APOCALYPSE accessiones lectorem   作:くつぞこ

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 今回もC97同人誌のオリキャラ紹介の短編です。
 
 舞台はヤキン・ドゥーエ攻防戦、ジェネシス1射目の直後を書いたものです。
 それでは、どうぞ。


実戦風景Ⅱ:ヤキン・ドゥーエ攻防戦ⅰ

 C.E.71年9月26日 ヤキン・ドゥーエ宙域にて

 

 「クソ、なんなのよコイツ!」

 ECMがかきたてるビープ音。全方位から突き刺さる甲高い電子音に全身を粟立たせながら、マーシー・ファーブニルは、口蓋の中で嗚咽をくぐもらせた。

 

 ※

 

 ヤキン・ドゥーエ攻略作戦の発動から、数時間。ザフトの戦略兵器『ジェネシス』により「エルビス作戦」の骨子、プラント攻略部隊旗艦である『ワシントン』を含む総戦力の40%が消滅。さらに撤退戦で消耗し、地球連合軍の勝利は不可能な状況へと転がり始めていた。

 本来であれば、月面のプトレマイオス基地に撤退すべき状況だった。にも関わらず、地球軍艦隊がザフトと交戦している理由はただ一つ。地球そのものへの脅威となる『ジェネシス』を何が何でも取り除かなければならない、との判断からだった。

 地球連合軍は、アークエンジェル級『ドミニオン』を中心に残存兵力を再編。『ジェネシス』破壊のための部隊を編成し、絶望な作戦を展開していた。マーシー・ファーブニル少尉もまた、その渦中に居た。

 

 ※

 

 背後からの警報音に、マーシーはぞっとする暇も無く《ストライクダガー》をロールさせた。

間髪入れずに直上直下から襲いかかる鮮緑の閃光。スロットルをフルパワーにたたき込み、フットペダルを踏み抜くことで無理矢理振り切る。眼球が眼底に沈むようなGに喘ぎながら、マーシーは背後に形成された光の壁に背筋を灼かれるような錯覚を惹起させた。

 1秒未満の錯綜。最早牢獄とすら呼べる無数のビーム光の乱舞。1個大隊どころではない規模の攻撃にも関わらず、《ストライクダガー》のセンサーが捉えた敵は、1機だけだった。

 (ラピス02、4時方向下だ!)

 ヘルメットのイヤフォンから怒声が突き刺さる。声にならない悲鳴を漏らしたマーシーは、レーダーに突如映ったただ一つだけの赤いブリップを目に焼き付けた。

 フルスラストする《ストライクダガー》を余裕で追随する機影。相対距離を一息で縮めるや、光の剣が迸った。

 横薙ぎに炸裂した大出力の剣光。その切っ先がシールドに食らいつくや、肉切り包丁で牛骨を叩き割る如くに溶断。パっと鮮やかに光が閃いた。

 ―――その背後。

 ビームサーベルを発振させた《ストライクダガー》が、灰銀の怪物の背に肉薄した。

 ビームサーベルが直撃する瞬間にシールドをパージ、カメラを一瞬遮断する間にスラストリバースと宙返りを行うことで高速クルビットをしつつ、フレアを射出。背後を取りつつ同時に推力を戻し、一気にクロスレンジに滑り込む。《ダガー》の簡易量産型ながら、GAT-X100系フレームによる柔軟且つ高水準の運動性能を持ち、機動格闘戦に長ける《ストライクダガー》だからこそ為しえたマニューバだった。

 相手のパイロットからすれば、忽然とかき消えたかのように見えただろう。シールドでカメラとレーザーレーダーを欺瞞するだけでなく、フレアにより赤外線センサーもマスクした。背後に回ったことを察知する手立てなど無い。動体センサーが背後から強襲をかける《ストライクダガー》を補足したときには、もうサーベルが機体を餌食にするだろう。海底に転がる海胆を思わせる化け物じみたシルエットのそれは、どう見ても、格闘戦闘に秀でる機体には見えなかった。

 剣先が巨大な背に届く。摂氏数万度の粒子束が装甲を溶断する。

 その。

 刹那。

 ゆら、と巨躯が翻る。

 戯れにも見えた。形而上の悪魔が気まぐれを起こして受肉するが如きコンマ1秒未満の児戯。穏やかに閲する深緑の双眸は、牡蠣の臓物を想起させた。

 ハメられた。

 こちらの挙動を見切られた上で、裏をかかれた―――!

 視界を消し飛ばす光の瀑布、形而下の人間の血肉を瞬時に蒸発させる獄炎。巨体はあまりに機敏に身を翻すと、あの巨大な剣を振りぬいた。

 あまりに明晰な無が、マーシーを襲撃した。

 (―――死なせるかァ!)

 ぶ、ち、り。

 

 ※

 

 「おい、メリー! メリー!」

 ふと、マーシーは自分の名を呼ぶ声で目を覚ました。

 「―――あ」

 視界に飛び込む男の顔。どこか鬼気迫るような男の目は、不気味なほどに恐怖に取り憑かれていた。

 マーシーが身体を起こす。ふわりと無重力の海に浮かんだ黒と桜色の髪が視界を覆う。

 夢のように四方に広がる自分の髪を漠と眺めたマーシーは、なんとなく、状況へと視線を投げていく。

 酷く、狭い空間。しかして、見慣れた窮屈さ。《ストライクダガー》のコクピットの中だ。ふわふわと浮かぶまん丸は、脱ぎ捨てたノーマルスーツのヘルメットだ。それが、ふたっつモニターの向こうには、のっぺりとした黒い宇宙が延びている。ちらちらと光っているのは、恒星の光だ。ゆらゆらと揺れている塊は、よくわからない。

 マーシーは、改めて、目の前の男を認識した。

 黒髪の男。陽光に煌めく浅瀬のような目をした男―――。

 「隊長?」

 マーシーの声は、酷くか細かった。蚊の鳴くような声とは、多分こういう声なのだろうと思った。

 男は、びくりと身体を震わせた。虚脱した視線を彷徨わせるのも一瞬、くしゃりと顔を歪ませた男は、ただ、良かった、と声を漏らした。

 笑っているのだろうか。それとも泣いているのだろうか。怯えているようにも見えた。混交した情動に痙攣する男は、さりとて、唐突に世界に産み落とされた赤ん坊のようにひ弱に見えた。

 (マクミラン隊長、メリーは無事なんすか?)

 コクピット内にざらついた声が響く。NJで阻害された無線通信の相手は、同じ小隊の仲間だった。

 「あぁ」隊長―――ウォルト・マクミラン中尉は絞り出すようにして声を返した。「気絶していただけみたいだ」

 (あんな化け物とタイマン張って気絶で済んだら儲けものですよ)

 化け物、という言葉がべとりと脳裏にこびりつく。

 あの、MSのことだろうか。海胆のような栗のようなトゲトゲした巨大なバックパックを背負った、灰色のMS。この世の何かとは思えない、何かより高次の摂理の顕現かのような錯覚すら思わせるMS。

 「アイツは、隊長が?」

 「いや」ウォルトは肩を竦めて見せた。「相手にならなかったよ」

 「格闘戦ならなんとかなる、と思ったんだけどな。お前と同じで」自嘲気味に口角を挙げる。やれやれ、と背後を振り返ったウォルトは、モニターの向こうを顎でしゃくった。

 ゆらゆら、とモニターに揺蕩う塊―――それが襤褸にされた《ストライクダガー》だと、マーシーはようやく理解した。

 全身に被弾の後がある。両腕は千切れ、頭部も吹き飛ばされ、胸部のインテークにも直撃痕がある。膝から下が切り落とされた右足だけが、ぷらぷらと揺れていた。

 「モノが違いすぎた」

 MSも、パイロットの質も。言外にそう言い含めたウォルトは、やれやれと溜息を吐いて見せた。

 「私、何も出来ませんでした」

 「俺の方が何も出来なかったさ。イメリア教官仕込みの格闘戦、流石だったよ」

 なぁ、と無線に話しかけるウォルト。ええまぁ、とかなんとか返答に困る無線の向こうの声を、とりとめも無く耳朶に打つ―――。

 嘘だ、と思った。

 あの状況。あの怪物との間に割って入った上で部下を生還させ、自身も帰還してみせる。それがどれだけ至難の業なのか、未だ実戦経験が2度しかないマーシーには、理解すらできないものだろう。たかだかマニューバの一つなど、何の自慢にもならない。まして察知された上で反撃されたとなれば―――。

 ―――何故、あのパイロットは自分の挙動を読めたのだろう。あんな状況でマーシーの挙措を見切るなど、それこそエスパーか何かで無ければ不可能な筈なのに。

 詮の無いことだな、と思った。理屈はわからないが、今は、生き残った事実を噛み締めること以外、どんなことも贅沢だった鈍く溜息を吐いたマーシーは、隊長、と呟いた。

 「終わったんですか」

 ウォルトは一度、大きく肯首した。

 「終わった」

 ウォルトも、背後を振り返った。終わった、と声を漏らした男の背は、所在なく、脆く、存在していた。

 「終わったよ」

  その声音は、ここに居ない誰かに囁くように。




 ちょっと短めの内容でした。

 本日22時までにはTwitterにキャラデザ公開する予定です。気になりましたら、活動報告にて記載してあるIDから是非どうぞ~。
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