ねねこちゃんの場合、【高位従魔師】になるにはまだテイム回数が足りてませんからね」

 

 そうなんだよねー。

 【従魔師】の正統上級職である【高位従魔師】になるには【従魔師】をカンストさせたり、一定以上の強さのモンスターを従えたりする他に一定回数テイムを成功させなきゃいけないんだけど、こっちがあんまり順調じゃないんだよねー。

 要求回数はそんなに多くないんだけど、あたしが下手なのか単純に成功率が低いのと、それ以前にるーさんが先にモンスターを仕留めちゃうことが多くてなかなか上手くいかないんだよー。

 

「ねねこちゃん達の様子を見るに、るーさんが指示に従わないようにも思えないのですが……何か訳アリですか?」

「うーん……えっとねー、最近はるーさんの自己主張が激しいっていうのかなー。ワガママってわけじゃないんだけどー、テイムよりもモンスターを倒すことを重視してるみたいー?」

『…………』

 

 つまりるーさんもレベリング重点っていうのかなー。

 ケテルを装備させてからのるーさんはとにもかくにも意欲旺盛で、狩場のモンスターをいっぱい倒すこともそうだけど、それ以上によく食べてよく勉強してよく遊んでって、すごーく行動的なんだよねー。

 食欲なんてすごく旺盛で、とりあえずなんでもかんでも食べようとするし、しかもスライムだからちょー雑食性でモンスタードロップもあっという間に平らげようとしちゃうし、勉強は今日も受けた講習で熱心だし、休養日に王都で遊ぶときもとにかくあちこち見ようとして迷子になりかけたことが何度もあったー。

 

 うーん、レベリング重点ってのはちょっと違うかな、やっぱりー。

 とにかくあたしの<エンブリオ>のおかげで賢くなって(多分そういうスキルだと思うし)からというもの、とにかくあれこれやりたがるんだよねー。

 そんなだから仮にテイムが上手くいってたところでその子を育成できる余裕なんてなくて売却するしかなかっただろうし、そう考えると従魔師系統にこだわる必要も無いのかなーって思ったりする。

 

「成程……【従魔師】としては稀にあるパターンですね。類稀な資質を持つモンスターが目的のために自発的に行動して、それにより主人側が対応に手を焼くケースというのは何度か事例があります」

「そうなのー?」

「ええ、特にドラゴンなどを従えようとする【従魔師】に多いケースです。純竜などはレベルの低いうちからほとんどの人間など歯牙にもかけない力量を持ち、そのために主人を軽んじることも多いですから。概ね強力なモンスターほどそうした傾向がありますので、従魔師として大成しようとするなら避けては通れない道とも言えますね」

 

 おー、つまりるーさんは凄いんだー?

 やったねるーさんー、るーさんはやればできる子なんだってー。いつかビッグになれるってさー。

 もちろんあたしは知ってたよー? あたしのるーさんは最強なんだー。たぶんー。

 

「ちなみにそういう強いモンスターって、どうやって従えるのー?」

「一番手っ取り早いのは主人側がモンスターよりも強くなることです。腕っぷしで従わせるパターンですね。モンスターというのは大なり小なり弱肉強食の世界で生きているものですから、強者の言うことにはやはり従います。こちらは前衛職などで実力を伸ばした者がなんらかの理由でテイムモンスターを必要とする場合に多いですね。自分でテイムせず他者から購入する、譲り受けるなどしたモンスターでも、そうして実力差を見せつけることで飼い馴らすことができます」

「そういうのって乱暴じゃないのー?」

「いえいえ、とんでもありません! それもれっきとしたヒトとモンスターの関係の一つですよ。無論、だからといって痛めつけるためだけにモンスターを所有するなど論外ですが、それはジョブ云々ではなく人間としての道理の話になりますから」

 

 なるほどなー。

 リアルなら動物愛護がどうのこうのって騒がれそうな話だけど、原則としてモンスターは危険なものっていう常識があるこの世界だと、そうして力尽くで従えさせられる実力ってのは寧ろ称賛に値するんだねー。

 確かに農作物を荒らすイノシシや熊を腕っぷしで黙らせて人に害を出さないよう命じるどころか、役に立つよう躾けられるなら、そりゃー尊敬するよー。

 

「他にはー?」

「こちらは完全に先天的な資質……言ってしまえば才能で従えることですね。一種のカリスマと言ってもいいかもしれません。従魔師として格別の才を持つ人間の中には労せずしてモンスターを従え、手足のように扱うことができる者がいます。余人には図り得ない何かだったり、あるいは種族の垣根を越えて魅了し得る魔性であったりと、およそ常識的なものではありません。そういう事例があるというだけで、体系として確立されたものでも教えられるものでもないのです」

 

 つまりは結局ー?

 

「日頃の地道な努力が大切、ということですね。結局のところ従魔師というのはモンスターとの一期一会に一喜一憂する職種です。重要なのはテンプレートなやり方ではなく、その時その時のモンスターとの出会いや触れ合いに真摯に向き合うこと。人と人、ヒトとモンスターに限らず、命ある者同士の交流は水物ですからね。明確な答えなどどこにも無いのでしょう」

「うわー、先生っぽいこと言われたー」

「これでも【教師】ですから」

 

 結局解決策は出ないままってことだったー。

 でもありがたいお話には違いないので、深く心に刻んでおこー。

 

「……と、少し脱線しすぎましたね。まぁ現状のるーさんが何かをしたがっているのなら、落ち着くまでそれに付き合ってあげるといいでしょう。人間には見えない()()()をその子は見ているのかもしれませんから」

「それもそっかー。うーん、スタート地点にもどってしまったー。どうどうめぐりー」

「それだけねねこちゃんがるーさんのことを真剣に考えていたということですよ。偉い偉い」

 

 んーふーふー、褒められちゃったー。

 とーぜんだよー、デンドロにいるときのあたしは寝ても覚めてもるーさんのことを考えてるのだー。

 リアルにいても覚めてる間は考えてるー。寝てるときはぐっすりー。

 デンドロで寝るときはるーさんが枕になるから寝てても考えてるー。たぶんー。

 

「それで結局、あたしの次のジョブどうしよっかなー。ニルさん、おすすめあるー?」

「こればかりは私の方からはなんとも……安易に口出しして可能性を狭めてしまうのも教職としては避けるべきことですから。ただ……そうですね。そういう場合「何をすべきか」よりも「何をしたいか」を考えると見えるものがあるかもしれません」

 

 何をすべきかよりも何をしたいか、かー。

 うーん、そうだなー。今のあたしのしたいことって、ぶっちゃけるーさんのしたいことなんだよねー。

 んじゃーるーさんー、るーさんは何をしたいー?

 

『…………』

「……彼女はなんと?」

「『なんでも』……うー、一番困る返事だよー」

「わかります……夕食のメニューを尋ねて「なんでもいいよー」って言われると、献立に悩みますよね」

 

 しみじみと呟くニルさんー、ちなみに今彼氏と同居中なんだってー。

 

「じゃあるーさんー、なんでもしたい中で一番やりたいことはー?」

『…………』

「あまり質問が変わってないような……」

「でもすっごく真剣に考えてるよー。……あ、思いついたみたいー。なになにー?」

 

 るーさんはたっぷりぷるぷるしながら考えたあと、満を持して答えた。

 

 ――『いっぱい食べたい』。

 

 ……るーさんやー、ちみはまだまだ食べ足りないと申すのかー。

 

 

 ◇

 

 

 かくして願いを聞き届けたあたしは、何でも食べるるーさんの雑食性に応えるために、ニルさんの勧めもあって【採集者(ギャザラー)】へ転職することとなったのだったー。

 これならモンスタードロップだけじゃなくて、いろんなフィールドでアイテムを見つけられるよー。

 完全にるーさんの給餌係になってるけど、かわいいうちの子のためならエンヤコラだよー。

 

 ……でもなんか、最初に考えてたのと違う気がするよー?

 

 

 To be continued

 




 ◇余談
教師(ティーチャー)
 教師系統下級職。その名の通り他者への教育に長ける。
 教育内容は多岐にわたり、就く者によって千差万別。
 生徒が獲得する経験値を少し増やしたりもできる縁の下の力持ち。
 (・3・)<ちなみに上級職は【名教師(マスター・ティーチャー)
 (・3・)<【大教師(グレイト・ティーチャー)】ではない

採集者(ギャザラー)
 《採掘》《伐採》《採取》など、基本的な採集スキルを広く浅く習得可能な下級職。
 ここからそれぞれの採集スキルに特化したジョブへと派生することもできる。
 漁師系統や狩人系統との違いは戦闘向きでない点。基本的にフィールドからの採集を得手とする。
 (・3・)<作者はギャザクラを育て切るのに五ヶ月くらいかかりました(FF14話)
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