APOCALYPSE accessiones lectorem   作:くつぞこ

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初回となる今回は、本誌『APOCALYPSE Cozmic Archives』掲載の「ハイペリオン」に搭乗する当サークルオリジナルMS、CAT2-X《ハイペリオンⅡ》の演習風景をイメージした短編小説です。




短編集
演習プログラム:CAT2-X《ハイペリオンⅡ》


 トリムを引きつけての減速。山颪により減速と同時にガクンと機体の高度が下がるのとほぼ同時、頭上をレールガンの弾頭が掠めていく―――。

 ―――良い腕だな。

 ロナルド・スエッソン大尉はあわや直撃すると思われた砲撃を躱しながら、冷静にモニターに映る敵機を眺めた。

 《ストライクダガー》に乗り慣れたロナルドにとって、馴染みのあるコクピット・レイアウト。そしてヤキン・ドゥーエ戦役の頃より見やすくなった各種モニター。そのモニターの向こう、ハリネズミのような白亜のMSが、肩の砲を再びロナルドのMSへと向けていた。

 GAT-X105E。アクタイオン・プロジェクトが産み出した傑作機は、その背に負ったストライカー「I.W.S.P」の特性を良く理解した上で、ロナルドと対峙していた。

 全領域対応型ストライカー。その触れ込みに反して、I.W.S.Pは格闘戦を得手とはしていない。殊に対峙する敵の運動性能が高い場合、I.W.S.Pの取るべき戦術は過剰とも呼べる火力群による釣瓶打ちで圧倒すること、だ。

 砲撃戦は必至。故に、ロナルドも自機の兵装を普段のモデルではなく狙撃銃タイプに換装し、撃ち合いに望んでいた。

 自機の両脚が岩肌を踏みつける。玄武岩の大地は、機体への負荷が少ない。余計な負荷を駆けずに滑らかに機体を接地させたことをそれとなく把握しつつ、ロナルドはFCSに敵機を補足させた。

 自機がライフルを構える。上部ピカニティ・レールに装備されたセンサーと自機のセンサーが互いの情報を統合、モニター上に各種情報が表示されていく。

 距離、敵機の予測行動針路、エトセトラ。あとは操縦桿のトリガースイッチを押し込めば、亜光速のビームが《ストライクE》の胴体を直撃、戦闘は終わりだ。

 同時、自機のECMが《ストライクE》の攻撃を報知する。距離からして115mmレールガンの砲撃だろう。その威力は驚異的だが、TP装甲を装備する自機には問題にはなりきらない。それ以上に、レールガンの弾頭が着弾すより早く―――ビーム弾が、《ストライクE」を直撃する筈だ。

 ロナルドの右指がスイッチを押し込む―――その寸前、警報音が唐突に鳴り止んだ。

 砲撃を中止して防御行動に入るのか? だがもう遅い。ロナルドの人差し指がスイッチをぐい、と二段階押し込むと、自機の右手に把持されたRFW-99A1〈スティグマト〉の銃口から光軸が屹立した。

 狙撃モジュールに換装された〈スティグマト〉の狙撃精度は、開発母体となった機体よりもセンサー類を強化された自機の性能も相まって、高い水準を保つ。慌てて回避行動を取ろうとした《ストライクE》の行動予測パターンから割り出された予測砲撃座標へ向かって見越し射撃を3発撃ち込んでやれば―――あとは、終いだ。

 ぐんぐんと伸びていく光の矢。その内1発が敵機へと吸い込まれ、爆炎を撒き散らした。

 敵、撃破。

 脳裏に過った言葉は、しかし、突如鳴り響いた電子音でかき消されていった。

 警報音ではない。プリセットされた音が違う。この電子音は、動体センサーの警報音―――!

 そう理解するのも束の間、爆音と激震が炸裂。モニターを噴煙が覆っていった。

 視界途絶。即座にディスプレイに視線を走らせたロナルドは、眉を顰めた。

 宙を舞う噴煙でレーザーの使用も不可。動体センサーも効きにくい。赤外線センサーも使えない。

 ロナルドは、素早く状況と意図を理解した。

 115mmレールガンの1発をロナルドの足下に着弾。弾体の運動エネルギーと爆発により土煙を巻き起こすと同時に、頭上でもう一発の弾頭を起爆。地面に着弾した弾と相まって、起爆した炸薬の炎によって赤外線センサーを使用不能にさせる。それがあの《ストライクE》の策だった。

 だとしたら、まだ仕留め損ねていない。弾倉の詰まったシールド裏側にわざとこちらの射撃を当てて起爆させ、撃墜されたと思わせた。そうしてこちらの視界を奪ったら、あとは一撃必殺の手でロナルドを墜としに来るに相違ない。

 であれば、どのように攻めるか。ロナルドは《ストライクE》のスペック、兵装、I.W.S.Pの特性、そして相手のパイロットの技倆を即座に整理・分析。その結果より、敵の戦術行動を即座に脳裏に描く―――およそ1秒未満ほどで、最終判断を下した。

 判断を後押しするように、復旧を始めたセンサー類が警報音を鳴らした。前方と上方。2方向から、敵が接近している―――ディスプレイから情報を読み取ったロナルドは、迷うこと無く操縦桿のスイッチを立て続けに操作した。

 自機のバックパックの兵装担架が立ち上がる。マウントされていたビームブレード、MRQ-11〈アガートラム〉の柄が肩までせり出してきたところで、ロナルドは〈スティグマト〉を左腕に持ち替えると、土煙越しに前方の目標へと5発の弾丸を撃ち込んだ。

  亜光速の粒子ビームが土煙を抉る。閃いた光軸の内、3発は接近していた飛翔体の発するビーム刃に弾かれ、飛沫となって四散した。残り2発は飛翔体に直撃。小爆発を撒き散らした。

 ビームブーメラン―――ロナルドはI.W.S.Pの兵装の内の一つを思い出した。

 これは囮。本命の攻撃は、即座に来る。思っていた通りに、来る―――。

 思惟は刹那、ECMが鳴らしたロックオン警報とほぼ同時、モニターにサブウィンドウが立ち上がる。確認するまでもなく、頭上の映像であることをロナルドは知っていた。

 噴煙を切り裂く白影、その威容は大鷲の如く。大剣を抜き放ったGAT-X105Eが、パワーダイブでもって猪突した。

 ―――疾い。

 ロナルドは眉一つ動かさずに、状況を理解する。

 敵の戦略は極めて明瞭に理解できる。即ち、奇襲である。

 パワーに優れるものの、瞬発力に劣るI.W.S.Pでロナルドの乗機に格闘戦を挑むのは、不利だ。だからこそ不利と思われる格闘戦を挑み、意表を衝く。これが、戦術の1つ。

 だがこの戦術だけでは、I.W.S.Pに勝算は無い。ロナルドが凄腕のパイロットであることは向こうも織り込み済み。登場している機体も優れているとなれば、それだけの戦術では凌駕しきれない。

 ならば、もう一枚戦術を追加する―――I.W.S.Pの機体特性を逆手に取るのだ。

 瞬発力には劣るが、パワーは強力。ならば、パワーを出し切った上で一撃必殺の一太刀を浴びせかければ良い。それ故に、まず砲撃戦を展開することで、格闘戦に持ち込むまでにパワーを伸ばしきるだけの距離を演出した。プラス、上方からの強襲という形式に持ち込むことで、位置エネルギーを運動エネルギーに変換。さらには山間から吹き下ろす風力も併せ、I.W.S.Pの性能限界すら超えんとする超絶技巧の果てに、奇襲を成立させた。

 ―――かに、見えた。

 ロナルドは大剣の切っ先を特に感情の色も無く認識し、スロットルをぐいと押し込み―――がくん、と巨人に襟首を掴まれるような衝撃が衝いた。

 剣光が打ち下ろされる。裂帛の気勢で振り下ろされた剣先は、しかし、するりと虚空を切断するに終わった。

 《ストライクE》に驚愕が走る。完璧なタイミング、回避することは当然不可能なはずの攻撃を、ロナルドはするりと躱して見せた。

 どうやって、という疑問の答えは、判明して仕舞えば簡単なものだ。

 スラストリバースでの退避行動。それに加え、ビームソードを抜刀待機状態にしたままにすることで、風を受けるための帆にし、向かい風を推力に転換。自機のスペック以上に引き出した旋回性能で以て、必殺の一撃に対抗して見せた。

 ロナルドは、改めて、自機の性能に関心した。確かに彼は、機体の限界以上を引き出して見せた。だが、もしこれが《ダガーL》や《ウィンダム》であったら、こうはいかなかっただろう。中・近距離での格闘戦に主眼を置いた基本設計、そして設計概念に裏打ちされた高い水準の運動性能。機体の限界閾が高いからこそ、ロナルドは敵の戦術を全て見抜いた上で敢えてそれに乗ってやり―――そして、戦術を真っ正面から凌駕する極めて傲慢な戦法を取ることが赦された。

 最高の機体だ。ロナルドは、やはり感情の機微も無く、客観的に理解する。I.W.S.Pを装備する《ストライクE》など問題にならない性能を、コイツは有している。たとえI.W.S.Pの限界を引き出してきたとしても―――そんな限界など、コイツは、CAT2-X《ハイペリオンⅡ》は、とうの昔に置き去りにしている―――!

 撃鉄が熾る。ブレードマウントから抜き放たれたビームソードは、そのまま《ストライクE》の胴体へと食らいついた。

 

 

 「いやあ、やられたよ」

 格納庫を、酷く陽気な声が響く。

 ロナルドが背後を振り返ると、お手上げのジェスチャーを大げさにしてみせる男が朗らかに笑っていた。

 エルナン・ベルムード大尉。先ほどの模擬戦で《ストライクE》のパイロットを務めていた男だ。ユーラシア連邦に所属する凄腕のMSパイロットとして、アクタイオン・インダストリーに出向していた。

 「絶対に勝ってやるって思ったんだけどな」

 じょりじょり、と顎髭を撫でるエルナン。ラテン系らしい彫りの深い顔立ちは、なるほど開発スタッフを務める女性スタッフの中でファンクラブが出来るほどだと思う。

 「一応、主役は俺なんだが」

 ロナルドはそう言うと、パイロットスーツを半脱ぎにしたまま、パイプ椅子にどかりと座り込む。「だからこそ、だろ?」とニヤニヤ笑いを浮かべるエルナンは、メンテナンスベッドに閉じ込められるように格納された機体、《ハイペリオンⅡ》を満足げに眺めた。

 「良いパフォーマンスになったろ、ユーラシアのお偉いさんたちに。アクタイオンプロジェクトの傑作機以上の性能! ってな」

 「あそこで俺が直撃喰らってたらどうするつもりだ」

 「ソン時は、ソン時だ」

 エルナンは屈託無くガハハ、と笑ってみせる。考えているようで考えていないような、テキトーな男だ。第三次ビクトリア攻防戦では中隊長が戦死するや即座に指揮を引き継いで部隊壊滅を防いだ胆力と冴えの持ち主らしいが、普段の佇まいからは、そんな様子はうかがい知れない。

 「早く2番機も組み上がってほしいぜ。俺も乗りてぇなぁ!」

 「次は俺がストライクに乗ってやろうか? 今度は東からゲストでも招待してな」

 「あらー、なら負けてやらないと!」

 

 C.E.73年11月22日。二人の呑気な声が、格納庫に響いている。

 これよりわずか数か月後―――アクタイオン・インダストリーからユーラシア連邦に引き渡された《ハイペリオンⅡ》が再び《ストライクE》と激突することなど、無邪気な二人には知る由も無かった。




お楽しみいただけたでしょうか。

来週以降、《ハイペリオンⅡ》が活躍する本編を掲載していこうと思います。
《ハイペリオンⅡ》の設定も、本編あとがきなどに記載を予定しています。

それでは~。
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