人魚姫は英雄の夢を見るか?   作:一星

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知恵を手に入れたキラーチューン

 

「つ~か~れ~た~」

「うわぁ死屍累々」

 

 その日の夜、寮で夕食と風呂を終えてのんびりリラックスタイムに入ると、殆どのクラスメイトがソファースペースでぐったりしていた。広々としたソファーが用意されているとはいえ、21人全員が座れるような広さではないので数人はダイニングテーブルの椅子に座っているが。

 

「必殺技、作るのワクワクすっけど難しいよな!?」

「イメージはあっても、実際形にすんのがな~」

「わかる」

「千晶ってどうやって30個も必殺技作ったの? コツとかある?」

「あ、それウチも聞きたい」

 

 わいわいと賑わう姿は、エスメラルダで修行していた時、妹弟子たちがああでもないこうでもないと喋っていた姿と重なる。微笑ましく見守っていたら、ミナとキョウカにコツを尋ねられ、私はしばし悩んだ。

 ……コツねえ。私の能力は個性ではないし、自分で編んだ水晶宮式の技以外は先人が形にした技をひとつひとつ自分の血肉にしていく作業なので、そもそもの前提が違うのだが……。

 

「うーん……自論でいいなら」

「いいとも~~!!」

 

 元気のいい声が即座に返ってきた上、スマホを見たり、別のことを喋っていた他の子さえこちらの話に注目しはじめた。真剣な様子の彼らに対して、突っ立ったまま喋るのもどうかと思い、空いていた椅子をソファースペースの近くまで引っ張って座る。

 普段よりも色々と考えを巡らせながら、慎重に言葉を選んで話し始めた。

 

「コツというか……自分の出来ることの幅を増やすのに一番良いのは、自分の苦手、弱点を補うための方法を考えることかな」

「ホウホウ」

「苦手や弱点を補えるなら、戦いの中で苦戦を強いられる確率が減る。ただこれまで苦手としてただけあって、克服するのは難しいけど、うちのクラスの何人かは多分発想次第で克服できる。例えば……そうだね、上鳴くんが分かりやすいか」

 

 分かりやすい例として上鳴くんを指名すれば、きょとん、と目を丸くして首を傾げている。

 

「俺?」

「ん。現時点の戦い方だと、自分の身体から無差別に周囲に放電するのがメインになってるでしょ?」

「そうなんだよ、自在にバーッて操れたらいいんだけど、そこが難しくってさあ! エクトプラズムにも言われたけど、どうやったら良いのかさっぱりなんだよ」

「放出しすぎたらアホになるしね」

 

 ブフッ、と放電しすぎたアホモード……昨日も見かけたそれを思い出して引き笑いをしているキョウカに、笑い事じゃねーよ!? と食ってかかる上鳴くん。その遠慮のないやり取りはただただ微笑ましい。

 

「そこが上鳴くんの弱点。電気を操れないから味方との共闘が難しくて、電気の性質上、出力調整も難しいから放出しすぎるとあっという間に限界が来て、継戦能力に乏しい。そこが改善されたら随分戦いやすくなるはず。でもそれを改善するのに、この十日じゃあまりに短すぎる」

「だよなぁ……ホントどうしよ」

 

 がっくりと肩を落とす上鳴くんに、私はにっこりと笑った。

 

「……上鳴くん側の改善だけを考えるなら、ね」

「!!」

「ってことはなんか案があんのか? 星合」

 

 もったいぶるような私の発言に、がばりと顔を上げた上鳴くん。その横に座っていた瀬呂くんの問いかけに頷いた。

 

「一番手っ取り早いのは、専用のサポートアイテムを作ってもらうことだと思う。自分で上手く操れないなら、雷の性質を利用して、指向性をもつようにお膳立てしたらいい。避雷針の原理で、周囲より電気の通りやすい材質で作られたアイテムを設置して、それに向けて放電する練習なら、十日あれば間に合うんじゃないかな?」

 

 一瞬、ぽかん、とした顔で上鳴くんが私の顔を見つめる。顔にその発想はなかった、とありありと書いてありそうなその表情はたちまち明るい笑顔に変わり、きらきらと目を輝かせる姿は幼い子どものようだ。

 

「それだー!!! 星合天才! 採用!!」

「なるほど、相澤先生も個性に合わせてコスもアップグレードしてもらえっつってたもんな」

「プロヒーローだって同じ人間だ、万能じゃない。だからこそ弱点を補い、長所を伸ばすサポートアイテムは重要になる。私の場合は銃弾に微量の血液を詰めて、着弾と同時に遠隔で電気技を発動させるけど……練習時間も短いし、上鳴くんの場合はもっとシンプルな飛び道具の方が使いやすいと思う。そこはパワーローダー先生と相談した方がいいね。もちろん、全身からじゃなくて轟や私みたいに腕とかに電流を収束・放出する練習も必要かな」

「やーでもそこは俺の頑張り次第っしょ!? 無差別放電一択の状態さえなんとかなれば、長時間戦闘できねえのも何とかなると思うしさ。マジでありがとな、明日朝イチで工房行ってみるわ」

「どういたしまして。と、まぁこんな感じで個性伸ばしじゃ改善できない弱点をアイテムで改善するのも一つかな。どんなアイテムがあったら改善できそうか、考えてみるのも一つの手だと思う。そこで煮詰まったら、とりあえず先生方に相談するのもありだね」

「なるほど~!」

「あとは自分の個性の性質を見つめなおすのも手だと思う。どんな場面が得意か、逆に苦手なのか。色んな状況を想定してシミュレートするのもいいね。対人戦の場合、どんな間合いの時が一番得意で苦手なのか。自分がどんなヒーローになりたいか、その理想像に足りないのは何か。そこからどんな技があったら便利かを考えていくと掴みやすいんじゃないかな」

 

 真剣な表情で耳を傾けていたクラスメイトたちに、私は微笑みかけた。

 

「私でよければ幾らでも相談に乗るよ、ちょっとしたアドバイスぐらいしかできないけど」

「いやいやいや、百人力でしょ」

「千晶ー! 私の必殺技もなんかアイデアない!?」

「俺もちょっと相談乗ってほしいんだけどよ……」

 

 我も我も、とにじり寄ってくる仲間たちに一人一人対応していると、おずおずとイズクが近寄ってきた。

 

「星合さん、僕もいいかな?」

「……もちろん」

 

 何事か決意を秘めたような、控えめな態度とは裏腹に強い光を宿した瞳に一瞬目を瞠ったものの、断る理由もなく私は二つ返事で笑みを返した。

 

 

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