※アニメオリジナル展開要素があります
試験開始から十数分。個性の性質上、大人数で動くと個性を十分に発揮できねえ俺は、クラスの集団から一人抜けて、工場エリア特有の遮蔽物や身を隠す場所の多いタンクや配管の物陰で、周囲の様子を窺っていた。
「(他の学校はどこも10人単位で行動してやがる、こっちから仕掛けてもいいが、不利な個性持ちがいると厄介だしな……他のチームがぶつかり合って、双方の人数が減ったところを襲うってのが理想的な状況だが……)」
『えー状況結構動いてます、現在通過者50……あぁいや53名、続々出てます……二人以上脱落させた者もいるため現在脱落者230名……
そして今54名出ましたあと半分切った、早く、
「(……悠長に待ってられないか)」
小さなハウリングの後聞こえたアナウンスは、一次試験通過の残りの席が半分を切ったことを告げ、これ以上身を潜めていても意味がないと割り切った俺は物陰から飛び出した。
「(二人以上脱落させた奴もいるってことは……相当個性の攻撃範囲がデカくなきゃ出来ねえ芸当だな)」
二人脱落させれば合格の試験において、通過者54人に対して230人脱落は多すぎる。一人6つしか与えられていないボールどころか、他の受験者のボールを奪うなりして範囲攻撃をしなければ無理な話。
「……星合あたりはとっとと合格してそうだが」
自分と同じく超広範囲攻撃を可能にしながら、針の穴に糸を通すような精密な個性操作も可能な同級生を思い浮かべる。あいつのことだから他の連中をサポートしつつ危なげなく通過する姿しか浮かばない。
というか、神野事件で自分が本気で死を覚悟したヴィランにも、明らかに常軌を逸した力のキメラ脳無にも臆せず立ち向かったあいつからすれば、この程度の試験は障害にすらならないだろう。
背後から何かが投げられる気配に思考を断って、振り向きざま左の炎を放つ。俺めがけて真っすぐ飛んでいたボールは炎に呑み込まれ、黒焦げになって勢いを失い、足元に転がっていった。
「やるね~、さすがは雄英体育祭準優勝者。轟くんだっけ? にしたって、一人で行動とかすごいねえ、余裕ありまくり」
ボールが飛んできた方角を見上げれば、空に向かって伸びるタンクの上に複数の人影があった。全員忍者服のようなコスチュームに身を包んでいて、個々人の識別のためか、単に好きなカラーを選んでいるのか、忍ぶ気がほとほとなさそうなカラフルな忍者集団。
挑発するような、皮肉交じりの誉め言葉を投げかけてきたのは赤い忍者の男だ。
「でも雄英だからって一人はないっしょ」
「1対10だよ? どうすんの」
段々と嘲笑を隠さなくなっていく忍者どもから目を離さず、すぐに反応できるよう左腕を構える。
「助かる、探す手間が省けた」
「フフ、カッコイイねえ」
瞬間、黒、緑、青、黄色の忍者がタンクから飛び降りざま、鋭くボールを投げてくる。多人数だからこその同時かつ多角的な攻撃は、普通の奴なら対処に苦労するだろうが、俺には関係ない。素早くしゃがんで両手を地面につけ、ボールが俺めがけ集中した一瞬を狙って氷山が生える勢いでボールを叩き返す。
被弾ゼロにチッと舌打ちする連中を氷山越しに見据えながら、4人の着地タイミングに合わせて、地面からタンクを伝わせて、奴らの足元を凍らせてその場に固定した。
「ぐっ」
「しまった……!」
体育祭での緑谷や星合、そして爆豪との試合を見ていれば、俺の戦い方はある程度分かるはずなのに足元の氷結を避けなかった忍者集団に首を傾げそうになった。好都合だが、余裕綽々だったわりにあっけなさすぎる。
「お前ら、本当に体育祭見てたのか」
「もちろん観てた、よ!」
足元を凍らせられても余裕を崩さない姿が記憶のどこかと重なる。赤忍者が大きく振りかぶって鋭く投げつけてきたナットが、空中で急に巨大化した。新しく発生させた氷山にぶつかってなお、回転を掛けられたナットはすぐには勢いを止めずギャリギャリと耳障りな音を立てた。
「モノを大きくする個性か……」
「まだまだァ!!」
同じように投擲された後に巨大化した釘が数本氷山を割ろうと打ち込まれる。その陰で様子を窺いながら思考を巡らせた。
「(最大を出すか、いやしかし、他にも仲間が……)」
俺の最大氷壁は規模も硬度も最大威力になる反面、自分の視界も塞いでしまう。まだ個性を出していない連中が何をしてくるかわからない以上、大技を叩き込むには不安があった。
だが、相手は対策を練る暇さえ与えてくれない。
ギン、とひと際大きく衝撃音が響いた後、氷にひびが入る。一瞬遅れて、粉々に砕け散る氷山を見て目を瞠った。轟音を立てて崩れたこっちの防御の隙に畳みかけるようにして、再び巨大ナットがこちらに迫ってくる。氷で止められないならば溶かそうと炎を放つが、普通なら勢いを失ってどろどろに溶け落ちるはずのナットが形を保ったまま接近してくるのを見て、慌てて横っ飛びに回避した。
「(全部溶かせないにしても、全く影響がないだと!?)」
「ただの金属じゃないからねぇ、熱に強いタングステンを使ってるわけ」
地面に着弾したナットが表面すら溶けずにそのままの形状を保っているのを見て俺が動揺した隙に、赤忍者が自分と他の仲間の足元の氷を、小さいままの釘を複数個所打ち込んで割り砕く。俺の驚きを見透かしたように手の内をあっさり明かした赤忍者は勝ち誇ったように、頭巾に隠されている頭部で、唯一露出している目元を歪めた。
「だから言ったっしょ轟くん、いくら雄英生だからって単独で動くとか、余裕、ありすぎだっての」
その宣言を聞いて黙ってられるわけがない。そもそも
「なら……!」
掲げた左手から忍者集団目がけて炎を放つ。それにすぐに対抗するように、赤忍者が叫んだ。
「やれ!」
「「応!!」」
再び飛び上がった黒と青の忍者が、炎の奔流めがけて土砂と水流をぶつけてくる。ぶつかり合ったまま、それ以上押し返しも押し戻されもしない拮抗状態。
林間合宿で、長年否定し続けたために個性伸ばしが氷よりも遅れていたからこそ、氷に釣り合うように徹底的に底上げした炎に対抗するほどの土砂流。思わず眉をしかめた俺に、畳みかけろォ! と赤忍者の号令と共に容赦なく巨大なナットが降ってくる。
炎の放出をしたまま後ろに跳び退るのと同時に足から盾代わりの氷山を打ち出すが、黄色の忍者が次々投げ込んでくるパイプでばらばらに打ち壊され、さっきの炎と土砂流のぶつかり合いで出た蒸気と、氷が砕けて出来た細かい氷粒で視界がどんどん不明瞭になっていく。
「(炎には水、氷には物理攻撃……しっかり対策を練ってやがる……)」
太陽を背に、霧の向こうに揺らぐ赤忍者を見据えて顔をしかめたその時。
「じゃあ二人ならどうだろうね」
高い位置にいる忍者どもには聴こえなさそうな、聞き覚えのある小さな声が忍び込んだ。
その声を耳が認識するより早く、忍者集団と俺を隔てるように巨大な氷山が出現し、さっきよりも濃い霧がぶわりと立ち込める。周囲の視界すら遮られそうな白い霧の中、幽霊のように気配も足音もなく忍び寄ってきた声の方を、戦闘中なのを一瞬忘れて振り返れば、透徹な赤と視線がかち合う。いつの間にか背後まで近寄ってきていた彼女の白い腕に腕を掴まれた。
「星合……!」
「一旦退いて立て直すよ」
氷山の向こうで俺を見失ったらしい忍者服の焦った声がかすかに聞こえる。恐らく星合が張った目くらまし代わりの霧に乗じて、腕を引かれるまま一緒に離脱する。
「お前も残ってたのか」
「まぁちょっと色々あってね。派手な音が上がってたんで、集団同士の乱戦に乗じてそろそろ通過しようと思ったら轟がいるんで驚いたよ」
まあ間に合って良かった、と薄く微笑んだ星合にそうか、と頷き返す。
タイミングといい、相手が俺を完全に対策済みの相性の悪い集団だったことといい、星合の助力は素直にありがたい。腕を離してもらって並走しながら、どうやって二人であの忍者集団を倒すか手短に作戦会議に移る。
「試験会場にこんな工場を作ったってことは、ヒーロー公安委員会の意図だろ。建物の地形や特性を生かして戦えっていう……」
「そうだね、雄英のとは違って、どうも大事故にならない程度の可燃性物質はタンクに詰まってそう。私も熱烈な追っかけを巻くのにいくつかタンク壊して回ったけど、油とまではいかなくても、まあまあ派手に爆発してくれそうなのがね」
「よし」
「その案でいこうか」
お互い、個性も戦い方も熟知している同士。俺の作戦を十まで言わずともすぐに察した星合がにやりと笑い、俺の欲しかった情報をくれた。
熱烈な追っかけ、という単語に、試験前に星合にファンだと息巻いていた男の顔がちらりと浮かぶ。心の底が焦げたような、僅かな不快感を覚えたものの、試験中だと雑念を振り払うように頷いた。信頼が透けて見える、不敵な笑みの星合を見ればどうでもよくなったのもある。
足を止めるのと同時に、霧の中でも忍者どもに見えるように手のひらに煌々と燃える炎を出した俺の傍らで、星合がタンクめがけて氷剣を放つ。剣山を伝ってひょいひょいと身軽に登った星合がタンクの中を覗き込み、OKサインを出したのを見て、俺もやるべきことをするべく動いた。
「いたぞ! 囲め!」
「……!!」
「……!? 謀られた……!!」
目立つ忍者集団が霧を突っ切って走り出てくる。炎の位置が俺だと信じて走ってきたそいつらは、霧が晴れたところで、その炎が標識を燃やして作った囮だと気づき、反射的に一瞬立ち止まってしまう。
連中の丁度背後にある配管の上に立っていた俺たちは、その無防備な背中に気づかれる前に、同時に片手を振りかぶる。俺は炎を、星合は風を。
ステイン戦の時のように、俺の炎にぴったりタイミング合わせて風を操って、炎を収束させるように煽る芸当をなんでもないようにやってのけるあたり、本当にこいつのサポート力というか、個性の扱いの上手さには安心感しかない。
普段より威力を増した炎は、先ほど星合が氷で穴をあけたタンクの中に直撃し──その中に入っていた、恐らく油代わりに威力が低くなるよう(大怪我したら元も子もねえしな)調整して入れられていた粉塵が大きく爆発を起こした。
その威力は調整されているとはいえ中々の効果を発揮して、あああああ、と聞き覚えのある声が複数空を舞いながら遠ざかっていく。爆風を避けるためにそれぞれ自前で出した氷の壁の陰に隠れてやりすごしながら、作戦通りと星合とお互い顔を見合わせた。あとは仕上げだけだ。
「あ……あの野郎、無茶苦茶しやが……!? ぁあ……!?」
粉塵と霧で視界がおぼつかない中、吹っ飛ばされたダメージに呻きながら体を起こした赤忍者が、いつの間にか両手足を氷に固められているのを見て呻き声を上げた。
「……やっぱ委員会も、さすがに爆発の威力は抑えてたか」
「爆豪や轟みたいな個性が本来のタンクの中身爆発させたら火傷とかシャレにならないからね」
「……な……っ、てめぇ、いつの間に仲間を……!」
霧の中から少しずつ姿を現した俺と、そして連中には急にポッと出てきたように見えただろう星合の姿を見て、赤忍者が悔しげに歯ぎしりしながら目元を歪ませる。他の連中は全員氷山の上でそれぞれノックダウンしていた。お得意の投擲も、手足全てを凍らされれば何もできない。……星合と戦った戦闘訓練の時に、油断して足元だけしか凍らせなかった俺が、逆に手足を氷で封じられたように。
「偶然行き会っただけですよ。まあ私がいなくても多分轟一人で完封出来たと思いますが」
「んな事ねえだろ。お前のお陰で余裕もって立て直せた」
「お、お前は、星合千晶……」
「どうも」
どうやら霧のせいで仲間が誰だかまでは見えてなかったらしい赤忍者がぎょっと目を瞠り、呆然と星合のフルネームを呟いていた。
しれっと涼しい顔で、けれどどこか不満げな雰囲気をちらつかせつつ応じた星合の顔をまじまじと見て、観念したようにくそっ、と悪態をついて下を向いた奴に、俺はボールを手に歩み寄った。
「……悪いな、落ちるわけにはいかねえんだ」
赤忍者の身体に着けられたキーにボールを当て終え、あと一人分、と他の倒れてる連中の誰かにボールを当てようと立ち上がりかけた俺は、待った、と背後にいた星合に止められた。
「どうした」
「あー……すぐ終わるからもうちょっと待って、派手に爆発させたせいで何人か下着見えちゃってて……このまま放置するのも罪悪感というか……」
「あー……」
星合が言葉を濁しつつ俺を制止した理由が腑に落ちて、俺も苦い顔をする。確かに目の前の赤忍者も盛大に服が破れて腹や腕が露出している。氷で判然としないが、恐らく尻の部分もだ。こいつでそんな状況なのだ、爆発の時に同じような位置にいた他の奴らが無事なわけがない。確かに何人か女も混じってたな、と記憶を振り返れば、なおさら今後ろを振り向くのは不味いだろう。気まずいし、振り向くような下世話な神経もしていない。峰田じゃあるまいし。というかそんな人間だと星合に思われたくもない。
ぎりぎり気絶を免れていた赤忍者が俯いたままなのにも納得がいった。年下に出し抜かれて脱落して悔しがってんのかと思ったら、まさか目を逸らしてたとは思わなかった。
「すまねえ、助かる……」
「ああいえ、流石にこの状態で放置は気が咎めるんで……」
俺にキー3つを発光させられ、脱落が決定して戦意喪失したのか、それとも仲間が間抜けな格好のまま身動きが取れない状態で固定されずに済んでほっとしたのか、礼を言う赤忍者に星合が申し訳なさそうな声を上げた。
振り向けない代わりに、周囲に横取りを狙った他の受験生の気配がないかだけ気を配っているうちに、ごそごそと背後で聞こえた衣擦れの音が止んだ。
いいよ、と声が掛かってようやく振り向けば、頭巾を外されて腰に布を巻いて最低限の部分だけなんとか隠れている、ちょっと間抜けにも見える風体の忍者が転がっていた。
「すまねえ、助かった」
「いいよ、男性はともかく女性は流石に私がやった方がこの人たちも良かっただろうし」
困り笑いを浮かべた星合に俺もうっすら微笑み、倒れている忍者のキーにボールを当てた。それでも一人で二人分当てればいいわけで、8人の集団で攻めてきたこいつら全員を落とすわけじゃない。しつこく攻撃してきていた赤と緑、星合は服の損傷が酷かった青と黒に当て、合格が決まったところで氷結を解除した。
もう後は立ち去るだけだし、このまま放置して手足が凍傷になるのも、脱落になってない忍者が無理に氷をはがそうと動いて皮膚が剥がれるのも後味が悪い。氷を解除したところで、ピピ、と胸元に取りつけていたキーが青く光った。
**
『通過者は控室に移動してください』
「光った……」
「こういうところもハイテクか……」
一体この試験にどれだけ金かかってんだ。元経理としては頭が痛くなってきそうな豪華さと技術力に唸りそうになる。
早よ、とキーに内蔵された自動音声に控室への移動を急かされ、私は轟と共にエリアを出て控室へと向かった。
まだ乱戦の気配と轟音、叫び声が聞こえる各エリアを横目に、通過した受験者がまばらに目指している控室に踏み入れば、ずらりと並んだ机と椅子、そして受験生たちが歓談する姿が目に入った。
「けっこういんな」
「半分通過者が出て……A組は私たちが一番乗りか」
ぐるりと部屋の中を見渡しても見慣れたコスチュームが見当たらない。残り40弱の枠に、19人全員が入るのが理想だが……もたもたすれば入り損ねる可能性もある。
「マジっスか!? 自分もスタンプマン好きっスよ、彼は熱いヒーローっス!!!」
とりあえず適当に座って待ってよう、と轟と話していた矢先に耳に飛び込んできた大声に振り返ると、丁度部屋の反対側のあたりに、壁際の椅子に座っている受験生に話しかけている夜嵐くんがいた。
「あいつ……」
「轟は推薦入試の時会ってるんでしょ?」
「……正直あんま覚えてねえ」
「反応薄いと思ったら……」
轟を抑えてトップだった彼について話を振ったら、そっぽを向いて小さく返ってきた言葉に脱力する。
まあ、推薦入試があった時の轟ならさもありなん。父親への妄執と復讐心に視野狭窄に陥っていた彼は、踏み込んでくる人間を誰彼構わず氷の針で拒絶するヤマアラシだったのだから。
興味のない人間はとりあえずモブ呼ばわりする爆豪ではないが、轟も、中学時代のクラスメイトだったとしても、恐らく名前も顔も覚えていない、どうでもいい人間の割合が多かったはずだ。……わたしも人のことは言えないが。
「でもやっぱり……、……!」
相変わらず大声でしゃべり続けていた夜嵐くんがふとこちらを向く。こちらの会話が聞こえて振り返ったのかと思ったその時、笑顔を浮かべていた彼の表情が突然、すとんと抜け落ちた。その表情の急激な変化に僅かに目を細める。士傑で揃いになっていたあの制帽の陰から見えたツリ目の三白眼は、明らかな敵意を込めて隣の轟を見ていた。
「で何でしたっけ!!???」
「いや知らんよ、君が話しかけてきたんでしょ」
すぐに夜嵐くんがぐるんと首を戻したことで、その敵意の籠った視線は数秒だけの交差だったが……気に掛けるには十分すぎるほどに鮮烈だった。なんだあの落差。さっきファンだと言われたテンションでぐいぐい来られやしないか心配していたのだが、あれは隣にいた私すら見えていなかった。視線すら微動だにせず轟に固定されていたのだ。
「……?」
そしてあんな視線を貰っておいて、全く身に覚えのなさそうな不思議な顔でぽかんとしている轟に頭痛がしそうだ。
そうしているうちに通過者は続々と増え、モモ、キョウカ、梅雨ちゃん、障子くんの4人が到着した。そこから5分と経たずに80名通過のアナウンスが掛かり、爆豪・切島くん・上鳴くんに、イズク・お茶子・瀬呂くんの3人組2チームが到着し、A組11人が揃った。
「皆さんよくご無事で! 心配していましたわ」
「ヤオモモ―! ゴブジよゴブジ! つーか早くね皆!!」
「俺たちもついさっきだ、轟と星合が早かった」
「轟くんと星合さん、途中で合流したの?」
「そう。目指したエリア一緒だったみたいで」
キョウカの軽口に上鳴くんが不満げに噛みついているのを横目に、頬に小さな切り傷を作ったイズクの問いに頷いた。
「しかし、あと9人か……」
「アナウンスでは現在通過82名……枠は後18人……」
そこからは怒涛のように通過アナウンスが流れる。もう外はおそらく残席を焦って乱戦状態にもつれ込んでいるのだろう。あっという間に残席10、そしてA組の残り人数も9人のまま動かずで、通過メンバーの間に全員通過は無理か、とあきらめムードが漂っていたその時。
『7名! 5名! 続々と! この最終盤で一丸となった雄英が! コンボを決めて通っていく!』
あの無気力ボイスの目良さんが実況アナウンサーのような熱の入ったアナウンスを轟かせ、控室にも緊張と期待が走り──
『0名! 100名! 今埋まり!! 終了! です! ッハ──―!!』
一次試験終了のアナウンスの後、片手を掲げて入ってきたのは、最後まで残っていた飯田くんと青山くん。そして──
「っしゃああああああ!」
「スゲエ! こんなんスゲエよ!」
「雄英全員、一次通っちゃったぁ!!!」
あの極限の乱戦を通り抜け、A組21人、全員の通過が決定した。
1540人中100人の狭き門をクリアし、全員が快哉を上げる。遅れてやってきた飯田くんと青山くんにお疲れと声を掛ければ、良い笑顔と握りこぶしで応えた飯田くんと、色付きのゴーグルの奥でほっとしたように静かに微笑んだ青山くんという対照的な反応が返ってくる。
いつものクラスと同じ和気あいあいとした時間が続くと思ったその時、おそらく目良さんであろう緩いアナウンスが壁に設置したモニターを見るように促した。そこには先ほどまで戦っていたフィールドが映っている。
『えー100人の皆さん、これ、ご覧ください』
その一言の後、液晶越しに映っている景色は一変した。映し出されていたビルで小規模な爆発が突然発生したかと思うと──全てのエリアが、同時に大爆発を起こして崩れ去った。
岩山も、ビルも、高架橋も、工場もなにもかも。無数の瓦礫が散らばる荒れ果てた光景へと一瞬で姿を変えてしまう。
それを見た受験生の想いは一つである────なぜ!!!???? と。
「……ああ……うわぁ……建築費……賠償金……」
「ほ、星合さん……???」
あまりにも景気の良い爆破ぶりに思わず遠い目をしてしまう。
秘書時代、ライブラの設立直後で何もかもが手探りだった時期。野生児よろしく、ザップが敵や血界の眷属を建物や周囲の被害を多大に撒き散らしながら戦った時の、警察から押し付けられた被害に遭った建物の修理費や賠償金のアホみたいにゼロが並んだ金額を思い出してうっかり気が遠のきかけた。……まあこっちの足元を見て余計な金額上乗せして喧嘩売ってきた部分もあったので、キッチリ
試験のために作ったビルやら高架橋の本格的さから見て、相当金も掛かっている(思わず予想金額を計算してしまった)というのに、なぜあれを一息に爆破できるのか……金庫番としては神経を疑う……
かつてのトラウマというかあまり思い出したくない日々をほじくり返されて、ブツブツうわ言を念じていたら、イズクだけでなく他のクラスメイト達からもドン引きの視線を向けられたので正気に返る。すまない、日常的に万どころか億単位の金を動かして世界を守ってた人間にはあの光景は刺激が強かったんだ……
『次の試験でラストになります! 皆さんにはこの被災現場で、バイスタンダーとして救助演習を行って頂きます!』
戦闘における個性の使い方、チームワークに重きを置いた一次試験。
そして次なるは、ここ最近なにかと戦闘ばかり注目されがちなヒーローに必要不可欠な、救助項目の試験が待ち受けていた。