タイトル通り。小説ハーモニーからサイコパスに居る御冷ミァハさんの冒頭部分を書いたもの。できるだけ影響受けないように書きたかったけど、原作者の文章が凄くて文に影響出そうだから続きようがない。多分、槙島と悪巧みしそうな展開とか想像して終了させた。
※こちらpixivでも投稿しております。

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ハーモニーという小説の登場キャラをサイコパス世界に突っ込んだ話。pixivでも投稿しているもの。


プロローグ

「一緒に示そうよ」

 

 言い出したのはミァハだった。 御冷(みひえ)ミァハ。皆が帰り支度をする中、後ろの席にいたわたしの机に身を乗り出した。

 

「わたしたちはおとなにならない、って一緒に宣言するの。このからだは、このおっぱいは、このあそこは、この子宮は、ぜんぶわたし自身のものなんだって、世界に向けて静かにどなりつけてやるのよ」

 

 他でもない、わたし達のカリスマは誰よりも素敵に微笑んだ。

 

 

――このシビュラシステムを享受する世界に完全に孤立していた訳ではないけれど、それでもわたしはいつも感じていた。――

 

 

 高層ビルや高層マンションばかりが連なって見える、透明な窓は反射して何処かの雲を鏡のように映す。だが本当の青空は何処にも見えない。真上に見上げれば、本当の青空はポツンと小さな絵画のように浮かんでいた。あの空の下では何処かの国では紛争を起きている。周囲の大半はそんなことなど知らないだろう。きっと誰もが呑気に店頭に並んで、ショッピングを楽しんで、学生は学校に通う。平和な、日常の営みを繰り返す。

 

 かつて、世界は自由経済の崩壊を遂げていた。世界は混乱に陥り、僅かな富を求めて殺し合って、奪い合った。余波を受けた日本もまた、国内経済が無事で済む筈もなく、打撃的なダメージを受ける。立て直しが余儀なくされた。対策に講じた日本、始めたのは失業支援対策。【職業適性考査】が始まった。システムは発展を遂げてシビュラシステムの完成が成され、日本の治安は劇的な変貌を遂げた。かくして日本は未だ続く経済崩壊後の混乱の世界で、辛うじてではあるが法治国家としての形成を保つことと相成った。それから日本という国はどうなったか、答えは言われるまでもなく、平和で安全な国になり果てた。

 

 

 サイマティックスキャンという監視装置によって、その場に居た人々の生体力場を解析し数値化した PSYCHO-PASS(サイコパス)をもとに精神の健康状態、個人の能力を最大限活かした職業適性を示す。人々が充実した人生を送れるように支援が行われるようになり、精神状態が数値化されたことで効果的な心理療法が確立。人々の心の安寧をお手軽に得られる時代が到来する。かくして「最大多数の最大幸福」の実現はなされ、社会を包括的に管理する世界が現れ、人々はそれを歓迎した。新しい時代の幕開けだ。

 

「為しうる者が為すべきを為す。これこそシビュラが人類にもたらした恩籠である」

 

 厚生省の管轄の下、運用理念として謳われたそれ。人々はとうとう犯罪とは縁遠い生活を享受するに至った。もはやこの時代に生まれた子供たちは刑事裁判や刑務所という言葉を知らずに育つ。昔は監視カメラや鍵のある生活だったと言われても信じられないだろう。わたしもそんな世代に生まれた人間だから想像もつかない生活に違いはなかった。

 

 大量のスーパーコンピューターが並列分散処理によって、心を読み取ってわたしたちのこれからを決める。就職も結婚相手も死ぬ墓場まできっとシビュラが決めるのだ。どこまでも優しくて、どこまでも意思を考えさせない退屈なセカイ。悪意なんてこれっぽっちも疑わないで、シビュラの信託を受けて有難がって。誰もが奴隷に成り下がる。従属する家畜だ。それ以外は弾かれて、皆仲良く潜在犯。ご丁寧に家畜小屋まで作って死ぬまで面倒を見てくれる。それすら弾かれればいらないとゴミ箱へ。丁寧に骨も残さず殺してくれて、墓石すらも無くしてくれるのだ。

 

 

――わたしはそんな時代と空間に参加させられるのはまっぴらだった。わたしの知らない余所でやってくれ、いつも思っていた。――

 

 

「知ってる、トァン……」

 

 ミァハは眼を輝かせた。ミァハは物知りなのだ。クラスで一番成績のいい変わり者。誰もがミァハを知っていて、ミァハはわたしと零下堂キアン以外の誰にも必要以外で話しかけようともしない。自ら孤立を選んでいた。

 

「昔はね、体を買ってくれる大人がいたらしいんだ。多少のお金でわたしたちみたいな子供とのセックスを求めてた大人たち。貧乏でもないのに、なんの罪悪感もなく自分のほうからからだをセックスの道具に売っていた女の子たちがいっぱいいたんだって。買うほうも買うほうで、そんなふうに堕落した大人が結構な数いて、実際にホテルでお金を渡してたんだって」

 

「からだ、売りたいの……?」

 

 わたしは笑って訊いた。ミァハの口ぶりは、実際そんなことが出来るならすぐにでもどこかの歓楽街に飛んでいきそうだった。貞淑さと気品、それを理念に掲げる桜霜学園から逃げ出すことが出来れば、だけど……。不可能なそれを想像してみる。学園を抜け出して、それから。その瞬間、ぞくぞくと背筋が寒くなった。……なんて魅力的な響きだろう。全寮制女子高という閉ざされた空間で、正しく美しいものに加工された後、淑女になって。名のある政治家、実業家に買われて、結婚し彼ら好みに着飾られる人生。人形と変わらないそれを壊してくれた。一時の夢を提供してくれるミァハの言葉には、それを実現させてくれるような力強さと説得力があった。

 

 それが出来れば、きっと少女は思う存分堕落して、人生をまるごと捨てることができる。酒とたばこ、そしてドラッグ。何よりも重要な刺激。 PSYCHO-PASS(サイコパス)の曇ってしまう、犯罪係数の上がる可能性のある趣味、嗜好品は次々に社会から追い出されてしまっている。既に無くなって失われた技術やモノもある。色相という訳の分からない枠組みで決められて、そのせいでわたしはやりたいことだって制限されている。

 

「いまでもそんな大人がいるんなら、わたしたちにだって希望が残されているはず。大人になってもいい、って思えるはず。違う……?」

 

 ミァハの問いかけのとおり、そんな論理的に堕落した最低最悪の大人が街にあふれていたのなら、わたしだってこの学園やこのセカイを憎まずにすんだ。けれどセカイはシビュラを受け入れた。どんどん平和になっていて、世界に反比例するかのように豊かになって。そしてとうとう悪意に警戒しなくなった。

 

 

――わたしたちはどん底を知らない。どん底を知らず生きていけるよう、すべてがお膳立てされている―― 

 

 

 ミァハの口癖だ。ミァハは何でも知っていた。昔の人が何を使っていたのか、から物騒なことまで。社会や人の壊し方も。何から何まで。まるで知らないものがないとでも言うように。

 

「仕組みさえだますことができれば世界を転覆させることだってできるんだ」

 

 ミァハはそう楽しそうに話していた。子守唄でも聞かせるような優しい歌のように。話していることはまるで真逆。寝かしつけるつもりはないようだ。知識は間違いなくミァハの趣味によるものだ。ミァハはわたしたちと話している以外は、静かに本を読んでいた。紙で出来たテキストを読むのが、わたしたちの知るミァハの唯一の趣味だった。どうしてわざわざ本で読むのかと一度訊いたことがある。ネットで電子書籍を買って読めるのに、ミァハは大半の小遣いを本に使っていた。

 

「誰かが孤独になりたいとしたら、デッドメディアに頼るのがいちばんなの。メディアとわたしと、ふたりきり」

 

 ミァハは答えた。絵画と、映画もあるけれど。持久力という点では本がいちばん頑丈よ、話は続く。持久力、って何の。わたしが聞けば。彼女は笑う。まるで悪巧みをする悪戯っ子のようだ。

 

「孤独の持久力」

 

 ミァハはわざわざ製本業者に読みたいテキストをダウンロードして、書籍化してもらっていた。趣味人のためのそうした業者が、奇跡的にまだ残っていた。ミァハの小遣いの大半は、そんな【書籍化】に消えていた。 本はミァハに物騒な力を、凶器を与えてしまっていた。

 

「だから、何人かの人間がその気になれば、一瞬で日本に住む人間を全滅させることができる。やる気の問題なんだよ」

 

 でもそんなことしちゃいけないんだよ、キアンがそう口にするけれど、気持ちのいい優等生の言葉に聞こえて、わたしにとって反発心を抱かせた。

 

――やる気にしても、ひどい『やる気』ね

 

 わたしが笑えばミァハも楽しそうな顔になって、

 

「そ、ひどいやる気。このひどいことを考えるのだって犯罪になるはず」

 

「別に、考えたぐらいじゃ色相は濁らないし公安も来ないよ」

 

 そんなの問題じゃないよ。わたしの心と魂の話。ミァハは突然、わたしの膨らみかけた乳房をつかんだ。 ミァハはその手でおっぱいを揉みしだきながら、真剣な表情で語りかけてきた。

 

「このおっぱいの成長が止まる頃には、わたしたちみんなシビュラが適性だと示した職業に進むんだ」

 

 ミァハの指はまるでわたしの乳房を握りつぶさんとしていた。痛みを刻みつけようとするように、わたしの胸を強く鷲掴む。

 

「心を見張る機械どもの視線。汗と脈拍、体温や口調。そんなことで私たちは犯罪者になりうる。全てをシビュラの導く啓示の下、明け渡してしまうことになるのよ」

 

「や、やめてよ、ミァハ」

 

 ミァハは無視を続けて、そんなことに耐えられるかと問いかけてくる。痛い痛い。激痛に目が潤む。

 

「わたしはあなたの手がしていることに耐えられない」

 

 それでもなおその手は止めることなく、いつものように意に介さず、微笑みながら話を続けるのだ。

 

「自分の意思が、奴らの言葉に置き換えられていくなんて、そんなこと我慢できる……?」

 

 

――わたしは、まっぴらよ。

 

 彼女の言葉は周囲に反響した。大きくて冷たい響きを持たせた重い言葉。わたし達の鼓膜の中にずしんとのしかかった。

 




素晴らしき伊藤計劃の小説。虐殺器官もおすすめなのです。原作者の文が凄すぎて、そのままの成分が多すぎる。警告されたら消すつもりで投稿しています。


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