また、番外編と外伝を別ページで公開してます。詳しくは目次ページにて。
ぼくらはひとつの水脈である
平和の象徴、オールマイトの電撃引退。
長年裏社会を密かに牛耳っていた
表と裏、たった一夜で公になった二つの事実は、抗えない大波になって世間を揺るがす。
オールマイトという絶対に勝てない、圧倒的なヒーローがいなくなったことで、世間に不満のある者の抑止が外れ、ヴィラン増加へと繋がっていく。
そして裏社会の王もまた消えたことによって、沈黙していた裏社会の人間がAFOに居た位置に収まろうと蠢きだす。
今でこそ急激な治安の悪化ということでしか世間に認知されていないものの、後に歴史の転換点とも云われることになるあの一戦から、はや2週間。
神野事件で世間にもたらした変化は顕著でも、私たちヒーロー科に立ち止まっている時間はない。寮に入った翌日、夏休みにもかかわらず、A組21人が全員教室に勢ぞろいしていた。
というのも。
「昨日話した通り、まずは仮免取得が当面の目標だ」
「はい!」
年に2回行われる、個性使用許可免許の中でも取得難易度が高いといわれるヒーロー免許の仮免試験が、夏休みが明けた直後の9月初旬に迫っていたからだ。
「ヒーロー免許ってのは人命に直接かかわる責任重大な資格だ。当然、取得のための試験はとても厳しい。仮免といえど、その合格率は例年5割を切る」
「仮免でそんなにキツイのかよ……」
本来、日本最高峰のヒーロー科を擁する雄英ですら、2年生の前期で取得を目指すものだと考えると、半年も繰り上げて臨むのがどれだけ困難か。5割以下の合格率の試験に、ヒーローになる勉強を半年しか積ませていない私たちヒヨッコ生徒に挑ませると決めた先生方が、いかに今の世間の流れを憂慮しているかが伝わってくる。
不安そうな顔でうめき声を上げる峰田の言葉が、クラスの心の声を代弁しているようだった。ざわつきこそしなかったが、緊張を顔に浮かべる生徒の顔を一瞥して、相澤先生はドアに向かって人差し指で手招く仕草をした。ドアが外側から開かれ、現れたのは……ミッドナイト、エクトプラズム、セメントスの先生方。
「そこで今日から君らには一人最低でも二つ……必殺技を作ってもらう!!」
「必殺技!!」
「学校っぽくてそれでいて、ヒーローっぽいの来たあああ!!」
さっきの不安と緊張を吹っ飛ばすような熱気が渦巻いた。何人かが興奮して椅子を蹴飛ばし気味に立ち上がって叫んでいる。
「必殺! コレスナワチ必勝ノ型・技ノ事ナリ!!」
「その身に染み付かせた技・型は他の追随を許さない。戦闘とはいかに自分の得意を押し付けるか!」
「技は己を象徴する!
「詳しい話は実演を交え、合理的に行いたい。コスチュームに着替え、体育館
ノリノリのエクトプラズムたちとは対照的に、いつも通りの淡々とした相澤先生が不意にこちらを見る。分かっているという意味を込めてうなずく。見回さずとも、視界の端や気配察知でクラスの皆からも気づかわしげな視線が飛んでいるのがわかった。一応、寮で左足のことは説明済みだ。リカバリーガールに完全にくっつけてもらうまでは、左足はくっついて見えるだけで、内部は全く完治していないことを。
更衣室で更衣を済ませ、雄英の数ある体育館のうち、これまであまり使用することのなかった体育館γにぞろぞろと移動する。
中に入れば、まず他の体育館とは全く違う光景が目に飛び込んできた。今まで見てきた体育館のように板張りされた床ではなく、コンクリートが打ちっぱなしの床なのだ。工事中の現場と違って鉄筋がはみ出しているわけでもなく、平らに整備された床を区画化するように、一定の距離を置いて白線が敷かれている。
「トレーニングの台所ランド、略してTDL!」
「(TDLはマズそうだ……‼)」
略称がどこかのレジャー施設と被っていて色々問題が起きるんじゃないかとあらぬ心配を浮かべる私たちをよそに、進み出たセメントスが膝をついて両手を床に着けた。するとコンクリートが波打ち、徐々に天井に向かってせりあがってくる。
「ここは俺考案の施設。生徒一人一人に合わせた地形や物を用意できる。台所ってのはそういう意味だよ」
なるほど、先生の力を借りれば一人一人の要望を叶える訓練場の出来上がりというわけだ。合宿でピクシーボブが土流でやっていたこととほぼ同じだ。地形に干渉できる個性はこういう時便利だよな、とつい思ってしまう。
なーる、と感心したように相槌を打つクラスメイト達の中、しゅばっ、と勢いよく飯田くんが挙手する。
「質問をお許しください! なぜ仮免許の取得に必殺技が必要なのか、意図をお聞かせ願います!」
「順を追って話すよ、落ち着け」
息せき込んで飯田君がある意味もっともな質問をした。この流れ、毎回パターン化している気がする。体力測定の時しかり、体育祭の時しかり……。とはいえ、今回は一番その答えが予想しやすくもあるのだが。
「ヒーローとは事件・事故・天災・人災……あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事だ。取得試験では当然その適性を見られることになる。情報力、判断力、機動力、戦闘力。他にもコミュニケーション能力、魅力、統率力など、多くの適性を毎年違う試験内容で試される」
これは長年牙狩りとして、そして三年間ライブラで職務を遂行してきた自分には理解しやすい話だ。
誰かを救うために必要なのは力と、ある程度の頭脳と、そしてなによりも機転だ。武力で衝突するだけでは、ずる賢い相手には勝ち目がない。もちろん、腕っぷしが物を言う時もあるが、そういうのは小細工をねじ伏せられるだけの物量、あるいは力量差があった場合の話だ。勝負に乗った時点で相手に負けを掴まされている、あるいは逃げ場のない窮地に追いやられているのに初めて気づく──そういう状況になったらお終いだ。
私が人脈の構築に余念がなかったり、交渉事などの盤外戦を重視するのはこの理由に尽きる。あらゆる手段を使って、時には示威すら用いて無用な争いを回避できるなら、街や人の被害や、自分と仲間の損耗に比べれば微々たる労力なのだから。
脳筋な手段で解決できるものなんてごくわずかだ。穏便に済ませようとするのならなおさら、引き際を見極めるセンスと頭脳労働は切って離せない。これはヒーローにも当てはまる。
とはいえ、最終的にヒーローに問われるのは、事件解決に必要な戦闘力であるのも事実で。
「その中でも戦闘力は、これからのヒーローにとって極めて重視される項目となります。備えあれば憂いなし! 技の有無は合否に大きく影響するわ」
「状況に左右されることなく安定行動を取れれば、それは高い戦闘力を有していることになるんだよ」
どんな戦況でも自分に流れを引き寄せられる行動、それが必殺技と呼ぶべきもの。エクトプラズムは攻撃だけが必殺技ではないと語る。例に挙げたのは飯田君のレシプロバースト。あの超速移動は確かに驚異的だ。例えば、ヴィラン側に人質がいても、レシプロバーストひとつで奪還、あるいは敵の動揺を誘える。
さらに、ミッドナイトが他にもわかりやすい必殺技の例として、神野事件でも活躍していたシンリンカムイのウルシ鎖牢を挙げた。腕から木の腕を生やして、ヴィランに何もさせずに捕縛してしまう。シンプルゆえに、技にまで昇華させるには相応の努力も必要だっただろうけれど。
……あ、シンリンカムイといえば、と思考が一旦授業から離れる。色々迷惑をかけたお礼をしないといけないのを、色々あって忘れていた。
オールマイトと
それでも意識を失う寸前に、ヴィランたちに切断された左足を凍らせたものを、瓦礫の中から回収してほしいなんて無理難題を、ないがしろにせずにきちんと果たしてくれたヒーローだ。彼が回収してくれなかったら左足も戻せなかっただけに、お礼はしておきたいところだ。
雄英が全寮制に移行したことで、外出届を出さないとおいそれと外出もままならない状況だが……神野で私が凍らせた、AFO曰く「失敗作」のキメラ脳無を調査するために、私以外には壊せも溶けもしない氷を解凍してほしいと警察に呼ばれているので、そのついでに事務所にお礼に行けたらいいのだが。
そんなことを脳内でつらつらと考えていれば、相澤先生が静かに口を開いた。
「中断されてしまった合宿での個性伸ばしは、……この必殺技を作り上げるためのプロセスだった」
「!!」
「つまりこれから後期始業まで……残り十日余りの夏休みは、個性を伸ばしつつ必殺技を編み出す──圧縮訓練となる!!」
セメントスがコンクリートを操って床を隆起させ、できた小高い山に、エクトプラズムが無数に生み出した分身を配置していく。
「なお、個性の伸びや技の性質に合わせて、コスチュームの改良も並行して考えていくように。プルスウルトラの精神で乗り越えろ、準備はいいか?」
『──……ワクワクしてきたぁ!!』
良い緊張感が辺りに広がる。クラスメイト達が不敵な笑みを浮かべて相澤先生の発破に応じる中、一人蚊帳の外になる私は完治後どうしようかと考えていたのだが……その思考を読んだように相澤先生がこちらを向いた。
「ちなみに星合、お前、現時点で必殺技はいくつ持ってる?」
「? ……ええと」
急に水を向けられ、周囲のクラスメイトからも心なしか興味津々の視線を浴びる中、数秒答えに手間取った。なにしろ、丁寧に数えたことなど今までなかったから当然だ。思考速度が常人に比べて段違いに早い自分が、数秒返答に窮しただけに、その数は圧巻で。
「あー……多分30はあるかと。数えたことないんで大体ですけど」
「さんじゅぅ!?」
「ウッソだろマジか星合! スゲェな!?」
「汎用性が高いにもほどがあるだろ……」
「(威力強すぎて使えないのもあるし、かなり低く見積もって、だけど)」
驚きと呆れが入り混じるクラスメイトの反応に遠い目をする。実際は30どころか、100近く技が存在するからだ。
A組にスパイがいるとはあまり考えたくないが、ちょっとしたきっかけで他の生徒に話したり、風の噂に乗る可能性がゼロじゃない以上、神経質ではあるが対策は必要だ。それに、こちらで表立って使える技といえば大体そのぐらいの数なのだから、あながち嘘でもない。
そもそも、30個でもこちらの世界では異常な技の多さに見えるらしい。クラスメイトだけでなく先生方すらぎょっとしているので、素直に言わなくて正解だろう。
なにしろ
私は斗流だと
それ以外にもエスメラルダ式血凍道に954
この世界ではヒーローの殺傷が許可されていない以上、死に至るような技は使えないので即死級の技は自主封印せざるをえないのだが、それでも圧倒的に他の牙狩りたちより選択肢が多いのが私の強みだ。
……もちろんこれらの技術を身に着けるのに、死にそうな思いもしたが。
「死に物狂いだったからなぁ……」
脳裏にめくるめく、斗流の
思わず鳥肌の立った腕をさすりつつ、遠い目をしたまま帰ってこない私の様子を見たクラスメイトが、神野事件で知られてしまった建前である「星合千晶は去年までヴィランに拉致監禁され教育されていた」という過去と照らし合わせて、悲しげな顔を浮かべたり、物思いに沈む面持ちになったりしたのに気づかずに。
多大な誤解を生んでいるのに気づかない空気の中、皆と同じように黙って目を瞠っていた相澤先生がばりばりと首筋を掻いた。
「なら星合は必殺技2つ以上のノルマは免除だ。左足の治療と体調を整えるのに専念しろ、いいな?」
「分かりました」
「くれぐれも、トレーニングメニュー以上の負荷を掛けるなよ」
「はい」
くれぐれも、に比重を置いた言い方に半笑いで返事をしたら、胡乱げな顔をされてしまった。心外だなぁ。
……いや、まぁ、USJと神野の一件で重傷を負いまくり、イズクに次いでヴィランとのエンカウント率が高い私に対して、一応成長期にある私の身体を慮って相澤先生がピリピリする気持ちも分かるのだが。
そんなわけで激しい運動はドクターストップの掛かっている私は、それぞれ岩山のあちこちに散っていくクラスメイト達に手を振って、一人トレーニングルームに向かった。
雄英に幾つもあるトレーニングルームの使用許可は、夏休み前からずっと予約済みだった。ヒーロー科に追いつこうと努力している心操人使──シンと一緒に自主トレーニングをするためだったのだが……まさかこんな事態になろうとは思ってもみなかった。こうならなければいいな、と予測していた節もあったのだが。予測することで予定内になる──つまり心の準備とこれからに向けてのある程度の対策を整えられるとはいえ、あまり悪い予感ばかり的中してほしくはない。
ここ数日でようやく少し慣れてきた松葉杖をつきながら、普段の倍の時間を掛けながらそんなことをつらつら考えているうちに、トレーニングルーム前に到着した。ルームキー代わりと出入り記録になる学生証を、入口の壁に設置されたリーダーに読み込ませ、開いたドアに一歩踏み出す。
「シン、おは──」
ぬうっ、と。
視界の端にあるはずがないものを捉えた気がして、ソレが何なのか認識するよりも早く、戦闘モードにすみやかに意識が切り替わる。
体重を掛けた松葉杖の先が、急制動に文句を言うようにきしむ音をたてるより早く。コンマ一秒にも満たない刹那、指輪の針から出した血で作った、投げナイフ形の血刃を構えて向き直ったそこには──
やたらイイ笑顔を浮かべた、そう、
不可視の人狼と似た現象、光景に一瞬思考が止まる。チェインの姿と重なる。
ビタッ、と石になったように凶器を構えたまま、投擲寸前で動きを止めた私を見て一瞬目を瞠ったものの、壁に埋まった人面は底抜けに明るい笑い声を響かせた。
「ビックリしたよね!? ごめんね──!! まぁビックリすると思ってやったんだけどね!!」
「……とりあえずその中から出てきてもらっていいですか、絵面がすごいんで……」
壁からアハハハハと笑い声を響かせる人面。あまりにシュール過ぎる。額と顎から先がないのに声を発しているのもそうだが、なにより、チェインを彷彿とさせる光景を何の心の準備もなく見るのは抵抗があった。似たような「すり抜ける」現象を引き起こす『不可視の人狼』という種のすさまじさと危うさを知っているからこそ、懸念ばかりが頭をよぎる──そのシュールな絵面を成立させるのに、いったいどれだけ神経を使った個性操作が必要か。心臓に悪いにもほどがある。
指の間に挟んで構えていたナイフを液体に溶いて体内に戻しながら、ニコニコしているその人に脱力気味に呼び掛けた。
「……通形ミリオ先輩、ですよね」
「ありゃ、ご存じだったか」
流石、今注目の子だねと朗らかに笑いながら、壁からぬうっと、たくましいむき出しの首、肩が這い出してくる。その身に何も纏っていないのを腰骨まで浮かび始めたあたりで察し、本人から後ろ向いててと言われるまでもなく、くるりとその場で回れ右をした。背後でガサゴソと衣擦れの音をやり過ごした後、ようやくしっかりとその人と対面する。
一方的に知っている人だった。
修練を積み重ねたのが服越しでもわかるがっちりとした体型に対して、首から上は驚くほどのベビーフェイス。逆立てた金髪に底抜けに明るい笑顔は、どことなくオールマイトを彷彿とさせる。
「(この人が……)」
雄英生の中でも実力トップとして知られる『ビッグ3』の一人。ヒーロー科だけでなく、普通科やサポート科、経営科の友人からも時折名前を聞くので興味を引かれて、調べて知った。
──何を調べてるんだい? ん? この少年は……
そして……オールマイトが緑谷出久を見出していなかったら、オールマイトの後継者となっていたかもしれないひと。
「お互い名前を知ってる状態だけど改めて! 俺は通形ミリオ、よろしくね‼」
「星合千晶です」
差し出された手につられて握手を交わす。自然と離れた手が下りきる前に「何か御用ですか?」と問いかけていた。
彼がここを訪れる理由がわからなかった。夏休み中とはいえ、この時期なら彼は2、3年生で精力的に行われている
その疑問は、部屋の奥から響いてきた声が解消してくれた。
「お前と会ってみたかったらしいよ、その人」
「シン」
「おはよ」
入口から死角になっている区画からひょっこりと顔を出した友人は、顔を流れる滝のような汗をタオルで拭いながら歩み寄ってきた。わずかに息が上がっている。トレーニングを中断してこっちに来てくれたらしかった。
「うん、世間で次代の希望と謳われる子が実際どんな子なのか、気になってね」
「はぁ……」
ニコニコと毒気のない笑みと裏表を感じさせない彼に、私は生返事を返した。
次代の希望、オールマイトの意志を受け継ぐもの。そんな風に自分がメディアから呼ばれているのは知っていた。テレビニュースが流れるたび、未だ鮮やかさを失わないほど鮮烈だったオールマイト時代の終焉とセットで、ボロボロな姿でAFOに啖呵を切るシーンが繰り返し映し出され、そんな文言と一緒に語られるのだから。
普通、ヒーロー志望の生徒としては喜ぶところなのかもしれないが、こちらからすればいい迷惑だ。ヴィランの手先だの裏切り者だのと想像を膨らませて批難轟々だったくせに、手のひら返しにもほどがある。
何より目立ちすぎてしまった。欲しいのはクラスメイトや雄英への被害を逸らすためのヴィランへの一定のヘイトであって、民衆の羨望など荷が重いだけだ。期待に応えられるほど、私は善い人ではない。「後見人」だったからといって、オールマイトに掛けていた期待を全部私に丸投げしてくるのもどうかと思う。
そもそも、オールマイトの後継者はイズクだ。私じゃない。そして神野事件を通して、オールマイトの平和を願う意思は、もちろんイズクだけでなく、聖火のごとく雄英や今のプロヒーロー全てに受け継がれているものだと思っている。治安の悪化に不安になって誰かに縋りたくなるのはまぁ、理解はできるが、納得できるかと言えば話は別だ。精神安定剤じみた人柱、あるいは
「まぁ困惑もするだろうね、俺としてはただ仲良くなりたいだけなんだよね、君と」
「それは、なんでまた……?」
ストレートに仲良くなりたいと言われても、どう反応していいか分からない。避けられる要素しか、世間にばらまかれた建前にはなかったはずだ。
困惑する私に微笑んだ通形先輩は、ゆるりと胸の前に手を持ち上げた。
「『たとえ千の挫折を突きつけられようと、私の生き方を捻じ曲げる理由にはならない』」
「!」
「『光に向かって一歩でも進もうとする限り、人間の魂が真に敗北することなど断じてない』
……俺はね、君の言葉に勇気づけられた。単なる綺麗ごとじゃない、君のあの叫びにはそう思えないぐらいの重みがあった。酷い状況の中でも諦めなかった君の言葉に、希望を見た人は多かったと思うよ。引退したオールマイトの影を君に重ねる人がいるのも、無責任ではあるけど……理解できる」
緩やかに、拳が握られていく。
「だから君がどんな人か知りたかったんだよね!!」
「な、なるほど……?」
急に結論に着地した彼の勢いにたじろぐ。だが、とりあえず目の前の人が単なるうわさ、映像の一部だけを見て判断しようとはせず、私という人間を知りに来たのだということだけは強く伝わった。
「心操くんに聞いたけど、心操くんのトレーニングメニュー、君が作ってるんだって? それも含めて、色々話も聞きたいし……俺もここで一緒にトレーニングしてもいいかい?」
「構いませんよ、トーガタ先輩」
「言いにくいんだったらミリオでいいよ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
私にとっても、シンにとっても。去年体育祭で目立った功績を出していなかったにもかかわらず、今は雄英トップの実力といわれる先輩との交流は有意義になる。なにより雄英外部の情報も、部外秘になる部分はあるだろうがメディアよりも確実なものが手に入る──そんな打算はさておき、親しみやすい彼の手を跳ねのける理由なんてなかった。