APOCALYPSE accessiones lectorem 作:くつぞこ
屹立するプラズマの光軸。摂氏数千度に達する閃光は、大気中で減退しながらも、金属の鎧を容易く撃ちぬいた。
(て、敵だ! ズール・グラフィアス01、敵―――!)
鼓膜を劈く悲鳴。続く声がぶつりと途絶して、ズール・グラフィアス01はぎょっと目を見張った。
天空で残骸を晒していたのは《アストレイ》ではなく、僚機の右腕だった。
敵。素早く状況を理解して、レーダーに視線を投げつけた。
自機を示す中央の緑の光点。その先の赤い光点と、その背後に回った僚機の光。それ以外に敵を示すサインは、無い。
無線のスロットルレバーの無線スイッチを押し込む。全く反応しない愛機に幾多の情動の交雑を感じながら、親指を折れんばかりにねじ込んだ。
「02! そこの
無線へと声を張り上げた時には、事は決していた。ズール・グラフィアス02目掛け、漆黒の影が眼下から襲い掛かる。接触の瞬間に可変した黒い機体じゃ閃光の刃を引き抜くと、一太刀の元に金属装甲を切り裂いた。
二つの残骸になった機械が爆炎に呑まれる。鼓膜にしがみついた部下の声も、跡形も無く焼却されていった。
視線を上げる。
仲間を斬殺した機体は、上空に滞留していた。
右手に携えたビームサーベルと、左主脚の水平安定板にペイントされた、刀を構えた女侍の部隊章がトレースする。
全身を漆の黒に磨き上げた巨人。炎の翼撃を優雅に震わせ、睥睨に練磨された双眸が静かに揺れていた。
鷲だ。天空を鮮やかに舞い、肉を貪る猛る
頭に浮かんだ言葉を揉み消して、ズール・グラフィアス01はスロットルを押し込むと同時、フットペダルを踏み込んだ。
モニター映像から判断して、あの機体は
FCSが赤外線センサーから画像追尾に切り替わり、漆黒の《ムラサメ》へとガンクロスを重ねた。
ビームライフルを指向する。操縦桿のトリガースイッチを押す―――より早く、《ムラサメ》は戦闘機の姿へと変形して天空の彼方へと飛翔した。
視界から逃すわけにはいかない。目視で視認したステルス機の姿を見失うことは、イコール自らの死を意味する。全身に圧し掛かる負荷に呻き声を滲ませるも、前面のモニターに映る《ムラサメ》の
立て続けに迸るビームの閃光、機関砲の砲弾。火箭の牢獄の中を、されど《ムラサメ》は苦も無く潜り抜けていく。時に燕の軽やかさを、時に闘鶏の荒々しさを身体に満たした機械の禽は、微笑みすら浮かべる余裕でもって天を駆ける。
奥歯をすりつぶす。《アストレイ》如きなら、爆装していようが《バビ》なら騙し騙しでも戦える。しかし、
《ムラサメ》が上昇の挙動を取る。ズール・グラフィアス01も視線を《ムラサメ》のスラスターに釘付けにし、ピッチアップさせて機体の高度を急上昇させる。
何度目かの肉迫。連続戦闘機動のせいで毛細血管の血液が停滞して指先が痙攣しながらも、指を押し込んだ。
指先に連動し、《バビ》のマニュピレーターがMA-M343のトリガーを引き絞る。亜光速で迸る粒子の軸は一直線に大気を切り裂き、《ムラサメ》の主翼を掠めた。
ぐらりと黒鷲の体躯が揺れる。モニター内のガンクロスが機影に重なり、ロックオンを知らせる電子音が響いたのはその時だった。あれだけぴんしゃかと乱舞していた軌道が単調になったのだ。機体のブレを修正しているのか、それとも連続高機動戦闘故に僅かな不調が生じたのか。どちらにせよ、ズール・グラフィアス01には絶好の好機だった。
肉体が軋みを上げるほどの高Gの中、トリガースイッチに重なる指先を死にもの狂いで強張らせ―――。
接近警報の音が耳道を突き抜けた。
後ろでもなく左右でもなく、眼前からの接近警報。モニターの映像が瞬時にフォーカスされ、網膜にそれが飛び込む。
円柱状の鉄塊。巨大なドラム缶もかくやといったそれは、確か、《ムラサメ》の右主翼のパイロンに装備されていたものだ。
回避か迎撃か。ズール・グラフィアス01が判断を下す寸前に鉄塊が爆破し、爆炎が拡がった。
炎が外部モニターを染め上げる。拍子に画像追尾がカットされ、ロックオン解除用の電子音音が出力された。
不味い。見失ったことも不味いが、何よりこの状況が不味い。視界の喪失は単にロックオン解除のためだけでなく、明らかにこちらに間隙を作るためのものだ。咄嗟に《バビ》の機首を持ち上げると同時に人型へと変形。
赤い光点、自機の後方、僅かに数十m。
瞠目と共にモニターを目する。光の剣をぎらつかせる《ムラサメ》の侮蔑するようなデュアルアイが網膜に飛び込む。
あり得ない。あの一瞬で背後を位置取ることなど、いくら《ムラサメ》の運動性能が高かろうが―――。
ズール・グラフィアス01が最期に見たのは、降り下ろされる灼熱の刃だった。
2話でした。
リアルの都合でちょっと投稿が遅れてしまいました、申し訳ありません。