荷造りを終え、夕飯も終えてとっぷりと日が暮れた頃合い。ちょっとした作業に勤しんでいたらピンポーン、とインターホンが鳴った。
誰だろうかとドアを開けてみれば、数人欠けてはいるもののクラスメイトが大集合している姿にきょとんとする。
「千晶ちゃん、お部屋見せて!」
「は、え?」
「えっとね、今皆で部屋王……誰がA組イチのインテリアセンスか決めようって皆の部屋回っててね」
「ライン送ってたんやけど、気づかんかった?」
「ああ……なるほど。ちょっと集中してたから気づかなかったみたい」
にじり寄ってくるミナとトオルの圧に若干引きながら、突拍子もない申し出の理由を聞いて納得する。気づかなかったというか気付けなかったのだが、それを言う意味はないのでさらりと誤魔化しつつ、どうぞと招き入れた。
「趣味に走ったからなぁ、センスはあまり期待しないで」
「(クラス一の実力者のお部屋……!)」
「(スパダリのお部屋気になる……)」
と数人がドキドキしていることなぞついぞ知らず、クラスメイト達が全員足を踏み入れると少し手狭に感じる部屋に戻ったところ。
「期待どころか予想を遥かに上回ったんだけど!!!?????」
「!?」
開口一番叫んだのはミナと上鳴くん。他の皆も、わぁと声を上げてきょろきょろと見回している。
持ち込んだ荷物はあまり多くはないとはいえ、病み上がりの体力ではちょっとした作業も重労働だ。今やっていた作業を終えたらすぐ眠れるよう、今は天井の照明を落として、部屋の隅に立てたシンプルな麻のシェードランプが淡いオレンジに部屋を照らし出している。ドレープカーテンは遮光性のアッシュグレーのものに薄手のレースカーテンの重ねだ。
机やチェストなどの家具は全て無垢のオーク材で統一した。部屋が大きければ3人掛けのソファーを入れたかったが、部屋が手狭になるので断念。かわりに藤で編んだ椅子に白いリネンのシートクッションを敷いた、ゆったり腰掛けられる一人掛け用のチェアを買ったし、誰かが来てくつろげるよう、枕代わりにもなる大小様々なクッションもある。床には濃いグレーの、肌触りの良いカーペット。
ベッドには白いシーツをぴっしりとシワなく整え、合わせるピローカバーと掛け
勉強や作業をするためのデスク上には白いデスクトップPCに白いキーボード。今は出してないが、今まで住んでいた部屋で使っていた、キーボード部分を外したらタブレットにもなるラップトップもある。デスクの隣に配置した3×3の段差を変えられる本棚には、ぎっしり本が詰まっているわけでもなく、ところどころにグラスに入れた小さい観葉植物やら小物を入れている。
白とベージュ、グレーを基調に、差し色に観葉植物のみずみずしい緑やクッション類の明度の低いアッシュブルー、ワインレッド、モスグリーンで落ち着いた雰囲気にまとめている。
……うん、HLの自宅以上に趣味に走った。
これまで住んでたマンションの一室は、オールマイトの可愛いもの好きの意向を汲んで、ところどころフェニミンさが漂うインテリアが混じっていたので微妙にまとまりがなかったが、寮となったら一人部屋。こだわりにこだわったら、HLの自宅に近くなった。
目の肥えたスティーブンと長年暮らしていたせいか、二人して目にうるさくないシンプルな部屋が好きなのだ。事務所に籠もってデスクに向かう時間が長くて、自宅はほぼ寝るためかたまのオフにのんびりと過ごすための空間なので、生活感が普通の部屋より薄いのはご愛嬌。そんな私に女っ気、可愛らしさなどを求めてはいけない。ましてティーンの若々しさなど。いや
ちなみに、居心地優先で家具諸々には大層こだわったので、そこそこ大きな出費だったが、そこは自分で賄った。荷造りしてくれたオールマイトやミッドナイトはまだ学生なんだしそのくらい頼ってくれたら良いのにと言ってくれたけど、流石に趣味に走った散財だから流石に申し訳ない。経理を担っていた分、そこらがシビアな自覚はある。
ちなみに費用はどうやって稼いだかって? そりゃ勿論、株取引ですが何か。HL時代どころか、ラインヘルツで色々叩き込まれた頃からの実益伴った趣味なので、たとえ異世界だろうと、こちらのルールや仕組みを頭に叩き込んでしまえば小金稼ぎにはもってこいだ。中学時代から大体の株市場の動きを見ておおよその流れを叩き込んで、ようやくそこそこ稼げるようになってきた。未成年でもできる範囲での取引なので、勿論あっちの世界で行っていた金銭取引に比べたら雀の涙だが、それでも自由に気兼ねなく使えるポケットマネーがあるに越したことはない。一応保護観察身分なのでオールマイトや塚内さんに報告したら、感心と呆れの入り交じる反応を頂いた。色々規格外で申し訳ない。
「うっわぁ、オシャレ!!」
「ホテルかモデルルームみてえだな」
「うわ、外国の本ばっか……え、これ何語?」
「フランス語だね、読めるの?」
「うん」
フランス好きの青山くんがキラキラした目でこちらを見てくるので、なんなら教えようかと冗談半分で言ったら、ものすごい勢いで両手をがっしり掴まれた。
「つうか星合も委員長みたいに本ギッシリだと思ってたわ」
「ん、そうするとすぐに本棚埋まって置きどころがないから、ほとんど電子書籍で読んでるんだよ。ここには紙でしか出版してないやつとか、紙で読みたい本だけ置いてるんだ」
というか、私は速読なので折角買ってもすぐ読み終わってしまうし、その分かなりの数を読んでいる。嵩張らずどこでも読める電子書籍の方が何かと都合がいいのだ。何処に置いたか見つからなくて探すみたいな手間もいらないし。
……それに、電子書籍なら、私が異世界に帰った時に、オールマイトも処分に困らないだろうし、という思惑もある。この部屋もこだわってはいるが、あまり物がないのがその証拠である。
「なるほど、上手な考え方だな……! その発想はなかった、参考にしたいところだ」
「はは、飯田くんの部屋は本多そうだね。モモもだけど」
「そうそう、飯田くんの部屋本ギッシリやったよ! あとメガネも!」
ぶふーっ、と吹き出すお茶子に、何がおかしい! とロボットダンスで抗議する飯田くん。
どうやら私の部屋で最後だったらしく、投票のために共用スペースに降りていくクラスメイトを見送り、部屋に戻って鍵を閉めたとたん、ポコン、と軽やかな電子音。
『いっしょに行動しなくて良かったの?』
「……うん。惜しくはあるけど、それよりこっちのほうが今は大事だしね」
スリープモードにしていたデスクトップPCの画面の電源を点ければ、液晶に浮かび上がってくる文字。それに苦笑しながら答えれば、文字は消え、液晶にウィンドウが幾つも開く。映し出された、高速で流れていく内容を目で追う。
これから、わたしが世界のためではなく、私のために守りたいものを守るために。今まで以上に手段は選んでいられないと、AFOと対面して実感した。
なれば、何かを犠牲にしてでも結果を掴み取るだけだ。私がこれまで培ってきたすべてで、あらゆる障害を排除する。
「さあ、はじめよう」
訪れるかわからない、けれどほぼ確実に訪れるであろう、これからの未来への投資、あるいは布石。それに向けての準備に、私は没頭していった。
人魚姫は英雄の夢を見るか?
Chapter:01 end
ちょうど100話でハーメルン版、第一部フィニッシュです!……100話ってすごいな?
ENDって書いてますが、第一部が終了というだけなので、勿論この後も続きます。